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この特集では、浅田真央選手、安藤美姫選手をはじめとする注目選手の活躍や最新情報など、フィギュアスケートにまつわる様々なレポートを写真とともにお届けします。
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フィギュアスケート特集

Sports@nifty  第2回フィギュアスケートアワードのお知らせ

今シーズン最も輝いていたフィギュアスケーターを読者が選ぶ「Sports@nifty  フィギュアスケートアワード」、今年も投票が始まります。
この賞の受賞者を決めるのは、読者のみなさん。
フィギュアスケートファンがベストフィギュアスケーターを決める唯一の賞です。
読者投票を募集するのは下記の5部門。
国内・海外、種目を問わず、今シーズン最も心に残ったスケーターを選んでください。

募集部門
●フィギュアスケーター・オブ・ザ・イヤー
●ジュニアスケーター・オブ・ザ・イヤー
●プログラム・オブ・ザ・イヤー
●コーチ・オブ・ザ・イヤー
●コスチューム・オブ・ザ・イヤー

詳細は3月下旬、Sports@nifty フィギュアスケート特集にて掲載。
皆さんからのたくさんの投票、お待ちしています。

スケジュール
●投票開始:3月下旬
●投票締め切り:5月上旬
●受賞者発表:6月1日!


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女子シングルフリー終了 浅田真央2位 キム・ユナ3位   フィギュアスケートの力

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 キム・ユナが単独のトリプルルッツに続いてコンビネーションのルッツも転倒し、彼女としてはきわめて不本意な演技を終えたとき。
 東京体育館のお客さんの間には、本気でがっかりした空気、残念……という感情の波が起こっていた。せっかくの世界選手権、世界のトップ選手の演技をいっぺんに見られる、めったにない機会。誰もがキム・ユナの最高の演技を見たかったのだ。
 もちろんほとんどの観客たちが、このとき一番応援していたのは、浅田真央であり、安藤美姫だろう。それでも、彼女たちの最大のライバルであるキム・ユナにも、ベストの演技をして欲しいと東京体育館に集う人々は願った。
「不思議ですね。野球やサッカーだったら、相手のミスには大喜びしますよ」
 普段はメジャースポーツの取材をしているという記者は、興味深げに場内の反応を見ている。しかしこれが、フィギュアスケートなのだ。テレビで見ている人の中には、あるいはそうでない人がいたかもしれない。でも、観客としてこの世界選手権という場を構成するひとりになってしまったら、会心の演技が続く名勝負の目撃者になりたいと願う。ひとりでも多くの選手のいい演技を見たいと願う。それが、フィギュアスケートを見る喜びだ。
 でもそんな、貪欲な観戦者としての思いとは別に。演技に失望し、肩を落とす女の子を見るのは、心が痛んだ。ルッツの転倒までは、3回転フリップ-3回転トウの高難度ジャンプ、イナバウアーからのダブルアクセル-トリプルトウ、と順調に決めていたのに。ビールマンやドーナツなど、スピンも安定した美しさで、「ひょっとしたらこの選手には得意技などないのではないか、すべてのエレメンツが得意技ではないのか」そう思うほど、自由自在な演技を見せていたのに。
 昨日のショートプログラムでは、高い得点に思わず口元を覆って大喜びしていたキス&クライ。その同じ場所で、得点を待ちながら切なげな表情を見せる16歳。
 観客は、彼女が世界選手権を笑顔で終われなかった事を、本気で残念に思った。まだ次があるよ、また日本に来てよ。そんな思いを伝えたくなるほど、たった16歳の女の子に、ここまで心を揺さぶられていた。

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 ユナ・キムの失望を目の当たりにして気持ちを重くしたも束の間。続いて登場した浅田真央の演技に、観客たちはさらに遠くまで心を持っていかれることになる。
 スタート地点、体は完璧なポーズを形作っているのに、顔はこわばりきった彼女を見て、私たちも顔をこわばらせる。冒頭、ステップからのトリプルアクセルを見事に成功させれば、心で叫んだだろう浅田真央とともに、誰もが大声で叫ぶ。一つ目のコンビネーションジャンプで少し着氷が乱れた後、次の3フリップ-3ループの助走では、びしびしと伝わってくる彼女の緊張感とともに、思わずぐっと身をこわばらせる。そして、いつもは無表情で滑るスパイラルで、浅田真央がちょっとだけ安心したように笑った時……思わず泣きそうになってしまう。
 これだけの感情が押し寄せてくるのに、経た時間はわずか4分。
 緊張も、滑る喜びもこれで終わり、のラストのポーズ。浅田真央は感情を爆発させ、今までみたこともないほど大きく飛び跳ねながら、フィニッシュした。そして全日本選手権のとき「人前で見せたのは初めて」という涙を、また見せてしまった。それもぽろりの涙ではない。顔をぐしゃぐしゃにして、子どものように泣きじゃくる。
 ほんの数分前、切ないほどに落胆した16歳にシンクロしたばかりなのに、今度は16歳の圧倒的な喜びの涙に、私たちの心はまた大きく波立ってしまう。彼女たちの大きな感情に次々に、いやおうなくさらわれていく東京体育館の観客たち。たった16歳の演技と、思いと、ドラマに、これほどの力があるのだろうか。
 これが、フィギュアスケートなのだろうか。こんなに恐ろしいスポーツが他にあるだろうか。人の心をここまで翻弄し、コントロールを失わせるほどの力を、フィギュアスケートは、持っていたのか。

text/Hirono Aoshima
*浅田真央選手のインタビューは「女子フィギュアスケートチームジャパン オフィシャルファンブック2007」に掲載されています


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女子シングルショートプログラム終了 浅田真央5位 音楽の妖精

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 浅田真央の演技終了後の共同インタビュー。やはり質問は、なぜコンビネーションジャンプをミスしたのか、に集中した。プレッシャーは大きかったのか、体調が悪いのか、どこかケガはしていないのか……。
 でも今は、失敗の原因なんてどうでもいい。そう思ってしまったのは、私だけだろうか。浅田真央だって完璧ではない。時にはミスをする。
 それよりも本当に聞きたかったのは、「どうして全日本からの短い間に、こんなにうまくなったの?」ということだ。
 公式練習初日からすでに、浅田真央の「動き」は際立っていた。ポーズのひとつひとつが、数ヶ月前とは違う。真っ黒な練習着の細いシルエットが、モダンバレエのダンサーのように完璧なポジションで、スパイラルのY字やビールマンを形作る。ジャンプなど決めなくても、その動きの美しさに目が吸い付いてしまう。この大きな変化は、言葉に表すとすれば「洗練」がいちばんぴったりくるだろうか。立ち姿、ステップの入りのなんでもないポーズ、スピンを終えるときのしぐさ……五体の動きすべてが、美しく洗練されているのだ。
 公式練習ではどのジャンプが成功した、どのジャンプの調子が悪い、そればかりが注目されていたが、今大会の浅田真央の一番劇的な変化は、洗練された体の動きそのものにあるのではないだろうか。

