この特集
この特集では、浅田真央選手、安藤美姫選手をはじめとする注目選手の活躍や最新情報など、フィギュアスケートにまつわる様々なレポートを写真とともにお届けします。
この特集は携帯サイトでもご覧いただけます。
モバイル版 Sports@nifty
プロフィール
青嶋ひろの【ライター】
能登直【カメラマン】
お問い合わせや取材依頼は、[お問い合わせ窓口]より受け付けています。
カテゴリー
関連リンク
特集関連書籍
ココログ

ココログ: blogサービス
「フィギュアスケート特集」は @niftyのウェブログ(blog)サービス 「ココログ」で運営しています。あなたもココログ始めてみませんか?ココログ(フリー)は、だれでも無料でご利用いただけます。
ココログって何?
ココログ使い方ガイド

フィギュアスケート特集

フレンズオンアイス2009レポート 荒川静香 ――たくさんの意味をショーに込めて(2)

Shizuka741s  また、今年の新企画、荒川と一般公募のキッズスケーターとのコラボレーションでは、『虹の向こうのどこかで、夢は現実になる…』というオーバー・ザ・レインボウの歌詞そのものの物語が氷上に描かれた。ファンタスティックな振り付け、演出は、宮本賢二によるもの。シンプルな白い衣装が照明で七色に輝く荒川は、まるで「がんばったら、夢を叶えてあげるよ」と少女を教え導く、童話の中の良い魔女のよう。
「大きくなったら荒川さんみたいになりたいです」
 憧れの「荒川さん」との共演を果たして、キッズスケーターたちの夢がまた一歩、現実へと近づきますように。

「今年のショーにはいろいろな意味を込めました」

 ブラウニングやボーンなど、一流のプロスケーターに参加してもらうことで、スポーツ、競技としてのフィギュアスケートとは違う、純粋に引き込まれて楽しめるアイスショーの魅力を広めたい。
 スケーターだけがフレンズじゃない。ファンもスタッフもみんながフレンズ。バナーコンテストを通じて、いつも応援し、支えてくれるファンへの感謝の気持ちを伝えたい。
そして今年はオリンピックイヤー。歴代のオリンピックを戦ってきた選手、これからバンクーバーに向かっていく選手、またその先のオリンピックに向かっていく選手たちにとって、意味のあるショーにしたい。
 その趣旨に沿って、ショーのオープニングは、荒川、ブラウニング、佐藤、ボーン、チン・パン&ジャン・トン、エヴァン・ライサチェクら、7人の世界チャンピオンによる群舞で飾られた。最後には、皆がふざけあいながら、表彰台に乗ろうとする演出があり、ショーの主催者でもあり、7人の中で唯一のオリンピック金メダリストである荒川が表彰台の一番上に立って、ナンバーは終了した。
 フィナーレは、荘厳な音楽をバックに、各スケーターが5色のオリンピックカラーの布を手にパフォーマンスを繰り広げる、オリンピックへのオマージュのような感動的なグループナンバー。氷上に文字を刻んだり、空間を飛び交ったりのレーザー光線の演出も効果的でドラマティック。最後はバナーコンテストで選ばれたバナーを手にしたキッズスケーターも参加して、ショーは締めくくられた。

 荒川が金メダルを獲得したトリノオリンピックから4年。4度目のフレンズオンアイスが、こうして幕を閉じた。たくさんの想いをこのショーに込めて、日本のフィギュアスケートの未来のために、彼女が果たしている役割はとても大きい。

text/Hiroko Kato


| 固定リンク | トラックバック (138)

フレンズオンアイス2009レポート 荒川静香 ――たくさんの意味をショーに込めて(1)

Shizuka146 「有香さんやカート、シェーリーンは、(現役の頃から)ずっと憧れてきた、そして、プロになっても憧れのスケーター。そんな彼らといっしょに氷に立つことで、そこに続いていくスケーターたちに、未来に夢を持ってもらえるようなアイスショーにしたい」

  荒川静香の記者会見での言葉どおり、今年のフレンズオンアイスでは、プロスケーターたちの演技が光った。
  本田武史が情緒たっぷりかつ、切れのよい演技で魅せれば、田村岳斗は、野球のユニフォームを着用し、バットとボールを小道具に使って、ファンに新しい一面をプレゼント。スターズオンアイスを始め、海外でも多くのアイスショーを経験している佐藤有香は、四方の客席へのアピールが行き届いている。引き込まれるようなスケーティングの美しさも健在だ。
  なかでも圧巻だったのは、ショーのフィナーレの振り付けを担当したシェイリーン・ボーンと、10年ぶりの来日でファンからの注目の高かったカート・ブラウニング。その卓越したスケーティングスキルとサービス精神からは、スケートを見せて観客を楽しませるというのはどういうことなのか、上質な大人のアイスショーとはどういうものなのか、を改めて教えられるようだった。

「カートはオープニングもフィナーレも、ちょっとしたことがすごく面白い。簡単そうだけれど、僕らから見ると難しいことをやっている。動きすべてがパフォーマンスみたいで、こうならないといけないなと思った。見られてよかった」と、髙橋大輔。荒川の想いはしっかりと伝わったようだ。

 ショーのホスト、荒川自身は、新しいナンバーのフラメンコを披露。
「私は今まであまり感情を表に出さないタイプでした。でも去年『カルメン』を滑ったときに、フラメンコもいけるかなと(笑)。情熱的な女性を、情熱的に感情を出して表現したい。なんでもできるスケーターになりたいので、その中の挑戦のひとつです」と、プロとして新しいことにチャレンジし続ける姿を後輩に見せた。

text/Hiroko Kato


| 固定リンク | トラックバック (24)

フレンズオンアイス2009レポート 髙橋大輔 ――喜びと喜びと喜びと

Foidai583   スポットライトに照らされて、大切なものをすくい上げるようにそろえたその両掌に、いったい髙橋大輔は何を見たのだろう?
  リハーサルの3日前にできたばかりという新しいエキシビションナンバー『LUV LETTER』は、短いけれどもスケートへの愛に溢れるナンバーだった。
  音もなく伸びていくスケート。美しさにただひたすら見入ってしまうようなアップライトスピン。切ないピアノの旋律をバックに、髙橋のスケートが滑らかに滑らかに行く。ただ静かにしみじみと胸に響いてくる何か。胸に染み入るようなプログラム……。
  本人いわく「滑り込みはできていないけれど、大好きなナンバー」とのことだったが、観客、スケーター、関係者ら、すべての人が、フレンズオンアイスでの彼の滑りに心を奪われたと思う。物足りなさのかけらも感じなかったと思う。
  髙橋復帰のショーとなった今年のフレンズオンアイスには、紛れもない、暖かく、優しく、美しい祝福のムードがあったし、また、彼自身が、1年近くに及ぶ長い孤独な戦いの後で、ファンもまたずっと待っていたこと、いっしょに耐えてきたことを、直接その肌に感じたに違いない。
  この喜ばしい復帰の日について語るとき、来るべきコンペティションシーズンのこと、オリンピックのメダルについて、4回転ジャンプの仕上がり――そのようなことについて述べるのは、無粋というものだろう。ジャンプがどうだとか、ケガの影響がどうだとか、今はひとまずおいておこう。
  髙橋のスケートが再びファンの心を震わせてくれた喜び、髙橋自身が久しぶりにスポットライトの下で滑る喜び、1年ぶりにファンの歓声と拍手を浴びる喜び――。

  戻ってきてくれてありがとう。もう一度あなたのスケートを見せてくれてありがとう。氷の上に髙橋大輔がいるだけでいい。この純粋な喜びと感謝の気持ちを忘れたくない。
  そしてまた、髙橋にも忘れないでほしい。この先の厳しい戦い、苦しい練習において、この時の喜びがきっと大きな力になるはずだから。

text/Hiroko Kato


| 固定リンク | トラックバック (30)

真夏の氷上祭典 ザ・アイス2009レポート デニス・テン ――カザフスタンのライジングスター、日本デビュー

Ten533  デニス・テンの最大の魅力は、天性のリズム感のよさではないだろうか。スピンの中にすらリズムを感じさせるスケーターは珍しい。スピンやジャンプがなければ氷の上であることを忘れてしまいそうなほどの卓越したダンサーだから、思わず視線が吸い寄せられ、その踊りに魅了されてしまう。演技があっという間に終わってしまい、もう一度見たいと思わせられる――そんなスケーターとの出会いはたまらなく嬉しいものだ。

 昨年ジュニアグランプリの活躍で注目を集めつつあったテンが、一躍脚光を浴びたのは今年3月のロスアンゼルス世界選手権だろう。カザフスタン出身の15歳(世界選手権時)が、シニアデビューの世界選手権でいきなり8位という好成績を残したのだ。小柄な身体のアジア系の男の子が、回転の速いジャンプを次々と小気味よく決める。ステップはその年齢に似つかわしくないほどに達者だ。加えて、身体の軟らかさを生かしたドーナツスピンにビールマンスピン! 彼の演技に魅了された観客席が、総スタンディングオベーションとなったのはまだ記憶に新しい。

 そのテンがアイスショーで来日というのだから、今年のザ・アイスを心待ちにしていたスケートファンも多かったに違いない。ファンの期待に応えるかのように、ザ・アイスでは2日間で3つのプログラムを披露してくれた。「白鳥の湖」でチュチュをつけて登場したテンは、コミカルながらも美しい白鳥の羽ばたきの動きを見せて、一気に観客の注目を集めた。「sing sing sing」は、客席にアピールを繰り返すリズミカルかつパワフルなナンバー。派手な花柄のシャツも彼にはよく似合って見えるから不思議だ。2日目昼公演の「IN THE MEMORY OF MICHAEL JACKSON」では、ジャンプで転倒のあと、そのまま氷上を泳ぐ真似をして、失敗をアドリブで見事にカバー。舞台度胸のよさも覗かせた。「一番人気のあったプログラムを最終公演で滑るよ!」と言っていたテンが最終公演で見せてくれたのは「sing sing sing」。最後は何を滑ってくれるのかな? という期待もまた楽しみのひとつにしてしまった。
演技中は常に観客を意識して会場を盛り上げる、リンクからはける最後の最後までパフォーマンスを忘れないサービス精神や、初めて訪れた国での初めてのショーなのに、まったく物怖じしない態度は、通常の16歳とはかけはなれているようで、今後、大物になりそうな予感をはらんでいる。
なんといっても今が伸び盛りの16歳。世界選手権での経験は、彼を大きく成長させただろうし、ザ・アイスでの4公演でも1公演ごとに、大地に水がしみこむかのような勢いで何かを吸収しているようにみえた。これからどんな魅力的なスケーターになっていくのか、その成長と活躍が楽しみでならない。

「日本食? 好きだよ。モスクワでもよく日本食レストランに行くよ。マオ? 彼女はベリーストロングスケーター。マオは(モスクワでは)僕のすぐ近くでスケートしているんだけれど、彼女はいつも一生懸命だから僕のことを見ているかどうか分からないなあ」
なんとも大らかな無邪気さ、憎めない雰囲気も魅力の一つ。
「日本はとてもきれいな国ですね。日本で滑ることができてとてもハッピー。タカヒコ、ノブナリ・オダ、タケシ・ホンダ、ダイスケ……みんなリスペクトしています」と、来日がとても嬉しそう。今度は日本でのグランプリファイナルに来てね! のリクエストに「東京のファイナルには出たいけれど、シニアはジュニアと違うから残るのはとても難しいと思う」と真面目な表情で答えてくれた。

text/Hiroko Kato


| 固定リンク | トラックバック (19)

真夏の氷上祭典 ザ・アイス2009レポート ベンジャミン・アゴスト ――輝かせる力

Maimma_7780s  今年で3年目となるザ・アイスでは、浅田真央・安藤美姫をはじめとした日本人選手もさることながら、ゲストの外国人選手の輝きも目立っていた。

 浅田舞の成長を感じさせる大人な雰囲気での演技終了後、ベンジャミン・アゴストが出てきてふたりでの演技をしばし披露したのは、観客にとってちょっとしたサプライズだっただろう。
黒の衣装で登場したベンは、浅田の手を引き、妖艶な世界を見せる。浅田の作り出した空気を基本的には変えない上で、出しゃばらないまでも少しだけ、さっきまでとは違った雰囲気を足す。観客の視線を浅田に集中させたまま、先ほどまでの彼女とは違った印象を与える。
 浅田の美しいスタイルもあいまって、ふたりはまるで本物のアイスダンスカップルのようだった。恐らく練習の回数もそこまで多くないなか、こうしたサポートをさりげなく、かつなめらかに行うアゴストの姿は、とにかく『うまい』の一言につきる。

 もちろん、こうした彼の動きはベルビンとの演技でも健在だ。昨シーズンから披露しているレオナ・ルイスの「ブリーディング・ラブ」に、今回は手紙の小道具も交えながらの熱のこもった演技。全体から切なさを感じさせる演技のなかで、ふたりの魅せ方は物語性のあるナンバーで非常に大きなインパクトを観客に与えていた。

「自分を最も美しいと感じるのは、氷上でベンが私を引き立ててくれている時です」
 パートナーのベルビンもインタビューでこう答えている。彼の高いスケーティングスキルはもちろん、その場その場に応じて女性を引き立てたうえで自身もかすませない技術が、世界トップクラスカップルの揺るぎない強さであることに改めて気づかされた。
 バンクーバー五輪では確実に金メダル候補となるふたり。良い意味で無色透明なベルビンをさらに輝かせ、カップルとしての存在感を上げるアゴスト。彼の醸し出す「味」に、今後も目が離せない。

text/Y. Tachibana


| 固定リンク | トラックバック (11)

真夏の氷上祭典 ザ・アイス2009レポート 浅田真央・浅田舞 ――それぞれの目標

Maomaia_5378  浅田姉妹をそろって見ることができる。これがザ・アイスの楽しみのひとつだろう。現役選手であるふたりが同じショーのリンクに立つ姿を見られるのは、ファンにとって今だけの特別な楽しみでもあり、幸せでもある。オープニングでの真央の少し照れたようなシンプルな挨拶に笑いがおき、フィナーレダンスの練習映像の舞にかわいい~の声が上がる。チャーミングなふたりの活躍が、このショーに華を添えているのは間違いない。
 ただ同じショーに出演するだけでなく、ふたりのために特別に振り付けられたペアプログラムや姉妹のトークショーなど、嬉しい企画が見られるのもザ・アイスならでは。
 今年の姉妹プログラムのテーマは、ワイルド&セクシー。今までにない新しい動きにも挑戦した。「いつもはきれいに踊るのを心がけているので、力の抜きかげんが難しかった」と舞。「頭を強く振る動きがあって、初めはくらくらしました」と真央。衣装は、コケティッシュな赤と紫。ふたり同時にジャンプ、舞に手を引かれて真央がスパイラル、真央が手を引いて舞のスパイラル、舞が踊って真央が魅せる、姉妹だからこその息の合った演技で、楽しそうにすべるふたりの姿を見ているだけでも微笑ましく、見る側も純粋に楽しめるプログラムだった。
 トークショーでは、司会者の質問に「何だっけ?」「あれだよ、あれ」と、ふたりで顔を見合わせて相談する場面も。普段の姉妹仲のよさを彷彿とさせて、会場もほのぼのムードに。

 それぞれのプログラムでは、浅田舞は「アランフェス協奏曲」を披露。「先生に目と背中で演技できるようにといわれた。女の人の恋する悲しみや喜びを表現したい」というこのプログラムでは、ふと上げる視線やしっとりと魅せる所作の美しさに努力の成果が垣間見られた。演技終了後のアンコール企画で、アイスダンスのベンジャミン・アゴストにエスコートされた舞は、まるでスペインのお姫さま。女性を美しく見せるテクニックは、さすが一流のアイスダンサーだ。アゴスト自身のノーブルな華やかさと、彼によって引き出された舞の上品な美しさは、つかの間の夢のようだった。
 浅田舞の今年の目標は「全日本選手権で気持ちのいい演技をすること」。フリーでも使う予定のアランフェス協奏曲は感情の入れやすい大好きな曲だという。のびやかで美しい、舞らしい演技を期待したい。

 姉の舞がお姫さまなら、妹の真央は街で評判の踊り子だ。パガニーニの技巧的な奇想曲をバックに、ピンクのセンスを開いたり閉じたり。「私の踊りを見せてあげる!」とばかりに滑り始める。挑発するように、おどけるように、ゆったりとしたピアノの旋律でスパイラル、アップテンポなリズムに乗ってステップ。そのうちに踊り子自身の興が乗り始め、激しいステップを踏みならして自らの踊りに没頭していく……そんなストーリーが浮かぶスケート。難易度の高い技が詰め込まれた、怒涛のステップが真央らしいエキシビションナンバーだ。
「最後には、オリンピック、世界選手権という大きな舞台が待っている」。新しいプログラムをしっかり滑りこなすこと、けがをしないこと、自分の演技をひとつひとつの試合でしっかりできるようにがんばること。いつもの生真面目な課題の先には、彼女にとって初めてのオリンピックが控えている。
 オリンピックという4年に1度の祝祭、晴れの舞台で。ザ・アイスで見せてくれたこのエキシビションナンバーのように、自らの望むまま、心のままに自由に滑る彼女が、観衆を熱狂の渦に巻き込むさまを見たい。

text/Hiroko Kato


| 固定リンク | トラックバック (13)

真夏の氷上祭典 ザ・アイス2009レポート ショーは生きている(2)

Jeftheice   また、今年初めてのイベントとして観客を喜ばせたのは、2部の始まりにあった「ジェフリー・バトル主催スピン選手権」だ。「スピ~ンコンペティショ~ン プレゼンティッドバ~イミー!」とのバトルの高らかな宣言のもとに、われこそはと思うスケーターが、誰が一番長い時間スピンを回っていられるかを競い合った。賞品に釣られてかどうかは定かでないが、真剣に勝負するスケーターたちの姿や、勝者が本気で喜ぶ様子に客席は拍手喝さい。こういう時の海外スケーターの自己アピールは、是非日本のスケーターたちにも見習ってほしいもの。仕切り役のバトルがはまり役で、お遊び企画がだれることのないように、要所要所で場を引き締める才はなかなかのもの。海外ゲストスケーターである彼が、まるでホストのようになっているのに違和感がないのも興味深い。
  そして、忘れてはならないのが、ザ・アイスの十八番ともいえるコラボレーション企画だ。マッチングの妙とでもいったらいいのか。その組み合わせにはいつも感心させられる。浅田舞とベンジャミン・アゴストがしっとりとした夢のような一瞬を創り出せば、無良崇人と、アダム・リッポン、デニス・テンが若さ弾けるカッコイイスケートで会場の視線を釘付けにする。昨年に引き続いてのジョン・ケアーと小塚崇彦のコンビはますます息が合ってきたようだ。今年は浅田舞も参加してのヒゲダンス。3人の醸し出す和やかな雰囲気もまたいい。フィナーレ、シニードとジョンのケアー兄弟、チン・パン&ジャン・トン、鈴木明子、無良による動物の被り物コラボレーションはユニークに。テンと村上の高校生カップル風はさわやかに。ベルビン&アゴスト、安藤美姫、エヴァン・ライサチェクによる「ボレロ」は芸術の薫り高く。浅田真央とバトルの「アホールニューワールド」は最後を飾るのにふさわしい、フィギュアスケートの美しさに満ちたコラボレーションだった。
  観客も一緒になってのフィナーレダンスは、まさに後夜祭のノリ。出演者も観客も主催者もが一体となって、氷上の祭典は幕を閉じた。このような、作る側、観る側、出演する側、国籍の垣根をも上手に取り払ったショーに出演するのは、スケーターたち自身も楽しいだろうなと思う。
  ザ・アイスのような個性的でユニークなショーに対し、暖かい視線、厳しい視点と見る側にもいろいろとあることだろう。いまだかつてなく頻繁に、日本で世界の一流スケーターが集まるショーが開催される幸せな時代にあって、今後ショーがよくなっていくのも衰退していくのも、その未来はフィギュアスケートを愛する人たちの想いにかかっているのかもしれない。観る側、作る側、スケーターたち、それぞれの想い。よいショーになるためには、そのうちのどれひとつがかけてもだめだろう。日本のアイスショーがこれからどのような形で成熟していくのか――ザ・アイスが、来年はどんなショーになるのか――その一端を、ファンも確かに担っている。

text/Hiroko Kato photo/Sunao Noto


| 固定リンク | トラックバック (12)

真夏の氷上祭典 ザ・アイス2009レポート ショーは生きている(1)

Theicea_7371   自分たちも楽しんじゃえ! 
  みんなで楽しいショーにしようよ! 
  そんな姿勢を感じるのが、ザ・アイスというショーだ。
  3年目を迎え、今年は4公演ともチケットは完売。地元のファンはもちろん、日本各地からこのショーを楽しみにするファンが集まるようになった。おなじみとなったトークショーのため、事前にトークの組み合わせや質問内容を募集したり、昨年好評を博した浅田真央とジェフリー・バトルのペアプログラムの楽曲リクエストを受け付けたりと、常に観客側の意見を取り入れよう、参考にしようという姿勢には誠実さと真剣みが感じられて好ましい。よりいいショーにしたいという作る側のアイディアに、いいショーが観たいという観る側の希望が反映され、今年もまた新しい試みや進化が見られるショーになったのではないだろうか。

  まずは、オープニング。昨年までは日本人スケーターのみの挨拶だったのが、海外ゲストスケーターを交えての華やかな群舞になった。シルバーのハットを手に揃いの黒と白の衣装に身を包んでの「シングシングシング」は、一気に会場のお祭り気分を盛り上げた。
  続いて、これから始まるショーへの期待で胸を膨らませる観客の前に滑り出てきたのは、地元愛知のジュニアスケーター。観客席から文句なしの「かわいい~」の声が上がる。あたかも学芸会でトップバッターを飾る愛らしい1年生といったところ。昨年、ジュニアスケーターでの参加だった村上佳菜子は、今年はレギュラーとして出演。チャームポイントの笑顔もキュートに、小さな身体をいっぱいに使ってリンクを駆け巡る、ミス・バルチモア・クラブスの「ヘアスプレイ」を披露。そんな成長がショーを通して感じられるのも、ザ・アイスの魅力のひとつ。
  休憩時間には、ビデオによる浅田舞のフィナーレダンスレッスンがあったり、真央&バトルのリクエスト曲の紹介があったりで、ちょっとした待ち時間もお客さんを楽しませようという工夫が凝らされている。

text/Hiroko Kato


| 固定リンク | トラックバック (8)

カナディアンスターズオンアイスレポート(3) ジェフリー・バトル――受け継がれるもの 

Csoijefa_5498s 「彼は世界一のスケーターだよ! ジェフリーはとてもイージーに滑っているように見えるでしょ? でも、僕は彼がどんなにむずかしいことをやっているかわかるんだ。美しいスケートがずっと続く。そこが、素晴らしいんだよ。僕もジェフのように滑れたらどんなにいいかと思うよ!」
ジェフリーは日本でもとても人気のあるスケーターなんですよ。そう言うと、カート・ブラウニングは、熱を込めてバトルについて語ってくれた。尊敬する大先輩から、こんな言葉をもらえるバトルは、本当に幸せ者だなと思う。

 バトルのCSOI参加は、今年で5年目。プロになって初めてのツアーとなる今回は、これまでよりもさらに重要なポジションを任されてのツアーになった。オープニングのあいさつに始まり、グループナンバー“We Got It Going ON”では、アメリカ公演、日本公演でマイケル・ワイスが務めたセンター・ポジションを。ショーのトリを滑り、バンクーバー、最終公演でのフィナーレ後のスピーチも託された。中には、本来ならばブラウニングが務めておかしくない大役もあり、ブラウニングを始め、キャスト、スタッフらによる、競技を退いたバトルへの今後のショー活動への期待の大きさがうかがわれた。
 その一方で、当の本人は、自国カナダのツアーを心から楽しんでいるようだった。オープニング、ふたつのグループナンバー、フィナーレと、ショーの初めから終わりまで、楽しくてたまらないといった満面の笑顔で、くつろいだ様子。彼を愛するカナダのファンの前だからこその、まるで甘やかされた大きなやんちゃ小僧のような一面は、日本で見せる顔とは違って新鮮だ。

 そんなリラックスした雰囲気のなかでも、いざ自分のプログラムでは、卓越したテクニックで氷上に自らの世界を作り出すのはさすが。ことにショーのトリをつとめた“Eclogue for Piano and Strings”は素晴らしく、1部の“Canned Heat”では、手拍子と歓声に沸いた会場も、このナンバーでは水を打ったように静まり返った。穏やかな微笑を浮かべて氷上を行くバトルは、まるでこの世のものではないよう。一人別世界で滑っているかのような錯覚を起こさせる。なんて心地よさげに、幸福そうに滑るのだろうか。滑る幸せと、それに伴う微かな哀しみ……その作り出す独特の世界観において、引退の年に作られた、この最後の競技用プログラムは、彼の代表的プログラムになるのではないかと思われた。
そしてまた、ひとつのプログラムで個々の技を独立させることなく、ひとつの作品として魅せる技量は、カート・ブラウニングの演技に通じるものがあった。こうしてカナダのスケートは先輩から後輩へと受け継がれてきたのだろう。今はただ無邪気にショーを楽しんでいるように見えるバトルもまた、カナダのフィギュア・スケートの精神を次の世代へとつなげるために滑り続けるのだろうか。

photo/Masami Morita  text/Hiroko Kato

*ジェフリー・バトルインタビューが、発売中の「2008-2009フィギュアスケートシーズンメモリアル」(スキージャーナル刊)に掲載されています
*写真はスターズオンアイス日本公演来日時のジェフリー・バトル


| 固定リンク | トラックバック (26)

カナディアンスターズオンアイスレポート(2) カート・ブラウニング――多彩なエンターテイナー 

Csoi0546  その表情からも足元からも目が離せない。フィギュアスケートをエンターテインメントの域に昇華させたという側面において、カート・ブラウニングの右に出るものはいないのではないだろうか。持ち味である軽妙で洒脱なスケート、軽やかなステップ、現役時代のような4回転こそないものの、まだまだ軽々と跳ぶジャンプ。それらすべてを巧みに料理し、エンターテインメントという一枚の皿にのせて、極上の一品として饗応する。

 第1部の“I'm Yours”は、女性4人のトランジッションナンバーから登場し、魅力的な女性たちに翻弄される役どころを演じて観客の笑いを誘う。ジェニファー・ロビンソンが色っぽい仕草で、戯れにブラウニングの顔からメガネを奪って退場すれば、プログラムの始まりだ。おどけた表情を作って、身につけたジャケットを脱ぐ。タップのステップを踏んで、ベストを脱ぐ。それらの内側に書かれたI'm Yoursの文字を見せて、観客を喜ばせ、笑わせる。そしてまた1枚、シャツを脱いだ下には、背中にI'M STILL YOURSと書かれたTシャツ。なんという心憎い演出だろう。そんなパフォーマンスを、複雑なステップを踏みながら、美しいスパイラルで滑り抜けながら、小気味いいアクセルジャンプを決めながらやってのけるのだから、演出ではなく、ブラウニング自身が心憎く感じられる。

 グループナンバー“Sock Him in the Jaw”。スターズオンアイスの日本公演、USツアーでイリヤ・クーリックが演じたリーダー役は、まさにブラウニングのはまり役。アドリブを利かせ、コミカルに他のキャストたちを率いる。同じプログラムながら、日本公演、アメリカ公演とは全く別物のように見せてしまう力量のほどはさすがとしか言いようがない。

