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この特集では、浅田真央選手、安藤美姫選手をはじめとする注目選手の活躍や最新情報など、フィギュアスケートにまつわる様々なレポートを写真とともにお届けします。
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フィギュアスケート特集

モスクワ世界選手権取材を終えて

sp23/10~3/21まで、現地取材を含め、フィギュアスケート世界選手権のレポートをお届けしてきました。
ご挨拶が遅くなりましたが、たくさんの方にこのページをご覧になっていただき、またあたたかいコメントやメールもいただき、本当にありがとうございました。

ご指摘もありましたが、今回のレポートは起こったことを客観的に伝える「報道」とは少し違ったものになってしまったかもしれません。
モスクワにずっといたので、日本で今回の世界選手権がどんなふうに伝えられ、どんなふうに受け止められたのかはよくわかりません。
でも現地で同じ空気を吸っていた人間だからわかること、村主章枝、荒川静香、安藤美姫、高橋大輔、渡辺心、木戸章之、そして本田武史、日本代表の選手たち全員が、ほんとうにぎりぎりのところで戦って、最善を尽くそうともがいてきた姿は、どんな形であれぜひ伝えたい、そう思って記事と写真を送ってきました。

もし少しでも、遠いモスクワで戦っている選手たちの気持ちを身近に感じていただけたとしたら、世界選手権という舞台の興奮をともにしていただけたとしたら、とてもうれしいです。

また、今回日本人選手のレポートが中心で、海外の選手に関してはほとんどお伝えできなかったことが悔やまれます。3人のメダリストが全員初めての表彰台だった男子シングル、地元ロシア対中国の戦いに沸いたペア、ミドルクラスのサバイバルレースも見どころ満載だったアイスダンス、女子シングル海外勢の動向、そして新採点システムに立ち向かう選手やコーチたちの姿。取材し切れなかったこと、取材しながら書ききれなかったことなどもたくさんあります。今後もし国際試合のレポートをお届けする機会がありましたら、魅力的な海外のスケーターの姿も詳しくお届けできればと思っています。

幸い、この「フィギュアスケート世界選手権特集」のコーナーはsports@niftyさんの好意で、トリノ五輪までの期間、このまま続けられることになりました。
今後は「フィギュアスケート特集」として、世界選手権取材で書ききれなかったこと、オリンピックに向けての日本代表選手たちの挑戦、イベント・地方試合のレポート、この競技に関わる皆さんへのインタビューなど、フィギュアスケート関連の記事をほぼ週一回の割合で更新していければと考えています。

フィギュアスケートはオフシーズンに入ってしまいますが、2006年トリノ五輪まで、一年をきりました。
今回の世界選手権でフィギュアスケートの魅力を知った方も、昔からのフィギュアスケートファンの方も、オリンピックまでの一年をより楽しめる、そんなブログになればと思っています。

お時間ありましたら時々訪問していただければうれしいです。

Photo by K.Asakura (エキシビション翌日、モスクワ大学方面から見下ろしたルイジニキスポーツパレス(左))


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世界選手権閉幕 クロージングバンケットの選手たち

mikisizu

 エキシビション終了後、メジズナローズナヤホテルで開催されたバンケットにて。
 ドレスアップした安藤美姫選手と荒川静香選手。安藤選手はカメラマンのデジカメをのぞみこみ、撮れた写真をしっかりチェック。「あーん、美姫ふけてる……」。それは「大人っぽくなった」って言うんだよ!
 荒川選手は急遽サンクトペテルブルクで開催されるアイスショーへの出演が決まり、この日バンケットを中座して電車でサンクトへ移動! お疲れさま。

fumidai 日本チームでただひとりエキシビションに出演した村主章枝選手。バンケットでも晴れやかな笑顔。
 美しいレディたちにかこまれてもにやけたりしてません、高橋大輔選手。
 
Photo by K.Asakura


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世界選手権最終日 エキシビションのスケーターたち

violon 大会最終日のお楽しみはメダリストたちが勢ぞろいするエキシビション!
 今大会も入場券が一番最初に売り切れる人気ぶりだ。
 日本からの出演選手が村主章枝選手ただひとりというのは残念だたtかれど、選手もお客さんもリラックスしたお祭りムード。でも同時に「楽しかった世界選手権もこれで終わり」という寂しさも感じさせる一日だった。
 今回はたぶんテレビで見ることができない、プログラム前半に登場した選手たちを中心にレポートしたい。

*エドウィン・マルトン
 子どもたちによるオープニングスケーティングのあとに出てきたのがスケーターではないこの人。ロシアの作曲家、エドヴィン・マルトン。ディフェンディングチャンピオン・プルシェンコの使う音楽を編曲したり、ともにエキシビションの舞台に立ったりしている人だ。この日はビジョンに写されるプルシェンコ予選の演技に合わせて演奏。彼が棄権しないでこの場所にいたら、スケートと音楽、どんなコラボレーションを見せてくれたのか。残念。

fumieex*村主章枝
 フリーの「カルメン」と同じ「情熱」をテーマにしたエキシビションナンバー「アルビノーニのアダージョ」。情熱がじんわりとではなく、ずしんとこちらに伝わってくる演技だった。フィニッシュのポーズをなかなか解こうとしなかった章枝ちゃん。メダルを取るよりうれしいといったエキシビション出演、2年ぶりに出られた喜びを全身で表してくれた。

lieex
*チェンジャン・リー
 演技前、カメラに向かってにこやかに手を振る余裕あり! キュートなサスペンダーと銀色の縦縞ズボン。踊ってます! 大きな手拍子をもらったサーキュラーステップなど、試合とは違うチェンジャンを楽しませてくれた。演技後にロシアの子供たちからもらった花束、似合ってたよ!

