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この特集では、浅田真央選手、安藤美姫選手をはじめとする注目選手の活躍や最新情報など、フィギュアスケートにまつわる様々なレポートを写真とともにお届けします。
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フィギュアスケート特集

村主章枝・荒川静香――揃い咲く二輪の花

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村主章枝と荒川静香は、このオフシーズン、ちょっとがんばりすぎてしまったのではないかな、と思う。
ともに出場すれば二度目となるオリンピックだが、メダルを狙える位置に立つ、トップスケーターという立場での挑戦は、ふたりともに初めてのことだ。
そしてジュニアのころから競ってきたふたりが、おそらく揃って出場するだろうオリンピックも、初めてのこと。
村主章枝も荒川静香も決して口にはしないが、お互いの存在を充分意識し、大きな励みにして、こんなに高いところまで上り詰めてきた。
また彼女たちだけでなく、多くのフィギュアスケートファンも、持ち味の違うふたりの日本を代表する舞姫があの場所で競うことを、何年も何年も待ち焦がれてきたのだ。

ふたりはオフシーズン、それぞれ高いモチベーションを維持しながら過ごしてきた。
村主章枝はコーチの佐藤信夫氏をして「彼女と同じ努力をすれば、誰もが世界チャンピオンになれるかもしれない。そのくらい彼女のスケートに臨む姿勢は、凄まじいものがあります」と言わしめるほど、たゆまぬ努力で今の自分を手に入れてきた。
小林宏一、織田信成など、彼女をすぐそばで見てきた日本の選手たちも言う。「章枝さんほどのことはできないかもしれない。でも、できるならば近づきたい」と。
そこまでの覚悟でスケートに迫る村主章枝の気迫が、今シーズンはさらに凄まじかったことを、野辺山サマーフェスティバルを見た人ならば知っているはずだ。
新しいショートプログラムを、ちょっとお試しで滑ってみます、そんな雰囲気の野辺山で、完璧に決めて見せたジャンプ。切なさも力強さも、これでもかと解き放った演技。荒川静香以外の日本のトップスケーターが勢ぞろいするなかで、「やはり村主!」と見せ付けた格の違い。それでもその日の演技に対し、「まだぜんぜんできてない……」とうそぶいた彼女に、いったいこの人は今シーズン、どこまで行くつもりだろう、と眼を見張ったものだ。

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一方荒川静香は、6月のドリームオンアイス以降、ファンの前に姿を現すことはなかった。
オフシーズンのほとんどをアメリカ・シムズベリーで過ごしていたため、彼女へのインタビューも国際電話を通してのもの。しかし遠い遠いところから聞こえてくる彼女の言葉に、「いま、私はいったい誰としゃべっているのだろう?」と不思議な気持ちになってしまった。まるで世界ジュニアを制した年の安藤美姫と話をしているような錯覚に陥るほど、荒川静香のモチベーションは高かった。彼女がこれほどストレートに、自らのスケートへのこだわりや意気込みを語ることは、かつてなかったのだ。
そしてその気持ちの充実がそのまま現れたような素晴らしい演技を、10月のジャパンインターナショナルチャレンジでは見せてくれた。
初お披露目だったフリー「幻想即興曲」は、高難度のスパイラル、ステップと見せ場満載のプログラム。このチャンピオンになるためのプログラムを、凛々しい表情で女王の貫禄たっぷりに見せ、リンクの空気を支配してしまった。
しかも観客たちを熱狂の渦に巻き込んでおきながら、フィニッシュしたあとの荒川静香が「ま、こんなものかな」とでも言いたげな表情を見せたことを忘れられない。喝采の大きさやスタンディングオベーションに、本人の方が驚いていたようにも見えたのだ。
ああ、この人にはもっと高いレベルで完成させるべき演技が、すでに見えている。そしてそれを、あと何ヵ月後には見ることができるのだ。そんなことを考えて、ぞくぞくしてしまった。

