この特集では、浅田真央選手、安藤美姫選手をはじめとする注目選手の活躍や最新情報など、フィギュアスケートにまつわる様々なレポートを写真とともにお届けします。
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2009年04月19日
国別対抗戦2009女子シングルフリー 浅田真央 時代のヒロイン
世界のどのリンクよりも、「仮面舞踏会」の三拍子がよく響く代々木国立競技場。 単独トリプルアクセル、トリプルアクセル‐ダブルトウループ、3フリップ-2ループ-2ループと、夢のようなジャンプをこの目で見る、というよりも身体で感じた後。あ、これはもう最後まで大丈夫だ、という不思議な確信を持った。 やはり浅田真央には、得体のしれない強さがある。ふつうならば、手に汗を握って見つめてしまうはずの残り4つのジャンプ。それが、「大丈夫、今日はもう絶対に失敗しない」という確信を見る者に持たせてしまうほどの、安定感。完璧に集中し、コンディションを合わせ、不安を取り除きさえすれば、彼女はこれほどまでに、ジャンプを何でもない技のように跳ぶのだ。 そして、ジャンプは大丈夫、と思った瞬間、リンクの上には確固とした浅田真央ワールドが広がったような気がした。真央ワールド――そう言えばそんな言葉を使うのは、初めてのこと。自身の確立した世界観を持っている選手にだけ使いたくなるこの言葉が、今夜初めて、浅田真央の演技を見ていて思い浮かんだのだ。 すっかり彼女のものになってしまった情動的な3拍子のリズムの中。私たちが目撃しているのは、ほんものの舞踏会、それも、何か特別な魔力を持った少女にたくさんの人が魅入られている、特別な舞踏会のようだ。 そう、この日の浅田真央は、代々木国立競技場の氷の上ではなく、時代の上で踊っているように見えた。 彼女は今、確実にこの時代のヒロインだ。しかし、自らのぞんでヒロインになったわけではない。ただ滑って跳ねること大好きだった女の子は、「オリンピックに出たいです」という夢をかなえることに、こんな大きな重圧が伴うことを知らなかった。みんなに憧れられ、賞賛され、持ちあげられることを楽しめる性格でもなく、どちらかというと重荷に感じでしまう、そんなタイプだ。私が時代のヒロインよ! などと誇らしげな表情を見せることもない。 それでも時代は、彼女に踊れと言う。世界選手権で大きな後悔を残したこんな年に、自国開催の国別対抗戦という舞台は、容赦なく用意される。ヒロインには休むことは許されない。常に時代の真ん中で踊り続けなければならないのだ。 そしてこの日の浅田真央は、冷たい氷の上、見つめる無数の視線の中で、堂々と時代を乗りこなしていた。クリーンなジャンプ、今シーズン一番キレていたステップ、音楽と一体化する四肢。持てる力のすべてを氷上にさらけだし、時代に立ち向かっていた。時代とともに踊るにふさわしい強さを持っていることを、大観衆に、ブラウン管の向こうの何千万の人々に、見せつけていた。選ばれた者の高貴さそのもののような臙脂色のドレスが、今日は何と似合っていたことか。
演技後、すべてのジャンプの成功だけでなく、夢のような浅田真央ワールドだけでなく。この日の浅田真央と同じ空間にいる喜びに震えて、人々は立ち上がった。私たちはいつの日か、今日この場で彼女の演技を称賛したことを、この時代を思い出すよすがとするのだろう。 もうこれから一年、この人から、絶対に目を離してはいけないと思った。時代に全力で立ち向かうこの人の輝きから、目を離したくないと思った。 これから一年、オリンピックまでの日々。これまでの彼女の道のりを考えると、きっと一筋縄ではいかないだろう。今シーズン何度も見せたようなアップ&ダウンを繰り返し、また私たちをはらはらさせもするだろう。でもそれを逐一見届けたならば、最後の最後にはきっと、浅田真央はこんなにも満面の笑顔で、時代に応えてくれる。
photo/Sunao Noto text/Hirono Aoshima
*5月、浅田真央スペシャルレポート「最終戦、笑顔の秘密」、安藤美姫スペシャルレポート「身につけた本当の強さ」、織田信成VS小塚崇彦VS無良崇人座談会等々掲載の「Cutting Edge2009 Spring(仮)」が、スキージャーナルより刊行されます
2009年04月17日
国別対抗戦2009女子シングルSP 安藤美姫、浅田真央 ふたつの奇跡(2)
浅田真央のショートプログラム「月の光」。この2分40秒も、今夜のもうひとつの奇跡だった。 チャレンジします、と宣言したと思ったら、すぐに成功させてしまったショートプログラムのトリプルアクセル。この挑戦の驚異ついては、もう何も言う必要はないだろう。 それ以上に、今年に入ってからどうしても見ていてしっくりこなかった「月の光」を、最後の最後にこんなにナチュラルに滑ってくれたことが、なんだかとてもうれしかった。 浅田真央の美しさの本質は、彼女の身体にしみこんだ、リズムの美しさだと思う。 艶やかに腕を動かさなくても、演劇的に表情を作らなくとも、彼女のスケート、身体の動きは、見ているだけで気持ちがいい。これは、彼女の四肢に宿る自然なリズム感が、見る人の心を自然に揺さぶってしまうからではないだろうか。 そこには何の細工もないし、何の恣意もない。ただ彼女が自分の思うままに滑るだけで、私たちは心地よい気分になってしまう。これは以前にも書いたが、究極にナチュラルな、自然の営為を思わせるものだ。 安藤美姫が彼女自身の心をすべて氷の上にさらけ出して、見る人の魂を突き動かすのに対し、浅田真央は穏やかに、見る者の魂を洗い、慰める。だからこの「月の光」というプログラムが、こんなにも彼女にはまるのだ。たとえ音楽が激しく、浅田真央の動きが力強くなろうとも、そこに見えるのは人の意志ではない。ふとした瞬間、ふりそそぐ月の光が突然きらめきを増した、そんな情景に似ている。 天才的なアーティストが作りだした美ではなく、ただそこにあるだけで美しい、月の光の、自然の美。今の浅田真央の四肢は、そんなものを表現しているのではないだろうか。 たぶんこれが希代の振付家、ローリー・二コルが本当に見せたかった「月の光」、今の浅田真央の魅力を最大限形にしたプログラムなのだろう。 安藤美姫と、浅田真央――なんと両極端な美を見せるふたりだろうか。なんと対照的な、そしてふたつともがそれぞれに美しい奇跡だっただろうか。 日本のフィギュアスケート。ひょっとしたらこんなに恵まれた時代は、もう二度と来ないのかもしれない、と思った。 浅田真央、安藤美姫の存在だけではない。ふたりを追いかける中野友加里や村主章枝。群雄割拠の男子シングルたち。彼ら、彼女たちのおかげで、頻繁に日本で開かれるようになった国際試合やアイスショー。 ひょっとしたらこんな時代は、もう二度とやってこない夢のような時なのかもしれない。 なんだかここ数年で、私たちはこの状況が当たり前だと思うようになってしまった。 でもそれは、彼女たちの人知れぬ努力の上にかろうじて立っている、砂上の楼閣のようなものだ。 失った時初めて、この時代の愛しさを、私たちは知るのかもしれない。
photo/Sunao Noto text/Hirono Aoshima
2009年04月16日
国別対抗戦2009、開幕!