dsex *イザベル・デロベル&オリビエ・ショーンフェルダー
 NHK杯でも見せた紐を小道具に使ったエキシビションナンバー。今大会、アイスダンス一番の成長株、注目株だけあってお客さんの拍手も大きい。黒髪をおろしたデロベルの背中がとてもきれいで、さわりたいくらい。高度なリフトや紐なしではできないムーブメントに、歓声とため息。

oberex*ジュリア・オベルタス&セルゲイ・スラフノフ
 紫のタキシードとピンクのひらひらドレスで登場した二人。結婚行進曲から始まるかわいいかわいいエキシビション! 幸せな花嫁と花婿……と思った瞬間に衣装チェンジ! コミカルで楽しい演劇的なプログラム。いつもクールな印象のオベルタスが演じると、いっそう楽しさアップ。ロシア3番手という自由な立場を、今は存分に楽しんでいる印象。


Photo by M.Morita Photo by K.Asakura(村主章枝のみ)


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試合会場点描~リンク編

staff

 会場の案内や警備にあたるお兄さんお姉さんたち。おそろいのジャンパー(右)やフリースのジャケット(左)を着ています。宙に浮くスケート靴のエッジをデザインしたシンボルマークがかわいい!

fgirl 選手に投げられた花やプレゼントを拾い集めるフラワーガール、フラワーボーイ。日本の大会で活躍する子供たちよりかなり幼く、7~8歳ぐらい。休憩中には無邪気にリンクサイドでジャンプの練習をしていました。全部で20人くらいのうち、男の子はわずか3人。男子シングルの層が厚いロシアでも、競技人口はやはり女子のほうが多いようです。
 特におそろいのユニフォームを着ているわけではなく、それぞれ自前の演技コスチュームを着て登場。
 
fboy 製氷時間にビッグビジョンに流されるイメージビデオがおもしろい! フィギュアスケートのトップアスリートたちを紹介するだけでなく、様々な工夫が凝らされています。選手たちのジャンプシーンばかり立て続けに紹介したと思ったら、シットスピンばかりを連続して流したり、同じ動きのダンスステップを集めてみたり、いろいろな形のお辞儀を紹介したり。
 古今東西の選手の投げキスシーンの連続、ハグシーンの連続なども楽しい。
 なかでも日本のファンにぜひお見せしたかったのが、ちょっとおかしなパフォーマンス特集。このとき、日本の田村岳斗さん(昨年プロ転向)が、昨年の四大陸選手権演技後にモヒカン頭をなでつけて笑いをとったシーンが流れたのです! これには大受け!
 他にもジャンプを集めたパートで太田由希奈選手が、お辞儀を集めたパートで恩田美栄選手の昨シーズンの演技を見ることができました。
 また「歴史的ハプニング集」、とでも銘打ちたいビデオでは、あの伊藤みどりさんがショートプログラムでカメラマン席に跳び込んでしまったシーンも! このシーンが流れると会場中から「ああっ!」という驚きの声が。
yamato 
 フィギュアスケートの大きな国際大会は、ほんとうにその場に流れている空気が違います。スケート好きだったら楽しくてしょうがないし、スケートをあまり知らない人でも思わずわくわくしてしまう場所。
 来シーズン(今年12月)は日本にグランプリファイナルが、そしてその次のシーズンは世界選手権がやってきます。ぜひこの雰囲気をみなさんも!
yukina
Photo by K.Asakura


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試合会場点描~ルイジニキスポーツパレス周辺

totokanban

 スポーツパレス入り口に立つ今大会の大看板。ペアのトトミアニナ・マリニンをフィーチャーしています。
2012
 大会前半にご紹介した2012年夏季五輪誘致の看板。

 会場周辺に集まっていたロシアのフィギュアスケートファンたち。老若男女、まんべんなくいるのが日本のファン層と違います。寒い国の人たちは毛皮が良く似合う……。でも会場内は暖かいので、コートはみんなクロークに預けていました。持ってきた30個のカイロ、いっこも使わなかった。rusian

Photo by K.Asakura


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試合会場点描~お買い物編

shop

 長い日は朝10時から夜11時まで試合がある世界選手権(公式練習を見るために朝6時から会場入りしている人たちも!)。いかに腹ごしらえするかは重要な観戦ポイントです。
 軽い食べ物やお菓子を売るスタンドはあちこちに。
 観戦にちょうどいいのがここで売っていたイクラ、サラミ、ハム、チーズ、サーモンなどが乗ったオープンサンド。ひとつ50~60ルーブル(日本円200~240円)。ただしロシアの物価を考えると法外なお値段。外国人しか買いません。味はまずまずだけど、ちょっとクセがあるので食べられない人はいるかも。イクラは生臭かった……。prets
 大きな焼きたてプレッツェルを売るスタンド。日本ではなかなか売っていないお菓子なので食べたかったけれど、これは大きい! 大きすぎて手は出ませんでした。

 ロシアのフィギュアスケート専門誌、「フィグルーナヤ カターニエ(ストレートに「フィギュアスケート」という意味)」。海外の雑誌にしては紙質と写真がほどほどにいい! 表紙は私服姿のプルシェンコやスルツカヤ、ソコロワが飾っています。magshop

 この他、スポンサー「Canon」のブースでは、訪れた人々をブティルスカヤの大きなポスターの前で撮影、その場でプリントしてくれるサービスも。
 またトリノ五輪記念グッズを販売するブース、投げ込み用のお人形(かわいくない!)やロシア国旗を売るブース、スポンサーであるビール会社「EFES」のブースも。

Photo by K.Asakura 


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世界選手権記念グッズプレゼントのお知らせ

omiyage

 取材チームが現地で買ったおみやげに、今回出場選手のサインを入れて7名の皆さんにプレゼントします。

 公式パンフレット 2名(写真右)
 公式ポスター 3名(写真中)
 シンボルマークがデザインされたフラッグ 1名(写真左)
 シンボルマークの缶バッヂ 1名(写真下)

