Go Top
この特集
この特集では、浅田真央選手、安藤美姫選手をはじめとする注目選手の活躍や最新情報など、フィギュアスケートにまつわる様々なレポートを写真とともにお届けします。
この特集は携帯サイトでもご覧いただけます。
モバイル版 Sports@nifty
プロフィール
青嶋ひろの【ライター】
能登直【カメラマン】
お問い合わせや取材依頼は、[お問い合わせ窓口]より受け付けています。
カテゴリー
関連リンク
特集関連書籍
ココログ



フィギュアスケート特集

フレンズオンアイス2008レポート(1)

Foto219s  先週のドリームオンアイスに引き続き、今週のフレンズオンアイス。
 2週続けてこんなゴージャスなショーを見てしまって、罰が当たらないだろうか? 

 もちろんふたつのショーは、大きく違う。ドリームオンアイスは前のシーズンに結果を残した選手だけに参加が許されるショー。スケーターたちはその名誉を噛みしめ、そこに立つ誇りを感じながら滑ってくれる。
 フレンズオンアイスは、荒川静香というメダリストを中心に、その仲間たちが作り上げるショー。選ばれたスケーター、というよりも、自ら集まったスケーターたちによる、ぐっとフレンドリーなアイスショーだ。
 オープニング、名前をコールされたスケーターたちは、荒川静香を中心にくるりとまわり、彼女と親しげに目を合わせ、選手ではなくキャストとして紹介される。
「また来年も見たい、というお客さんの声に支えられて、今年で3回目のショーができました。また、ショーは私ひとりでは成り立たないもの。集まってくれるスケーターがいるからできるものです。みんながここまで短い期間でひとつのショーを仕上げてくれて……。参加したスケーター同士が、この場に集まったことでまた高めあえるショーでありたい。またこの場にいることで、スケーターたちが楽しくリラックスできるショーでもありたい。そう願っています」(荒川静香)
 
 そんな彼女が「3年目だから、06年から連続で出演しているショーのオリジナルメンバーといっしょに、何かできないか」と考え、作り上げたのが、グループナンバー「オペラ座の怪人」だ。
 ショーの中盤。天井から吊るされた豪華なシャンデリアを中心に繰り広げられたのは、仮面をつけた宮本賢二の妖艶な滑り、恩田美栄、本田武史、田村岳斗と、同じ時代を戦い抜いた3人のコラボレーション。続いて中野友加里と荒川静香が純白の衣装で登場すると、二人そろってのダブルイナバウアー! そしてビールマンスピンをする荒川静香の周りで中野友加里がジャンプ。中野友加里のドーナツスピンの周りで荒川静香がジャンプ!
「作り出すのはひとつのナンバー。でもその中で、出てくれるスケーター、ひとりひとりのいいところを存分に引き出せる演出、ひとりひとりの個性がしっかり発揮できる演出を考えてみました」
 白いふたりのクリスティーヌが夢のような時間をつむぎだしたかと思うと、おなじみの音楽とともに現れたのは、怪人・髙橋大輔! あの2007年東京ワールドを沸かせた「オペラ座の怪人」のステップを、あの衣装で、久しぶりに見せてくれた。
「実はこの演目を選んだのも、大ちゃんの『オペラ座の怪人』のステップがとても好きで、それをうまく生かしつつグループナンバーができないかな、と思ったからなんです。ミュージカルも映画も見て、音楽もCDを5枚くらい駆使して構成したんですよ」
 1年以上を経て、怪人・大輔は一段と迫力を増していた。力強い足さばきや自在な上半身。身体の動きも表情も、すべてにおいて一層の凄みを帯びて見えたのは、ワイルドなヘアスタイルやボーカル入りのドラマチックな音楽のせいだけではないだろう。ステップの後にはジャンプもスパーンと決め、ここで一挙に美しいプログラムを引き締める。
「彼も友加里ちゃんも、アマチュア。でもショーを見ると、もうこの人たちプロだな、と思います。その姿に刺激を受けて、私たちプロももっとがんばらなきゃ! と思ってしまう」
 後半には、本田、田村、荒川、中野と、4人がいっせいにイーグル。美しいこの技をそれぞれに極めた4人。試合ではいつも大きな拍手をもらっていたこの技を、4人が一度に見せてしまうのだ。仕掛け人の荒川静香は、スケートファンが何を見れば喜ぶかを、本当によく知っている。
 最後は恩田、髙橋、宮本の3人が戻ってきて、華やかにフィニッシュ。
 
 フィギュアスケートのグループナンバーは、プリンスアイスワールドやスターズオンアイスなどでおなじみだ。フレンズオンアイスの「オペラ座の怪人」は、それに比べればぐっとシンプルな構成。しかしこのうえなく煌びやかな作品だった。
 こんなに美しいものをみんなで作り上げられる幼なじみ、仲間たちとは、いったいどんなものだろう? ジャンプが得意なスポーツ少年少女たちが競い合って成長して、大人になって、また自らの意思で集まって。「オペラ座の怪人」は、彼らからスケートファンに送られた、素敵なプレゼントだ。

 他にも、振付けを担当したシェイ・リーン・ボーンと荒川静香が競演した「ある晴れた日に」。一般公募の子供たちによるキッズスケーティングのコーナー。ファンからリクエストの多かったナンバーを次々に滑る荒川静香メドレーなど、フレンズオンアイスならではの見どころがたくさん。
 中庭健介は3年前のEXナンバー「ロミオとジュリエット」、小塚崇彦は噂の新SP「Take Five」、中野友加里も同じく新SP「ロマンス」と、現役選手たちがドリームオンアイスとは別のプログラムを滑ってくれたのもうれしい。

 フレンズオンアイスは本日6日も2公演を実施。当日券も発売される予定だ。

photo/Masami Morita   text/Hirono Aoshima 


| 固定リンク | トラックバック (17)

2008ミラクルオンアイスレポート(2)振付師・坂上美紀さんインタビュー

Pict0247s ――とても楽しいショーでした! 出演者は何名くらいですか?
坂上 昼と夜の2公演で、合わせると450名くらいですね。毎月クラス替えのテストがあるのですが、上のクラスでないとショーには出られないので、みんな出演を目標にがんばっているんですよ。

――運営は先生たちが?
坂上 リンクのスタッフと、クラブ・教室の先生たち。それから父兄の皆さんにご協力いただいています。照明のみ業者の方に入ってもらいましたが、音響など、基本的には自分たちで。費用もリンクが出すほか、クラブ費と参加費でやっています。

――ショーを始めたきっかけは何でしょうか。
坂上 やっぱり、クラブを盛り上げていきたい気持ちからですね。最初は小さなショーを考えていたんですが、たくさんの子どもたちが出たいということで、こんなに大きなショーになったんです。だからリハーサルや振付も、すごく大変なんですよ。毎年(佐藤)操先生と相談して……。でも、毎年できるだけ新しいことをやりたい。今年は『ダイアログ(セリフに合わせてスケーターが身振り手振りを付ける、演劇的なプログラム)』を入れたんです。スケーターは俳優でないといけない部分もありますし、少し変わったことも子どもたちにやらせてあげたいな、と。最初は照れている子もいましたが、最後には『なんだか神奈川FSCじゃなくて神奈川劇団だね』っていうくらい、演技してくれるようになりましたね。それにこうしてみんなでひとつのものを作ることで、チームワークもすごく良くなりました。

