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この特集では、浅田真央選手、安藤美姫選手をはじめとする注目選手の活躍や最新情報など、フィギュアスケートにまつわる様々なレポートを写真とともにお届けします。
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フィギュアスケート特集

四大陸選手権アフターレポート 小塚崇彦フリー6位、総合8位 根ざし始めた「夢」

Id7e0348_2   小塚崇彦のスケーティングは優しい。ジェフリー・バトルの、正確無比な外科医が、肌に垂直にメスを入れるようなスケーティングとも、高橋大輔の、獲物のちょっとした隙を目ざとく見つけ、牙で躊躇なく肉を抉り、消えない印を刻むようなスケーティングとも違う。
 小塚崇彦のスケーティングには、さりげなく手相の上を爪でスーッとなぞるような優しさと柔らかさがある。

 フリー「ビートルズ・コンチェルト」は、よくよく見ると非常に凝ったプログラムだ。4分30秒の間、彼の足はステップを刻み続け、後半のジャンプの直前直後には美しいポジションのイーグルやハイドロブレーディングも入っている。サーキュラーステップは、コンビネーションジャンプを降りたと思って気を許すと、あっという間に始まりあっという間に終わってしまう。
 これほど難しいことをやっているのに、あまりそのすごさが伝わらない理由。それはもちろん、彼の技術の確実さやスケーティングの滑らかさもあるだろう。しかし、もう一つの大きな理由は、彼の上半身の使い方だ。

 フリーの後、小塚崇彦はこう語った。
「ジャンプを失敗してしまったことが一番痛いですね。アクセルが……。ループも全日本と同じ失敗で悔しいです。他のことはできているので、あとはジャンプだけです」
 この四大陸選手権では、全日本の時よりも、ジャンプの軸は細くなりランディングも流れていた。ループがシングルになった後も、全日本に比べて落ち着いていた。学習能力の高い彼のことだ、自分で認識している課題は、世界選手権までに調整してくることができるだろう。

 だが、本当にそれだけか?
 四大陸選手権の「ビートルズ・コンチェルト」では、彼の滑りの端々でストーリーが見えた。
 エリナー・リグビーという孤独な老女が、人生で一番大事で神聖な少女時代の思い出を夢に見る。遠くから見ていた憧れの男の子、成就しなかった淡い初恋の甘酸っぱさや切なさ。彼女は、その大切な思い出から抜け出してきた男の子に導かれ、新しい居場所へと旅立つ。
 こういったイメージが少しずつ小塚崇彦の4分30秒から漂いだした。なのに、もう少しで完全にそのストーリーに入り込めそうな所で、彼のちょっとだけぶっきらぼうな腕のあげ方、ほんの少しだけ力みが残る肩に気を取られ、夢から醒めてしまうのだ。
 あの足元の特筆すべき優雅な柔らかさがあるからこそ、上半身の使い方のちょっとした硬さが、どうしても目立ってしまう。彼なら上半身だってもっと優雅に動かせると思う。だからこそ、もったいないし悔しくなる。

 ISUシニアチャンピオンシップ初参戦となった四大陸選手権。オウリムヌリでの小塚崇彦を見続けていると、この場に流れる独特の緊迫した雰囲気を肌で感じ、世界のトップを目指すために必要な、「戦う気持ちの作り方」や「自分の個性のアピールの仕方」を理解しつつあるのが伝わってきた。

 彼のブレードに宿る優しいエナジーが、演技中ずっと全身に行き渡り続けた時、私達は彼の滑りに「夢」を見ることができる。それができた時、小塚崇彦は本当の意味で「シニアスケーター」になる。
 今回、結果こそ満足には残せなかったかもしれない。しかし、今の彼に必要な経験、化けるための糧は揃った。今までとは違う小塚崇彦を見られる日は、もう間もなくだ。

text/Koyori Kirishima  photo/Takayuki Honma


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四大陸選手権2008終了、エキシビションレポート(2)

Id7e1137  こうして見ると、男子選手の方が会場の雰囲気にのりやすいのだろうか? 前半に登場した4位のキャリエール、5位のアボットも、今日はとてもにこやかで、動きのひとつひとつがチャーミング。今まで気付かなかった彼らの魅力に、ソウルのお客さんが気付かせてくれたようだ。最も歓声の多かったバトル、髙橋大輔は、言わずもがな。

 韓国の報道陣に聞いた話では、やはりキム・ヨナをのぞけば、男子シングルトップ選手たちの人気が際立っているのだそうだ。
「四大陸選手権が始まるまでは、ジョニー・ウィアーが一番人気でした。でも今回でバトル、髙橋、ライサチェクの人気がグンとあがったんじゃないでしょうか」
 そんな話を聞くと、ここで小塚崇彦の「サタデーナイトフィーバー」、中庭健介の「マンボ」を、ぜひ韓国のお客さんに見せたかったな、と、ちょっと悔しくなってしまった。

 異常とも思えるフィーバーぶりに最初は驚いたけれど、ひょっとしたらこれは、今まで見た中で一番いいエキシビションだったのではないかな、と思う。
 なんといっても、選手たちがうれしそうなのがいいのだ。盛り上がれば盛り上がるほど、彼らははどんどんいい演技をする、素晴らしいパフォーマンスが見られれば、お客さんはさらに盛り上がる――。
 観客もショー作りに参加している、本当の意味で、会場にいるすべての人が一体となったエキシビションだった。

 この会場には、たくさんのスケート関係者、ISUの人々もいれば、大きなイベントの興行主もいる。きっとこれから韓国では、アイスショーや国際試合が増えるに違いない。それに伴い、フィギュアスケートを始める子供たちも、たくさん出てくるにに違いない。
 2008年四大陸選手権は、韓国がフィギュアスケート大国になるきかっけとなった記念すべき大会――そんなことを言われる日も、遠くはないだろう。

photo/Takayuki Honma   text/Hirono Aoshima 


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四大陸選手権2008終了、エキシビションレポート(1)

Id7e1580  ここはディスコ? アイドルのコンサート会場?
 フィギュアスケートのお客さんがここまで熱狂するところを見るのは、初めてかもしれない。
 ファンクラブに一万人の会員を抱えるというユナ・キムが出演していないというのに、オウリムヌリのお客さんの、この喜びようはどうだろう?
 選手がちょっと視線を送るだけで大歓声、ビッグなジャンプにも、長い長いイナバウアーにも同じように大絶叫! 試合でのヒートアップぶりである程度の盛り上がりは予想していたが、それを超える人々の興奮ぶりに、日本から来た取材陣はひたすら驚くばかりだ。
 いや、取材陣だけではない。一番驚いたのは、この狂乱のるつぼに飛び込んでいかなければならない選手たちだろう。
 もう、これだけの熱気で迎えられたら、踊らないわけにはいかない。見せないわけにはいかないのだ。

 出演選手中、特にこの雰囲気に乗せられたスケーターは、マイケル・ジャクソンのナンバーを滑ったエヴァン・ライサチェク選手。こんな機嫌のいいエヴァンを見たことがない、そして、こんなに踊っているエヴァンは見たことがないと思うほど、自在に、気持ちよさげに体が動き、フィナーレではさらに大はしゃぎ。男女シングルの選手たちが名前を呼ばれるのを待っている間、安藤美姫選手を誘ってダンス! ただリズムに乗っていた選手たちも一緒に踊りだし、お客さんも大喜び! すっかりフィナーレの盛り上げ隊長だった。

Qr2i9961   気合が入っていたのは、アップテンポのナンバーを踊る選手だけではない。おなじみの「アダージョ」でしっとりと舞ったパン&トン、特に男性のジャン・トンが見せたのは、クールな彼がこんなにも、と驚くほど、パッションあふれる演技だ。ひょっとすると、フリーの時以上にチャンピオンらしい堂々とした滑りだったかもしれない。一曲終えると激しく息が上がるほど力が入っていたが、アンコールでも大きなスロージャンプを2連発。熱く応援し、優勝を祝福してくれたソウルのファンに、贈り物をするかのようなショーナンバーだった。

photo/Takayuki Honma   text/Hirono Aoshima 


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高橋大輔フリー終了後、共同インタビュー

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 最終滑走で優勝となると、演技後はそのまま表彰式、すぐに記者会見場に直行してしまうことも多い。
 時間のない中、髙橋選手はミックスゾーンに立ち止まり、日本の記者の質問攻めに応えてくれた。

――優勝おめでとうございます。素晴らしい演技でした!
大輔 ありがとうございます! 4回転も2回入ったし、たくさんのライバルがいる中でいい演技ができてよかった。すごくうれしくて、思わずガッツポーズしてしまいました(笑)。ループで失敗したけれど、全体的に「丁寧に!」を心がけて滑れたと思います。この結果は自信になったし、出場して良かったです。満足しています。

――4回転の手ごたえは?
大輔 最初の単独ジャンプは、跳んだ瞬間はどうかな? と思ったけれど、きれいに降りられて。逆にコンビネーションの方は、跳んだ感触は良かったのに着氷の時に詰まり気味だったかな? でも2本ともきっちり跳べたので!