オフシーズン、またシーズン初旬にかなりのレベルまで調子を上げておきながら「まだまだ!」という気持ちも忘れていなかったふたり。
でもそんな強い思いがあるゆえに、気持ちもからだもちょっとだけ、無理をしてしまったようだ。
グランプリシリーズ、村主章枝はケガのためカナダ大会8位、荒川静香は気負いすぎて中国大会、フランス大会ともに3位。日本を代表するふたりがそろってファイナルに残れないという予想もしなかった事態になってしまった。

でもシーズン前半、すでにチャンピオンにふさわしい滑りを見せてくれた彼女たちが「きっと大丈夫」なことは、スケートファンみんなが知っている。「大丈夫ですよね?」そんな問いに、
「ええ、ふたりのことは、私は何も心配していませんよ」
長くふたりを見つめてきた佐藤久美子コーチも、静かに微笑んでくれた。

安藤美姫や浅田真央の活躍は、もちろん素晴らしい。
しかし、日本のフィギュアスケートが停滞期だったころから女子シングルを背負ってきたふたり。
それぞれが違う輝きを、しかしそれぞれに強い輝きを放つスケーターに、そろって成長したふたり。
今シーズン、村主章枝と荒川静香にこそ、長年培った努力と才能の結晶を見せて欲しい。

二輪の花が夢の舞台で初めてそろい咲く瞬間を、多くのスケートファンが待っている。

Photo by K.Asakura


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浅田真央 エリックボンパールトロフィー優勝

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2003年3月に刊行された対談集『Stay Gold』のなかで、浅田真央はテニスプレイヤー松岡修造氏とこんな会話をかわしている。

修造 ところで僕は、真央ちゃんだったらできるんじゃないかって思うことがあるんだ。オリンピックに出たいって言ってたけど、年齢的に今度のトリノ五輪は出場できないんですよね。一年足りないんだっけ。そうすると、なんと次の次、2010年のオリンピックまで待たなきゃいけないってことになるよね。これは運もあるからしょうがないんだけれど……、でも次のトリノも、私は出たいって気持ち、ある? 
真央 はい!
修造 出たいよね、やっぱり選手だもん。でも今回の全日本(2002年)も、ノービスで大活躍だからシニアの大会なのに特別推薦で出られた。それと同じようにジュニアの世界選手権なんかで二年後とかに、真央ちゃんがすごくいい成績出したら……? そうしたら、世界がもう、「真央を出せ、真央を出さなきゃオリンピックじゃない!」って、そういう事態になる可能性あるよね。そういうことは、考えない?
真央 うーん、あんまり考えたことない……。
修造 そっか(笑)。でも僕は考えちゃったよ! だって真央ちゃんのこと、僕は一二歳だって考えてないから。ひとりの選手だって思ってるから……。何が起こるかは誰にもわからないじゃない? こんなこと言ってプレッシャーかけたら、山田先生に「修造、ダメよ!」って怒られちゃうかもしれないけれど。でも、充分ありうることだと思うんだ。ひとつひとつがんばっていくうちに、世界のルールまで変えてしまうような存在に、真央ちゃんならなれるんじゃないかなあって。
真央 そうなれるようにがんばります!
松岡修造著『Stay Gold』ナナコーポレートコミュニケーション刊 対談収録は2003年1月)

浅田真央はトリノ五輪に出られない。それを残念だという声はすでに3年前、2002年の全日本選手権でトリプルアクセルや3連続コンビネーションに挑戦し、喝采を浴びた時から起きていた。
3年後の今、浅田真央は初出場のグランプリシリーズ・チャイナカップでスルツカヤに次ぐ2位、エリックボンパールトロフィーではワールドメダリストふたりを抑えての優勝。
「真央を出せ、真央を出さなきゃオリンピックじゃない!」
世界中の人々がそう叫びだしそうな状況が、本当におきてしまったようだ。

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2大会の成績を受けてグランプリファイナルへの進出もほぼ決まった。
今年は5年ぶりに日本開催となるグランプリファイナル。もしここで、もう一度浅田真央がのびのびとした演技を見せ、世界の強豪を抑えてしまったとしたら?
いやがおうにもオリンピック真央待望論は国内外で大きなうねりとなるだろう。
しかしここで私たちが忘れてはならないのは、浅田真央自身の気持ちのありどころだ。
15歳(スケート年齢14歳)ではオリンピックに出られないことを、彼女はずっと前から知っていた。
そしてプレッシャー無しの「楽ちん!」な気持ちで、今年のシニアデビューを迎えた。
そんな彼女は、トリノオリンピックに特例待遇で出場することを、ほんとうにのぞんでいるのだろうか?

