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この特集では、浅田真央選手、安藤美姫選手をはじめとする注目選手の活躍や最新情報など、フィギュアスケートにまつわる様々なレポートを写真とともにお届けします。
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フィギュアスケート特集

ドリームオンアイス2008レポート(3)  安藤美姫・5年ごしの思い

Miki653s  そうか、ボレロだったのか――。
「ドリームオンアイスで滑る曲、曲名はまだ言えないけれど、ヒントを出しますね」
 うふふ、と笑った彼女のヒントとは、「絶対に誰もが聴いたことのある曲」「私が世界ジュニアに出ていたころから滑ってみたかった曲」そして、「滑るからには、楽しんでばかりじゃだめ。真剣に取り組まないといけない曲」。
 そういえば彼女は、トリノオリンピックに出られたら、絶対「ボレロ」を滑りたい、と高校一年生のころのインタビューでも語っていたのだった。

「オリンピックでのフリーのプログラムは、もうラベルの『ボレロ』って決めてるんです。ジュニアの大会に一緒に出てるドノヴァンっていうアメリカの選手がいるんですけど、その選手を試合で初めて見た時に、ボレロを踊っていてかっこよかったんですね。雰囲気がすごーく良くて……。
 オリンピックで6.0が出たアイスダンスの演技のこととかは、ぜんぜん知らなくて、ただボレロっていいなーっと、その時思った。だから美姫にとってのボレロのイメージって、トービル&ディーンじゃなくてドノヴァンなんです(笑)。で、信夫先生にボレロを踊りたいって言ったら、『フィギュアスケートでは伝説のプログラムなんだよ』って聞いて、あ、そうなんだ、じゃあ今はまだちょっと早いな、と。
 でも、オリンピックのシーズンには、絶対ボレロ! どんなボレロを踊るか、まだイメージはわかないけれど……。衣装は、赤で! それからやっぱり……伝説のボレロみたいに6.0を出したい。6.0の出るボレロを、トリノでは見せたいです!」
(『little wings 新世代の女子フィギュアスケーター8人の素顔』03年双葉社刊より)

 あれから本当にいろいろなことがあったな、と思う。ジュニア時代のライバル、ローアン・ドノヴァンは引退してしまったし、採点制度は変わり、もうどんなにがんばっても「6.0」はもらえない。彼女は何度かコーチを変え、トリノオリンピックでは「ボレロ」ではない曲を滑った。さらにその後二度、乗り越えてきた波乱の世界選手権。
 でも、こんなに長い時間が経っても、こんなにいろいろなことがあっても、安藤美姫が「ボレロ」への気持ちを失っていなかったことに驚いた。そしてまた、彼女が「ボレロ」を滑るにふさわしいスケーターに、時間をかけてゆっくり成長してきたことにも。

 この日、安藤美姫は、ひとりの巫女のように「ボレロ」を舞った。
 バレエのボレロをイメージしたというシンプルな、だが彼女らしさを象徴する色、赤と黒の衣装。ひとつに括っただけのシンプルなヘアスタイル。まるで神に仕えるように、この思い入れのある音楽に寄り添って、何かを伝えようとする強い意思を持ちながら、初めてのお披露目の滑り、その一瞬一瞬をかみしめるように滑る。
「今日(27日)は熱があって、体がきつくて、辛かった。でもなんとか滑りきることができました」
 序盤の静けさも、クライマックスの激しさも 全身で音を感じて、捉えて。そうすると、いつもと同じポジションのスピンもスパイラルも、ボレロのためのスピン、スパイラルになる。「この曲で滑りたい」、思い続けた安藤美姫に、難曲「ボレロ」も扉を開いたようにさえ見える。
 一昨年のショーナンバー「I believe」のように、プログラムそのものに力をもらうこともある。「どうしても気持ちを入れられない」と、シーズン途中で競技ナンバーを変更してしまうことも多い。どんな曲でも自分のものにしてしまうような器用さはない、でも思い入れのある曲であればあるほど、輝ける。そんな安藤美姫にとって、「ボレロ」は特別な音楽、ほんとうの力を引き出してくれる音楽だ。

 フィギュアスケーターの選手寿命は、長いようで短い。滑りたい曲、伝えたいもの、得たい賛辞。そんなものすべてに届くことなく銀盤を去る選手も多いだろう。「ボレロを滑りたい」、その夢を5年ごしに彼女が叶えたことは、スケートの神様からの贈り物のようにも思える。
 やめたいと思うことは何度もあった、と彼女は言う。でもこうして少しずつ、願うが叶うから。ひとつずつ、誰かに届くから。それを知っているから、安藤美姫は氷の上に立ち続ける。

photo/Masami Morita   text/Hirono Aoshima 


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女子シングルフリー、安藤美姫途中棄権 「見せられなかったカルメン」

Miki_12e5990  プログラムを大事にするスケーターが好きだ。
 ただ漫然と、与えられた音楽で与えられた振り付けをこなしていくのではなく、コリオグラファーや作曲家が作り上げた世界に真剣に向き合う、そんな姿勢を持つ選手は、必ず「この選手といえば、これ」という名作を残すことになる。
 フィリップ・キャンデロロや村主章枝、アニシナ&ペイゼラなど、人々の記憶に残るプログラムをたくさん持つスケーターは、プログラムに対し常にそんな向き合い方をし、「何を見せるべきか」を真剣に考えて滑り続けたのだろう。

 安藤美姫は、小さなころ門奈コーチが作ってくれた1分のプログラムを、今でも滑ることができるという。シングルジャンプや、易しいスピン、ステップ、かわいらしい振付けをそのまま、今の女性らしい身体で滑って見せて、門奈コーチをずいぶん喜ばせたと聞いている。
 今年、世界選手権直前にショートプログラムを変えたことに対して、「不調の証拠」と捉えた人もいるようだが、それは違う。より、自分の心を入れられるプログラム、より、自分の滑りにフィットするプログラムは何かをしっかり考え、安藤美姫は今季の「サムソンとデリラ」より、先シーズンの「シェラザード」を選んだのだ。
 シニアに上がってからの彼女は、昨年をのぞいてすべてのシーズン、途中でショートまたはフリーのプログラムを変更している。それもほとんどが、シーズン最後の最大の試合の前だ。器用な選手は、もっと早い時期に変更を決断し、余裕を持って世界選手権などに臨もうとするだろう。でも安藤美姫は、なんとかその音楽や世界観に自分をなじませようと最後まで努力し、「やっぱりだめだ……」と思うまで真剣に向き合うのだ。ひたむきな、恋愛に似た付き合い方を、彼女はプログラムとしているように感じる。