 さらに圧巻だったのは、第2部の“Spirit of Adventure”だ。カナダナショナルバレエによって振り付けられたというこの新作は、和太鼓の伴奏のみによるプログラム。太鼓のリズムに乗ってブラウニングが滑る、舞う。打ち鳴らされるリズムに寄り添って、彼のスケートがメロディーを奏でる。その動きは、モダンバレエのように現代的であか抜けて見える一方で、なおかつ、祭りの神前で捧げられる男舞のような古風な厳かさをも漂わせていた。和太鼓の音とブラウニングのパフォーマンスの融合は、まるで「西洋の和」とでも呼ぶべきものを体現しているよう。これがもし、日本の空気の中で、日本の観客を前にして演じられるとしたら、いったいどんな風だろう? と想像せずにはいられなかった。

  どうしてこのプログラムを作ったの? とブラウニングに訊ねると、「シャツを着ないで滑りたかったから!」と、彼特有のジョークが返ってきた。そして、「近いうちに、日本で滑る機会があるかもしれないよ! まだはっきりとは約束できないけどね」とつけくわえた。日本のファンへ、嬉しいサプライズの予感だ。

text/Hiroko Kato

*写真はサイン会にて、ジェニファー・ロビンソンと


| 固定リンク | トラックバック (24)

カナディアンスターズオンアイスレポート(1) ステファン・ランビエール ――惹きこむ力

P1010565_s_3 メインキャストは、カート・ブラウニング、ジェフリー・バトル、ジョアニー・ロシェット、ショーン・ソーヤーら。昨年、カナダツアーに参加したマイケル・ワイス、シェン&ツァオ組などが抜け、アメリカのサーシャ・コーエン以外はすべてカナディアンで占められた今年のCSOIは、例年になくカナダ色の濃いツアーになった。

 どの国でも、自国のスケーターへは無条件の愛情を注ぐものだ。現役スケーターらしく切れのよい動きで力強いジャンプを跳ぶロシェットや、身体の軟らかさを生かした独特のスピンやバックフリップを見せるソーヤーに大きな拍手が沸き起こる。ジェニファー・ロビンソン、デュブレイユ&ローゾン組の常連たちも人気のスケーター。親しみのこもった歓声が降り注ぐ。なかでも一番観客を熱狂させるのが、4度の世界チャンピオン、押しも押されもしないカナダのスター、カート・ブラウニングと、オリンピック金メダリストのジェイミー・サレ&ディビッド・ペルティエ組、そして昨季の世界チャンピオン、日本でも人気のジェフリー・バトルだ。

 そんななか、今年のラスト5公演にゲストとして初出演を果たしたステファン・ランビエールが、かなり異色の存在であったことは間違いない。1部ではトップバッター。演技前に「2度の世界チャンピオン、オリンピック銀メダリスト、ステファン・ランビエール!」とバトルから紹介されるも、観客の集中力は今ひとつ。ざわついた雰囲気の中、タンゴの演技は始まった。
 それを意識してか、いつにない魂のこもった演技。ランビエールが、その腕で、首でタンゴのリズムを刻む、熱のこもった視線を客席に投げる、情熱的なステップを踏む……。それに従い、ざわついていた会場が次第に静まり、彼の演技に惹き込まれていく。その空気の変化は、はっきりと肌で感じられるほど。得意のスピンでは大きな拍手を受け、観客の心をしっかりと捉えて演技を終えた。
 2部では代表的なナンバーであるロミオとジュリエットを披露。身体を大きく使ったロマンティックなパフォーマンスで観客を魅了。演技後は客席の婦人に白バラをプレゼントしてファンサービスし、カナダの観客を面白がらせた。
 ツアー最終日のバンクーバー公演では、1部の終わりのグループナンバー“Sock Him in the Jaw”にサプライズ出演。ハンチング帽とボーダーシャツにベスト、赤いスニーカーのコスチュームに身を包み、コメディチックな振り付けで滑るランビエールを見ることができた。他の出演者たちと、微妙に振り付けがずれているのはご愛嬌。本人がとても楽しげに、自由にパフォーマンスをしている姿が印象的で、その微笑ましい様子は笑いを誘った。

 「カナダで演技するのは楽しいよ。キャストがすごくいいし。みんなポジティブな人たちで、いっしょに滑れてよかったな。もちろん、来年も参加したいよ!」と、本人も満面の笑みを浮かべて満足気。
 現役を引退してプロ1年目のゲスト出演となった、今年のCSOIツアー。情熱的に、ロマンティックに、お茶目に。その演技で、目の肥えたカナディアンたちをしっかりと自分の世界に惹き込んで、ランビエール自身が確かな手ごたえを感じたに違いない。今後の彼のプロとしての活躍が、ますます楽しみになってきた。

text/Hiroko Kato

*ステファン・ランビエール、ジェフリー・バトル、ジョアニー・ロシェットへのインタビューが、近日発売予定の「2008-2009フィギュアスケートシーズンメモリアル」スキージャーナル刊)に掲載されます


| 固定リンク | トラックバック (28)

プリンスアイスワールド横浜公演レポート  伊藤みどり ――魅せたい気持ち――

Midori   フィナーレが終了、スケーターたちがファンサービスの周回を始める中、コーナーに向かってひとり助走を取る伊藤みどりの姿があった。1回目を見逃した観客も息を詰めて2回目を見守る。タイミングが取れない2回目。「がんばれ、伊藤みどり!」の声援が会場から飛ぶ。そして、3回目。着地は危なげだったものの、ダブルアクセルが成功!「見せたい物を、見せることができた!」そんな笑顔が伊藤みどりの顔に浮かんだ。あぁ、伊藤みどりはやっぱり伊藤みどりだな、と嬉しくなってしまった。
 アルベールビルオリンピック銀メダリスト。世界で初めてトリプルアクセルを成功させた女子選手。オリンピックシーズンだからと、プリンスアイスワールドに出演を決めた伊藤みどりの演技を楽しみにするファンは間違いなく多かったが、さすがに彼女にトリプルアクセルを望むファンはいなかっただろう。だが、「ジャンプのみどり」に、ファンは何を魅せてくれるのかと無意識のうちに期待していたかもしれない。
 出番では、白いロマンチィックな衣装に身を包み、彼女らしいチャーミングなパフォーマンスを見せてくれたが、代名詞のアクセルジャンプはシングルに終わった。フィナーレでも再びアクセルに挑戦したものの、シングルを転倒し、壁に激突。それでも、伊藤みどりが滑ってくれたこと、伊藤みどりのスケートを再び目にできたことに、観客は満足だったと思う。
 しかし、彼女にはどうしてもファンに見せたいものがあったのだ。最後の最後まであきらめずに挑戦する姿、やり遂げたダブルアクセル……。プリンスアイスワールドの初日、観客はとてもステキなプレゼントを彼女からもらったと思う。見たいと思っていたものを見せてもらったと思う。
ありがとう、伊藤みどり! あなたから勇気と元気をもらいました。

photo/Sunao Noto   text/Hiroko Kato


| 固定リンク | トラックバック (53)

スターズオンアイス東京公演開幕(6) 織田信成選手&安藤美姫選手コメント

Nobu915s  1月8日の名古屋フィギュアスケートフェスティバルを皮切りに、9日のジャパンスーパーチャレンジ、10日からのスターズオンアイス……。年始より、アイスショーに出ずっぱりの日本のトップスケーターたち。
 なかでも織田信成選手は、8日に「仮面舞踏会」、9日「Fly me to the Moon」、10日「トスカ」と、ほとんど日替わりのように様々なプログラムを意欲的に披露してくれている。
「今回は地元・大阪でのアイスショーですごく楽しかった。スターズオンアイスには、2年ぶりの参加なんです。特にランビエールやバトルの演技は、去年はずっとテレビで見ていたので、こうして一緒に滑れてうれしい。また今シーズンは全日本チャンピオンになったので、チャンピオンらしくショーでも難しいジャンプに挑戦しよう、なんて思っていたら、1公演目はミス! 次はちゃんと滑りたいですね。
 シーズン後半、これからはオリンピックを意識して戦っていくことになります。予定としては四大陸選手権までは日本にいて、試合の後、カナダのローリー・ニコルのところに行きます。そこでもう一度プログラムを手直ししてもらい、その後アメリカに移動し、2週間モロゾフの元で練習。3月初めには日本に戻り、陸上トレーナーさんと一緒に体力作りをして、世界選手権に向かっていきます。
 とにかく今年も楽しく、笑顔で、健康にスケートを続けていきたいです!」

Miki4284s  一方、すっかりおなじみになったショーナンバー「ボレロ」。年始からはそのボーカル入りバージョンを連日披露している、安藤美姫選手。
「ボーカル入りの曲になって、ショーらしい華やかさは増したかな? このプログラムは、心から自分らしく、ひとつひとつの動きに気持ちを込めるように意識して滑っています。スターズオンアイスでも滑れてうれしい。でも自分は荒川静香さんや浅田真央さんと違って、まだまだ『見せる力』がありません。こういったショーでどんどん経験を積んで、今後の試合にも生かしていきたいです。
 09年最初の試合は、世界選手権。昨シーズン、世界選手権で出せなかったものを今年はぶつけられるように。リベンジってわけじゃないけれど、自分らしく、力強く、気持ちをぶつけていきたいです。オリンピック枠もかかっていますし、みんなの足を引っ張らないようにしないと(笑)。しっかり3枠をキープできるように、がんばってきます。またそれ以降の試合も、今年はきちんとひとつひとつ、大切に滑れたら!」

photo/Masami Morita
*スターズオンアイス東京公演  1/17、18 14時開演 東京・代々木第一体育館
*織田信成選手へのインタビュー、そして織田信成VS安藤美姫スペシャル対談が、近日発売予定の『PASSION2009 男子ングルフォトブック』に掲載されます


| 固定リンク | トラックバック (42)

スターズオンアイス東京公演開幕(5) 佐藤有香VSデイビッド・ウィルソン 初のコラボレーション

Yuka727s  スターズオンアイスキャストのなかでも、毎年毎年、美しいスケーティングを堪能させてくれるのは、94年世界チャンピオンの佐藤有香さん。ところが今年のショーナンバー「1234」は、有香さんにしては珍しい、ちょっと肩の力の抜けたポップなナンバーだ。甘いキャンディのようにキュートで優しいこのプログラムの生みの親は、日本でもおなじみの振付師、デイビッド・ウィルソン。自身も振り付けを手掛ける佐藤有香さんとの、コラボレーションは如何に?

――織田信成選手、安藤美姫選手、またキム・ヨナ選手の振付師としても知られるデイビッド・ウィルソンさん。有香さんが彼に振り付けを依頼するのは初めてとか?
佐藤 そうなんですよ。デイビッド……彼は、かなり面白いアーティストですね! 私もスターズオンアイスのディレクターをふくめ、いろいろなアーティストとめぐりあって、仕事をする機会に恵まれましたけれど、その人たちと比べても、本当にデイビッドは特別なアーティスト! まず彼にいいプログラムを作ってもらいたかったら、焦らせちゃいけないんです。彼はいつも、わああって感じでリンクにやってきて、ちょっと振り付けしたと思ったら、急に氷から上がっちゃう。で、一度たばこを吸いに外に出て、コーヒー飲んで、メールを打って、なんてことをし始める。一応まだ私の振り付けの時間中なんですけどね(笑)。そんなことをし始めちゃうから、あ、今日はもう終わりかな、なんて思ってたら、「じゃあ、始めましょう」って感じで、また急に氷の上のレッスンが始まるんです。そうしたらもう、さっきまで何もなかった振り付けのアイディアが、すっかり出来あがってるんですよ! 一度ピタッと止まってしまったものが、ちょっと休憩して戻ってきたと思ったら、次、その次、また次ってどんどん出てきちゃう。で、途中でちょっとつまづいたら、またコーヒーとたばこ(笑)。そんな感じで、アイディアがひらめくまでに彼なりのペースが必要みたいなんです。だけど、一度ひらめきはじめると、すごい! たくさんの人とお仕事してきましたけど「へー! こういう人も珍しいなあ」って感心するくらい個性的で、面白い振付師さんでしたね。

――そんな彼と作ったナンバーが、カナダの女性シンガー、Feistの歌う「1234」。この曲もデイビッドのアイディアですか?
有香 いえ、この曲はね、いろいろな人に勧められたんです。「ユカが滑るなら、これはどう?」って。私も、「この曲、プログラムに使えるな」なんて思いながらも、「実は難しいかも……」って、ちょっと躊躇してた。いい曲ですけれどあまりにも単調なので、描くべきシーンの設定が難しいかな、と。でもあまりにもみんながすすめるので、「じゃあ、やってみようかな」と、デイビッドのところに持って行ったんです。比較的明るいタイプの、みんなをハッピーにさせる曲ですから、自分のスタイルにすごく合わないわけじゃない。だからそれほど大きな心配はしていなかったんですよ。ところが……。

――ところが!
佐藤 デイビッドに作ってもらったら、今まで滑ってきたものとは、ちょっとセットアップが違ったんです。つまり、いつもはプログラムを滑り出してから、少しずつスピードを増していって、だんだんついてきたスピードを使いながら動きをこなすことが多いんですね。でもデイビッドのこのプログラムは、どんな動きも止まったところから始めるようにできている。今回のようにアイスショー用の小さいリンクで滑るプログラムとしては、ほんとにうまく構成できています。でもスピンにしてもステップにしても、要素と要素の間のつなぎにクロスオーバーが3つ以上入っていないから……スピードを利用することもできず、すぐに次の要素、次の要素って始まってしまう。しかもすべての動きが音楽のどの部分から始まるかきっちり決まっているから、ひとつ合わないとそのあと全部が、音楽とズレてしまう……。けっこう疲れるプログラムなんですよ。

――あまりにも軽快に滑っているように見えるので、そのあたりの苦労、ちっともわかりませんでした!
佐藤 簡単そうに見えるんですよ(笑)。でも、実はすごくチャレンジなプログラム。今までよりももっと、手足の表現と感情的な表現、すべてが一致していないと上手く音楽に乗って、音楽を捉えることができない。慣れるまでは、ちょっと難しかったんです! でも最終的には、自分としてもすごく満足のいくプログラムができました。この曲を選んだことも、デイビッドに頼んだことも、良かったなあって思ってます。

 ピンクとオレンジのやさしい色彩の衣装も印象的。日本公演では、選手紹介などでも大活躍の佐藤有香さんのソロナンバー、ぜひ注目を!

photo/Masami Morita

*スターズオンアイス東京公演  1/17、18 14時開演 東京・代々木第一体育館
*近日発売予定の『PASSION2009 男子ングルフォトブック』に佐藤有香さんのインタビュー「男子シングル 混迷のシーズンを読み解く」が掲載されます


| 固定リンク | トラックバック (8)

スターズオンアイス東京公演開幕(4) ステファン・ランビエールのおすすめは?

Step_4087s 「今回、ジェフとふたりのプログラムも楽しんでいるけれど、やはり素晴らしいのは、スターズオンアイスで滑れたこと! ここで滑ることは、僕の子供のころからの夢だったんだ」
 そう語ってくれたのは、ステファン・ランビエール。
「子供でも知っているくらい、すごく有名なショーだからね。そしてとても質の高いショーだ。僕が特に好きなのは、スターズオンアイスのグループナンバー! キャストたちは2週間もかけてリハーサルして、あの素晴らしいナンバーを完成させるんだよ」
 今回の日本公演に参加したことで、グループナンバーの練習風景もしっかり見ていたランビエール。しかし彼は今回、正式なキャストではなくゲスト出演なので、憧れのナンバーへの参加はない。
「彼らの『We Got It Going On』(トッド・エルドリッジやマイケル・ワイスら、男性キャスト6人によるナンバー)などを見ていて、僕も彼らに混じって滑りたい! とすごく思った。すっごく面白そうだったし、グループナンバーはスケートだけでなく、演技の要素も強いからね。プログラムの中でキャラクターを演じること、僕は大好きだから!」
 さらにランビエールは、今回の公演で共演を楽しみにしているスケーターをふたりあげてくれた。
Ilia_5140s 「まずは、シズカ! 僕は彼女に会うのをとても楽しみにして来たんだ。彼女はこの後、アートオンアイス(1月下旬~2月上旬)に出るためにスイスに来てくれる。いつも彼女は日本で僕に良くしてくれるから、スイスでは僕が彼女を歓迎したいんだ。僕がいつも日本で歓迎してもらっているように、いつも良いコンディションでショーに出させてもらっているように。スイスではシズカにそんなふうに過ごしてもらいたいんだ」
 荒川静香さんの今回のショーナンバーは、マドンナの「Frozen」。長い手足をこれでもかと大きく使い、黒い衣装でさらに磨きのかかったクールビューティぶりを見せてくれている。
「それからもうひとり、キャストメンバーのイリヤ・クーリック。彼は僕の大好きなスケーター! 僕がまだ大きな試合に出るようになる前、テレビでスケートを見ていたころから、大ファンだったんだ。彼のスケーティングが本当に好きで……。スターズオンアイスでの彼も、スケートにパワーがあるし、表現もすごく豊かだよね」
 イリヤ・クーリックのナンバーは「Song for the King」。ゆったりした音楽に乗って見せる安定感のある滑りは、さすが王者の風格。しかし大きく跳ね上がるダイナミックなバタフライなどで、若々しさも見せてくれる。実はランビエールだけでなく、ジェフリー・バトルも、「大好きなスケーターはクーリック!」とのこと。ふたりの世界王者がリスペクトするオリンピック王者のパフォーマンス。ぜひお見逃しなく!

photo/Masami Morita
*スターズオンアイス東京公演  1/17、18 14時開演 東京・代々木第一体育館
*プログラムは公演によって変わることがあります


| 固定リンク | トラックバック (8)

スターズオンアイス東京公演開幕(3) 佐藤有香さんが語る、スターズオンアイス

Yukataka_3533s  現在、日本人でただひとりのスターズオンアイスレギュラーキャスト、佐藤有香さん。
 昨年は(インタビュー(1)、(2))他のショーにはない、スターズオンアイスならではの魅力を語ってくれたが、今年はどうだろう?

――まずは大阪公演、おつかれさまです。スターズオンアイス、ここ数年は毎年のように日本のファンの皆さんに本場のショーを届けてくれますね。
佐藤 そうですね、まず大阪で公演してみて感じたこと。それは、ここ数年、私たちがお正月明けに来日するのが定番のようになったことで、今年は何となく、お客さんにも親近感をもってもらえてるかな、と。そんな雰囲気が、肌で感じられるんですよ。

――05年の久しぶりの来日を皮切りに、07年、08年、09年と、もう日本でもおなじみのショーになっていますよね。
佐藤 なんだかね、お客さんもだんだん私たちのスタイル、「これがスターズオンアイスなんだよね。この人たちはこういうものを滑るんだよね」ってことを、見る前からわかっててくれてる。そんな感じがするんですよ。これが最初の何年間かはやっぱり、「いったいどんなショーなんだろう?」って雰囲気。良く知らないけど試しに見に来ました、みたいな、そんな空気が感じられたんです。それが今では、「待ってました!」みたいな感じ?

――まず、待つ側のお客さんが今年は違う。それはキャストの皆さんにも、影響はありますか?
佐藤 ありますね! 演技をしていても、お客さんと私たちの間に何か特別なつながりが生まれてるって感じがします。それは滑る私たちにも影響しますから、先シーズン、その前のシーズンにも増して、いいショーになっている、いい雰囲気になっていると思いますよ! これから東京のショーを見られる方には、ぜひ楽しみにしてほしいな。ひとりでも多くの方に見てもらえるように!

――ジョン・ジマーマンさんが初めてシングルスケーターとして来日、最近結婚されたカップルが、デュブレイユ&ローゾン、シェン&ツァオと2組もいるなど、話題も多いですね。
佐藤 私たちキャストに加えて、織田信成君、安藤美姫ちゃん、荒川静香さん……日本のすばらしいゲストスケーターたちも、スターズオンアイスの独特の雰囲気の中、それぞれのソロナンバーを披露してくれています。彼らの演技も、ぜひ楽しんでほしいですね!

photo/Masami Morita(演技後の小塚崇彦選手にインタビューする佐藤有香さん)

*スターズオンアイス東京公演  1/17、18 14時開演 東京・代々木第一体育館


| 固定リンク | トラックバック (4)

スターズオンアイス東京公演開幕(2) 小塚崇彦、カート・ブラウニングの衣装で登場?

Takahiko3449s  スターズオンアイスには、昨年に引き続きゲスト出演の小塚崇彦。一年前の公演では、まだ世界選手権にも出たことのない若手スケーター、だったけれど、今年は堂々、グランプリファイナル銀メダリストとして出演。一年前は少し伏せ目がちだった視線もしっかりお客さんに向けて、躍動感いっぱいの「ラストダンスは私に」を見せてくれている。
 ところで今回の衣装、これまでのものよりも、ぐっとシックになった?
「実は新しいコスチューム、カート・ブラウニングさんの衣装なんです。スターズオンアイスの衣装さんが持ってるコスチュームのなかからお借りしたものなんですけど、ここに(襟のネームタグのところを指して)『Kurt Browning』って書いてあったんですよ!」
 カート・ブラウニングといえば、スターズオンアイスで長くトップスターとして活躍した人物。そしてずいぶん前から、小塚崇彦一番の憧れのスケーターだ。昨年夏、初めてカナダのリンクで顔合わせがかない、今回披露しているエキシビションナンバーにもアドバイスをしてくれたとか。
「実際に会ってみて、僕にもすごく親しみをもって接してくれて、すごくいい人だなあ、って思いました。
 今回はたまたま、衣装の人が『これがいいんじゃない?』って選んでくれたシャツが、カートのだったんです! ズボンはちょうど良かったけれど、シャツはちょっと彼の方が筋肉があるみたいで、少しダボダボ。それで毎回こうやって腕まくりをして着てるけれど、着心地もすごくいい。気に入っちゃったし、もらっちゃおうかなー(笑)」
 今回は、トップバッターとしてショーの一番最初に出演の小塚崇彦。出番が終わった後は、ずっと他のスケーターたちの演技を楽しんでいるのだとか。
Soi3425s 「スターズオンアイスはグループナンバーもすごく楽しくて……僕は特に、あのシマシマ衣装をみんなで着てるナンバー(「Sock Him in the Jaw」サーシャ・コーエン、シェン&ツァオはじめ、スターズオンアイスレギュラーメンバーが総出演)が好きです。僕らも日本代表のエキシビションで、みんなで合わせてオープニングやフィナーレで踊ることもあるけれど、やっぱり難しいんですよ。ひとりひとりががんばってるけどバラバラ、みたいになってしまう。そのへん、もちろんプロと僕らを比べたらダメだとは思うけれど、やっぱりスターズのグループナンバーはきちっと揃ってるし、同じ音できれいに動きを合わせられるし……さすが、プロは全然違うんだなあ! と思って見ています」

photo/Masami Morita

*スターズオンアイス東京公演  1/17、18 14時開演 東京・代々木第一体育館
*小塚崇彦選手へのインタビュー、そして小塚崇彦VS中野友加里スペシャル対談が、近日発売予定の『PASSION2009 男子ングルフォトブック』に掲載されます


| 固定リンク | トラックバック (7)

スターズオンアイス東京公演開幕(1) バトル&ランビエール「2億4千万の瞳」に注目!

Js_4674s  大阪の3公演では、連日満員のお客さんがなみはやドームをうめつくした「スターズオンアイス ジャパンツアー2009」。1/17、18の両日は、ついに東京公演が開催される。
 来日しているスケーターたちの声を織り交ぜながら、今公演の見どころを探ってみよう。

 まず今年のジャパンツアーの話題のひとつは、引退したばかりの世界チャンピオン、ジェフリー・バトルとステファン・ランビエールがそろって出演していること。それぞれのソロナンバーも素晴らしいが、何といってもお客さんを喜ばせているのは、ランビエール&バトルがふたりで滑るグループナンバーだ。しかも音楽は、日本のファンを意識して、郷ひろみの「2億4千万の瞳」!
 最初のうちはゆったりと、スピンするランビエールの周りをバトルがくるくる滑り、次はスピンするバトルの周りをランビエールが……と、美しく華やかだけれど「ふたりがいっしょに滑ってる!」ということに一番びっくり、という雰囲気。
 ところが興が乗って来るうちに、お客さんの視線を奪うように、氷上でふたりは大ゲンカ! ステファンがパンチ、ジェフリーがキック、さらにお返しに……。
「ちなみにあのケンカは、あくまで振り付け、だからね。僕とジェフは、ほんとはいつだって仲がいいんだから、誤解のないように!」(ランビエール)
 ふたりそろってのサイドバイサイドのバレエジャンプなどにも大きな歓声が上がり、お客さん(特に女性の!)は大喜び。最後は「俺が挨拶するんだ、邪魔するなよ!」「俺が先だよ!」などという「人気取りっこ」を見せ、エンターティナーぶりを発揮してくれる。
 客席はもう、スイス国旗とカナダ国旗の乱舞!
「実はリハーサルが始まるまで、ジェフとふたりのナンバーがあるなんて知らなかったんだ。最初は『えーっ』って感じで、練習を始めて……でもプログラムを作り出すと、これが楽しくて! たぶん相手がジェフだからだね」(ランビエール)
 ほぼ同時に引退したふたりのスターがそろって、というだけで、十分話題性はある。ひょっとしたら、ちょっとした楽しいナンバー、平凡な美しいナンバーを見せただけでも、お客さんは喜んだかもしれない。
 そこで手を抜いたりせず、滑りでも演技でも目いっぱい客席を沸かせてくれたのは、さすがの世界チャンピオン。そして、プロとしてのスタートを切るにあたり、「いつだってみんなを楽しませるつもり!」という、嬉しい宣言のようにも見えた。
 このホットなナンバーの仕掛け人、振り付けを担当したのは、スターズオンアイススタッフのシンディ・スチュワートさん。キャストの一人、佐藤有香さんもふたりの出演を大歓迎している。
「ふたりのナンバー、大ヒットでしたね! スターズオンアイスのプロダクションスタッフは、いつも日本のお客さんが見たいものは何か、いろいろ考えてくれる。今回も皆さんに喜んでもらえるようにと、シンディとステファン、ジェフたちの気持ちから実現したものなんです。
 見ていてわかるのは、彼らふたりともが、本当に滑ることが大好きだということ。引退を決意したことで、逆に肩の荷が降りて、余計な力が抜けて……なんだかすごく、のびのび滑ってるように見えますよね。試合を離れたことでルールに拘束されず、日本のお客さんの前で自分の一番いいところ見せられている。スケーターとして成長した姿を、日本のファンたちにも存分に披露しているようです。
 そんな彼らと一緒に練習していると、私たちも勉強になるし、人間的にも彼らはとても尊敬できる。一緒にツアーを回ることになって、ただゲストとして私たちキャストメンバーに加わっているだけでなく、みんなに『彼らが入ってきてよかったね!』、そう思わせてくれる。それが、ジェフリーとステファンの存在です」
 大阪公演と東京公演の間には「温泉に連れてってもらうんだよ、楽しみ!」と語っていたランビエール。リラックスして、ツアーメンバーたちとも交流を深めたふたり。東京公演で見せてくれるのは、さらに熱い「2億4千万の瞳」だ。

photo/Masami Morita

*スターズオンアイス東京公演  1/17、18 14時開演 東京・代々木第一体育館

*ステファン・ランビエール、ジェフリー・バトルへのインタビューは、近日発売予定の『PASSION2009 男子ングルフォトブック』に掲載されます


| 固定リンク | トラックバック (3)