 そして満場のお客さんに迎えれらたショートプログラム。
 彼女が見せたのは、信じられないくらい音楽との親和性の高い演技だった。コンビネーションジャンプをのぞくジャンプ、ステップ、スピン、スパイラル……エレメンツも繋ぎのムーブメントも、音楽のなかに完璧に溶け込んでいる。ジャンプはテイクオフだけでなく、着氷まで音楽にぴたり。練習中、無音の空間で見せても美しかったスパイラルは、音楽に合わせるとさらに存在感を増し、ただのスパイラルではなく「ショパンのノクターン」のためのスパイラルだったんだ、と気づく。
 小さなころから抜群のリズム感を誇っていた浅田真央が、ひとつひとつの動きやエレメンツを洗練させることで、音楽の懐のさらに深いところまでたどりついてしまったのだ。
 優しいしいピンク色のコスチュームで舞う16歳の彼女は、まるで音楽の妖精のようで……このままいつまでも、彼女と、彼女の音楽に包まれていたいと思った。

 ユナ・キムや少し年上のスケーターたちの持つ、表情の妖艶さや演劇的な味わいは、やはりまだない。演技に複雑な感情をのせる技術も、まだない。でもフィギュアスケートの表現とは、演劇性だけにあるのではないのだ、と改めて思った。浅田真央の表現の魅力は、誰にも真似の出来ない高いレベルでの音楽との親和性にあるのだと。

 ほんとうに、たった一度のコンビネーションジャンプの失敗など、なんということもない。
 これから浅田真央は、最高のジャンプ技術に最高の音楽表現を兼ね備えたスケーターに、間違いなくなる。
 そのためのステップを、今夜はひとつ登った。そのことのほうが、どれほど大きいか。
 この進化の秘密こそを、どれほど聞きたかったことか。 

photo/Takayuki Honma text/Hirono Aoshima

*浅田真央選手のインタビューは「女子フィギュアスケートチームジャパン オフィシャルファンブック2007」に掲載されています


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女子シングルショートプログラム終了 安藤美姫2位 「誰かのように」ではなく

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「大ちゃんがいつも滑ってるような音楽が好き、ってニコライに言ったんです。そうしたら音楽だけじゃなくて、ステップまで大ちゃんみたいな雰囲気の、難しいものになっちゃった。えー、こんなのできない。どうしよーって(笑)」
 シーズン前の安藤美姫は、ニコライ・モロゾフ振付によるプログラムの、ステップの難しさについてよく語っていた。
「でも難しいけど、挑戦したい。プログラム最後のステップ、これができるようになれば、きっと大ちゃんの演技みたいに盛り上がると思うから」
 シーズン最初のころに見せたステップは、「なるほど。これはニコライのステップ」と、誰もが思う、複雑かつ力強い動きだった。今まであまり動かしていなかったという腕の動きも思い切り大きいため、練習を始めたばかりのころは上半身の筋肉痛に悩まされたという。
「美姫には最後のステップ、ぶりぶり動いて欲しいですね!」
 と、これはトレーニングメイトの高橋大輔の言葉。スケートアメリカや全日本などでは、本当に力強く、がんばって動いていた様をそう評したのだろう。「ステップ、絶対がんばる!」その気持ちそのまま、勢いに任せて動くステップは、圧巻だけれど、やはりどこか力任せのところがあった。それが一本気な安藤美姫らしくて、「がんばれ!」と応援したくなるのだったが。

 しかし23日のショートプログラム。世界最強のコンビネーションジャンプ、トリプルルッツ-トリプルループを含む3つのジャンプをすべてクリーンに決め、さあ、クライマックスのあのステップ! という時。
 安藤美姫は、艶かしく、ひとつ息を吐いた。そして「これからが見どころよ」とでもいうように、華やかに笑った。そうして踏み出したステップの、エモーショナルだったこと!
 腕の動きはただ大きくパワフルなだけでなく、自信に満ちた踊り子の様にしなり、空を切る。佐藤信夫が基礎を叩き込んだフットワークは、ニコライ・モロゾフによってさらに磨きをかけられ、気持ちいいくらい自在にエッジをあやつる。何よりも、「彼女は少女ではなく女性。女性ならではの魅力をスケートで出せるのは、トップスケーターでは彼女だけ。だから彼女にはセクシーなプログラムを用意しました」とニコライ・モロゾフが言ったように、大観衆を誘い込むような色気が、このステップにはあった。自由に奔放に、でも肉体はしっかりコントロールして、思いのままに人を魅了する。
 東京体育館はもちろん、拍手と歓声でいっぱいだ。でもこれは、彼女が望んだ「大ちゃんみたいな盛り上がり」ではなかった。誰かのようなステップ、ではなく安藤美姫のステップだからこそ生み出せるこの空気に、みんなが飲み込まれている。美しく、誇り高い、スケートのミューズのような彼女に、目を奪われてしまっている。

 世界選手権、ショートプログラム。この演技は、ただエレメンツがパーフェクトでお客さんも大いに沸かせた演技、というだけはない。
 誰もがはっきりとはつかみきれていなかった、彼女自身も存分には発揮できずにいた、安藤美姫というスケーターの彼女だけのカラー、それが明確に氷上に現れた、そんな記念すべ演技ではないだろうか。
「目標のスケーターはいません。誰かのようにではなく、こんなスケーターは安藤美姫だけ、そう言われるような選手になりたいから。それがどんなスケーターなのかは……まだ全然わからないけれど」
 高校一年生のころに語っていた彼女に、今、伝えたい。
 まだ少し時間はかかるかもしれないよ。でも、確かに誰とも違う、こんなスケーターは安藤美姫だけだ、そんな選手に、あなたはなれる。

photo/Takayuki Honma text/Hirono Aoshima

*安藤美姫選手のインタビューは「女子フィギュアスケートチームジャパン オフィシャルファンブック2007」に掲載されています


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男子シングルフリー終了 ベルットソン&ヴェルネル 東京に吹いた新しい風(2)