 サインは女子シングル日本人選手の予定です。

Photo by K.Asakura


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女子シングル フリー7位、総合6位 安藤美姫 たくさんのモスクワみやげ

miki71s とにかくロシアの観客の、自国選手への声援はすごかった。
 ちょっとサッカーのサポーターに似ていて、鳴り物は鳴らす、旗は振る、口笛は吹く。カナダやアメリカも観客の盛り上がりはすごいけれど、ロシアの観客はまた一味違う熱さを持っている。
 試合が終わった午後10時、11時という時間、サポーターたちは列をなし、バナーを振りながら「ロッシーア! ロッシーア!」と大声で合唱しながら帰っていく。そのくらいの熱さなのだ。
 どの国の選手にも「応援がおとなしい」と言われる日本から来た私たちには、やっぱりお国柄の違いと応援のあり様の違いに圧倒されずにはいられない。
 選手たちはもちろん、彼らのパワーを自分の力に変えるすべを知っている。イリーナ・スルツカヤのビールマンスピンは観客の拍手をエネルギーにして形作られたように見えたし、同じポジションのスパイラルは観客の歓声が後押しをして前に進ませているように見えた。
 
 そんな圧倒的なロシアの観客たちが、驚いたことに今日の安藤美姫には、惜しみない拍手を送った!
 滑走順はイリーナ・スルツカヤの直前。今までだったら前に滑った選手のお辞儀が終わるか終わらないかのうちに、強烈なロシアコールが起こってもいいはずの場面だ。でもしばらく続いたのは、スルツカヤではなく、安藤美姫に送られた拍手。ロシアコールもまだ起こらない。キス&クライで小さく手をふってみせた彼女にも、また暖かい拍手。
 まだ荒川静香の存在感と滑りには及ばない。村主章枝のプログラム表現や演技力にも及ばない。それでも今日の安藤美姫の演技からは、うまくなりたい! もっと強くなりたい! そんなまっすぐすぎるくらいまっすぐな思いがほとばしり出ていた。 彼女の存在がリンクの中からぽーんと浮き上がるような、芸術品のようなジャンプ。最後のステップの前、これで最後! と気合いを入れなおすようにリンクに立ち向かう姿。
 日本の、フィギュアスケートを何も知らなかった人々さえも振り返らせた安藤美姫の不思議なパワー。それをきっと、ロシアの観客たちも感じ取ったのだ。
 そしてそれはただまっすぐなだけでなく、もっと複雑な感情をも伝える力を持ち始めていた。今日の「火の鳥」に感じたのは、17歳の女の子の持つ、切なさのようなもの。まだ若い安藤美姫が短い人生の中で経験した、たくさんの悲しみや痛み。それを乗り越えて火の鳥は遠い空に飛んでいく。ほんとうに勝手な感じ方だし、彼女の伝えたかったものとは違うかもしれないけれど、少なくともひとりの観客は、そんな物語を感じることができた。またそんな物語を感じさせるだけの魅力が、安藤美姫の演技にはあった。

 昨年より順位を下げたしまったことは、本当に表面的な数字での結果に過ぎない。
 演技後の共同インタビューで一番いい顔をしてのは安藤美姫だし、一番大人の受け答えをしたのも彼女だ。「来シーズン、四回転は全部の試合で跳びたい」「そのために5コンポーネンツをあげるようにがんばる!」
 以前から記者たちに対しても自分のがんばる気持ちを隠さない人だったが、この時見せた決意の気持ちの大きさは、ほんとうに頼もしいものだった。やっぱり彼女は、誰よりも世界選手権で大きなものを得た。これから1年後に向けて何をすべきか、今回の経験を経てはっきり気がついたし、向かっていくだけの意欲を得たのだ。
 来年の安藤美姫は、絶対にすごい。このモチベーションとこの才能がぶつかりあえば、これはすごいことになる。
 今年順位が上がらなかった足踏みは、大きな飛躍をするためのすべくしてした足踏み。安藤美姫はいい足踏みをした。

Photo by K.Asakura


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女子シングル フリー9位、総合9位 荒川静香 もう一度坂道の上へ

shizuka03 「イーラ!」「ミッシェール!」「カロリーナー!」
 最終グループ6分間の練習滑走。各国応援団の声援に混じって、「がんばれ美姫ちゃーん!」「しーちゃんガンバ!」そんな声も、今日はかき消されずにはっきり聞こえる。日の丸の旗も、こんなに応援団がいたんだ! とびっくりするほど会場のあちこちで振られている。
 いろいろあったが、去年に続き、またふたりの日本人がこの世界選手権女子シングルフリー最終組に入った。クワン、スルツカヤ、コストナー、そして荒川、安藤。おそらくもっとも多くの人が、今年の最終滑走者として予想していた6人。そしてトリノ五輪の最終グループにも、もっとも近いところにいる6人だ。
 男子やペアのようにトップ選手に負傷棄権者が出たわけでもない。今年のティモシー・ゲーブルや去年のスルツカヤのように、ビッグネームが不調で外れてしまったわけでもない。もっとも最終グループにふさわしい、ここに来るべき6人がひとつのリンクの上で今、最後の調整をしている。
 大きな試合の最終グループ滑走前、この独特の張り詰めた雰囲気を感じていると、いつも思うことがある。彼女たちは今ここにいることの大きさ、ここで滑れることの幸福を感じているだろうか? 世界中にいる何千、何万というフィギュアスケートに賭ける少女たちが、もっともあこがれているこの場所に。
「しーちゃんがんばれ!」
 そうだ、もうひとつ、きっと6人の選手がこの瞬間思ってもいないことがある。会場から贈られる声援の後ろには、テレビやネットの中継を通して、ここにはいない何十万、何百万の人々が、祈るような気持ちで彼女たちに声援を送っているだろうこと。姿の見えないスケートファンがあちこちで自分たちを見守っていること。そんなこともきっと、今の彼女たちの心にはない。
 試合に集中している彼女たちにそんなことを伝えたいと思うのは、おかしいだろうか?

