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Sports@nifty > スポーツレポート > フィギュアスケート特集 > 2006世界ジュニア選手権
この特集では、浅田真央選手、安藤美姫選手をはじめとする注目選手の活躍や最新情報など、フィギュアスケートにまつわる様々なレポートを写真とともにお届けします。
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フィギュアスケート特集

世界ジュニア選手権小塚崇彦優勝! 佐藤久美子コーチインタビュー

kaikentakahiko
 トリノ五輪では門下生の荒川静香選手が優勝。そして続く世界ジュニア選手権でも、小塚崇彦選手が優勝。今月20日からの世界選手権にも村主章枝選手、中野友加里選手に帯同するという佐藤久美子コーチは、今シーズン世界で最も忙しく、最も元気のいいコーチだ。
 小塚崇彦選手の優勝直後、彼のこれまでのこと、今後のことについて、話を聞くことができた。

――フリーの滑走前、小塚選手にはどんなアドバイスをされたんですか?
佐藤 昨日のショートの前も同じだったんですが、主人(佐藤信夫コーチ)からの伝言を伝えました。あんまり結果を恐れないで、思い切っていこう! って。今回限りじゃない、まだいくらでもチャンスはある、と。主人はここのところ毎日のように言っていましたので、とにかくそのことを伝えました。あとは、のびのびしようね、と。彼はどうしても身体が縮こまってしまうことが多いですから。

――そんなアドバイスの甲斐あって素晴らしい結果でしたが、今日の演技はどのように評価されますか?
佐藤 滑りとしては昨日(ショートプログラム)の方が良かったですよね。でも、冷静に最後まで滑りきったと思います。今日はきちんと自分をコントロールできていました。

――大躍進だった今シーズン、小塚選手も大きく変化しましたね。
佐藤 体つきもちょっと大人っぽくなりましたし、だいぶ精神的にも……欲が出てきたかな。この優勝で、やっとスタートラインに立てたかな、って気がします。今まではただの男の子(笑)。

――彼にも難しい時期はありましたか?
佐藤 そりゃあもう。いくら言ってもスピンの練習もしないし、何を言っても「ジャンプ跳んでればいいんだろう?」って感じで……。私たち(佐藤コーチ夫妻)とはそれほどでもなかったけれど、お父さんお母さんとは喧嘩もだいぶしたみたいですね。うちの主人のことは、もう絶対的に怖いみたい(笑)。怖がっている間は大丈夫かな。でもいつでもハイハイということをきくわけじゃない。こっちもいちいちキーキー怒ってたら、だめなんですけど。

――そんな彼が、変わったきかっけは?
佐藤 採点方法が新システムになってから、変わりましたね。やっぱりジャンプだけ跳んでいてもだめだろう、と。今年はバレエの先生にもついて、踊りというよりも身体の使い方をしっかり習っています。そうした練習が、押し付けではなく、本人の意思で継続して出来たのが良かった。もうあれだけ大きくなったら、私たちが無理やりやらせようとしてもだめですから。

――それで、ジャンプ以外の部分も少しずつ身につけて、今日の優勝につながったわけですね。
佐藤 それでもまだまだ、もう一息ですね。これからは、シニアの上のふたり(高橋大輔、織田信成)に挑戦するわけですから! 優勝したことで、意識も変わっていくだろうな、と思います。「ジュニアチャンピオンだ!」って生意気にもなるかな(笑)。でもそれも、みんな通る道ですよね。これからは精神的なものが万全であってほしい。シニアに上がるにあたって、きちんとした選手意識をうえつけていかないと、と思います。まだ、ただのわがまま坊主ですから。

――シニアになっても、彼のスケーティングやステップワークなどは強みになりそうですね。
佐藤 滑るテクニックはほんとうに素晴らしい。彼のスケーティングは天性のものだと思います。子どものころ、ホッケーもしていたし、遊びながら自然に足首の使い方を覚えていったことがよかったんじゃないかな。習ったものじゃなくて、遊びのなかで身につけていったこと、それがこれから生かされていくと思います。あとは身体を鍛えて、アーティスティックな部分も磨いていければいいですね。

――佐藤コーチは、オリンピック金メダルに続き、世界ジュニア選手権でも金メダル。素晴らしいシーズンですね!
佐藤 すごくついてますね。怖いわ(笑)。日本に無事に帰れるといいんですけれど!

*11日、男子シングル表彰式終了後の共同インタビュー
*佐藤信夫コーチ、久美子コーチの著書『君なら翔べる!』(双葉社刊)、重版が決まりました!

写真/中村康一(EOI Global)男子シングルメダリスト記者会見での小塚崇彦。右は2位のボロノフ、左は3位のポンセロ


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おめでとう! 小塚崇彦選手  世界ジュニア選手権初出場初優勝!

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 昨年の織田信成に続き、男子シングルで日本勢二連覇! しかも4年前の高橋大輔以来の、初出場初優勝というミラクルなチャンピオンの誕生だ。
「タカちゃんがんばれー!」
 スタンドからは一昨日に試合を終えた日本の女子選手たちも大声援。
 優勝が決まった直後、小塚崇彦は客席から手を伸ばした無良崇人と硬い握手! 年上のふたりといっしょに大きな試合に出られたことを、「すごく頼りになりました。生活面でもいろいろアドバイスもらったりして……」と語っていた無良崇人だが、小塚崇彦の優勝にもまた、大きな刺激を受けただろう。
「来年は無良君だね!」と声をかけられると、照れ笑い。
 会場で一番はしゃいでいた日本選手団の喜びの声を聞いてみよう。