Pict0227s ――ショーの反響も大きいようですね。
坂上 選手たちがこれだけスポットライトを浴びる機会はなかなかありませんから、父兄の方々にも喜んでいただいてます。子どもたちにとっても、このショーがすごく良い目標になっていると思いますよ。これでリンク全体が盛り上がって、スケート人口が増えるきっかけになれば。それに、スケートは競技だけじゃなく、エンターテイメント性があることも知ってほしいですね。

――今回のテーマは「エコ」とのことですが。
坂上 今、神奈川スケートリンクは建て替えを検討中なのですが、新リンクではエコリンクというアイデアを発信していこうと、このテーマになりました。千葉のアクアリンクのようなエコリンクは、神奈川県にはまだありませんから。地域に密着したカルチャースクールを併設したリンクにできたら、という話もあるんですよ。昔からここにあって地域の人に馴染みの深いリンクですが、さらに夏休みや土日に初心者教室を開いたりして、もっとリンクを訪れやすい雰囲気を作ろうとしています。もし建て替えて客席を増やせれば、このショーもたくさんの地域の方々に見に来てほしいですね。

 今やメジャースポーツといわれるフィギュアスケート。しかし、テレビ以外で接することはほとんど無いのが多くの人にとっての現状ではないだろうか。
 もし「ミラクルオンアイス」のようなアイスショーや神奈川スケートリンクのようなリンクが身近にあったら……もっと多くの人がフィギュアスケートの新しい魅力と出会えるかもしれない。

text/Miduka Kumakura


| 固定リンク | トラックバック (27)

2008ミラクルオンアイスレポート(1)

Pict0004s  夏のアイスショーシーズンまっただなか。
 来日スケーター、日本代表スケーターらによる華やかなショーも楽しいが、日本各地のリンクでは、地元の選手、ちびっ子たちが活躍する小さなアイスショーやエキシビションもたくさん開催されている。「スケートを見るファン」だけでなく、「スケートを滑るファン」も増やすこと、また、このスポーツの底辺からの活性化、選手の練習場所であるリンクのアピールなど、さまざまな願いが込められた手作りのショーだ。
 7月は大きなイベントのレポートともに、07-08シーズン後半に各地で催された小さなアイスショーも、少しずつ紹介していきたい。

●2008ミラクルオンアイスレポート

 50年以上も地元の人々から親しまれている、神奈川スケートリンク(横浜市神奈川区)。
 ここでは3年前から、フィギュアスケートクラブの生徒たちによるアイスショー「ミラクルオンアイス」が開催されている。プロや現役トップスケーターによるものとは一味違った魅力がたくさん詰まったアイスショーだ。今年は6月22日に開催され、多くのスケーターが精一杯のパフォーマンスを見せてくれた。
 残念ながら客席数の都合により一般公開はされていないが、今回はリンク専任振付師の坂上美紀さんへのインタビューとともにショーのレポートをお届けしたい。

 今年のショーのテーマは、エコ「地球を救え」。
 第1部は、セリフシーンを挟みながら様々な国や地域を旅していくというミュージカル仕立ての構成だ。上級クラスのスケーターたちによる元気いっぱいのグループナンバー「WE WILL ROCK YOU」で始まり、様々なクラスのスケーターたちが「アラジン」や「トゥーランドット」などのグループナンバーを見せてくれた。
 転んでしまうのでは? とハラハラしてしまうような4、5歳のちびっこたちによる演技や、20人~30人という大人数で次々と見せるスピンやスパイラルは、クラブが主催するショーならでは。懸命に演技をするスケーターたちに、客席からは終始温かい声援が送られていた。
Pict0261s_2  第2部はミュージカルメドレー。大人グループの「マイフェアレディ」には60代・70代の方も参加していたが、溌剌とした演技は年齢を感じさせないものだった。それらのグループナンバーに交え、選手たちのソロ演技も披露。どのスケーターも、スポットライトを浴びて滑ることを心の底から楽しんでいるように見えた。
 ソロ演技のトリは、昨シーズン世界ジュニアに出場するなど、大活躍したジュニア、佐々木彰生選手の「オペラ座の怪人」。その前に披露した陽気なナンバー「マスク」とはがらりと雰囲気を変えての演技に、会場のあちこちから溜息が漏れた。その溜息の半分くらいは「いつか自分もこうなりたい」と願う子どもたちのものではなかっただろうか。いつも同じリンクで練習しているお兄さんお姉さんが、スポットライトを浴びて輝いている姿を目の前で見られる貴重な機会だ。これをきっかけにフィギュアスケートに夢中になる子どもたちは、きっと数多くいることだろう。

text/Miduka Kumakura


| 固定リンク | トラックバック (13)

ドリームオンアイス2008レポート(3)  安藤美姫・5年ごしの思い

Miki653s  そうか、ボレロだったのか――。
「ドリームオンアイスで滑る曲、曲名はまだ言えないけれど、ヒントを出しますね」
 うふふ、と笑った彼女のヒントとは、「絶対に誰もが聴いたことのある曲」「私が世界ジュニアに出ていたころから滑ってみたかった曲」そして、「滑るからには、楽しんでばかりじゃだめ。真剣に取り組まないといけない曲」。
 そういえば彼女は、トリノオリンピックに出られたら、絶対「ボレロ」を滑りたい、と高校一年生のころのインタビューでも語っていたのだった。

「オリンピックでのフリーのプログラムは、もうラベルの『ボレロ』って決めてるんです。ジュニアの大会に一緒に出てるドノヴァンっていうアメリカの選手がいるんですけど、その選手を試合で初めて見た時に、ボレロを踊っていてかっこよかったんですね。雰囲気がすごーく良くて……。
 オリンピックで6.0が出たアイスダンスの演技のこととかは、ぜんぜん知らなくて、ただボレロっていいなーっと、その時思った。だから美姫にとってのボレロのイメージって、トービル&ディーンじゃなくてドノヴァンなんです(笑)。で、信夫先生にボレロを踊りたいって言ったら、『フィギュアスケートでは伝説のプログラムなんだよ』って聞いて、あ、そうなんだ、じゃあ今はまだちょっと早いな、と。
 でも、オリンピックのシーズンには、絶対ボレロ! どんなボレロを踊るか、まだイメージはわかないけれど……。衣装は、赤で! それからやっぱり……伝説のボレロみたいに6.0を出したい。6.0の出るボレロを、トリノでは見せたいです!」
(『little wings 新世代の女子フィギュアスケーター8人の素顔』03年双葉社刊より)