 そんな彼女にとって、今季のフリー「カルメン」は、「安藤美姫といえば、カルメン!」と言われる可能性を持ったプログラムだった。「ニコライが、美姫のいいところをほんとうにうまく引き出してくれた」と、門奈コーチもお気に入りの、チャーミングで、強くて、凛々しいカルメン。
 最高の演技を見せた全日本選手権では、そこにいるのは安藤美姫ではなくカルメンで、またビゼーのカルメンそのものではなく、安藤美姫の解釈した彼女なりのカルメンだった。自分の演じたい主人公を、自分で探そうとする彼女が、真剣に丁寧に、彼女らしく作り上げた「カルメン」だ。

 世界選手権フリー、ふくらはぎに負傷を負いながら、演技前の棄権を決断しなかったのは、前世界チャンピオンとして最後まで試合を全うしたい気持ちがあったためだろう。その一方で、大事にしてきたあのプログラムを世界選手権で滑りたい、そんな思いもあったのではないだろうか。
 サルコウの転倒という普段ならありえないミスをして、痛みで演技が続けられなくなたっとき。
 安藤美姫が、大事にしていたカルメンの姿で涙を見せ、カルメンを見せることができずにリンクを去っていったのが悲しい。
 これからオフシーズンに入り、今回の負傷や以前から傷ついていた右肩の手術も控えているため、しばらくは元気な安藤美姫を見られないかもしれない。
 でも、ケガを直して、気持ちも立て直して、また氷の上に立てるようになったとき。もう一度「カルメン」を見せてくれたらうれしい。真剣に向き合った「カルメン」に、いつか安藤美姫自身で、もう一度。命を与えて見せてくれたら、うれしい。

photo/Sunao Noto   text/Hirono Aoshima 


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女子SP前日、安藤美姫選手コメント

Mikirinkp1000585 ――滑走順が最終前グループの2番目に決まりましたね。
美姫 はい。2番滑走はいい演技ができることが多いので、自信を持って滑りたいです。

――ショートプログラムを昨シーズンの「シェラザード」に戻したのは、いつ頃にですか。
美姫 決断したのはつい最近、四大陸が終わってからです。昨シーズンのプログラムですけど、内容は少し違うんです。ステップも、曲の編集も少しずつ変えているので。

――あまり滑りこむ時間はなかったのでは?
美姫 そうですね。新しいプログラムがきちんとできてからは、まだ一週間たっていません。

――時間がない中でのプログラム変更には、何か理由がありますか?
美姫 今シーズンの「サムソンとデリラ」も気にいっていたけれど、自分が100%音楽の中に入り込むことができなかったんです。プログラムを表現しようと思うと……納得して滑れるのは「シェラザード」の方だな、と。

――安藤さんは東京世界選手権の勝者。この大会はディフェンディングチャンピオンということになりますが、向かう気持ちはいつもの世界選手権とは違いますか?
美姫 自分ではチャンピオンって意識はないので……プレッシャーも何もなく(笑)。今シーズン最後の試合を、自分らしくきちんと滑れるといいな、と思っています。去年はそういう気持ちで臨んで、いい結果が出ました。だから今年もきちんと、できる限り、100%の力が出し切れれば!

*写真は会場のスカンジナビウムメインリンク。約10000人を収容する、北欧で最も大きな室内競技場のひとつ


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女子SP前日 日本チームの表情は?(1)

Mikidp1000570_3 ●安藤美姫選手に強い味方?

 今大会、男子より先に始まる女子シングルは、早くも明日、ショートプログラムがスタート。18日には滑走順の抽選が、会場内のドロールームにて行われた。
 ここで姿を見せたのは、安藤美姫選手を国内で指導する、名古屋・名東クラブの門奈裕子コーチ。これまではほとんどの国際大会でモロゾフコーチだけが帯同してきたため、世界選手権に安藤選手とともに参戦するのは初めてだ。
「門奈先生は私のジャンプを最初に教えてくれた先生です。
 今、ルッツがふだんより高く跳びすぎちゃう感じになっていて……。だからソロのルッツはまっすぐ跳べるけれど、コンビネーションはセカンドジャンプにうまくつながらないんです。門奈先生がいてくれれば、そんなこともうまく調整できると思います。そういう意味では、いてくださってちょっと安心かな!」と、安藤選手もにっこり。
 しかし名古屋で若い選手をたくさん教えている門奈コーチ、超ハードスケジュールを縫っての参戦だ。
「実は直前まで野辺山で試合があったので、到着したのは17日。このあとはコペンハーゲンの国際試合に納村彩花ちゃんが出場するので、フリーが終わったら翌日にはデンマークに移動です。
 美姫ちゃんには……『がんばれー!』って感じで見守りたいですね(笑)。いつも私は、選手に『がんばれ!』なんて言わないんですけれど。でも、練習通りの演技をしてくれさえすれば」
 昨年は名古屋で結果を待っていた門奈コーチに、テレビを通してお礼を言った安藤選手。幼いころ、ジャンプの楽しさ、スケートの楽しさを教えてくれた恩師の前で、今年はもっと、安藤美姫らしい演技を見せてくれるだろう。

*写真はインタビュー&ドロールームにて。滑走順抽選にやってきた世界各国の女子選手たち


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ランドヴェッテル国際空港にて

Airportap1000531  イエティボリのランドヴェッテル空港でウェルカム! と迎えてくれるのは、ディフェンディングチャンピオンの安藤美姫選手とブライアン・ジュベール選手。そしてフィンランドのキーラ・コルピ、カナダのヴァーチュー&モア、地元スウェーデンのクリストファー・ベルットソンら、5組の人気選手が大会のポスターにフィーチャーされています。

Airportbp1000538  特に安藤選手は、空港出口の回転ドアで、ビールマンポジションをとったままクルクルと!
 空港から街までの道程にも、シンボルマークの垂れ幕や電光掲示板での世界選手権案内がそこかしこに。


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女子フリー終了、浅田真央優勝&安藤美姫3位 風とカルメン(2)