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 そして最終前グループ、ちょっと緊張した面持ちで登場したのがヴェルネルだ。
 実は今年20歳になる彼は、日本での世界選手権は2度目の出場となる。15歳で参加した02年長野の世界選手権では26位。少年のようだった彼が、次に開かれる日本の世界選手権で、いきなり4回転-3回転を跳んでしまうとは! しかも2度目のジャンプも4回転トウループ! この単独の4回転が素晴らしい高さで、5人ものジャッジが+2をつけている。
 2度のトリプルアクセルとダンサブルな演技で旋風を巻き起こしたベルットソン登場以来の熱さが、この瞬間、観客席に生まれた。しかも、メダル争いに名前もあがっていなかった選手が、4回転2回! これは、何か特別な瞬間を私たちは目撃しているのかもしれない。そんな興奮が観客席を満たしたいく。
 クワドだけでなく、しっかりトリプルアクセルも見せた後は、勢いに乗ってプログラムでもたっぷりアピール。ベルットソンと違って体が自由自在に動タイプではないが、気持ちをしっかり四肢に乗せて、男らしく、ドラマチックに。そしてすべてのジャンプをほぼクリーンに決め、最後のステップに入る前の表情は、ソルトレイクシティ五輪で勝利を確信してステップを踏み出したアレクセイ・ヤグディンの表情にそっくりだった。心にみなぎるエネルギーが流れ出すままの、気持ちのいいストレートラインステップ。最後にたたひとつ、フリップの転倒が本当に惜しかったが、最終グループ前に現れたニュースターに、再び客席は大きなスタンディングオベーション!
「テクニカルスコアの高さに驚いています! 84点以上ですよ! 今日はちょっと疲れていたし、僕はスピンが他の人より弱いことも知ってる。だから全然こんな点数は期待していませんでした。でも、クワドはふたつ入ったし、他のジャンプも良かった!」
 2度の4回転成功は、今大会を通してヴェルネルただひとり。最後のフリップ転倒がなければフリー3位もありえたほどの素晴らしい演技だった。

 最終結果はベルットソンがフリー7位、総合9位。ヴェルネルはフリー4位、総合4位! なんとスェーデンとチェコは、来年の世界選手権で男子シングルの2枠を獲得してしまった。特にスェーデンは来年の開催国。地元開催の記念すべき大会に向け、ベルットソンは大きなお土産を持って祖国に帰ることになる。
 東京がラッキープレイスになった伸び盛りの2選手。ヨーロッパからは少し遠いけれど、またNHK杯などに登場し、元気な姿を見せて欲しい。

 ところで昨年12月の時点で「トップ選手以外で今年注目したい選手は、ヴェルルネルとベルットソン!」そう予測していた人がいる。元全日本チャンピオンで現在澤田亜紀らのコーチをしている田村岳斗さんだ。恐るべき洞察力による世界選手権大予測・田村岳斗インタビューは、『フィギュアスケート男子シングル読本 COLORS』に掲載されている。

photo/Masami Morita text/Hirono Aoshima


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男子シングルフリー終了 ベルットソン&ヴェルネル 東京に吹いた新しい風(1)

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 チェコのトマーシュ・ヴェルネル、スウェーデンのクリストファー・ベルットソン。
 熱心なフィギュアスケートファンならともかく、ほとんどの人は初めて聞く名前だろう。
 昨年の世界選手権ではヴェルネル13位、ベルットソン23位。ともにヨーロッパの小さな国からやってきた選手だが、ここ数年で少しずつ成績を伸ばしつつある。それとともに、ヴェルネルの不良っぽい雰囲気を残しながら端整に見せるスケーティングや、ベルットソンの個性的なマイムの入ったプログラムに注目するファンが、日本でも多くなっているようだ。
 昨年のNHK杯ではベルットソンにたくさんの応援バナーが張られていたし、ヴェルネルにもいつもプレゼントを投げ込む熱心なファンがついている。
 そんなふたりが、東京世界選手権でビッグサプライズを起こしてくれた。

 ショートプログラムは15位。第2グループという比較的早い時間にまず登場したのは、ベルットソンだ。
 音楽が始まる前からすでに体はリズムを刻み、「サタデイナイトフィーバー」が場内に流れると、腕の動きひとつで一瞬にして観客を乗せてしまう! そして自ら作り出した盛り上がりの中で、いきなり3アクセル-3トウを成功! 続く3ルッツ-2トウで、なんてしっかりした軸を作るんだろう、と感心しているところに、もう一発トリプルアクセル! これはすごい! 
 その後もジャンプを決めまくり、3-2-2を手堅く決めた後には、ガッツポーズも出た。そして跳ぶだけでなく、ジャンプとジャンプの合間にはこれでもかというほど「サタデイナイトフィーバー」で踊りまくる!
「こういう音楽で滑るのは、初めてなんです。僕はこの曲、すごく好きなんですよ。お客さんも気に入ってくれたみたいで、たくさんもらった手拍子が、演技中の僕を支えてくれました」
 大きな手拍子が続く中で、いきいきしたいい表情を見せながらダンサブルなプログラムは続く。これだけジャンプが決まると、気持ちがいいだろう。スピンにもステップにも気持ちがしっかりと入り、速い動きでお客さんの目をそらさせない。
 途中、音楽がいきなりX-JAPANのバラード「フォーエバーラブ」に変わるのは、ちょっと唐突だが、ご愛嬌。でもこのパートではツイヅルなどをしっとり見せ、また大きな拍手をもらった。
 2度のアクセルを含む8つのトリプルをほぼパーフェクトに決め、会場全体をひとつにして楽しませてくれたベルットソンに、お客さんは大喝采とスタンディングオベーション!
「スタンディングオベーションには、氷を降りてから気がつきました。もう、ファンタスティック! 絶対に自分の最高のスケートをしようと思って臨んだら、できたんです!」
 キス&クライでコーチと抱き合うベルットソンを、お客さんは長く長く、大きな拍手で包み続けた。それに応えるように、立ち上がって手を振るベルットソン。フィギュアスケート界の新しいスターが、またひとり、東京で誕生した。

photo/Masami Morita text/Hirono Aoshima


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男子シングルフリー終了 織田信成6位 総合7位 ふたつめのフリープログラム(2)