 あれから本当にいろいろなことがあったな、と思う。ジュニア時代のライバル、ローアン・ドノヴァンは引退してしまったし、採点制度は変わり、もうどんなにがんばっても「6.0」はもらえない。彼女は何度かコーチを変え、トリノオリンピックでは「ボレロ」ではない曲を滑った。さらにその後二度、乗り越えてきた波乱の世界選手権。
 でも、こんなに長い時間が経っても、こんなにいろいろなことがあっても、安藤美姫が「ボレロ」への気持ちを失っていなかったことに驚いた。そしてまた、彼女が「ボレロ」を滑るにふさわしいスケーターに、時間をかけてゆっくり成長してきたことにも。

 この日、安藤美姫は、ひとりの巫女のように「ボレロ」を舞った。
 バレエのボレロをイメージしたというシンプルな、だが彼女らしさを象徴する色、赤と黒の衣装。ひとつに括っただけのシンプルなヘアスタイル。まるで神に仕えるように、この思い入れのある音楽に寄り添って、何かを伝えようとする強い意思を持ちながら、初めてのお披露目の滑り、その一瞬一瞬をかみしめるように滑る。
「今日(27日)は熱があって、体がきつくて、辛かった。でもなんとか滑りきることができました」
 序盤の静けさも、クライマックスの激しさも 全身で音を感じて、捉えて。そうすると、いつもと同じポジションのスピンもスパイラルも、ボレロのためのスピン、スパイラルになる。「この曲で滑りたい」、思い続けた安藤美姫に、難曲「ボレロ」も扉を開いたようにさえ見える。
 一昨年のショーナンバー「I believe」のように、プログラムそのものに力をもらうこともある。「どうしても気持ちを入れられない」と、シーズン途中で競技ナンバーを変更してしまうことも多い。どんな曲でも自分のものにしてしまうような器用さはない、でも思い入れのある曲であればあるほど、輝ける。そんな安藤美姫にとって、「ボレロ」は特別な音楽、ほんとうの力を引き出してくれる音楽だ。

 フィギュアスケーターの選手寿命は、長いようで短い。滑りたい曲、伝えたいもの、得たい賛辞。そんなものすべてに届くことなく銀盤を去る選手も多いだろう。「ボレロを滑りたい」、その夢を5年ごしに彼女が叶えたことは、スケートの神様からの贈り物のようにも思える。
 やめたいと思うことは何度もあった、と彼女は言う。でもこうして少しずつ、願うが叶うから。ひとつずつ、誰かに届くから。それを知っているから、安藤美姫は氷の上に立ち続ける。

photo/Masami Morita   text/Hirono Aoshima 


| 固定リンク | トラックバック (38)

ドリームオンアイス2008レポート(2)  小塚崇彦・少年と青年のはざまで

Taka080627doi_0827_3  今年は小塚崇彦、踊るつもりだな!
 ドリームオンアイスで滑る予定のナンバー、「ラストダンスは私に」の話を彼から聞いたとき、あまりに楽しそうに新しいプログラムのことを語ってくれるので、ずいぶん驚いてしまった。
 憧れのカート・ブラウニング、そしてブライアン・ボイタノ。彼らの振付師として有名なサンドラ・べシックに、エキシビションのみだが振り付けをしてもらえることになって。彼女の元で、ひとうひとつの音を丁寧に拾うことの面白さ、見せる部分の楽しさと丁寧なスケーティングの両立の醍醐味を知って。
「カートにもこのプログラム、いいねって言ってもらえたんですよ!」
 そう言って顔をほころばせる彼の言葉に、選手にプログラムの話を聞くのはほんとうに楽しいな、と思った。

 思えばフィギュアスケートのプログラムは、贅沢なものだ。バレエなどの振り付けは、たくさんのダンサーに踊り継がれていくことが多いが、スケートのプログラムは、基本的にひとりの選手のためだけに作られる。一流の振付師、一流の芸術家が、自分のためだけの作品を作ってくれる――それはいったい、どんな気持ちがするものだろう。
 小塚崇彦が今、本当に大切にしているナンバー「ラストダンス――」は、彼の思いの強さにたがわず、見るものを爽やかな心地よさに浸らせてしまう、すばらしい作品だった。
 滑りの美しさが何よりの武器である彼が、音楽が鳴りだすと同時に見せたのは、ちょっと粋なマイム。両手を差し出すしぐさ、顔に手を当てる動き。今までならば少し照れが入っていた振付けも自然にこなし、それがちっともいやみな感じがしない。お客さんをのせるために作られたようなダンスナンバーに、まずは彼自身が自然にのると、客席からの手拍子もごく自然にわいてくる。
 今年19歳。年齢的には青年といえるかもしれないが、まだちょっと少年の面影が濃い彼によくあった動き。迷いなく軽やかな、この時期の男性だけがまとい、放つことをゆるされる空気。
 また、ポップに、キュートに、おしゃれに踊りつつも、スケートの信じられないような滑らかさも大事にしたプログラム。よくぞ小塚崇彦に、今この時期の小塚崇彦にこれを作ってくれた! とサンドラ・べシックに感謝したくなってしまった。

 世界に、少年と青年のはざまの輝き、素直さを持つ男性は、たくさんいるかもしれない。でも彼らのなかで、こんなにスケートがきれいなのは、世界中できっと小塚崇彦だけ。「ラストダンスは私に」は、間違いなく彼だけの表現できる、彼だけの世界だ。
 あまりに技術的な部分が巧すぎて、もう少し個性があれば、もう少し見せてくれれば……といわれ続けてきた小塚崇彦。今年はそれを、しっかりと見つけ、しっかり捉えていく年になるかもしれない。
 でもすべてを見せ終えた後。カーテンの前で丁寧に一礼する彼を見て。やっぱりちょっと体育会系な、礼儀正しい「小塚選手」はそのままそこにいるな、と思った。まじめで、実はやんちゃで、ちょっと照れ屋な彼の本質はそのまま。そのまま新しい小塚崇彦に、無理することなく自然に変っていくのだろう。

photo/Sunao Noto  text/Hirono Aoshima


| 固定リンク | トラックバック (31)

ドリームオンアイス2008レポート(1)  村主章枝・積み上げてきたもの

Fumie1123s  今年のドリームオンアイスは凄まじかった――。
 佐々木彰生、水津瑠美ら、氷上の動きとは思えないダンスを見せたジュニア勢。鈴木明子、南里康晴ら、さらに新しい一面を見せてくれたシニアのベテテラン勢。
 ランビエールなど、はるばるドリームオンアイスのためにやってきてくれた海外ゲストが渾身のスケートを見せれば、高橋大輔、浅田真央ら日本のトップスケーターもまた、シーズン前とは思えない完成度の高い新プログラムを披露――。
 今年で5回目、すでにスケートファンにとってはおなじみの、絶対見逃せないショーとなったドリームオンアイスだが、例年に増しての充実度、内容の濃さ。今の日本のフィギュアスケート界がどれだけ厚みがあるかを、改めて思い知らされた気がする。
 久しぶりに生で彼らを見た人々は、「やっぱりフィギュアスケートって素敵」とため息を漏らした。ずっとスケートを見続けてきたファンは、「今、スケートファンでいられることが幸せ」としみじみ言った。
 22組のスケーターの中からほんの数名だけを取り上げるのはとても難しいが、なかでも目を引いた3人のスケーターを、来るシーズンへの期待もこめて紹介してみたい。