亜紀:すごいなあ。もう、最後は自然に立ち上がっちゃった! 滑る前はもうすごくドキドキして、でも途中から、これは1位だなって思いました! 結果が出たときはもう、うれしくて、手をたたきっぱなし!
真央:最後のステップのところで、これは優勝かなって思いました!
亜紀:私はサルコウ(4つ目のジャンプ成功)で確信したかな。
(リンク上では小塚崇彦が記念撮影中)
真央:おつかれー!
亜紀:メダルかじって!
みんな:かじってー!
崇彦:あとあと! 
ouen
(きちんとした撮影を終えた後、小塚崇彦が2位のセルゲイ・ボロノフと3位のヤニック・ポンセロに「いっしょにかじろうよ」というしぐさ)
みんな:やったー! かじった!
奈也:メダル食べちゃってー! もう大声出しすぎて、声がらがら!
(でも滑り出す前は比較的みんな静かだったよね?)
崇人:これで最後の演技だし、集中してるだろうと思ったから、あんまり声、出せなかったよね!
(佐藤久美子コーチ登場)
佐藤:あんたよう、がんばったねえ(無良選手に)。
(山田満知子コーチ登場)
山田:おめでとうございます! 素晴らしかった!(佐藤コーチに) あなたも!(無良選手に)
(メダリストたちはブーケを持ってウィニングラン)
奈也:真央、もらいなよ!
真央:ブーケちょうだーい!
(ポーンと客席に投げられるブーケ。真央選手、見事にキャッチ!)
真央:やったー! これで次は真央!
みんな:花嫁のブーケじゃないんだから!
 
 こんな和気藹々とした雰囲気も、ジュニアの試合ならでは。
 これからみんなそろって大人になる彼ら。きっといつまでも忘れられない時間がそこに流れていた。
 シニアに上がっても、こんな日本チームがまた見られますように! (青嶋)

写真/中村康一(EOI Global)
*キス&クライで佐藤久美子コーチと得点待ち。このあと、手に持つあひるのおもちゃを頭の上に乗せておどけて見せる余裕も(上)
*応援する女子選手たち。右から長瀬彩華選手、浅田真央選手、武田奈也選手、澤田亜紀選手(下)


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小塚崇彦 ショートプログラム2位 快心のsing sing sing!

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 これが小塚崇彦の滑りなのか。
 予選での彼が、まずまずの出来なのにちっとも満足していなかったのもうなずける。今日のショートプログラムを見て今更ながらに驚いた。本当に「滑っている」ときの小塚崇彦は、ここまで滑るスケーターだったのだ。
 最初のトリプルアクセルは、少し着氷が乱れた。しかしすぐに立て直して、すかざずダブルトウループをつける。
「今日はアクセルがちょっと変だったけれど、そのあと動揺せずに、次のジャンプに行けました」
 コンビネーションジャンプから続くストレートラインステップまで、もうあっという間。一瞬たりとも流れが止まらないし、この軽快極まりない音楽(sing sing singパート2)に、身体が無理なくのれている。いや、スピンなどは音にぴったり合いすぎていて、まるで彼の身体が楽器のようにも見える。これはすごい! 
 最後のステップにいたっては、こんなステップ誰も踏めてないぞ、という複雑さ。だが彼が滑るとちっとも難しいものではないように軽快に進んでいく! 小塚崇彦のスケート靴が作り出す明るい空気に、お客さんがわあっと沸く!
「最後のステップ、楽しんで滑れました。アクセルのことを考えても、きょうは80点か90点はつけられると思います」
 小さなジャンプミスがあっても、演技後のこの表情の明るさ。彼の満足はジャンプにミスかあったかどうかではなくて、滑りの良し悪しにあるんだな、と改めて思う。これは村主章枝や高橋大輔らから時々感じることと、同じだ。彼らも、ノーミスの演技であっても納得がいかない顔を見せることがあるし、大きな転倒をしたショートプログラムのあとでも晴れやかに「滑りは悪くなかった」ということもある。
「昨日と違ってちゃんと『意識』があった。いつもと変わらず、いつもどおり滑ろう、という気持ちがありました。それがあったから、バテバテにならずにすんだ」
 快心の滑りを見ていた報道陣も、ミックスゾーンで彼をなかなか放そうとしない。みんな今日の小塚崇彦の演技に、夢中になってしまったのだ。こんなスケートを見せてくれた彼のことを、もっと知りたい――質問は衣装のことや英語力のこと、父からの手紙のことにまで及んだ。
「スロベニアに来る前にお父さんが渡してくれたんです。『平常心でいつもどおりやれば大丈夫』って書いてありました。そんなの書いてくれるなんて、初めてですよ(笑)。その手紙ですか? 日本で読み終わったから、日本に置いてきちゃった」
 そういうものは持って来いよ! とその場にいた人々みんなからつっこみが!
 いいものを見せてくれた選手を囲む、いちばんいい雰囲気の共同インタビュー。試合後の全てのインタビューがこんな雰囲気だといいのに、と思う。それはとても難しいことだけれど、できれば小塚崇彦とは、リュブリアナでもう一度、こんな時間をもてたらうれしい。
 世界ジュニア選手権、最後の一試合。男子シングルフリーは、日本時間11日の21時30分に始まる。(青嶋)

写真/中村康一(EOI Global)


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女子シングル終了(3) 武田奈也 4位 できることをひとつでも多く

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 予選で2位、ショートは16位。一度は届くかと思った武田奈也の上位入賞は、転倒が続いたSPでするりと逃げていってしまった。最終グループどころか、最終前グループにも入れなかったのは悔しかっただろう。この日朝の公式練習ではジャンプの失敗が続き、ちょっと苦しそうな表情も時折見せている。
 女子3選手のなかでただひとり初参加となる武田奈也。大きな身体でダイナミックな演技が持ち味の彼女も、大舞台に潜む魔物に取り込まれてしまったのだろうか――。