 荒川静香は昨日よりは少しリラックスしているように見えた。遠目でよくわからないが微笑んでいるようにも見える。プラトフはしっかり彼女の手を握り、タラソワは笑顔で彼女の肩をもんでいる。泣いても笑っても今シーズンはこれが最後、みんなで楽しみましょう。そんな雰囲気だ。
 大きなサプライズをこのリンクで起こしてくれることを願って、タチアナ・タラソワが荒川静香に贈った衣装。黒い衣装に身を包んだ今日の彼女は、ほんとうにぞくぞくするくらい綺麗だった。表情はいたっておだやか。滑り出すと、黒い風がリンクを駆け抜けていくようだ。
 ほんとうに美しいスケーティングをする選手は、見る人の脳にアルファ波を出させるんじゃないかな、と時々思うけれど、本来の荒川静香の滑りはそんな滑りだ。ずっと滑りだけを見ていたくなるけれど、ジャンプはやはり固唾を飲んで見守る。これが跳べたら、彼女自身も乗ってくれる、彼女のスケーティングをもっともっと堪能できる!
 しかし転倒こそしなかったものの、トウループを始めいくつかのジャンプで回転が抜けるミス。彼女がこだわっていた、やりたがっていたイナバウアーからのジャンプも抜けた。一年前のドルトムントの荒川静香を見た人にとっては、同じ選手を見ているとは思えないようなミスの続く演技だった。
 ただ素晴らしかったのは、何度かジャンプミスが続いてもスピン、ステップなどその他のエレメンツをきっちり見せようとしたことだ。ショートプログラムの時のように、ジャンプのミスに演技が引きずられていない。最後まで気を抜かず、ミスなしでできる部分はきっちり見せたい、そんな気持ちを最後まで保つことができていた。
 得意のキャッチフットスパイラルで見せた笑顔は、赤ちゃんの笑顔のようだった。以前、世界チャンピオンになったばかりのころ、日本で開かれたエキシビションでもこんな顔を見せたことがあったな。あの時の心境を尋ねると「本当に気持ちが良くて、自然にこんな顔になっちゃった」と言ってたっけ。
 ほんの一瞬でもいい。このスパイラルの時一瞬だけでも、モスクワの氷の上で気持ちよさを感じて終わってくれたのなら――またそこから彼女はスケートに取り組んでいけるはずだ。
 ドルトムントで4分間ずっと感じていた気持ちのよさを忘れないでいてくれるなら、またこの気持ちを味わうために、様々なハードな練習に、もう一年ん取り組んでくれるはずだ。
 ロシアのスケートファンも、一年前の荒川静香を覚えていた。またあれを見せてくれよ。演技を終えたディフェンディングチャンピオンに向けて送られたのは、熱狂的ではないけれど、静かな賛辞の拍手だった。
shizuka02

 これで荒川静香も、「世界チャンピオン」「世界女王」という肩書きを降ろすことができた。「任期一年、学級委員と同じですね」とチャンピオンなったばかりのころ彼女は笑っていたが、ちょっと重かったこの肩書きの任期は終わった。また今度「学級委員」になるときのために、しっかりその重さに耐えられる力をつけるための一年が始まる。
 彼女は上がったり下がったり、たくさんの坂道を上り下りしてきた人だ。全日本ジュニア三連覇、長野五輪前年の世界選手権補欠の屈辱、16歳で勝ち取ったオリンピック代表、その後の不調とソルトレイク五輪代表落ち。そして昨年の世界選手権優勝。
 なんのことはない、今回の9位という結果だって、いつもの坂道のくだりのひとつに過ぎないじゃないか。
 もちろんこれから登る坂道は、これまで以上に険しいかもしれない。だけど荒川静香には、この道を上りきるだけのタフな体がある。まずは休んで、大好きなおいしいものをたくさん食べて、パワーをつけて、きっとまたこの坂道を平気な顔して登ってくることだろう。
 彼女が途中であきらめることなく最後の道を登りきった時、また新しい物語が紡がれる。

Photo by M.Morita


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女子シングル フリー5位、総合5位 村主章枝 極上のエンターテイメント

fumiefree

「カルメンの運命ではなく、カルメンそのものを演じます」
 そんなファックスが村主章枝から来たのは9月、インタビュー原稿の校了直前だった。
 カルメンそのものではなく、「Fate of Carmen」としてカルメンの運命を実体化して見せたい。そう語ってといたプログラムのテーマを、シーズンインの直前、村主章枝とローリー・ニコルは変えたのだ。
 プログラムテーマの綿密な設定、難しい役作りへの取り組み、具体的には話してくれないがおそらく3回転3回転のコンビネーションを跳ぶためのジャンプ技術の改良、そのための体作り……。
 それだけのことを、村主章枝は今シーズン、遠いアメリカの地でひとりで挑戦してきた。いくら英語が堪能といっても、日本でも一人暮らし経験のない彼女にとって、どれだけ苦しい孤独な挑戦だっただろう。
 その後のグランプリシリーズでの不調、全日本3位という結果、再び新横浜に戻る決断。いろいろな、ほんとうにいろいろなことがあったシーズンだった。

 女子フリー第3グループ。最初の滑走者である村主章枝は、6分練習をともにした他の5人の選手がリンクから上がったあとも、そのまま演技のためにそこに残った。小柄な彼女は、まるで広いリンクにひとり取り残されてしまった小さな子供のようにも見える。これまでの彼女の過酷な道のりを考えると、あそこにいる小さな女の子を「守ってあげなきゃ!」という気持ちでいっぱいになってしまう。でも私たちが差し伸べられる手はどこにもない。彼女はひとりきりのまま、「カルメン」の世界にとびこんでいかなければならない。しかしそれは、村主章枝自身が選んだ世界だ。音楽は、静かなパーカッションのリズムからスタートした。