史上初めてのフィギュアスケート公式団体戦、「世界フィギュアスケート国別対抗戦2009」。 世界選手権が終わったばかりで、選手たちは疲れてないだろうか? そんな声も聞かれるなか、各国選手団が続々日本に到着。15日は全種目の選手が代々木第一体育館にて公式練習を行った。
まるでアイスショーのリハーサルのように楽しげに、はしゃぎながら練習しているパトリック・チャンとボーン・チッパー。 時差ボケのせいもあるけれど、異様なハイテンションで記者の質問に答えながら、大笑いが止まらなかったテッサ・バーチュー。 ショートプログラムの曲かけで、さっそく切れ味鋭いトリプルアクセルを見せ、身体にもリズムが戻ってきたような浅田真央。 お互いの囲み取材で記者ゾーンに乱入し、「試合に向けての意気込みはどうですか?」などと聞きあっている安藤美姫と小塚崇彦。
そんな選手たちの姿を見ていると、これはなんだか、楽しい試合になるかも? とわくわくしてしまった。 泣く子も黙るISU公式戦。でも、いつもは国の代表権をかけて競っているライバルたちといっしょに、チームを組んで戦う。まったく初めてのシチュエーションに戸惑いながらも、選手たちはこの試合を真剣に楽しもうとしている様子だ。
ライサチェクや安藤美姫など、世界選手権で満足のいく結果が出せた選手たちは、意気揚々と代々木にやってきた。浅田真央やジュベールら、不完全燃焼だった選手たちも、ここでがんばれば今シーズンをいいイメージで終わり、晴れやかな気持ちでオリンピックシーズンを迎えることができる。 しかも今回は、たったひとりでプレッシャーを背負って氷の上に立たなければならない個人戦ではない。 「真央がんばれ!」 そんな言葉がチームメイトからかけられるなかでもう一度滑れば、彼女もいつもの輝きを取り戻せるかもしれない。
photo/Masami Morita text/Hirono Aoshima
2009年03月30日
女子シングル総括 吉岡伸彦強化部長のコメント(2)
――前回チャンピオンの浅田選手、表彰台を逃す結果となってしまいました。 吉岡 昨日の結果もあって、今日は攻めるしかなかったため、トリプルアクセル2回ということに。2度目の転倒は残念でしたが、攻めた結果としてのこの順位、仕方がなかったと思います。ずいぶん緊張していたショートの時よりも、今日の方が落ち着いて、きちんと動けていましたし。スピードが無かったと言われれば……そうかもしれませんね。彼女は決してスケーティング技術の面で劣っているわけではないので、プログラム全体を通しての滑りこみが、もっと必要なのでしょう。ひとつひとつのエレメンツができていても、ホールプログラムとして見た時に、それが100%生きているか、4分間での力の配分ができているか。たとえばジョアニー・ロシェットなどは、その部分がきちんと練習できていますよね。ヨナもまた、ファイナルから四大陸にかけての演技の進化を見ていると、滑りこみができている、と感じます。その部分で差がついているのかな……。単純に練習量の問題、というわけでもないと思うのですが。
――浅田選手、修正したルッツを気にしていることが、練習や演技全体に影響していませんか? 吉岡 ルッツも今回、四大陸選手権の時のように、不安で不安でしょうがない、というわけではありませんでした。ルッツが原因で他の部分の練習ができないわけでもない。とにかく、このまま今と同じことをしていたら、来シーズンも同じ結果になってしまう。早めにプログラムを完成させ、早めに仕上げて、細かいところまで注意がいきとどくように、きちんと突き詰めていかなければと思います。オリンピックは、新しいプログラムをどこまで完成できるかの勝負、そう考えれば、それほどスタート時点で大きくヨナに差をつけられているわけではない。これから同じところからスタートして、競争することは十分できる。あちらが今の時点で大きくリードしているわけではない、と考えています。
――今回の結果、バンクーバー五輪にはどうつながって行くでしょうか。 吉岡 来シーズンに向けて、ここでみんな、それぞれ悔しい思いをしています。キム・ヨナがスピンをキックアウトされた(エレメンツの重複でスピンがひとつ無効に)にもかかわらず、10数点も離されてしまった。そこを詰めていくために、スピン、スパイラル、ステップのレベルをきちんと取ったうえで、GOEももらえるように。ファイブコンポーネンツも、8点台が出たヨナとの間をできるだけ埋めていかなければならない。もちろん、ジャンプも跳ばなきゃいけない……もう、全部ですね。やることはいっぱい、困ったものです(笑)。でもこれから一年ありますから、日本選手同士、ライバルとしてお互いに高いレベルで競い合っていけば、来シーズンの結果につながるのではないか、と思います。
photo/Sunao Noto text/Hirono Aoshima
2009年03月29日
女子シングル終了、浅田真央4位
こんな真央ちゃんに、いったい誰がしたんだ? フリーの演技を見ていて、憤りにも似たものを強く感じてしまった。 大きな失敗は、ほぼ2度目のトリプルアクセルの転倒だけ。 冒頭のトリプルアクセルを失敗して以降、ノーミスだった昨年の世界選手権の演技と、技術的にそれほどひどく劣るところはない。それなのに、あの時感じた大きな興奮も、滑っている浅田真央を見る喜びも、何ひとう沸き上がってこないのは、いったいなぜなのだろう。
指先ひとつひとつにまで、神経がいきとどいていない。休むところがどこにもない精緻なプログラムも、魂がいきわたらなければ、ただ走って、跳んでを繰り返す凡庸なプログラムに見えてしまう。ただただまっすぐ進んでいく、決められた動きを休みなくこなしていく、これは……フィギュアスケーターではなく、マラソン選手を見ているようだな。浅田真央の演技にそんなことを感じてしまった自分に、愕然とした。 いったい彼女は、魂をどこに置いてきてしまったのだろう? 浅田真央のスケートは、どこに行ってしまったのだろう? あやうく口に出そうになった、「こんなの真央ちゃんじゃない!」という言葉。 しかし、キス&クライで深くうなだれる今の彼女も、確実に浅田真央なのだ。
15歳でファイナルを制し、17歳で世界選手権を制した、若きスターも浅田真央。自信も、誇りも、輝きも失って、ジュニアに上がって以降、試合では必ず手にしてきたメダルさえも得られなかった今の彼女もまた、浅田真央。これまで何度も「真央ちゃん」の美しさに心を震わせ、高いジャンプに胸躍らせ、がんばりに涙してきた私たちは、今のこの浅田真央をこそ、しっかり受け止めなければならない。