Id7e0931   対する安藤美姫の演技は、浅田真央とは面白いほど対照的に、人間的だった。
 滑り出しのマイム、ごくごくナチュラルな投げキッスの色気! 
 なんだか同性の私でもくらくらしそうなほどだ。
 うん、今日の彼女は、気持ちが入っている! 3−3、4回転と、冒頭の大事なジャンプにミスが続いても、大丈夫、彼女の真骨頂である滑りの力強さはしっかりキープしている。
「4回転が回転さえできなかったことが一番くやしいけれど……最初のふたつのジャンプ以外はきちんとできました! いつもの練習で自分のものにしたことを出せるよう、しっかり集中していたから」
 その言葉通り、後半は次々決まるジャンプも、気持ちをたっぷり込めてパーンと足をあげるスパイラルも、軽やかで、かつ色っぽさに満ちたステップも、何をしてもソウルのお客さんが沸いた。
 特に安藤美姫独特の、凛々しくかまえてソリッドに跳ぶジャンプ! このジャンプこそが、今日はカルメンの熱い恋心を表しているようで、なんだか感動してしまった。一流のジャンパーは、感情も、伝えたい何かも、ジャンプで表現できる。ジャンプでプログラムを彩ることさえもできるのだ。
 きっとこういう安藤美姫を、ソウルのお客さんは見たかっただろう。安藤美姫自身も、見せたかっただろう。
 これからが見せ場のステップ、というその瞬間には、「見ててね!」という彼女の声が聞こえたような気がした。「見ててね!」——これは、ちょっと甘えん坊の彼女が、恋人に語りかけるような言葉。そうか……きょうの安藤美姫はきっと、誰か大切な人に、この「カルメン」を見てほしくて滑っているのかもしれない。だからこんなに人間的で、こんなに女っぽくて、こんなにかわいらしいのだ。

 おそらく、少なからぬ数のソウルのお客さんを恋に落として。
 安藤美姫のカルメンは、最後のレベランスさえも、大好きな人にするようにキュートに決めて、オウリヌムリのリンクを去って行った。

 実に対照的だった日本のふたりの演技、どちらにより心を奪われるかは、人それぞれだろう。
 もしどちらかをあげなければならないとしたら、私は今日は、安藤美姫の「カルメン」に軍配を上げたい。
 もし浅田真央の演技の風のそよぎのなかに、生き生きした鳥の羽ばたきのようなものが垣間見えたら。少しでも血の通ったものの生命力が感じられたら、また違ったかもしれない。
 冷ややかに広がる氷の上で、人の身体がどんなに美しく動くか。それだけではなく、地上ではありえないスピードで疾走しながら、人の心のどんな動きを彼女たちの身体が伝えてくるかを、私はフィギュアスケートで見たいのだ。

 リンク入りした時からにこにこと機嫌がよさそうだった安藤美姫と、体力がいつもより無かったという浅田真央。コンディショニングによって、また違うものを見せてくれる時も、もちろんあるだろう。
 安藤美姫が恋する心を忘れてただのジャンパーに戻ってしまうことだってまだあるし、浅田真央がはじける笑顔をいっぱいに銀盤に咲かせることだって、またある。
 結局、ふたりともまだ、17歳と20歳。
 氷上を吹きわたる風も、恋するカルメンも、どちらも発展途上中の、でも確実に素敵な、もっと素敵になりそうな、日本の誇るエースだ。
 すでに世界の頂上で戦うトップアスリートで、試合のたびに、メダル、ライバル、ジャンプ対決……と騒がれてしまうけれど、時には彼女たちの年齢や素顔を思い出して。
 これからまだまだ、日々成長していくふたりの姿を、ゆっくり楽しみたいと今夜は改めて思った。
 私たちも楽しむから、ふたりにも、もっともっと滑ることを楽しんでほしいと。

photo/Takayuki Honma text/Hirono Aoshima 


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女子フリー終了、浅田真央優勝&安藤美姫3位 風とカルメン(1)

Id7e0466_2  トリプルアクセルも3回転−3回転も決めた浅田真央が優勝。
 4回転に失敗し、3回転‐3回転も入らなかった安藤美姫は3位。
 単純に、ジャンプを中心に今日のふたりを比べればそうなる。
 でも、プロトコルの上の数字には出てこない部分、二人の演技の印象の好対照さこそが、今夜は際立っていたように思う。

 先にリンクに現れたのは、深いワインレッドの、少し大人びた衣装を着た浅田真央。気品あふれる王女のようにも、貴婦人のようにも見えて、大人になろうとしている今シーズンの彼女にとても良く似合っている。
 しかし音楽が始まり、アクセルも3−3もいきなり軽々と決めて見せると、華麗な衣装をまとうその身体は、ほんとうにスケートのために生まれて、スケートのために鍛え上げられたものなのだ、と今更ながらに感じた。
 ジャンプだけではない。ロシアのタラソワコーチやバレエの専任教師に仕込まれた、タメの良くきいたメリハリある動き。こうすれば美しく見えるよ、と教えられたとおり、自在に動かせる身体は、天性のリズム感とあいまって、そよ風のように軽々と音楽にのっていく。
 そんな今日の浅田真央は——少し、人間ではないもののようだった。
「冷静に、冷静にって考えながら滑りました。冷静にならないとジャンプも失敗してしまうのを知ってるから、焦らず落ち付いて! って思いながら」
 本人もそう語るように、感情を極限まで廃して、跳ぶべきジャンプを跳び、こなすべき動きを続ける、何か人間ではない、美しいもの。
 演技前には大歓声で彼女を迎えた韓国のお客さんも、大きなジャンプを跳び終えた後は、かたずを飲んで見守っていたように感じる。選手のみなぎるパッションや生命力に同調して、ウォー! と叫びながら見るのではなく、静かに掲げられた一幅の絵を、息を詰めて見守るように。
 いや、絵というよりもむしろ、今日の浅田真央の演技が生んだ感動は、風のそよぎや空の青さに心が洗われる、そんな感動に似ていたかもしれない。特に、表情をほとんどたたえず、身体の動きに合わせて時折大きくさまよわせていた視線。それはまさに、潔いほど心を持たない、氷上を吹きわたる風の視線だった。

photo/Takayuki Honma text/Hirono Aoshima 


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女子シングル SP終了、安藤美姫2位 ほんの小さな大切なこと(2)

Miki018a 「初めて韓国のショーに呼んでいただいた時(06年)は、ケガをしていて滑れなくて……。次に呼ばれた時(07年)にはリンクが火事で、ショーが中止になってしまって! 今回は3度目、やっと韓国で滑れる機会にきちんとショートプログラムが滑れてよかったです」