――得点も、トリノ五輪でプルシェンコの出した歴代最高を超えるものが出ました。
大輔 こんなに出るとは思わなかったです……。ここまでの点数が出たことはないので、素直にうれしい。でもオリンピックと四大陸では、採点の基準も違うと思うし、それほどスコアは気にしません。優勝すること、自分の演技をすることを、いつも一番に考えているので。ただ、ジェフ君とすごく点数を離して勝てた、その点にはびっくりです。ここまでジャッジに認めてもらえたことも、自信になりますね。次はもっと練習しますから、もっと点数を出してほしい(笑)。

――まだまだスコアを上げられる余地はある?
大輔 ループの失敗もありましたし。バトル選手やライサチェク選手がいたこと、最終滑走ということで緊張もありました。今はいているスケート靴も、3月には慣れて来ると思うので、もっといい演技はできると思います。

――演技構成ですが、最後のスピンで、ショートでもフリーでもレイバックスピンを入れた理由は?
大輔 僕のレイバックが好きって言ってくれるファンの方も多いし、自分でも好きなスピンなので。じゃあ通常回転でクロスするよりも、レイバックにしてみようかな、と。スピンも今シーズン、一番丁寧にできた試合だと思います。自分の一番苦手なエレメンツは、スピン。これから一番力を入れて練習して、逆に得意技にしていきたいですね。

――韓国のお客さんの声援、今日も大きかったですね。
大輔 はい、実はかなり疲れていたので、予想以上の応援を頂いて、すごく助けになりました。お客さんには、「ありがとうございました」を言いたいです。客席の反応の大きさが、今回の試合では一番印象的でした。点数が高かったのも、お客さんの手助けのおかげじゃないかな、と思います。

――演技後、ニコライコーチも満足気に何か言っていましたね。
大輔 ただ、「おつかれー」って(笑)。滑り出す前ですか? 「行ってこい!」「滑ってこい!」って感じかな? やるべきことはもう、お互いにわかっているので。

――来月にはまた、大きな試合が待っています。世界選手権に向けての課題は?
大輔 今回、全日本の時ほどはバテなかったけれど、やはり4回転2本を跳んだ時点で体力のピークが来てしまう。体力作りにもっと励まなきゃ、と思っています。

――やはり次も、4回転2本を見せてくれますか?
大輔 どうですかね! とにかくでかい舞台ですから、今回以上に緊張すると思いますし。でも練習して、調子を上げて、自信をつけて挑みたいです。今日得た自信を持って、シーズン最後の演技、もっと滑ってもっといい演技ができるようにがんばります。

text/Hirono Aoshima 


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四大陸選手権こぼれ話(6) オフリンクの選手たち

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 記者会見会場での、素敵なツーショット2枚。
 まずはショートプログラム記者会見後の、高橋大輔&ジェフリー・バトル選手。
 今大会、お客さんの黄色い声を二分したふたり。
 がんばって英語で記者たちの質問に答えようとする高橋選手を、「がんばれ! 大丈夫だよ!」と励ましていたバトル選手の姿が印象的だった。高橋選手の方も、「僕の英語、合ってる? おかしくない?」と彼に確認を求めるように話す。
 この後の日本の記者たちとの対話では、「今回はジェフ君のような強い選手もいて緊張して……あ、違った、バトル選手だ!」と言いなおす高橋選手も、またキュート。

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 こちらはアイスダンスフリー終了後、準優勝のチャーリー・ホワイト選手とズウェアコーチ。チームマリーナ全員での写真をお願いしたのだが、「あら、私、チャーリーとふたりで撮りたいわ!」と、乙女のようにわがままを言うマリーナコーチ。ご要望に応えての、笑顔のツーショットです。

text/Hirono Aoshima


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女子フリー終了、浅田真央優勝&安藤美姫3位 風とカルメン(2)

Id7e0931   対する安藤美姫の演技は、浅田真央とは面白いほど対照的に、人間的だった。
 滑り出しのマイム、ごくごくナチュラルな投げキッスの色気! 
 なんだか同性の私でもくらくらしそうなほどだ。
 うん、今日の彼女は、気持ちが入っている! 3−3、4回転と、冒頭の大事なジャンプにミスが続いても、大丈夫、彼女の真骨頂である滑りの力強さはしっかりキープしている。
「4回転が回転さえできなかったことが一番くやしいけれど……最初のふたつのジャンプ以外はきちんとできました! いつもの練習で自分のものにしたことを出せるよう、しっかり集中していたから」
 その言葉通り、後半は次々決まるジャンプも、気持ちをたっぷり込めてパーンと足をあげるスパイラルも、軽やかで、かつ色っぽさに満ちたステップも、何をしてもソウルのお客さんが沸いた。
 特に安藤美姫独特の、凛々しくかまえてソリッドに跳ぶジャンプ! このジャンプこそが、今日はカルメンの熱い恋心を表しているようで、なんだか感動してしまった。一流のジャンパーは、感情も、伝えたい何かも、ジャンプで表現できる。ジャンプでプログラムを彩ることさえもできるのだ。
 きっとこういう安藤美姫を、ソウルのお客さんは見たかっただろう。安藤美姫自身も、見せたかっただろう。
 これからが見せ場のステップ、というその瞬間には、「見ててね!」という彼女の声が聞こえたような気がした。「見ててね!」——これは、ちょっと甘えん坊の彼女が、恋人に語りかけるような言葉。そうか……きょうの安藤美姫はきっと、誰か大切な人に、この「カルメン」を見てほしくて滑っているのかもしれない。だからこんなに人間的で、こんなに女っぽくて、こんなにかわいらしいのだ。

 おそらく、少なからぬ数のソウルのお客さんを恋に落として。
 安藤美姫のカルメンは、最後のレベランスさえも、大好きな人にするようにキュートに決めて、オウリヌムリのリンクを去って行った。

 実に対照的だった日本のふたりの演技、どちらにより心を奪われるかは、人それぞれだろう。
 もしどちらかをあげなければならないとしたら、私は今日は、安藤美姫の「カルメン」に軍配を上げたい。
 もし浅田真央の演技の風のそよぎのなかに、生き生きした鳥の羽ばたきのようなものが垣間見えたら。少しでも血の通ったものの生命力が感じられたら、また違ったかもしれない。
 冷ややかに広がる氷の上で、人の身体がどんなに美しく動くか。それだけではなく、地上ではありえないスピードで疾走しながら、人の心のどんな動きを彼女たちの身体が伝えてくるかを、私はフィギュアスケートで見たいのだ。

 リンク入りした時からにこにこと機嫌がよさそうだった安藤美姫と、体力がいつもより無かったという浅田真央。コンディショニングによって、また違うものを見せてくれる時も、もちろんあるだろう。
 安藤美姫が恋する心を忘れてただのジャンパーに戻ってしまうことだってまだあるし、浅田真央がはじける笑顔をいっぱいに銀盤に咲かせることだって、またある。
 結局、ふたりともまだ、17歳と20歳。
 氷上を吹きわたる風も、恋するカルメンも、どちらも発展途上中の、でも確実に素敵な、もっと素敵になりそうな、日本の誇るエースだ。
 すでに世界の頂上で戦うトップアスリートで、試合のたびに、メダル、ライバル、ジャンプ対決……と騒がれてしまうけれど、時には彼女たちの年齢や素顔を思い出して。
 これからまだまだ、日々成長していくふたりの姿を、ゆっくり楽しみたいと今夜は改めて思った。
 私たちも楽しむから、ふたりにも、もっともっと滑ることを楽しんでほしいと。

photo/Takayuki Honma text/Hirono Aoshima 


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女子フリー終了、浅田真央優勝&安藤美姫3位 風とカルメン(1)