 村主章枝が披露したプログラムは「ウインナーワルツ」。
 2シーズン前にボーカル入りの「ファンタジア」を滑った時にコラボレーションしたアーティスト、カール・ジェンキンズ、彼のユニット、アディエマスのナンバーだ。
 お人形のような、ピエロのような、パントマイマーのような。さまざまなプログラムに挑戦してきた彼女だが、これまでのどの村主章枝とも違う、幻想的で、かつ、いきいきとかわいらしいプログラム。音楽をただのBGMではなく、響きと動きを重ねて、溶け込ませて、プログラムにいかしきるアレクサンドル・ズーリンの振り付けもすばらしい。
 縞模様のシャツや大きな赤いハートが印象的な衣装、同じくハートをペイントしたメイクなど、細部までこだわっているだけでなく。陸上マイムをたっぷり見せるスタートから、飛び跳ねるようにお辞儀をするフィニッシュまで、ひとつも手を抜くところなく。
 ドリームオンアイス、どのスケーターも溌剌と個性的な滑りを見せてくれたが、「フィギュアスケートというスポーツ」ではなく、「フィギュアスケートというエンタテインメント」を見せてくれたのは、やはりこの人、村主章枝だった。
「でも、今日(27日)は失敗失敗! ジャンプも転んじゃったしね」
 と、本人はまだまだ仕上がりに満足いかない様子。しかし、長く「見せるスケート」の追及を続けてきた村主章枝だからこそのナンバーを見られて、ファンはきっと、大満足したはずだ。
 同時に、ジュニアのころから変わらない、トウジャンプに入るおなじみの構えなどを見ると、ああ、こんなに長い時間がたっても、彼女はここにいてくれるのだ、とうれしく思う。ローリー・ニコルのプログラムを、一生懸命踊ろうとしていた小さな女の子が、こんなにも見所たっぷりのナンバーを滑りこなしてしまうとは。「あの彼女だからこそ」とも、「あの彼女がこんなにも」とも、相反する思いを見ている人に抱かせる滑り。
 ほんとうに、一年一年こつこつと、村主章枝がその肉体と意思で積み上げてきたものだ。
 また今回のプログラムが、2年間師事したアレクサンドル・ズーリンとの最後の作品であることも興味深い。この数シーズン、ロシアの若いコーチの元で、彼女は少し迷走しているようにも見えた。彼女のやりたいこととズーリンの作り出すものがかみ合わず、時には借りてきたプログラムを滑っているように見えたことさえあった。
 でも最後のプログラムを、こんなにもフミエテイストに、彼女だけのものとして仕上げて見せて。やはり彼女は、きちんと吸収すべきものを吸収して、次のステップへと進もうとしているのだ、と思った。
 ズーリンのもとで培ったものの集大成としての「ウインナーワルツ」。さらに新しいコーチ兼振付師、ニコライ・モロゾフのもとでどんな色を重ねるのか……。彼女の新しいシーズンが、いっそう楽しみになる一幕だった。

photo/Masami Morita   text/Hirono Aoshima 


| 固定リンク | トラックバック (30)

プリンスアイスワールド2008レポート(2)「プロ」として――三者三様の生き方・魅せ方

Yoshie_f6i6566_2

 オープニング、プリンスアイスワールドチームの華やかな群舞が終わると、照明が落ち、物悲しく乾いたピアノの音で『シェルタリング・スカイ』の旋律が流れる。

 リンクに立つのは、本田武史・荒川静香・恩田美栄の三人。十代の頃からよくじゃれ合っていた三人が目の前で繰り広げているのは、大人の危うい三角関係の均衡を象徴しているような緊迫した世界だ。それぞれ違う道を歩いて大人になり、プロとなり、こういった複雑な心情表現ができるようになったのかと思うと感慨深いナンバーだった。

 このシリアスなプログラムでつかの間交錯した三人は、またすぐに各自の歩む道へと戻ってゆく。

 恩田美栄は男性チームに混ざって力強い津軽三味線の音に負けない迫力でアクセルを跳び、ダンスバトルをテーマとした群舞ではローリング・トゥエンティーズをモチーフにしたような衣装でキュートに踊りまくる。勢いあまって隣の人とぶつかりそうになるのも彼女らしいご愛嬌。そしてソロナンバーでは、黒のパンツルックで格好よく、ちょっとアダルトに決めてみせる。
「プリンスアイスワールド、2年生になりました。1年目は社会勉強もいろいろさせていただいた年。2年目も、群舞、ソロ、その他、いろいろがんばっていきたいと思います」
 このコメント通り、ショーのハイライトとなる場面で、彼女は誰よりも楽しそうに登場して八面六臂の大活躍。プリンスアイスワールドのムードメーカーとして、既に確固たる地位を築いているように見えた。

 恩田美栄より先にプロスケーターとなった二人も、存在感では負けていない。
 ソロで『Nyah』を見せてくれた本田武史は、威風堂々の立ち姿で場の空気を引き締める。これまで『レイエンダ』や『ドン・キホーテ』、『アランフェス協奏曲』などを滑ってきただけあって、スパニッシュサウンドの間の取り方は体に染み込んでおり、ここぞというポイントでの見得の切り方はさすが堂に入っている。さらにジャンプではトリプルアクセルにも挑戦! 彼が今まで培ってきた大事な財産は、この『Nyah』に惜しげなくちりばめられている。だが彼の演技中、何よりも嬉しかったのは、選手時代の本田武史に常に張り付いていた「孤高のエース」の影がいつの間にか払拭されていて、その代わりに貫禄みなぎる雰囲気や地に足のついた包容力を感じさせてくれた点だ。
「今年はいろいろなジャンルに挑戦していきたいです。そして、ケガのない一年にしていきたい」とのことだが、もともと表現の幅広さには定評のあった彼が、次は何に挑戦してくれるのか――見ている側も楽しみにしたい。

Shizuka_f6i6911   そして、荒川静香。
『シェルタリング・スカイ』の時もそうだったのだが、ソロナンバー『Fly me to the moon』でも、柔らかく伸びるスケーティングで登場。最初のポーズを取った瞬間、パンッと何かが弾けたように気が満ちて、会場中の視線が彼女に釘付けになる。荒川静香のふとした仕草や何気ないムーブメントですら、目に吸い付いてしまう。音楽が終わるまで、この白く輝く存在から目を離すことなど考えもつかなくなってしまうのだ。顔色ひとつ変えずに淡々と難しい技をこなしていたかつての天才少女には、こんな才能まで眠っていたのかと、ただただ彼女の動きに夢中になっていた。