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 真新しい衣装を身にまとい、真新しいプログラムを初披露した世界選手権フリー。前日のショートプログラムの失敗も影響しているのだろう。滑り出す前の表情は、硬い。笑ってはいるが、意識して口角を引き上げて、無理やり笑おうとしている。MIPはチャイコフスキーとは違い、彼のもともとの個性に合ったプログラムだ。ほんとうなら、もっと心からの笑顔で始められるはず。でも、緊張し通しの自国開催世界選手権、しかもプログラムは初披露。体はコチコチで、大きく天を仰ぐしぐさは、観ているものにまで大きな不安を伝えてしまう。
 それでも、最初の3アクセル-3トウ-3ループは見事に成功! ステップからの3サルコウ-2ループも軽やかに決め、これはひょっとしたら、新しいプログラムが彼をリラックスさせているのかな、と思う。選手は好きな音楽や心地よく滑れるプログラムでこそ、ジャンプにも集中でき、エレメンツも正確にこなせるのだという。織田信成がもし、シーズン中盤で失っていたジャンプの確実性を求めるためにプログラムを変えたのだとしたら、それはアスリートとして正しい選択だ。勝つためにプログラムを変える、フィギュアスケートがスポーツである以上、良くあることだ。実際この日、ジャンプに関してはルッツがお手つきになり、規定以上のコンビネーションを跳んでしまったこと以外は、ほぼパーフェクトに近かった。
 では、新しいプログラムはどうだったか? 力強くアピールするサーキュラーステップ、おなじみの映画音楽に合わせて存分に跳ね回る振付けなど、彼らしい明るさ、キュートさに溢れてはいた。だが、これは無理ないことなのだが、動きのひとつひとつがまだ彼の体に染み込んでいない。もっと滑り込めば、もっと大きく、もっと楽しく見せられるはずなのに……。
 せっかくの東京での世界選手権。できることなら、チャイコフスキーにしてもMIPにしても、何度も試合で滑り込んだ、自分のものにしたプログラムを観せてほしかった。
「でも、勝つためにプログラムを変えたわけではないんです。シーズン前半、特に全日本の時期は、自分に甘かった。全日本後、これからプログラムを新しいものにすれば、もっと自分に厳しくできるかな、強くなれるかな、と思って。前のプログラムが悪かったとは思っていません」(織田信成)
 フィギュアスケートがスポーツである以上、様々な要因で、プログラムを作品として完成させられないことは多い。私たちには計り知れない、戦う者だけの事情はたくさんあるのだろう。
 ある振付師は、せっかく気に入ったプログラムを作ったのに、そのシーズンに選手が怪我をしたため、数回滑っただけで作品がお蔵入りになってしまうこともある、と嘆いていた。また、たとえ皆に愛された名作であっても、1、2シーズン披露されたその後、目にする機会はほぼなくなってしまう。例えば荒川静香の長野五輪時のプログラム「赤い芥子」を、ぜひ今の荒川静香に滑ってもらいたい、そう願ったとしても、難しい。当時と今とでは、彼女のスケートの伸びが全く違うため、高校生の荒川静香が30秒かかってこなしていた動きを、今の荒川静香なら20秒で滑り終えてしまう。すると、あまった10秒に別の動きを付け加えなければならず、出来上がったものは元のものとはまったく違うプログラムになってしまうのだ。そこが、定番の演目が存在して何度も観ることが出来る、陸上のダンスや舞踊とは大きく異なる点だ。観られるのはそのシーズン限り、一瞬だけの輝きを、フィギュアスケートのプログラムは放つ。
 だからこそ、織田信成の新しいチャレンジだったチャイコフスキーも、本来の良さを発揮できる「ミッションインポッシブル」も、両方がもったいなかった――。これは、フィギュアスケートをパフォーミングアートとして楽しみたい、そんな視点だけから見た、勝手な意見だ。そして彼の演技に対してそう思うのは、織田信成がアスリートとしてだけでなく、パフォーマーとして素晴らしいものを私たちに見せてくれる、そんな選手だからだ。

photo/Masami Morita text/Hirono Aoshima

*織田信成選手へのインタビューは、月刊「清流」4月号、『フィギュアスケート男子シングル読本 COLORS』に掲載されています


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男子シングルフリー終了 織田信成6位 総合7位 ふたつめのフリープログラム

フィギュアスケーターは時に、自分の良さを捨てなければならないことがある。
どんな選手にもその人特有の持ち味があるが、そこにばかりこだわっていては、演技者としての幅は広がっていかない。毎年毎年同じ印象のプログラムばかり披露しても、「また彼は壮大な映画音楽か」「また彼女はしっとりした優雅な演技だね」と、だんだん飽きられてしまう。時には自分の個性とは違う一面も見せて、「こんな滑りも見せられるのか!」と思わせてこそ、一流のパフォーマーとなるのだろう。
 今シーズン、自分の個性を敢えて消し、新しい側面を開花させようと試みたのが、織田信成のフリープログラム「交響曲第4番(チャイコフスキー)」だ。織田信成は、コミカルな演技やキャラクターを演じることが、抜群にうまい。先シーズンの「座頭市」「セビリアの理髪師」、今シーズンのショートプログラム「Fly me to the Moon」。どれをとっても、キュートな振りやダイナミックな動きを体いっぱいで表現して、たくさんの人の笑顔と歓声を誘ってきた。
 でも今シーズンのフリーは、ストーリーにもコミカルな振付にも頼らず、彼のスケーティングの美しさを見せようというオーケストラ曲。彼にとっては大きな挑戦で、シーズン前半は「信成らしくないな」「彼の良さが出し切れていない」そんな演技を見せてしまうこともあった。
だが、手ごたえはあったはずだ。昨年12月、グランプリファイナルの公式練習。通して見せたフリープログラムでは、彼の大きな武器である笑顔も見せず、過度な感情表現もしなかった。それでも持ち前の力強いストロークで、オーケストラの大音響にも負けない巨大なうねりを氷の上に産みだしてしまう。体から、いつもの彼のものとは違う種類のパワーを搾り出す、そんな方法を、新しいプログラムにチャレンジすることで、織田信成は会得しかかっていたのではないだろうか。
しかし残念ながら私たちは、あの完成形のチャイコフスキーを試合で観ることはできなかった。全日本選手権終了後、織田信成はフリーを新プログラム「ミッション・イン・ポッシブル」に変更したのだ。

photo/Masami Morita text/Hirono Aoshima


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男子シングルショートプログラム終了 ランビエール&ライサチェク 一流の底力

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 戦いが始まる前。世界チャンピオンのランビエールが参戦するかどうか、ジュベールのケガの具合はどうか、日本の高橋大輔や織田信成のファンも大いに気にしていた。
それはライバルが不参加だったり、調子が悪かったりすることで、彼らの順位がひとつでも上がれば……そんな思いからでは、決してない。むしろその逆、どうせならトップスケーターたちには全員、万全の調子で集合して欲しい。今の高橋大輔なら、彼らに勝てるはずだから。織田信成だって、きっと彼らと対等に渡り合って行くはずだから。さびしいメンバーの中で勝つのではなく、並み居る強豪たちと真っ向から戦って勝って欲しい、と。

 果たしてトップスケーターたちは、ずらりと東京に集合してくれた。ランビエールも、ジュベールも、バトルも、ライサチェクも、ウィアーも、みんないる! いざ勢ぞろいしてみると、彼らの存在感はやはり凄まじかった。鍛え上げられた肉体、目を見張る技術、視線をぐいぐいひきつける引力。すべてにおいて世界最高の彼らが、今、みんな東京にいる! 特に明治神宮外苑スケート場で行われた公式練習の光景が、メインリンクでの練習風景よりも衝撃的だった。いつもおなじみのあの神宮のリンクで、彼らみんなが滑っているなんて!