Id7e0466_2  トリプルアクセルも3回転−3回転も決めた浅田真央が優勝。
 4回転に失敗し、3回転‐3回転も入らなかった安藤美姫は3位。
 単純に、ジャンプを中心に今日のふたりを比べればそうなる。
 でも、プロトコルの上の数字には出てこない部分、二人の演技の印象の好対照さこそが、今夜は際立っていたように思う。

 先にリンクに現れたのは、深いワインレッドの、少し大人びた衣装を着た浅田真央。気品あふれる王女のようにも、貴婦人のようにも見えて、大人になろうとしている今シーズンの彼女にとても良く似合っている。
 しかし音楽が始まり、アクセルも3−3もいきなり軽々と決めて見せると、華麗な衣装をまとうその身体は、ほんとうにスケートのために生まれて、スケートのために鍛え上げられたものなのだ、と今更ながらに感じた。
 ジャンプだけではない。ロシアのタラソワコーチやバレエの専任教師に仕込まれた、タメの良くきいたメリハリある動き。こうすれば美しく見えるよ、と教えられたとおり、自在に動かせる身体は、天性のリズム感とあいまって、そよ風のように軽々と音楽にのっていく。
 そんな今日の浅田真央は——少し、人間ではないもののようだった。
「冷静に、冷静にって考えながら滑りました。冷静にならないとジャンプも失敗してしまうのを知ってるから、焦らず落ち付いて! って思いながら」
 本人もそう語るように、感情を極限まで廃して、跳ぶべきジャンプを跳び、こなすべき動きを続ける、何か人間ではない、美しいもの。
 演技前には大歓声で彼女を迎えた韓国のお客さんも、大きなジャンプを跳び終えた後は、かたずを飲んで見守っていたように感じる。選手のみなぎるパッションや生命力に同調して、ウォー! と叫びながら見るのではなく、静かに掲げられた一幅の絵を、息を詰めて見守るように。
 いや、絵というよりもむしろ、今日の浅田真央の演技が生んだ感動は、風のそよぎや空の青さに心が洗われる、そんな感動に似ていたかもしれない。特に、表情をほとんどたたえず、身体の動きに合わせて時折大きくさまよわせていた視線。それはまさに、潔いほど心を持たない、氷上を吹きわたる風の視線だった。

photo/Takayuki Honma text/Hirono Aoshima 


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四大陸選手権こぼれ話(5) オフリンクの選手たち

P1000476_3 世界選手権に向け、来シーズンに向け、決意を新たにした日本選手たちの表情をご紹介。
小塚崇彦選手&佐藤信夫コーチ。試合の後にはきっちり反省会をする佐藤コーチチーム。その反省会直後のワンショット。初めての世界選手権に向け、気持にゆるみはない。

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 ショートプログラム終了後の中庭健介選手。自分の演技を終えた後には、高橋大輔選手の「白鳥の湖」を観戦。ステップ中、二人は何度も目が合ってしまったとか。

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 キャシー・リード&クリス・リード組。アイスダンスの試合は3日間とも日中に行われた。大きな窓の下のミックスゾーンは彼らが出てくるときはいつも日差しが強く、「マブシイ!」と笑いながら記者たちの質問に答えてくれた。「ケガの再発には気をつけています。アイシングを続けて、ストレッチも入念に!」(クリス)「このあとはアメリカに帰って、もっとパワフルに滑れるように練習します。3月の最初にはヨーロッパ入りの予定です」(キャシー)

text/Hirono Aoshima


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男子フリー終了 中庭健介フリー12位、総合12位

Id7e0149  07‐08シーズン。中庭健介にとっては、大事な試合前にトラブルに見舞われることの多いシーズンだった。
 久しぶりに出場したNHK杯では、スケート靴のネジの緩みにあわて、全日本選手権も靴の調子が万全でないまま出場。そして今回はショートプログラム後、14日の公式練習中にスケート靴のエッジを右膝に刺し、フリー当日の練習では3回転ジャンプもままならなかった。
「先生には、『出場、とりやめてもいいんだぞ』とまで言われました。でも、それだけはしたくなかった。絶対に出場だけはしよう、そんな気持ちで出ていきました」
 4回転など、まったく形にもならないまま迎えた本番。しかし彼は逃げることなく、4回転1本とトリプルアクセル2本。すべてで転倒やお手付きをしながらも、チャレンジしてきた。
「やはり今、4回転ははずしてはいけないジャンプ。この状態でも挑めたのは、大きな成果だと思います。4回転、アクセル、アクセルと、跳ぶべきものとして自分の頭の中にしっかりイメージを作れていたから、逃げなかった。あともう少し、なんとかふんばりきりたかったけれど、力が抜けて崩れてしまって……。でもケガしたことも、今日の結果には関係のないことです」

 日本で数少ない4回転ジャンパーで、演劇的な表現もできる中庭健介。今日のフリーでも勇壮な音楽に乗って男らしく、スローパートでは手の動きも体のしなりもやわらかく、やさしく。大きな動きもくっきり氷上に映える、彼らしい「ブレーブハート」を見せてくれた。
 リンク降りれば礼儀正しく、かつユーモアたっぷりで若い選手にも慕われるキャラクター。年齢をものともせず、常に新しいことにチャレンジし続ける姿に共感する人も多い。
 だからこそ! 大きな試合で「凄い中庭健介」が見てみたいのに、とたくさんの人が思う。
 跳べて、演技派で、応援したくなるキャラクターで。こんなにも、「もっと活躍してほしい!」と切に願う選手はなかなかいないのだ。
 だからこそ、せっかく出場権を得た四大陸選手権で、トラブルがあったといえ、また失敗してしまったこと、あのきれいな4回転を世界の人に見てもらえなかったことが、歯がゆくてならない。

「膝のけがを差し引いても、後半のストレートラインステップではものすごく疲れてしまった。練習不足を大きく反省しています。レベルが取れるはずのスピンも取りこぼしをしてしまって、もったいなかったと思う。この点も、来シーズンに向けての課題になります。
 とにかく四大陸選手権、過去最低の成績……。情けないし、悔しいです。まだまだやらなくちゃいけないことはある。オフシーズンも気を抜かず、もう明日から次のシーズンに向けて練習していきます」
 ぐるりと取り囲んだ報道陣に向け、右に、左に、二度深くお辞儀をして、中庭健介はミックスゾーンを去って行った。
 こんな誠実な姿を見ると、やはりまた、応援したくなる。また来年も、この人のがんばりを見守りたいと思うし、彼の誠実さがどんなスケートを作っていくのか、見てみたいと思う。
 今度は彼の言葉を聞いて、ではなく、演技を見て。「凄い中庭健介」を見て、もっと応援するファンが増えてくれるシーズンになりますように。

photo/Takayuki Honma   text/Hirono Aoshima 


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四大陸選手権こぼれ話(4) アイスダンスも大人気!