真夏の氷上祭典2008ザ・アイスレポート(3)

Maojef2969s そしてなんといっても盛り上がったのは、フィナーレ。事前に告知もされ、誰もが楽しみにしていたふたりの世界チャンピオンの競演だ。
 浅田真央は昨シーズンのフリーの衣装に、ティアラをつけたお姫様風のいでたちで登場。続いて滑り出たジェフリー・バトルは、「True Love Kiss」のメロディーが流れる中、彼女と恋に落ちる王子様、という設定だ。
 こんなシチュエーションがなんとも似合うようになった、この夏の浅田真央の表情の豊かさ! プリンスと呼ぶにふさわしいバトルの滑りの高貴さ! 
 バトルが優しく手をさしのべる中で跳ぶ浅田真央のジャンプ。彼女に捧げるかのように円を描くバトルのイーグル。いつも見ているはずの彼らの得意技も、そのまま恋に揺れる心の動きのように見えるから不思議だ。

 実はフィギュアスケート、ここまでロマンチックな演出は、アイスショーでもなかなか観られない。ちょっと大人っぽいおしゃれなグループナンバーなどはよく見るが、こんなにかわいらしい恋物語を、しかも現役トップ選手で見られるとは思わなかった。またこれを演じるのが、誰からも愛され、どこからみてもおとぎ話の王子、王女のようなふたりのスケーター。あまりに「はまっている」ふたりの競演に、リハーサルでは見守る出演者たちも大盛り上がりで、「もう、キスしちゃえよ!」の声が盛大に飛んでいたとか。
 バトルが浅田真央を抱きかかえるフィニッシュのポーズには、どの回でも会場を揺るがすような大歓声が沸き起こった。
 詰め掛けたたくさんの「真央ちゃんファン」のちびっ子はもちろん。あらゆる世代のスケートファンが、ショーとしてのフィギュアスケートの楽しさを、この夢見心地のフィナーレで味わえたのではないだろうか。

 こうした遊び心たっぷりの演出に、誰よりもスケーターたちがのりのりだったのにも、わけがある。
 出演者同士がより親しく、より心地よく公演期間を過ごせるよう、浅田姉妹を案内人として海外ゲストを名古屋名所めぐりに連れ出したり、楽屋にプリクラの機械を置いて海外勢と日本選手たちが話をするきかっけをつくったり、そんな工夫もたくさんされていたそうだ。
 こうした小さな心遣いこそが、スケーターをリラックスさせ、ステージに向かうテンションを上げ、ショーの醸し出す雰囲気にそのまま繋がっていったのだ。

 オフシーズン、日本各地で開催されるアイスショー。
 選手たちが競技で活躍し、フィギュアスケートが盛り上がれば盛り上がるほど、その数は増えていく。そして数が増えれば増えるほど、アイスショー同士が競うようにどんどんレベルを上げ、質の高いステージを私たちに提供してくれる。
 競技として注目を集めるだけでなく、スポーツの枠を超え、エンターテイメントとしても日本のフィギュアスケートが花開きつつある――今は、そんな幸せな時代なのかもしれない。

photo/Masami Morita  text/Hirono Aoshima


| 固定リンク | トラックバック (30)

真夏の氷上祭典2008ザ・アイスレポート(2)

Tj1711s  出演するスケーターは誰か? それが、アイスショーの一番の注目ポイントだ。
 ファンはどんなスケーターが出るかを真っ先に知りたがるし、アイスショーに行くか否かの大きな判断基準にする。
 しかしどんなに豪華なスターたちを集めても、そのショーがお客さんを楽しませてくれるとは限らない――ここ数年でアイスショーを観る機会がずいぶん増えた日本のスケートファンは、そのことに気づいているだろう。
 次々とスターの演技が続く、それだけのショーでは、観客も、またスケーター自身も楽しめない。
 この場に立てることがうれしい! そう思いながら出演者たちが滑れるような舞台を、演出陣が用意することも、アイスショーにとっては大切なことだ。

 そういった点に、とことんまでこだわったアイスショーが「ザ・アイス」だ。
 浅田真央、ジェフリー・バトルと、ふたりの世界チャンピオンが顔をそろえ、さらにオリンピックチャンピオンのアレクセイ・ヤグディンまで登場。でも、決して出演者の豪華さに甘えてはいない。
 演技の合間には、毎公演違うメンバーでのトークショー。これは、普段なかなか聞くことのできないスケーターの肉声を聞ける楽しい時間だ。一部と二部の間に流れるビデオを見て簡単なダンスを覚えると、フィナーレでスケーターと一緒に踊れる、そんな楽しさも、ほかにはない。ショーの最後を彩る花火やエアーショットなどの演出も、見る人々を非日常の世界に来た高揚感でいっぱいにしてくれる。
 とにかく最初から最後まで、「お客さんを楽しませよう!」という心配りでいっぱいなのだ。

 何よりスケートファンのツボを心地よく刺激してくれたのは、ソロプログラムの合間とフィナーレで見られた、選手たちのコラボレーション演技。
 まず前半には、イギリスのアイスダンサー、ジョン・カーと小塚崇彦が、映画「俺たちフィギュアスケーター」の音楽に乗って、男同士のペアを披露! 男性が男性を投げるスロージャンプなども楽しいが、ダンサーとともにステップを踏んでも遜色ない小塚崇彦のエッジワークに改めて感嘆したり、昨シーズン話題になったジョン・カーのキルト姿を再び見られてお得な気分になったり……。お客さんだけでなく、選手たちもこの趣向には大喜び。弟のナンバーを見守っていたシニード・カーは、「私のパートナー、取られちゃうかと思ったわ!」と、大絶賛していた。
 また長洲未来、エヴァン・ライサチェク、サーシャ・コーエンという全米チャンピオン3人がそろった「We will rock you」などは、本場アメリカでもなかなか見られない豪華競演だ。3人とも、特別難しいものを見せるわけではないけれど、とにかく3人が同じ音楽で滑るだけで、とんでもない迫力、そして華が生まれる。なるほど、全米チャンピオン。スケートのテクニックでもなく、見せるテクニックでもなく、ただただ華があること。それも、このタイトルを得る者に求められる条件なのか、と改めて思った。

photo/Masami Morita  text/Hirono Aoshima


| 固定リンク | トラックバック (17)

真夏の氷上祭典2008ザ・アイス レポート 鈴木明子・タンゴの快感

Akiko1285_2  フィギュアスケートは、時に観客をさまざまな場所へと連れ出してくれる。
水鳥がなめらかに漂う湖上へ、オペラやミュージカルが繰り広げられる劇場空間へ……。
 ザ・アイス第1部での、鈴木明子、カー&カー、小塚崇彦へと続くショーの流れは、観客をボールルームへと誘い、それぞれのダンスの空気感で会場を満たした。

 カー姉弟は昨シーズンのオリジナルダンス「Auld Lang Syne(蛍の光)」を、ショーナンバーにアレンジして披露。彼らの故郷スコットランドの民族衣装・キルトが目に入った瞬間、このプログラムをもう一度見られる嬉しさでワクワクしてくる。日本人にも馴染みの深いメロディーに乗った、力強く、かつ軽やかな、ふたりの滑りは、スピード感あるフォークダンスを楽しませてくれた。そして、一緒に踊っているような高揚感が、さらに観客を盛り上げていく。
 小塚崇彦は今シーズンのEXナンバー「Save The Last Dance For Me(ラストダンスは私に)」。この曲を演じる彼は、まるで初めてのダンスパーティーに胸を高鳴らせているような初々しさを感じる。ダンスの楽しさを知った小塚崇彦が、愛する人の手を取って踊る幸せを観客にも体感させてくれる──そんなひとときを作り出していく。

 そして、この流れの冒頭でボールルームの空間を一気に作り上げたのは、鈴木明子の「リベルタンゴ」だった。
 スポットライトが当たると、もうそこにはダンサーに変身した鈴木明子がいた。背中の大きく開いた衣装からのぞく真っすぐな背筋は、色香とともに凛とした女性の強さを感じさせる。その背中と肩越しに見つめる視線が、会場中の緊張感をぐっと高めた。
 アイスダンスのようにパートナーがいるわけではないのに、ふたり分のエネルギーをも感じるダイナミックな振付け。エッジに乗って、トレースがカーブを描き続けるような全体構成。振付けの宮本賢二は今季、高橋大輔のショートプログラム「eye」でもタンゴを振付けているが、「リベルタンゴ」では、より王道のボールルームダンスらしい表現が前面に出ていた。
 スローパートから後半のステップへの盛り上がりでは、ここがスケートリンクだということを忘れてしまう程に、メリハリの利いたタンゴの足さばきが目を奪う。彼女のタンゴには、どんなに手を伸ばしても触れることを許してくれないような気高さが宿っているように感じられた。そして、観客が彼女の足さばきに目を奪われている間に、頬をそっと撫でられたような──残り香のような快感だけを置いて、彼女は行ってしまうのだ。
 観客がその快感に酔っている間に、見事なツイズルとともにクライマックスを迎え、ダンスは幕を閉じた。もっと快感を味わい続けたい……そんな余韻を残しながら。

 鈴木明子は、もともと音楽表現への評価が高いスケーターだ。けれど、リンクに立つだけで放つ、ここまでの存在感を、いつの間に培っていたのだろうか。その努力と自信が集結したような演技を、「リベルタンゴ」で見せてくれた。
 まさに、機は熟した。いよいよグランプリシリーズに参戦する今シーズン、彼女の存在感を世界の舞台で示してくれることを願う。そして、ぜひ、グランプリシリーズNHK杯で、上位選手として、このタンゴをエキシビションで披露してほしい。

photo/Sunao Noto  text/Yukiko Oshima


| 固定リンク | トラックバック (12)

フレンズオンアイス2008レポート(4) 髙橋大輔・Made in Japan の小さな奇跡

Daisukee8251_2   フレンズオンアイスの記者会見の席。新ショートプログラムについて語る髙橋大輔は、うれしそうだった。
 今回、彼が披露したソロナンバーは、今シーズンを闘っていく新SP、アコーディオン奏者cobaの「eye」。昨シーズンのEXナンバー「バチェラレット」に続く、宮本賢二振付けのプログラムだ。
「3~4年前からこの曲が好きで、ずっと滑りたいなと思っていて……。それがやっと実現できたので、自分自身でもすごく楽しみです!」
 昨シーズン、SP「白鳥の湖 Hip Hop Version」に関しては、「最初はやりたくなかったプログラム」と語り続けたことを思うと、意志を持って始動した髙橋大輔の姿が浮かび上がる。
 とはいうものの、実は「eye」という曲名を彼は知らなかったとか。
「(宮本賢二に)『cobaでやりたい』とだけ最初に言ったんです。そうしたら、彼の選んできてくれた曲が偶然にも『eye』で……。もう、ふたりの気持ちが一緒だった。そこから始まりました」
 心の通い合った同志との“小さな奇跡”を語る髙橋大輔は、ちょっと自慢げにさえ見えた。同じ方向をみつめ、慣れ親しんだ言葉で語り合い、盛り上がり、モノづくりをともにできる仲間が、こんなに身近にいるということ。しかも、日本人振付師×日本の楽曲というMade in Japanのプログラムで、世界チャンピオンを賭けて闘えるということ……彼の自信と手応えは、今回の演技にも現れていた。

 ドリームオンアイスで初披露されて1週間。フレンズオンアイスの「eye」は、さらに進化していた。
 前半のジャンプはより高さを増し、余裕の着氷。ショートにも4回転を入れる準備は整ったように見える。髙橋自身が「自分の課題」と語るスピンでも、シットスピンに柔軟性が増していた。競技会を見据え、好スタートを切れているようだ。
 後半は、ストレートラインステップとサーキュラーステップが続く、髙橋ワールドの見せ場。タンゴ特有の後ろに蹴り上げるステップや、女性をエスコートしているような振付けでタンゴの世界を表現する。
「(ステップが続いて)すごく大変。でも、ストレートラインステップとサーキュラーステップが全く別の雰囲気のものになっていると思う。サーキュラーステップの方は、ちょっとかわいらしい動き……男らしいけれど、かわいらしい、みたいなところを狙っています」

 髙橋大輔の狙いに嵌まったかのように、会場は彼のステップとともに揺れ動いていた。ステップを踏み、目の前を滑っていく髙橋とシンクロし、観客は心ごと、身体ごと、彼の進む方向に引き寄せられていくのだ。まるで、髙橋にもぎ取られていった自分の魂を追いかけるかのように……。
 これは、花道で見得を切る歌舞伎役者、はたまた早乙女太一や梅沢富美男など、大衆演劇のスター役者と観客との関係にも似ているのではないか、と思う。決して観客に、“美しき鑑賞物”としてだけの傍観はさせてくれない。観客と視線を掛け合い、心をさらい、観客を道連れに作りあげていくジャパニーズ・エンターテインメントの系譜が、髙橋大輔の演技の中にも脈々と流れているのではないだろうか。
 そんな彼だからこそ、Made in Japanのプログラムで闘う意義があり、その相乗効果を世界にアピールしてくれそうな予感がする。

 フレンズオンアイスのオリジナルメンバーの一員である、髙橋大輔と宮本賢二。この2人の“小さな奇跡”から始まったプロジェクトが、今シーズンの国際競技会で大きな成果となることを期待する。

photo/Sunao Noto    text/Yukiko Oshima


| 固定リンク | トラックバック (35)

フレンズオンアイス2008レポート(3) 荒川静香・そこにある物語[2]

Foi54s  しかし、このメドレーのメインディッシュは、ここからだった。
曲が「It's A  Beautiful Day(ある晴れた日に)」に変わると、荒川静香と入れ替わって登場したのは、この曲の振付師、シェイ・リーン・ボーン。大きな布を掲げ、なびかせて、カナダの生んだダンスチャンピオンが滑り出す。
 昨年のフレンズオンアイスでは、本田武史の「ゴッドファーザー」で、振付師の宮本賢二と本田武史との競演という豪華な“おまけ”がついた。
 今年はさらに進化して、振付師シェイ・リーン・ボーンと荒川静香との完全なるコラボレーションが実現! それぞれがソロパートだけでも十分魅せてくれるのに、ふたりのシンクロするステップは、美しさと力強さが拮抗し、まるで交響曲を奏でているかのような荘厳な調和をみせた。荒川静香のイナバウアー、シェイ・リーンのハイドロ・ブレーディング、そしてふたりが向かい合い、氷にひざまずいて、やわらかく身体を反らせるフィニッシュ……ふたりの天女が舞い降りたかのような、至福の時がそこに流れた。

 荒川静香とシェイ・リーン・ボーンは、さらに強力なタッグを組む。フレンズオンアイスの最後に披露した新ナンバーも、シェイ・リーンによる振付け。去年の「Candyman」など楽しいプログラムから「今年はイメージを一新していきたい」と、新しいナンバーの振付けを依頼したという。フレンズオンアイス直前の3日程でつくったという「Frozen」は、クールビューティーの異名をとる荒川の一面を引き出した、笑顔を見せない、まさにクールなナンバーだ。

 過去の荒川静香ストーリーを見せてくれたメドレーナンバー、そして、神秘的な身体の動きを振付けに取り込んだ、新ナンバーの「Frozen」。とどまることを知らない、プロスケーター荒川静香のリアルストーリーが、フレンズオンアイスには散りばめられていた。

photo/Masami Morita    text/Yukiko Oshima


| 固定リンク | トラックバック (56)

フレンズオンアイス2008レポート(2) 荒川静香・そこにある物語[1]

Shizuka925s  荒川静香は、「プロスケーター荒川静香」の一番のファンかもしれない───そんなことを、ふと思った。
 それは決してナルシシズムではなく、ファンに最も近い視点を持つプロデューサーとして。だからこそ、観客の求めるものに寄り添えるプログラムを次々とショーで披露していけるのではないだろうか。

 今回のフレンズオンアイスで、彼女が2部のオープニングに用意したのは、これまでのショーナンバーから4曲を選んだメドレーナンバー。
「このナンバーが見てみたい、とファンレターでリクエストいただいたなかから、いくつか選んで少しずついろいろなパートを滑ったら面白いかな、と考えました。曲も自分で編集したんです」(荒川静香)
 昨年末のクリスマスオンアイスでは、彼女は全7公演、毎回異なるソロナンバーを滑るという挑戦をした。複数公演通いつめる熱心なファンにとっては、様々なナンバーを堪能できる喜びがあり、各公演ごとにも、日本初上陸のナンバーや久々に披露するプログラムなど、サプライズを用意。ファン心をくすぐり、できるだけ多くのプログラムで、「スケーター荒川静香」の様々な顔を見せたいという彼女のこだわりが、今回のフレンズオンアイスにも通じている。

 メドレーナンバーは、昨年のフレンズオンアイスで初披露し、荒川自身が好きなショーナンバーとしても名を挙げる「Fly Me to the Moon」から華やかにスタート。黒の衣装で氷上を跳ねるように滑っていく。この選曲に喜びながらも、「去年と同じ?」という思いを一瞬抱いたファンも多かったのではないだろうか。すると音楽が止まり、そんな会場の心の声を代弁するかのように、この曲の振付師でもある宮本賢二と中野友加里の声がインサート。
「このナンバー、去年もやりましたよね。もっといろいろ見たいですね」
 メッセージを受け、荒川静香が身につけていた衣装を脱ぐと、黒から白へのグラデーションの衣装が現れる。そしてロンググローブを着けながらスタンバイして始まったのは、04-05シーズンのエキシビションナンバー「Memory」。もともと、ゆったりとした曲調が彼女の伸びやかな滑りを生かすプログラムだが、当時よりもさらにスケーティングが美しくなっている彼女にとっては、余裕すら感じられる構成だ。
 曲が終わると天井から釣鐘状のカーテンが降りてきて、その中に滑り込む。一瞬の静けさの後、会場に響いたのは「Candyman」の弾けるようなリズム。カーテンが吊り上げられると、中からは真っ白なファーの衣装に早替えした荒川静香が現れた。小犬が遊んでいるかのように、楽しげに氷上を駆け抜けてはジャンプ、ジャンプ。いったい彼女には、どれだけの体力が備わっているのだろう。

photo/Masami Morita    text/Yukiko Oshima


| 固定リンク | トラックバック (31)

フレンズオンアイス2008レポート(1)

Foto219s  先週のドリームオンアイスに引き続き、今週のフレンズオンアイス。
 2週続けてこんなゴージャスなショーを見てしまって、罰が当たらないだろうか? 

 もちろんふたつのショーは、大きく違う。ドリームオンアイスは前のシーズンに結果を残した選手だけに参加が許されるショー。スケーターたちはその名誉を噛みしめ、そこに立つ誇りを感じながら滑ってくれる。
 フレンズオンアイスは、荒川静香というメダリストを中心に、その仲間たちが作り上げるショー。選ばれたスケーター、というよりも、自ら集まったスケーターたちによる、ぐっとフレンドリーなアイスショーだ。
 オープニング、名前をコールされたスケーターたちは、荒川静香を中心にくるりとまわり、彼女と親しげに目を合わせ、選手ではなくキャストとして紹介される。
「また来年も見たい、というお客さんの声に支えられて、今年で3回目のショーができました。また、ショーは私ひとりでは成り立たないもの。集まってくれるスケーターがいるからできるものです。みんながここまで短い期間でひとつのショーを仕上げてくれて……。参加したスケーター同士が、この場に集まったことでまた高めあえるショーでありたい。またこの場にいることで、スケーターたちが楽しくリラックスできるショーでもありたい。そう願っています」(荒川静香)
 
 そんな彼女が「3年目だから、06年から連続で出演しているショーのオリジナルメンバーといっしょに、何かできないか」と考え、作り上げたのが、グループナンバー「オペラ座の怪人」だ。
 ショーの中盤。天井から吊るされた豪華なシャンデリアを中心に繰り広げられたのは、仮面をつけた宮本賢二の妖艶な滑り、恩田美栄、本田武史、田村岳斗と、同じ時代を戦い抜いた3人のコラボレーション。続いて中野友加里と荒川静香が純白の衣装で登場すると、二人そろってのダブルイナバウアー! そしてビールマンスピンをする荒川静香の周りで中野友加里がジャンプ。中野友加里のドーナツスピンの周りで荒川静香がジャンプ!
「作り出すのはひとつのナンバー。でもその中で、出てくれるスケーター、ひとりひとりのいいところを存分に引き出せる演出、ひとりひとりの個性がしっかり発揮できる演出を考えてみました」
 白いふたりのクリスティーヌが夢のような時間をつむぎだしたかと思うと、おなじみの音楽とともに現れたのは、怪人・髙橋大輔! あの2007年東京ワールドを沸かせた「オペラ座の怪人」のステップを、あの衣装で、久しぶりに見せてくれた。
「実はこの演目を選んだのも、大ちゃんの『オペラ座の怪人』のステップがとても好きで、それをうまく生かしつつグループナンバーができないかな、と思ったからなんです。ミュージカルも映画も見て、音楽もCDを5枚くらい駆使して構成したんですよ」
 1年以上を経て、怪人・大輔は一段と迫力を増していた。力強い足さばきや自在な上半身。身体の動きも表情も、すべてにおいて一層の凄みを帯びて見えたのは、ワイルドなヘアスタイルやボーカル入りのドラマチックな音楽のせいだけではないだろう。ステップの後にはジャンプもスパーンと決め、ここで一挙に美しいプログラムを引き締める。
「彼も友加里ちゃんも、アマチュア。でもショーを見ると、もうこの人たちプロだな、と思います。その姿に刺激を受けて、私たちプロももっとがんばらなきゃ! と思ってしまう」
 後半には、本田、田村、荒川、中野と、4人がいっせいにイーグル。美しいこの技をそれぞれに極めた4人。試合ではいつも大きな拍手をもらっていたこの技を、4人が一度に見せてしまうのだ。仕掛け人の荒川静香は、スケートファンが何を見れば喜ぶかを、本当によく知っている。
 最後は恩田、髙橋、宮本の3人が戻ってきて、華やかにフィニッシュ。
 
 フィギュアスケートのグループナンバーは、プリンスアイスワールドやスターズオンアイスなどでおなじみだ。フレンズオンアイスの「オペラ座の怪人」は、それに比べればぐっとシンプルな構成。しかしこのうえなく煌びやかな作品だった。
 こんなに美しいものをみんなで作り上げられる幼なじみ、仲間たちとは、いったいどんなものだろう? ジャンプが得意なスポーツ少年少女たちが競い合って成長して、大人になって、また自らの意思で集まって。「オペラ座の怪人」は、彼らからスケートファンに送られた、素敵なプレゼントだ。

 他にも、振付けを担当したシェイ・リーン・ボーンと荒川静香が競演した「ある晴れた日に」。一般公募の子供たちによるキッズスケーティングのコーナー。ファンからリクエストの多かったナンバーを次々に滑る荒川静香メドレーなど、フレンズオンアイスならではの見どころがたくさん。
 中庭健介は3年前のEXナンバー「ロミオとジュリエット」、小塚崇彦は噂の新SP「Take Five」、中野友加里も同じく新SP「ロマンス」と、現役選手たちがドリームオンアイスとは別のプログラムを滑ってくれたのもうれしい。

 フレンズオンアイスは本日6日も2公演を実施。当日券も発売される予定だ。

photo/Masami Morita   text/Hirono Aoshima 


| 固定リンク | トラックバック (66)

2008ミラクルオンアイスレポート(2)振付師・坂上美紀さんインタビュー

Pict0247s ――とても楽しいショーでした! 出演者は何名くらいですか?
坂上 昼と夜の2公演で、合わせると450名くらいですね。毎月クラス替えのテストがあるのですが、上のクラスでないとショーには出られないので、みんな出演を目標にがんばっているんですよ。

――運営は先生たちが?
坂上 リンクのスタッフと、クラブ・教室の先生たち。それから父兄の皆さんにご協力いただいています。照明のみ業者の方に入ってもらいましたが、音響など、基本的には自分たちで。費用もリンクが出すほか、クラブ費と参加費でやっています。

――ショーを始めたきっかけは何でしょうか。
坂上 やっぱり、クラブを盛り上げていきたい気持ちからですね。最初は小さなショーを考えていたんですが、たくさんの子どもたちが出たいということで、こんなに大きなショーになったんです。だからリハーサルや振付も、すごく大変なんですよ。毎年(佐藤)操先生と相談して……。でも、毎年できるだけ新しいことをやりたい。今年は『ダイアログ(セリフに合わせてスケーターが身振り手振りを付ける、演劇的なプログラム)』を入れたんです。スケーターは俳優でないといけない部分もありますし、少し変わったことも子どもたちにやらせてあげたいな、と。最初は照れている子もいましたが、最後には『なんだか神奈川FSCじゃなくて神奈川劇団だね』っていうくらい、演技してくれるようになりましたね。それにこうしてみんなでひとつのものを作ることで、チームワークもすごく良くなりました。

Pict0227s ――ショーの反響も大きいようですね。
坂上 選手たちがこれだけスポットライトを浴びる機会はなかなかありませんから、父兄の方々にも喜んでいただいてます。子どもたちにとっても、このショーがすごく良い目標になっていると思いますよ。これでリンク全体が盛り上がって、スケート人口が増えるきっかけになれば。それに、スケートは競技だけじゃなく、エンターテイメント性があることも知ってほしいですね。

――今回のテーマは「エコ」とのことですが。
坂上 今、神奈川スケートリンクは建て替えを検討中なのですが、新リンクではエコリンクというアイデアを発信していこうと、このテーマになりました。千葉のアクアリンクのようなエコリンクは、神奈川県にはまだありませんから。地域に密着したカルチャースクールを併設したリンクにできたら、という話もあるんですよ。昔からここにあって地域の人に馴染みの深いリンクですが、さらに夏休みや土日に初心者教室を開いたりして、もっとリンクを訪れやすい雰囲気を作ろうとしています。もし建て替えて客席を増やせれば、このショーもたくさんの地域の方々に見に来てほしいですね。

 今やメジャースポーツといわれるフィギュアスケート。しかし、テレビ以外で接することはほとんど無いのが多くの人にとっての現状ではないだろうか。
 もし「ミラクルオンアイス」のようなアイスショーや神奈川スケートリンクのようなリンクが身近にあったら……もっと多くの人がフィギュアスケートの新しい魅力と出会えるかもしれない。

photo/Noboru Tsuji  text/Miduka Kumakura


| 固定リンク | トラックバック (47)

2008ミラクルオンアイスレポート(1)

Pict0004s  夏のアイスショーシーズンまっただなか。
 来日スケーター、日本代表スケーターらによる華やかなショーも楽しいが、日本各地のリンクでは、地元の選手、ちびっ子たちが活躍する小さなアイスショーやエキシビションもたくさん開催されている。「スケートを見るファン」だけでなく、「スケートを滑るファン」も増やすこと、また、このスポーツの底辺からの活性化、選手の練習場所であるリンクのアピールなど、さまざまな願いが込められた手作りのショーだ。
 7月は大きなイベントのレポートともに、07-08シーズン後半に各地で催された小さなアイスショーも、少しずつ紹介していきたい。

●2008ミラクルオンアイスレポート

 50年以上も地元の人々から親しまれている、神奈川スケートリンク(横浜市神奈川区)。
 ここでは3年前から、フィギュアスケートクラブの生徒たちによるアイスショー「ミラクルオンアイス」が開催されている。プロや現役トップスケーターによるものとは一味違った魅力がたくさん詰まったアイスショーだ。今年は6月22日に開催され、多くのスケーターが精一杯のパフォーマンスを見せてくれた。
 残念ながら客席数の都合により一般公開はされていないが、今回はリンク専任振付師の坂上美紀さんへのインタビューとともにショーのレポートをお届けしたい。