 しかしフリーの武田奈也はすべてをふっきたように、いい顔でリンクに登場した。表情が生き生きしているだけでなく、なんだかとても綺麗。うすい紫色の衣装も、フィギュアスケーターには珍しいショートカットも、とてもエレガントに見える。
「がんばれ!」の声援があちこちからかかるなか――大きく手を動かして、くっと顔を上に向ける、きっぱりとした彼女らしいムーブメントが眼に焼きつく。最初のジャンプ……トリプルループ、決まった! 続くルッツはダブルに。でもまだまだ……! くっくっという武田奈也の力強い動きに合わせて、見ているこちらもぐっと力が入ってしまう。ショートプログラムであれだけ失敗してしまったジャンプは、ルッツとサルコウがダブルになったが、あとはほぼミスなし。あんなに調子が悪そうに見えたのに、よくここまで戻してきた、と皆が大きな拍手を送った。
「実は朝は調整ミスで……ホテルの朝ごはんがおいしくて、いっぱい食べ過ぎちゃったんです。それで、食べたあとにすぐ動き出したから、わき腹が痛くなっちゃった(笑)。試合ではもう、練習の調子の悪さは忘れてがんばりました」
 でもジャンプ以上に、こんな武田奈也が見られて良かった、と思ったのは、レベル4をもらったレイバックスピンだ。フィギュアスケートを見ていて、はっとするような一瞬が時々あるが、今日の彼女のレイバックスピンがまさにそれだった。深く深く反った背中は、見たこともないような優雅なラインを描き、紫の衣装もきれいに波打つ。ほんとうに夢のようなレイバックスピン。そしてそのままごく自然にポジション変化して行き、得意のビールマンへ。
 このスピンだけでなく、ステップもスパイラルものびのびと、音をきれいに捉えている。彼女の持つ強い意思、静かな力が、波のようにこちらに押し寄せてくる。今大会の女子の演技のなかでただ一度だけ涙が出そうになったのは、この武田奈也のフリーだ。最後は静かに静かに、名残を惜しむようにまわるビールマンスピン――。

 ショートプログラム16位、後ろから3つ目のグループで、トップの選手たちとはかなり離れて登場したというのに、フリーは3位! フリーの小さな銅メダルももらった。ショートプログラムでこの演技の半分の力でも出せていたら……ひょっとしたら武田奈也は表彰台に乗っていたかもしれない。
「予選が良かったので、もしかしたら上にいけるかもって。ショートのときは余計なことを考えてしまいました。でも今日は、今までやってきたことをひとつでも多くやるしかないって思ってがんばれた。たくさんん日本の人の応援もあって、全日本に出てるみたいな気持ちになれました」
 記者たちの質問に答える間、黒い瞳はちょっとだけ涙目だった。

 総合4位、初めての出場、日本の3番手としての出場で、これは立派な成績。
 今回一緒に出場した、武田奈也、澤田亜紀、そして四大陸選手権に出場した浅田舞、北村明子は、全員同い年、昭和63年生まれだ。ノービスのころからずっと一緒に戦ってきた、同い年の3人――浅田舞は3年前、澤田亜紀は2年前、北村明子は昨年、次々と世界ジュニアの舞台を踏んでいった。彼女たちの中では最も最後の登場となった武田奈也。ずっとずっと出たかっただろう大きな大会にやっと登場し、あなたを待った甲斐があった、そんな演技を見せてくれた。
 安藤美姫と浅田真央にはさまれた世代に、4人の素晴らしいスケーターがいる。4年後のバンクーバー五輪に向けて……安藤美姫や浅田真央らに挑んでいく彼女たちの4年間もまた、さまざまなきらめきで彩られるだろう。
 大きな注目を浴びることはなくても、「今までやってきたことをひとつでも多く」大切な場所で見せてくれる、きっとそんなスケーターに彼女たちもなっていくと思う。今日の武田奈也のように。
 そしてそんな演技をひとつずつ見せていけば、いつしか多くの人々が、彼女たちの存在に気づいていくだろう。(青嶋)

写真/中村康一(EOI Global)
*写真はショートプログラムでの武田奈也選手


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女子シングル終了(2) 澤田亜紀 5位 笑顔の4分間

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 予選6位、ショート6位でフリーを迎えた澤田亜紀は、いつもどおり元気いっぱいに氷の上に飛び出していった。それも、もうこれ以上はないくらいの、とびきり明るい笑顔を浮かべながら。

 この日はたまたま、スケーターたちがリンクに出入りする扉のすぐ近くから、演技を眺めることが出来た。ちょうど、今まさに演技を始めようとする選手たちが向かっていくリンクを、選手たちとほぼ同じ視点から見据えることが出来たのだ。スケートリンクは、とてもつもなく広くて、とてつもなく白い。小さな人間の身体など飲み込んでしまいそうな大きな氷の塊に見えた。彼女たちはこの白い舞台に、やさしさもぬくもりも何も感じられないところに、ひとりで出て行かなければならないのか――。
 それなのに澤田亜紀の、この満面の笑顔は何だろう。
「岳斗先生に当たって砕け! っていわれたんです。ここまで来たんだから、もうあとはやるしかないって思って」
 リンクに出て行ったときと同じ、ニコニコ顔で澤田亜紀はそのときの心境を振り返った。
「踊ってるときに、タカちゃん、たっくん、彩華ちゃん(小塚崇彦選手、無良崇人選手、韓国代表の長瀬彩華選手)の声が聞こえて、思わず振り向いちゃった!」
「『右を気をつけなさいよ!』っていう濱田先生の声も、滑ってるときに聞こえました。ジャンプの時、右肩が下がっちゃう癖があるから……。つい『はい!』って応えちゃいました(笑)」
 たった4分の中のエピソードをひとつひとつかみしめるように思い出しながら、「滑ってて楽しかったです」と澤田亜紀は笑う。
 出来は決して最高ではなかった。今年一番の挑戦だった冒頭の3回転-3回転はきれいにきまった。でも、フリップでは転倒、終盤のジャンプシークエンスでは着氷が乱れる。澤田亜紀の今シーズンの試合のなかでも、ミスの多い演技になってしまった。
 でもジャンプミスに他のエレメンツが大きく引きずられることはなかった。中盤の見せ場であるダンスは、決して得意ではないもの。でも、毎日少しずつ練習して、身体の中にためてきただろう踊りの魂が、確かに彼女に宿りつつあることが見て取れた。日本からの応援団のみならず、スロベニアのお客さんからもたくさんの拍手! 順位もひとつ上げ、澤田亜紀のカラー、澤田亜紀の魂はしっかりこの場にいる人々に印象付けられたと思う。
 澤田亜紀――笑顔満面で、元気いっぱい。しっかり鍛えられた足腰で男の子のように高く迫力のあるジャンプを跳ぶ。踊りはちょっと苦手だったけれど、一生懸命のダンスも、どんどん本物の踊り子に近づきつつある。
 そのスケートは、浅田真央やユナ・キムのスタイルとは一番離れたところにあるだろう。強力なライバルである彼女たちとはまったく違う持ち味で、氷を彩ることが出来る。
 浅田真央とユナ・キムの時代が始まるとともに、ふたりの時代に果敢に立ち向かっていくたくさんのスケーターたちの戦いも始まる。澤田亜紀は間違いなく、そこに参戦できる最強のスケーターの一人だ。