Marinap1000496  アイスダンスフリー終了後のメダリスト記者会見は、予定よりも20分遅れて開始。
 実はリンクから記者会見場への移動の際、たくさんの韓国ファンがダンスのメダリストたちを待ち構え、追いかけ、大きな祝福の波が起こり、ちょっと騒然とした雰囲気だったのだ。
 特に人気があるのは優勝したバーチュー&モア組(カナダ)と、準優勝のデイビス&ホワイト組(アメリカ)。地元ファンからは凝ったイラスト付きのバナーも贈られ、最終滑走のバーチュー&モアが素晴らしい演技を終えた後には、スタンディングオベーションも!
「韓国は、何度も行った日本によく似た雰囲気で、リラックスできる国ですね。でもお客さんの反応には僕もエキサイトしたな! こんなに関心を持ってくれて、すごくうれしいです」(スコット・モア)
 ヨナ・キム選手の活躍もあって、韓国ではフィギュアスケートに興味を持つ人々が増えた、と聞いてはいた。でもそれは、女子シングルに限ったことではなかったのだ。熱心なファンたちは、ペアやアイスダンスのことも大好きだし、良く知っている。そしてシングルのスターたちと同じくらいの数のファンが、彼らを取り囲み、惜しみない祝福の言葉を送る。
「それも、ここ2年ほどのことですよ。ユナ・キムが登場してから大きく変わったんです。ユナ・キムを見てスケートを好きになった人たちが、みんなで技のこと、採点のこと、他の種目のことも、一生懸命勉強しています」(韓国のテレビ関係者)
 なるほど、今大会のパンフレットにも、かなり詳しいプロトコルの見方講座が掲載されていた。好奇心旺盛な韓国の人たちは、女子シングルのトップだけに注目していたのではもったいないことを、良く知っている。

 ヨナ・キム選手をはじめ、女子SPで6位につけたナヨン・キム選手など、少しずつ実力をつけてきた韓国勢は、日本選手にとって手ごわいライバルになっている。
 韓国のスケートファンもまた、私たちのいいライバルになりそうだ。

text/Hirono Aoshima

*写真はバーチュー&モア組と、デイビス&ホワイト組。そして彼らのコーチ、マリーナ・ズウェア氏


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アイスダンスフリー終了 リード&リード組7位  ひとつの到達点

Id7e0443  日本代表として出場する国際試合も、これで5戦目。
 ノービスやジュニアのころを見ていないふたりが、いきなり日本代表として私たちの前に現れた時は驚いたけれど、もうそろそろクリスのすらりとした長身も、お団子がちょこんと乗ったキャシーの小さな頭も、見慣れてきたな、と思った。
 また、昨年から滑っているフリー「プレイヤー・イン・ザ・ナイト」で見せる、大きな腕の動きも、若い力を振り絞って氷に情熱をたたきつけるような演技も、すっかりおなじみだ。

 しかし、07年四大陸選手権以来のパーソナルベスト更新となった今日の演技。
 そこにあるシルエットこそ、いつもの彼らのものだけれど、演技は今まで見たなかで一番のびやかで、一番パッショネイト。そして一番彼ららしさが出たフリーダンスだった。
 冒頭から入り込んでいた二人の表情は、若くて健康的な憂いに満ちている。大きな身体も、いつも以上にがんばる気持ちを強く発している。観客は、彼らのステップの美しさに酔ったり、表現の豊かさに衝撃を受けたりはまだしないけれど、「日本のアイスダンスのために!」と、いつも一生懸命な彼らを心の底から応援したい気持ちになってしまう、そんな演技だった。

「パーソナルベストの出た理由? 今シーズンはとても調子が良くて……」(キャシー)
「僕の脚の痛みも、もうなくて!」(クリス)
「試合ごとにどんどんパフォーマンスも良くなってきた、その成果だと思います。一生懸命練習してきたことがどの試合でも出せたし、それが今日は特にしっかり出せたから。だから私たち、ベリーベリーハッピー。トテモタノシイ!」(キャシー)

 演技を終えた瞬間には、お互いに体をしっかり組み合わせたポーズのまま、キャシーが感極まって何度も何度もこぶしを振り上げた。リンクサイドでは、コーチもトレーナーもチームリーダーも、みんなで大喜び!
 確かに今日の演技で、「プレイヤー・イン・ザ・ナイト」はひとつの完成を得たかもしれない。キャシー・リード&クリス・リードはこんなアイスダンサーです、と、彼らのカラーをここで確立して見せただろう。この後、シーズン最後の試合、そして彼らにとっては初出場となる世界選手権で、もう一度リード&リードの今の姿を世界にアピールしたら――。
 もう次からは、新しい彼らのカラーを探していく時期なのかもしれない。
 今シーズン最初、自分たちのアピールポイントを聞かれたキャシーは、体の大きさ、ラインの美しさを挙げてくれた。若さ、真摯さ、そして、持って生まれた姿かたちの美しさ。そんな現在の大きな武器に加え、ダンサーとしての個性、彼らにしか表現できないものを、来シーズンからは見せなければならない。

 音楽を変えても、衣装を替えても、いつも同じ印象しか与えてくれないダンサーはいる。
 リード姉弟は、どうだろうか?
 タンゴ、ジャズ、コンテンポラリーと、様々なダンスを踊る彼らを想像すると、もう世界選手権よりも次のシーズンのふたりのことが楽しみだ。
 秋、キャシーとクリスを見るときに、何か新しいものをその体からを発してくれることを。リード姉弟、こんなこともできるのか! と驚かせてくれることを、楽しみにしたい。

photo/Takayuki Honma   text/Hirono Aoshima


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男子フリー終了  髙橋大輔優勝! そして歴代最高得点更新

Id7e0651  全日本選手権に続き、またもや2本決めてしまった4回転の安定感。
 トリノ五輪以前、あれほど本番に弱いと言われ続けた彼の、心の成長ぶり。
 革新的なショートプログラムに続き、王道のフリーでもこれだけ見せてしまった、表現の幅広さ。
 ジャンプのGOEプラスが目立った要素点、8点台が当たり前になってしまった演技構成点、どちらもとてつもなく高かったジャッジの評価。
 そして、プルシェンコが06年トリノ五輪で出した世界歴代最高得点、2年ぶりの更新……。

 オウリムヌリアイスリンクの観客を総立ちにさせた演技が終わり、熱狂の渦を抜けて記者席でキーボードに向かい――。
 今、自分があの演技について何か書かなければならないことに、呆然としている。
 とにかくいろいろなことが頭の中に渦を巻いてしまい、何について記せばいいのか、わからない。
 いやそれ以前に、あの演技について私などが何か書く意味はあるのだろうか、と呆然とするしかないのだ。
 今夜の演技の意味するもの、価値、影響……。「書けること」はやまほどあるけれど、書かなければならないこと、書きたいことはたったひとつしかない。
 ただただ、2008年4大陸選手権の高橋大輔の演技を、「見られて良かった」。
 たったひとつ、そのことだけ。ただただ「見られれて良かった」と言うしかないし、書くしかない。そんな演技が、フィギュアスケートで見られたのだ。 
 
 2本の4回転と、トリプルアクセル。男子選手の多くが、ただ跳ぶことすら苦労するジャンプを、あまりに美しく跳んでしまうことに驚く。
 冒頭の3本のジャンプを決め、観客が興奮しながらもほっとした瞬間、髙橋大輔のロミオに魂が入った、その刹那の空気の変化に驚く。
 十字を切る動作も、何かに手をさしのべるしぐさも、振り付けのひとつひとつがくっきり目に焼きつき、見ていて自然に涙が出そうになっていることに驚く。
 最後のコンビネーションジャンプ、トリプルフリップ-トリプルトウを決めた瞬間、「うん!」とうなづいて見せた彼の、自信に満ちた不敵な表情に驚く。
 ストレートラインステップがこれだけ激しいのに、これだけ気持ちがあふれていて、髙橋大輔自身の必死さも、ロミオという青年の苦悶も、同時に感じさせてしまったことに驚く。

 4分30秒の最初から最後まで驚きの連続で、一瞬たりとも見逃すことのできなかったこの演技を今、ここで見られたということ。今、この演技が私たちの目の前に確かにあったということ。その事実の前には、世界記録更新も、どんな数字の上での大きな記録も、すべてがどうでもいいことになってしまう。
 もっと俗なことをいえば、これでまた彼の取材が取りにくくなるかな、とか、彼の優勝の影響で新しいフィギュアスケートの企画は通りやすくなるだろうか、とか、そんなこともすべて、どうでもよくなってしまう。