実際、すべての努力を彼女はしてきたのだ。自分なりの目標を立て、ストイックに立ち向かい、コーチに止められてもこっそり滑るほど、練習の虫。そんな姿勢は、小さなころから現在まで何も変わらない。 どんなに褒められても奢ることなく、どんなに実力をつけても人に接する態度を変えることはない。彼女ほどのトップアスリートで、街でも、試合会場でも、ミックスゾーンでも、誰にでも感じよく接してくれる人など、そうそういないだろう。 才能があって、努力も人一倍して、気立てもいい。そんな彼女が今日のフリーのようなスケートを見せてしまう――何か、彼女自身にはどうしようもないところで、うまくいかないことがあるのだろう。
フィギュアスケートは、いや浅田真央は今、ビッグビジネスの渦中にいる。彼女を取り巻く人々の思惑、大人の事情、過度の重圧……。そんなものが、浅田真央の輝きを奪ってはいないだろうか。決して悪意ではなかったとしても、複雑に絡み合った様々なものが無邪気な彼女をを不安にさせ、ビジネスや利権、人々の欲望が、やさしい彼女をすり減らしていないだろうか。
国民的ヒロインの窮地――彼女をスターにした私たちが、これまで存分に彼女の演技を楽しんできた私たちが、今度は浅田真央を支えなければならない。そのために私たちにできること……ひとつには、過剰気味の情報や、感情的になったファン同士の中傷、根拠のない噂などに惑わされず、しっかりと自分の目だけで浅田真央を見ることだ。そして、真央ちゃんのスケートがほんとうに好きならば、浅田真央を、彼女のスケートを、最後まで信じることだ。
photo/Sunao Noto text/Hirono Aoshima
2009年03月29日
女子SP終了 吉岡伸彦強化部長のコメント
――期待の浅田真央選手、3位スタートとなりましたが。 吉岡 ショートプログラムで10点差。これは簡単につめられる点差ではありません。ヨナ・キムがフリーノーミスでは、ちょっと届かないでしょうね。仮にフリーがふたりともパーフェクトであったら、浅田が2、3点差で勝てる計算になっているのですが、大きな差があるわけではないので、フリーで同じような出来具合で勝負したら、厳しいでしょう。しかし浅田選手は、エレメンツの内容でキム選手に負けているわけでは決してない。決して適わない相手ではないのですが、プログラムの完成度、きちんと決めたことをできるかどうかで負けてしまっています。あとはフリー、やるだけのことをやって、相手の出来を待つしかない。相手のミスを期待してはいけないんですけれど。
――3年ぶりのワールドとなった村主選手はいかがでしょうか。 吉岡 久しぶりの世界選手権ということで、少し気持ちがはやっていたでしょうか。タイムアウトの減点(マイナス1)を取られるとは思いませんでした。スピンで8回転を満たしているのにもう一回回ったり、いつもは動かずに聞いている音で動き始めてしまったりで、タイムオーバー。この1点はもったいなかったと思います。それからレイバックスピンのレベル1。彼女は右足のバックエントランスでレイバックスピンに入る。身体にそれほど柔らかさが無く、ビールマンポジションなどでレベルが取れない分、エントランスで工夫しているんです。これがちょっとリスクがあって、失敗しちゃうとくしゃくしゃになってしまいがち。難しいですね。
――安藤選手、コンビネーションジャンプのダウングレードはありましたが、4位につけました。 吉岡 彼女は比較的落ち着いて滑っていましたね。ただやはり、練習と比べると音楽の中で跳ぶジャンプは、やや低い。そのためループのダウングレードを取られてしまいました。他のミスは、最後のレイバックスピンでレベルが取れなかった(レベル2)くらいでしょうか。レベル3に必要な要素のうち、8回転以上の回転などはクリアしているから、加速が認められなかったのかな? それでも本人なりにはパーフェクトに近い出来。よくがんばりました。あとは細かい部分の詰めをさらにしていけば、フリーも期待できます。しかしみなさん、女子の3枠のことは、何も聞いてくれないんですね(笑)。
photo/Sunao Noto text/Hirono Aoshima
2009年03月29日
女子SP終了、浅田真央3位 ―冷たい月光―
ジャンプの調子のすこぶる良い、でも常に顔をこわばらせた公式練習の浅田真央を見て、これは人気絶頂のヒロインが見せる表情なのだろうか、と思った。 「真央ちゃん、ガンバレー」 そんな声が、今では世界のどこに行ってもとんでくる。本当だったらキム・ヨナやロシェットのように自信に満ちた、コストナーのように晴れやかな表情を、もっと見せてもいいはずだ。引き締まったいい顔だ、いい緊張感を保っているんだ、という見方もあったけれど、公式練習中だけならともかく、演技中にも何かを押し殺したような彼女の表情を見ているのは、やはりつらかった。 音楽と身体リズム、音楽と身体表現の究極のシンクロニシティとして評価の高いショートプログラムも、今日は静謐すぎて、冷たすぎて、悲しくなってしまうような「月の光」だ。 「特に後半はベストではない演技で……満足はしていません。今シーズンはルッツをアウトサイドで跳ぶ修正をしてきているので、跳びたい、という気持ちが大きい。でも試合ではどうしても力強く向かっていけない、それが原因かな……」 ディフェンディングチャンピオンとしての重圧か、修正に苦労したジャンプへの不安か、さらには表に出てこない何かか。彼女の月の光を暗い雲で覆ってしまう原因は、いくつかあるのだろう。 ただ今シーズン、一度だけ、「真央ちゃんらしいな」という表情を氷の上で見られたことがある。グランプリファイナルのフリーの演技が終わった直後、彼女はうれしげに跳びはねながら観客席に手をふったが、その視線の先にいたのは、名古屋の山田満知子コーチや後輩の村上佳菜子選手だった。 そうだ、この表情。こんな顔を今の浅田真央は、なかなか見せてくれないのだ。かつて無邪気だった彼女の周囲にいた人たちに接し、大きくゆるんだ表情を見て、いつしか重圧の中で失ってしまった「彼女らしさ」を思った。 もちろん、かつての純粋なものしか知らない子供のような「真央ちゃん」を取り戻してほしいとは思わない。大人になって、自身を取り巻く様々な事情を理解してしまって、そこから新たに作り出す彼女らしさはあるだろう。それを現時点で、浅田真央はまだ手に入れていないのではないだろうか。 たとえばコストナーのような、出てきただけでぐっと人を惹きつける空気。キム・ヨナの堂々とした、彼女らしさを極限まで見せようという意思。そう、自分のスケートと、自分らしさに対する自信が、今の浅田真央からは感じられないのだ。 実力の高さも、スケートへの気持ちも、アスリートしてのストイックさも、キム・ヨナやロシェットに一歩もひけをとらない。ただただ、自分の本当に見せたいものはこれ、観客にはこの美しい自分を存分に見てほしい、そんなふてぶてしいまでの気持ちが、今の彼女には足りないだけだ。 オリンピックまであと一年。世界選手権の結果がどう出ても、一年間で取り組むべき様々な課題を、彼女自身も周囲も設定するだろう。その課題の中に、本当に浅田真央自身が表現したいものを見つけること、これがぜひ入ればいいな、と思う。指導されて得る究極の美しいスケートではなく、平凡であっても浅田真央自身が求めた、浅田真央自身が見せたいと思うスケートを、一年後には見せられるように。 もしそれができる環境が彼女の周囲に整うならば、大きな挫折がきっかけとなって、浅田真央が彼女らしさを見つけることができるのならば。今年の世界選手権は、惨敗したってかまわないと思う。