 試合が始まっても、この興奮は変わらない。ショートプログラム、ミスなしの演技をしたジュベール、バトルはもちろん素晴らしかった。だが彼ら以上に、ジャンプでミスをしたふたりのトップ選手、ランビエールとライサチェクの底力に目を見張った。
 ライサチェクは4回転の着氷に失敗、ランビエールはトリプルアクセルを転倒するミスをし、順位上では5位と6位に甘んじている。しかし彼らはミスをしたジャンプ以外の部分が、ほんとうに見ごたえがあったのだ。
ストレートラインステップは力強く、得意なスピンでは、回るという動作であらゆる感情を表現してしまうほど、体をコントロールしきっていたランビエール。
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スタートのポーズから終わりのポーズまで、どこを切りとっても一枚の絵。まるで造形家が美しい形を自在に作るように、自らの肉体をどう形作れば人の心を動かせるかを知っているようなライサチェク。
ミスのひとつくらいでは、動じることはない。ちゃんと見せるべき技、見せるべき自分を持っていて、何があってもこの世界は揺らがない。失敗した演技でこそ、そんな強さを見せられる。ほんとうの一流のスケーターの有り様を、まざまざと教えてくれたふたりだった。
 現在ライサチェクの得点は73.49、ランビエールは72.70。4位ジョニー・ウィアーの74.26を含め、74.51の3位高橋大輔にぴたりとつけている。
 そうだ、これは世界選手権。このくらい手ごわくなければ、おもしろくない。

photo/Takayuki Honma  text/Hirono Aoshima


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男子シングルショートプログラム終了 高橋大輔3位、織田信成14位

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 試合前の共同インタビューや記者会見では、笑顔も多くはしゃぎ気味だった高橋大輔と織田信成。彼らは実はリラックスしていたのではなく、襲いかかる緊張感を押し隠して、必要以上に明るくふるまっていたのかもしれない――そう思ってしまうほど、ふたりともが今シーズン最も納得できない演技を、ショートプログラムで見せてしまった。
 織田信成は最初のトリプルアクセルの回転が抜け、シングルアクセルに。さらに単独のフリップもステップアウトし、ジャンプはまさかの2ミス。しかし見ていていちばん辛かったのは、ジャンプの失敗よりも、その他のエレメンツやつなぎのパートに、織田信成らしい魂がまったく入っていないことだった。スケーティングにスピードがなければ、踊りのキレもない、何よりあの「うわあ!」とこちらが嬉しくなってしまうような大きな笑顔がない。
 もちろん、あれもない、これもない、そう感じてしまうのは、彼には本来、すばらしいキレやスピードや笑顔があるから。そんな彼を、いったい何がここまで追い詰めてしまったのだろうか。

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 続く高橋大輔は、出だしの3回転-3回転の着氷がやや乱れたものの、他は手堅くまとめて3位につける。しかし演技終了直後の彼の表情は、自分の不甲斐なさに怒っているように見えた。理想が高く、自分に厳しい彼のことだ。めったに心から満足した顔で演技を終えることはない。しかしここまで険しい顔、落胆や失望ではなく、怒りの表情を彼が見せたのは、初めてかもしれない。
「今期一番の緊張を感じて、今期最悪の演技をしてしまいました。あの演技でこの順位はラッキーだったと思います」
 確かに、場内の空気を根こそぎ持っていってしまうようなダイナミックなムーブメント、軽やかに情熱を表現するステップの自在さ、そんなものがこの日は影を潜めていた。しかしこれほそ大きなプレッシャーの中でもジャンプで致命的なミスをしなかったのは、精神の強靭さが今期飛躍的にパワーアップしたことの証明になるだろう。ほんの数年前には、苦手な全日本選手権だというだけでぽろぽろミスをしていた人だとは思えないほどの強さ。彼には自ら身につけたこの強さを、もっともっと誇ってほしい。そんな過去を振り返る暇など、いまの高橋大輔にはないかもしれないが。
「自国開催ということで、みんなの期待が大きくて……それに応えたかった。応えようとした欲が、一番大きな緊張に繋がってしまいました」
 いつもの彼の演技が出せなかった理由は、やはりそこにあった。前代未聞のフィギュアスケートブームのただ中の、地元開催世界選手権。テレビをつければニュースやCMで自分たちの姿が流れ、街中にはポーズをとった自分が溢れかえる。リンクに立てば大きな体育館を埋め尽くすほどの観客、無数のカメラ、マイクが取り囲む。中心にいる彼らにとってみれば、オリンピックシーズンを超えるほどの異常事態だろう。
 では、彼らから本来の輝きを奪ってしまったのは、私たち日本のファンや報道陣なのだろうか。過度な期待が、彼らをつぶしてしまったのだろうか。
 それは違う、と思いたい。彼らにとってもこのフィギュアスケートブームは必要なもののはずだ。たくさんの注目を集め、大きな話題になることで、スポンサーも練習場所も得、選手を続けていくための環境は整いつつある。良くも悪くも、彼らはこのブームとともに生きていかなければならない。もっと注目され、もっと愛されて、もっとスケートの素晴らしさを見せつけていかなければならない。この大きな波の中で生きていくための、強さを身につけなければならない。
 奇しくも同じ日にフリー演技を終えたペアのロシア代表、川口悠子は、日本よりもずっとフィギュアスケートの伝統が長い国で選手を続けていくことの過酷さを、こう語っていた。
「世界選手権の成績なんて、ロシアではたいした価値はないんです。ロシアのフィギュアスケーターはオリンピックで結果を出してこそ認められる。私もそのつもりです。そのくらい本気になって臨まないと、ロシアの人たちにはついていけないから」
 高橋大輔、織田信成、そして彼らに続く、今の時代を生きる日本男子選手たち。彼らはこの国のこのスポーツのこの種目の歴史の中で、いちばん大きな期待を背負い、いちばん大きなプレッシャーと戦っている。
 そこで生きていくための覚悟。高橋大輔と織田信成には、とっくに出来ていたはずだ。
きっと今は、「思ったよりきつかったな!」そんなことを思って、フリーでの巻き返しを誓っているに違いない。
「あとは自分に集中して――フリーでは何も考えずに、攻めるだけです!」(高橋大輔)

photo/Takayuki Honma text/Hirono Aoshima


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ペアフリー終了 共同記者会見レポート

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 ペアのメダリストを囲む共同記者会見は、男女シングルなどに比べると参加する記者の数も多くはなく、淡々と進むことが多い。さらに今回は、中国ペアが2組、ドイツペアが1組。アメリカ、カナダ、ロシアといったフィギュアスケート大国の選手がいないし、開催国である日本の選手もいない。
 にもかかわらず、記者からの熱心な質問は途切れることなく、いつのまにか日付が変わってしまうほど長時間の、静かに熱を帯びた会見となった。やはりシェン&ツァオ組の演技の余韻のただ中に、まだ記者たちがいたためだろうか。
 ここでは質問の多くが集中した金メダリストのコメントを中心にご紹介。日本から、中国から、その他の海外メディアから、次々寄せられる質問に、ホンボー・ツァオもいつになく饒舌に応えていた。