 韓国メディアのインタビューに、安藤美姫はそう答えてにっこりした。試合当日は頭痛を抱え、体調は万全でなかったにもかかわらず、ジャンプミスのないクリーンプログラムを見せた。順位も浅田真央に次ぐ2位。最難度のコンビネーション、トリプルルッツ-トリプルループ(判定ではセカンドジャンプがダウングレード)も見せられたし、さすがに世界チャンピオン、大きな歓声も飛んだ。公式練習から美しかったスケーティングも、全日本選手権以上に滑らかで、流れのある美しい「サムソンとデリラ」だった。

 でも、安藤美姫なら、世界チャンピオンなら、もっともっと見せられるはず! 頭上にかざす手の動きにはいつもの細やかさがないし、丁寧に確認するように踏むステップに、今夜の観客を極限まで高揚させる力はなかった。そして一番残念だったのは、下位の選手たちがしっかり決めたフィニッシュのポーズを、世界チャンピオンである彼女が、すぐにといてしまったことだ。
「四大陸選手権は、気楽に楽しんでやろうねって、コーチとも話してきました。練習だと思って、ひとつひとつの要素を丁寧に見せていこうって。それからフリーの4回転も、調子が良くても悪くても跳ぶつもりです。久しぶりに4回転が試合でできること、楽しみにしています!」

 世界選手権のような大きな緊張感がない場だからこそ、試せることはある。今回の安藤美姫の場合は、正確なエレメンツの確認であり、フリーの4回転だ。でも緊張感がない試合だからこそ、自分が楽しむだけでなくお客さんを楽しませる努力をもっとしてみる、伸び伸び滑ればどれだけお客さんが湧くのか試してみる、そんなことができるスケーターに、彼女もなるといいな、と思う。

 安藤美姫には、スケーターとして人に何かを伝えたいという意欲もあるし、人を引き付けられるチャーミングさも十分ある。ジャンプだけのスケーターでも、見せる武器のないスケーターでもない。世界チャンピオンらしく、成績だけでなく演技の記憶を人々に強く残すためには、あとほんの少しの努力、ほんの少しの気遣いをするだけでいいはずだ。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima


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女子シングル SP終了、安藤美姫2位 ほんの小さな大切なこと(1)

Id7e0985mex  香港、フィリピン、ブラジル、南アフリカ……。

 四大陸選手権で楽しみなのは、他の国際試合ではなかなか見ることのできない、スケートがマイナーな地域の選手たち、彼らの演技が見られることだ。女子シングルSPでも、猛々しい表情と手のひらまで力強く動く印象的なマラゲーニャを滑ったキアン(台湾)、生き生きと音楽に調和し、客席に視線を送ることも楽しみながら滑ったマッコール(南アフリカ)……。ジャンプの失敗は続いても、演技そのものを堪能させてくれる選手たちに、今年もたくさん出会えた。また、毎年出場しているメキシコのカントゥなど、一年ぶりに見る演技に大きな成長を見てうれしくなったりもした。

 韓国のお客さんは、今日も彼女たちに惜しみない声援を送る。とりわけ、演技のフィニッシュポーズでの観客たちの盛り上がりが、どの選手に対してもとても大きかった。

 彼女たちんはどんなに演技にミスが続いても、最後の最後、決めポーズはドラマチックに、音楽にばしっと合わせて見せ、お客さんを喜ばせてくれるのだ。そして歓声が鎮まるまで、一定時間フィニッシュのポーズできちんと制止する。これは難しいジャンプを跳ぶことよりも、ずっと簡単なこと。でも、それだけでずっと印象がいいし、演技の余韻もしっかり残るだろう。

 この簡単なことが、実は日本のジュニアの試合などを見ていると、おろそかにしてしまう選手が多い。不本意な演技をしてしまうと、「あーあ……」と、あからさまにがっかりした顔で、ほとんどポーズもとらずに終えてしまう選手が、日本ではどうしても目立ってしまう。ほんの少しだけ、気を使えばいいことなのに。最後まで自分を見てもらおうという気持ちがあれば、絶対にできることなのに。

 四大陸選手権の個性派の選手たち。ひょっとしたら彼女たちは、日本で滑っていたら国際舞台には立てないレベルの選手かもしれない。でも彼女たちは、この簡単な所作が、どれだけ大切かをみな心得ている。スケートに対する考え方、観客に相対する姿勢に、日本の選手たちとはどこか違うものがあるのかもしれない。

photo/Takayuki Honma  text/Hirono Aoshima

*写真はフリーでのアナ・セシリア・カントゥ(メキシコ)


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全日本選手権アフターレポート 安藤美姫、「ファム・ファタル」への飛躍

Miki_mg_5908_2   全日本選手権で安藤美姫が演じた鬼気迫るカルメンは、潔く、誰にも媚びず、自らの最期を堂々と受け入れる、強い「運命の女」だった。NHK杯であらわにさらけ出してしまった「ホセの妄執に怯える悲劇のヒロイン」の影はどこにもなかった。
 この自由でしたたかで力強い女性の魅力を、彼女は今までどこに隠していたのだろう? 演技の生々しい迫力に圧倒されつつも、私は少々困惑していた。

 が、彼女の変貌の謎を解く鍵は、メダリスト・オン・アイスでお披露目されたショーナンバーの中に埋まっていた。

 新しいエキシビションナンバー「Handcuffs」で、安藤美姫は自分の現在の等身大の魅力を余すところなく伝えてきた。この曲を感じて滑っている時の彼女は、真夜中に街の中を駆け巡るしなやかな黒猫のようだ。私は、その猫の領分を侵さないよう気をつけながら、静かにその姿を見続けていたい気分になった。真夜中の黒猫は、気高く惑わず、それでいてチャーミングだ。そしてその思わず見入ってしまう黒猫と安藤美姫は、同じ魅力を持っている。

 そこにはもう、ジャンプを跳ぶのだけが楽しくてしょうがなかった子どもはいない。周囲の雑音に惑わされ、傷ついた心を隠すため必死に笑顔を作り続けた少女もいない。思えば最初に見た時から、彼女の最大の武器は、存在自体がチャーミングだということだった。なのに、その武器に本人だけが気付いておらず、それ故に周囲とのギャップに悩んだのだと思う。

Mikiimg_6284s「スケートが楽しいという気持ちを忘れかけていたけど……全日本ではエンジョイしながら力を出せるのがわかりました」と安藤美姫は語る。「エキシビションナンバーの曲はすごく気に入っている大好きな曲です。ちょっと変わっているのだけど、ニューヨークのダンスの先生にも教わったナンバーです。ちょっと練習がのらない時には、『カルメン』じゃなくてショーのナンバーをかけて、その音楽で『カルメン』を滑ったりもしました」とも。