photo/Sunao Noto text/Hirono Aoshima
2009年03月26日
大会初日(24日) 女子シングル公式練習レポート
先週のうちにLA入りしていた安藤美姫、村主章枝は今日はお休み。浅田真央のみがフィンランドのポイキオ、レピストらとともに40分の公式練習に臨んだ。 日本のメディア、ファンのみならず、たくさんのスケート関係者、ファンが「真央ちゃん」を見に集合する中、トリプルアクセルに何度も挑戦し、ほとんど着氷! きれいに3回半まわるたびに「わあっ!」という歓声が起きていた。コンビネーションなどその他のジャンプもほぼ完璧。じゅうぶん「調子がいい」といえる公式練習だっただろう。 ただ、表情は少し強張り気味、身体もちょっと重たそう。緊張もあるだろうし、まだ時差の影響も残っているのかもしれない。レピストやポイキオら、フィンランド勢があまりに軽々とした滑りを見せるので、比べて少し重いように見えてしまったのかもしれない。 浅田真央の場合、たとえジャンプの調子が悪くても、コーチと話をする時、練習を終えた時、少しでも笑顔が出た方が、「これなら大丈夫だな」と、安心できるような気がするのだが。
photo/Sunao Noto text/Hirono Aoshima
2009年03月05日
写真展「氷上の妖精たち」開催のお知らせ
sports@niftyフィギュアスケート特集、立ち上げ時から写真を提供しております、カメラマンの森田です。 このたび、世界選手権を前に愛知の元気なフィギュアスケート選手を中心に写真展が開催できることとなりました。 ぜひ、名古屋のTV塔下にありますセントラルパークへおいでいただき、セントラルギャラリーまで足をお運びいただけますようお願いいたします。
セントラルパークギャラリーインフォメーション
http://www.centralpark.co.jp/gallery/gallery1.html
題 名:「氷上の妖精たち」~愛知から世界へ~ 場 所:セントラルギャラリー 地下鉄名城線・桜通線久屋大通駅 下車直結 地下鉄東山線・名城線栄駅 下車直結、名鉄瀬戸線栄町駅 下車直結 期 間:3月12日(木)~ 3月23日(月) 時 間:10:00~21:00 主 催:氷上の妖精たち実行委員会 後 援:中日新聞社 協 力:愛知県スケート連盟 *観覧無料
今月開催される世界フィギュアスケート選手権を前に、愛知県出身でおなじみの浅田真央選手、安藤美姫選手、中野友加里選手、鈴木明子選手、小塚崇彦選手らをクローズアップした写真展です。 女子選手の優美さ、男子選手の力強さはもちろん、フィギュアスケートの観戦の楽しさをより多くの皆さんに知ってもらうために、セントラパークのセントラルギャラリー壁面いっぱい(半切額66、全紙額8)に展示します。 またおなじみの選手たちだけでなく、今シーズンの全日本、全日本ジュニア、全日本ノービス選手権などに出場した愛知のジュニアたちも、フォトグラファーの目で紹介します。
photo&text/Masami Morita(写真は愛知在住で活躍が期待されるジュニア、渡辺真央選手、中村愛音選手)
2009年02月08日
女子シングル終了 浅田真央フリー1位、総合3位 今日の全力、明日の全力
浅田真央が滑りだす直前までは、彼女の様子をずいぶんリラックスして見ていたような気がする。 SP6位となれば、あとはもう、開き直るだけ。見ているこちらも緊張などせずに、気を楽に今日の演技を楽しもう、と。 しかし冒頭のトリプルアクセルがシングルアクセルになり、続いて予定にはなかった2度目のトリプルアクセルを成功させてしまったとき――思わず身を乗り出してこぶしを握り、そのあとはいつもの緊張感たっぷり、応援モードに突入しまった。 「ジャンプの調子を考えて、今日はトリプルアクセルは1度だけにする予定でした。でも最初のアクセルでパンクしてしまって……。『1回は跳ぶ!』って決めていたので、次は絶対跳ぼう! って気持ちで2度目を挑戦して、跳べたんです(笑)」
そう、浅田真央はいつだって、全力だ。 絶対跳ぶと決めたジャンプは跳ぶ、その気迫は私たちに、リラックスして見る、などという姿勢を許さない。こちらも「がんばれ!」の気持ちでいっぱいになってしまうし、それこそが浅田真央というアスリートを見る醍醐味だ。 そしてやはり、「今日はそれなりにがんばってくれればいいよね、本番はワールドだ」、などという気持ちで見るより、「よし、トリプルフリップから3-2-2、きれいだ! 次は!?」そんなふうに興奮しながら見た方がずっとわくわくするし、ずっと浅田真央の気持ちに寄り添えるような気がする。
演技全体の出来としては、いつもの「仮面舞踏会」の魅力は残念ながら発揮しきれなかった。 会場内、ちょっとうるさいほどのボリュームで流れるフルオーケストラの音色の中に、緊張で強張った表情の彼女は埋もれてしまうよう。いつもの誇り高い黒い貴婦人は、美しくはあるが傷心の貴婦人のようで、応援しながらも見ていて切なくなる。 しかしジャンプの調子が出ない、SPであんな失敗をしてしまった、さらにはコーチもいない……などと数多の不安を抱えながらも、浅田真央はその状態の中で見せられる最上の演技をしたし、その姿はとても凛々しかった。そしてこちらもリラックスなどせず、必死に応援しながら彼女を見て良かった、と思わせてくれた。
昨年秋、「キム・ヨナのホームで勝てるとは思わなかった」というファイナルに全力投球して。気も抜けぬまま全日本で連覇を達成して……。いくら浅田真央のような選手でも、そうそうどの試合にもトップコンディションで臨むことなどできない。タラソワコーチの来ない四大陸選手権だって、こんなに大切な試合だとは思わずにやって来たけれど、メディアは「キムとの直接対決、ふたたび!」などと、ずいぶん盛り上がっている。一方でキム・ヨナもそのファンたちも、ファイナルの雪辱を期すべく、まさにこの大会を目標に定めて向かってきた。そこまで四大陸が大きな注目を集めていたことに対して、浅田真央は驚いていたかもしれない。 精神的にそんなコンディションだったら、もっとボロボロになっていいはずのフリー。ところが滑りだしたら全力で、トリプルアクセルだって跳んで見せ、大きなミスもなく、フリー1位。これは本当に立派だし、今シーズンを戦って、さらにまたアスリートとしての地力もついてきたということだろう。 そして何より、「いつでも全力」。これが浅田真央の見せるスケートの気持ちよさだ。いつでも、できることは全部。全力を出しきってくれるアスリートは、こちらもいつでも、全力で応援したい。 「今日の試合には、まだまだ克服しなくちゃいけない課題がたくさん残っています。次の世界選手権に向けて、もっと練習してもっとがんばらないと!」 次に浅田真央が見せてくれるのは、トップコンディションでの全力。こちらの応援も、負けないくらい全力でいきたい。