『Stay Gold』ではこんな会話も交わされている。

修造 どんな選手に憧れる?
真央 サーシャ・コーエン!
修造 おおっ!
真央 あと、スティーブン・カズンズさん。
修造 それはなかなか渋いね(笑)! でもコーエンって確かに、元気いっぱいでジャンプ得意でパワーもみなぎってる。そうかと思えばスパイラルもきれいで、魅せるスケーターって感じするよね。そういうところ、真央ちゃんも似てるかな。
真央 サーシャ・コーエンは何でもできる選手なので、そこがすごいと思います!
修造 そうか、全部ができる選手になりたいって言ってたもんね。じゃあ日本人の選手では? このあいだの全日本では、まさに日本のトップの選手と同じ舞台に立ったわけだけど、あのお姉さんたちのなかで目標にしたいなっていうのは?
真央 荒川静香さん!
修造 荒川さんがいちばん好きなんだ! 

ほんとうに、いつ聞いても浅田真央の憧れはサーシャ・コーエンであり、荒川静香だった。ふたりが世界チャンピオン、銀メダリストになる以前から憧れていたのだから、筋金入りだ。
そんなふたりに、両脇をはさまれて立つ、シニアグランプリシリーズの表彰台。
ここに立ったことで、浅田真央のオリンピックへの意識は、変わったのだろうか。
ふたりを憧れの存在ではなく、競う相手だと思うようになっただろうか。
まだ楽ちんな気持ちでノープレッシャーの立場を楽しんでいるのだろうか。

カメラの前ではまだ、なかなか本音を言わない彼女の気持ちを知ることは難しい。
しかしマスコミも世論も、浅田真央のオリンピック出場について議論を交わす前に、何よりも浅田真央自身の気持ちを大切にする姿勢を忘れないでいたいと思う。

Photo by M.Morita
(写真はドリームオンアイスでの演技とチャイナカップ記者会見)

*浅田真央選手に関するこれまでの記事
2005プリンスアイスワールド横浜公演レポート(2)浅田真央 はじめてのPIW
チャイナカップ 浅田真央2位! 山田満知子コーチインタビュー

*男子シングルオフィシャルファンブック『Cutting Edge』の公式サイトができました
http://book.dai-x.com/cutting-edge/ にて予約受付中。全国書店での発売日は11月28日です


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祝! 高橋大輔スケートアメリカ優勝。長光歌子コーチインタビュー

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 高橋大輔がついにやってくれた。
 グランプリシリーズ初戦、スケートアメリカにて日本代表選手の先陣を切って登場した彼は、ショートプログラム1位、フリー1位の完全優勝。しかも昨シーズンの世界選手権メダリスト、エヴァン・ライサチェク(アメリカ)や04年ヨーロッパ選手権チャンピオン、ブライアン・ジュベール(フランス)、またソルトレイクシティ五輪銅メダリストのティモシー・ゲーブル(アメリカ)ら、強豪を抑えての優勝だ。
 グランプリシリーズでの優勝はおろか、表彰台も初体験という高橋大輔。昨シーズンの全日本選手権6位、世界選手権15位の彼に、いったい何が起きたのか?
 オフシーズンに聞いた長光歌子コーチの話から、読み解いてみたい。

――この時期(8月)の高橋選手のトレーニングの状況を教えてください。
長光 今は氷の上でのトレーニングももちろんですが、陸の上でのトレーニングで基礎体力をつけること。まずそこに重点を置いてやっています。比率で言うと、去年はオンアイス80%オフアイス20%くらいでしたが、今年はそれが50%50%、いやそれ以上に陸の上でのトレーニングを重視していますね。