 昨日失敗したルッツからのコンビネーションをはじめ、ジャンプはほぼ成功。荒川静香や安藤美姫らに比べれば小さいけれど、軽くて確実なジャンプだ。今でこそアーティスティックな滑りが高く評価されている彼女だが、最初は誰よりも高くて元気なトウジャンプを跳ぶ、ジャンパーとして注目された。調子がよければジャンプだって村主章枝のチャームポイントになる。
 スパイラルの時、静かに上がっていく脚の動きがきれいだった。ただ高く長い間上げるのではなく、どう上げたらいいか、どのくらいの時間上げていたらいいのか、そんなことまできちんと考えられたスパイラルだ。これは彼女のこなすエレメンツひとうひとつに言えること。だから村主章枝のプログラムはどこを取っても見逃すことができないのだ。
 心配ないな、私が守らなきゃ、なんて思わなくても、彼女はしっかり強いカルメンだ。私たちはただ、彼女が身を削って作り出したこの世界を堪能すればいい。
 そして最後のストレートラインステップ。滑り出す前にあんな小さかった彼女が、リンクの中央を軽やかに進んでいくにしたがって、どんどんどんどん大きく見えてくる! きっとこれが彼女の見せたかったカルメン。試行錯誤の末、カルメンそのものを演じようと決意して取り組んだ作品。情熱的だけれど、軽やかな心をもって、見ている人たちの心の中に飛び込んでくるカルメン。最後のスタンドスピンが始まる前に、もう観客はは拍手をしていた。
 極上のエンターテイメントをありがとう。そんな気持ちをこめた大きな拍手。
 勝負の行方だけでなく、舞台芸術に勝るとも劣らない「いいものを見る喜び」がフィギュアスケートにはある。それを思い出させてくれたのが、この日の村主章枝の「カルメン」だった。


 ミックスゾーンでは、日本の報道陣だけでなく、ヨーロッパやアメリカのメディアも、村主章枝を追いかけた。テレビのインタビュアーとして、五輪チャンピオン、グェンダル・ペーゼラも彼女にマイクを向けていた。
 インタビュー中、記者たちの質問に答えながら、今日のフリー、世界選手権、今シーズンを振り返っていく彼女の表情が、少しずつ、少しずつ柔らかくなっていくのがうれしかった。
 いろいろあったけれど、よかったね章枝ちゃん。これで次のシーズンも、いい場所からスタートできる。今年もきつかったけれど、来シーズンはもっと厳しい、様々な試練があなたを待っているけれど。
 でもたくさんの大きな壁を乗り越えたその先にあるのは、あなたが大好きな、オリンピックの舞台だ。

Photo by K.Asakura


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女子フリー終了、村主章枝共同インタビュー「スケートをしている時がいちばん幸せ」

fumie01――最終組では滑れませんでしたが、いい演技でしたね。
村主 昨日の失敗をそんなにひきずらずにでき、滑りという点ではまあまあだったと思います。お客さんにもなかなか喜んでいただけたみたいですし。ショート・フリー通して、スケートの滑りという点ではかなりいいものができたような気がします。

――昨日のショートから今日のフリーに向けて、どんなふうに立て直しを図りましたか?
村主 きのうも悪い演技ではなかったと思いますが技術的な失敗を一つしたので、その点を修正して今日の朝と6分練習でも確認して本番に臨みました。

――最後のスピンは盛り上がりましたね。あの時の気持ちは?
村主 お客さんの盛り上がりに応えたいという気持ちもありましたけど、スピンも技術的なポイントはあるので最後までその点をはずさないように気をつけて回ってました。

――世界選手権全体をを振り返ってみると?
村主 すごく難しい状況でした。これまでも大変だった試合は多いけれど、そのなかでも特に難しい部類だったかもしれない。でもとってもいい経験でしたし、引き出しを増やせました。今シーズンもいろんな意味で苦しみと忍耐の年でしたが、来年に次に向けての課題も探せたのでよかったと思います。

――今年新しいテイストのプログラムを滑ったことはいかがでしたか?
村主 新しい挑戦が出来てよかったと思います。大変だったし苦しかったけれど、来年に向けての準備としてはこれもいい経験でした。自分のカラーもある程度分かってきたし、来年必ず生かせると思う。人は何かを得るためにいろいろなことに出会うべくして出会っていると私は思います。「ピンクパンサー」や「カルメン」というプログラムはこのタイミングでやるべきものとしてめぐりあったのだと思うんです。

――これでトリノへ向けても気持ちを新たにできそうですか?
村主 はい。方向性は見えてきたと思います。やっぱりオリンピックイヤーだし、皆さんフィギュアスケートに期待していらっしゃる。それに応えられるように、喜んでいただけるように努力していかないと。

――ずっと取り組んでいる課題についてはどうですか?
村主 全日本あたりまでは自分の体のなかで確立させるのに時間がかかりましたが、最近はだいぶやるべきことが絞れて来ました。もう少しだと思うけれど……でも時間は少ししかないので。心・技・体すべて求められるので良く考えて取り組んでいきたいです。

――これから一年、オリンピックに向けてどんな取り組み方をしていきますか。
村主 プログラム表現という点ではまだまだ課題は多いな、と思います。来シーズンはじっくり曲選びをしたい。私は音楽を選ぶことをとても大事だと思っているので。悩みに悩んで、コーチや振付師、バレエの先生と相談して新しいプログラムは考えたいです。

――コーチの先生やトレーニング地は今後どうする予定ですか?
村主 オレグが悪い先生というわけではないのです(笑)。でも佐藤先生と相談していっしょにやっていくかどうか、これから考えたいです。ただ、リンクの状況が難しい……。そのあたりもいろいろ考慮して決めたいと思います。新横浜のリンクは私のホームリンクというだけでなく、これから続いてくる選手たちも練習する場所なので、何とかなって欲しいなと思うのですが……。

――試合が終わって今一番したいことは?
村主 このあとサンクトペテルブルクでロシアのショウがあるので、それに出演してから一度日本に帰る予定です。その後は早く次のプログラムを作りたいです! 私はやっぱりスケートをしているのが一番幸せなので。