 今年のショーのテーマは、エコ「地球を救え」。
 第1部は、セリフシーンを挟みながら様々な国や地域を旅していくというミュージカル仕立ての構成だ。上級クラスのスケーターたちによる元気いっぱいのグループナンバー「WE WILL ROCK YOU」で始まり、様々なクラスのスケーターたちが「アラジン」や「トゥーランドット」などのグループナンバーを見せてくれた。
 転んでしまうのでは? とハラハラしてしまうような4、5歳のちびっこたちによる演技や、20人~30人という大人数で次々と見せるスピンやスパイラルは、クラブが主催するショーならでは。懸命に演技をするスケーターたちに、客席からは終始温かい声援が送られていた。
Pict0261s_2  第2部はミュージカルメドレー。大人グループの「マイフェアレディ」には60代・70代の方も参加していたが、溌剌とした演技は年齢を感じさせないものだった。それらのグループナンバーに交え、選手たちのソロ演技も披露。どのスケーターも、スポットライトを浴びて滑ることを心の底から楽しんでいるように見えた。
 ソロ演技のトリは、昨シーズン世界ジュニアに出場するなど、大活躍したジュニア、佐々木彰生選手の「オペラ座の怪人」。その前に披露した陽気なナンバー「マスク」とはがらりと雰囲気を変えての演技に、会場のあちこちから溜息が漏れた。その溜息の半分くらいは「いつか自分もこうなりたい」と願う子どもたちのものではなかっただろうか。いつも同じリンクで練習しているお兄さんお姉さんが、スポットライトを浴びて輝いている姿を目の前で見られる貴重な機会だ。これをきっかけにフィギュアスケートに夢中になる子どもたちは、きっと数多くいることだろう。

photo/Noboru Tsuji  text/Miduka Kumakura


| 固定リンク | トラックバック (29)

ドリームオンアイス2008レポート(3)  安藤美姫・5年ごしの思い

Miki653s  そうか、ボレロだったのか――。
「ドリームオンアイスで滑る曲、曲名はまだ言えないけれど、ヒントを出しますね」
 うふふ、と笑った彼女のヒントとは、「絶対に誰もが聴いたことのある曲」「私が世界ジュニアに出ていたころから滑ってみたかった曲」そして、「滑るからには、楽しんでばかりじゃだめ。真剣に取り組まないといけない曲」。
 そういえば彼女は、トリノオリンピックに出られたら、絶対「ボレロ」を滑りたい、と高校一年生のころのインタビューでも語っていたのだった。

「オリンピックでのフリーのプログラムは、もうラベルの『ボレロ』って決めてるんです。ジュニアの大会に一緒に出てるドノヴァンっていうアメリカの選手がいるんですけど、その選手を試合で初めて見た時に、ボレロを踊っていてかっこよかったんですね。雰囲気がすごーく良くて……。
 オリンピックで6.0が出たアイスダンスの演技のこととかは、ぜんぜん知らなくて、ただボレロっていいなーっと、その時思った。だから美姫にとってのボレロのイメージって、トービル&ディーンじゃなくてドノヴァンなんです(笑)。で、信夫先生にボレロを踊りたいって言ったら、『フィギュアスケートでは伝説のプログラムなんだよ』って聞いて、あ、そうなんだ、じゃあ今はまだちょっと早いな、と。
 でも、オリンピックのシーズンには、絶対ボレロ! どんなボレロを踊るか、まだイメージはわかないけれど……。衣装は、赤で! それからやっぱり……伝説のボレロみたいに6.0を出したい。6.0の出るボレロを、トリノでは見せたいです!」
(『little wings 新世代の女子フィギュアスケーター8人の素顔』03年双葉社刊より)

 あれから本当にいろいろなことがあったな、と思う。ジュニア時代のライバル、ローアン・ドノヴァンは引退してしまったし、採点制度は変わり、もうどんなにがんばっても「6.0」はもらえない。彼女は何度かコーチを変え、トリノオリンピックでは「ボレロ」ではない曲を滑った。さらにその後二度、乗り越えてきた波乱の世界選手権。
 でも、こんなに長い時間が経っても、こんなにいろいろなことがあっても、安藤美姫が「ボレロ」への気持ちを失っていなかったことに驚いた。そしてまた、彼女が「ボレロ」を滑るにふさわしいスケーターに、時間をかけてゆっくり成長してきたことにも。

 この日、安藤美姫は、ひとりの巫女のように「ボレロ」を舞った。
 バレエのボレロをイメージしたというシンプルな、だが彼女らしさを象徴する色、赤と黒の衣装。ひとつに括っただけのシンプルなヘアスタイル。まるで神に仕えるように、この思い入れのある音楽に寄り添って、何かを伝えようとする強い意思を持ちながら、初めてのお披露目の滑り、その一瞬一瞬をかみしめるように滑る。
「今日(27日)は熱があって、体がきつくて、辛かった。でもなんとか滑りきることができました」
 序盤の静けさも、クライマックスの激しさも 全身で音を感じて、捉えて。そうすると、いつもと同じポジションのスピンもスパイラルも、ボレロのためのスピン、スパイラルになる。「この曲で滑りたい」、思い続けた安藤美姫に、難曲「ボレロ」も扉を開いたようにさえ見える。
 一昨年のショーナンバー「I believe」のように、プログラムそのものに力をもらうこともある。「どうしても気持ちを入れられない」と、シーズン途中で競技ナンバーを変更してしまうことも多い。どんな曲でも自分のものにしてしまうような器用さはない、でも思い入れのある曲であればあるほど、輝ける。そんな安藤美姫にとって、「ボレロ」は特別な音楽、ほんとうの力を引き出してくれる音楽だ。

 フィギュアスケーターの選手寿命は、長いようで短い。滑りたい曲、伝えたいもの、得たい賛辞。そんなものすべてに届くことなく銀盤を去る選手も多いだろう。「ボレロを滑りたい」、その夢を5年ごしに彼女が叶えたことは、スケートの神様からの贈り物のようにも思える。
 やめたいと思うことは何度もあった、と彼女は言う。でもこうして少しずつ、願うが叶うから。ひとつずつ、誰かに届くから。それを知っているから、安藤美姫は氷の上に立ち続ける。

photo/Masami Morita   text/Hirono Aoshima 


| 固定リンク | トラックバック (56)

ドリームオンアイス2008レポート(2)  小塚崇彦・少年と青年のはざまで

Taka080627doi_0827_3  今年は小塚崇彦、踊るつもりだな!
 ドリームオンアイスで滑る予定のナンバー、「ラストダンスは私に」の話を彼から聞いたとき、あまりに楽しそうに新しいプログラムのことを語ってくれるので、ずいぶん驚いてしまった。
 憧れのカート・ブラウニング、そしてブライアン・ボイタノ。彼らの振付師として有名なサンドラ・べシックに、エキシビションのみだが振り付けをしてもらえることになって。彼女の元で、ひとうひとつの音を丁寧に拾うことの面白さ、見せる部分の楽しさと丁寧なスケーティングの両立の醍醐味を知って。
「カートにもこのプログラム、いいねって言ってもらえたんですよ!」
 そう言って顔をほころばせる彼の言葉に、選手にプログラムの話を聞くのはほんとうに楽しいな、と思った。

 思えばフィギュアスケートのプログラムは、贅沢なものだ。バレエなどの振り付けは、たくさんのダンサーに踊り継がれていくことが多いが、スケートのプログラムは、基本的にひとりの選手のためだけに作られる。一流の振付師、一流の芸術家が、自分のためだけの作品を作ってくれる――それはいったい、どんな気持ちがするものだろう。
 小塚崇彦が今、本当に大切にしているナンバー「ラストダンス――」は、彼の思いの強さにたがわず、見るものを爽やかな心地よさに浸らせてしまう、すばらしい作品だった。
 滑りの美しさが何よりの武器である彼が、音楽が鳴りだすと同時に見せたのは、ちょっと粋なマイム。両手を差し出すしぐさ、顔に手を当てる動き。今までならば少し照れが入っていた振付けも自然にこなし、それがちっともいやみな感じがしない。お客さんをのせるために作られたようなダンスナンバーに、まずは彼自身が自然にのると、客席からの手拍子もごく自然にわいてくる。
 今年19歳。年齢的には青年といえるかもしれないが、まだちょっと少年の面影が濃い彼によくあった動き。迷いなく軽やかな、この時期の男性だけがまとい、放つことをゆるされる空気。
 また、ポップに、キュートに、おしゃれに踊りつつも、スケートの信じられないような滑らかさも大事にしたプログラム。よくぞ小塚崇彦に、今この時期の小塚崇彦にこれを作ってくれた! とサンドラ・べシックに感謝したくなってしまった。

 世界に、少年と青年のはざまの輝き、素直さを持つ男性は、たくさんいるかもしれない。でも彼らのなかで、こんなにスケートがきれいなのは、世界中できっと小塚崇彦だけ。「ラストダンスは私に」は、間違いなく彼だけの表現できる、彼だけの世界だ。
 あまりに技術的な部分が巧すぎて、もう少し個性があれば、もう少し見せてくれれば……といわれ続けてきた小塚崇彦。今年はそれを、しっかりと見つけ、しっかり捉えていく年になるかもしれない。
 でもすべてを見せ終えた後。カーテンの前で丁寧に一礼する彼を見て。やっぱりちょっと体育会系な、礼儀正しい「小塚選手」はそのままそこにいるな、と思った。まじめで、実はやんちゃで、ちょっと照れ屋な彼の本質はそのまま。そのまま新しい小塚崇彦に、無理することなく自然に変っていくのだろう。

photo/Sunao Noto  text/Hirono Aoshima


| 固定リンク | トラックバック (45)

ドリームオンアイス2008レポート(1)  村主章枝・積み上げてきたもの

Fumie1123s  今年のドリームオンアイスは凄まじかった――。
 佐々木彰生、水津瑠美ら、氷上の動きとは思えないダンスを見せたジュニア勢。鈴木明子、南里康晴ら、さらに新しい一面を見せてくれたシニアのベテテラン勢。
 ランビエールなど、はるばるドリームオンアイスのためにやってきてくれた海外ゲストが渾身のスケートを見せれば、高橋大輔、浅田真央ら日本のトップスケーターもまた、シーズン前とは思えない完成度の高い新プログラムを披露――。
 今年で5回目、すでにスケートファンにとってはおなじみの、絶対見逃せないショーとなったドリームオンアイスだが、例年に増しての充実度、内容の濃さ。今の日本のフィギュアスケート界がどれだけ厚みがあるかを、改めて思い知らされた気がする。
 久しぶりに生で彼らを見た人々は、「やっぱりフィギュアスケートって素敵」とため息を漏らした。ずっとスケートを見続けてきたファンは、「今、スケートファンでいられることが幸せ」としみじみ言った。
 22組のスケーターの中からほんの数名だけを取り上げるのはとても難しいが、なかでも目を引いた3人のスケーターを、来るシーズンへの期待もこめて紹介してみたい。

 村主章枝が披露したプログラムは「ウインナーワルツ」。
 2シーズン前にボーカル入りの「ファンタジア」を滑った時にコラボレーションしたアーティスト、カール・ジェンキンズ、彼のユニット、アディエマスのナンバーだ。
 お人形のような、ピエロのような、パントマイマーのような。さまざまなプログラムに挑戦してきた彼女だが、これまでのどの村主章枝とも違う、幻想的で、かつ、いきいきとかわいらしいプログラム。音楽をただのBGMではなく、響きと動きを重ねて、溶け込ませて、プログラムにいかしきるアレクサンドル・ズーリンの振り付けもすばらしい。
 縞模様のシャツや大きな赤いハートが印象的な衣装、同じくハートをペイントしたメイクなど、細部までこだわっているだけでなく。陸上マイムをたっぷり見せるスタートから、飛び跳ねるようにお辞儀をするフィニッシュまで、ひとつも手を抜くところなく。
 ドリームオンアイス、どのスケーターも溌剌と個性的な滑りを見せてくれたが、「フィギュアスケートというスポーツ」ではなく、「フィギュアスケートというエンタテインメント」を見せてくれたのは、やはりこの人、村主章枝だった。
「でも、今日(27日)は失敗失敗! ジャンプも転んじゃったしね」
 と、本人はまだまだ仕上がりに満足いかない様子。しかし、長く「見せるスケート」の追及を続けてきた村主章枝だからこそのナンバーを見られて、ファンはきっと、大満足したはずだ。
 同時に、ジュニアのころから変わらない、トウジャンプに入るおなじみの構えなどを見ると、ああ、こんなに長い時間がたっても、彼女はここにいてくれるのだ、とうれしく思う。ローリー・ニコルのプログラムを、一生懸命踊ろうとしていた小さな女の子が、こんなにも見所たっぷりのナンバーを滑りこなしてしまうとは。「あの彼女だからこそ」とも、「あの彼女がこんなにも」とも、相反する思いを見ている人に抱かせる滑り。
 ほんとうに、一年一年こつこつと、村主章枝がその肉体と意思で積み上げてきたものだ。
 また今回のプログラムが、2年間師事したアレクサンドル・ズーリンとの最後の作品であることも興味深い。この数シーズン、ロシアの若いコーチの元で、彼女は少し迷走しているようにも見えた。彼女のやりたいこととズーリンの作り出すものがかみ合わず、時には借りてきたプログラムを滑っているように見えたことさえあった。
 でも最後のプログラムを、こんなにもフミエテイストに、彼女だけのものとして仕上げて見せて。やはり彼女は、きちんと吸収すべきものを吸収して、次のステップへと進もうとしているのだ、と思った。
 ズーリンのもとで培ったものの集大成としての「ウインナーワルツ」。さらに新しいコーチ兼振付師、ニコライ・モロゾフのもとでどんな色を重ねるのか……。彼女の新しいシーズンが、いっそう楽しみになる一幕だった。

photo/Masami Morita   text/Hirono Aoshima 


| 固定リンク | トラックバック (39)

プリンスアイスワールド2008レポート(2)「プロ」として――三者三様の生き方・魅せ方

Yoshie_f6i6566_2

 オープニング、プリンスアイスワールドチームの華やかな群舞が終わると、照明が落ち、物悲しく乾いたピアノの音で『シェルタリング・スカイ』の旋律が流れる。

 リンクに立つのは、本田武史・荒川静香・恩田美栄の三人。十代の頃からよくじゃれ合っていた三人が目の前で繰り広げているのは、大人の危うい三角関係の均衡を象徴しているような緊迫した世界だ。それぞれ違う道を歩いて大人になり、プロとなり、こういった複雑な心情表現ができるようになったのかと思うと感慨深いナンバーだった。

 このシリアスなプログラムでつかの間交錯した三人は、またすぐに各自の歩む道へと戻ってゆく。

 恩田美栄は男性チームに混ざって力強い津軽三味線の音に負けない迫力でアクセルを跳び、ダンスバトルをテーマとした群舞ではローリング・トゥエンティーズをモチーフにしたような衣装でキュートに踊りまくる。勢いあまって隣の人とぶつかりそうになるのも彼女らしいご愛嬌。そしてソロナンバーでは、黒のパンツルックで格好よく、ちょっとアダルトに決めてみせる。
「プリンスアイスワールド、2年生になりました。1年目は社会勉強もいろいろさせていただいた年。2年目も、群舞、ソロ、その他、いろいろがんばっていきたいと思います」
 このコメント通り、ショーのハイライトとなる場面で、彼女は誰よりも楽しそうに登場して八面六臂の大活躍。プリンスアイスワールドのムードメーカーとして、既に確固たる地位を築いているように見えた。

 恩田美栄より先にプロスケーターとなった二人も、存在感では負けていない。
 ソロで『Nyah』を見せてくれた本田武史は、威風堂々の立ち姿で場の空気を引き締める。これまで『レイエンダ』や『ドン・キホーテ』、『アランフェス協奏曲』などを滑ってきただけあって、スパニッシュサウンドの間の取り方は体に染み込んでおり、ここぞというポイントでの見得の切り方はさすが堂に入っている。さらにジャンプではトリプルアクセルにも挑戦! 彼が今まで培ってきた大事な財産は、この『Nyah』に惜しげなくちりばめられている。だが彼の演技中、何よりも嬉しかったのは、選手時代の本田武史に常に張り付いていた「孤高のエース」の影がいつの間にか払拭されていて、その代わりに貫禄みなぎる雰囲気や地に足のついた包容力を感じさせてくれた点だ。
「今年はいろいろなジャンルに挑戦していきたいです。そして、ケガのない一年にしていきたい」とのことだが、もともと表現の幅広さには定評のあった彼が、次は何に挑戦してくれるのか――見ている側も楽しみにしたい。

Shizuka_f6i6911   そして、荒川静香。
『シェルタリング・スカイ』の時もそうだったのだが、ソロナンバー『Fly me to the moon』でも、柔らかく伸びるスケーティングで登場。最初のポーズを取った瞬間、パンッと何かが弾けたように気が満ちて、会場中の視線が彼女に釘付けになる。荒川静香のふとした仕草や何気ないムーブメントですら、目に吸い付いてしまう。音楽が終わるまで、この白く輝く存在から目を離すことなど考えもつかなくなってしまうのだ。顔色ひとつ変えずに淡々と難しい技をこなしていたかつての天才少女には、こんな才能まで眠っていたのかと、ただただ彼女の動きに夢中になっていた。

「2008年のシーズンもいよいよスタートします。プリンスアイスワールドからスタートできてとてもうれしい。新しい気持ちでまたがんばれます。今シーズンはアップテンポの曲を滑るので、いつも元気な姿を見せたいです」
 と、ゲネプロ後に語った荒川静香の言葉に、きっと嘘偽りはない。彼女が『Fly me to the moon』に合わせて踊る姿は、楽しく嬉しそうな元気な女の子にしか見えなかったからだ。

 彼女はまだまだ変貌を遂げてゆくのだろう。荒川静香だけではなく、恩田美栄も、本田武史も、これからの新しい出会いによってたくさんのものを得ていくのだろう。三者三様の個性が衝突したり調和したりしながら高まってゆくコラボレーションパフォーマンスで、その成長度合いをこれから毎年見られたら嬉しいな、と思った。

photo/Sunao Noto   text/Koyori Kirishima


| 固定リンク | トラックバック (123)

プリンスアイスワールド2008レポート(1)  中庭健介 新しいショーナンバーは「You're Beautiful」

Kensuke_12e1010  佐野稔、渡部絵美らの「ビバ! アイスワールド」から30年。
 日本で初めての、そして現在でも唯一のプロアイスショー、プリンスアイスワールド。その記念すべき30周年のシーズンが、4月26日からの横浜公演をかわきりに始まった。
 今年の見どころは、前半の最後を飾る「プリンスアイスワールド・スペシャルコレクション」。大島淳、薄田隆哉、おなじみ名コンビのちょっとコミカルなナンバー、ショートトラックの松橋浩幸、新海俊清ら男性スケーターがいつもとは違うハードボイルドな一面を見せる、おしゃれなナンバー、黒いパンツルックで決めた恩田美栄を中心に繰り広げられる、艶やかなダンスナンバー。そしてシングルのジャンプもシンクロの技も取り入れた、総勢20名のスケーターによる圧巻の「ボレロ」! 
 ジャンプもスケート技術も海外のアイスショーに負けないプリンスアイスワールドチームだからこそ、こんなものを見たかった! そう思わせてくれる美しいプログラムの数々だ。
 
 プロチームの気迫の中、ゲストのエリジブルスケーターたちも負けてはいない。
 横浜公演には村主章枝、中野友加里、武田奈也、高橋大輔、中庭健介の5人の日本代表スケーターが参加。何人かは今シーズンの新エキシビションナンバーも初披露してくれた。
 プリンスアイスワールドへの参加は、広島公演に続いて2度目という中庭健介も、新ナンバー「You're Beautiful」(歌:ジェイムズ・ブラント)を披露。静かで力強いボーカル曲に乗って、タメのきかせどころを心得た身体が、しなかやに舞う。昨シーズンの衝撃的な「マンボ」とは180度違う、これぞ「ザ・ケンスケ!」という彼らしい世界を見せてくれた。
 25日、ゲネプロ終了後の中庭選手の声を聞いてみよう。

――新横浜のプリンスアイスワールドには、初お目見え、ですね。
中庭 はい、新横浜のリンクはジュニア時代、松村充先生に振付けをしていただいていたころ、ずいぶん昔から僕にとってはなじみのあるリンク。ここでの公演に参加できて光栄です。横浜公演を通して、一人でも多くの方に僕というスケーターを知っていただけたら!

――昨シーズン最後の試合、四大陸選手権から2か月。始めたかったジャズダンスには、チャレンジできましたか?
中庭 実は今、ダンスを習う前準備として、ウエイトトレーニングとヨガに力を入れているところです。踊る上で、僕の一番の問題は背中が硬いこと。硬いままで踊りを習っても効果は薄い。もっと身体の稼働域を広げて、背中も存分に動かせるようになってからスタジオに通おうということで、まずはトレーニング、ストレッチに力を入れています。

――なるほど、オフにも関わらず、さらに身体も締まったように見えますね。
中庭 ウエイトトレーニングを始めて2ヶ月で、2キロ増やしました。でも体脂肪率は変わってないんですよ!

――気合十分ななか、今日は新しいショーナンバーもいち早く披露。振付けを担当されたのは……。
中庭 もちろん宮本賢二さんです! 去年に続き、選曲も彼にお願いしました。ランビエールやダンスのマキシムたち(デンコワ&スタビスキー。ともに05-06シーズンのEXナンバー)も滑っている、かなり有名な曲なのでちょっと迷いましたが……。でも去年の「マンボ」ができれば、もう何だってできますよ(笑)。

――大きなチャレンジだった昨年とは違い、本来の持ち味再発見、なショーナンバーですね。
中庭 選曲は賢二先生ですが、今年は自分らしいプログラムに戻そうということ、僕自身でだいぶ前から決めていました。去年はずいぶんインパクトが強かったから(笑)、今年は僕っぽいものにしようと。でもきれいな曲は、ごまかしがきかないのが難しい……。実は最後まで通して滑ったのは、今日が初めてなんですよ。腰を痛めて名古屋フェスティバルにも出られないほどで、振り付けが終わったのも3日前だったので。今日はビデオも撮ってもらってますので、このあと自分でダメだしして(笑)。これからもっといいプログラムにしていきます!

――たくさんのスケーターが滑ってきた「You're Beautiful」ですが、中庭選手が見せてくれるのは、どんな恋物語でしょうか。
中庭 振り付けの賢二さんとも話しましたが、まずは歌詞の表現している世界を大事にしたい。僕は最後の「I will never be with you、いっしょにいられない」っていうひとことが好きで、気持ちの切なさにすごく共感します。だから僕は僕なりの世界を表現するけれど、見る人にはそれぞれの切ないストーリーを、このプログラムを見て思い浮かべてほしいな……そんなふうにアイスショー、滑っていきたいですね。

 プロの誇りをかけたプリンスアイスワールドチームの多彩なナンバー。
 シーズンオフの楽しげな表情を見せつつも、来季に向けての意気込みも感じる日本代表選手たちのナンバー。
 様々な楽しみが詰まったプリンスアイスワールド横浜公演は、4月26日(土)~5月6日(火) (4/28・30、5/1・2休演)、新横浜スケートセンターにて!

photo/Sunao Noto   text/Hirono Aoshima
 
*中庭健介選手のインタビューが、発売中の別冊ザテレビジョン 男子フィギュアスケート~2007-2008メモリアルブック~に掲載されています


| 固定リンク | トラックバック (167)

長野メモリアルオンアイス2008レポート(2)

_f6i0456  本田武史が披露したのは、『Nyah』と『かたちあるもの』。ふたつとも、今シーズン披露している最新ショーナンバーだが、いずれも、長野オリンピックから10年の集大成とさえ感じる素晴らしい滑りで魅せてくれた。
 『Nyah』では、前半は3回転ジャンプを跳びながらも感情を抑えた演技でタメをつくる。そして後半、一気に激しく情熱をぶつけるステップで観客の心を引きつけた。
 『かたちあるもの』では、のびやかなスケーティングと全身を使った大きな演技が一段とスケールアップ。まるで会場全体に愛を振りまくかのように、滑ることの幸せに満ちた演技が印象的だった。
 どちらのプログラムも、彼の中で何かが変わったのではないか、と思ってしまう程に、解き放たれ、ほんとうに気持ちよさそうに滑っていた。しかし、それは決して独りよがりのものではない。観客を巻き込む「表現」に昇華されているからこそ、私たちの心に熱いものを残してくれた。
 彼が変わった理由は何だろうか……。
「スターズ・オン・アイス」ジャパンツアーで、初めてキャストとして参加したことによる意識改革。四大陸選手権などで目の当たりにした後輩・髙橋大輔の活躍による刺激。間もなく父親となる心境の変化……いろいろと勘ぐればキリがない。しかし、きっと、これまでの歳月が集積した成果なのだろう。

 長野オリンピックでは、自身のスケートを出しきれなかった3人の日本代表たちが、10年後のこの日、こうして見事に自分を表現し、観客を沸かせていた。これが、長野オリンピックからの10年、そのものだったのではないだろうか。

 フィナーレでは、映画『ムーラン・ルージュ』のメインキャストを演じた荒川静香、本田武史、田村岳斗の3人。荒川を巡り、本田と田村が殴り合いの喧嘩をして、最後に本田と荒川が結ばれるというシーンを演じた。
 本田と荒川は、昨年の「プリンスアイスワールド」でも『ウエスト・サイド物語』でラブストーリーを演じたが、今回のショーでも、相変わらずの恥じらいある演技が微笑ましい。
 プロスケーターとしての彼らは、まだ歩き始めたばかり。10年後の今が、また新たなスタートとなったのではないだろうか。彼らの道は、まだまだ続く。

photo/Sunao Noto   text/Yukiko Oshima


| 固定リンク | トラックバック (18)

長野メモリアルオンアイス 2008レポート(1)

_f6i0292  長野冬季オリンピックから10年。この記念として3月1日、「長野メモリアルオンアイス2008」が開催された。
 オープニングで観客をショーの世界に引き込んだのは、ステファン・ランビエールの振付けを担当したことでも有名なダンサー、アントニオ・ナハロ。そしてスケーターたちが映画『ムーラン・ルージュ』を演じる「チャンピオンズ・オン・アイス」仕様のストーリーをベースに展開する。だが、ここは長野。聖火が聖火台に灯されて、ショーの間中燃え続けるという演出などで、メモリアルが表現された。
 スケーターたちもメモリアル公演にふさわしく、長野オリンピックのペア金メダリスト、オクサナ・カザコワ&アルトゥール・ドミトリエフやアイスダンス金メダリスト、オクサナ“パーシャ”・グリシュク&エフゲニー・プラトフが登場。長野オリンピックに出場していた女子シングルのスルヤ・ボナリー、アイスダンスのエレーナ・グルシナ&ルスラン・ゴンチャロフも来日して華を添えた。
 日本代表として長野オリンピックに出場した荒川静香、本田武史、田村岳斗も出演。彼らの演技は、長野オリンピックからの10年という歳月を体現しているかのようだった。