 悩みに悩んだ末に、彼女はやっと自分の魅力を発見し、受け入れることができたのだろう。安藤美姫は自分の魅力を隠していたのではなかった、気付いていなかったのだ。
 「Handcuffs」に合わせて踊る安藤美姫に、揺らぎや迷いはない。自分の魅力に気付き、どうすればその魅力がより活きるかわかったからだ。

 きっとこれからも、安藤美姫の前には大きな壁が立ちはだかるだろうし、突然の困難だって降り掛かる。そのことによって彼女が自分の本質を見失い、一時的に華やぎが色褪せたり輝きが消えかかることがあるかもしれない。
 しかしそうであったとしても、私たちには、もうやきもきする必要はない。私たちは、いずれ蝶となるさなぎを見守るように、安藤美姫が自分自身の本来の魅力を思い出す時まで、ただ待てばよい。降り掛かった困難や大きな壁を乗り越えた時、彼女はそれまでより更に飛躍的に美しく変貌していくだろうから。

text/Koyori Kirishima  photo/Sunao Noto(上、全日本選手権フリー) Masami Morita(下、メダリスト・オン・アイス)   


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NHK杯2日目・女子シングルSP終了  安藤美姫2位 NHK杯がくれるもの

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「去年はエントリーされなかったので、今年はNHK杯に選ばれてうれしい」
これは、10月に行われた記者会見での言葉。「久しぶりのNHK杯。緊張したけれど、自分なりに楽しんで滑れました」とは、30日のSP終了後の言葉。
 安藤美姫もまた、NHK杯に少し特別な思いを抱いて、この場にやってきた。世界チャンピオンにまでなった選手であっても、選ばれればうれしいし、特別な雰囲気に緊張もする。そしてトップクラスの選手には、初出場の選手にはない重圧もかかっている。02年にNHK杯を制した恩田美栄さんは、当時を振返ってこんなことを話してくれた。「ショートプログラムでまず1位を取った時点で言われたんです。もし優勝できれば伊藤みどりさん以来、11年ぶりの日本人チャンピオンですが、って。もう、どうしたらいいんだろう……っておどおどしてしまいました」。
 恩田美栄さんの優勝から5年後。同じSPの終わった夜、安藤美姫は記者会見でこんなことを聞かれていた。
「明日優勝すれば、女子シングルは6年連続で日本人が優勝になります。いかがですか?」
 NHK杯の歴史だけ振返ってみても、この6年の日本女子勢、その快進撃は素晴らしい。でも、強くなればなるほど、この歴史に続かなければならない彼女たちのプレッシャーも大きい。
 質問に対する安藤美姫の答えはこうだった。
「連続優勝はかかっていますが、フィギュアスケートは結果だけを求められるスポーツではないと思っています。それよりも、見ている人になにかを伝えるスポーツ。結果を気にするよりも、私自身の演技を100%することを大事にしたいです。何か失敗をしたとしても、お客さんの印象に残るように。プログラムもそれができる構成になっています。明日は、見ている人と一体になって楽しめたら」

 一緒に楽しみたいと彼女が願った仙台のお客さんは、ショートプログラムでの安藤美姫をあたたかさいっぱいの熱気で包んでいた。
「練習では落ちついてできていたし、自信はついてきています。でもSPの6分練習ではすごく緊張して、本番では身体が思うように動かなくて」
 そう本人が言うとおり、ジャンプミスこそなかったが万全の出来のSPではなかった。スパイラルでのぐらつきやスピンの回転の遅さは、のれている時の安藤美姫だったら見せないものだし、プログラム全体の勢いも、華やかな笑顔もなかった。それでも仙台のお客さんの応援は、大きく彼女の背中を押す。ステップで起こる喝采は誰に対してよりも大きく、フリップジャンプの前の助走では、まるで体操や陸上競技の会場のような手拍子が彼女を勇気付けた。
 終わってからも大きな大きな拍手。安藤美姫を待っている人たちはこんなにたくさんいるんだ、と私たちも改めて驚いたほどだ。
 世界選手権で優勝した後。このオフシーズン、安藤美姫は「すべてをやり遂げた気持ちになってしまった」ことで、モチベーションの喪失に悩まされた。「気持ちも練習に集中できなくて、やらなきゃいけないこともやらずに、甘えていました。今はすごく反省して、ハードな練習もこなせるようになったけれど……。世界チャンピオンになって以降、良くなったところなんか、あるのかな? 反省点ばっかり思いついちゃうんです」
 複雑な思いを抱えて始まったシーズン。ちょっと不安げな顔から、世界女王らしい輝きは、今は少し失われている。でも、他の国際試合では味わえないあたたかな応援、大きな拍手。NHK杯ならではのこの空気に身を置くことで、安藤美姫が女王らしさを取り戻してくれたらいいな、と思う。
 連続優勝というプレッシャーと、あたたかな応援。NHK杯は安藤美姫に両方をさしだしている。どちらかを上手に受け取る、そんな戦い方を身につけなさい、と言っているようだ。

Photo/Sunao Noto   Text/Hirono Aoshima


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NHK杯2日目 女子シングル 公式練習レポート

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 よく晴れて気温も少し暖かめの大会2日目。リンクでは早朝から全種目の公式練習が行われた。
 注目はやはり、ふたりの日本選手が滑る女子シングル第2グループ。
 日本の安藤美姫選手は高々としたトリプルルッツ-トリプルループなどを見せ、上々の仕上がり。曲かけではコンビネーションが3回転-2回転となったが、ストレートラインステップは以前より足元がしっかりしてきた。そのせいか、上下動もより鮮明に、印象に残る動きを繰り出している。
 また日本の武田奈也選手は、曲かけ時からしっかり気持ちの入ったプログラムを通して滑り、気合充分の様子。
「武田は夏のイタリア合宿時に比べても、だいぶ身体が絞れてきた。動きもなかなかよくなっています。ショートはコンビネーションジャンプがループなのでそれほど点は出ないかもしれませんが、フリーは楽しみ。これだけ身体が動けていれば、表現面で高い評価が期待できるでしょう」と、伊東秀仁強化部長も顔をほころばせる。
 それにしてもこのグループは、美しく個性的な選手たちが揃った。
 イタリアのエース、コストナーはファイナル初出場のかかる大事な試合となったが、公式練習から客席へのアピールをしっかりする余裕。呼吸そのものの美を表すようなプログラム「Riders of the storm」はジャンプが決まれば中国杯に続き、高得点を狙えそうだ。スイスのベテラン、サラ・マイヤーが滑るのは、ひとつひとつのポーズを美しく積み重ねて一連の流れを形作るような「Patch Adams」。ジャンプ練習はほとんどしなかったが、パフォーマンスでは確実に魅了しそうだ。この選手たちの中にあっても、動きのしなやかさで目を引くのはグルジアのエレーネ・ゲテバニシビリ。ダブルアクセル以外のジャンプが不安定なのが気になるが、モロゾフ振付の「キャバレー」をキュートに、身体を大きく動かして元気よく見せていた。アメリカのシズニーも、音楽が何もなくても見とれてしまうようなスピンやスパイラルはさすが。ジャンプの後の何気ないムーブメントさえも美しい「瀕死の白鳥」は、彼女のノーブルな魅力を充分引き出してくれそう。最後は得意のスピンの練習を丹念に繰り返し、気持ちを盛り上げるようにして練習を終えた姿が印象的だった。