写真/中村康一(EOI Global)

*田村岳斗コーチからかけられた言葉は「当たって砕けろ!」ではなく「当たって砕け!」でした。お詫びして訂正いたします。砕けてしまってはだめですね。


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女子シングル終了(1) 浅田真央2位 銀色のメダルとともに

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 ショートプログラムが終了した時点で、ひょっとしたらこういう事態も起こりうるかもしれない、そんな予感は誰もが抱いていた。また、もしそうなったとしても、それはそれで大きな意味のあること、あってもいいことだとも思っていた。
 浅田真央の敗北――しかしそれが現実になってしまうと、あまりのショックに呆然としている自分に、私は気がついた。呆然と……韓国の国旗より少し低い位置であがっていく日の丸を見ながら思ったのは、浅田真央が日本のフィギュアスケートの未来の、象徴のような存在だったということだ。
「次は、真央ちゃんが出てくるからね」
「真央ちゃんがいれば、これからの日本も強いね」
 いつの間にか私たちは、まだ15歳の女の子に、あまりにも大きな思いを寄せすぎてしまっていたかもしれない。浅田真央のこれまでの快挙は、みな彼女の日々の努力の上に成り立っているものだ。けれども彼女の活躍によって得られる私たちの快感は、黙っていてももらえる、当然のごとく受け取れるものだと思っていた。
 浅田真央が負けるなんて、数日前までは思ってもいなかったのだ、勝手に。

 彼女のこの日の敗因は、ほとんど精神的なものだったと思う。
 ユナ・キムも3回転-3回転やイナバウアーからのコンビネーションジャンプを決め、ジャンプでも浅田真央に対抗できるところを見せる、いい演技だった。しかし本来はトリプルのはずのジャンプがダブルになるなど、少しだけミスもした。その身体から発している何かも、ショートプログラムの時ほど大きくはなかった。
 だからきっと、浅田真央がトリプルアクセルを一度でも決め、いつもどおりの演技をしていれば、キムに勝てていただろう。しかしあのショートプログラムを経て、もう彼女は「いつもの浅田真央」ではなくなっていた。いや、もうこれまでの浅田真央に戻ることもない。フリー以降の浅田真央、そしてこれからの長い競技生活においての浅田真央は、「隣にユナ・キムがいる浅田真央」になったのだ。
 確かに昨年の世界ジュニアでも、キムの存在は意識していたと思う。しかし今回、ショートで一度負けたことで「同い年くらいで、同じくらいの力を持っている子」として、初めて大きく意識したはずだ。
「やっぱりシニアの試合に出てたときのほうが、のびのびしてました。ジュニアの大会は、勝ちたい、二連覇したい、という気持ちがあったので、緊張していたかもしれない。ショートで負けたあとも……やっぱり優勝したいなあって思ったし……」
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 絶対勝てるはずの試合で、思わぬ追い上げをされた最強の選手。ちょうどグランプリファイナルで浅田真央自身が追い込んだスルツカヤと同じ立場に、今度は彼女が立たされていた。気持ちもこの二日間、かつてないほど大きく揺れていたに違いない。
 そして気持ちがもういつもの浅田真央ではなくなったと同時に――彼女の演技も、いつもの浅田真央のきらめきを失ってしまった。最初のトリプルアクセルを失敗して以降、気持ちの焦りが手に取るようにわかるスピン、表情だけでなく、身体にも笑顔があったはずなのに、それがまったく見られないステップ……。
 いま、目の前に存在しないことで初めて……私はこんなにも「いつもの真央ちゃん」の演技が好きだったことに気がついた。キムに負けたショートプログラム後には「もっと変わらなければ、もっと見せる力を持たなければ」と思ったけれど、まだそんなに急いで変わらなくても、よかったのだ。まだ強い思いなどなく、ただただスケートを楽しみながら滑っていた、素の魅力の真央ちゃんが、私は好きだった。もちろんこれからどんどん大人の演技になっていくとしても、もうちょっとゆっくり変わっていってほしかった。もうちょっと長く、あのままの真央ちゃんを見ていたかった。
 でも……。
「まだ真央はジャンプだけなので、ジャンプが跳べないと負けちゃう。ユナはスケートもきれいだし、ジャンプも上手。今回は余裕がなかったけれど、これからはもっとスピンもたくさん回転しなくちゃいけないし。他にもいろいろ……」
 彼女は、変わらなければならない。ユナ・キムと戦っていくためには、もう今までの浅田真央でいることはできない。
 激戦の余韻が残るリンク。表彰台で、彼女が首にかけてもらったのは、思いもよらなかった銀色のメダルだった。このメダルが、彼女を大きく変える。来シーズン、本格的にシニアでのふたりの戦いが始まったとき、どんな浅田真央が見られるのか、とても楽しみだ。
 でも……勝手なことを言おう。もう今までの、何も考えずに舞っていた、ほんとうに天使のようだった「真央ちゃん」は、見られない。そのことが、さびしくてしょうがない。(青嶋)