_f6i0499  田村岳斗が第1部で披露したのは、長野オリンピックのフリープログラムで演じた「シェルブールの雨傘」。昨年末のクリスマス・オン・アイスに続き、当時の衣装だった青いシャツを身に着けての登場となった。
 いまやコーチとしてリンクサイドに立つ彼の姿の方が、目にする機会は多い。でもショーでは、失敗があったとしても果敢にジャンプに挑み、長身が氷上に映える“カッコいい岳斗”を見せ続けている。そんな彼の歩みを見て、きっと教え子たちも、おおいに刺激を受けているに違いない――そんなことが頭をよぎる演技だった。

 荒川静香は、第1部で『Fly me to the moon』、第2部で『Nessun Dorma』を演じた。
 昨年の「フレンズ・オン・アイス」で初お披露目された時には、飛び跳ねながらポップに踊る演技が印象に残るプログラムだった『Fly me to the moon』。今回は、そのポップさを残しながらも、荒川の滑らかなスケーティングが当初よりも色濃く出ているようだった。
 荒川の新しい一面をみせる『Fly me to the moon』に対して、『Nessun Dorma』は、彼女の真骨頂を発揮するナンバーだ。やわらかさ、気高さ、強さが、彼女のスケートで表現され、まさしく「美」のオーラを輝き放つ。これが、長野オリンピックから8年後にトリノで金メダルを得た、荒川静香の10年後の姿だった。

photo/Sunao Noto   text/Yukiko Oshima


| 固定リンク | トラックバック (16)

スターズオンアイス東京公演開催中 佐藤有香さんインタビュー(2)

Yukap1000417 ――さらに有香さんは、ソロナンバーでもダンサブルな「Swing with me」と、スローな「1000 Miles Away」の2曲を披露していますね。
佐藤 今回、色々なことを考えたのは、一曲目の「1000 Miles Away」かな……。これはジュエルっていうアメリカの女性アーティストの曲なんですが、彼女が自分の人生について詩を語るように、エモーショナルに歌っているんです。スローできれいなメロディだけれどパワフルさもある、という曲。今までバラードはたくさん滑ってきたんですが、振付の方に「この曲はどうかな?」って言われた時、実はちょっと自信がなかったんですね。美しいメロディーが流れる中できれいに滑るだけでなく、美しさの内側で燃えるものをどう表現すればいいのか……そう考えた時に、私にはこれはできないんじゃないか、と。

――歌詞に共感できなかったり、曲の表現する世界に入り込めなかったり?
佐藤 いえ、歌自体はとても好きな歌なんです。でもこの世界を、私がスケートで伝えられるほどの演技力があるのかな、ってすごく心配で……。だから一度はこの曲に「ノー」って言ったんですよ。で、その代りのものを探そうって、いろいろな音楽を聞いて、他のきれいな曲もいろいろ滑ってみて……。でも、ここでもうひとつ私のスケートをレベルアップさせるためには、「1000 Miles Away」に踏み出してみてもいいかな、ってだんだん思うようになってきたんです。今の自分の力でこの曲を滑るために、自分なりに、こういう表現の仕方だったら出来るんじゃないかってことも、振付師さんと相談して……じゃあこの曲でやってみます! って。だから「1000 Miles Away」、私にとってはチャレンジなんですよ。ちょっと今までの私とは違うものになっているかな? 私ももうアスリートとしてはおばちゃんになってしまって、悲しいなあ、と思うこともあるんですけれど……でもこの曲に関しては、ちょっと年季が入っていないと出せないものがあるかもしれない。そんなチャレンジでもあります。見た方に、「へえ、おばちゃんもいいな」って思っていただけるような(笑)。そんなナンバーになっていればと思います。

――「1000 Miles Away」、ぜひ楽しみに! それにしてもスターズオンアイス初来日(95年)のころに比べて、日本でのフィギュアスケートの受けとられ方も、大きく変わってきていますね。
佐藤 そうですね。日本のスケート界も、一般の方のスケートへの好奇心も、ものすごく変わってきています。特にみなさんの注目されているのは、試合。オリンピックや世界選手権、グランプリシリーズなどでは、限界までジャンプを跳んで跳んで……素晴らしいスポーツの醍醐味が見られると思います。でもスケートってさらに奥深くて、試合以外でもいろいろな形で何かを表現をすることができる。アイスショーでは、競技会とは違う魅力をぜひ見つけてもらえれば、もっともっと皆さんのスケートへの興味が広がってくるんじゃないかな。特に私たちのショーは、スケーターがただ出てきて自分のプログラムを滑る催し物ではなく、作品として作り上げたショー。こうしたショーをひとりでも多くの方に見ていただいて、気に入ってもらいたいな。日本人ながらアメリカのショーのキャストとして、6シーズン滑ってきましたが、少しでもいいものを日本に持って帰りたいな、そんな思いで、ずっとスターズオンアイスを滑ってきました。

――日本公演では日本の現役トップスケーターたちも、本場のアイスショーの雰囲気の中で滑りますね。
佐藤 真央ちゃん、美姫ちゃん、大ちゃん……。彼らは競技者としても素晴らしいけれど、それ以上にパフォーマーとしても素晴らしい。プロスケーターとしても十分成功できる、アーティストたちですよね。今はオリンピックを目指しているし、さらに次のオリンピックも狙うなら、ぜひがんばってほしいのですが……。彼らには、競技者としてのキャリアを終えたその後も、ぜひ長く長く滑り続けてほしいな、という期待を持っています。競技会のためにここまで努力してきた、その年月で培った彼らのスケートを、長く長くみなさんに見せてあげてほしい……そのためにも、スターズオンアイスで私たちと一緒に滑ることが、彼らにとって何らかの刺激になれば、と思っています。

*スターズオンアイス東京公演は1月19日、20日、代々木第一体育館にて開催。
くわしくはhttp://www.tv-tokyo.co.jp/soi/

text/Hirono Aoshima 


| 固定リンク | トラックバック (9)

第4回京都フィギュアスケートフェスティバルレポート

Jl2f0137s
 グランプリシリーズは3戦を終え、フィギュアスケートシーズンもたけなわ。
 国内でもさまざまな試合やイベントが、毎週のように行われている。
 去る11月11日には、京都アクアリーナにて、恒例となった京都フィギュアスケートフェスティバルが開催。京都醍醐クラブのメンバー中心のエキシビション、そして子どもたちの参加できるスケート教室も同時に催された。

 エキシビションで目立っていたのは、ノービスの宮原知子選手(写真上)。ご覧のようにまだ小さな体の小学生だが、トリプルトウループなどを入れた難度の高いジャンプ構成で、「ピンクパンサー」を披露。体重を感じさせない軽々とした滑りで、大きな拍手をもらっていた。実は宮原選手、2週間前に全日本ノービスの女子シングルBで優勝したばかり! ホームリンクを持たないクラブから、今年もまた新しいスターが生まれている。
 もうひとり、エキシビションで堂々主役を張っていたのは、京都醍醐クラブの田村岳斗コーチ。「トゥーランドット」でオープニングアクトを、「月光」でトリをと、ふたつのプログラムを滑り、なんと4回転にも挑戦。衰えないチャレンジャースピリットで、選手たちを引っ張り続けているようだ。
 他にも、スピード感いっぱいに「ウエストサイドストーリー」の世界を表現した村元哉中選手、すっかり大人の体型になり、スケートにも安定感が増した松下未瑠紅選手など、8歳のノービス選手から、28歳のコーチまで、京都のスケーターたちはこの冬も元気!

 しかし彼らは2005年9月にホームリンクの京都醍醐スケートが閉鎖されて以降、2年間、決まった練習場所を持っていない。あるときは大阪へ、奈良へ、滋賀へ、姫路へと、氷を求めて関西のあちこちのリンクをさまよわなければならず、学業との両立も体調管理も、どんどん難しくなっているという。昨シーズン、全日本選手権4位に入賞した神崎範之さんも、このクラブで育った選手。この春、惜しまれつつ現役を引退したが、もしリンクがあれば今年も選手を続けていたかもしれない、と語っていた。
 このイベントも、彼女たちの現状を京都市民に知ってもらおうと、京都府スケート連盟が企画しているもの。将来が期待できる優秀な選手がたくさんいるだけに、練習環境さえ整えば……とため息が出るばかりだ。

Dscf0278s
 エキシビション後のスケート教室では、国際試合で活躍する選手たちも氷に降り立ち、この日初めてスケート靴を履く子供たちにも、熱心に指導をしていた。やさしく、めんどうみのいいお姉さんぶりに、いつも目が行く村元小月選手は、昨年、世界ジュニア選手権に出場。今年もジュニアグランプリのノルウェー大会で銀メダルを獲得している。今週末のグランプリシリーズ・エリックボンパールトロフィーでの滑りが楽しみな澤田亜紀選手も、身体をかがめて子供たちと同じ目線になって、一生懸命にスケートの楽しさを教えていた。
 今日、初めてスケートをした、楽しかった! そう思ってくれた子どもたちの中から、彼女たちを追いかけて世界に飛び出す選手がたくさん出てくることを。また、彼らがのびのび練習ができる場所が一日も早く確保されることを、願わずにはいられない。

Photo&Report/Masayuki Kojima Text/Hirono Aoshima


| 固定リンク | トラックバック (15)

プリンスアイスワールド2007東京公演レポート

Qr2i16shizukah
 1978年、日本初のアイススケートショーとして誕生した「プリンスアイスワールド」は、今年、記念すべき30回目を迎えた。東京公演の会場となったダイドードリンコアイスアリーナには、子供たちからおじいちゃん、おばあちゃんまで幅広い客層が集まり、フィギュアスケート人気の高さを物語っていた。

 「プリンスアイスワールド2007」の目玉ともいえるのが、荒川静香と本田武史による夢のコラボレーションスケーティングだ。この2人は幼い頃からのスケート仲間で、同時代にフィギュアスケート界を牽引し、共に昨年プロスケーターに転身。豪華な顔合わせでショーのトップを飾り、会場を盛り上げた。
 『ウエスト・サイド物語』の曲に合わせ、深紅の衣装に身を包んだ2人が恋人どうしを演じる。最初は2人で、そして本田武史のソロ、荒川静香のソロと続き、もう一度2人のコラボレーションで終わる構成。さすが男女シングルのトップスケーターとして活躍してきた2人だけに、スピード感のあるスケーティング、揃ってステップからのアクセルジャンプを決めるなど、難度の高いコラボレーションを見せてくれた。
 2人による恋人どうしの表現という点では、ソロパートの方が恋の切なさを表現できていたかもしれない。2人のコラボレーション部分では、初々しさが際立ち、微笑ましい恋人どうしが表現されていた。
 これと対照的だったのが、ショーの後半に演じられた、プリンスアイスワールドのチームリーダー・八木沼純子と大島淳による『雪の華』。決して高難度の技が盛り込まれているわけではないが、純白の衣装で舞い踊る2人は、情感たっぷりに大人の愛を表現していた。

Jl2fyaginumak
 現役選手からは、中野友加里と高橋大輔が華を添えた。
 中野友加里は、5月のプリンスアイスワールド公演でも披露した『リトルナーレ』。滑るごとに妖艶な身体の動きを身につけ、完成度を増しているようだ。
 このオフシーズンのアイスショーでは、トリプルアクセルに挑戦したり、片手ビールマンスピンも積極的に取り入れるなど、シーズンに向けて、要素のレベルを上げるための努力が垣間見える。表現技術もどんどん上がっている中、勢いをつけてグランプリシリーズを闘ってほしい。
 高橋大輔は、今シーズンのエキシビションナンバー『バチェラレット』を披露。公演途中からはロングバージョンになり、サーキュラーステップが追加された。うねるような全身の動きとステップが、他のスケーターにはない独自のスケート世界を表現していた。
 オフシーズンはアイスショー出演が目白押しだった高橋大輔。それらの中でも、オープニングやフィナーレに、4回転ジャンプやステップからのトリプルアクセル、トリプル-トリプルのコンビネーションジャンプ、逆回転のジャンプ……と、さまざまなトライアルを繰り返していた。意気に燃える彼の心の表れだろう。
 現役選手は間もなくシーズンイン。アイスショーで磨いた技や演技を生かし、今シーズンも勝ち抜いてほしい。

text/Yukiko Oshima    photo/Takayuki Honma Masayuki Kojima


| 固定リンク | トラックバック (11)

フレンズ・オン・アイス2007レポート(2) 宮本賢二 「遊びごころ」の演出

_mg_7864_3
 そして、この「フレンズ・オン・アイス」で随所に見られたのが、スケーターたちの<遊び心>。最近の日本のアイスショーにおいて、<遊び心>をうまく演出に結びつけているのが、今回振付けを担当した宮本賢二だ。彼の仕事の集結も、今回の「フレンズ・オン・アイス2007」のみどころの一つと言えるだろう。

 スケートファンの間で、振付師・宮本賢二の名前が、この数カ月ほど話題に上ったことはなかったかもしれない。オフシーズンに開催されたアイスショーで、彼の振付けによるエキシビションナンバーが次々と発表されたのだ。
 中野友加里の『リトルナーレ』(『コルテオ』より)、高橋大輔の『バチェラレット』、織田信成の『Around The World』、南里康晴の『炎のファイター ~INOKI BOM-BA-YE~<ピアノ・ヴァージョン>』、中庭健介の『Cerezo Rosa』、小塚崇彦の『Staying Alive』。
 男子トップ選手ほとんどのプログラムを手掛ける、この勢い!
 「フレンズ・オン・アイス2007」で演じられたプログラムにも、宮本賢二作品が多く含まれていた。

 本田武史の『ゴッドファーザー』は、軽快なステップとジャンプで彼の魅力を表現した。演技終了後もう一度、音楽が流れ出したかと思うと、スポットライトの下には宮本賢二の姿が……。いま滑り終えたプログラムの一部を、振付けた本人の宮本賢二が演じる「おまけ」付き。最後は本田・宮本2人並んでのストレートラインステップで魅せた。
 中野友加里は、5月のプリンスアイスワールド以来の『リトルナーレ』。今までにはないイメージの曲に挑戦して表現したいという彼女の演技は、オリエンタルな衣装とともにエキゾチックな輝きを放っていた。
 高橋大輔が披露したのは『バチェラレット』。中野友加里の『リトルナーレ』を見て、高橋自身が「こんな不思議系のプログラムを……」と依頼したという。演じるごとに微妙に変化を遂げるこのプログラムは、見る者を迷宮の世界に引き込んでくれる。
 トリは荒川静香の新プログラム『Fly me to the moon』。ショーナンバーならではのゴージャスでダンサブルな作品に仕上がった。演技が終わると、曲がそのまま流れ続ける中、フィナーレに入っていく。そんな演出も楽しめた。
_mg_7254kenji_3

 これだけのスケーターたちが宮本賢二の振付けを求めたということが、日本のスケート界が寄せる、彼への期待を表している。05-06シーズンまで現役アイスダンス選手として活躍し、現在活躍するスケーターたちの年齢に近い兄貴分的な存在感も人気の理由の一つかもしれない。
 宮本賢二が手掛けたプログラムに共通するのは、そのスケーターに「今」必要な表現を提供するとともに、アイスショーで観客に「今」を感じさせて盛り上げる「遊びごころ」を持っていることだろう。
 そういえば、昨年4月に開催されたアイスショー「KTVダイヤモンドアイス2006」のフィナーレで、男子選手がそれぞれに別の選手の衣装を着て登場したサプライズも、宮本賢二が仕掛人だったという。
 そんな遊びごころをプログラムやショーの振付けに取り入れる彼の演出。欧米からの直輸入が多いアイスショーの中で、日本の観客に向けた日本オリジナルの世界観を提示してくれているようだ。
 宮本賢二は、もしかしたら日本のアイスショーを変える振付師になるかもしれない。そんな期待をもって注目していきたい。

text/Yukiko Oshima    photo/Sunao Noto


| 固定リンク | トラックバック (6)

フレンズ・オン・アイス2007レポート(1)

Arakawa_d7e0658
 「手づくり」、まさにその言葉通りのアイスショーだった。
 昨年に続き2回目となった「フレンズ・オン・アイス2007」は、荒川静香を中心にスケーター自らがアイディアを出し、創造していくアイスショーとして定着したようだ。
 開演前の場内アナウンスは、荒川静香自身によるもの。各スケーターの滑走前には、本人の声で意気込みのひとことやプログラム解説が流れる。振付け担当の宮本賢二、荒川静香、本田武史、恩田美栄が行うプレゼント抽選会。荒川静香が愛犬アロマ&ティラミスと登場。田村岳斗が使う小道具を、暗転の中、氷上セッティングするのは高橋大輔……と、スケーターたちが細部まで大活躍。そんな手づくり感をスケーター自身も楽しんでいる。
 演じたナンバーも、「フレンズ・オン・アイスだから、このプログラムを」という各スケーターの想いが込められているものが目立った。

 プロとなり、コーチの道も歩み始めた恩田美栄は、振付けにもチャレンジ。意欲的なオリジナル作品を2プログラム披露した。第1部では、映画『天使にラブ・ソングを…』から『アイ・ウィル・フォロー・ヒム』をシスターの衣装で演じ、第2部は『ずいずいずっころばし』に乗せて浴衣をアレンジした衣装で舞った。
 コーチ業中心となり、1年ぶりのアイスショー出演となった田村岳斗。1部は、荒川静香がトリノ五輪金メダルを手にした『トゥーランドット』で優雅に観客を魅了した。一方、2部は映画『ロッキー』のテーマに乗って登場。氷上で、シャドーボクシング、縄跳び、腕立て伏せを見せ、最後には観客席の通路を駆け上がって会場を盛り上げた。さらに、現在はコーチとして活躍する彼が、高くて力強い3回転ジャンプを次々と決め、アマチュア現役の日本男子スケーターには少なくなったパワージャンプを見せつけた。
 荒川静香が第1部で披露したのは、03-04シーズン、ドルトムントの世界選手権でチャンピオンになった時のエキシビションナンバー『If I had my way』。当時はバリエーションが少なかったと本人が語るスピン、エキシビションにしては数多いジャンプもオリジナルのままに演じた。演技後、「当時、このプログラムを振付けた佐藤有香さんの滑りのようだ、と評されたことが嬉しかった」と会場に語りながら、1部のトリを飾る佐藤有香をリンクに迎え入れる。荒川静香のリスペクトの気持ちが表れた演出だった。
 エヴァン・ライサチェックが演じたのは、05-06、06-07の2シーズン滑ってきたフリープログラム『カルメン』。トリノ五輪、昨季の全米選手権で感動を巻き起こし、彼を全米チャンピオンに押し上げた名作の、最後の披露となった。4回転ジャンプ等を取り入れた競技モードではなかったけれど、会場との一体感を感じるエネルギッシュな演技を見せた。

text/Yukiko Oshima photo/Takayuki Honma


| 固定リンク | トラックバック (11)

野辺山サマーフェスティバル・オン・アイス2007Finalレポート(2) 荒川静香、野辺山の最後を飾る

077
 野辺山サマーフェスティバル・オン・アイスは、世界選手権に出場した中野友加里、浅田真央、安藤美姫の3人の女子選手が揃って出演することでも注目された。

 中野友加里は、サン・サーンス「白鳥」で優美な舞いを披露。より精度を増したスケーティングに加え、白鳥を思わせるポジションで後方に滑るスパイラル、トレードマークのドーナツスピンなどで魅了した。
 先シーズンのエキシビションナンバー「クロディーヌ」等に続く、やわらかで可憐な滑りは、いまや中野友加里を語る上で欠かせない。そんな彼女のアピールポイントを極めるプログラムだ。
 浅田真央は、新プログラムであるショパン「別れの曲」の国内初お披露目となった。3回転ジャンプを決め、跳ねるように軽やかなステップは、いつもの真央ちゃんスタイル。だが、それ以上に、情感豊かにしっとりと踊り込んでいく演技が目を引く。バレエレッスン等で表現技術を磨いている成果だろうか。
 中野友加里、浅田真央ともに、今シーズンの<闘い方>をしっかりと心に決め、日々のトレーニングで女王の座に邁進しているのだろう。
077_2
 安藤美姫は、プッチーニ「ラ・ボエーム」で華麗に舞った。
 スパイラルでは観客に笑顔を向ける。ケガの影響か、ジャンプ等まだ本調子ではないものの、世界女王にふさわしい、まさに華のある滑りだった。

 そして最後にサプライズゲスト! 「誰も寝てはならぬ」ボーカルバージョンで登場したのが荒川静香だった。野辺山で開催されてきた新人発掘合宿の第1期生として、アジア初のオリンピック金メダリストとなった彼女こそ、「野辺山サマーフェスティバル・オン・アイス2007Final」の大トリにふさわしい。
 軸が完全に傾きながらも確実に着氷する3回転ジャンプ、両手を離したY字スパイラルから、さらに背中で手を組む新ポジションも披露。最後はイナバウアーで魅せ、会場中がスタンディングオベーションで興奮に包まれた。
 プロとなっても更なる進化を続け、<プロフィギュアスケーターとして闘う姿>を荒川静香が示し、「野辺山サマーフェスティバル・オン・アイス2007Final」は幕を閉じた。

text/Yukiko Oshima   photo/Takayuki Honma


| 固定リンク | トラックバック (5)

野辺山サマーフェスティバル・オン・アイス2007Finalレポート(1) 男子3枠を巡る闘いが始まった

Photo
 2002年から強化指定選手合宿などの期間中に開催されてきたエキシビション「野辺山サマーフェスティバル・オン・アイス」。フィギュアスケートファンの間ではすっかり夏の恒例イベントとなっていたが、今年度、文科省によって中京大学アイスアリーナがナショナルトレーニングセンターに指定されたことを受け、野辺山でのエキシビションも今年がファイナルと発表された。
 国内トップ選手のほとんどが顔を揃えて新プログラムを披露したこのエキシビション、選手たちの今シーズンの意気込みが、はっきりと感じられるものとなった。

 今シーズン、まず注目されるのは、来年3月の世界選手権で出場枠3を獲得した男子。2枠から3枠に1つ増えた出場枠を得るための彼らの闘いは、すでに始まっている。

 この日、男子のトップで登場した柴田嶺。ボーカル曲「The Prayer」で、彼らしい繊細で柔らかな世界を表現したが、昨シーズンの柴田嶺とはひと味違う成長を感じさせた。
 一部のジャンプにステップアウトなどはあったものの、身体の軸が太くなり、安定感がある。スケーティングもスピードを増している。さらに、ドーナツスピン、レイバック姿勢のまま後方に進むスパイラル、Y字スパイラルなどでは、彼本来の魅力をアピール。個性に磨きをかけつつ全体のレベルアップを図り、世界選手権を狙う。
 小塚崇彦は、映画「Saturday Night Fever」でお馴染みの「Staying Alive」。今季初披露のエキシビションナンバーで会場を沸かせた。
 正統派スケーターとして定評のある彼が、シャイなイメージを打ち破る。氷上に寝そべって背泳ぎの形で滑ったり、リンクのフェンスを乗り越えて客席の前で踊り、投げキッス……と、ジョン・トラボルタになりきって踊りまくる。「こんな小塚くん見たことない!」と、観客にインパクトを与えた。
 どちらかと言えば、普段はうつむきがちな彼の目線が観客を見据えて演じる姿は、この冒険がただの冒険では終わらない、小塚崇彦の本気の挑戦を感じさせた。
Photo_2
 中庭健介は、意表をついた新プログラム「Cerezo Rosa」をすっかり自分のものとして、マンボのリズムで観客を引き込んだ。トリプルルッツを美しく決め、流れるスケーティングも魅せる。新境地開拓だけではない、彼の静かで熱き闘いの始まりを物語っていた。
 南里康晴は、今季注目のエキシビションナンバー「炎のファイター ピアノバージョン」。アントニオ猪木をイメージさせる振り付けはもちろんだが、高レベルのジャンプ等で観客を引きつける。高くて強さを感じるトリプルアクセルを成功させ、フライングシットスピンのフライングの高さには、観客のどよめきが起こった。得意のジャンプの成功率、表現技術のレベルも上げ、世界選手権に向けての一歩を踏み出した。
 世界選手権で金メダルを狙う高橋大輔は、今季エキシビション用の新プログラム「Bachelorette」を披露。アイスショー等でオフシーズンも多忙を極める中、若干の疲れを見せながらも崩れないジャンプは、彼の安定した実力を示していた。

 各選手それぞれにステージを広げる男子シングル、今シーズン、3枠を巡る闘いが見逃せない。

text/Yukiko Oshima   photo/Takayuki Honma


| 固定リンク | トラックバック (5)

ドリーム・オン・アイス2007レポート 日本男子ここにあり!(2)

_d7e1008
 そして、この後に続く男子日本代表4人は、なんと全員が、振付師として活躍の場を広げるプロスケーター・宮本賢二振り付けによる新エキシビションナンバー。
 中庭健介は「マンボ」で怪しい色気を振りまき、会場中を一気に独自の世界に引き込んだ。衣装の胸元をはだけて見せ、投げキッスを送るなど、これまでのイメージとはかけ離れたセクシーな演出をも、彼らしく真っすぐに演じる姿に、観客は思わず微笑んでしまう。誰よりも彼自身がこのプログラムを楽しんでいることが、見る者の心に訴えかける。
 南里康晴は、アントニオ猪木の入場テーマ曲「炎のファイター」のピアノバージョンで、プロレスという雄々しい世界をしっとりと舞った。「闘魂」と背中に書かれた衣装、首に掛けた赤いスカーフ、随所に散りばめられた猪木を連想させるポーズと、猪木へのオマージュを表現。異色の作品ながら、上半身を大きく使ったステップなど、表現技術の進化を感じさせるプログラムとなった。
 織田信成はレッド・ホット・チリ・ペッパーズ「Around The World」で熱演。エアギタープレイから、神宮アイスメッセンジャーズのメンバーによるリフトまで、エキシビションならではのサービス精神溢れるエンターテイナーぶりを見せた。
Qr2i1216
 トリを務めた高橋大輔は、ビョーク「バチェラレット」で新たな大輔ワールドを披露した。流れるスケーティング、野性を感じさせるダイナミックな演技。観客は息をのんで、彼の表現世界を堪能した。アンコールの「オペラ座の怪人」では、会場中が世界選手権の興奮の中に引き戻されたかのようだった。
 その熱を帯びたまま、フィナーレに。高橋大輔、ステファン・ランビエル、織田信成、中国ペアのホンボー・ツァオらをセンターに据えた出演者全員による群舞では、郷ひろみさながらの<ジャケットプレー>ならぬ<ジャージプレー>も見られた。日本ならではのアイスショーのスタイルが、また広がりをみせたようだ。
 欠場選手が続出したのは残念だったが、それによって、かえって日本選手の層の厚さとショーのレベルの高さを浮き立たせたのが、今年の「ドリーム・オン・アイス」だったのではないだろうか。ケガを治した選手たちも参加した、より華やかなショーを今後も期待したい。

text/Yukiko Oshima   photo/Takayuki Honma


| 固定リンク | トラックバック (5)

ドリーム・オン・アイス2007レポート 日本男子ここにあり!(1)

Jl2f1051
 今年で4回目を迎えたフィギュアスケート日本代表エキシビション「ドリーム・オン・アイス」。
 昨年は安藤美姫の復活をこのショーで確信。選手たちの来たるシーズンの活躍を予感させるアイスショーが、7月14~16日、新横浜プリンスホテル・スケートセンターで開催された。
 しかしこれが、波乱の幕開け。女子の浅田舞、浅田真央、安藤美姫、澤田亜紀、アイスダンスのリード姉弟の5組がケガによる欠場を発表したのだ。加えて昨年はトリノ五輪の金メダリストとして登場した荒川静香、恩田美栄らも、プロとなった今年はいない。ショーとして、お客さんの満足するものを見せてもらえるのだろうか……。