photo/Sunao Noto text/Hirono Aoshima
*女子フリー終了後、小野珠実選手、カントゥ姉妹の写真を追加掲載しました
2009年02月07日
男女シングルSP終了 吉岡伸彦強化部長コメント
――浅田真央選手、フリー前日の練習の様子を見て、いかがでしたか? 吉岡 昨日の今日で、あまり変わってはいませんね。もっと自信を持って……と言っても、練習がきちんとできていなければ、自信を持つことも難しいかもしれないけれど。でも、なんとか技術面での不安を解消出来ればと思います。あとは自信を持って思い切ってやれば、できる選手ですから。
――織田選手は予想外の6位でしたが。 吉岡 彼は最終滑走の経験があまり多くなかったかもしれない。長い時間待っていると、どうしても気持ちが張り詰めて来ちゃうことがあります。それでもやるべきことはやらなきゃいけないのですが……。今日は緊張のために、動きがあまりにも硬かった。やはり試合から1シーズン離れていて……夏の小さな試合から順にこなしてきて感覚は取り戻しました。それでもISUのチャンピオンシップは、やはりちょっと違うのでしょう。でもここで経験をしておけば、ロスのワールドに生きてくると思うので。ある意味、ここでこれだけ緊張しておいて良かったかな
――小塚選手はSP3位。彼への評価は? 吉岡 やはり彼も本来の動きを考えると硬かった。緊張すると、エレメンツもGOEプラスをもらえるものではなくなってしまいます。硬くなりながらもそこそこはがんばった、と思うけれど……パトリックなどを見るとジャンプにもスピンにもプラス2がどんどんついて、ベースバリューから合計で10点も上がっているんですよ。そこそこのがんばりではかなわないくらい、今日はパトリックの方が頑張った。あれだけ崩れたファイナルとはもう、別人でしたね。カナダの選手はカナダの試合に強いな、と。昨日今日で思いました。
――カナダの試合でカナダの選手が強い。それはホームアドバンテージが多少はある、ということに? 吉岡 いや、僕自身がジャッジをしているときは、観客が騒いでいるかどうかは関係ありません。基本的にナショナルバイアスのようなものはない、と信じたい。パトリックは素晴らしい演技をしてそれにふさわしい、素晴らしい評価を受けた、ということでしょう。カナダだから点数が出すぎた、というわけではないと思う。小塚も織田も、誰が見てもパーフェクトな演技ができれば、カナダのお客さんも大きな拍手や歓声をくれたと思いますし、そういう勝負をしなきゃいけない。でも、レベルをきちんと取って、GOEもつくクオリティを保って……今の時代の選手は大変ですよね。その選手のがんばりに負けないだけのことを、我々強化部もしなければならないわけですが。
――フリーに向けて、男子選手たちに必要なものとは? 吉岡 平常心かな。全員が自分の力をきちんと出し切れる方向に、チーム全体をもっていなかなければいけないですね。ショートプログラムでは、確かに彼らは緊張していた。フリーでは少しでも彼らがリラックスできるよう、我々も考えなければ。
text/Hirono Aoshima
2009年02月06日
女子シングルSP終了、浅田真央6位 「真の女王への道」
最初のトリプルフリップ‐トリプルループをオーバーターンしたとき。 「あ、次のルッツもダメかもしれない……」 直感的にそう思ってしまった人は、きっと多いだろう。 どんな調子の時にどんなふうに失敗をしてしまうか、どんなパターンで試合が進んでしまうか。熱心に浅田真央を見続けているスケートファンや記者なら、だいたいのところは見えてくるようになってしまった。 万全の状態で臨みさえすれば、誰も敵わない圧倒的なパフォーマンスを見せられるのに、「ちょっと練習が足りなかったな」「ルッツの調子が悪いな」、そんな不安を一点でも抱いてしまうと、たちどころに全てを崩してしまう浅田真央のもろさ。そんなものにももう、すっかり慣れっこになったような気さえする。
上手くいかなかったのは気持ちの問題? 技術的な問題? 「うーん、両方がそろわないと、うまくはいかないですね。ルッツはバンクーバーに来る前から調子が良くなかったですし」 四大陸は世界選手権の途中の試合、という感じだった? 「いえ、自分はこの試合に向けてやってきたつもりだけれど……調整がうまくいかなかった」 タラソワ先生がいないことは影響している? 「それはないと思います」
なんとかして不調の根本的な原因を探ろうと質問しても、ケガのせいだとか、リンクのせいだとか、具体的な説明は何もしない。 「真央ちゃん、失敗したときは言い訳をしないからね。これでフリーでうまくいったら、『実はどこが痛かった』なんて言う。言い訳は、勝った時にするんだよね」 そんなふうに記者たちがそろって苦笑するくらい、ショートプログラムはいつもの失敗パターン、その後の彼女の受け答えもいつもの浅田真央だった。
たぶん誰もが予想しているように、フリーでの浅田真央はいろいろなものをふっ切って、いい演技を見せてくれるだろう。キム・ヨナに15点差近くつけられるという完敗ぶりも、かえって気持ちの切り替えの役に立つかもしれない。 世界選手権で優勝しても、ファイナルでチャンピオンになっても、まだまだ私たちのエースは「ガラスのエース」だ。安心して見ていられない試合が、まだまだとても多い。 でも、それではダメなのだろうか? いや、これは以前も書いたことだが、髙橋大輔だって荒川静香だって、時間をかけて強くなった。浅田真央もそんなに急がず、ゆっくり強くなっていけばいいと思う。 バンクーバーまで、もう時間が無い? いや、ソチ五輪には、まだ5年もある! 浅田真央はこれから5年かけて、じっくりと、心の強さも兼ね備えた真の女王に育っていけばいいのではないだろうか。
photo/Sunao Noto text/Hirono Aoshima
2009年02月05日
四大陸選手権こぼれ話1 バンクーバーにも真央ちゃん応援団
4日のプラクティスリンクは、女子シングルの公式練習があったため、たくさんの報道陣でいっぱい。 練習会場の入り口には、浅田真央選手を出待ちしている小さな応援団たちの姿もあった。
手作りの「MAOちゃん」応援グッズを手に待ち構えていたのは、バンクーバー在住のみことちゃん。地元でスケートを習っていて、四大陸選手権試でもばっちり真央選手の応援にかけつけるのだそうだ。