写真/中村康一(EOI Global)


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男子シングル予選終了(3) 小塚崇彦の初陣

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 そして3人のなかで、いちばん悔しそうな表情を見せたのは小塚崇彦だった。
「タカちゃんがんばれー」「タカヒコー! ヤホー!」
 日本の女子選手たちの応援に混じって、底抜けに明るい外国人からの声援も聞こえる。ジュニアグランプリファイナルで仲良くなった海外選手からの大きなエールだ。
 でもそんな応援に包まれながらも、小塚崇彦はまるで小さな男の子のような心細げな顔をしていた。初陣といっても、無良崇人より2歳年上の高校2年生。グランプリシリーズにはもう何シーズンも出ているし、ジュニアグランプリファイナルの優勝者でもある。場数は踏んでいるはずの彼でも、やはりこれだけの緊張……。
 しかし演技は、彼自身があとであれほど悔しがるのが不思議なほど、なかなかの出来に見えた。あっというまにリンクの端の方まで滑っていってしまう、確かなスケーティングは健在。その良く動くエッジにのって、トリプルアクセルも2度、かろうじて決めた。ルッツもループもも、少し着氷の流れはないが、次々に決めていく。
あとはもう少し、音楽に同化するところまで上半身が動けばいいのに……。と、みんながいつも思うとおりの小塚崇彦ではあったが、ガーシュインのダイナミックなオーケストラ曲が、彼の動きの素っ気なさを少し助けてくれてもいた。
 何よりやはり、彼の滑りは気持ちがいい。大きなミスなく決まるジャンプと、流れが止まらないスケーティングで、プログラムの最初から最後まで爽快感でいっぱい、そんな演技だった。
 そして圧巻は、フィニッシュの高速アップライトスピン! 同門の村主章枝を髣髴とさせる鮮やかな高速回転に、会場は大歓声に包まれた。
 いい感じでしたね? そう、記者たちも問いたくなる出来。しかし彼は……。
「いや、そうでもないです……。今日の演技はあんまり気に入ってません。ジャンプが最初から最後まで、うまく流れていかなかった。着氷は全部、右足でなんとか踏ん張る状態だったんです。だから最後の方は右足がバテバテで。最初のコンビネーションもつけられなかったし、トリプルアクセルのあとにつける予定のトリプルトウも入らなかった。やっぱり緊張してましたね」
 そこまで暗い顔をするほどの悪い演技じゃなかったよ、と囲む記者たちは誰もが思った。でも彼の冷静の分析は続く。
「ジャンプがいつもみたいにタイミングで跳べてなかったんです。硬くなりすぎて、力で無理やり跳んでた。後半に跳ぶはずだった3連続ジャンプのころにはもう、足に疲れがたまってて、跳び上がれる状態じゃなかった……。無理やり3つ跳んでたら、たぶんコケてたと思います。お客さんからの手拍子ですか? もう疲れてて聞こえなかった。それどころじゃなかったです(笑)」
 彼自身がいちばん、今日の演技の足りないところを把握している冷静さ。まるでもう何度も何度も大きな試合を経験した選手のようだ。良く滑っている、と見えたスケートも、彼にとっては大きな不満の残るものだったらしい。
「今日はとにかく、滑れてなかった。スケートが滑れば、ジャンプも何でも跳べる。ショートとフリーは、がんばりたいです」
 彼の冷静さに、NHK杯のショートプログラムで、大喝采を浴びた演技に対し、出来は60点と言った高橋大輔のことを、思い出した。
 目指すところが、本当に高い。見ているものが賞賛しても、彼自身はなかなか満足しない。高橋大輔と同じだ。
 小塚崇彦は、まだまだどんどん巧くなる――そんな可能性の大きさに目を見張った演技後の会見だった。

 それにしても男子シングルも3人の日本代表。これはやはり、楽しい!
 演技の持ち味もそれぞれに違う3人だが、緊張の仕方も、結果の受け止め方も、それぞれ違う。
 フィギュアスケートへの向き合い方も、この試合にかける意気込みも異なる3人の挑戦を、それぞれ味わう楽しみがある。
 早く、世界選手権やオリンピックでも男子シングルの枠が増え、いろいろなタイプの日本男児の笑顔や涙を見たい。いろいろなタイプの日本男子の演技を、世界に見せたい。
 そういえば……今回出場の3選手、ひとつ共通点がある。彼らは3人が3人とも、報道陣に対してシャイで、口数が少ないのだ! 高橋大輔、織田信成、本田武史、中庭健介ら、わりと話好きな選手たちに接しなれてきた記者たちは、彼らの気持ちを引き出すのに、ちょっと苦労している模様! (青嶋)

写真/中村康一(EOI Global)