 昨日、一昨日と公式練習に姿を見せず、心配されている日本の浅田舞選手だが、体調不良で少し熱もあるとのこと。でもショートプログラムは大丈夫です、と、公式練習無しで本番一発勝負に臨む。

Photo/Sunao Noto   Text/Hirono Aoshima
*写真は28日の安藤美姫選手


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日米対抗フィギュアスケート競技大会2007横浜 記者会見&公式練習レポート(1)

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 フィギュアスケート07-08シーズンがいよいよ開幕! 今年の第一戦は、昨年より始まった「日米対抗フィギュアスケート競技大会」の第2回。おなじみ新横浜のリンクは国際大会らしく華やかにデコレートされ、5日は記者会見とプレス公開公式練習が行われた。
 いまやフィギュアスケートの二大大国といってもいい日本とアメリカを代表する選手たち、どんな表情を見せてくれただろうか?

 日本女子勢は、安藤美姫、浅田真央、水津瑠美の3選手が公式練習に参加。全日本チャンピオンと世界チャンピオン、ふたりのチャンピオンに挟まれながらも、臆すことなく自分のペースで練習していたのは水津瑠美だ。実は日本女子勢では彼女だけが今シーズン、すでに公式戦を経験している。
「でもルーマニアのジュニアグランプリシリーズでは、思うような試合が出来なかった。今回はノーミスで、今までやってきたことを全部出したいです」(水津)
 練習中は転倒も目立ち、ジャンプの調子はあまりよくない様子。しかし曲かけで見せたボンド演奏の「韃靼人の踊り」では、力強いストレートラインステップを見せ、観客にふっと送る視線も昨年よりいっそう大人びたものに。2選手が練習を上がった後も、時間いっぱいまでジャンプやスピンの練習を続け、身体がほぐれたころにはいい笑顔も見せていた。

 シーズン初戦を見る面白さ、それを存分に味わわせてくれたのは、安藤美姫、浅田真央のふたりだ。ジュニアグランプリなどで、今シーズンのプログラムをすでに公開している水津瑠美と違い、このふたりが試合に向けて調整している姿を見るのは、ほんとうにひさしぶり。スパイラルではあんな角度に足が上がっていただろうか? ビールマンの形もまた変化している! この半年で身につけた新しいエレメンツをひとつひとつ確かめるように練習しているふたりを見ると、ほんとうにシーズンが始まったんだ、と、うれしい実感がわいてきた。
 先に曲かけをした安藤美姫が見せたのは、ショートプログラムの「サムソンとデリラ」。
「今年のプログラムは両方ともセクシーなので恥ずかしいんですけれど……。ちょっとがんばってセクシーに、女性らしく滑りたいです」(安藤)
 おへその見える黒い練習着姿に包まれているのは、今までにないくらい締まって美しい身体。今の安藤美姫は立っているだけで充分セクシーだが、曲がかかるとまたぐっと雰囲気が変わる様は、まるで舞台女優のようだ。昨年以上に大きく使えるようになった腕を目いっぱい動かす、パワフルな演技は健在。セクシーというよりも、キュートでかっこいい美女、という印象だが、腰をきゅっと動かす動作など、見せ場になりそうなセクシーな振付けもところどころで見せてくれた。モロゾフが散りばめた小さなアクセサリーのようなこうした振付けを、本番では恥ずかしがらずにもっとナチュラルに見せてくれたら、ほんとうに艶やかなデリラになりそう。
 ジャンプの調子も上々で、3ルッツ-3ループなど、大きなジャンプを次々に着氷。まだ完全にシーズンインモードではない、とのことだが、公式練習から見せた堂々とした姿は、さすが世界チャンピオンだ。

 持てる雰囲気をパワーアップさせた安藤美姫に対し、がらりと違う印象を見る人に抱かせたのは、浅田真央。曲かけで一部を披露したショートプログラム「ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジア」では、これまでの浅田真央のプログラムには必ずあった、かわいらしさ、少女らしさがすっかり影を潜めていた。激しい曲調に乗って激しい動きを次々に繰り出していく彼女は、夢から覚め、現実に立ち向かっていく一人の女性のよう。大きな決意を見せるような、甘さのかけらもないプログラムに挑戦していた。
 動きの速さ、激しさは、横方向だけでなく、縦方向にも広がり、大きな上下動が特に目を引く。浅田真央はこんな動きも出来たのか、と目が釘付けになったが、面白いのはすぐそばで練習している安藤美姫の激しさに印象がかぶるところ。ひとつのリンクに安藤美姫がふたり? と錯覚しそうになることも何度かあった。
 また、彼女にはとっては慣れないはずの速いモーションも、ひとつひとつポジションがしっかり取れていて、動きがくっきり、印象に残るところはさすが。
 ジャンプもこの日は、これまでのような踏み切りのタイミングで跳ぶジャンプというよりも、力強く身体を締めて跳ぶジャンプ。ステップも、今のところはまだ抜き気味という感じだが、おそらくシーズン中にはレベル4を狙ってくるだろう複雑な構成を垣間見せる。彼女自身の雰囲気も、ひとつひとつのエレメンツも、昨年までとはがらりと変わった浅田真央を見せてくれそうだ。