 しかし、そんな心配は杞憂にすぎなかった。
 シンクロナイズドスケーティング全日本チャンピオンの神宮アイスメッセンジャーズ登場から始まるオープニング。先シーズンの世界選手権メダリストである海外トップスケーター、ジュニアからシニアまでの男女日本代表選手らがリンクいっぱいになって繰り広げるダンスは、まさに圧巻だ。各選手の個のアピールにとどまらず、全員でつくりあげた群舞がショー全体のスケール感を大きくし、会場を興奮へと誘ってくれた。
 そのたくさんのトップ選手たちを日本代表として率いたのは、日本のエースの自覚を備えた高橋大輔。彼を筆頭に、今回は男子選手たちの多彩な個性がより際立っていた。

Murajl2f0651
 まずは全日本ジュニア選手権メダリストの3人。
 今季シニア初参戦となる鳥居拓史は、T.レックス「20センチュリー・ボーイ」で、バイクにまたがる振り付けなど、男らしさを全面に押し出したプログラム。かわいさの残る満面の笑顔と力強いジャンプで観客に元気を振りまいた。
 世界ジュニア選手権の表彰台を狙う無良崇人は、ノリの良い「マシュケナダ」で登場。観客との一体感を学ぶにふさわしいこのプログラムで、人々の心をとらえられるよう、今シーズンも成長を続けるだろう。
 全日本ジュニアチャンピオンの町田樹は、トリプルアクセルからのコンビネーションジャンプに挑戦。初参加となったドリーム・オン・アイスで堂々と存在感を示した。ディープエッジのステップも映える演技は、プログラム後半に体力を残すための体づくりで、ますます魅力を増していくだろう。
 シニア日本代表のトップは、シルバーに輝く新衣装の小塚崇彦。今回の出演者の中で、ただ一人、今シーズンの新プログラムとなる「キャラヴァン」を披露してくれた。ジャンプはまだ調整中と思われるが、軽やかなリズムに乗った伸びるスケーティングは顕在だった。

text/Yukiko Oshima   photo/Masayuki Kojima


| 固定リンク | トラックバック (4)

現代カードSuper Match 2006レポート(2)

Hsm2006_2
 ほんとうに、びっくりするほど韓国の観客たちは素晴らしかった。
 ただ歓迎するだけでない、目の前のできごとに瞬間的に熱狂する、ものすごい空気。
 「現代カードSuper Match 2006」は、同じ客席に座っている私たちが、周りの席に座っている人たちの熱狂に感激しつづけたショーでもあった。

 開演直前、怪我で出演できなくなった旨のアナウンス後に、「カムサハムニダー」から始まる韓国語の挨拶で観客と向き合うリンクサイドの安藤美姫を、驚くほど大きな拍手と声援が包み込む。
 そしてぱっと照明が落ち、ショーの始まりを予感すると、まだスケーターが登場していないのに、大音量の声援と拍手が会場内にエコーした。

 四大陸選手権のような国際大会は開催されたことはあるものの、これだけの世界のトップスケーターが集ったアイスショーは、韓国では初めてのこと。
 長い間、北米やヨーロッパ、日本などで開催されるショーの様子を、インターネット経由でたくさん見てきた韓国のスケートファンが、待ちに待った日がやって来たのだ、熱狂は当然のことだろう。

Hsm2006_yuna3
 いざショーが始まると、長年のスケートファンだけでなく、自由席に座った家族連れも、皆一様に熱狂していた。
ナオミ・ナリ・ナム&テミストクルス・レフテリスのスロージャンプやゲイリー・ビーコンの音楽に合わせたコンパルソリーのようなスケーティングに、瞬時に反応する。
 また反対に、プルシェンコの「トスカ」のステップでは、会場全員が演技に見入るあまり、濃厚な沈黙が訪れた。
 盛り上がる会場にさらに気持ちが高まって、自席の方にスケーターが近づくだけで、大声援。
 すごいと思ったものをそのまま享受し、その場で表現する。
 オープニングですでに沸点に達したかと思った熱狂が、スケーターの演技ごとにどんどん更新されていき、暖房を入れていないアイスショーの会場なのに、薄着で十分なほどの熱気を生み出した。

 そんな熱狂に、スケーターたちも大いに応えたのも、また嬉しいことだった。
 ナフカ&カストマロフは、「カルメン」の演技前に、会場の四方に手を振ってからポジションに着く。
 デンコワ&スタヴィスキーのリフトはいつもより力いっぱいで、振り回されるデンコワは大丈夫だろうか、と思うほど。
 前日の仙台でのChampions On Iceに引き続いて韓国にやって来たスルツカヤは終始笑顔で、元気に滑り回る。
 ヤグディンとプルシェンコの間に演技することになったユナ・キムも、自国観客の大声援に臆することなく、ときに観客に視線を送りながら、のびのびと滑りきった。

Hsm2006_finale2

 その中でも忘れられないのが、オクサナ・バイウルだ。
 2日目の第二部、真っ白な衣装で登場した「白鳥の湖」。
 まるで試合に臨んでいるかのようなシリアスな表情、バレエを思わせるトウづかいや終始一貫した白鳥のような動きに、演技後、観客席から大きな拍手と歓声が飛ぶ。
そしてそれに応える、演技後の四方への挨拶。
 感激に満ちた表情のバイウルは、胸の前で両手を合わせすこし首を傾けた。
そして胸に手を当てて片膝をついた体勢になり、頭をたれると、そのまま立ち上がらない。
1秒、2秒、3秒、4秒……。
いつ立ち上がるんだろう、と思うほど長く深い時間が流れる。
そして、そのポーズのまま、スポットライトは消えた。
が、バイウルへの惜しみない拍手と歓声は、長いこと消えなかった。

温かいというのとも少し違う、ただ熱いだけでもない、スケーターと会場が心と体全部でともに楽しんでいる空間だった。
プルシェンコの「トスカ」と「Sex Bomb」、ヤグディンの「Winter」、ナフカ&カストマロフの「カルメン」や「オースティン・パワーズ」、ユナ・キムの「ロクサーヌのタンゴ」など、どのスケーターも、彼らの代表的なプログラムを見せてくれたのも、嬉しいことだった。
 韓国での初めてのショーだからこそ、スケートファンたちが見たいと思っているものを、ちゃんと用意してくれたこと。
 そんな心遣いを、観客たちは本当に喜んでいた。
「現代カードSuper Match 2006」は、スケーターにとってもファンにとっても、忘れられないショーだったのではないだろうか。

文/Hitomi Hasegawa  写真/onotch(onotch.jp)

*エフゲニー・プルシェンコ選手へのインタビューは、07年2月末発売予定の「COLORS2007」(あおば出版刊)に掲載予定です


| 固定リンク | トラックバック (2)

チャンピオンズオンアイス2006ジャパンツアー仙台公演レポート(2)世界最高峰の魅力

_mg_8453
 COIの魅力は、なんといっても出演者にある。
 世界中にたくさんいるフィギュアスケーターのなかから、ほんの一握りしかいないチャンピオンたちが勢揃いしているからだ。そんな素晴らしいショーは、他ではそう観られないだろう。特に日本では、外国のトップスケーターが勢揃いしているところを観る機会はあまりない。その滅多に観られないショーがついに日本にもやってきた。

 最初に登場した外国人スケーターはイリーナ・スルツカヤ。
 シーズン中より少しふっくらしたようにも見えたが、チャーミングな笑顔をふりまきながら楽しそうに滑る彼女に会場からの歓声がとぶ。『All that Jazz』と『Promise me』の軽快なナンバーは、試合とは違った彼女の魅力を引き出していた。

 次に登場したのは、男性二人組のアクロバットスケーター、ウラジミール・ベセディン&アレクセイ・ポーリクシュク。高いリフトから落とし、氷上スレスレでキャッチしたり、小柄なアレクセイがウラジミールの頭上で片手倒立したり――。彼らのアクトは、華麗で優雅なフィギュアスケートしか知らない人達に、コミカルでアクロバティックなエンターテイメントを教えてくれた。

 そしてヴィクトール・ペトレンコ。引退してからかなりの年月が経っているにも関わらず、彼のスケートは衰えることを知らない。ジャンプのポジションに入ったかと思った瞬間すでに空中にいるジャンプも、いつ軸足をかえたのか分からないほどなめらかなコンビネーションスピンも、現役の頃そのままだ。そこにプロスケーターとしての円熟味が増し、彼を知らない世代のスケートファンにも感動を与えていた。

 ペアはエレナ・ベレズナヤ&アントン・シハルリドゼ組が来仙。第一部では、デススパイラルからスローダブルトウループというアクロバティックな技など、ペアならではの醍醐味を披露。そして、第二部のナンバー『チャップリン』では、シハルリドゼ扮するチャップリンの動きは絶妙だったし、小柄なベレズナヤ扮する少年はとってもキュート。終わった直後に「もう一度観たい!」と思ってしまう、完成されたプロのショーナンバーだった。

 アイスダンスのマリナ・アニシナ&グウェンダル・ペーゼラ組は「さすが!」としか言いようがない。第一部は『スターウォーズ』。ライトセーバーを持ち勇ましく戦っていたかと思えば、後半はジェダイの騎士と王女の物語にぐいぐい引き込む。第二部では緑色のショールを使い、アイスダンスならではのドラマティックな演技を披露。魅力という魔力でリンクを支配していた。

 そしてようやく男子シングルの現世界選手権チャンピオン、ステファン・ランビエールの登場。彼の名前がコールされると、女性ファンの歓声が大きくなる。怪我から復帰したばかりのはずなのに、その影響を微塵も感じさせない演技力。第二部の途中、エントランスですっぽ抜ける場面もあったが、放っておいたらいつまでも回っているんじゃないかと思ってしまうスピンは他者を寄せ付けない迫力があった。

_mg_7893
 アイスダンスのマルガリータ・ドロビアツコ&ポビラス・バナガス組の『パイレーツ・オブ・カリビアン』は、まるで映画を観ているような錯覚に陥る。ジャック・スパロウとウィル・ターナーの決闘シーンから、ウィルとエリザベスのラブストーリーへと移り変わるナンバーは、彼らの演技力なしでは完成しない。細やかなステップワークも競技とはひと味違った雰囲気で見応え充分。

 第二部でやっと登場したのは、スルヤ・ボナリーとサーシャ・コーエン。ボナリーはペトレンコ同様、現役を引退してから8年も経っているとは思えないほど演技にキレがあり、かつて競技後のエキシビションでファンが楽しみにしていたバックフリップも健在! 現役の頃と何の変わりもないボナリーの姿に、昔からのスケートファンも、最近スケートを見始めたファンも、おおいに盛り上がっていた。

 そしてサーシャ・コーエンのナンバーは、トリノ五輪のショートプログラム『黒い瞳』。目の覚めるような青いコスチュームに身を包み、きびきびとしたシャープなスケートを披露。彼女のトレードマークである美しいスパイラルシークエンスには会場から大きな拍手が沸き、軽く180度を超えるバレエジャンプや、お手本のようなポジションのレイバックスピンにはため息が漏れる。この日はこのプログラムのみだったが、いつか彼女がプロスケーターになった時、どんなショーナンバーを披露してくれるのかが少し楽しみだ。

 9月16日(土)、仙台の利府グランディにて催された一夜のエンターテイメントは、一生忘れることのできないショーとなった。来シーズンもCOIがジャパンツアーを開催するかどうかは分からないが、もし来てくれるならば、静岡と仙台のみならず他の都市でも開催し、この素晴らしいアイスショーをたくさんの人に観てもらいたいと願っている。

文/Niki Yamamoto  写真/Sunao Noto


| 固定リンク | トラックバック (3)

現代カードSuper Match 2006レポート(1)ヤグディン・プルシェンコの競演

Hsm2006_yagudin
 2014年冬季五輪招致をめざす韓国・ソウルで、9月16、17日、「現代カードSuper Match 2006」が開催された。
これまでの五輪メダリストのプルシェンコやナフカ&カストマロフ、スルツカヤ、ヤグディン、バイウル、そしてこれからの韓国フィギュアスケートを世界トップに牽引していくユナ・キムなど、そうそうたるメンバーが一堂に会した。

 ヤグディンとプルシェンコが競演する。
そう聞いても、オープニングでふたりが本当にリンクに姿を現すまでは、なかなか信じられなかった。
それは世界各地からソウルの木洞アイスリンクに集まったスケートファンも同じだったようで、開演時間になって会場が暗転し、リンクサイドにふたりの人影をかすかに認めると、会場から「アレクセイ!」「ジェーニャ!」の歓声が飛び交った。

 ヤグディンが見せたのは、ハンドルを握ったり腕をぐるぐる振り回したりする元気な「Racing」。そしてもうひとつ、みんなが待っていた「Winter」では、吹雪の音に顔を上げ、集めた雪を放り投げると、真っ白い透明な雪の世界にぐいぐいと引き込まれてしまう。
 これでもかと畳みかけるステップ、沸きあがる会場、いつのまにか会場全員が大きく手拍子し、音楽が止んだときには、たくさんの人々が立ち上がっていた。

 対して、「トスカ」と「Sex Bomb」で沸かせるプルシェンコ。
 余裕のあるジャンプに、「トスカ」のメロディには少し過剰なのではないかといわれたステップも、狂乱の渦の中ではちょうどいい。
 赤い上着、金色のベスト、そして黒のパンツまで脱ぎ捨てていく「Sex Bomb」では、筋肉隆々の着ぐるみと金色のパンツで、腰の動きもさらにパワーアップ。
 彼の動きひとつひとつに、プルシェンコファンだけでなく、ちびっ子たちも大喜びだった。

 ヤグディンとプルシェンコ。
 このふたりを思うとき、いつもどこか、何かを比較してしまう。
 「どちらの方がきれいな4+3を跳んだ」「いや、でも彼の方が難しいフライングを入れた」などなど、アマチュア時代に同じ試合に出ていたころはもちろん、プルシェンコが欠場したとき、ヤグディンが引退した後、「ヤグディンがいたら……」「プルシェンコがいたら……」と、その場にいないもうひとりのスケーターを思い浮かべてきた。

 そして、久しぶりにふたり揃った姿を目にした、「現代カードSuper Match 2006」。
 そこで、ちょっと忘れられないシーンを、図らずも彼らは見せた。

Hsm2006_plushenko_1
 韓国でのテレビ放送の関係で、スケーターたちは初日、フィナーレを2度披露することになり、観客は2回の公演で3度のフィナーレを楽しむことができた。
 フィナーレの途中の、ブライアン・オーサーとヤグディン、プルシェンコが、一列になってトウループを見せる場面でのこと。
 おそろいの衣装を身につけた3人が、リンクの中央でカーブを描きトウループに向かっていく。
 その先頭を行くプルシェンコとそれに続くヤグディンは、なんと、同じ軌道でジャンプに入り、同じタイミングで跳び上がり、同時に着氷して、まったく同じ着氷ポーズを見せたのだ。
 ペアスケーターたちにとってもたやすくない、ぴたりと合ったソロジャンプ。
 それなのに彼らは、きっと意識していないのだろうけれど、まるで長年パートナーを組み続けたペアのように、助走から着氷まで、一糸乱れぬトウループを跳んだのだった。
 3度のフィナーレの3度とも。

 1度目は、偶然かと思った。
 2度目は、もしかしたら偶然かもしれないと思った。
 そして、3度目のフィナーレ。
 ヤグディンは2回転、プルシェンコは3回転だったけれど、それすらぴったりのトウループを2人は見せた。
 一緒に跳んだオーサーは、3度とも、ふたりとは別の軌道とタイミングで跳んでいたのだが。

 人間の見せることに、完璧だということはない。
 けれど、この3度とも、2人のジャンプの調和は完璧だった。

 考えてみれば、それは当たり前のことかもしれない。
 おそらく、かつてヤグディンも師事し、現在もプルシェンコが教えを乞うミーシンコーチが確かなジャンプを徹底的に叩き込んだ結果なのだろう。
 そうして自分のものにしたジャンプを維持して、ふたりは大きなスケーターになったのだと、改めて知らされた気がした。

 別々の道を歩き始めて8年。
 どんなプログラムもわがものにしてしまうふたりだけれど、どちらかといえばヤグディンは重厚な、プルシェンコは軽快なプログラムのときにこそ、その持ち味が存分に発揮される……そんな正反対にも思えるテイストを持つ。
 それでも、同じ基本が彼らふたりの中に息づき、これからも生き続けていくのだろう。
 もしかしたら、ほかのジャンプやデスドロップ、スピン、さらにステップなどを一緒に並んで披露する場面があったら、びっくりするくらいぴったりな演技を見せることができるのかもしれない。
 どこか互いに反目しあってきたようなふたりの根底に、同じ基本が根づいている。
 そんな当たり前ではあるが、どこか宿命的な関係を思わせてしまうシーンが、非常に印象的だった。

文/Hitomi Hasegawa  写真/onotch(onotch.jp)


| 固定リンク | トラックバック (5)

チャンピオンズオンアイス2006ジャパンツアー仙台公演レポート(1)荒川静香、凱旋!

Coi2
 チャンピオンズオンアイスは、世界のメダリストだけが集まる世界最高峰のショー。これまでは北米を中心に行われていたこのショーが、 ついに日本に上陸した。
 元メダリストと現役メダリストの競演、アマチュアにはないアクロバットスケーティング、生の演奏や歌、陸上でのフラメンコや幻想的なライティング。ひとつひとつが、五感を揺さぶる宝石のようなエンターテイメント。オープニングでは全てのスケーター達が純白の衣装をまとって登場。これから始まる極上のショーへの期待を高めてくれる。

 きらびやかなオープニングが終わり、トップバッターは本田武史。ファンにはおなじみの『アランフェス』の曲にのって、いきなりトリプルアクセル! 登場した時以上の歓声があがる。現役の頃と変わらない、いや、それ以上かとも思われる素晴らしいトリプルアクセルだった。アランフェスの悲哀に満ちた調べに寄り添う、流れるようなスケーティングは、まさに本田武史ここにありといったナンバー。第二部の『レイエンダ』でも軽快なステップやトリプルアクセル、ポジションの美しいスピンを披露し、地元・仙台を沸かせていた。

_mg_7234
 仙台公演でのゲストスケーター・中野友加里は映画『SAYURI』のサントラ『Memories of a Geisha』の曲にのって、伸び伸びと滑っていた。世界一美しいと言われているドーナツスピンも更に磨きがかかり、しっとりした柔らかな動きから、芯のある凛とした動きまで、様々な表情を見せてくれる。記者会見では「まだ振りを覚えきれてなくて、少し不安です……」と、語っていたオープニングやエンディングの群舞でも、キレの良い表情豊かなダンスを披露。これがCOIデビューとは思えないくらい、堂々とした『中野友加里』を見ることができた。昨シーズン自信と演技力を身につけた彼女は、今シーズンも更に成長していくだろう。

 そして荒川静香。
 登場しただけで観客席の温度が急上昇したかのような歓声があがる。
 第一部の『アヴェマリア』は純白の衣装をまとい、軽やかに、透き通った水が流れるかのような美しい滑りを見せた。会場からは、彼女の一挙手一投足にため息が漏れる。本当に美しいナンバーだった。
 そして第二部は『You raise me up』。トリノのエキシビションナンバーだ。
 このナンバーは何度かテレビで観たことがあったが、生で観たせいなのか、仙台という場所で観たからなのか、なぜか色々なことを思い出した。仙台で滑っていた頃からみんなに「しーちゃん」と呼ばれ、あどけない顔をしていた少女が、すっかり大人の女性となり、更にオリンピック金メダリストとして仙台に帰ってきた。トリノ後、メディアにひっぱりだこになっている荒川静香は、おちびさんだった頃から彼女を知る人間にとっては、まるで別世界の住人になってしまったように思えていたが、目の前で滑っているのはまさしくあの「しーちゃん」だ。そう思ったら少し泣けてきた。が、その時はなんとか涙をこらえることができた。
 しかし、アンコールに応えた彼女が登場し、『トゥーランドット』の曲が流れた瞬間――。
 仕事で観ていることを忘れ、つい涙を流してしまった。今や代名詞となったイナバウアーから、3+2+2のコンビネーション。軽やかなステップ、美しいスピンからフィニッシュというトリノの再現。泣くなという方が無理だ。そっと周りを見回すと、誰もが目を潤ませ、ただリンクの中央に立つ荒川静香を見つめていた。プロとなった彼女は、このCOIのツアーに参加することで、人の心を揺さぶるエモーショナルなスケーターに成長していたのだ。
 荒川静香は、プロスケーターとして更に進化する。誰もがそう予感させられるショーだった。

文/Niki Yamamoto  写真/Sunao Noto


| 固定リンク | トラックバック (6)

プリンスアイスワールド2006レポート(2) 村主章枝、新エキシビションナンバーは「カルメン」

Fumie5piw
 第一部の最後に登場した村主章枝が見せてくれたのは、今シーズンの新エキシビションナンバーだ。
 リンクの端に現れた彼女は、自分の分身のような華奢なシルエットの椅子にかるく腰掛けている。手には黒い扇子、胸には赤い薔薇……。アルベルト・アロンソ振付のバレエ「カルメン」をちょっと思わせる雰囲気のなか、流れた曲はやはり「カルメン」。 
 しかもカルメンが酒場で仲間たちと歌い踊る激しいナンバー、「ジプシーの歌」がメインの構成だ。村主章枝は2シーズン前にも「カルメン」をフリープログラムに使っているが、あの黒いパンツルックのカルメンとは、また違ったものを見せてくれている。
 まず、上半身は肩をあらわにし、下半身はスカートをつけず、スケート靴まで覆った真っ黒なタイツ姿という刺激的ないでたち。これもやはりアロンソのバレエを髣髴とさせる。そして赤い薔薇をアリーナ席のお客さんにそっと手渡すという演出も。受け取った男性はたちまちホセになってしまいそうな、大人のカルメンだ。

 1年前の村主章枝のカルメンは、もっとストイックな女性だったような気がする。
「今日は明日の本番に備えて、心の準備とスケートの最終確認をしました。トリノ五輪が終わって、私たちは新たなスタート。プリンスアイスワールドも新たな楽しみを提供して行くと思います。どうか皆さんも楽しんでください」
 そんなまじめな彼女がカルメンを演じると、こうなるのか、という漆黒のカルメン。気が強くて、頑固で、真っ直ぐすぎて、不器用で。でも、その強さがたまらなく魅力的で――。そんな村主章枝自身が、カルメンの強さや真っ直ぐさと、見事にシンクロしていた。衣装に一切赤を使わず、スカートをなびかせることのないその姿は、およそカルメンらしくなかったけれど、そんなことはちっとも関係ない。村主章枝が演じる、村主章枝のカルメンが、プレ五輪シーズン、新横浜やモスクワのリンクにはいた。

Fumie1piwa
 しかし今回披露した新エキシビションナンバーは、道具立てといい、衣装といい、1年前よりもずっと華やかな、カルメンらしいカルメンだ。そして「踊りはそんなに得意じゃないんです」という彼女が、ダンスナンバーともいえる「ジプシーの歌」にのって、1年前よりもずっと激しく舞い、踊る。
「薔薇を使ったり扇子を使ったり……すごく難しいエキシビションナンバーだな、と思います。でも長い時間をかけて習得できればいいかな」
 そう彼女自身も言うように、いつもはシーズン前でも完成度の高いプログラムを見せてくれる村主章枝にしては、動きにたどたどしさを感じることが、まだ多かった。ほんとうにまだできたばかりのプログラムだろうし、世界選手権後には精力的にオフリンクでの活動をこなしてきた彼女は、練習時間も充分には取れなかったのかもしれない。
 でも、やっと体が動き出したように見えた後半のステップ。あまりに楽しげに「ジプシーの歌」にのる姿は、やはり1年前とは違うカルメンがそこにいる、そんなわくわくした気持ちでいっぱいにさせてくれた。

 1年前、村主章枝はカルメンを自分自身に引き寄せて演じていたのだろう。強いけれど、少し影があって、運命と戦う悲壮感もあって。カルメンと自分が重なる部分を見つけて、そこを思う存分演じて見せた。
 でも今年のカルメンは、本来の村主章枝にはないカルメンを演じようとしているのではないだろうか。大人びていて、艶やかで、ダンサブルで、時につきぬけるように明るく、エネルギーに満ちている。
 自分自身に近いものを演じるよりも、自分にないものを演じるほうが、きっとずっと難しい。
 でも、そんな一歩進んだチャレンジも堂々とできる――2度のオリンピックを経た村主章枝はそんなスケーターになったのかもしれない。(青嶋)

写真/浅倉恵子


| 固定リンク | トラックバック (11)

プリンスアイスワールド2006レポート(1) 中野友加里、新プログラムを披露

Yukaripiw
 スケートファンにとっては、オフシーズンのお楽しみ。
 日本唯一のプロアイスショー、プリンスアイスワールドが、2005年の横浜公演より1年ぶりに帰ってきた。八木沼純子や田村岳斗、大島淳、西田美和など日本を代表する百戦錬磨のプロスケーターたちとともに、今回はたくさんの日本代表選手たちも登場。
 村主章枝、荒川静香、中野友加里、浅田舞、浅田真央らの元気な姿がこのゴールデンウィークも見られそうだ。

 4/29からの本公演に先だって公開された4/28のゲネプロでは、村主章枝と中野友加里のふたりが今シーズンの新プログラムを披露してくれた。
 今回のゲストスケーターのうち、中野友加里は浅田舞とともに、プリンスアイスワールド初登場となる。
「初めての参加ですが、楽しんで滑りたいと思います。そして皆さんが楽しめるショーになればいいな、と願っています」
 第一部中盤に登場し、「一週間前に振付けの先生のいるデトロイトから帰国したばかりなんですよ」と、ほんとうに出来立てのショートプログラムを初公開。
 音楽は映画「SAYURI」より「芸者」(ジョン・ウィリアムズ作曲)。エキシビションアレンジとして、唐傘を持ってのシックな登場に、なんだか「いつもと違う友加里ちゃん」を感じてしまう。
 プログラム序盤は表情も凛々しく、キッと客席を見据える強いまなざしが印象的だ。そしてきりりとした雰囲気のまま、跳ぶジャンプも凛々しい! 中盤のスパイラルシークエンスではいつものやわらかな微笑みも見せてくれたが、ほんの1ヶ月前のエキシビションよりも、少し「お姉さん」になったような笑顔。そして、終盤のストレートラインステップは、再び内に秘めた激しさを表すように力強く! 小さな中野友加里が大きく見える迫力で、アイスショー仕様の小さなリンクがさらに狭く感じられたほどだ。 
 また、すっかりトレードマークとなったドーナツスピンは「わあ、まだ回ってる!」とびっくりするくらいたっぷりと。しかも上に突き上げた腕の動きにバリエーションが加わり、さらに進化した姿を見せてくれた。このラストのドーナツスピンだけでも充分「中野友加里ここにあり」を見せてくれる名プログラム。振付のマリーナ・ズウェアとのコンビも3シーズン目ということで、彼女のさらなる魅力を引き出してくれているようだ。