――まずは体力!
長光 そうですね。やはりニュージャッジングシステムが始まったことで、どのエレメンツもレベルを上げていかなくちゃいけない。特にスピンなどはより難しいポジションを取らなきゃ点がもらえないということで、体も柔らかくしたい。そのあたりを考えても、やっぱりいちばんに彼の体力の器を大きくしなてはと思っています。それを今年の夏、9月の真ん中あたりまでの目標にしています。

――じっくりと焦らず、時間をかけての取り組みですね。トレーニングはアメリカでも積んでいるとか。
長光 はい、振付師のニコライ・モロゾフのところで。彼はアイスダンサーでしたが、かつてはシングルの練習もかなりやっていたようで、コーチングのセンスもある。いいアドバイスをもらっているようです。

――プログラムもショート(タンゴfromムーラン・ルージュ)、フリー(ラフマニノフピアノ協奏曲第2番)ともともにモロゾフさんの振付。高橋大輔×モロゾフの組み合わせは、意外にも初めてなんですね。
長光 そう、今期のプログラムは、大輔本人がとても気に入っているんです。野辺山サマーフェスティバルでは靴の調整でごたごたしてあまり調子がよくなく、お見せできませんでしたが……。でも彼自身が気に入って練習できているのがいちばんですよね。

――日本での練習の拠点は大阪。生活は地元・岡山を離れ、大阪の長光先生のお宅に下宿中ですね。
長光 コーチと家でもリンクでもいっしょというのは、彼もかわいそうだけれど……。初めはやっぱり、一人暮らしがしたかったみたいですよ(笑)。でもこのオリンピックイヤー終わるまでは、ひとり住まいなんてとてもできないし、経済的にも楽になりますから、うちにいるべきじゃないかってことになりました。海外での合宿にも今年はずーっと私がついて行ってますが、来シーズンからは少し突き放そうかな、と思っているところです。顔つなぎに私も初めは行くけれど、すぐ日本に帰ってきてしまおうと。あとは自分ひとりで、自力で海外での生活も、トレーニングもできるようになりなさい、と言ってるんです。やっぱりそろそろね、自分自身でいろいろなことをこなす経験もして。またそれが、競技の上での強さに繋がって行くと思いますから。

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――氷の上ではとても素敵な高橋選手。素顔はどんな選手でしょうか?
長光 ふだんはまあ、ねえ(笑)。なんだか私も、いつもそばにいすぎて外からどう見えているのかわからなくなっていますが、でも、面白い子ですよね。基本的には素直でとても優しい男の子。でもその優しさが、競技者として大きな試合に出ていく場合に、弱さにつながった部分もあったかもしれません。でも最近は、調子の悪いときには遠慮しないで、よくこっちにあたってくれるようになりました。それもまあ、いちばんそばにいるものの務めかな(笑)。

――そういった普段の彼の魅力もふまえて、これから先、どんな高橋大輔をみせていきたいと思われますか?
長光 やはり彼自身しか出せない味のあるスケート。男の色気というのかな、そんなものを見せたいですよね。最近はちょっとなよっとした感じの、ユニセックスな雰囲気のスケーターが男子にはけっこう多いでしょう? 彼らとはまた違った魅力を、大輔は出せるんじゃないかな。男らしい、男としての色気を感じさせてくれる、そんなスケーターになって欲しいと思います。その人だけの持ち味、独特のカラーを持つことは、世界で戦えるひとつの大切な要素だと思いますから。

 ジャンプさえ安定すれば、誰よりも輝くスケーターだと、ずっと言われてきた高橋大輔。
 今期はオフシーズンの練習がしっかり積めたこと、とても気に入ったプログラムを滑れていること。そんな精神面の充実が、今まで無かった自信を彼に与えてくれたのだろう。