 今日、ここで髙橋大輔の演技を見られたという事実があれば、他には何もいらない。
 彼がこうして氷の上に立っている時代に生まれてきたことが幸せだし、こうして彼の演技を見に来る機会を得たことが幸せだ。
 どうか、少しでも今日の演技を見て心が動いてしまった人は、彼がここにいるうちに、テレビの前ではなく、早くこの場所に来て欲しい。
 幸い、髙橋大輔の体はまだまだ元気に動くし、試合でもアイスショーでも、彼を見る機会はたくさんある。
 時間もお金も体力も、すべてをかけてリンクにやって来る価値が、髙橋大輔にはある。髙橋大輔と、彼が選んだスポーツ、フィギュアスケートにはあるのだ。
「疲れも緊張感もあったなか、この演技ができたことがすごくうれしいです。今までこんな点数をいただいたことはなかったし、こんなに高く評価されたこともとてもうれしいと思う。でも、最高の演技だったとは、自分では思わないから……今度は、もっとできると思います! もっと自信を持って、もっともっと練習しますから!」
 ほら、今からでも遅くはない。今夜が彼のマックスではないことは、彼自身が保証してくれたから。
 髙橋大輔の目撃者になる機会が、私たちにはまだまだたくさんある。

photo/Takayuki Honma   text/Hirono Aoshima 


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四大陸選手権こぼれ話(3) オフリンクの選手たち

Shortimg_0982  女子シングルショートプログラムの記者会見終了後、スモールメダルをかけた浅田真央、安藤美姫、カナダのジョアニー・ロシェット。
 真央選手のメダルの紐のねじれを、安藤選手が直してあげる、そんなお姉さんらしさを見せるひとこまもあった。

P1000473  男子シングルショートプログラム後のドローで、仲良く並んだ日本男子3人。チームメイトといえど、こんなに仲良くしているのは日本男子くらいかも?

Chainap1000443  もう一組いました! いつも3人で仔猫のようにじゃれあっていた中国女子シングル3人娘。右から、国内チャンピオンで日本でもおなじみ、ヤン・リュウ(23歳)、浅田真央選手とジュニア時代から戦っているビンシュー・スー(19歳)、今回がシニア国際試合2度目となるユーレン・ワン(16歳)。昨年のカップオブチャイナにも出場したユーレン・ワン選手には、ぜひ注目を。ショートプログラムではスケーティングも美しく、表情も豊かに。小さい花のような愛らしい演技を見せてくれた。

text/Hirono Aoshima 


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女子シングル SP終了、安藤美姫2位 ほんの小さな大切なこと(2)

Miki018a 「初めて韓国のショーに呼んでいただいた時(06年)は、ケガをしていて滑れなくて……。次に呼ばれた時(07年)にはリンクが火事で、ショーが中止になってしまって! 今回は3度目、やっと韓国で滑れる機会にきちんとショートプログラムが滑れてよかったです」

 韓国メディアのインタビューに、安藤美姫はそう答えてにっこりした。試合当日は頭痛を抱え、体調は万全でなかったにもかかわらず、ジャンプミスのないクリーンプログラムを見せた。順位も浅田真央に次ぐ2位。最難度のコンビネーション、トリプルルッツ-トリプルループ(判定ではセカンドジャンプがダウングレード)も見せられたし、さすがに世界チャンピオン、大きな歓声も飛んだ。公式練習から美しかったスケーティングも、全日本選手権以上に滑らかで、流れのある美しい「サムソンとデリラ」だった。

 でも、安藤美姫なら、世界チャンピオンなら、もっともっと見せられるはず! 頭上にかざす手の動きにはいつもの細やかさがないし、丁寧に確認するように踏むステップに、今夜の観客を極限まで高揚させる力はなかった。そして一番残念だったのは、下位の選手たちがしっかり決めたフィニッシュのポーズを、世界チャンピオンである彼女が、すぐにといてしまったことだ。
「四大陸選手権は、気楽に楽しんでやろうねって、コーチとも話してきました。練習だと思って、ひとつひとつの要素を丁寧に見せていこうって。それからフリーの4回転も、調子が良くても悪くても跳ぶつもりです。久しぶりに4回転が試合でできること、楽しみにしています!」

 世界選手権のような大きな緊張感がない場だからこそ、試せることはある。今回の安藤美姫の場合は、正確なエレメンツの確認であり、フリーの4回転だ。でも緊張感がない試合だからこそ、自分が楽しむだけでなくお客さんを楽しませる努力をもっとしてみる、伸び伸び滑ればどれだけお客さんが湧くのか試してみる、そんなことができるスケーターに、彼女もなるといいな、と思う。

 安藤美姫には、スケーターとして人に何かを伝えたいという意欲もあるし、人を引き付けられるチャーミングさも十分ある。ジャンプだけのスケーターでも、見せる武器のないスケーターでもない。世界チャンピオンらしく、成績だけでなく演技の記憶を人々に強く残すためには、あとほんの少しの努力、ほんの少しの気遣いをするだけでいいはずだ。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima


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ペアフリー終了、井上&ボルドウィン組4位  挑戦は続く(2)

Renap1000440  世界選手権でもぜひ注目してほしいフリープログラム「ポンペイ」。レベルの取りこぼしさえ改善していけば、さらに見ごたえのあるプログラムになるはずだ。コリオグラファーは今シーズンからの新コーチでもあるフィリップ・ミルズ氏。
「振り付け、実は最初は、オクサナ・グリシュクさんに頼む予定だったんです。私たちのショーのプログラムをいくつか作っていただいているので、競技用のプログラムも彼女にお願いしようかと。でもオクサナ、ロシアでのテレビ出演やアイスショーでちょうど忙しかったんですね。その代りに頼んだのが今回の先生。全米選手権の2週間前に作ったものだけれど、今までにないコンテンポラリーダンスのようなプログラムです。音楽も含め、ふたりともすごく気に行ってるんですよ」
 ジョン・ボルドウィンは今大会、34歳で参加選手中最年長。井上玲奈も同様に女子選手最年長。競技生活がこんなに長くなっても、まだまだ新しい自分たちを見つけていきたいと願う。ダンスの五輪チャンピオン・グリシュクからも、新しい振付師・ミルズからもどんどん刺激を受け、見るたびに新しいカラーを見せてくれる。日本人にとってもアメリカ人にとっても、胸を張って誇れるベテランペアだ。
「四大陸後はアイスショーがあるので、完全にケガを治せるほどは休めそうにないけれど……世界選手権もがんばります!」
 アイスショーのひとつは、3月の「長野メモリアルオンアイス2008」。長く応援してきた日本のファンの前で、彼らの振付師オクサナ・グリシュクとの共演も楽しみだ。

text/Hirono Aoshima 


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ペアフリー終了、井上&ボルドウィン組4位  挑戦は続く(1)

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「レベルがとにかくとれなかったね。ステップがレベル2、スピンがレベル1……。トリプルアクセルも決まらなかったし、Not good!」
 彼らにとっては5回目となる四大陸選手権。06年は優勝、07年は3位で、3年連続の表彰台を狙いたかったふたりだ。しかしフリーで順位を落としてメダルなしという結果に、ジョン・ボルドウィンは肩を落とした。
 そういえば6年前の2002年、彼らが初めて出場した韓国全州の四大陸選手権は、久しぶりに日本のファンが井上怜奈をテレビで見られたうれしい試合だった。アメリカ人とペアを組み、地方大会からひとつひとつ勝ち上がっているらしい、来年こそはナショナルに出られるかも……そんな噂に毎年耳を傾けていたファンは、ついに四大陸出場に手が届いたふたりの姿に感慨もひとしおだった。
「実は今回の四大陸、出ようかどうしようか迷ったんです」とは、井上怜奈の談話。
「でも私たち、いつもシーズン最初のISU大会でレベル判定に戸惑うことになるから。アメリカ国内のジャッジからは3をもらえたレベルが、グランプリシリーズでは1や2になってしまうことも多いんです。今シーズンはグランプリに出ていないから、世界選手権の前、四大陸でこういう結果を受け止めることができて、よかったと思います」
 前向きに話をしてくれたが、出場を迷った理由は井上怜奈の内転筋の故障だ。もともと傷めていた部分がここ2週間で悪化し、あざができるほどの内出血を起こしてしまったという。今も着替えなど、日常の動作をしてさえ痛みが走る状態だ。
「でも大丈夫ですよ。選手生活って、こんなものですから」