練習を終えた真央選手は、地元のちびっこたちのサイン攻めに。 いつも日本のリンクでの試合ではかわいい子供たちによる「真央ちゃーん」コールが起こるが、ここバンクーバーでも聞こえそう? もし日本で試合をするようなリラックスした気分で浅田選手が演技ができたら、小さな応援団の声援も一役買っているのかも。
text/Hirono Aoshima
2008年12月13日
フィギュアスケート日本女子ファンブック2009 発売のお知らせ
祝・浅田真央選手グランプリファイナル優勝! 大変遅くなってしまいましたが、今年も女子シングルの日本代表選手11人のロングインタビューを収録したファンブックが発売されます。
注目の浅田真央選手をはじめ、安藤美姫、中野友加里、村主章枝、鈴木明子……。 今月末の全日本選手権での戦いが楽しみな、美しく、強いアスリートたち。 スケートへの思い、迷い、夢……じっくり語ってくれた言葉を、たくさんの写真とともにお届けします。
フィギュアスケート 日本女子ファンブック2009 出版社: 扶桑社 発売日:2008年12月22日 定価:1680円
【contents】 〈11選手独占インタビュー〉 浅田真央 「世界選手権優勝は、もう昔のこと。今はすっかり、忘れちゃってます」 安藤美姫 「今年の目標は、健康に過ごすこと。そして、心から滑ること」 中野友加里 「時間を大切にしたい。すべてが終わった時に、後悔だけはしないように」 村主章枝 「テーマはLOVE。氷上でも、プライベートでも!?」 鈴木明子「あきらめなければいつか願いは叶う。そんなメッセージを、伝えたい」
武田奈也、太田由希奈、澤田亜紀、浅田舞、水津瑠美、西野友毬
〈スペシャルインタビュー&レポート〉 伊藤みどり、若松詩子インタビュー 全日本ジュニア選手権レポート 11選手全プログラム解説 11人のコーチよりメッセージ
2008年12月13日
グランプリファイナル2008 女子シングルSP終了 キム・ヨナ1位、浅田真央2位
「ルッツをパンクした演技に、なぜ負けてしまうの!?」 「敵はキム・ヨナだけではないってことですよ。彼女は、いろいろなものと戦わなくちゃいけないんだ」 浅田真央の演技のことを思い返していたら、プレスルームで交わされていたそんな会話がよみがえってきた。 明らかにジャンプの出来では下だった選手に、点数で負けてしまうことは、良くある。明らかに力の差がある選手同士なら、ふたつやみっつのジャンプミスの差では、順位はひっくり返らないことだって多い。 しかしここまで実力の均衡した2選手。片方が大きなミスをしているのに、順位は上という事態。疑問を持ってしまう人は多いだろう。 プロトコルを見ると、キム・ヨナがクリーンに決めた3回転‐3回転(11.5)とシングルになったルッツ(0.3)の合計点が11.8点。浅田真央の3回転‐3回転は回転不足と判定され、5.2、エッジエラーもつかなかったルッツは6.8、合計12.0点。あとはコンビネーションスピンで0.3、ステップで0.1……と少しずつ少しずつ差をつけられて、キム・ヨナ1位、わずか0.56点差で浅田真央2位となったことがわかる。 しかし、そんな細かいところをつついてみても、あまり意味がない。人々が議論しているのは、浅田真央に「戦わなくちゃいけないいろいろなもの」があったかどうか、だ。 それは確かにあった、と思う。でもそれは、この試合に限ったことではないのだ。グランプリシリーズで、まったく同じレベルの演技をしても、自分の国での試合ではずいぶん高い点数をもらえることはある。世界選手権でも、開催国選手にライバルより少しいい点数が出て表彰台のメンバーに影響することだって、ある。 この試合がそのまま日本でされていたら、絶対に浅田真央が上だっただろう、と言う人々もいるだろうだろう。しかし日本開催でキム・ヨナがミスなし、浅田真央がワンミスで、浅田真央が上、そんな事態だって起こりうるのだ。
では、浅田真央はどうしようもない敵、どんなにがんばってもかないっこない敵にぶつかってしまったのか? いや、そんなことはない。 酷であることを承知で言えば、もっといい演技、ホームアドバンテージなど起こさせる隙もない演技をすればいいのだ。それは回転不足対策など技術的なものだけでは、もちろんない。 もし今日の浅田真央の演技が、涙が出るほど素晴らしいものだったら、この記事でも大きな不満を書いていたと思う。しかし今日の「月の光」は、ジャンプこそうまく決めたが、全体の印象はそれほど強いものではなかった。例えばジャンプの失敗のあったエリック杯SPの方が、全身で月光を浴びるような凄みを帯びていて、パフォーマンスとしてはずっと優れたものだ。NHK杯SPと比べてもそうだが、この日の浅田真央の月夜は、少し静か過ぎた。そのことは、たぶん本人が一番良く分かっているだろう。コーチたちが大喜びだったのに比して、フィニッシュした後の浅田真央に、大きな笑顔はなかった。キス&クライでも表情は不安気で、タラソワコーチらの言葉にやっと少し笑みを漏らすほどだった。 たぶん、私などが言う以前に、浅田真央自身が、今日のSPが万全なパフォーマンスではなかったことに気づいている。自分はもっとできること、できる演技をすれば決して負けていなかったことを、知ってている。 「最後にあまり笑っていなかったのは……ずっと真剣に滑っていたので、終わった後もそんな気持ちのままだったんです。まだ明日もある、気を引き締めないと! って思いもありました」 気を引き締めてのぞむフリーを、楽しみにしよう。ロングエッジ判定も、ダウングレードも、「敵」がいればいるほど燃えてしまう、がんばってしまうが浅田真央だ。アウェイのディスアドバンテージという敵にも失望したりはしない。きっと大いに燃えて、立ち向かってくれる。
photo/Masami Morita text/Hirono Aoshima
2008年12月12日
グランプリファイナル2008 女子シングルSP直前 浅田真央選手コメント
今年は日本から3人の選手が参戦、最も注目を集めているのが女子シングルだ。各選手、公式練習も無事にこなし、いい緊張感を保っている様子。韓国入りしてからの心境を、11日の共同インタビューから探っていこう。
――到着して2日目の公式練習、いかがでしたか? 真央 昨日はすごくドタバタ(飛行機の到着遅れなど)で、あんまり集中して練習できなくて……。でも今日はしっかり集中して、氷の感触も確かめました。氷はすごく良かったです。
――真央選手自身の調子も良さそうですね。 真央 はい、特にルッツが何でこんなに高く上がるのかな、って、自分でもびっくりするほど(笑)。ルッツの調子は日本で練習していた時よりいいです。NHK杯の時はまだちょっとジャンプが不安定でしたけど、今はすごく安定していると思います。NHK杯が終わってからはなるべく練習に集中して、それからケガをしないように注意してきたので!