Yukari2piw
「友加里ちゃんどう? これまでとは、またちょっと違うでしょう?」と見守る佐藤久美子コーチもにっこり。
 昨シーズンはショート、フリー、エキシビションでそれぞれ違うテイストのプログラムを滑りこなした中野友加里だが、今シーズンはひとつのプログラムの中でいろいろな表情の彼女が見られるかも?
 もちろんまだまだ作ったばかりのプログラム。滑り込んで自分のものにしている、とまではいかない。でも、人前で披露することほどプログラムを磨いて行くいい手段はないという。
 これから一週間のプリンスアイスワールド公演で中野友加里の「芸者」が、どこまで彼女の身体になじんでいくか――楽しみに見つめてみたい。(青嶋)


写真/浅倉恵子
プリンスアイスワールド横浜公演は4/29~5/7まで。チケットはすべて完売ですが、8月の東京公演をはじめ全国5都市にて36回の公演が予定されています。
*中野友加里選手へのインタビューは5/12発売「フィギュアスケートデイズ0号」に掲載されます。


| 固定リンク | トラックバック (7)

野辺山サマーフェスティバル・オン・アイス2005レポート(1) 神崎範之 トリプルアクセルを跳ぶ「ヨン様」

kanzaki10w
 スケートファンの真夏のお楽しみとしてすっかり定着した「野辺山サマーフェスティバル・オン・アイス」。トップ選手たちの新シーズンのショートプログラムが初めて公開されるということもあり、毎年、電車を乗り継いではるばるこの高原のリンクにやってくるファンは多い。
 今年はそんなお客さんに加えて、昨今のフィギュアスケート人気で新たにこの競技に目を向けてくれたファン、そして108名もの報道陣も集まり、小さなリンクは熱気でいっぱい。立ち見のお客さんも大勢出る盛況ぶりだった。

 そんななか、エキシビションでいちばんの喝采を浴びた選手はこの人、神崎範之だろう。
 京都大学農学部食品生物化学科4回生の22歳。大学院進学も目指している秀才だが、2003-2004シーズンよりシニアの強化選手にも選ばれ、フィギュアスケートと学業を高いレベルで両立させてきた。
 昨年の全日本選手権ではフリーでトリプルアクセルを決め、自己最高の7位に。その演技はテレビでも放映され「トリプルアクセルを跳ぶ京大生!」と大きな話題になった。

 そんな彼も日本代表のエキシビションは今回が初登場。初めて作ったというエキシビションナンバーは、なんとお洒落なめがねにマフラー、トレンチコートというヨン様ルックで滑る「冬のソナタ」!
 小さな雪だるまを手に登場した瞬間から「ヨンさまー!」と会場から大きな声がかかる。
 甘いメロディーが流れると、本家ヨン様顔負けの優しげな微笑みを浮かべて余裕のスケーティング。エキシビション初体験とは思えない舞台度胸だ。
 コートの胸元をかきあわせて「寒い……」とつぶやくようなせつないしぐさもそれらしく、満場のお客さんは大喜び。しかしさらに人々をびっくりさせたのは、めがねをはずし、コートを脱ぎ捨てていきなり跳んで見せたトリプルアクセル! 
 今回の野辺山サマーフェスティバル、オフシーズンのエキシビションという場ながらこの大技を決めてくれたのは岸本一美選手と神崎選手だけ。
 最高のサービス精神とそれができる技術の高さで、冬ソナの世界にひたっていたお客さんを大いに驚かせてくれた。
 その後もロマンスのヒーローらしく、場内をふところに包み込むようなダイナミックなイーグル、繊細なキャメルスピンなど、神崎流冬ソナワールドは見どころ満載。トッド・エルドリッジが好き、というだけあって、スケーティングの美しさも優しげな雰囲気作りに一役買っているようだ。

 きっとこの会場のお客さんの中には、神崎範之の滑りを初めてみるという人も多かったに違いない。ひょっとしたら名前も知らなかったという人もいるだろう。でも今回のこのナンバーで、彼は一気にスケートファンの心をつかんでしまった。他のトップ選手を目当てに来たというお客さんたちも、口々に言う。
「もう、神崎君のことが気になってしょうがないですよ」「ヨン様、忘れられませんね!」
 神崎範之。早くシーズンのプログラムを滑っている姿を見たい選手、ナンバーワンだ。

kanzaki3
 エキシビション終了後、指導する京都醍醐クラブの濱田美栄コーチに取材。「ヨン様」誕生の秘密と神崎選手の魅力について話を聞いた。

――神崎選手の「ヨン様」、素晴らしかったですね。あのプログラムで、ファン急増中です。 
濱田 なんだかすごく受けてましたねえ(笑)。

――ふだんの神崎さんはどんな選手でしょうか。
濱田 やっぱり頭がいいですね。教えていても、すごく理解力あるなあ、と思う。それにすれていないし、とても純真。そしてものすごく誠実です。自分の言った言葉には必ず責任を取る。小さいころから見ているけれど、彼が冗談を言うのを聞いたことがないんですよ。

――冗談も言わないな彼が、あのヨン様を!
濱田 そう(笑)。実はヨン様には秘話があるんです。彼はこれまでエキシビションに出たことがなかったからどうしようって……。そうしたら岳斗先生(今シーズンより京都醍醐クラブのコーチになった田村岳斗氏)が「踊る大走査線」か「ヨン様」か、どっちかで行こう、と。

――これはまた両極端な!
濱田 でしょう(笑)。それでうちの亜紀ちゃん(チームメイトの澤田亜紀選手)が韓国語を習ったりして韓国ファンなんです。で、「ヨン様に一票!」って言い出して。結局、神崎君のエキシビション、どっちがいいかって、クラブのみんなで投票したんです。

――それでこの野辺山に、ヨン様が出現することに。
濱田 まず私が振り付けをして……。でもノービスやジュニアの合宿があるから、みんなより先に野辺山に来なくちゃいけなかった。あとは「冬のソナタ」のCDジャケットの顔を見たりして、演技指導を岳斗先生がして。「絶対ひくなよ、恥ずかしがるな! 行けるだけ行けー!」って言われたらしくて、範之もその気になって、出てきたみたいです。

――でも初めてのエキシビションであれだけのってしまった。お客さんも惹きつけてしまった。彼にはああいうものができる才能があったんですね。
濱田 そうだったんですねえ。私もびっくり! って感じです。

――そしてエキシビションながらトリプルアクセルも跳んでしまう。今までエキシビションで神崎さんを見られなかったのが悔しいくらいです。
濱田 彼も最近、やっとスケートに打ち込める時間ができてきたみたいです。中学も受験でスケートを一年休んで、高校受験でも休んで、と何度も休みながらもここまで来て。これだけ受験勉強が大変ななか、良く続いたなって思います。

――この夏からはまた大学院の試験が始まるそうですね。
濱田 そうなんです。成績もとってもよくて。でもこれまでの受験のように特別に時間をとって試験勉強、というわけではないようなので、やっと落ち着いてスケートを続けられるようになったところですね。

――その限られた時間の練習で、トリプルアクセルを跳ぶ選手にまでなってしまった。
濱田 それに加えて彼はスケートの基本に忠実に、きれいに滑れる選手です。やっぱり何でもコツコツできる。京大に入るくらいの受験勉強という、すごく大変なことを彼はしてきた。そのことを考えたら、何でもできるでしょ、そのくらいやればスケートも上手になるよ、って言ったらほんとにがんばってしまったみたい。

――リンクの後輩たち、亜紀ちゃん、北村明子ちゃん、太田由希奈さんらにも慕われているようですね。
濱田 彼女たちからはほんとに頼られてます。みんな、勉強がわからなかったらノリ君に聞くんだ、って。コロラドにクラブのみんなで合宿に行くときも、夜はみんなの宿題を見てあげてるようですし。

kanzaki5
(濱田コーチインタビュー中、神崎選手登場)
――あ、ヨン様、じゃなくて神崎さん、ちょっと濱田先生と一緒にお写真を。いかがですか、ヨン様を演じてみて。
神崎 なんだかすごく気持ち良く滑れちゃいました。あの雪だるまとかはヤマトプロデュースなんです。

――気持ちよかった! では今シーズンの神崎さんの演技も期待できそうですね。
神崎 今年はとりあえず、自分のベストの演技をしたいな、という目標がひとつあります。今までの試合ではノーミスで滑ったことがないので、一度、ひとつのプログラムをクリーンにノーミスで滑ってみたいです。

――今年はどんなスケートを見せてくれますか? フリーは「オペラ座の怪人」ですね。
神崎 今年はショートプログラムとフリーで曲想がかなり違うんです。だからいろいろな演技ができるように……。「オペラ座の怪人」は「オペラ座の怪人」で、えーと……。

――妖しい魅力を振りまく?
神崎 はい(笑)。一方でショートは弾けた雰囲気の曲なので、両方のプログラムを滑りこなしていけたらと思ってます。

 「冬のソナタ」で、濱田コーチもびっくりの演技の幅の広さを見せてくれた神崎範之。しかし彼の表現欲はまだまだとどまるところを知らないようだ。「神崎範之といえばヨン様」「京大生」とは言わせないほどの活躍を、きっと今シーズンは見せてくれるだろう。
 そして願わくば、全日本選手権後のエキシビションで、またあの「ヨン様」を、さらにたくさんのファンに披露して欲しい!

Photo by K.Asakura 
*後ろ手に持つかわいい雪だるまは澤田亜紀選手と武田奈也選手の作


| 固定リンク | トラックバック (3)

Dreams on Ice 2005レポート(3) 安藤美姫 プログラムとの対峙

DSC_4285S
 安藤美姫は生真面目なスケーターだ。
 このプログラムをどう表現すればいいのか、いつも真剣に考えてから、氷の上に立つ。
 どんな気持ちで滑ればいいの? 
 見ている人には何を伝えればいいの? 
 ひとつひとつを確認してから滑る、そんなスケーターだ。
 器用な選手ならば、たとえプログラムで演じるべきことや伝えたいことが見つからなくとも、無難に滑りこなすことはできるだろう。でも安藤美姫は、違う。テーマが見つからなければ、自分の気持ちを入れられなければ、プログラムを滑ることさえ苦痛になってしまう。
 その結果、昨シーズン起きたことが、世界選手権直前のフリープログラム変更だった。
 安藤美姫はとても生真面目、言い換えればとても不器用なスケーターなのかもしれない。

 Dreams on Iceでの安藤美姫はどうだっただろう。
 キュートなショーガールのようなナンバー「AC-CEN-TCHU-ATE THE POSITIVE 」で見せてくれたのは、今までにない柔らかな表情。エキシビションより試合好きを公言していた以前の彼女にとって、アイスショーは居心地のよい場所ではなかった。でも昨年あたりから、そんな苦手意識も消えた。
「スケートをもう一度好きになりたかった。アメリカに行って好きになれたのがうれしかった」
 そう語っていたとおり、Dreams on Iceで見せたのは、無理やり立たされた舞台ではない、立ちたい舞台に立っているショーマンの顔。まだ通して練習できたのは3回だけ、というショーナンバーにはぎこちなさが残っていたけれど、人前で滑ることを楽しむ気持ちが伝わってくる、そんなスケートを見せてくれた。

「振付師さんに『ちょっとかわいく、ちょっとセクシーに』と言われたので、がんばってそのことを意識して滑りました」
 テレビや雑誌で盛んに引用された記者会見でのこの言葉。アメリカに行っても、安藤美姫の生真面目さは変わっていない。まずは先生に言われたとおりに、プログラムを表現してみようと一生懸命だ。
「安藤はウィルソンによる新しいショートとフリーのプログラムも、かなり気に入っているみたいですよ」
 とは、日本スケート連盟城田憲子氏の弁。先シーズンのように「どう滑ればいいかわからない」と彼女が悩む心配はないのかもしれない。
 振付師やコーチの言葉を、彼女はまず素直に受け入れる。でも、その先は……?

 プロスケーターとなってから、ほとんどのショーナンバーの振り付けを、デイビット・ウィルソンに依頼してきた伊藤みどり氏はこう語っている。
「デイビット先生は繊細で斬新な振り付けのアイディアをいっぱい持っている人。アイディアがたくさんすぎて、教わるスケーターはついていくのが大変なほどです。
 それに、彼の作ったプログラムをデイビット先生と全く同じように表現できればベストかもしれませんが、私たちはデイビットにはなれない。彼の振り付けを見よう見まねで滑るだけでは、とってつけたような表現になってしまう……。
 やはりスケーター自身の味を加えながらプログラムを完成させなくてはなりません。安藤さんがデイビットからアイディアをもらって、自分なりに解釈し、表現していくと……いったいどんなふうになるのかな? 楽しみですね。きっといいプログラムになるんじゃないのかな」

 人の作った作品であるプログラムと、どう対峙していくか。
 それはすべてのスケーターにとって、大きな課題なのだろう。
 スケートに対して真面目すぎるほど生真面目な安藤美姫にとっては、さらに大事なポイントになるはずだ。
 まずデイビット・ウィルソンのプログラムを受け入れられるか。そしてさらにウィルソンの表現を自分自身の表現へと高めていけるか。17歳の安藤美姫が、オリンピックまでの残された時間でそこまでたどりつくのは、難しいことかもしれない。
 しかしそれができている選手が、先輩の村主章枝であり、荒川静香だ。Dreams on Iceで圧倒的な存在感を見せた彼女たち。安藤美姫が彼女たちと肩を並べてトリノのリンクに立つには、ふたりの持つ滑りの存在感や見るものを引き込む力を身につけなければならない。 
 アメリカでの孤独なトレーニング生活、過熱するばかりのメディア攻勢、人々の大きすぎる期待。そんなものを乗り越えて、彼女が「これが私のプログラム」と堂々といえるものを演じた時、――私たちは今シーズン、新しい安藤美姫を目にするかもしれない。

*Dreams on Ice 2005共同記者会見より
――アメリカでの生活はいかがですか?
安藤 充実した生活です。朝からお昼まではずっとリンクにいて練習。午後は買出しにいって、夕ご飯を作って、トレーニングをしていると寝る時間になります。リズムのあるいい生活です。
――久しぶりの日本、そして久しぶりにお客さんの前で滑ってどうでしたか?
安藤 今日はすごく楽しく滑れてよかったです。帰国してからはとても疲れてしまって……。日本をエンジョイしようと思って帰ってきたのに変なカメラの人が家の周りにいて家から出られず、悲しい思いをしました。
――辛いこともたくさんあると思いますが、今年はトリノ五輪シーズン。どんなふうに取り組んで生きたいですか?
安藤 まだトリノシーズンだと思えてなくて……。オリンピックが近づいてるっていう気分も出てこなくて、その点は不安でもあるんですが、今は毎日スケートを楽しんで滑っています。
――ロシアカップから全日本まで毎週試合があるというハードなスケジュールはこなせそうですか?
安藤 きっとすごく疲れると思います。でも、若さでがんばります!

*安藤美姫選手へのインタビューは今秋発売の「日本女子フィギュアスケートオフィシャル応援ブック2006」に掲載予定です
*Dreams on Ice 2005レポート 次回は、都築・宮本組、南里康晴選手です

Photo by M.Morita


| 固定リンク | トラックバック (34)

Dreams on Ice 2005レポート(2) 中庭健介 終わらない成長期

DSC_3764S
 おなじみの本田武史は欠場、田村岳斗は昨年のDreams on Iceで引退を表明。
 社会人となった女子のトップ選手たちが元気な姿で勢ぞろいしたのに対し、男子はジュニア勢のフレッシュな顔ぶれが目立つ――そんななか、ひとり大人の男の魅力をふりまいてくれたのが、中庭健介だ。
 銃を小道具に使い、ジャケットをたなびかせながら滑るエキシビションナンバーは96年の映画「Romeo + Juliet」より「Kissing You (Love Theme from Romeo + Juliet) 」と「O Verona」。
 中庭健介は、もともと王子様イメージの強いスケーターだ。だがこのナンバーで演じるのは現代のハードボイルドなロミオ。ヘアスタイルも男っぽく、イメージチェンジしての登場だ。昨年のフリー「ロード・オブ・ザ・リング」で演劇的なプログラムを魅せる力を身につけたためだろうか、時に切なげに、時にセクシーささえも漂わせる大人のロミオを表現する役者っぷりを見せてくれた。
 しかし豊かになったのは表情や演技力だけではない。ピストルを持ったままのストレートラインステップで魅了したかと思えば、エキシビションながら4回転トウループにも果敢にチャレンジ。きれいなラインを描くイーグルでは大きな拍手も起きた。
 公演によっては照明がいいタイミングで消えなかったり、上着が顔に巻きついてしまったりとハプニングはあったが、中庭健介流の男のダンディズムを心行くまで見せてもらった気がした。


――エキシビションナンバー、「Romeo + Juliet」素敵でしたね。
中庭 実は一日目、最初のジャンプを跳んだ瞬間に、スケート靴のホックからひもがはずれてしまって……。試合だったら「スイマセーン」ってレフリーのところに行って中断してもらうんですけれど、エキシビだからもうしょうがない、とそのまま続けてしまったんですよ。でもサルコウを跳びにいったら、がーんと降りた瞬間、足がぐにゅぐにゅっとなったりして……一日目は冷や汗かきながら滑ってました。ほんとは入ってたはずのジャンプも、一発跳べなかったりもしたし。

――そんなこと全然気がつかないほど、いい滑りでしたよ。じゃあ2日目は……。
中庭 しっかりがっちりテーピング巻いて出ました(笑)。だから2日目は、まあ、わりと良かったかな。次にお見せする機会があったらもっとしっかり滑りたいです。

――次に見られる機会も楽しみにしています。中庭さんは試合と違ってエキシビションでの滑りにこだわりはありますか?
中庭 まずお客さんのことをすごく意識します。お客さんが自分たちの滑りを見に来られてるんだってことを。試合のときは、実はお客さんのことはあまり考えてないかもしれません。試合はあくまでも「自分の試合」なので……。でもこういうお客さんあってのショーとなると、やっぱり見に来てくれた方に少しでも「良かったな!」って思っていただけるように……そう考えながら滑っています。

――今年のエキシビションの振り付けは、デイビット・ウィルソンさんですか?
中庭 いえ。デイビットが忙しかったので、実は自分で……。

――え、自分で? 振り付けは初めてじゃないですか?
中庭 そうなんですよ。……っていうか、ところどころデイビットの動きを取り入れて……(笑)。

――じゃあ、デイビット・ウィルソンの影響を受けた中庭健介振り付け作品、ですね。ウィルソン作品といえば先シーズンの「ロード・オブ・ザ・リング」は素敵でした。去年、あのプログラムを滑って得たものはありますか?
中庭 やはり物語の主人公になりきるってこと。シニアに上がって感じ始めたことなんですが、シニアの選手って個性がすごく大事ですよね。例えば**選手って言えば**だねって、思い浮かぶ個性が、トップ選手なら必ずある。自分の場合、それはなんだろう、ってずっと模索してきました。それで去年の「ロード・オブ・ザ・リング」を滑ってみて、物語の主役になりきる、演じきる気持ちを学んだんです。これが自分の個性につながっていくといいな、と思ってます。

――個性ある選手を目指す。その点で誰か影響を受けたスケーターはいますか?
中庭 僕はロシアのアレクサンダー・アプト選手がすごく好きで、ああいうスケーターになれたらなって思ってます。あの、伸びやかなスケート、雰囲気。立ってるだけですでに雰囲気を出せる選手ですよね。選手時代からずっと、もちろんショウに出られてる今も。すごく憧れています。

――貴公子系という点では、アプトさんと中庭さん、共通する部分、ありますね。
中庭 まあ、そういうことにして(笑)。もちろんプルシェンコはすごいですし、ヤグディンもすごいですけど、自分はロシアの中ではアブトさんが好きなんです。

――自分の個性を見つけかけた先シーズン。では逆に、先シーズンを通してまだまだ足りない、と思ったところはありますか?
中庭 いちばんはスケートの調子にどうしてもムラがあることですね。全日本選手権までは好調を維持できたんですが、ユニバーシアードあたりからだんだん落ちてきて、四大陸では今シーズン最悪の出来になってしまった……。コンスタントに成績を残せなかったんです。常にいい調子を維持できる力、それから他にもいろいろ足りない部分はあると思うので、いま着実に改善して行こうと練習しています。夏以降に向けて!

――フリーとショートはどんなプログラムを見せてくれる予定ですか?
中庭 フリーは去年のまま、「ロード・オブ・ザ・リング」。でもデイビットに見てもらって、去年のプログラムから少しいじってます。ショートは新しいプログラムで、とにかくかっこいい曲です。「曲だけはかっこいいね」って言われないようにがんばらないと(笑)。振り付けはやっぱりデイビットなので、彼の振り付けを自分なりに踊りきることを目標にがんばってます。

――世界選手権、そしてオリンピック。大舞台で中庭さんの滑りを待っているファンもたくさんいます。
中庭 はい。やっぱり誰にでも出場のチャンスはある、と思ってますので。可能性がゼロじゃない限り、自分はしっかりめざして行きたいと思ってます。

――ウィルソンのプログラムを踊りきり、去年のNHK杯のようにトリプルアクセル、4回転とコンスタントに入れていけば……大きな強みになりますよね。
中庭 4回転はわりといい確率で跳べてきているので、今はとにかくアクセルをがんばってます。三回転半にも4回転と同じくらい自信をつけて、さらにはサルコウの4回転を。

――トウループに加えて、4回転をもう一種類!
中庭 増やすつもりです。じゃないと勝てないですから。なんとか来月、野辺山合宿があるので、そこまでに自分なりの完成をめざして行きたいと思っています。やっぱり同じ試合に出た選手に4回転を2種類跳ばれるとすごくびびります。うわあ、って(笑)。この選手に勝つのは難しいぞ、っていうインパクトが2種類の4回転にはある。中庭、野辺山でいきなり4回転サルコウ跳んで見せた、なんてことを狙ってます。

――世界でもまだ数人しか跳べない4回転サルコウ、いけそうですか?
中庭 いきます!

――大きなチャレンジをするに当たってケガなどは?
中庭 全然ないです。慢性的に痛いところもありません。

――それがいちばんですね。では最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。
中庭 引退までに、ほんとに自分が目指してること、伝えていることを見ている人にはっきりわかってもらえるスケーターになりたいと思っています。まだどうしても、ひとつのプログラムを通して、何かを伝えきることは出来ていない。今年は常に、プログラムの頭から最後までしっかりとみなさんに伝える気持ちを忘れない滑りをしたいと思っています。
 それからみなさんには「中庭君、うまくなった」って言われたいです。男子選手は高校生あたりでぐん、と伸びますよね。僕は高校生じゃないけれど、そういう年齢を重ねての成長を、まだ今年も見ている人に感じてもらいたい。「あ、うまくなったね」と引退する最後の最後まで感じていただけるような努力をしていきたいと思っています。


 男子シングルでは現役最年長組のひとりとなる中庭健介。だが、ここ数年でめきめきと力をつけてきたせいもあってか、まだまだフレッシュさも感じさせる選手だ。
 24歳になる今シーズン、4回転サルコウを新たにプログラムに入れてきたとしたら――。中庭健介は彼のいう「成長」の真っ只中にいる選手ということになる。髙橋大輔、織田信成、岸本一美、南里康晴……そんな若い面々とがっぷり四つに組み合って、トリノ五輪や世界選手権の代表争いに挑んでいってくれるだろう。
 そしてやっと自分のスタイルを掴みかけてきた中庭健介、氷の上の彼を、できるだけ長く、もっともっと長く見ていたい。


*次回は、安藤美姫選手、都築・宮本組です
Photo by M.Morita


| 固定リンク | トラックバック (1)

Dreams on Ice 2005レポート(1) Amazing ! 中野友加里

yukari8006b
 この時代の日本のフィギュアスケートに立ち会えて、本当に良かった。
 そう思わずにはいられない、今年の「Dreams on Ice2005」だった。
 ソルトレイクシティ五輪の翌シーズン、02-03シーズンごろからその百花繚乱ぶりが話題になっていた女子シングル。村主章枝、荒川静香から浅田真央まで、2002年全日本選手権上位8名の選手たちは誰一人欠けることなくトリノ五輪シーズンを迎えることができ、Dreams on Ice2005でそれぞれが華やかさを増した滑りを見せてくれた(太田由希奈選手はケガのリハビリのため欠場したが、シーズンには元気な姿を見せてくれることを期待したい)。彼女たちに加えて、澤田亜紀、北村明子、武田奈也と新星も続々登場。華やかな時代がまだまだ続いてくれることを予感させてくれた。
 さらにシニア・ジュニア合わせて7人登場した男子シングルの選手たちも、それぞれの存在を存分にアピール。「オリンピックにこの中の一人しか出られないなんて!」と悔しく思うほどの充実ぶりだ。
 なかでも特に目を引いた選手たちを、スケーター自身や周囲の人々の声も交えつつ、できるだけたくさんご紹介したい。

●Amazing ! 中野友加里
 3公演を通してもっとも大きな拍手が贈られた選手は、二部の二番目に登場した中野友加里だったかもしれない。
 彼女は昨年、一昨年と、他の女子選手が手にしたような大きなタイトルには手が届いていない。しかしジュニアの世界選手権(02年)や四大陸選手権(03年)などのメダリストであり、たくさんの選手が挑戦しているトリプルアクセルを、伊藤みどり以来10年ぶりに成功させた選手として、良く知られている。
 だがこれほどの選手でも、いまの日本女子シングルの層の厚さのなかでは、なかなか世界選手権など大きな舞台で活躍することはできない。フィギュアスケートファン以外では中野友加里の名前を知る人もまだ多くはないだろう。
 そんな彼女が「Dreams on Ice2005」では、魅せてくれた。
 曲は「最後までゆったりしたリズムが続くので難しい」と本人も言う「Amazing Grace」。佐藤久美子コーチが「エキシビション用というよりも、彼女のコンパルソリーの練習用にと振付けたナンバー」というとおり、前半は様々なターンを繰り返しながら円を描く「規定」の動きから静かに始まる。基礎を大切にじっくり身につけさせる佐藤コーチ夫妻の指導もあってか、ヘイリーのボーカルとシンクロするように、中野友加里のスケートは透きとおるような美しさだ。しかし見る人の気持ちを穏やかにしてくれる滑りを見せたと思ったら、手をいっぱいに広げた長い長いイナバウアー、Y字のスパイラル、バレエジャンプ、そして速い回転としなやかな腕の動きのドーナツスピンなど、多彩な技でも魅せる。水色のきらきらした衣装も素敵だが、それ以上に彼女自身がきらきら輝いているように見えるほどだ。
 試合での固い表情を良く知るファンたちは「友加里ちゃんってこんなに素敵なスケーターだったんだ!」と、驚く。初めて見る人々は「あの子はいったい誰? どうして今まで知らなかったんだろう?」と驚く。身長154センチの小さな彼女の作り上げる空間の大きさに圧倒されながら、たくさんの人々が驚きをもって彼女の滑りを見守っていたはずだ。
 拍手は、演技が終わる前からすでに起こっていた。最終公演では「ブラボー!」の声も彼女だけにかけられた。観客は知らず知らずのうちに中野友加里の世界に引き込まれてしまったようだ。
 演技が終わり、スポットライトが落ち、彼女が暗闇に吸い込まれるように消えていった瞬間――何かかけがえのない時間が終わってしまったような寂しさを感じたのは、私だけではないだろう。

 しかし彼女がここまで観客を魅了した演技を見せても、佐藤久美子コーチは「まだまだ」と笑う。
「これで、ジャンプがきれいに跳べればね」
 中野友加里のルッツやフリップなどのジャンプは、左脚が踏み切った右脚にからみついてしまう「巻き足」と呼ばれる特徴があるが、佐藤コーチの下で昨シーズンより少しずつこの癖を矯正中。現在はプログラム曲をかけない状態で落ち着いて跳べば、巻き足にならずに3回転ジャンプが跳べるところまで来ているという。さらに、新ジャッジシステムの下ではなかなか成功認定されずにいたトリプルアクセルも、練習ではクリーンな回転で跳べる確率がどんどん上がっているとのこと。
「ただ友加里ちゃんはせっかちだから、曲がかかると焦って、前に突っ込んで行っちゃう。私はできるだけ『がんばるな』って言っているんですよ」と、佐藤久美子コーチ。
 彼女に必要なのは、試合でも落ち着いて演技に臨める精神力。Dreams on Ice2005で見せたアメイジングな滑りに、美しいジャンプとクリーンなトリプルアクセルが加わったら……。中野友加里が今シーズンの台風の目になることは、間違いない。

(取材協力 白石和己from ice blue)
Photo by K.Asakura

*後日、関東学生選手権にて収録した中野友加里選手のインタビューを掲載します
*Dreams on Ice 2005レポートは、安藤美姫選手、中庭健介選手……と続きます


| 固定リンク | トラックバック (3)

2005プリンスアイスワールド横浜公演レポート(3)村主章枝 エキシビションナンバーの秘密!?

fumie167
 本当にスポットライトがよく似合う……。
 プリンスアイスワールドにゲスト出演すること、今年ですでに3シーズン目。
 チャンピオンズアイスなど海外のアイスショーにも誰よりも早く招聘され、競技者としてだけではなくエンターティナーとしてのスケートに、村主章枝は磨きをかけてきた。
 この日はおなじみになった昨年のエキシビションナンバー「アダージョ」と、プリンスアイスフェスティバルでも滑った新しいナンバー「キダム」を披露。ソルトレイクでも滑った「アルゼンチンよ泣かないで」、ボーカル入りの「パッフェルベルのカノン」、そして「浜辺の唄」など、いつも心に残るショーナンバーを見せてくれる彼女だが、五輪シーズンに持ってきたこのプログラムには、どんな思いが隠されているのだろうか?