 けがの影響、シーズン初の国際大会だったこと、また、ショーの出演を積極的にこなしてきたため、競技用プログラムの滑りこみもたりなかったこと……。様々な要因で、今回は4位に甘んじてしまったふたり。
 でもやはり、思い出の多い韓国開催の四大陸で、彼女たちが見られて良かったと思う。
 なんといっても今シーズン、初めて国際大会で披露したフリーが、なかなか素敵なプログラムなのだ!「プログラムの選曲は全部ポチ(ジョン)がしたんですよ」
 音楽は映画サウンドトラックの「ポンペイ」。クラシックでも、ジャズやタンゴのような定番の音楽でもなく、モダンな雰囲気をプログラムの最初から醸し出す。ドコドコと激しいリズムのパートもゆったりしたパートも組み合わせているが、それぞれの曲調にうまく合わせた大きな動作のスピン、緩急のあるデススパイラル、二人の距離の近いミラーのステップなど、要素のひとつひとつがいきいきしている。そして何より、プログラムに色彩を加えているのは、ふたりの生命力に満ちた表情や動きだ。特にボルドウィンの、ただ滑っているだけでも幸せそうな表情! 力強いパートに入る前、雄々しく入れる気合! 競技生活は長くなったが、まだまだみなぎっている戦う気持ちが、見ているこちらにも伝わってくるようだ。
「怜奈ちゃんおめでとう!」
 演技終了後には、全米選手権でのプロポーズを知る人々から祝福も送られ、私生活も競技生活も豊かに送っているふたり。まだまだきっとがんばれる、そんな気がした。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima 


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女子シングル SP終了、安藤美姫2位 ほんの小さな大切なこと(1)

Id7e0985mex  香港、フィリピン、ブラジル、南アフリカ……。

 四大陸選手権で楽しみなのは、他の国際試合ではなかなか見ることのできない、スケートがマイナーな地域の選手たち、彼らの演技が見られることだ。女子シングルSPでも、猛々しい表情と手のひらまで力強く動く印象的なマラゲーニャを滑ったキアン(台湾)、生き生きと音楽に調和し、客席に視線を送ることも楽しみながら滑ったマッコール(南アフリカ)……。ジャンプの失敗は続いても、演技そのものを堪能させてくれる選手たちに、今年もたくさん出会えた。また、毎年出場しているメキシコのカントゥなど、一年ぶりに見る演技に大きな成長を見てうれしくなったりもした。

 韓国のお客さんは、今日も彼女たちに惜しみない声援を送る。とりわけ、演技のフィニッシュポーズでの観客たちの盛り上がりが、どの選手に対してもとても大きかった。

 彼女たちんはどんなに演技にミスが続いても、最後の最後、決めポーズはドラマチックに、音楽にばしっと合わせて見せ、お客さんを喜ばせてくれるのだ。そして歓声が鎮まるまで、一定時間フィニッシュのポーズできちんと制止する。これは難しいジャンプを跳ぶことよりも、ずっと簡単なこと。でも、それだけでずっと印象がいいし、演技の余韻もしっかり残るだろう。

 この簡単なことが、実は日本のジュニアの試合などを見ていると、おろそかにしてしまう選手が多い。不本意な演技をしてしまうと、「あーあ……」と、あからさまにがっかりした顔で、ほとんどポーズもとらずに終えてしまう選手が、日本ではどうしても目立ってしまう。ほんの少しだけ、気を使えばいいことなのに。最後まで自分を見てもらおうという気持ちがあれば、絶対にできることなのに。

 四大陸選手権の個性派の選手たち。ひょっとしたら彼女たちは、日本で滑っていたら国際舞台には立てないレベルの選手かもしれない。でも彼女たちは、この簡単な所作が、どれだけ大切かをみな心得ている。スケートに対する考え方、観客に相対する姿勢に、日本の選手たちとはどこか違うものがあるのかもしれない。

photo/Takayuki Honma  text/Hirono Aoshima

*写真はフリーでのアナ・セシリア・カントゥ(メキシコ)


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女子シングル SP終了 村主章枝9位 ベテランの壁の前で(2)

Img_6575a  だから今回、村主章枝にも大きな期待をしてしまった。韓国・高陽のリンク、オウルヌルムリには、ベテラン勢にとてもいい風が吹いている。この風に、彼女もうまく乗ってくれればいいな、と。

 ジャンプは果敢にルッツからのコンビネーションに挑んだが、両足着氷気味でコンビネーション判定をもらえず、得意のフリップもステップアウト。スピンやスパイラルでは3つのレベル4をとったものの、ふたつのジャンプミスで順位は9位にまで落ち込んでしまう。

 シーズン後半、滑り込んできた「テイクファイブ」は、コケティッシュなポーズや表情でたくさんの拍手をもらえたし、ステップ前の振り付けなどは全日本選手権よりもさらに魅力的で、村主章枝らしさも要所要所でたっぷりみせてくれたのだが……。「プログラムそのものの出来は悪くなかったけれど、やはりジャンプを失敗してしまって……」

 キス&クライでもミックスゾーンでも、声のトーンは少し暗かった。
「年を重ねるごとに、調整はやはり難しくなっています。試合への向き合い方もいろいろ試していて、今シーズンは佐藤先生についていた頃のやり方に変えたんですが、なかなかすぐには元に戻らない。プログラムも、私がなかなか本領を発揮できないでいるので、サーシャ(アレクサンドル・ズーリン)もずいぶん我慢していると思います。気持ち的にも、今シーズンは難しかった……」

 落ちてくる体力に合わせて競技を続けていくことにも。プログラムにこだわり、次々新しい表現にチャレンジしていくことにも。村主章枝は今、たくさんのことに迷っている。

 もう27歳ではあるが、ほんの2年前には世界選手権で銀メダルもとり、ずっと第一線で活躍してきた彼女だ。まだ、「ベテランであること」に慣れていないのかもしれないな、と思った。暗闇で手探りをするように、ひとつひとつ手ごたえを確かめながら、どうやって大好きなスケートを続けていくか、若いころとは違う必死さで探っている途中だ。
「試合はまだフリーが残っていますから。明後日は、練習でやってきたことがきちんと出せるようにがんばりたいな。練習ではうまくいっている3回転-3回転も来シーズンは入れたいですし、まだまだこれからですよ!」

 彼女自身もきっと、ギマセディノワやチェンジャン・リーのような演技を見せたいだろう。いやもっと高いレベルで、トップレベルにいたころの自分さえ超えていきたい気持ちは、十分持っている。

 選手生命の短いフィギュアスケートでは、ベテランの壁を越える前に、競技に別れを告げてしまう選手がほとんどだ。ベテランだからこそ見せられる演技に向けて、立ち向かうことすら難しい壁をもうひとつ抜ける日を目ざして。村主章枝が走り続けるならば、私たちはその日をいつまでも待とう。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima


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女子シングル SP終了 村主章枝9位 ベテランの壁の前で(1)

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 二日間の戦いを終えた2008年の四大陸選手権。

 ここまででとても印象に残っているのは、何人かのベテラン選手が健在ぶりを見せてくれたことだ。

 男子シングルではおなじみのチェンジャン・リー(28歳)が、協奏曲「黄河」にのり、しなやかで味のある演技を披露。4回転とトリプルアクセルを含むパーフェクトなショートプログラムで、大きなガッツポーズも飛びだした。昨年のNHK杯では元気がなかった彼だけに、みんなの大好きなチェンジャンらしいチェンジャンが久しぶりに見られたことに、たくさんのファンが喜んだことだろう。ソルトレイクシティで一緒に戦った仲間たちの多くが、ケガや新採点システムに苦しみながら引退していった中、まだまだ4回転も軽やかだし、ツイヅルなどをうまく取り入れた難しいステップにもチャレンジする。ほんとうにたのもしいし、いつまでも彼を見ていたいな、と改めて思った。

 女子シングルでは、ウズベキスタンの27歳、アナスタシア・ギマセディノワの健闘が光った。彼女も18歳のころから通算7回、四大陸選手権に出場している大ベテラン。世界選手権の最高位は19位と成績は地味だが、長く自分らしいスケートをを見せ続けている選手だ。

 14日のSPでは、年齢をみじんも感じさせない高さも飛距離も十分なジャンプ、紫の衣装が美しく揺れる凝ったスピンなど、あらゆるエレメンツで観衆を魅了。プログラムを通してほとんど笑顔を見せず、きりっとした勇ましい表情で滑り続けたのが、また格好良かった。しなやかな体の動きだけでなく、彼女自身の醸し出す精神性、凛々しさが、プログラムをよりドラマチックなものに見せていたようだ。

 パーフェクトな演技で、得点もシーズンベストを約20点、パーソナルベストも6点も更新し、彼女もまた感無量のガッツポーズ! 