○今日の演技について
ツァオ「今日ここまで試合に出続けることができ、こうした美しい結果に終わったことを喜ばしく思います。いい演技が見せられたことも幸せなことですし、今日までの努力が実ったこともうれしく思います」

○演技を終えた瞬間のこと、観客の反応などについて
ツァオ「とても喜んで感動していて……ほかのことはあまり考えていませんでした。観客の皆さんには大変感謝しています。スタンディングオベーションは、私たちへのとても大きなプレゼントになりました」

○今後の進退について。演技後の感極まった姿を見ると、これが最後の試合のようにも見えましたが?
ツァオ「たぶん、とお答えしておきましょう。たぶん、としかまだお答えできないんです。ここで優勝たことが心から嬉しいので、もしかしたらこれが最後の試合になるかもしれません」
シェン「今はとても疲れていて、できれば長い休みに入りたいと思っています。それが1年になるか、2年になるかはわかりません。もしかしたら試合にカムバックすることがあるかもしれない。私たちに力と体力が残っていたら、もう一度帰ってきたい、と思っています」
ツァオ「競技に出るということは、刺激的ですが大変なことです。僕の前髪も試合に出ると減っていってしまうんですよ(笑)。できれば今後は自分たちのゆとりの時間を取り戻して、生活らしい生活をしてみたい。でも、競技ではなく楽しいエキシビションだったらいつでも呼んでください!  喜んで参加します」

○今後の予定で具体的に決まっていること
ツァオ「まず中国にある自分たちのクラブに戻ります。そこで練習などはゆっくりとやるつもりです。アイスショーは今のところスターズオンアイスに参加する予定があります」

○シェン・ツァオ組の演技について
トン(パン&トン 中国)「おめでとうをいいたいです。自分たちが最後に滑ったので彼らの演技は見ていません。でも成績は僕たちが滑る前に見ました。彼らの得点がとても良かったことはモチベーションに繋がりました」
サフチェンコ(サフチェンコ&ショルコビー ドイツ)「私たちがシェン組のようになるには、もっと時間が必要ですね」

photo/Hitomi Hasegawa    text/Hirono Aoshima


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ペアフリー終了 シェン&ツァオ組(中国)優勝 彼らの「タイスの瞑想曲」(2)

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 21日、ペアフリー。東京世界選手権の「タイス」は、完璧なだけではない演技だった。
 彼らが苦手なソロスピンをのぞいては、ツイストも、ソロジャンプも、スロージャンプも、完璧。技が完璧というよりも、技を構成する動きのひとつひとつがため息が出るほど完璧だ。疲れが出るはずの終盤にふたつ連続で跳ぶスロージャンプに至っては、+3をつけたジャッジがスローループでふたり、スローサルコウで4人もいたほどの美しさ。それも、もうプログラム後半、ここまで見せてくれたプログラムを、スローの成功で完成させて欲しい……観客がそんな気持ちで手に汗をにぎっているところに、目の前にすっとさし出される、このうえない美しさ! この瞬間、見る人の高揚感は最高潮に達する。彼らは完璧な技だけではなく、完璧な技をどう見せるかの術も心得ているようだ。
 さらにこの、人間の体の動きが作り出す美しさに、人間の心の動きの美しさを完璧に乗せたのが、シェン&ツァオの「タイス」だ。ツイヅルにはダンサーよりも熱い情熱が乗り、リフトやツイストにはお互いを信頼する気持ちの深さが宿る。ジャンプには、このプログラムを演じきることへの力強い意志がこもり、なんでもないムーブインザフィールドにも、今この舞台に立つことの喜びがほとばしる。
 肉体の美と、精神の美。フィギュアスケートは、このふたつを同時に目に見える形にして表現することができる――そんなことを、シェン&ツァオが今日、教えてくれた。
 フィギュアスケートの持つ大きな力を証明したプログラム。ふたりの「タイスの瞑想曲」は、そんなプログラムになった。

 わずか数ヶ月で4度も目にしたスタンディングオベーション。そのうねりの中でいつも思い出すのは、ホンボー・ツァオがこの曲をオリンピックチャンピオンのプログラムだと知って選んだ、そのことだ。
 彼らは手の届かなかったオリンピックチャンピオンに思いを馳せて、このプログラムを滑ったのだろうか? いや、彼らの意識していたのはメダルとか称号のようなものではなく、ペアのプログラムとして最高水準のものを完成させること、だったのではないか。

photo/Takayuki Honma    text/Hirono Aoshima


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ペアフリー終了 シェン&ツァオ組(中国)優勝 彼らの「タイスの瞑想曲」

 昨年、7月。ドリームオンアイス出演のために来日したシェイ・シェン&ホンボー・ツァオに、新しいシーズンのプログラムについて話を聞く機会があった。
「フリーでは、ベレズナヤ&シハルリドゼがオリンピックで滑った曲を選びました」
 ホンボー・ツァオが静かな口調で答えたとき、ほお、と思った。ベレズナヤ組はオリンピックに2度出場しているが、おそらくシェン&ツァオが選んだのは、「タイスの瞑想曲」だろう。ベレズナヤ&シハルリドゼが金メダルにふさわしい演技をした、ソルトレイクシティ五輪でのフリーの曲だ。「 Thais?」と問い返すと、ホンボーは「英語で何というか知らなくて」と、少し照れながら、取材ノートの端に「汎思」と書いてくれた。これが中国語で「タイスの瞑想曲」を指すことが確認できたのは、彼らのプログラムが正式に発表されてからのことだ。