「2008年のシーズンもいよいよスタートします。プリンスアイスワールドからスタートできてとてもうれしい。新しい気持ちでまたがんばれます。今シーズンはアップテンポの曲を滑るので、いつも元気な姿を見せたいです」
 と、ゲネプロ後に語った荒川静香の言葉に、きっと嘘偽りはない。彼女が『Fly me to the moon』に合わせて踊る姿は、楽しく嬉しそうな元気な女の子にしか見えなかったからだ。

 彼女はまだまだ変貌を遂げてゆくのだろう。荒川静香だけではなく、恩田美栄も、本田武史も、これからの新しい出会いによってたくさんのものを得ていくのだろう。三者三様の個性が衝突したり調和したりしながら高まってゆくコラボレーションパフォーマンスで、その成長度合いをこれから毎年見られたら嬉しいな、と思った。

photo/Sunao Noto   text/Koyori Kirishima


| 固定リンク | トラックバック (123)

プリンスアイスワールド2008レポート(1)  中庭健介 新しいショーナンバーは「You're Beautiful」

Kensuke_12e1010  佐野稔、渡部絵美らの「ビバ! アイスワールド」から30年。
 日本で初めての、そして現在でも唯一のプロアイスショー、プリンスアイスワールド。その記念すべき30周年のシーズンが、4月26日からの横浜公演をかわきりに始まった。
 今年の見どころは、前半の最後を飾る「プリンスアイスワールド・スペシャルコレクション」。大島淳、薄田隆哉、おなじみ名コンビのちょっとコミカルなナンバー、ショートトラックの松橋浩幸、新海俊清ら男性スケーターがいつもとは違うハードボイルドな一面を見せる、おしゃれなナンバー、黒いパンツルックで決めた恩田美栄を中心に繰り広げられる、艶やかなダンスナンバー。そしてシングルのジャンプもシンクロの技も取り入れた、総勢20名のスケーターによる圧巻の「ボレロ」! 
 ジャンプもスケート技術も海外のアイスショーに負けないプリンスアイスワールドチームだからこそ、こんなものを見たかった! そう思わせてくれる美しいプログラムの数々だ。
 
 プロチームの気迫の中、ゲストのエリジブルスケーターたちも負けてはいない。
 横浜公演には村主章枝、中野友加里、武田奈也、高橋大輔、中庭健介の5人の日本代表スケーターが参加。何人かは今シーズンの新エキシビションナンバーも初披露してくれた。
 プリンスアイスワールドへの参加は、広島公演に続いて2度目という中庭健介も、新ナンバー「You're Beautiful」(歌:ジェイムズ・ブラント)を披露。静かで力強いボーカル曲に乗って、タメのきかせどころを心得た身体が、しなかやに舞う。昨シーズンの衝撃的な「マンボ」とは180度違う、これぞ「ザ・ケンスケ!」という彼らしい世界を見せてくれた。
 25日、ゲネプロ終了後の中庭選手の声を聞いてみよう。

――新横浜のプリンスアイスワールドには、初お目見え、ですね。
中庭 はい、新横浜のリンクはジュニア時代、松村充先生に振付けをしていただいていたころ、ずいぶん昔から僕にとってはなじみのあるリンク。ここでの公演に参加できて光栄です。横浜公演を通して、一人でも多くの方に僕というスケーターを知っていただけたら!

――昨シーズン最後の試合、四大陸選手権から2か月。始めたかったジャズダンスには、チャレンジできましたか?
中庭 実は今、ダンスを習う前準備として、ウエイトトレーニングとヨガに力を入れているところです。踊る上で、僕の一番の問題は背中が硬いこと。硬いままで踊りを習っても効果は薄い。もっと身体の稼働域を広げて、背中も存分に動かせるようになってからスタジオに通おうということで、まずはトレーニング、ストレッチに力を入れています。

――なるほど、オフにも関わらず、さらに身体も締まったように見えますね。
中庭 ウエイトトレーニングを始めて2ヶ月で、2キロ増やしました。でも体脂肪率は変わってないんですよ!

――気合十分ななか、今日は新しいショーナンバーもいち早く披露。振付けを担当されたのは……。
中庭 もちろん宮本賢二さんです! 去年に続き、選曲も彼にお願いしました。ランビエールやダンスのマキシムたち(デンコワ&スタビスキー。ともに05-06シーズンのEXナンバー)も滑っている、かなり有名な曲なのでちょっと迷いましたが……。でも去年の「マンボ」ができれば、もう何だってできますよ(笑)。

――大きなチャレンジだった昨年とは違い、本来の持ち味再発見、なショーナンバーですね。
中庭 選曲は賢二先生ですが、今年は自分らしいプログラムに戻そうということ、僕自身でだいぶ前から決めていました。去年はずいぶんインパクトが強かったから(笑)、今年は僕っぽいものにしようと。でもきれいな曲は、ごまかしがきかないのが難しい……。実は最後まで通して滑ったのは、今日が初めてなんですよ。腰を痛めて名古屋フェスティバルにも出られないほどで、振り付けが終わったのも3日前だったので。今日はビデオも撮ってもらってますので、このあと自分でダメだしして(笑)。これからもっといいプログラムにしていきます!

――たくさんのスケーターが滑ってきた「You're Beautiful」ですが、中庭選手が見せてくれるのは、どんな恋物語でしょうか。
中庭 振り付けの賢二さんとも話しましたが、まずは歌詞の表現している世界を大事にしたい。僕は最後の「I will never be with you、いっしょにいられない」っていうひとことが好きで、気持ちの切なさにすごく共感します。だから僕は僕なりの世界を表現するけれど、見る人にはそれぞれの切ないストーリーを、このプログラムを見て思い浮かべてほしいな……そんなふうにアイスショー、滑っていきたいですね。

 プロの誇りをかけたプリンスアイスワールドチームの多彩なナンバー。
 シーズンオフの楽しげな表情を見せつつも、来季に向けての意気込みも感じる日本代表選手たちのナンバー。
 様々な楽しみが詰まったプリンスアイスワールド横浜公演は、4月26日(土)~5月6日(火) (4/28・30、5/1・2休演)、新横浜スケートセンターにて!

photo/Sunao Noto   text/Hirono Aoshima
 
*中庭健介選手のインタビューが、発売中の別冊ザテレビジョン 男子フィギュアスケート~2007-2008メモリアルブック~に掲載されています


| 固定リンク | トラックバック (167)

長野メモリアルオンアイス2008レポート(2)