 彼らのこんな姿を見られることが、やはりベテランを応援する醍醐味。そして自分の存在をスケートファンに忘れさせないような演技を、こうして時々でも見せてくれるところが、さすがベテランだ。リーやギマセディノワのような選手たちの底力があってこそ、フィギュアスケート全体が活性化していくのだろう。

photo/Takayuki Honma text/Hirono Aoshima

*写真はフリーでのギマセディノワ選手


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四大陸選手権こぼれ話(2) 髙橋大輔、韓国でも大人気!

Darkswansp1000457_2  お手製の選手資料を手にしたファン。南半球出身の、グランプリシリーズにも出ていない選手のこともよく知っていて、名前を呼び掛けるファン(また彼女たちの注目した選手は、無名なのに素敵な滑りを見せるのだ!)。韓国のスケートファンは決して数は多くないけれど、とても情熱的だ。そんな彼らが作ってくれた髙橋選手の応援バナーが、これ。ゴージャスな黒い羽根をまとった「白鳥の湖」バージョンの他に、凛々しい「ロミオとジュリエット」バージョンもある。

「ソウルの高橋大輔ファンクラブの名前は『Dark Swans』なんですよ!」と、バナーを張り付けていたお姉さんはニコニコ。

 彼がジャンプを決めるたびに「ウォー!」と叫び、パーフェクトの演技を終えた時には立ち上がってバンザイをしてくれたお兄さんは、ちょっとたどたどしい日本語でこう話してくれた。「2年前のNHK杯から、彼のファンです。彼はサイコウのアーティストだと思う!」

 彼らの熱狂ぶりには、髙橋大輔本人もびっくり。
「え、ファンクラブがあるんですか? 3年前に韓国に来たときにも熱狂的なファンの方はいてくれたけど、こんなにたくさんはいませんでしたね。ちょっと驚いています。うれしいです! 今日はお客さんの数はそれほど多くなかったけれど、声援がすごく大きくて……。ほんとに応援してもらえてるんだ、って感じました。それだけでもう、楽しかった! 」

text/Hirono Aoshima


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男子シングル SP終了 ジェフリー・バトル3位、小塚崇彦7位(2)

Img_2398a  ジェフリー・バトルの演技に沸きに沸いた場内、次に出てきたのは日本の小塚崇彦だ。この雰囲気での滑走は、初めての世界選手権を前にした彼にとっては大きな経験! それを彼自身もわかっているのだろう、引き締まったいい表情で登場し、バトルに負けないくらい気持ちのいい滑りを見せてくれた。

 今年初めて全日本のメダルを手にした19歳。しかし彼だって、スケーティングやステップの巧さは、五輪メダリストのバトルに決して引けを取らない。トリプルアクセルでの転倒は惜しかったけれど、凝った振り付けではなくスケートそのものの滑らかさ、スピード感で、さーっとお客さんの前を横切るたびに「おおっ!」とどよめきが走る。得意の高速アップライトスピンでは、大きな大きな拍手ももらえた。

 バトルの後に見て改めて思ったが、小塚崇彦のスケート、スピン、ステップ。これらはひとつひとつがほんとうに質の高い一級品だ。どれをとっても、バトルに劣るものはなかったと思う。でも、バトルの後だからこそ、この素晴らしいパーツをどう組み立て、どう作品として仕上げていくかが、これからの小塚崇彦にとって必要なことなのだ、と感じた。

 滑ること、氷上での動きに対する高いセンスの持ち主が、実直に練習を重ねることで、ここまでの技術をまず身につけた。そしてここからは、「自分のスケートを作り上げていくんだ!」という強い意思、そして「自分はどんなスケートを見せたいのか」、誰でもない小塚崇彦自身の描くビジョンが、きっと必要になって来る。

 それは、ちょっと照れ屋で体育会系の彼にとって、難しいことだろうか?

 演技を終え、キス&クライで得点を待つ小塚崇彦は、佐藤コーチとともにスクリーンに映った自分が、違う方向に向かって微笑んでいることに気づいた。すると、「あ、カメラこっちですね!」とでも言うように、今度はきちんと場内のお客さんに向き直って、手を振って見せた。「こういうのが、大事なんですよね」と、日本の記者がつぶやいていたが、まさにそのとおり。

 上手くなること、ジャンプを跳んで勝つこと。それにプラス、人に見られることを彼自身が楽しみ、見せることで人を楽しませるんだ、という意思。彼はきっと、大事なものをつかみかけているはずだ。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima


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男子シングル SP終了 ジェフリー・バトル3位、小塚崇彦7位(1)

Img_2313a  グランプリシリーズではファイナル進出を逃し、3年間守ったカナダチャンピオンの座も、若いパトリック・チャンに明け渡してしまったジェフリー・バトル。今シーズン元気のないトリノ五輪メダリストのことを、私はちょっと忘れかけていたかもしれない。

 しかし久しぶりに見たバトルの滑りに、そうだ、彼はこんな選手だったんだ! と改めて衝撃を受けてしまった。高橋大輔ともランビエールとも違う、フィギュアスケートのもうひとつの完成形を見せてくれる男、ジェフリー・バトル。彼の堂々たる姿が、国際舞台に帰ってきてくれた。

 この日のショートプログラム、滑りだしのちょっとした動きだけで、何かすごいものを見せられる予感がして震えた。それはバトル自身が「自分の見せたいものを見せる!」、そんな確固たる決意を胸に秘めて動き出したからだろう。ジャンプはトリプルフリップ-トリプルトウも、トリプルアクセルも完璧。トリプルルッツのみ、着氷が少し乱れたが、3つのジャンプをとりあえずクリーンに決めたことで、会場のファンたちは大歓声! お客さんの声で小さなミスもかき消されてしまったように見えた。

 そしてジャンプを決めた後の、ステップ、スピン、つなぎの動作……これらがひとつひとつの独立した要素として評価するのは難しいほど、すべてがひとつにつながった、圧倒的な「作品」をバトルは見せてくれた。心の動きをそのまま、2本の手と2本の脚に乗せてしまうようなスケート。2分40秒の間、滑りは一瞬たりとも止まるところがなく、確実にコントロールされた上下動は、ただの歓喜や悲嘆ではなく、未来への希望を込めた喜びや、哀しみの行き場のなささえも表現しきってしまうようだ。

 結果は4回転が入っていないこともあって、高橋、ライサチェクに続く3位。しかし彼のこの演技に順位は関係ないだろう。ひとつの試合の中の一選手の演技ではなく、ひとつの作品を彼がこの場で見せてくれた、そんな気がした。いいものを見た――そんな何ともいえない余韻が、しばらくの間ソウルのお客さんの心には残ったはずだ。

 これは、世界選手権でのバトルの戦いも、楽しみにしていい。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima


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アイスダンスコンパルソリー終了 ヤンキーポルカの醍醐味

Img_1280a  四大陸選手権2008、コンパルソリーの課題は、ヤンキーポルカ。
 曲調はとことん明るく、踊る人々は楽しげで、でも独特の足さばきはかなりハイレベル。
 ワルツなどならうまく合わせられるのに、激しいリズムにふたりの呼吸がばらばらになってしまうカップルもいる。また、そつなくステップは踏んでいるけれど、ポルカ独特の雰囲気はなかなか出せないカップルもいる。
 そんな課題を制したのは、ソウルのファンからも大きな声援が飛んだバーチュー&モア組(カナダ)だ。18歳と20歳で、もうカナダチャンピオン、そしてグランプリファイナリストという実績が示すように、少しも乱れのないステップは見事のひとこと。でも拍手と歓声は、技術的な巧さ以上に、ふたりの作りだしたポルカの突き抜けるような明るさに送られたようだ。
 白を基調にしたかわいらしい衣装で登場すると、もうリンクは彼らだけの世界。清楚なワルツから都会的なナンバーまでこなすふたりだが、くるくると幸せそうに揺れるテッサ・バーチューのスカートを見ていると、ポルカこそ彼らに合うナンバーだ、と思わせてしまう。そこにスピード感たっぷりの正確なステップがたたみかけるように踏まれ、大会初日の最初の種目から駆けつけた熱心なお客さんたちは大喜び! コンパルソリーでこんなにお客さんを楽しませてしまうとは、末恐ろしい若手だ。