 さらに今から10年ほど前、NHK杯などで脚光を浴びはじめたころのシェン&ツァオに、思いを馳せてしまう。当時の彼らのプログラムといえば、ふたりのスポーティさを引き立たせるような勇壮な曲、「オリンポスの山」や「ムーラン」。その後も映画のサウンドトラックや中国の雰囲気を前面に出したキャッチーな楽曲を選んできた。たとえクラシック音楽を使ったとしても、「トゥーランドット」など、壮大でドラマチックな、演技を助けてくれる音楽。そんな彼らが、抑揚の少ない、繊細な室内楽曲を選ぶようになるなんて、10年前にはちょっと想像がつかなかった。
 ソルトレイクシティ五輪当時、「タイスの瞑想曲」は、シェン&ツァオ組と対極にいるようなペア、ベレズナヤ組に最もふさわしい曲だった。一分の隙もないロシアペアの技術の美を、決して邪魔しない清らかな音色。
 アマチュア最後になるかもしれない06-07シーズン、その曲に挑戦したい、とホンボー・ツァオは思ったのだ。他の何でもない「ベレズナヤたちが滑った曲」を、自分たちのものにしたい、と。
「あなたたちが滑ったら、『汎思』はどんなプログラムになるんでしょうね?」
 そんなことを暢気に尋ねていた私は、その後のNHK杯、グランプリファイナル、四大陸選手権、そして世界選手権で、4度の「タイスの瞑想曲」を見ることになる。そしてその全てが、ほぼ完璧な、大きなスタンディングオベーションを伴う、圧倒的な演技だった。

photo/Takayuki Honma   text/Hirono Aoshima


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ペアショートプログラム終了 井上怜奈、川口悠子の凱旋(4)

●川口悠子選手演技終了後の共同インタビュー
「世界選手権でこれだけ滑ることができて、パーソナルベストも出て、満足しています。サーシャも『ハラショー!』って言ってます(笑)。大きな試合は初めてなので、今回は順位に関してはあまり気にしていません。とにかく自分たちが今できること、練習してきたことを100%見せて、来年に繋げていきたい。
 でもロシア代表で初めての世界選手権が東京! わくわくしています。私の実家も近いんですよ。たくさんの歓声をいただいたことも感謝。サーシャは……緊張したんじゃないかな?」
(ここで川口選手がスミルノフ選手に、日本の報道陣からの質問をロシア語に通訳)
「緊張しました。ユウコの国で開催される世界選手権。観客の人たちに、僕たちを好きになってもらいたかったから。今日の演技は気に入ってもらえたように感じています。でも僕よりユウコの方が、たくさんファンがいるけどね」(スミルノフ選手)
「そんなことないんですけれど(笑)。(足のケガについて聞かれて)去年のクリスマス、スロージャンプの練習中に転んで右足首にひびが入りました。だからケガは私へのクリスマスプレゼントですね(笑)。
 でも、世界選手権は今シーズン最後の演技。明日のフリーでほんとうに最後なので、思いっきり滑って、来てくださったお客さんに精一杯の演技を見せたいです。
 世界の舞台にまた戻ってこられた理由ですか? いいパートナーが見つけられたことです!」

 インタビュー中、スミルノフ選手は川口選手の背中にしっかり手をまわし、「僕の大切なパートナー!」という表情で日本の報道陣に相対してくれた。
 しかし井上怜奈、川口悠子。ふたりともほんとうに、強い! 
 日本語でのインタビューの前にそれぞれ米国メディア、ロシアメディアからの質問にも淀みない受け答えをし、時にはユーモアも交えてインタビュアーたちを笑わせている。特にロシア語がポンポン飛び出す川口選手のインタビューには、ほんとうにびっくり。ロシア語に堪能どころか、大学ではロシア語でフランス語の勉強をしていると話には聞いていたが、実際目の当たりにすると驚きだ。
 しかもじっくり海外メディアと話をしたあと、日本のメディアにも自分の言葉で今の気持ちをまっすぐ伝えてくれる姿勢。話が長くなりそうだとわかると、パートナーを先にバックステージに帰そうとうする気遣い。こんなにオフアイスの態度が立派なアスリートは、なかなかいない。
 カナダのペア代表としてがんばってきた若松詩子選手もそうだったが、やはり女性がひとりで海を渡り、その国の代表になってまで競技を続ける、そんな強さを持った人は、違う! 
 その国の選手としてやっていく大きな覚悟と、それでも日本人として、自信を持って演技を見せたという誇り。
 これからもペアやダンスで海外にパートナーを求める日本人選手は続くかもしれない。井上怜奈、川口悠子、そして若松詩子。彼女たちは先駆者として、確かな道を切り開いてくれた。

text/Hirono Aoshima

*川口悠子選手のインタビューは「フィギュアスケートDAYS VOL..2」に掲載されています


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ペアショートプログラム終了 井上怜奈、川口悠子の凱旋(3)

 3月20日のsports@niftyフィギュアスケート特集、検索ワードワンキングは、ぶっちぎりで「川口悠子」がトップだった。トリノ五輪にも出場した井上怜奈選手は、もうすっかりおなじみだ。でもたぶんフィギュアスケートファン以外にはまだ無名の日本人選手が、いきなりショートプログラムで4位? しかもロシア代表? きっと多くの人が、驚いたのではないだろうか。そして日本人選手がこんなに多く海外で活躍するペアという競技に、興味を持ってくれたのではないだろうか。

 初めてのNHK杯から、4年、「日本のみなさんにありがとう」、そんな思いで滑ったという井上怜奈に対し、川口悠子はアレクサンドル・スミルノフとパートナーシップを組んで、まだ1年未満。この二人での世界選手権も初めて、この二人で日本の試合に出るのも初めての彼女たちにとっては、「日本のみなさんこんにちは!」そんな、自己紹介のショートプログラムとなった。
 ほっそりした手足の、どこにこんな力があるんだろうと驚くほど、力強く生き生きとしたスケーティング。でもロンド・カプリチオーゾに乗って、どこか絵画のような静謐な雰囲気もじわりと醸しだしてみせる。ナチュラルな美しい流れを持ったスロージャンプも、高さのあるツイストも素晴らしかったが、この日「川口悠子が帰ってきた!」と実感させてくれたのは、後半に見せた大きなリフトだった。身長182センチのスミルノフによって高い高い位置に掲げられた彼女は、堂々と観客に片手を差し伸べてみせる。私たちが、ロシア代表のカワグチ&スミルノフです――04年の全日本選手権以来2年ぶりに立った日本のリンクで、きっぱりとした自己紹介を川口悠子はしてくれた。
 そんな挨拶に応えるように、次々決めていくエレメンツを称えるように、後半にはたくさんのお客さんが手拍子で彼女たちを包む。
 25歳というベテランだけど、ニューフェイス。みずみずしさを保ちながらも高い技術でも見せたショートプログラムは、川口悠子の今の立ち位置を、そのまま凝縮したような2分50秒だった。

text/Hirono Aoshima


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ペアショートプログラム終了 井上怜奈、川口悠子の凱旋(2)