_f6i0456  本田武史が披露したのは、『Nyah』と『かたちあるもの』。ふたつとも、今シーズン披露している最新ショーナンバーだが、いずれも、長野オリンピックから10年の集大成とさえ感じる素晴らしい滑りで魅せてくれた。
 『Nyah』では、前半は3回転ジャンプを跳びながらも感情を抑えた演技でタメをつくる。そして後半、一気に激しく情熱をぶつけるステップで観客の心を引きつけた。
 『かたちあるもの』では、のびやかなスケーティングと全身を使った大きな演技が一段とスケールアップ。まるで会場全体に愛を振りまくかのように、滑ることの幸せに満ちた演技が印象的だった。
 どちらのプログラムも、彼の中で何かが変わったのではないか、と思ってしまう程に、解き放たれ、ほんとうに気持ちよさそうに滑っていた。しかし、それは決して独りよがりのものではない。観客を巻き込む「表現」に昇華されているからこそ、私たちの心に熱いものを残してくれた。
 彼が変わった理由は何だろうか……。
「スターズ・オン・アイス」ジャパンツアーで、初めてキャストとして参加したことによる意識改革。四大陸選手権などで目の当たりにした後輩・髙橋大輔の活躍による刺激。間もなく父親となる心境の変化……いろいろと勘ぐればキリがない。しかし、きっと、これまでの歳月が集積した成果なのだろう。

 長野オリンピックでは、自身のスケートを出しきれなかった3人の日本代表たちが、10年後のこの日、こうして見事に自分を表現し、観客を沸かせていた。これが、長野オリンピックからの10年、そのものだったのではないだろうか。

 フィナーレでは、映画『ムーラン・ルージュ』のメインキャストを演じた荒川静香、本田武史、田村岳斗の3人。荒川を巡り、本田と田村が殴り合いの喧嘩をして、最後に本田と荒川が結ばれるというシーンを演じた。
 本田と荒川は、昨年の「プリンスアイスワールド」でも『ウエスト・サイド物語』でラブストーリーを演じたが、今回のショーでも、相変わらずの恥じらいある演技が微笑ましい。
 プロスケーターとしての彼らは、まだ歩き始めたばかり。10年後の今が、また新たなスタートとなったのではないだろうか。彼らの道は、まだまだ続く。

photo/Sunao Noto   text/Yukiko Oshima


| 固定リンク | トラックバック (18)

長野メモリアルオンアイス 2008レポート(1)

_f6i0292  長野冬季オリンピックから10年。この記念として3月1日、「長野メモリアルオンアイス2008」が開催された。
 オープニングで観客をショーの世界に引き込んだのは、ステファン・ランビエールの振付けを担当したことでも有名なダンサー、アントニオ・ナハロ。そしてスケーターたちが映画『ムーラン・ルージュ』を演じる「チャンピオンズ・オン・アイス」仕様のストーリーをベースに展開する。だが、ここは長野。聖火が聖火台に灯されて、ショーの間中燃え続けるという演出などで、メモリアルが表現された。
 スケーターたちもメモリアル公演にふさわしく、長野オリンピックのペア金メダリスト、オクサナ・カザコワ&アルトゥール・ドミトリエフやアイスダンス金メダリスト、オクサナ“パーシャ”・グリシュク&エフゲニー・プラトフが登場。長野オリンピックに出場していた女子シングルのスルヤ・ボナリー、アイスダンスのエレーナ・グルシナ&ルスラン・ゴンチャロフも来日して華を添えた。
 日本代表として長野オリンピックに出場した荒川静香、本田武史、田村岳斗も出演。彼らの演技は、長野オリンピックからの10年という歳月を体現しているかのようだった。

_f6i0499  田村岳斗が第1部で披露したのは、長野オリンピックのフリープログラムで演じた「シェルブールの雨傘」。昨年末のクリスマス・オン・アイスに続き、当時の衣装だった青いシャツを身に着けての登場となった。
 いまやコーチとしてリンクサイドに立つ彼の姿の方が、目にする機会は多い。でもショーでは、失敗があったとしても果敢にジャンプに挑み、長身が氷上に映える“カッコいい岳斗”を見せ続けている。そんな彼の歩みを見て、きっと教え子たちも、おおいに刺激を受けているに違いない――そんなことが頭をよぎる演技だった。

 荒川静香は、第1部で『Fly me to the moon』、第2部で『Nessun Dorma』を演じた。
 昨年の「フレンズ・オン・アイス」で初お披露目された時には、飛び跳ねながらポップに踊る演技が印象に残るプログラムだった『Fly me to the moon』。今回は、そのポップさを残しながらも、荒川の滑らかなスケーティングが当初よりも色濃く出ているようだった。
 荒川の新しい一面をみせる『Fly me to the moon』に対して、『Nessun Dorma』は、彼女の真骨頂を発揮するナンバーだ。やわらかさ、気高さ、強さが、彼女のスケートで表現され、まさしく「美」のオーラを輝き放つ。これが、長野オリンピックから8年後にトリノで金メダルを得た、荒川静香の10年後の姿だった。

photo/Sunao Noto   text/Yukiko Oshima


| 固定リンク | トラックバック (16)

スターズオンアイス東京公演開催中 佐藤有香さんインタビュー(2)

Yukap1000417 ――さらに有香さんは、ソロナンバーでもダンサブルな「Swing with me」と、スローな「1000 Miles Away」の2曲を披露していますね。
佐藤 今回、色々なことを考えたのは、一曲目の「1000 Miles Away」かな……。これはジュエルっていうアメリカの女性アーティストの曲なんですが、彼女が自分の人生について詩を語るように、エモーショナルに歌っているんです。スローできれいなメロディだけれどパワフルさもある、という曲。今までバラードはたくさん滑ってきたんですが、振付の方に「この曲はどうかな?」って言われた時、実はちょっと自信がなかったんですね。美しいメロディーが流れる中できれいに滑るだけでなく、美しさの内側で燃えるものをどう表現すればいいのか……そう考えた時に、私にはこれはできないんじゃないか、と。

――歌詞に共感できなかったり、曲の表現する世界に入り込めなかったり?
佐藤 いえ、歌自体はとても好きな歌なんです。でもこの世界を、私がスケートで伝えられるほどの演技力があるのかな、ってすごく心配で……。だから一度はこの曲に「ノー」って言ったんですよ。で、その代りのものを探そうって、いろいろな音楽を聞いて、他のきれいな曲もいろいろ滑ってみて……。でも、ここでもうひとつ私のスケートをレベルアップさせるためには、「1000 Miles Away」に踏み出してみてもいいかな、ってだんだん思うようになってきたんです。今の自分の力でこの曲を滑るために、自分なりに、こういう表現の仕方だったら出来るんじゃないかってことも、振付師さんと相談して……じゃあこの曲でやってみます! って。だから「1000 Miles Away」、私にとってはチャレンジなんですよ。ちょっと今までの私とは違うものになっているかな? 私ももうアスリートとしてはおばちゃんになってしまって、悲しいなあ、と思うこともあるんですけれど……でもこの曲に関しては、ちょっと年季が入っていないと出せないものがあるかもしれない。そんなチャレンジでもあります。見た方に、「へえ、おばちゃんもいいな」って思っていただけるような(笑)。そんなナンバーになっていればと思います。