 村主章枝はこの日、出場選手中ただひとり、公式練習を欠席。記者会見では元気な姿を見せ、「今シーズン初戦が、私の地元、新横浜で迎えらてうれしいです。今年は4月からずっとロシアを拠点にし、今まで積み上げてきたものを一度捨て、新しいものを受け入れる、そんな練習をしてきました。そこでの成果を今回、少しでも発揮できればと思います」とコメントした。

photo/Takayuki Honma text/Hirono aoshima


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2007 フィギュアスケーター・オブ・ザ・イヤー 投票結果発表

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1位 安藤美姫(女子シングル トヨタ自動車) 1737ポイント
2位 浅田真央(女子シングル 中京大中京高校) 1573ポイント
3位 髙橋大輔(男子シングル 関西大学) 1440ポイント
4位 ブライアン・ジュベール(男子シングル フランス) 382ポイント
5位 キム・ヨナ(女子シングル 韓国)306ポイント
6位 中野友加里(女子シングル 早稲田大学) 208ポイント
7位 ステファン・ランビエール(男子シングル スイス) 204ポイント
8位 申雪&趙宏博(ペア 中国) 150ポイント
9位 織田信成(男子シングル 関西大学)  89ポイント
10位 トマーシュ・ベルネル(男子シングル チェコ) 81ポイント
11位 村主章枝(女子シングル avex) 73ポイント
12位 太田由希奈(女シングル 同志社大学) 64ポイント
13位 アルベナ・デンコワ&マキシム・スタビスキー(アイスダンス ブルガリア) 62ポイント
14位 ジェフリー・バトル(男子シングル カナダ) 57ポイント
15位 テッサ・バーチュー&スコット・モア(アイスダンス カナダ) 24ポイント
16位 神崎範之(男子シングル 京都大学) 21ポイント
17位 浅田舞(女子シングル 東海学園高校)16ポイント
17位 カロリーナ・コストナー(女子シングル イタリア) 16ポイント
19位 小塚崇彦(男子シングル 中京大中京高校) 15ポイント
20位 恩田美栄(女子シングル 東海学園大学クラブ) 14ポイント
21位 川口悠子&アレクサンドル・スミルノフ(ペア ロシア) 11ポイント
22位 クリストファー・ベルントソン(男子シングル スウェーデン) 10ポイント
22位 サラ・マイヤー(女子シングル スイス) 10ポイント
22位 メリル・デイビス&チャーリー・ホワイト(アイスダンス アメリカ) 10ポイント

*投票者ひとりにつき4選手まで投票可能。「最も輝いていたスケーター1名」への投票を3ポイント、「輝いていたスケーター3名まで」への投票を各1ポイントで集計しています

*日本選手の所属は07年3月の時点のものです

国籍も種目も問わず、すべてのシニアスケーターの中から最も輝いていた選手を選ぶ「フィギュアスケーター・オブ・ザ・イヤー」。2007年の受賞者は、世界選手権を制した安藤美姫選手!
全日本チャンピオンでグランプリファイナルメダリスト、世界選手権銀メダリストの浅田真央、高橋大輔両選手も多くの支持を集めたが、荒川静香さん以来3年ぶりとなる世界チャンピオンは、やはり強かった。
バンクーバー五輪まで、彼ら3選手がフィギュアスケートアワードを競っていくことになるのだろうか?
それとも激戦の中、ベスト10に入った中野友加里選手、織田信成選手らの追い上げが来シーズンは見られるだろうか?

日本選手以外のスケーターを見ると、各種目の世界選手権金メダリストや、世界選手権で安藤、高橋らと競った男女シングルのライバルたちがずらり。
特にフランス、スイス、チェコ、スウェーデン……と、北米勢に比べ欧州勢が多くランクインしているのがめだつ。世界選手権を見ても、アメリカ、カナダ、ロシアといった大国からほとんどメダリストが出なかった今シーズン、日本のファンの印象に深く残った選手も、スケート大国出身ではない選手が多かったようだ。

また、今シーズンの成績に比して、ファンから大きな支持を集めたのは12位の太田由希奈選手と15位のバーチュ&モア組。太田選手は06年全日本選手権12位ながら、3シーズンぶりの競技復帰に多くのファンが喝采を送った。
カナダのヴァーチュ&モア組は世界選手権6位ながら、2位から5位までの4組をさしおいてのランクイン。ダンスファン以外にはまだなじみの薄い選手かもしれないが、この種目でシニア1年目、いきなりのワールド6位は驚異的だ。同様にシニア1年目で世界選手権7位、デイビス&ホワイト組もアイスダンスファンの視線を集めている。期待のカップルたち、バンクーバー五輪までの成長にぜひ注目したい。

photo/Takayuki Honma


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フィギュアスケートDays vol.3 発売中!

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昨年5月に創刊0号が刊行されたフィギュアスケート専門誌「フィギュアスケートDays」。
通算4号目となるvol.3が、全国書店にて発売中です。
目印は世界選手権金メダリスト、安藤美姫選手の表彰式での笑顔!

熱気に包まれた06-07シーズンもオフに入り、選手たちは新しいシーズンに向けてじっくり準備を進めています。
今シーズン、彼らは何を思い、試合に臨んだのか、来るべきシーズン、何を目指すのか――。
氷上の熱戦が待ち遠しいオフシーズン、ぜひ読んでおきたいインタビュー、特集が満載です。

■2007 東京世界選手権 総力特集
[インタビュー]
安藤美姫/浅田真央/中野友加里/織田信成
ジョニー・ウィアー/クリストファー・ベルントソン
アルベナ・デンコワ/渡辺心&木戸章之/井上怜奈

■賢二としゃべろうよ! 第1回ゲスト 高橋大輔 
――振付師・宮本賢二がレポーターに挑戦! 
  “ここだけの話”満載の爆笑トークが炸裂

■2007 四大陸選手権レポート
[男子シングル代表座談会]神崎範之×中庭健介×南里康晴
[インタビュー]澤田亜紀/恩田美栄/キャシー&クリス・リード

■伝説のスケーター フィリップ・キャンデロロ
――キャンデロロが胸に秘める一大プロジェクトとは……?

■もっと知りたいNew Face 水津瑠美 
■あの選手に訊きたい! 太田由希奈 


この他、テクニカルスペシャリスト岡崎真さんによる「ゼロからおぼえる新採点講座」、木戸章之さんの「アイスダンスまるわかり講座」、「from the backstage――フィギュアスケートを支える力(スポーツエージェント 加藤洋祐氏)」、「振付師に聞く(宮城FSC 阿部奈々美氏)」など、多彩な連載陣も順調に回を重ねています。

書店で入手しにくい場合はダイエックス出版ホームページよりご注文ください。
6/30までにご注文いただいた方には、世界選手権メダリストらのサイン入りグッズを抽選でプレゼント!