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男子シングル予選終了(2) 無良崇人の初陣

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 3人のなかで、演技後、いちばん満足そうな顔をしていたのが無良崇人だ。
 滑走前の彼は、もう誰が見ても心配になるほど、緊張感最高潮、といった表情。頬に手を当て、小さくなってしまう気持ちを奮い立たせるように、頭をぶるっと振ってから演技を始める。大丈夫だろうか?
 チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲が流れる中――冒頭のトリプルアクセルでいきなり転倒! ああ、やっぱり……というため息が、小さな会場のあちこちで聞こえてくるようなスタートだ。でもひとつ転倒して気持ちが吹っ切れたのだろうか、それ以降はヴァイオリンの音色に合わせて、しなやかな、なかなかの動きを見せてくれる。全日本ジュニアのときより少し体が重たいようにも見えたが、ジャンプを決めるたびに少しずつ音楽に乗っていくような様子が、見ていてうれしい。
 仙台の振付師、阿部奈々美さんに作ってもらったという少し大人っぽいプログラム。この大舞台で披露できてうれしい、そんな気持ちも伝わってくる。とても複雑な動きも多く、まだまだ懸命にこなしているという印象はあるけれど、それでも15歳の初出場で、これだけできれば立派、と思える演技だ。得点も日本の3選手のうち唯一パーソナルベスト更新、106.78! 
「トリプルアクセルは降りられなかったけれど……他は良かったです! ものすごい緊張してて、かなりへろへろだった(笑)。やっぱり世界ジュニアって、緊迫感があります。滑る前はもうこんなんなって(と、体をこわばらせて見せる)ガチガチでした。でもここまでの演技が一応できたので、自信はついたかな。意外と点が出ていたので、それも驚きだったし」
 初めての大舞台、楽しむ余裕もあったようだ。
「滑りながら『あ、けっこううまくいってるな』って、うれしくなったりもしました。とりあえず今回の目標は、10番以内に入ることです。でも、ノーミスで滑れればそれがベストかな」
 絵に描いたような、さわやかな初陣。このあとに続くふたつの演技でも、彼がまったく同じ表情を見せてくれればうれしい。でも、例えこのあとのどこかでつまづいたとしても、今日の予選で得た自信は、きっと無良崇人のなかにしっかりと根を下ろすだろう。そしてこれは、今回の世界ジュニアではなく、このあとに控えているもっともっと大きな舞台に立つときに、きっと彼を助けてくれる。(青嶋)

写真/中村康一(EOI Global)

*無良崇人選手のフリープログラムの振付師は、岩本英嗣さんではなく、阿部奈々美さんでした(ショートプログラムは岩本英嗣さん振付け)。お詫びして訂正いたします。


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男子シングル予選終了 柴田嶺、3年ぶりに世界ジュニア登場

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 中学生の無良崇人、高校生の小塚崇彦、大学生の柴田嶺。
 少しずつ年の離れた3人の日本代表は、そろって予選ラウンドを好成績で通過(小塚A組3位、無良A組4位、柴田A組5位)。世界ジュニアという大舞台――予選、ショートプログラム、フリーと続く長丁場だが、それぞれが最初の緊張を何とか乗り越え、前に進む気持ちを新たにした。
 
 3人のなかで最もリラックスしているように見えたのは、柴田嶺だ。
 演技前のウォームアップ、無良崇人が緊張のあまり、ものすごいスピードでリンクをぐるぐる回っていたのに対し、柴田嶺はじっくりと氷の感触と自身の滑りの調子を確かめるように、ゆったり流している姿が印象的だった。
 初陣となるほかのふたりに対して、柴田嶺の世界ジュニアへの挑戦は実に3年ぶり。やっと戻ってこられた――そんな思いを抱くのは、彼ではなく見守るファンや関係者の方だったかもしれない。
 プログラムは3シーズン滑って、すっかりおなじみになった「マラゲーニャ」。スパニッシュな衣装につけられた無数のスパンコールが、リンクの照明のせいか、これまで以上に眩しく輝いて見える。あまりのキラキラぶりに、「ひょっとして、衣装、バージョンアップした?」と聞いてみたが、これまで着てい衣装とまったく同じなのだそうだ。
 とにかく、柴田嶺といえばこの姿を思い浮かべてしまう、代名詞となった闘牛士風の衣装で、見せてくれたのはとても柴田嶺らしい演技。剣をさばくような細かな振付けも凛々しく決めた。3-2-2の連続ジャンプも、高さはないけれど器用に降りた。本人が悔しがっていたのは、ダブルアクセルにつけるトリプルトウが抜けてしまうなど、細かなミスがいくつかあったこと。しかし軽さをともなったジャンプを次々に決めていった印象の方が強い。キャメルスピンは音楽の盛り上がりにぴったりと合っていたし、最後はトレードマークのビールマンスピンで見せる!
 滑走前の落ち着きそのままに、いつもどおりの柴田嶺を見せてくれた4分間だった。
「まあまあのできでした。身体は良く動いていた方だと思います」
 しかしスコアは、パーソナルベストを10点下回る106.20。
「ダブルアクセル-トリプルトウを降りていたら、もうちょっと点はもらえたかな。レベル3がついた最後のスピンもレベル4の予定でした。もっとしっかり回転数を満たさなければ。途中のジャンプが崩れた箇所で音楽に遅れてしまったので……ビールマンも、もうちょっと回りたかったです」
 3年ぶりという気負いは、やはりなかったという。それよりもジュニア最後となる試合を楽しく、納得のいく演技をしたい、という思いのほうが強かった。
 3人の中ではいちばんのベテラン、とジュニアの選手に言うのもおかしいが、とにかくただひとり、初めてではない世界ジュニア。経験者らしくぬかりのない予選の演技だった。

 でも、私たちが見たいのは、いつもどおりの柴田嶺ではなく、見たこともないような柴田嶺。
 まずは世界ジュニアの感触を確かめた予選。ショート、フリーでは、また違った柴田嶺を、ぜひ見せて欲しい。(青嶋)

写真/中村康一(EOI Global)


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女子シングルショートプログラム(2)浅田真央とユナ・キム

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 実際、ユナ・キムは素晴らしかった。今回、彼女の滑りを初めて生で見たが、もう演技を始めた瞬間から、その滑りのなめらかさと、それにぴったり呼応した上半身の動きの華麗さに、その場の空気がどこかにさらわれていくような気がした。フィギュアスケートを見て、久しぶりに本物の鳥肌が立った。そして彼女を見ていて、とてつもなく怖かった。それはユナ・キムが恐ろしいほど「本気」だったからだと思う。小さなリンクに、これだけしかお客さんが入っていないのに、まだSPなのに、ここまで全力を出し切ってしまっていいの? そう思うほど、本気の気迫。きっと「真央に勝ちたい!」そんな思いから生まれた気迫。それが痛いほど伝わってきて、本当に怖かったのだ。