Photo by M.Morita


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女子フリー終了、安藤美姫共同インタビュー「気持ちよく火の鳥になれました」

miki01――今日の試合、自分ではどう評価していますか?
安藤 ジャンプは気持ちよく力を抜いて跳べたので、失敗はあったけどよかったです。でもいい一番悔しいのは最後のほうでステップでつまづいたこと! あとは少し緊張していて、朝の練習の時のようにスケートが滑らなかったのも悔しいです。でも今シーズン最後の試合、たくさんの人に応援してもらって気持ちよく滑れた。満足です。

――気持ちよく滑れたのは何か理由はありますか?
安藤 お母さんに「気持ちよく滑っておいで」って言われて、それだけ意識してたら本当に気持ちよく試合にのぞめたし、気持ちよく滑れたのでよかったです。今日はお母さんもわくわくしてたみたい。髪形もすごくきれいに結ってくれて「私、美容師になれるかも」とか言って(笑)。

――成績の点では6位ということで、去年より少し下がってしまいましたね。
安藤 ここに来る前は8位に入れたら、と思っていたのでそれよりは上でうれしいけれど……やっぱりちょっと悔しい。だけどこれが今の実力です。ただ予選は2位だったし、すごく評価されたと思うので、それだけでもうれしかったです。

――四回転を跳ばないことは、いつ決めましたか?
安藤 6分間の練習が終わったあとに決めました。回転もうまく始まらないし、軸もちゃんと取れなかったので……。このまま跳んでも失敗するから、と思って。やっぱりシーズン最後なので跳びたい気持ちはあった。こっちのリンクで何回か降りて自信になってたので、ちょっと悔しいです。
 でも来年にむけて4回転は100%にして、全試合で入れる覚悟ができてます! そういう覚悟をしたので、今年はやめておきました。

――全試合で4回転を?
安藤 はい。来年は5コンポーネンツをあげて、そっちでも点を取れるようにしたい。そうしたら4回転で失敗しても点数が下がりすぎることもなくなるから。今回はちゃんとスピンやステップもレベルを上げてらえたし、そこは自分の一番練習してきたものなので、評価されてうれしい。いい経験になりました。来年からはプログラムももっと難しいものに出来るかな。

――プログラムとしてはうまく滑れましたか。
安藤 はい。今日はリラックスして、火の鳥になった気分でした。気持ちよく滑れたなあってことしか覚えてないくらい。予選よりよかったと思うし、今日は全神経を使った感じがする! でも疲れは感じてないです。気持ちよさしか感じてないので、よかった!
miki02

――世界選手権二度目でしたが、今年と去年、一番の違いは何ですか?
安藤 去年はジュニアからあがってきて初めて世界選手権に出て、たまたまジャンプが目立って評価されて4位でした。でも今年はちゃんとシニアの安藤美姫という目で評価されたので、これが本当の実力だと思う。それがわかったことが自分のためになったかな。最後の最後、笑顔で終われたので、よかったです!

――試合が終わって、これからしたいことはありますか?
安藤 今は……早くおうちに帰りたいです(笑)。

Photo by M.Morota


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女子シングルショートプログラム。熱戦の前に咲いた花たち

 18日のショートプログラム
 注目のトップ選手達はスケジュールの後ろのほうに登場するとあって、第一、第二グループあたりの会場は全体的にのんびりムード。空席も目立っている。
 しかしこんなグループにも注目すべき選手は多い。地上波放送ではなかなかお目にかかれない個性的な選手達、少し紹介してみたい。(各選手、上がショートプログラム、下が予選の写真)

MAXWELL*フロール・マックスウェル(ルクセンブルク)
「世界選手権を見に行く」言ったら、「予選から見るのならフロール・マックスウェルをチェックしてきて!」というメールがなんと同じ日に2通。スケートファンのあいだで静かに話題になっているスケーターだ。
 彼女の特長はまず顔、手足、指先まですべてを使った豊かな感情表現。そしてやわらかな体を区駆使した軟体技の数々。サーシャ・コーエンや荒川静香、太田由希奈など、体の柔らかさで知られるスケーターは数多い。しかしこのフロールちゃんは、彼女たちの得意とするビールマンスピンや様々なポジションのスパイラルをすべてを装備しているのだ! しかもひとつひとつのクオリティがとてもつもなく高くて、形も美しい。
frrs この日のショートプログラムでもほどけそうにないくらいぐるりと巻いたスワンスピン、どこまでもその姿勢で滑っていけそうなI字ポジションのスパイラル、そして足を後ろではなく横につけてあげる変形のビールマンスピンなど、これでもかと見せてくれた。
 パワーや迫力といったものはまだないけれど、繊細な技を軽やかにこなす姿には、抱きしめたくなるような愛おしさがある。

*チェ・ジウン(韓国)
 彼女も柔らかい体を自在に操るスケーター。カメラマンA氏いわく「アジアのマックスウェルね」。
 スパイラルがとにかくきれいで、軟体技も多彩。ビールマンも脚と手で作るわっかを下から上に持ち上げるような信じられない入り方をしていてびっくり。どんな技を見せてくれるか、最後まで目を離せなかった。CHOI
  日本の天野真さんも指導を手伝っているそうで、今後の成長が楽しみ。
 憧れの選手は村主章枝とサーシャ・コーエンだとか。kor

LIU*ヤン・リュウ(中国)
 中国で長く国内チャンピオンだったダン・ファンを破り、世界選手権に初登場した新星。1月のユニバーシアードでは恩田美栄選手とともに表彰台に上った。
 彼女は鼻筋の通った顔、背格好、雰囲気、手足のさばき方などが日本の浅田舞選手にそっくり! 滑った音楽のためだろうか、浅田舞を少し情熱的にしたような選手だった。
 予選でも中国らしい雄大な曲に乗りながらも、東洋人の持つ繊細さも発揮。もっと体いっぱいから出るパワーを持てばおもしろい選手になるかも。


yan フィギュアスケートの楽しさ華やかさを感じさせてくれた彼女たちだが、残念ながらジャンプに失敗が続き、マックスウェルとチェがショートプログラムで敗退。フリー進出ならず、という結果に終わった。でもまたどこかで、このきれいな滑りを見られますように。

