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フィギュアスケート特集

女子シングルSP終了 恩田美栄7位 

Yoshiespco
 少し前の恩田美栄、たとえば01年ソルトレクシティ四大陸選手権頃の彼女を知っている人が、今日の彼女を見たとしたら、ずいぶん驚いたのではないだろうか。本当に、あのころとは正反対のスケーターに見えただろうから。
 ジャンプは、10代のころほどではないけれど、今でも女子選手の中では充分に高い。でもこの日の3つのジャンプは、トリプルルッツの着氷でぐらつき、コンビネーションジャンプのふたつめはシングルに。ダブルアクセルの着氷も乱れ、もうひとつのトリプルフリップも流れのない、かろうじて成功、というジャンプになってしまう。恩田美栄本来の爽快なジャンプは、ついに一度も見ることができなかった。
 一方で、あんなに元気いっぱいで、ちょっと乱暴なほど勢いよく滑っていた恩田美栄の姿も、影を潜めていた。ここ数年、スケートの美しさにこだわって、つきつめて練習した成果だろう。見せてくれたのは、ドラマチックな音楽「Love Dance」にマッチした、滑らかなスケート。あんなに苦手だったスパイラルでは脚が高く上がり、スピンのレイバックも見違えるように美しく反っている。そして何より「ジャンプが跳べてうれしい!」だけだった感情のほとばしりが、こんなに豊かに深みを増しているとは。シックなブルーの衣装も良く似合い、大人の女性の滑り、といっていいほど、今日の恩田美栄はジャンプよりも滑りに見ごたえがあった。ジャンプがなかったらどうなる? のスケートではなく、ジャンプがなくてもフィギュアスケートとして高く評価される、そんな滑りができていた。これでいつものジャンプさえ取り戻せば、ほんとうに完成されたスケーターに近づけるのに!
「でも、両方は難しいんです」
 辛そうな表情で、少し視線も落とし気味に、彼女はそう言った。
「今は、スケートと感情表現が、一緒にやりにくい。フィギュアスケートは華麗な部分とスポーツの部分があります。それは自分でもわかってる。でも、試合はショーじゃないから。私たちは試合をしているんだから。先生(シュイナールコーチ)はカナダ人だから、滑ることを楽しめっていいます。でも私は日本人だから。試合は試合、と思ってしまう。両方は、難しいんです……」
 ジャンプミスは体力面ではなく、そんな精神的なゆらぎから起きたのだと、自身を分析する。

 恩田美栄にしても、村主章枝にしても、長い選手生活の間に、培ってきたものがある。技術面でもスケートへの考え方においても、少しずつ努力して手に入れてきたものがあり、それを支えに、彼女たちは何度も国際舞台の表彰台に立ってきた。自分のスケートを信じて、走り続ければいいと思っていた。
 でも、選手生活が長くなれば、色々なことが変わってくる。体力的に、本来のジャンプを維持していくのは至難の技だろう。浅田真央や安藤美姫など、若手も次々と台頭し、追いつき、追い越していった。新採点システムの影響で、以前はしていなかった練習が必要になったり、大切にしていたものが役に立たなくなったりもした。
 かつて五輪代表として揃って日の丸を背負ったふたりが、今、ふたりともに苦境に立たされている。澤田亜紀の笑顔とは対照的だったベテランふたりの表情を見ていて、思った。フィギュアスケートとは、なんて残酷なスポーツなのだろう。
「四大陸に向け、一生懸命やってきたつもりです。高地での試合も以前経験しているし、それを前提に今日まで練習してきました。もう一度自分のジャンプの感覚を取り戻して……フリーはもうちょっと冷静に挑みたいです」
 年を重ねて、アスリートとしていろいろなものを失ったとしても、彼女たちを決して裏切らないものはある。それは、若い選手にはない、豊かな経験値だ。ショートで失敗した恩田美栄の落ち込んだ表情は、何度も見てきた。でもその後、ふっきれたようなフリーを滑る姿も、何度も見てきた。経験といういちばん大切な財産を、彼女たちが生かしきれるかどうか。
 最終日のフリーを、最後まで見届けたい。

写真/Leah Adams   文/Hirono Aoshima


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