 ところで彼は、優勝したスケートアメリカの演技に、満足しているだろうか? 
 フリーでは転倒などの目だったジャンプミスは無く、構成点(PCS)も、ひとりオール7点台という高い点数を獲得できた。しかし世界大会の表彰台を目指すのに必要なトリプルアクセルや4回転は、この試合、まだクリーンには入っていないようだ(訂正:トリプルアクセルはコンビネーションで成功)。
「僕、理想は高いんです。これまでの演技で満足のいったものって、数えるほどしかない」
 かつて、そう語っていた彼。このスケートアメリカの優勝にも、きっと心からは満足していないのではないだろうか。
 初日のショートプログラム1位も、トリプルアクセルでの転倒があっての1位。たぶんその悔しさが、彼の緊張の糸をとぎらせず、フリーの1位につながったはずだ。
 11月のNHK杯、そして12月のグランプリファイナル、全日本、そしてさらにその先へ。まだまだ満足をする機会はいくらでもある。今回のアメリカでの演技が、次の満足、本当の満足につながるものであればいいな、と思う。

この試合の模様は10/28 20:10~21:00 NHKBS1にて放送される。

Photo by K.Asakura 
*写真は10月1日ジャンパンインターナショナルチャレンジでの演技
*「頂点目指す」――8月、長野県野辺山での日本代表合宿にて、今シーズンの決意を語ってくれた

*高橋大輔選手へのインタビューは、11月下旬発売の「日本男子フィギュアスケートオフィシャルブック Cutting Edge」(ダイエックス出版刊)に掲載予定です

*高橋大輔選手に関するこれまでの記事
2005世界選手権特集
男子シングル日本勢展望
高橋大輔予選6位通過
本田、高橋、日本男子シングルの今後
男子シングルショートプログラム 高橋大輔、孤軍奮闘高橋大輔、フリー直前!
男子フリー終了 フリー18位、総合15位 高橋大輔の試練
オフリンクのチームジャパン