 次に滑る浅田真央が、このユナ・キムの演技を見ていないかどうか、一瞬気になった。これを見てしまったら、彼女といえど、気持ちがゆらいでしまうかもしれない。
「(キムが)ジャンプを跳んだところは見てないんです。ノーミスだったんだなあ、というのは、雰囲気でわかりました。でも、特に緊張はしませんでした」(浅田真央)
 浅田真央の演技も、決して悪くはなかった。予定していたトリプルアクセル-ダブルループはトリプルアクセル-シングルループになったが、SPで女子選手がトリプルアクセルを跳んだ、しかもコンビネーションジャンプとして成功したのは、ジュニアシニア合わせても、ISUチャンピオンシップ大会で初めての快挙だという。
 ちょっとセクシーなポーズも見せる「カルメン」の振付けもすっかり板につき、もう浅田真央のカルメンとして安心して見ていられるような気がした。ただ、グランプリファイナルの時などに比べると、スピンは少し遅く、ステップも少し重たく見える。でもこれが普通の試合だったら、文句なくトリプルアクセル成功に沸きつつ高得点を期待、というまずまずの演技だ。
 しかしこの演技では、ユナ・キムには勝てなかった。ふたりが続けて滑ってしまったからこそ、差は歴然としていた。問題はスピンやステップのレベルの差ではない。みなが今シーズンの浅田真央の快進撃を見ながら、なんとなく物足りないと思っていたものをユナ・キムがすべて持っていたことにある。
 それは、意識してプログラムを人に見せようとする力。浅田真央は天性の明るさ、華やかさだけで、今まで人をひきつけてきた。実は頭の中が「難しいジャンプ、跳べるかな」「ノーミスで滑れるかな」ということでいっぱいであっても、身体が勝手にしなやかに動いていく、そんなタイプの選手だ。
 浅田真央はパフォーマーとしての意識がまだまだ薄い。しかしそれでも人をひきつけずにはいない天然の魅力に、私たちは大いに心を動かされてきた。

 でも、それだけではフィギュアスケートの本当の凄みは出せない! そんなことを、直前のユナ・キムが見せてしまったのだ。彼女のスピンはただの「レベル4を取れるスピン」ではない。スパイラルも決められた数のポジション変化をし、規定されたキープ時間をクリアしているだけではない。ひとつひとつにこめられた強すぎる思いがあり、その思いを形に変えていく技術を持ったスピンや、スパイラル。そんなとてもクオリティの高いエレメンツで彩られたプログラムで、彼女は浅田真央のトリプルアクセルに対抗した。そして、時には高難度のジャンプより強い力を持つものが、フィギュアスケートにはあるということを、鮮やかに見せ付けてしまった。

 やはり、浅田真央はラッキーだ。ユナ・キムがいなければ、トリプルアクセル以外は無難にこなした演技で、ショートも一位という結果を得てしまうところだった。ジュニアの試合でここまでの演技を見せてくれるライバルなど、のぞんでも得られるものではない。いや、今季挑戦したシニアのどの試合でも得られなかった「自分にないものをもった好敵手」に、浅田真央は絶対優勝するはずの世界ジュニアで会えた。

「2位という結果を見て『ああ……』って思いました。スピンのレベルとかが低かったのかな……。でも結果が出るのはあさって。まだ挽回できると思います」
 浅田真央はどうしたらいいのかわからない、という表情をしつつも、今までになくしっかりした口調で、報道陣の質問に受け答えをした。
「ここに来る直前まで、真央は4回転にこだわっていました。彼女は4回転やトリプルアクセルに対しては十分なやる気を持って打ち込めている。でもそれと同じくらい他のものにも、やる気にならなくちゃいけない時ですね」
 周囲の関係者がこの結果に沈痛な表情を見せるなか、山田満知子コーチはしっかりと、今の浅田真央の問題点を把握していた。この先生と一緒なら大丈夫、と少し緊張していた報道陣もほっとする、そんなコーチの談話だった。

 それにしても真央ちゃん、これでおもしろくなったね。
 一昨年の夏。韓国に、同い年で今年から一緒にジュニアに上がる、上手な選手がいるんだよと聞いたとき、「どんな子ですか? どんな子ですか?」と、ものすごく興味を持っていた。その彼女と、これほどまでの試合ができるとは、思ってもいなかったでしょう? 
 昨年のジュニアグランプリファイナルや世界ジュニアで彼女と合間見えて、「キムちゃんとは、これからずーっと一緒に戦っていくんだろうなあって、思った」と話してくれたのは、去年の夏。
 ユナ・キムもまた、浅田真央のいないジュニアグランプリファイナルで優勝したのち、「世界ジュニアにマオは来るんですか?」と日本の関係者に聞いていたという。

 浅田真央とユナ・キム。なんだか運命的なふたりだ。きっとキムの存在が、これから浅田真央をどんどん大きくする。キムも浅田真央がいるから、あそこまでの演技を見せられたし、これからも見せ続けていくだろう。

 時を同じくしてこの二人を同じリンクに立たせたこと……これはフィギュアスケートの神のいたずらだ。それも4年後、8年後に向けた、最高に気の効いたいたずらだ。
 トリノ五輪の余韻がまだまだ残る中、バンクーバーまでの4年間が、もう楽しみでたまらない。(青嶋)


写真/中村康一(EOI Global)


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女子シングルショートプログラム(1)浅田真央SPでトリプルアクセル成功。順位は2位