――NHK杯後、タラソワコーチからはどんな指導がありましたか? 真央 NHK杯の後はタチアナ先生のアシスタントの先生が日本でついていてくれました。タチアナ先生からのいろいろなアドバイスを電話で聞いて、それを伝えてくれる感じ。言われたことは、「まずは疲れを取りなさい」、それから「練習では集中しなさい」ということ。あとはジャンプの技術的なこと、フリップではしっかりトウを突いて跳びなさい、みたいなことをアシスタントの先生にも指導してもらいました。
――注目のフリー、ジャンプ構成は決まっていますか? 真央 NHK杯と同じ構成でやりたいと思っています。もし明日調子が悪くなったら変えるかも? だけど今のところはNHK杯と同じようにやるつもりです。
――ということは、トリプルアクセルも、2回? 真央 はい、フリーの朝の練習の後、決めます。体力的には大丈夫です。NHK杯の時にはアクセル2回入れても、滑りきることができたから。
――トレーナーさんがアイシング用の氷を持っていますが、どこか足を痛めましたか? 真央 あ、ただのマメです。足の小指、靴を替えた時にできたんですけど、もうぜんぜん大丈夫です。
――今回はキム・ヨナ選手とのシーズン初顔合わせということで、注目も集まっていますね。 真央 今日も一緒に練習したんですけど、キム・ヨナ選手はすごくスピード感があって……。自分もいい刺激をもらえたと思います。
――ずばり、今大会の目標は? 真央 一番は、優勝です(笑)。でも試合が始まったら、考えるのはプログラムに入っているエレメンツを全部ミスなくこなすこと。ミスなくジャンプを跳ぶことが目標になると思います。
――ファイナルには一度優勝していますから、今回目標を達成すれば3年ぶりということになりますね。 真央 あの年、15歳でファイナルに出たときは……ファイナルという大会がどういうものか知らなかったし、特に考えてもいなかったんです(笑)。今思えば、すごい大会で勝ったんですよね……。
――韓国のこの会場は、今年の四大陸選手権で優勝した会場でもありますね。 真央 はい! いつも、前にいい試合ができた場所だと、気分的にプラスになるんです。だからこのリンクで試合ができるのは、すごくいいと思います。
――試合が終わったら、プルコギや焼き肉が待っていますしね! 真央 あ、それは試合が終わらなくても食べます! もう、毎日食べてます(笑)。
text/Hirono Aoshima
2008年11月19日
エリックボンパール杯2008 浅田真央フリー2位、総合2位 「ジャンプという魔物」
フランス大会フリーの競技に挑んだ浅田真央の表情は、やはり硬かった。 それでも仮面舞踏会の「ゴージャスな」音楽と渡り合い、息つくひまもない激しい所作をこなして、この怪物的なプログラムの全容を見せ付けてくれた。
フリーはショートに比べ、プログラムの密度という点では劣ってしまうのが一般的である。転倒で疲れてしまったり、調子の悪い選手が、終盤息切れして無残に音楽においていかれてしまう様子を見ることも少なくない。
真央はともかくも終盤の嵐のようなステップを――力強くとはいえぬまでも――確実に演じてみせた。しかし、結果はショートと同様にロシェットに敗れ、二位となった。その順位はともかく、真央が自らの演技に不満であったことは、演技後の表情をみれば明らかだ。
ショートと同様、ジャンプでミスをしてしまったのが敗因ということになるだろう。結局、一日で気持ちを入れ替えるということは出来なかったのだろうか。
難度の高いステップ、スピン、スパイラルを、調子の良し悪しにかかわらず演じきることの出来る真央は、やはり驚異的な選手である。それは天賦の才と、幼少時から積み重ねてきた不断の努力の賜物としか言いようがない。それほど傑出したスケーターであっても、ジャンプには失敗するのだ。
それはジャンプというものが、他の要素と違う特別な難しさをはらんでいるからである。 それゆえに、採点システムが大きく変更されても、ジャンプの重要性は変わらなかった。 またそれゆえに、ライバルに勝つためには、たとえリスクが高くとも、限界ぎりぎりの困難なジャンプに挑まなければならないのである。そのことがまた、ジャンプの成功率を高めることを困難にする。 このようなスパイラルによって、ジャンプの成否は否応無くフィギュアスケート選手のメンタルを揺さぶってしまう。もちろん真央も例外ではない。むしろ、勝敗以上に自身の演技の出来不出来を価値の中心に置いてしまう彼女は、誰よりもその影響を受けやすいといえるだろう。
真央陣営は、ショートで失敗したルッツを跳ぶことをやめ、かわりにこれまで苦手とされたサルコウに挑戦したようだ。現場でジャンプの調子などをこまかに把握しているコーチ、スタッフが判断したことであろうから、きっと最適な決断だったのだろう。しかし、ことメンタル面のみに関して言うと、このような「守っているのか攻めているのかわからない」作戦では、真央の心に生じていたであろう不安を払拭することが出来なかった。そればかりか、かえって新たな不安の種を蒔いてしまったかもしれない。
来シーズンはオリンピックシーズンである。トップレベルのフィギュアスケート選手にとっては四年に一度の勝負の年だ。多くの選手は、その前年にあたる今シーズンを、新たな可能性の扉を開くための挑戦、もしくは課題の克服にあてるだろう。
真央にとっての課題は、ルール改正によって不正なエッジと判断されてしまったルッツジャンプでの癖を矯正することである。 フリーでサルコウを入れたことについては、それを新たな挑戦ととるか、ルッツを外したことによる緊急避難的な措置ととるかは今のところわからない。いずれにせよ、ショート後の記者会見で「攻める」という姿勢を見せていた真央の気持ちと、ルッツを外すという消極的な策との間にはズレがあったように感じる。
ともかく、今大会の苦い結果は壁を乗り越えるための必然的な痛みである。怒涛のようなプログラムを力強く演じきりながら、なおかつルッツをはじめとしたジャンプを完璧に跳んでみせることができたとき、はじめて真央の心の底からの笑顔が爆発するだろう。
photo/Sunao Noto text/Naoki Tanaka
2008年11月16日
エリックボンパール杯2008 浅田真央SP2位「『月光』に寄り添う」
グランプリシリーズフランス大会に登場した浅田真央のショートプログラムの演技を観て、あらためてその技術の高さと精確さを感じた。
特にステップでは、急激なペースの変化や激しい上下動、細かく変化するフットワークなど、非常に難度の高い足技をこなしながら、音楽と完全に同調していた。また月光を浴びつつひそやかに咲く花のような所作を、伸びやかな肢体をじゅうぶんに使ってくりひろげたのである。
それは決して「機械のような」正確さではない。ゆらぎつつ音に寄り添うような、心地好いつかずはなれずの関係であり、言ってみれば浅田真央の肉体の動きと音楽のリズムとは対等なのである。音楽が真央を引っ張るのではなく、真央が音楽を締め付けるのでもない。絡み合うようにして両者がひとつの作品を生み出してゆく、とでも言おうか。
スピンやスパイラルにおいても、そのスケーティング技術と柔軟性は一分の隙もないほどに磨き上げられており、一篇の詩のように美しく、首尾一貫した、スケールの大きなプログラムであった。そして今シーズンの緒戦にして驚くべき完成度を示してもいた。
それでも思うように得点が伸びなかったのはなぜか。 誰の目にも明らかなのはジャンプの失敗である。転倒こそなかったが、3回転-3回転が3回転-1回転となり、ふたつめのルッツも2回転になってしまった。これについては、現在矯正中のトウジャンプのエッジを意識しすぎていたのかもしれない。
タラソワコーチに失敗の理由を尋ねられた真央は「自信がなかったから」と応えたというが、やはり、新しい技術への挑戦よりも、慣れ親しんだ跳び方を矯正することのほうがはるかに難しいのだろう。