「フィギュアスケートDays vol.3」 ダイエックス出版
ISBN: 978-4-8125-2893-8
サイズ: A4判
定価:1,680 円(本体価格+税)


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女子シングルショートプログラム終了 安藤美姫2位 「誰かのように」ではなく

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「大ちゃんがいつも滑ってるような音楽が好き、ってニコライに言ったんです。そうしたら音楽だけじゃなくて、ステップまで大ちゃんみたいな雰囲気の、難しいものになっちゃった。えー、こんなのできない。どうしよーって(笑)」
 シーズン前の安藤美姫は、ニコライ・モロゾフ振付によるプログラムの、ステップの難しさについてよく語っていた。
「でも難しいけど、挑戦したい。プログラム最後のステップ、これができるようになれば、きっと大ちゃんの演技みたいに盛り上がると思うから」
 シーズン最初のころに見せたステップは、「なるほど。これはニコライのステップ」と、誰もが思う、複雑かつ力強い動きだった。今まであまり動かしていなかったという腕の動きも思い切り大きいため、練習を始めたばかりのころは上半身の筋肉痛に悩まされたという。
「美姫には最後のステップ、ぶりぶり動いて欲しいですね!」
 と、これはトレーニングメイトの高橋大輔の言葉。スケートアメリカや全日本などでは、本当に力強く、がんばって動いていた様をそう評したのだろう。「ステップ、絶対がんばる!」その気持ちそのまま、勢いに任せて動くステップは、圧巻だけれど、やはりどこか力任せのところがあった。それが一本気な安藤美姫らしくて、「がんばれ!」と応援したくなるのだったが。

 しかし23日のショートプログラム。世界最強のコンビネーションジャンプ、トリプルルッツ-トリプルループを含む3つのジャンプをすべてクリーンに決め、さあ、クライマックスのあのステップ! という時。
 安藤美姫は、艶かしく、ひとつ息を吐いた。そして「これからが見どころよ」とでもいうように、華やかに笑った。そうして踏み出したステップの、エモーショナルだったこと!
 腕の動きはただ大きくパワフルなだけでなく、自信に満ちた踊り子の様にしなり、空を切る。佐藤信夫が基礎を叩き込んだフットワークは、ニコライ・モロゾフによってさらに磨きをかけられ、気持ちいいくらい自在にエッジをあやつる。何よりも、「彼女は少女ではなく女性。女性ならではの魅力をスケートで出せるのは、トップスケーターでは彼女だけ。だから彼女にはセクシーなプログラムを用意しました」とニコライ・モロゾフが言ったように、大観衆を誘い込むような色気が、このステップにはあった。自由に奔放に、でも肉体はしっかりコントロールして、思いのままに人を魅了する。
 東京体育館はもちろん、拍手と歓声でいっぱいだ。でもこれは、彼女が望んだ「大ちゃんみたいな盛り上がり」ではなかった。誰かのようなステップ、ではなく安藤美姫のステップだからこそ生み出せるこの空気に、みんなが飲み込まれている。美しく、誇り高い、スケートのミューズのような彼女に、目を奪われてしまっている。

 世界選手権、ショートプログラム。この演技は、ただエレメンツがパーフェクトでお客さんも大いに沸かせた演技、というだけはない。
 誰もがはっきりとはつかみきれていなかった、彼女自身も存分には発揮できずにいた、安藤美姫というスケーターの彼女だけのカラー、それが明確に氷上に現れた、そんな記念すべ演技ではないだろうか。
「目標のスケーターはいません。誰かのようにではなく、こんなスケーターは安藤美姫だけ、そう言われるような選手になりたいから。それがどんなスケーターなのかは……まだ全然わからないけれど」
 高校一年生のころに語っていた彼女に、今、伝えたい。
 まだ少し時間はかかるかもしれないよ。でも、確かに誰とも違う、こんなスケーターは安藤美姫だけだ、そんな選手に、あなたはなれる。

photo/Takayuki Honma text/Hirono Aoshima

*安藤美姫選手のインタビューは「女子フィギュアスケートチームジャパン オフィシャルファンブック2007」に掲載されています


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19日 日本選手共同記者会見レポート(2)

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●安藤美姫選手
「今シーズンは納得のできる試合が多かったのですが、全日本選手権は100%の力が出せませんでした。世界選手権は100%を目標にやっていきたいです。全日本後、肩の状態がよくなくて練習できなかった分は、体力トレーニングを増やしました。体力面では以前より自信がついたので、その自信をどう演技にいかせるか、が勝負になると思います」

●浅田真央選手
「世界選手権では、1年間やってきたことを、思い切り発揮できればいいな、と思います。全日本選手権後はちょっとプログラムを変えたり、ジャンプ、ステップに力を入れて練習したりしてきました」

●中野友加里選手
「これまでの練習は、納得のいくものができています。プログラムのひとつひとつの要素、特にステップのレベルが上がるように練習してきたので、これが試合で出せればいいのですが。練習してきたことと自分を信じて、納得のいく演技ができれば、と思っています」

●髙橋大輔選手
「今回はメダルを取るつもりでいます。何があっても自分の演技ができるように。そのための自信をつける練習を今までやってきました」

text/Hirono Aoshima


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18日公式練習終了後、安藤美姫選手のコメント

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●安藤美姫選手
「公式練習からお客さんの声援が大きくて、うれしかったけれど緊張もすごくしました。公式練習からこんなにお客さんがいたのは、スケートアメリカ以来です。
 氷の質は(サブリンクの)神宮とメインリンクでは少し違うんですが、今日の練習で徐々に慣れてきました。
(全日本選手権での肩のケガについて)全日本後は2週間近く、まったく氷に上がれず、寝返りも打ってはいけない状態。でも今はスケーティングにもステップにも支障がないくらい回復しています。ビールマンポジションだけ少し取りづらいんですが、他の演技に問題はないので、この状態でどれだけ自分の演技ができるかが勝負です。 
 練習ができるようになってからは、ジャンプの確実性を上げる努力をしてきました。肩の不安はずっとありましたし、またはずれたらどうしよう、と思うときもありました。でもそんな不安も、この会場に入ってからは少しずつなくなって、自分に集中できてきたみたいです。ここまで来たら自分を信じてやるしかない! ですね」

text/Hirono Aoshima


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