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 ショートプログラムからトリプルアクセル? 
 新採点システム施行後、順位点制ではなくなったことで、「SPでは絶対ミスが許されない」そんな傾向は少しずつ薄れつつある。しかしそれでも3つしかないジャンプは確実に跳びたい、と誰もが大技に挑戦しにくいのがショートプログラムだ。
 かつてアメリカのトーニャ・ハーディングがアルベールビル五輪のSPでトリプルアクセルにチャレンジし、残念ながら失敗したことを思い出す人も多いだろう。しかしあの時は、普通に勝負したのでは優勝は難しい、でもショートでトリプルアクセルを成功させて順位点を上げておけば、一か八かで上位に食い込めるかもかもしれない。そんな状況だったのだ。SPでの大技挑戦は、それがなければ勝てない選手の試み……そんな印象が、どうしてもある。
 しかし浅田真央の場合は、違う。ユナ・キムという強力なライバルがこの場にいるとはいえ、今季のパーソナルベストスコアで比べれば、断然トップ。予選でもすでに6点の差をつけている。勝負を考えれば、無理をしてトリプルアクセルを跳ぶ必要など、まったくない。
 浅田真央はもう、誰かに勝つためではなく、自分自身が成し遂げたいことのためだけに、SPでトリプルアクセルに挑んだのだ。

 トリノ五輪で優勝したあと、バンクーバー五輪にも出たいというプルシェンコに、「これから4年間は何を目的に戦っていくのですか?」と問うた人がいた。プルシェンコは応えた。「やることはたくさんあるよ。4回転フリップ、4回転ルッツ、4回転アクセル!」浅田真央は、彼と同じだ。
 あまりにひとりだけ力が飛びぬけてしまったために、目標は誰かに勝つことではなく、自分自身の限界への挑戦になってしまった。ヤグディン引退のあと、誰も自分にかなわない状況、自分自身でモチベーションを見つけていくしかない状況に立ったプルシェンコ。シニアのグランプリシリーズで優勝までした浅田真央が、世界ジュニアに参戦することになったとき……浅田真央はまるでプルシェンコのように、他を寄せ付けない、自分自身の挑戦に意義を見出すしかなかったのだ。

 でも真央ちゃん、真央ちゃんにはユナ・キムがいた。SPでトリプルアクセルを跳んだにも関わらず、2位。トリプルアクセルを跳んでも勝てないときがある! そこまでの強力なライバルが、同じ時代にいた。浅田真央は本当に幸運だ。


写真/中村康一(EOI Global)


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世界ジュニア選手権開幕!

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 荒川静香選手金メダルの余韻が残る日本をあとに、フィギュアスケート特集取材チームはスロベニアの首都、リュブリアナにやってきました。
 3月6日、この小さな町でフィギュアスケート世界ジュニア選手権が開幕。日本からは浅田真央、澤田亜紀、武田奈也、小塚崇彦、無良崇人、柴田嶺の6選手が出場。これだけの人数が日本チームから参加する世界ジュニアは、2003年以来3年ぶりとなります。
 2003年当時の出場選手は、太田由希奈、安藤美姫、浅田舞、柴田嶺、小林宏一、岸本一美。当時の顔ぶれと重なるのは柴田嶺選手のみ。ほとんどの選手がシニアに上がった今でも、また男女シングルとも3枠の出場枠を獲得できる――日本のジュニアスケーターの勢いは、衰えるところを知りません。


 さて、大きなイベントの開かれる町は歓迎ムード一色かと思いきや――。
 小さな小さな空港にも、ホテルにも、街中にも、特に大会をクローズアップしたデコレーションはなし。
 メインリンクまで歩いて15分というホテルにも、フィギュアスケートを見にきたらしきお客さんの姿はなし。
「でも、リンクの雰囲気はなかなか華やかでしたよ。まるでまだ、オリンピックが続いているみたいで」
 と言うのは、女子シングルの公式練習を見に行ったという日本大使館(今年1月にオープンしたばかり!)職員さん。
 半信半疑でペアのショートプログラムの行われている会場に行ってみると……。
 豪華な設備ではないけれど、とても明るくさっぱりとしたメインリンク、ハラ・チボリ(街の人はとてもとても大きな建物よ、と言っていたけれど、フィギュアスケートの会場としては小さめサイズ)。ちゃんとISUのシンボルマークも各国旗もきれいに飾られていて、チャンピオンシップの大会が確かに行われている、という雰囲気だ。
 お客さんも初日ということで決して多くはないけれど、みなものすごくノリがいいし、暖かい。おじいさんおばあさんから若者たち、小さな子供たちなまで、実に幅広い年齢層の人たちが応援に来ているようだ。特にスケート関係者ではない、熱烈なファンでもない。でも、町に大きなスポーツイベントが来たから、ちょっと見に行こうよ、というノリで人々は集まってきている。
 テンポの速い音楽が流れればみんなで手拍子をするし、ペアの大技が決まれば大歓声! 印象的な振付があれば子供たちがあちこちでまねをしているし、下位の選手でもパーソナルベスト更新のアナウンスがあれば、お客さんも一緒に大喜び!

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 試合やイベントのチケットが飛ぶように売れ、フィギュアスケートをとりまく状況が大変なことになっている日本。でも遠く離れたこの町は、なんだかのんびりとしていて、久しぶりにスケートを心から楽しめそうな雰囲気だ。アットホームな空気ではあるけれど、でも小さな大会ではない。選手たちはこの試合に向けて気合十分、そんな渾身の演技も楽しめる。一日目を見ただけだけれど、すごくいい大会になりそうな予感がする。
 このいい雰囲気にひたりながら、日本の選手たちみんなが自分の力を出し切れたらいいなあ、と思う。(青嶋)

*取材チームは6日夕方リュブリアナ入り。女子の予選ラウンドを見ることはできませんでしたが、明日より少しずつ、現地レポートをお送りします。


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