――「1000 Miles Away」、ぜひ楽しみに! それにしてもスターズオンアイス初来日(95年)のころに比べて、日本でのフィギュアスケートの受けとられ方も、大きく変わってきていますね。
佐藤 そうですね。日本のスケート界も、一般の方のスケートへの好奇心も、ものすごく変わってきています。特にみなさんの注目されているのは、試合。オリンピックや世界選手権、グランプリシリーズなどでは、限界までジャンプを跳んで跳んで……素晴らしいスポーツの醍醐味が見られると思います。でもスケートってさらに奥深くて、試合以外でもいろいろな形で何かを表現をすることができる。アイスショーでは、競技会とは違う魅力をぜひ見つけてもらえれば、もっともっと皆さんのスケートへの興味が広がってくるんじゃないかな。特に私たちのショーは、スケーターがただ出てきて自分のプログラムを滑る催し物ではなく、作品として作り上げたショー。こうしたショーをひとりでも多くの方に見ていただいて、気に入ってもらいたいな。日本人ながらアメリカのショーのキャストとして、6シーズン滑ってきましたが、少しでもいいものを日本に持って帰りたいな、そんな思いで、ずっとスターズオンアイスを滑ってきました。

――日本公演では日本の現役トップスケーターたちも、本場のアイスショーの雰囲気の中で滑りますね。
佐藤 真央ちゃん、美姫ちゃん、大ちゃん……。彼らは競技者としても素晴らしいけれど、それ以上にパフォーマーとしても素晴らしい。プロスケーターとしても十分成功できる、アーティストたちですよね。今はオリンピックを目指しているし、さらに次のオリンピックも狙うなら、ぜひがんばってほしいのですが……。彼らには、競技者としてのキャリアを終えたその後も、ぜひ長く長く滑り続けてほしいな、という期待を持っています。競技会のためにここまで努力してきた、その年月で培った彼らのスケートを、長く長くみなさんに見せてあげてほしい……そのためにも、スターズオンアイスで私たちと一緒に滑ることが、彼らにとって何らかの刺激になれば、と思っています。

*スターズオンアイス東京公演は1月19日、20日、代々木第一体育館にて開催。
くわしくはhttp://www.tv-tokyo.co.jp/soi/

text/Hirono Aoshima 


| 固定リンク | トラックバック (9)

第4回京都フィギュアスケートフェスティバルレポート

Jl2f0137s
 グランプリシリーズは3戦を終え、フィギュアスケートシーズンもたけなわ。
 国内でもさまざまな試合やイベントが、毎週のように行われている。
 去る11月11日には、京都アクアリーナにて、恒例となった京都フィギュアスケートフェスティバルが開催。京都醍醐クラブのメンバー中心のエキシビション、そして子どもたちの参加できるスケート教室も同時に催された。

 エキシビションで目立っていたのは、ノービスの宮原知子選手(写真上)。ご覧のようにまだ小さな体の小学生だが、トリプルトウループなどを入れた難度の高いジャンプ構成で、「ピンクパンサー」を披露。体重を感じさせない軽々とした滑りで、大きな拍手をもらっていた。実は宮原選手、2週間前に全日本ノービスの女子シングルBで優勝したばかり! ホームリンクを持たないクラブから、今年もまた新しいスターが生まれている。
 もうひとり、エキシビションで堂々主役を張っていたのは、京都醍醐クラブの田村岳斗コーチ。「トゥーランドット」でオープニングアクトを、「月光」でトリをと、ふたつのプログラムを滑り、なんと4回転にも挑戦。衰えないチャレンジャースピリットで、選手たちを引っ張り続けているようだ。
 他にも、スピード感いっぱいに「ウエストサイドストーリー」の世界を表現した村元哉中選手、すっかり大人の体型になり、スケートにも安定感が増した松下未瑠紅選手など、8歳のノービス選手から、28歳のコーチまで、京都のスケーターたちはこの冬も元気!

 しかし彼らは2005年9月にホームリンクの京都醍醐スケートが閉鎖されて以降、2年間、決まった練習場所を持っていない。あるときは大阪へ、奈良へ、滋賀へ、姫路へと、氷を求めて関西のあちこちのリンクをさまよわなければならず、学業との両立も体調管理も、どんどん難しくなっているという。昨シーズン、全日本選手権4位に入賞した神崎範之さんも、このクラブで育った選手。この春、惜しまれつつ現役を引退したが、もしリンクがあれば今年も選手を続けていたかもしれない、と語っていた。
 このイベントも、彼女たちの現状を京都市民に知ってもらおうと、京都府スケート連盟が企画しているもの。将来が期待できる優秀な選手がたくさんいるだけに、練習環境さえ整えば……とため息が出るばかりだ。

Dscf0278s
 エキシビション後のスケート教室では、国際試合で活躍する選手たちも氷に降り立ち、この日初めてスケート靴を履く子供たちにも、熱心に指導をしていた。やさしく、めんどうみのいいお姉さんぶりに、いつも目が行く村元小月選手は、昨年、世界ジュニア選手権に出場。今年もジュニアグランプリのノルウェー大会で銀メダルを獲得している。今週末のグランプリシリーズ・エリックボンパールトロフィーでの滑りが楽しみな澤田亜紀選手も、身体をかがめて子供たちと同じ目線になって、一生懸命にスケートの楽しさを教えていた。
 今日、初めてスケートをした、楽しかった! そう思ってくれた子どもたちの中から、彼女たちを追いかけて世界に飛び出す選手がたくさん出てくることを。また、彼らがのびのび練習ができる場所が一日も早く確保されることを、願わずにはいられない。

Photo&Report/Masayuki Kojima Text/Hirono Aoshima


| 固定リンク | トラックバック (15)

プリンスアイスワールド2007東京公演レポート

Qr2i16shizukah
 1978年、日本初のアイススケートショーとして誕生した「プリンスアイスワールド」は、今年、記念すべき30回目を迎えた。東京公演の会場となったダイドードリンコアイスアリーナには、子供たちからおじいちゃん、おばあちゃんまで幅広い客層が集まり、フィギュアスケート人気の高さを物語っていた。

 「プリンスアイスワールド2007」の目玉ともいえるのが、荒川静香と本田武史による夢のコラボレーションスケーティングだ。この2人は幼い頃からのスケート仲間で、同時代にフィギュアスケート界を牽引し、共に昨年プロスケーターに転身。豪華な顔合わせでショーのトップを飾り、会場を盛り上げた。
 『ウエスト・サイド物語』の曲に合わせ、深紅の衣装に身を包んだ2人が恋人どうしを演じる。最初は2人で、そして本田武史のソロ、荒川静香のソロと続き、もう一度2人のコラボレーションで終わる構成。さすが男女シングルのトップスケーターとして活躍してきた2人だけに、スピード感のあるスケーティング、揃ってステップからのアクセルジャンプを決めるなど、難度の高いコラボレーションを見せてくれた。
 2人による恋人どうしの表現という点では、ソロパートの方が恋の切なさを表現できていたかもしれない。2人のコラボレーション部分では、初々しさが際立ち、微笑ましい恋人どうしが表現されていた。
 これと対照的だったのが、ショーの後半に演じられた、プリンスアイスワールドのチームリーダー・八木沼純子と大島淳による『雪の華』。決して高難度の技が盛り込まれているわけではないが、純白の衣装で舞い踊る2人は、情感たっぷりに大人の愛を表現していた。