Photo by M.Morita(ショートプログラム)
Photo by K.Asakura(予選)


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オフリンクのチームジャパン

fumieoffショートプログラム終了後、ドローでの村主章枝選手。最終グループ入りは逃してしまったが淡々とした表情。

shizukaoff 投げ込まれたオレンジ色のクマさんを抱いて、ロシア人ファンと記念撮影に応じる荒川静香選手。サインを求めるたくさんのファンにも気さくに応えていた。

mikioff  

 ホテルに向かうバスの時間に間に合わない、と急ぐ安藤美姫選手。たくさんサインを求められたけれど「イズビニーチェ(ごめんなさい)」とロシア語で対応しつつ外へ。

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 フリーから一夜明け、リラックスした表情の高橋大輔選手。日本から駆けつけたファンの元へ遊びにきたついでに、チームメイト応援のための日の丸を借りていた。

Photo by K.Asakura


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女子シングルショートプログラム終了〈3〉 安藤美姫の経験

ando お姉さんふたりが万全の出来ではなかったことを、彼女は知っていただろうか? 日本人3番目に出てきた安藤美姫に、「いい演技を見たい! 美姫ちゃん決めて!」という日本人観客の期待が一身に集まる。
 出だしの3回転ルッツ-3回転ループは成功! 期待通り! コンビネーションのうしろにトリプルをつけて成功したのは、今回安藤美姫とイタリアのコストナーだけだ。
 ここで手をパンパン! と頭の上で打つ、新しい振り付けも入り、観客は大盛り上がり。いいぞ! トリプルフリップも危なげなく決めて、安定感の高さにうなってしまう。そこまではよかったが……。
 新採点に対応したプログラムを、とレベルアップさせたエレメンツが、やはりまだ未完成なのだろうか。スピンは速さはあるが村主ほど「魅せる」スピンになっていない。脚を持つスパイラルに、なぜこのプログラムにこの振りが必要なのか、説得力をもたせられない。17歳にそこまで期待するのは酷かもしれないが、練習や予選ではある程度できていたことだ。やはり精神的なプレッシャーが、演技に入り込む心の余裕を奪っている……と思っていたところに、悔しいダブルアクセルでのぐらつき。
 結局いつもの若く勢いのあるジプシーの姿は見せられないまま、安藤美姫のショートプログラムは終わってしまった。

 キスアンドクライでの彼女は、3人のなかで一番悔しそうな表情を見せた。投げ入れてもらった白いぬいぐるみを観客にふりながらも、泣き出しそうな表情。くうっと顔をしかめたり、下を向いたり。そして彼女の周りで起こっているのは、次に滑るイリーナ・スルツカヤを迎える大音響のロシアコール。昨日の高橋大輔と同じ状況だ。
 スルツカヤ、ソコロワとふたりのロシア人が入った最終グループは、練習滑走の時点からこの騒ぎだった。昨年のドルトムントは女子シングルの有力選手がいない国での世界選手権だったから、安藤美姫にとっては始めての本格的なアウェーの雰囲気。こうした経験こそが、今日の彼女の得たもっとも大きな収穫だろう。
 二度目の世界選手権、きっと誰よりも若い安藤美姫が、誰よりもたくさんのものを得て帰ってくる。たくさん緊張し、たくさん悔しがればいい。この試合は、彼女の長いキャリアの中のひとつに過ぎない。
 大丈夫だよ、美姫ちゃん。まだフリーがある。そしてその先、満足できる演技をする機会が、あなたには山のように残されている。やる気になれば、5年、10年も先までも。

Photo by M.Morita(ショートプログラムすべて)


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女子シングルショートプログラム終了(2)村主章枝--表現者の資質

suguri

 彼女が滑り出した瞬間、日本から来たファンの男の子が「ガンバ!」と声をかけた。その声に応えるかのように、最初のステップの途中、かろやかにポーンと跳ねる。その姿がなんともはじけるようで、あ、この人は大丈夫だ、と思ってしまう。
 しかし得意としている最初のルッツでいきなり転倒……。そうか、村主は荒川と違って、緊張感を表に出さなかっただけなのだ。やはり重圧はそれぞれの身にのしかかり、一番得意なはずのジャンプさえ跳ばせてもらえない。
 しかし彼女は、失敗をその後の演技に引きずらなかった。残りのジャンプは完璧。華麗なポジションに凝ったスピンでは、紫色の手袋がまるでアクセサリーのようだ。最初の転倒が他の演技にまったく影響を与えていないのは立派!
 最後の「女スパイは撃たれちゃったけれど、実は・…・・生きてるのよ!」のマイムはいつにも増して可憐! ロシアのお客さんも大喝采だ。こちらも、ジャンプを失敗した演技のあとだというのに、思わず笑顔で拍手をしてしまった。佐藤信夫コーチからも大きな大きな拍手。
 転倒はあったが、村主章枝は観客を存分に楽しませてくれた。ジャンプをひとつ失敗してもそれができる心の余裕があった。ふだんから「滑るからにはお客さんを楽しませたい」と語っている彼女のエンターティナー精神が本領を発揮したのだ。
 荒川、安藤は転倒はしなかったが、演技に精彩を欠いた。村主は転倒をしたことで順位を下げはしたが、そのプログラムの持つ「観客を喜ばせる」使命はきちんと果たした。スポーツとしてはもちろん荒川、安藤が上だ。しかし今日のショートプログラムを試合ではなくエンターテイメントと捉えたら、間違いなくふたりよりも村主章枝のほうが上質のパフォーマンスを見せたといえるだろう。
 フィギュアがスポーツである以上、それは言っても仕方ないことだ。どんなにいい演技をしてもジャンプが決まらなければ上にはいけない競技なのだから。
 でも私たちは審判ではない。キスアンドクライで下を見ていた村主に、こんな言葉をかけることが許される。
「失敗しちゃったけど、あなたの演技はすごく楽しめたよ」