――今日も今シーズンのエキシビションナンバー「キダム」を見せてもらいました。このプログラムの見どころは?
村主 今年は小道具を使うので……うまく扱えるようにして、みなさんにお見せしたいです。
――小道具、赤いボールですね。これを使うというアイディアはどこから?
村主 これはローリー(振付師のローリー・ニコル)と話し合って考えたアイディアなんですけど、道具は扱いがやっぱり難しくて……。演技の間のとり方も難しいし、ボールも壊れちゃったりして。
――壊れちゃう?
村主 そう、実はボールにちょっと細工がしてあるんです。今日の一回目の公演ではそれが壊れて、お客さんにプレゼントを投げられなかったんです。すごく悔しい!
――あ、今日はプリンスアイスファスティバルの時に投げてたちっちゃい物が出てこなかったですね。
村主 あれ、ボールが開く仕掛けになっていて、中から取り出すんですよ。でも今日の一回目はふたが開かなかったんです。
――おもしろい! そのぶんトラブルも……。
村主 多いですね。でも2回目はちゃんと投げます!(ちゃんと飛んでました)
――あのお客さんに投げてるちっちゃいのはボールですか?
村主 プリンスアイスフェスティバルのときは小さいボールだったんですけど、今回はガチャガチャのカプセル。中に携帯のストラップを入れて、拾ったみなさんにプレゼントしてるんです。みんな違うストラップでサインもしてあるので、ぜひ拾ってください。
――ガチャガチャのカプセルなら、これからのエキシビションでも何が入ってるのか……楽しみにしていいですか?
村主 はい。中身も毎回違うかもしれないので!
――では次の機会は6月のDream on Iceですね。このときは……。
村主 「キダム」、滑ります。今年は試合もたくさんありますが、みなさん、ぜひショーの方も見に来てください。

fumie314
 赤いボールを、あるときは守り抜くように抱き、あるときは触れるのも恐ろしいもののようにしりぞける。そしてついには赤いボールに真っ向から敵対する。いったい村主章枝にとってこのボールは何なのだろう? きっとこのプログラムには、彼女自身の心の奥底に通じる、ふしぎなストーリーが流れているに違いない。
 そしてプログラムを見る人それぞれのなかにも、物語は奔流のように流れ込んでくる。
 村主章枝の「キダム」、今シーズンいちばん大きな舞台のエキシビションで、ぜひ世界中の人々に見てもらいたいナンバーだ。

Photo by K.Asakura


| 固定リンク | トラックバック (1)

2005プリンスアイスワールド横浜公演レポート(2)浅田真央 はじめてのPIW

maopiw1
 かつて伊藤みどりがその看板を背負っていたプリンスアイスワールドに、浅田真央が初出演する。
 このニュースを知ったとき、古くからのスケートファンも、そして伊藤みどり自身も、さらにはふたりを育て、このショーにも長く関わってきた山田満知子コーチも、感慨深く思ったことだろう。
 それが「’プリンス’アイスワールド」としては最後のショーになるかもしれない、という残念な状況を前にしたら、なおさらのことだ。
 このアイスショーをずっと見てきたファンの一人は言う。「ついに真央ちゃんがPIWで見られる、という興奮と、その記念すべき公演がPIW最後のショーになるかもしれない寂しさ。こんな複雑な思いを抱きながら見るのは初めてです」
 しかし当の浅田真央の演技は、そんな周囲の思いなどふきとばしてしまうような軽やかさだった。
「真央ちゃーん」の声援を受けて登場し、披露したのは昨年からのエキシビションナンバー「pick your self up」。ドリームオンアイスやメダリストオンアイスなど、昨シーズン日本で披露した時には、大人っぽい黒いパンツ姿で大人っぽい振り付け。ちょっと真央ちゃんにしては背伸びをしたナンバーかな、と思ったこともあった。しかしこの日の衣装は世界ジュニアのエキシビションで初披露した赤とピンクのキュートなワンピース。おろした髪もきれいに巻いて、パンツルックの時とはまた違う雰囲気の「pick your self up」を楽しませてくれた。

――真央ちゃん、今回はプリンスアイスワールド初登場だね。
真央 うん、楽しい! でも一回しか滑らないからちょっとヒマ。(浅田真央は一公演で一回のみ登場。各日二回公演)
――もっと滑りたいんだね! ところで今年のプログラムは「ロミオとジュリエット」だそうですが。
真央 そう、フリーが「ロミオとジュリエット」。ショートはえーと、曲の名前はわからないんだけれど日本の人の音楽で、前に滑ったクスコみたいな曲(01-02&02-03シーズンのフリー「インカダンス&アンデス」。全日本選手権初出場の時のプログラム)です。ちょっと雪の精みたいな……。振付けはリーアン・ミラー先生。(*曲名は「スノーダンス」でした)
――今年はなんとグランプリシリーズのシニアに登場。ニュースを聞いてびっくりしたよ。
真央 真央もびっくりした! 新聞で見て……。
――新聞で知ったの!?
真央 うん、噂は聞いてたけど……。
――初めてのシニアの試合、誰と一緒に戦いたい?
真央 やっぱりサーシャ・コーエン! でも、うーん……まけちゃーう(笑)。maopiw2

 先ごろ発表されたグランプリシリーズ参加予定選手リストでは、第4戦フランス大会に浅田真央とサーシャ・コーエンの名があった。ノービスのころからずっと憧れていたサーシャ・コーエンとの試合、浅田真央にとっても楽しみな、スケートファンになっても大いに注目の大会となりそうだ。
 またまた背が伸びて、コメントをもらっている最中も「大きいな、まだスケート靴を履いたままなのかな?」と思ったら、ぺたんこのスニーカー姿でびっくり。もう村主章枝らと並んでもほとんど変わりない大きさだ。「ちっちゃな真央ちゃん」はいつの間にかどこかにいってしまった。

 体とともに滑りがさらに大きく、伸びやかになったためだろうか。ショー仕様で小さめに設営されたリンクがさらに狭く狭く感じる。大人っぽい「pick your self up」を完全に自分のものにしてしまった、と感じるのもきっと新しい衣装のせいだけではない。その堂々とした滑りは「初登場」を微塵も感じさせない、もうずっと前からスポットライトを受けて滑っているスタースケーターのようだった。
 そういえば浅田真央はノービス時代、2002年、2003年と2年連続でフィリップ・キャンデロロのプロアイスショーにゲストとして出演していたことがある。
「真央はプログラムで充分自分を表現でき、滑ることの喜びを感じさせてくれる選手。小さなころからああいったショーに出ていたことが、いまの真央の良さに磨きをかけたのかもしれませんね」(城田憲子日本スケート連盟フィギュア強化部長)
 14歳にしてすでにショースケーターとして、私たちにフィギュアスケートを見る喜びを提供してくれる浅田真央、はじめてのプリンスアイスワールド。これが「最初で最後の」にならなければいいな、と思う。10何年かのち、プロスケーターとしてますます輝きを増した浅田真央の滑りが見られる、日本のアイスショーが続いているように。どんな形であっても「アイスワールド」存続を願いたい。

Photo by K.Asakura


| 固定リンク | トラックバック (18)

2005プリンスアイスワールド横浜公演レポート(1)荒川静香の変化

shizuka092
 日本で唯一のプロアイスショー、プリンスアイスワールド。
 八木沼純子や鍵山正和、田村岳斗など、日本を代表するプロスケーターたちが繰り広げる華やかなこのショーも、今年で28年目。ここ数年はイリヤ・クーリック、アレクサンダー・アプトら、海外から豪華なゲストも来日、加えて国内の現役選手たちも参加し、多くのスケートファンの話題を集めてきた。
 5/3~5/5、ホームグラウンドともいえる新横浜プリンススケートセンターで開催された「凱旋公演」。プロスケーターたちの磨きのかかったエンターティナーぶり、アマチュア選手たちのオフシーズンのリラックスした表情……両方を堪能できたショーの模様を、4回にわけてレポートしたい。

03年に村主章枝がアマチュア選手として初めて参加して以来、プリンスアイスワールドには多くの日本代表選手たちが登場し、スポットライトの中でショーナンバーやショートプログラムを披露する機会を得てきた。昨年は世界チャンピオンとなった荒川静香をはじめ、安藤美姫、太田由希奈、澤田亜紀ら、若い選手たちも次々と参加。
今回は村主章枝、荒川静香、そして初お目見えとなる浅田真央らの滑りを楽しむことができた。

 昨年のゴールデンウィーク公演からゲストとしてたびたび出演している荒川静香は、先シーズンのエキシビションナンバー「キャッツより『メモリー』」とショートプログラム「蝶々夫人」を各公演で披露。ひょっとしたらこれで見納めとなるかもしれないこの二つのプログラムを、先シーズンの集大成ともいえる見事な完成度で見せてくれた。
 公演前半で披露した「メモリー」はおそらく荒川静香のエキシビションプログラム史上、最高のナンバーだろう。ゆったりした曲調は、彼女の流れるようなスケーティングの美しさを心ゆくまで見せてくれるもの。ロイド・ウェーバーの楽曲は、表現する力の乏しいスケーターが滑ると、音楽に演技が飲み込まれてしまいそうになるほどドラマチックだ。しかし、高い位置で足をつかんでのスパイラル、何げないつなぎのポーズ、ひとつひとつの動きに表情のついてきた静香版「キャッツ」は、音楽に負けないスケールの大きさがある。さらに今回は、動きと動きの間にふっと体を止めてみせる「タメ」、この間の取り方が絶妙で、思わず身を乗り出して見てしまうほどだった。
 世界選手権のエキシビションでこれを見られなかったモスクワのフィギュアファンは、本当に残念! などと思ってしまうほどの「メモリー」。来るべきシーズン、荒川静香とタチアナ・タラソワはこのナンバーを越えるどんなエキシビションプログラムを用意してくるのか――いまから楽しみだ。

shizuka290
 しかしその「メモリー」以上に素晴らしかったのが、今公演限定で用意されたボーカル入りバージョン「蝶々夫人」だ。「メモリー」は腕の動きひとつ、体の動きひとつに表情があった。しかし「蝶々夫人」では体の動きだけでなく、「シズカは笑わない」などといわれてきた彼女の「顔」、ここにまるで女優のようないきいきとした表情があったのだ。マダム・バタフライの「憂い」「喜び」「哀しみ」「決意」……これほどエモーショナルな表情を荒川静香が見せたことが、これまであっただろうか?
 例えば昨シーズンの「ロミオとジュリエット」。同じ曲で滑ったロシアのエレナ・ソコロワが大きな表情と上半身の演劇的な表現でジュリエットの心情を表したのに対し、荒川静香はスケーティング、滑りの美しさと複雑なステップワークで恋する女性の感情を表現していた。表情が乏しくとも、スケーティングでプログラムを表現できる、滑りで氷の上に世界を作ることができる、荒川静香はそんなスケーターなのだ。
 しかしこの日の「蝶々夫人」は、ソコロワにも村主章枝にも負けない演技力で、観客に何かを語りかけようとしているかに見えた。「自分自身が気持ちよく滑ること」で見ているものをも気持ちよくさせてしまうスケーターから、積極的にスケートで何かを伝えようとするスケーターへ。荒川静香はいま、大きく変わろうとしているのかもしれない。

 かつて荒川静香は言った。
「試合と違ってショーやエキシビなら、ジャンプ跳ばなきゃ! とか、失敗しちゃいけない! という気持ちは全くないですよね。だからひたすら、曲に身をゆだねていればいいんです」
 多彩な表情に満ちた「蝶々夫人」はアイスショーだからこそ見せられた特別な滑りだったのだろうか。それとも、五輪を前にしたシーズン、彼女の中で何かが大きく変わろうとしているのだろうか。
 その答えがわかるのは、もう少し先の楽しみになるかもしれない。
 さしいれのおまんじゅうを抱えて幸せそうに歩いていたバックステージの荒川静香は、一年前と全く変わらない、リラックスした表情をしていたけれど。

Photo by K.Asakura
上:白い衣装で滑った「蝶々夫人」
下:フィナーレは昨シーズン初頭の「ロミオとジュリエット」の衣装で登場


| 固定リンク | トラックバック (5)

第7回プリンスアイスフェスティバルレポート(3)

kozuka093
 新横浜のクラブにはまだまだ注目選手がたくさん。
 全員をご紹介はできませんが、レポートの最後に来シーズン期待される若い3組をクローズアップ!

 昨年の全日本選手権では、本田武史選手を抑えてショートプログラム1位。一躍注目を集めた小塚崇彦選手。お父さんの嗣彦さんはグルノーブル五輪男子シングル代表、おじいさんも日本のフィギュアスケート黎明期に活躍したスケーター、お母さんの幸子さんもコーチというスケート一家育ちで、親子二代でのオリンピック出場を目指します。見どころは何といっても両親、そして佐藤信夫コーチに徹底的に鍛え上げられた美しいスケーティング。この日は狭いリンクながらスピードもたっぷり。オープニングでは綺麗なトリプルルッツも披露しました。
 kozuka338
 ソロナンバーはアップテンポの男性ボーカル曲。小さなころからエキシビションなどに出演しているので、お兄さんお姉さんに混じって滑る小さな男の子、という印象が強かった彼ですが、手も足もすくすく伸びていつのまにか立派な青年に。陽気な音楽に乗ってトリプルアクセルも決めてくれました。最後の最後に転倒してしまったのは残念!

chika648
 世界トップクラスの選手がひしめき、超激戦だった04年全日本選手権女子シングル、みごと9位に入ったのが村主千香選手。ご存知村主章枝選手の妹さんです。雰囲気もどことなくお姉さんに似ていて「丸顔の章枝ちゃん」といった印象。
 この日はタンゴのリズムにのって、大人のムードいっぱいの演技。美しいレイバックスピンやフライングキャメルのフライングにまで「情熱」を感じさせる滑りでした。村主章枝とは違う種類の、体から自然にわきでる情熱。でも、演技の最後の挨拶までしっかり丁寧で、気を抜かないところはお姉さんと一緒。おみごと!
 ちなみに衣装は村主章枝選手がアメリカのアイスショーツアー、チャンピオンズアイスで着用していたものでした(「日本女子フィギュアスケートオフィシャル応援ブック」35ページ参照)。

dance626 最後にご紹介するのはアイスダンス全日本ジュニア優勝の澤山璃奈・水谷太洋組。シングルに比べると日本では競技人口が少なく、なかなか世界のトップレベルには届かないアイスダンスですが、若い芽は着実に育っています。
 この日は「オペラ座の怪人」のナンバーにのって仮面をつけた怪人とクリスティーヌを演じたふたり。リフトが豪快で安定感あり! また美男美女でアイスダンスには欠かせない「いい雰囲気」を持っているので今後が楽しみなカップル。まだまだ日本人らしい奥ゆかしさは残ってしまうけれど、少しずつでも客席に向かって微笑むような余裕が出てくれば、どんどん魅力を放っていきそう。
 来シーズンは世界ジュニア出場が期待されます。

shinf3_435
 そしてこちらは村主章枝らトップ選手を中心に、フィナーレで勢ぞろいした新横浜プリンスクラブのスケーターたち。たくさんの子どもたちの中には楽しく自分のペースでフィギュアを続けている子たちもいれば、先輩たちに続いて世界のトップで戦うことを夢見ている選手たちもいます。すべての子どもたちがフィギュアスケートというスポーツにとって欠かせない存在であり、このリンクはすべての子どもたちにとって必要な場所。
 新横浜に限らず、日本中のアイスリンクに、ずっと子どもたちの笑い声が響き続けてくれることを祈らずにいられません。
 

*日本ではこの数年間、アイススケートリンクの閉鎖が相次いでいます。昨年も高橋大輔選手や織田信成選手らが練習する大阪の「O2スケートリンク」、本田武史選手や荒川静香選手が育った仙台の「コナミアイスアリーナ泉アイスアリーナ」が反対の声もむなしく閉鎖に追い込まれました。

スケートリンク閉鎖、存続運動関連リンク
O2リンク閉鎖撤回を求める掲示板  
宮城スケート競技を考える会 
『 THE END OF 新松戸DOSCアカデミー 』 レポート - 


| 固定リンク | トラックバック (0)

第7回プリンスアイスフェスティバルレポート(2)

hirokazu 主だった選手がひとりずつ紹介されたオープニングでは、各選手思い思いの衣装と音楽で登場。短い時間にそれぞれの得意技を披露しました。黒いパンツルックで髪をアップにし、大人っぽく登場した村主千香選手、きれいなキャメルからのドーナツスピンを見せた宮本亜由美選手、付け髭をつけてクリムキンイーグルに挑戦した小川貴夫選手などが続々氷上に。NHK杯や四大陸選手権に出場したこのふたりも目立っていました。

yukari10 「恥ずかしいっす」といいながらも金髪のかつらにゴリエちゃんルックで大喝采を浴びた小林宏一選手。曲はもちろん「Mickey!」。このスタイルで豪快なバレエジャンプも披露! バックステージでは小さな子どもたちから「ゴリエちゃんサインして~」と追いかけ回される人気者でした。
 一方、試合ではなかなか見せないりラックスした笑顔で、リンクを洗い流すようななめらか滑りを見せたのが中野友加里選手。まるでスケート靴が喜んで滑っていくようなスケーティングは、この一年間でしっかり身につけたもの。ムーブメントひとつひとつが美しく、さしのべた手の先に何かがあるような錯覚さえおこさせてくれました。来シーズンは中野友加里独特の世界をきっと見せてくれそう。

chibicyan 選手たちが級ごと、クラスごとに分かれて披露するグループナンバーはぜんぶで8つ。
 最初に登場した無級・初級のちびっ子スケーターたちは、スカートの広がったかわいらしい衣装で西田美和振付けの「ドレミの歌」。ひとりひとりが音符の精のようにはじけていました。

 yukarigp
小林宏一、村主千香ら7級・8級のトップ選手たちもプレスリーの「A Little Less Conversation 」にのって、ここでしか見られないグループ演目を。Tシャツ、ジーンズ、カウボーイハットにガンベルトといういでたちで、全員でいっせいにスピン! いっせいに氷上腕立て伏せ! 全日本クラスの選手たちだけあってシンクロスケーティングも形がきれいでスピードも満点でした。「これ作ってる時が一番楽しかった!」と中野友加里選手も言うだけあって、スターズオンアイスのグループナンバー顔負けのエンターテイメント!

hirokazu2 トップ選手たちはソロでそれぞれのエキシビションナンバーも披露。小林宏一選手はゴリエちゃんしてただけではありません。シースルーのセクシーな衣装でドラマチックなプログラムも魅せてくれました。背が高いのでキャメルスピンが大きく、しかもラインが綺麗。ストレートラインステップに入れたツイヅルも鮮やか。指先まで神経の行き届いた演技に、「魔性の男、ヒロカズ」を堪能。(続く)

Photo by K.Asakura


| 固定リンク | トラックバック (0)

「お帰りなさい、章枝ちゃん」 ――第7回プリンスアイスフェスティバルレポート(1)

fumieyokohama3
 村主章枝、荒川静香、安藤美姫。世界選手権女子シングル代表3選手のホームリンク・新横浜プリンスホテルスケートセンターで、26日、小さなアイスショーがひっそりと開催された。
 このリンクのクラブでフィギュアスケートを習っているちびっこから、全日本選手権クラスの選手、そして大人まで、たくさんのフィギュアスケーターたちの発表会的なアイスショー「プリンスアイスフェスティバル」だ。
 入場者に解放されたのは観客席の片側半分だけだが、一日二回行われた公演はともに立ち見が出るほどの盛況。出演するスケーターたちの家族や友人たちにまじり、中野友加里、小林宏一、小塚崇彦ら、シニア・ジュニアの強化選手たちの今シーズン最後の滑りも見られるとあって、マニアックなフィギュアファンも大勢つめかけている。
 そんなファンたちにとって大きな大きなプレゼントがこの日はあった。出演予定者に名前のなかったはずの村主章枝が、急遽出演! プログラムの最後に演技を披露してくれるというのだ。これは取材を申し込んでいた私たちも、当日リンクに行くまで知らなかったこと。モスクワでの世界選手権、そしてサンクトペテルブルクでのショーを終えたばかりの彼女がどんな滑りを見せてくれるのか――わくわくしながら登場を待った。

 アイスショーはふだん新横浜で行われているプロスケーターのショー「プリンスアイスワールド」や全日本代表選手のエキシビション「ドリームオンアイス」「メダリストオンアイス」などとは違う、手作り感覚あふれる雰囲気。中野友加里や小林宏一などトップ選手たちのグループナンバーもあれば、まだジャンプも跳べない子どもたちがおそろいの衣装でかわいく滑るナンバー、さらに熟年世代が思い思いにゆったり滑るプログラムなどなど。リンクに所属するインストラクター、松村充や佐藤紀子らが振り付けを手がけたナンバーは、どれも純粋にスケートを滑る喜びにあふれたものばかり。普段は見られない様々な「フィギュアスケートを楽しむ形」を見せてもらった気がした。
「新横浜は私のホームリンクというだけでなく、スケートに打ち込むたくさんの人々にとって必要な場所。何とかなって欲しい」と世界選手権で語っていた村主章枝の言葉を思い出した。
 
 約2時間のアイスショーの最後に、いよいよ村主章枝が登場。
 披露したのは世界選手権のエキシビションでも滑った今シーズンのEXナンバー「アルビノーニのアダージョ」ではなく、初めて見せるまったく新しいプログラムだ。音楽はシルク・ド・ソレイユのアルバム「キダム」から「Seisouso」。白いラメの入ったトップスに黒のパンツ姿というシックな装いだが、手にしているのは彼女の魂を体から取り出したかのような鮮やかな赤いボール。
 物悲しい女性ボーカルで始まるプログラム前半は美しい滑りやスピンを堪能、途中、音楽がドラマチックなインストゥルメンタルになると、彼女の動きも一気に躍動的に。体から染み出る気品、そして内に秘めたパワー! そのどちらも持っている村主章枝の魅力を存分に見せてくれるナンバーだ。
 ボールを小道具に使って見せたペアのデススパイラルのような動きも美しく、どこからか取り出した小さなボールを観客に投げるサービスもエキシビションならではの楽しさ!
 モスクワで世界最高のスケーターたちの演技を見てきたばかりだというのに、「なんでこんないいもの隠していたの?」と驚かずにはいられない滑りだった。
 充分な滑り込みもされていて、作ったばかりのプログラムとはちょっと思えない。振付けはローリー・ニコルということだから、おそらく昨年、「『アダージョ』の他にもうひとつエキシビションナンバーを作っています」と語っていたプログラムがこれだろう。ひょっとしたら彼女はこのプログラムを、世界選手権でメダルを獲得した暁に滑りつもりだったのかもしれない。

 世界選手権で披露はできなかったけれど、これからトリノ五輪に向けてこのリンクで滑っていく、と決めた新横浜で、この素晴らしいエキシビションナンバーを初披露できたこと。ともにスケートをしていく仲間たちと同じ舞台で披露できたことは、彼女自身にとっていいシーズンの締めくくりであり、来シーズンに向けての本当にいいスタートになったのではないだろうか。
 ここ数年の不況により、日本ではたくさんのスケートリンクが閉鎖に追い込まれた。そして日本のフィギュアスケート界にとってなくてはならないはずの新横浜のリンクも、西武グループ経営改革の一環として、売却・撤退のリストにあがっている。
 このリンクをつぶしたくない、私たちのリンクを存続させたい。そんな無言の叫びも、このショーに出演したすべてのスケーターから感じられた。村主章枝自身もそんな思いを抱いて、このショーに急遽出演を決めたのかもしれない。こんなたくさんの子どもたちがスケートを楽しんでいる場所なんです。どうか無くならないで……と。

pink 村主章枝のプログラムの後、フィナーレで出演者たちは粋な演出を見せてくれた。
 まんなかに村主章枝、そのまわりに中野友加里、小林宏一、小塚崇彦、そして妹の村主千香……。新横浜プリンスクラブを代表する選手たちがそろって挨拶をしたあと、観客席の方に滑りよった全員が一度リンクフェンスの影にひそんだ。……と思ったら、いっせいに片手を挙げて跳びあがる! そう、村主章枝の今シーズンのショートプログラム「ピンクパンサー」の最後のポーズを、トップ選手たちがそろってやって見せたのだ。きっと彼女の出演が決まってから、みんなで決めた演出なのだろう。
 それはまるで新横浜の選手たちから村主章枝に向けての「おかえりなさい」の言葉のようにも見えた。モスクワ世界選手権から「お帰りなさい」、そして改めてホームリンクを新横浜に決めたことに対しての「お帰りなさい」。
 フィギュアスケートの未来を担うたくさんの選手たち、小さな子どもたちの真ん中でフィナーレのダンスを踊る村主章枝は、今シーズン見たどの表情よりも穏やかで幸せそうに見えた。

 ほんとうにお帰りなさい、章枝ちゃん。あなたのスケート人生の最後の最後まで、この場所があなたのホームリンクでありますように。

fumiesig1

*村主章枝選手から世界選手権特集プレゼントの公式プログラムにサインをいただきました
(荒川静香選手からもパンフレット、ポスター等にサインをいただきました)
* 5月3日~5月4日のプリンスアイスワールド(http://www.princehotels.co.jp/iceshow/)、また6月25日~6月26日のドリームオンアイスで村主章枝選手の新EXプログラムは見られるはず。必見です!
*他選手のプログラムレポートをも後日掲載します


| 固定リンク | トラックバック (2)