Jl2fyaginumak
 現役選手からは、中野友加里と高橋大輔が華を添えた。
 中野友加里は、5月のプリンスアイスワールド公演でも披露した『リトルナーレ』。滑るごとに妖艶な身体の動きを身につけ、完成度を増しているようだ。
 このオフシーズンのアイスショーでは、トリプルアクセルに挑戦したり、片手ビールマンスピンも積極的に取り入れるなど、シーズンに向けて、要素のレベルを上げるための努力が垣間見える。表現技術もどんどん上がっている中、勢いをつけてグランプリシリーズを闘ってほしい。
 高橋大輔は、今シーズンのエキシビションナンバー『バチェラレット』を披露。公演途中からはロングバージョンになり、サーキュラーステップが追加された。うねるような全身の動きとステップが、他のスケーターにはない独自のスケート世界を表現していた。
 オフシーズンはアイスショー出演が目白押しだった高橋大輔。それらの中でも、オープニングやフィナーレに、4回転ジャンプやステップからのトリプルアクセル、トリプル-トリプルのコンビネーションジャンプ、逆回転のジャンプ……と、さまざまなトライアルを繰り返していた。意気に燃える彼の心の表れだろう。
 現役選手は間もなくシーズンイン。アイスショーで磨いた技や演技を生かし、今シーズンも勝ち抜いてほしい。

text/Yukiko Oshima    photo/Takayuki Honma Masayuki Kojima


| 固定リンク | トラックバック (11)

フレンズ・オン・アイス2007レポート(2) 宮本賢二 「遊びごころ」の演出

_mg_7864_3
 そして、この「フレンズ・オン・アイス」で随所に見られたのが、スケーターたちの<遊び心>。最近の日本のアイスショーにおいて、<遊び心>をうまく演出に結びつけているのが、今回振付けを担当した宮本賢二だ。彼の仕事の集結も、今回の「フレンズ・オン・アイス2007」のみどころの一つと言えるだろう。

 スケートファンの間で、振付師・宮本賢二の名前が、この数カ月ほど話題に上ったことはなかったかもしれない。オフシーズンに開催されたアイスショーで、彼の振付けによるエキシビションナンバーが次々と発表されたのだ。
 中野友加里の『リトルナーレ』(『コルテオ』より)、高橋大輔の『バチェラレット』、織田信成の『Around The World』、南里康晴の『炎のファイター ~INOKI BOM-BA-YE~<ピアノ・ヴァージョン>』、中庭健介の『Cerezo Rosa』、小塚崇彦の『Staying Alive』。
 男子トップ選手ほとんどのプログラムを手掛ける、この勢い!
 「フレンズ・オン・アイス2007」で演じられたプログラムにも、宮本賢二作品が多く含まれていた。

 本田武史の『ゴッドファーザー』は、軽快なステップとジャンプで彼の魅力を表現した。演技終了後もう一度、音楽が流れ出したかと思うと、スポットライトの下には宮本賢二の姿が……。いま滑り終えたプログラムの一部を、振付けた本人の宮本賢二が演じる「おまけ」付き。最後は本田・宮本2人並んでのストレートラインステップで魅せた。
 中野友加里は、5月のプリンスアイスワールド以来の『リトルナーレ』。今までにはないイメージの曲に挑戦して表現したいという彼女の演技は、オリエンタルな衣装とともにエキゾチックな輝きを放っていた。
 高橋大輔が披露したのは『バチェラレット』。中野友加里の『リトルナーレ』を見て、高橋自身が「こんな不思議系のプログラムを……」と依頼したという。演じるごとに微妙に変化を遂げるこのプログラムは、見る者を迷宮の世界に引き込んでくれる。
 トリは荒川静香の新プログラム『Fly me to the moon』。ショーナンバーならではのゴージャスでダンサブルな作品に仕上がった。演技が終わると、曲がそのまま流れ続ける中、フィナーレに入っていく。そんな演出も楽しめた。
_mg_7254kenji_3

 これだけのスケーターたちが宮本賢二の振付けを求めたということが、日本のスケート界が寄せる、彼への期待を表している。05-06シーズンまで現役アイスダンス選手として活躍し、現在活躍するスケーターたちの年齢に近い兄貴分的な存在感も人気の理由の一つかもしれない。
 宮本賢二が手掛けたプログラムに共通するのは、そのスケーターに「今」必要な表現を提供するとともに、アイスショーで観客に「今」を感じさせて盛り上げる「遊びごころ」を持っていることだろう。
 そういえば、昨年4月に開催されたアイスショー「KTVダイヤモンドアイス2006」のフィナーレで、男子選手がそれぞれに別の選手の衣装を着て登場したサプライズも、宮本賢二が仕掛人だったという。
 そんな遊びごころをプログラムやショーの振付けに取り入れる彼の演出。欧米からの直輸入が多いアイスショーの中で、日本の観客に向けた日本オリジナルの世界観を提示してくれているようだ。
 宮本賢二は、もしかしたら日本のアイスショーを変える振付師になるかもしれない。そんな期待をもって注目していきたい。

text/Yukiko Oshima    photo/Sunao Noto


| 固定リンク | トラックバック (6)

フレンズ・オン・アイス2007レポート(1)

Arakawa_d7e0658
 「手づくり」、まさにその言葉通りのアイスショーだった。
 昨年に続き2回目となった「フレンズ・オン・アイス2007」は、荒川静香を中心にスケーター自らがアイディアを出し、創造していくアイスショーとして定着したようだ。
 開演前の場内アナウンスは、荒川静香自身によるもの。各スケーターの滑走前には、本人の声で意気込みのひとことやプログラム解説が流れる。振付け担当の宮本賢二、荒川静香、本田武史、恩田美栄が行うプレゼント抽選会。荒川静香が愛犬アロマ&ティラミスと登場。田村岳斗が使う小道具を、暗転の中、氷上セッティングするのは高橋大輔……と、スケーターたちが細部まで大活躍。そんな手づくり感をスケーター自身も楽しんでいる。
 演じたナンバーも、「フレンズ・オン・アイスだから、このプログラムを」という各スケーターの想いが込められているものが目立った。

 プロとなり、コーチの道も歩み始めた恩田美栄は、振付けにもチャレンジ。意欲的なオリジナル作品を2プログラム披露した。第1部では、映画『天使にラブ・ソングを…』から『アイ・ウィル・フォロー・ヒム』をシスターの衣装で演じ、第2部は『ずいずいずっころばし』に乗せて浴衣をアレンジした衣装で舞った。
 コーチ業中心となり、1年ぶりのアイスショー出演となった田村岳斗。1部は、荒川静香がトリノ五輪金メダルを手にした『トゥーランドット』で優雅に観客を魅了した。一方、2部は映画『ロッキー』のテーマに乗って登場。氷上で、シャドーボクシング、縄跳び、腕立て伏せを見