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新しい師の元で(1)恩田美栄

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 全日本選手権、7位。
 日本代表として世界選手権出場3回、オリンピック出場1回。日本を代表するトップスケーターのひとり、恩田美栄の2004年の最後の試合での成績である。
 荒川静香や浅田真央のしなやかなジャンプとはまた違う、パワフルで爆発するようなジャンプが、彼女の持ち味のはずだった。しかしこの試合、フリーでは6つのジャンプで転倒やパンクなどのミス。最高で53.30点たたき出せたこともある総要素点(技術点・エレメンツ)も39.50点どまり。
 多少スケーティングに粗さが残っていても、やはり恩田美栄のあの大きなジャンプがみたい、そう思わせてくれるはずのトレードマークが、全日本選手権ではすっかり影をひそめてしまっていた。
「あのころの恩田のジャンプには、いつもの彼女らしさが消えていました。得意だったはずのジャンプの軸取りがまずうまくいっていない……。その年の春からついたアメリカのウェイシガーコーチからは様々なことを吸収してきました。でも肝心のジャンプは、もう一度日本の先生に見てもらう必要があった。そこで地元名古屋でジャンプ指導に定評のある門奈裕子コーチを、全日本選手権後に紹介したんです」(日本スケート連盟フィギュア強化部長 城田憲子氏)
 今年一月、世界選手権代表の最後のひとりを決める四大陸選手権の前、スケート連盟は村主章枝が相性のいい佐藤信夫コーチともう一度師弟関係を結べるよう、話し合いを重ねた。それと同時に恩田美栄にも、得意のジャンプを元通り跳べるようになるためのコーチをつけた。ともにソルトレイク五輪に出場し、女子シングルの新しい時代を引っ張ってきたふたり。トリノ五輪を一年後にひかえた今年、世界選手権出場を争うことになったふたりを、両者ともフィフティフィフティの整った条件で決戦の場、四大陸選手権に送り出したい、そこで最高の戦いを見せて欲しい。そんな願いをこめてのはからいだった。
 構成点(5コンポーネンツ・旧芸術点)では全日本選手権3位の村主章枝が一歩リードしているようにみえたが、得意のジャンプをパーフェクトに跳べば、もちろん恩田美栄にも世界選手権に出場するチャンスは残されている。そんな状況下で行われた試合が、あのカンウォン四大陸選手権。両者ともほぼパーフェクトの演技で金・銀のメダルを分け合うという04-05シーズン最高の試合。恩田美栄のジャンプは本来の勢いのよさを取り戻し、要素点で自己最高の55.23を獲得、総合点で村主章枝にわずかに及ばなかったものの、本人も大きくガッツポーズをするほどの納得の滑りを見せてくれた。
「あの試合はふたりとも本当に強かった。村主も恩田もできることを全部やれたから、敗れた恩田の気持ちもさわやかだったようですね」
 四大陸選手権に出場した他国のスケート連盟関係者からは、素晴らしい演技を見せながら世界選手権代表権を得られなかった彼女を惜しみ「うちのチームでヨシエを借りたいくらいだよ」という声もあがったほどだとか。
 恩田美栄自身も「このシーズンでやるべきことはすべてやった、あとは足りない部分を来シーズンに向けて伸ばすのみ」そんな前向きな気持ちで、プレ五輪シーズンを終えられたのではないだろうか。
「トリノ五輪代表、女子は3枠獲得できたといっても、候補選手はそれ以上いる。もちろん恩田もトリプルアクセルがきれいに決まりだしたら代表になるチャンスはありますね。彼女はこの、ジャンプを見せていく路線で行くしかない。でもジャンプが安定して、さらに彼女の課題であるコンポーネンツを上げていければ強い。そのためには彼女に合ったコーチ、振付師が新たに必要です」
 そうして決まった新しいコーチが、先ごろ発表されたカナダ・トロント在住のジョセ・シュイナールコーチだ。多くのフィギュアスケートファンはこの名に驚いたことだろう。リレハンメル五輪9位、92・94年世界選手権5位、ついこの間まで試合やアイスショーに出場していた若い若いコーチだ。流れるようなスケーティングやオリンピックでのトーニャ・ハーディング滑走直後の演技が印象的だった選手。しかしコーチとしての彼女を国際試合のキス&クライで見たことは、まだない。
「ジョセは佐藤有香並みの美しいスケーティングを見せるスケーターです。そして彼女はトリプルアクセルにも挑んでいたジャンパーでもある。現役時代は精神的に弱い部分もあってビッグなタイトルは取れなかったけれど、プロになってからの試合では、トリプルアクセルを跳んで優勝したこともあるんですよ」
 トリプルアクセルへの挑戦を続け、スケーティングに磨きをかけることを課題としている恩田美栄にはうってつけのコーチ、というわけだ。今年36歳ということで、世代的には伊藤みどりや佐藤有香らとともに戦ってきた選手。しかし結婚、出産を経て、ここ数年はフィギュアスケート界から距離を置いていたようだが、世界選手権レベルの選手が彼女にコーチングを志願することも多かったという。世界トップ選手を育てた実績こそないが、その若さで新しい息吹をフィギュアスケート界にもたらす可能性を持っている。
「恩田は女性の先生と気が合う、という点も考慮に入れました。ジョセにまず期待したいのは、恩田のスケーティングの改善。滑る時に頭が出すぎて体が前に倒れてしまう癖、「く」の字を傾けたようになってしまう姿勢を直すことです。ジョセのいるリンクには彼女だけでなく、日本の樋口豊さんが選手時代に師事したこともある年配のコーチもいます。おそらく経験豊富なスタッフが力を合わせて、恩田を見てくれることでしょう」
 恩田美栄はすでにカナダに出発。基礎的なスケーティングの矯正と新たなプログラム作りをスタートさせている。
 いよいよやってくる05-06シーズン。まず10月のグランプリシリーズから幕が開く。恩田美栄は過去5シーズン、11試合出場して8回表彰台に立ち、4シーズン連続でファイナル出場権を獲得。グランプリシリーズとは相性がいい。
 ウェイシガーコーチの元でも、メンタル面の強化、音楽に合わせた柔らかな動きなど、着実に身に着けた彼女が、シュイナールコーチの元で「さらに新しい恩田美栄」を作り出すこと。グランプリシリーズで勢い良くスタートダッシュを決めてくれることを期待したい。

Photo by M.Morita(04北京グランプリファイナル エキシビションでの演技)


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