Img_1447a そのバーチュー&モアと同じくらい場内を沸かせたのが、ウズベキスタンのシュン・ヘイ・ユウ&ラミル・サクロー組だ。四大陸選手権は3年ぶりというふたり、今回のコンパルソリーも10位と、評価決しては高くない。しかし、これでもかと緻密なステップを見せた上位の組よりも、彼らの方がずっとポルカらしいポルカを見せてくれたのだ。

 とにかく女性のユウの笑顔が底抜けにかわいらしく、滑ること、踊ることを楽しみきっている様子。横にふたつに結んだヘアスタイルも、鮮やかな黄色の衣装も絵本から飛び出てきた踊り子のようで、彼らがリズムに乗って軽やかに舞うと、お客さんはごくごく自然に手拍子をしてしまう。そうか、楽しくてこそ、ポルカなんだ……。
テクニック面はまだまだかもしれないが、ダンスを見る喜びの根本を思い出させてくれる華のある演技だった。まだ国際的な知名度はないカップルだが、これから伸びてくるといいな、と思う。いつか「あの年のコンパルソリーのポルカが良かったね」
と、言えるように。

 コンパルソリーは、アイスダンスの技術的な面をきっちり採点されるものだと、私たちは思いがちだ。しかし、基本のステップのバリエーションだけでなく、様々なダンスの持つ雰囲気を踊り分けること。どんな音楽でもお客さんを楽しませること。これもアイスダンサーには大切な資質だ。技巧だけでなく、ダンサーとしての華、醸し出す空気、そんなものを短い時間で比べられるのもコンパルソリーダンスなのかもしれない。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima


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男子シングル SP終了 髙橋大輔1位!  熱狂のブラックスワン

Img_2676as  韓国・高陽のオウルヌルムリアイスリンク。国際試合の開催されるリンクとしては小ぢんまりとしているし、席数もそれほど多くはない。でも、地元のスターも欠場した四大陸選手権にやってきたお客さんたち、彼らの熱狂ぶりには、ちょっと目を見張るものがあった。
 どの選手にも温かい拍手を……そんな光景は、日本でもよくみられるけれど、韓国のお客さんはさらに、どんな選手の演技も楽しみつくしてしまうのだ。ちょっとした技の成功にも大歓声を送り、少し凝った振り付けも決して見逃さないで喝采する。いつもノリノリで、大はしゃぎの彼らと一緒に見ていると、コンパルソリーダンスから試合を楽しめたし、見逃してしまいそうな選手の個性にもたくさん気づくことができた。
 そんな雰囲気だからだろうか。男子シングルのショートプログラムは、ジェフリー・バトル、チェンジャン・リー、エヴァン・ライサチェクと、ノーミスのレベルの高い演技が続く。久しぶりに見たバトルの孤高の身体表現、チェンジャンの満足気なガッツポーズもうれしく、この雰囲気だからこそ、彼らも力を出し切れたのでは、と思ってしまうほど。
 そして最終グループ4番滑走者、髙橋大輔が登場! 場内の応援バナーの数などを見ると、ソウルのお客さんの間では、バトルと大輔が人気を二分している様子。ここまでの熱戦で盛り上がりが頂点に達した会場は「待ってました!」とばかりの怒涛の声援を彼に送った。
「想像以上に盛り上がってくれて……。こういう雰囲気は、僕、大好きです! 今回はお客さんに助けられましたね」
 ほんとうに、こんなにヒートアップした中で見る「白鳥の湖」は、初めてだ。最初のポーズを彼がとった瞬間から、お客さんは大興奮、ジャンプが決まるたびに起こるのは、歓声というよりも、もう大絶叫! 若い女性の黄色い声だけでなく、「タカハシー!」という男性の野太い呼び声も聞こえる。日本のアイスショーでもここまでの盛り上がりは見たことがないし、こんなに盛り上がって「楽しい!」と思いながら「白鳥」を見るのも初めてだ。
 彼らの熱狂、渦巻くような「いい演技を見たい!」という期待に、髙橋大輔も十分こたえてくれた。本人は「ジャンプとスピンは今シーズン一番の出来です。でも、お客さんが応援してくれた分、ステップはもうちょっと盛り上がりたかった……」と満足はしていない様子。しかしこの熱気の中で自在にステップを踏む姿は、本当に気持ちがよさそうだ。こんな興奮に包まれて、自分を存分に表現できている彼がほんとうにうらやましくて……今夜はちょっと、髙橋大輔になってみたいなあ、などと思ってしまった。

 スコアはトリプルアクセルに+2.43点(4人ものジャッジが+3!)という驚異の加点がつき、要素点48.74、演技構成点も8点台が4つという恐ろしい高さ。4回転なしのショートプログラムで、総合得点はなんと88.57点!
 素晴らしい演技と、素晴らしい得点。でもそれ以上にうれしかったのは、韓国のお客さんがこれだけ髙橋大輔を好いてくれて、心の底から応援してくれたことだ。日本がスケート大国になった、と言われて久しい。選手たちは各大会で立派な成績を残し、強さを世界各国でアピールしてきた。しかし数字の上での成果だけでなく、日本のスケーターがこんなにも愛されている姿を国外で見られて……日本のフィギュアスケートは世界に本当に認められているんだ、としみじみ感じて、それがとてもうれしい一夜だった。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima 


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四大陸選手権こぼれ話(1)

Macp1000448_3  12日、取材チームはソウル・金浦空港にて、明治神宮外苑クラブの樋口豊コーチに遭遇。
 今大会、樋口コーチの教える選手たちの出場はなかったはずだが……。
「実は友人のコーチに頼まれて、オーストラリアの男の子を見てるんです。ロバート・マクナマラくん」
 オーストラリア男子シングル3番手というマクナマラ選手。ふだんはカリフォルニアのアイスキャッスルにてアンソニー・リュウコーチの指導を受けているが、今回は樋口コーチとともに参戦。直前には来日し、野辺山で、太田由希奈選手らとともにトレーニングを積んだそうだ。
「彼はあたたかいカリフォルニアから来ましたから、コートを持って来てなくて。マイナス10度の野辺山では、寒い寒いってぶるぶる震えてましたよ。一足先にソウルに行ったんですが、僕のコートを持って行っちゃった! で、その代りに日本に忘れていったのが、衣装(笑)」
 え、それは大変。男子はもう明日から試合です。ショートの衣装ですか、フリーですか?
「両方! 東京の僕の部屋にちょっと吊るしておいたのを、見事に両方忘れていってしまいました」
 というわけで、樋口コーチはマクナマラ選手の衣装とともにソウル入り。マイペースなロバート君、いったいどんな選手なのだろうか。南半球には、ジャンプは跳べないけれど個性的でアーティスティックな演技で、見ていて楽しい選手も多い。
「そうですね。フリーではウエストサイドストーリーを滑るんですが、ぜんぜんそれっぽくないの。パフォーマータイプの選手かな」
 前回出場した06年四大陸選手権では22位。マイペースなパフォーマー、マクナマラ選手の演技にもぜひ注目を!

text/Hirono Aoshima *写真はSP終了後のキス&クライでのマクナマラ選手


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四大陸選手権2008特集、始まります

P1000423s 08年四大陸選手権は韓国・高陽にて開催。
13日のコンパルソリーダンス、ペアSP、男子SPを皮切りに、5日間の熱戦が繰り広げられます。
日本からは高橋大輔、浅田真央の両全日本チャンピオン、世界チャンピオンの安藤美姫が登場することで大きな話題に。
村主章枝、中庭健介のベテラン勢も、今シーズン最後の国際試合に気合が入ります。
日本代表として2度目の四大陸出場となるリード姉弟も、昨年からいくつ順位をあげてくるか、注目。
sports@nifyフィギュアスケート特集では、今大会も選手たちの戦いぶりを連日レポートいたします。

text/Hirono Aoshima


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