●井上怜奈選手演技終了後の共同インタビュー
「日本での世界選手権、やはり練習からたくさん日本の方が応援してくださったことに勇気づけられました。私のこと、いまだに覚えていてくれるんだなあって。だからいつもより緊張することなく演技ができたような気がします。
 ジョニー(ボルドウィン選手)も日本のことが大好きで、『他の国に住むなんていやだけど、日本ならいいかな?』なんて、えらそうに言ってます(笑)。ジョニーにとってもやりやすい環境のようですし、『レナもいつもより安心してるみたいだね。こんなにゆとりを持って試合に臨んでいるのは珍しい』と言われました。自分がリラックスしているのは、相手にも伝わるんですね。
 今日のジャンプの失敗は残念だったけれど、しょうがないこと。転んだ瞬間から次のことを考えて、ひとつ失敗したからといって他がむちゃくちゃにならないように心がけて滑りました。だからテクニカルが30点越えるか越えないか、と思っていたところに、意外にいい点がもらえた(34.65点)。スロージャンプ以外のエレメンツに評価をもらえたんだな、とびっくり半分、ラッキーって気持ちも半分です。そのための練習はしてきてきましたし、今までの経験もいきていると思います。
 でも世界選手権、明日で終わっちゃうんですよね。日本って、まだペアがメジャーな種目ではないので、世界選手権を見た人に、ペアもいるんだなーって思ってもらえる、そんな機会を作りたいという気持ちでやってきました。
 だから今日も全力投球でしたが、明日もパワー全開で。お客さんに『寒い中、見に来てよかったなあ』そう言われうような演技を見せたいです」

text/Hirono Aoshima

*井上怜奈選手のインタビューは「フィギュアスケートDAYS VOL..0」に掲載されています


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ペアショートプログラム終了 井上怜奈、川口悠子の凱旋(1)

 ショートプログラムでも果敢にチャレンジした、トリプルアクセル。
 井上怜奈&ジョン・ボルドウィン組は、きっとこの特別なジャンプを、東京のお客さんにこそ見せたかったのだろう。その気持ちを、何よりもまず嬉しく思った。
「長い間いろいろお世話になった方々に感謝の気持ちをこめたいな、今日の演技はそう思って滑ったんです」(井上怜奈選手)
 アメリカにわたって、6年。ボルドウィン選手と出会って、ペアを始めて、難病も乗り越えて。そんな激動の年月を経て得たものは、2度の全米チャンピオン、2カ国でのオリンピック代表、そして史上初のスリートリプルアクセル成功者という、数々の輝かしい称号だ。数奇な運命を経たフィギュアスケーター、井上怜奈が、どんなに素晴らしいアスリートかを、この場にいる人ならばみんなが知っている。
 それでもなお、ショートプログラムに超高難度技を見せようという、チャレンジ精神! どんなにアメリカチームのジャージが似合っても、どんなに流暢な英語を話しても、この人の魂は日本人なんだな、と思った。
 誰も跳ばないジャンプを跳びたい! 94年にともにオリンピックに出場した伊藤みどり、今回の日本チームに顔をそろえた中野友加里、安藤美姫、浅田真央。彼女たちと共通するアスリート魂が、井上怜奈の小さな体のなかに、確かに息づいている。
 そのスロートリプルアクセルは、残念ながら失敗。でもふたりの挑戦的な姿勢は大事なジャンプを失敗しても衰えず、勢いのままに見せてくれたのは、スピード感たっぷりの気持ちのいいスパニッシュプログラムだ。
 井上怜奈がぴしっとそらせてみせる手首にハッと目を奪われ、他の組が合わせるのに精一杯だったソロスピンの速さに圧倒される。アクセルの失敗などものともしない、気迫に満ち満ちたプログラム。
 陽気な笑顔で始まった2分50秒は、ボルドゥイン選手の吼えるように猛々しい表情であっという間に幕を閉じた。「どうだ、これが僕たちの世界!」そう言わんばかりの彼の表情は、ふたりで築き上げたきたものはトリプルアクセルだけではない、そんな自信が溢れていた。
「今回の世界選手権、今までとは違う目標がひとつあります。私は4歳から20年以上スケートをしてきたんですが、『いろいろあったけど、今までスケートをやってきてよかった!』そう思えるような演技をすることです。世界選手権の演技で、自分で自分を感激させたい。それができるだけの自信は、あります!」(井上怜奈選手)
 ひょっとしたら井上怜奈のキャリアの集大成になるかもしれない演技。それを披露する舞台として、イノウエ&ボルドウィン組は、東京世界選手権を選んでくれた。

text/Hirono Aoshima


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19日 日本選手共同記者会見レポート(2)

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●安藤美姫選手
「今シーズンは納得のできる試合が多かったのですが、全日本選手権は100%の力が出せませんでした。世界選手権は100%を目標にやっていきたいです。全日本後、肩の状態がよくなくて練習できなかった分は、体力トレーニングを増やしました。体力面では以前より自信がついたので、その自信をどう演技にいかせるか、が勝負になると思います」

●浅田真央選手
「世界選手権では、1年間やってきたことを、思い切り発揮できればいいな、と思います。全日本選手権後はちょっとプログラムを変えたり、ジャンプ、ステップに力を入れて練習したりしてきました」

●中野友加里選手
「これまでの練習は、納得のいくものができています。プログラムのひとつひとつの要素、特にステップのレベルが上がるように練習してきたので、これが試合で出せればいいのですが。練習してきたことと自分を信じて、納得のいく演技ができれば、と思っています」

●髙橋大輔選手
「今回はメダルを取るつもりでいます。何があっても自分の演技ができるように。そのための自信をつける練習を今までやってきました」

text/Hirono Aoshima


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19日 日本選手共同記者会見レポート

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 46チームのうち、いちばんリラックスしているのは、彼らかもしれないな。
 そう思わせてくれたのは、今日も元気な日本選手団だ。
 長いオープニングセレモニー終了後も、疲れた表情を見せることなく男女シングル&アイスダンスの7選手が記者会見に登場。壇上では中野友加里選手が安藤美姫選手の髪を直してあげたり、髙橋大輔選手の音頭でウエーブが始まったりと、終始なごやかムード。というよりも、まるで修学旅行に来た高校生たちのようなテンションの高さを見せてくれた。
 熱戦を前にした各選手のコメントを聞いてみよう。

●織田信成選手
「シーズン半ばにはジャンプがぐらつき、思うようにランディングできない試合が続いてしまったので……。全日本後はその点を特に練習してきました。世界選手権では自分の満足のいく演技ができて、それに結果がついてくればいいな、と思います。去年は4位だったんですが、それは気にせず、前向きに行きたいです!」

●渡辺心選手
「国際大会に出始めて9年ぐらいになりますが、東京での国際大会は初めての経験です。いままでで一番いい演技ができて、いままでで