*ショートプログラム終了後の共同インタビューより
――ショートは10位という結果になりましたが、いかがでしょうか?
村主 失敗をしてしまったので、順位は当然の結果だと思います。でもジャンプ以外の細かいところは四大陸の時より良かったし、練習の成果がその部分では出たかな、と満足しています。
――ジャンプの失敗、やはり気負いがありましたか?
村主 気負いはなかったです。やることはやってきたうえでの失敗なので仕方がない。もうやりようがないです(笑)。また今回の失敗から学べたらいいな、と思います。
――でもジャンプの失敗もあとに引きずりませんでしたね。
村主 失敗ひとつで立て直せたのはやっぱり練習の成果が出せたな、と思います。
――最終グループはロシア選手への応援がすごかったですね。
村主 私にとってはアウェーですが、でも特に影響はないです。アウェーのわりには拍手をいただいてたし、楽しんでもらえたような気がします。明日はもう一回、気持ちを引き締めていきたいです。自分のやるべきことは何かを考えて……がんばりたいと思います。フリーではカルメンの情熱を伝えきれれば!


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女子シングルショートプログラム終了(1)荒川静香、真の女王への道

arakawa

 荒川5位、安藤7位、村主10位(総合はそれぞれ6位、4位、8位)。
 日本代表3人が3人とも、見えない何かにとらわれてしまったようだ。
 
 日本勢で一番最初に登場した荒川静香のグループは、最終前グループとはとても思えない豪華メンバーだ。荒川、クワンと世界チャンピオンがふたり! しかし他の4人も世界チャンピオンと同じグループで滑ることに臆するメンバーではない。ヨーロッパ選手権表彰台経験者のリアシェンコとポイキヨ、シュベスチャン。グランプリファイナルメダリストのロシェット。誰もが最終グループで滑ってもおかしくないメンバーばかりなのだから、女子シングルの激戦ぶりがよくわかる。
 そんなメンバーでの6分間練習。荒川静香はキャッチフットのスパイラルから脚を下ろさずに跳ぶ、最初の見せ場となるジャンプを、何度も何度も繰り返し跳んでいた。6分練習で、こんなに同じジャンプを何度も練習する荒川は見たことがない。しかし何度くりかえしてもジャンプがうまくいかない。いつもの彼女らしさがないことに、見守る人々は不安になる。
 彼女は緊張している。かつてないほど緊張しているのが、空気を通して伝わってきてしまう。しかし見つめるアシスタントコーチのプラトフは、そんな彼女に「うんうん」と大きくうなづくだけだ。
 彼女は滑り出す前、頼もしくうなづくプラトフの方を見ただろうか? プラトフといえど、とてつもなく緊張しているはずだ。でもそれを一切表に出さず、「大丈夫、安心しろ」という顔をしている。もし荒川静香があのプラトフのうなづきをしっかり目に留めていれば、少しは「大丈夫」な気持ちをもって演技に入れたかもしれないのだが。

 おそらく彼女はプラトフのほうを見ずに滑り出してしまった。ジャンプはフリップのオーバーターンなど、いまひとつながらなんとかすべて着氷。しかし過度の緊張感をかかえたままの演技は精彩を欠き、見せ場のスワンスピンも十分回転できずに終わった。NHK杯やグランプリファイナル、全日本選手権で見せた圧倒的な女王の存在感が今日はない。たぶん今シーズンでいちばん乗れなかったショートプログラムだろう。

 それでもとりあえずは、ミスなく滑れた。迎えたタラソワは大きくうなづき、プラトフは彼女の肩をぽんぽんと叩いた。あれだけウォーミングアップの調子が悪く、あれだけ緊張した顔をしていたら、たぶん以前の荒川静香だったら致命的なジャンプミスをしていたはず。それがなかったのだから、今回、まずはOKだ。
 キスアンドクライでは一瞬、子供のような安堵の表情をうかべ、ちょっとはしゃいだように自分の膝をぽんぽんたたいた。この彼女の表情に、見守る人々はどんなにほっとしたことか! その一瞬のちにはすくっと立ち上がり、観客に大きく手をふってみせた。最後の最後に見せた、女王らしい堂々とした姿。
 あの久しぶりに見せた安堵の表情を見て、ある男性記者は「荒川、帰ってきてくれたな」と思ったという。ほんとうに心がどこかに行ってしまったのではないかと思うほど緊張しきっていた彼女。今シーズンは様々な試合でうまくいかず、周囲の人々を心配させてきた彼女。しかし荒川静香は、女王といってもまだ一年生だ。あの、思いがけず表彰台の一番高いところに立ってきょときょとしていた時から、まだ一年も経っていない。私たちは「世界女王」という称号に、彼女にあまりにも大きなものを要求しすぎていたのかもしれない。まだまだ精神的にも技術的にも成長途上の女王を、プラトフのようにあたたかく見守るべきなのかもしれない。
 外野がどんなに騒ごうと、荒川静香はまだまわりを心配させていい。自分だけの力に頼らず、タラソワ、プラトフをはじめ力づけてくれる人にはどんどん頼っていい。今、与えられているものをすべて自分のパワーに変えて、フリーでは思い切り荒川静香らしい演技を見せて欲しい。
 彼女が本当の女王になるまで、まだまだ時間は残されている。

*ショートプログラム終了後の共同インタビューより
――今日の出来、出た点数はいかがでしたか?
荒川 点数がいいのか悪いのか、いまいちピンとこないんです。今までの自分の点数(パーソナルベスト64.2。今日は59.95)と比べてもどのくらい低いと思えばいいのか分からない。でも結果に悔いはないです。練習が思うように進んでこなかったこその結果だし、それをいまさら考えても何も変わらない。
(ここでやってきたタラソワコーチが、彼女の腰をやさしくさする)
――フリーは最終グループ入りも期待できそうですが。
荒川 そうです