理由のもうひとつは、演技中の真央の表情が終始硬かったことである。彼女はほとんど演技中に表情を作ることをしない。印象的な笑顔が爆発するのはもっぱら会心の演技を成し遂げた後である。それにしても、今回は苦しそうな表情が目についた。
ジャッジが評価すべきなのは、表情や演技力より、スケーティングと全身の所作の融合によるプレゼンテーションであると思うが、大輪の花のような笑顔は万人に好印象を与えるはずである。
もちろん、よろこびが自然に出てきたような笑顔が最も好ましいのは言うまでもないが、演技によって作られた笑顔であっても、それが逆に内面に影響を与え、なんとなくほがらかな気持ちになるということもあるだろう。苦しいときこそ、作り物の笑顔が助けになるのこともあるのではないだろうか。
ともかく、この日の真央は誰もが見て取れるほど緊張していたし、演技終了後はあきらかにがっかりしていた。2位になったからではなく「ノーミスできない」自分に対する悔しさだろう。気持ちを切り替えることができるかどうかが、フリーの結果を左右することになる。
photo/Sunao Noto text/Naoki Tanaka
2008年10月30日
2008 コスチューム・オブ・ザ・イヤー 推薦コメント(2)
5位 浅田真央 EX 『So deep is the night』 59ポイント 「真っ青な衣装が曲のイメージとぴったりあっており、さらに背中の空いた部分の縁取りのひらひらや、手首のリボン、髪の毛のリボン等の細かいデザインが華やか。浅田選手のかわいらしく、かつ美しいイメージにぴったりで、演技を引き立てていた」 「ブルーが浅田選手に良く似合っていました。モリコロのアイスショーで見た時、ライトに映えてすごく綺麗でした」 「鮮やかで可憐で、真央選手の魅力を大きく引き出していた」
6位 浅田真央 SP 『ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジア』(世界選手権バージョン) 58ポイント 「小さなスパンコールをあしらった光沢のある白っぽい生地に、胸から肩にがっとV字にあいていたのがとてもお洒落だと思いました。長袖は細くて長い腕を美しく見せていたし、衣装の色も昨季のノクターンのピンクからの成長を表しているようで好きでした」 「淡い色合いでありながら甘くならないシャープでセクシーなデザイン。今までの”真央ちゃん”に無かったものだと思う」 「シンプルだけどとてもエレガントで大人っぽく、素敵です」
7位 中野友加里 FP 『スペイン奇想曲』 55ポイント 「くっきり鮮やかなオレンジが氷に映えて素敵でした。ワンショルダーで片腕だけ長袖なのもおしゃれ。同じ色の髪飾りも華やかできりりとして、友加里さんに似合ってました」 「音楽、衣装、振り付け、パッケージとしてとても完成されていて、しかも彼女に似合っている」 「紅葉の形にくりぬかれていて、日本人、という感じがする。オレンジの色が友加里さんに似合っているかな。オレンジはリンクで目立って映える」
8位 キーラ・コルピ SP 『Triunfal』 41ポイント 「洋服みたいなデザインがかわいかった。ちょっと昔っぽい感じがかえってモードでした。キーラの美しさが際だっていました」 「コルピ選手はダントツの1位。華やかな美貌を際立たせるモダンな衣装がよく似合っていた」 「上が白×黒のボーダー柄、下は黒のぴたっとした感じのスカートと、フィギュアスケートの衣装としてはとても珍しく、またコルピ選手以外には着こなせないと思われる衣装でした。髪に赤いバラが1輪飾ってあるのも、かっこいい。
9位 浅田真央 SP 『ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジア』 (全日本選手権バージョン) 40ポイント 「衣装は舞選手のだとか。ブルーと紫がふわっとしていて、よく曲似合っていたと思う。 「舞選手のものということですが、まだ高校生で線の細い浅田選手を華やかに、かつ彼女独特の繊細でエレガントな風情を決して失わせないコスチュームだと思う。特に失敗が続いたSPを初めてほぼノーミスで滑れた全日本では、この衣装を着て情感的に舞う姿が印象に残っています」
photo/ Sunao Noto (写真は08年世界選手権での浅田真央選手「ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジア」)
2008年10月23日
2008 コスチューム・オブ・ザ・イヤー 推薦コメント(1)
コスチューム・オブ・ザ・イヤー投票結果詳細は→1位~20位、21位~28位
1位 浅田真央 FP 『幻想即興曲』 (四大陸・世界選手権バージョン) 151ポイント 「清楚で可愛い中にもちょっぴり色っぽさもあって、今の真央選手をよく表していると思います」 「モノクロの衣装から深紅の衣装に変えたときはびっくりしたけれど、貴婦人のようで気高くて、とても曲に合っていた」 「特に四大陸選手権のものは、胸の部分の網目模様が中世のお姫様のようでロマンチックな感じ」 「世界選手権のとき、転倒をものともせず阿修羅のごとくステップを刻んで突き進んで行く姿を見て、『この色こそ相応しい』と思った」
2位 浅田真央 SP 『ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジア』 (グランプリシリーズバージョン) 116ポイント 「イメージ一新って感じでしたし、プログラムの雰囲気とすごくマッチした衣装だと思いました。タラソワ氏プロデュースの衣装らしいですが、さすがプログラム作成者」 「シーズン前半のSPの衣装はプログラムのイメージにもぴったりだったし、今まで浅田選手にあった『かわいらしい』イメージをすべて取り払った美しく強い印象の衣装だった。不調とともにお蔵入り になって残念でした」 「SPでは3種類の衣装があってどれも好きですが、最初のが浅田選手の長い手足が一層長く見えて、美しい鳥が舞っているようでした」 「バレエの衣装を彷彿とさせる短いスカート、胸の羽のような模様が『今にも飛び立ちそうな強く美しい鳥』をイメージさせた」
3位 髙橋大輔 SP 『白鳥の湖』 107ポイント 「プログラムにマッチした衣装。手袋が腕を長く見せ、指先までの表現がスムーズにつながっていた」 「白鳥なのにヒップホップと男子ということでか、黒にしたところが良かった。男子の衣装で綺麗だなと思った、たった1つの衣装」 「スワンはヒップホップっぽい衣装ではないけれど、ダークな感じととても良いデザインだし、髙橋選手にとてもよく似合ってました。羽がポイントですね。 透け具合もグゥーです」 「この衣装だからこそ、ヒップホップが活きたと思う。首周りのフサフサが忘れられない……」 「ひじきと言われても、ホームレスみたいと言われても、ヒップホップ白鳥の衣装を着こなせるのは髙橋選手だけだと思います。おひげもお似合い」
4位 安藤美姫 FP 『カルメン』 76ポイント 「どぎつささえ感じる派手な赤と黒。演技の良し悪しで衣装の印象さえ変わってしまうけれど、激しくて強気なカルメンをよく表現していたと思います」 「どうしてもこれまでカタリナ・ビット選手の『カルメン』のイメージが強かった私にとって、黒がメインの衣裳は新鮮で、同時に黒髪・黒目の安藤選手にはとても似合っていて素敵だと思いました。曲のイメージとマッチしていて、なおかつ選手に似合っているところが素晴らしい」 「ニコライ・モロゾフコーチになってから、プログラムの世界観をよくあらわしたセクシーな衣装が印象的」 「プログラムにとても合っていて、彼女の魅力がよく出ていた衣装。全日本の時は気高いカルメンが氷の上にいたと思った」
photo/ Masami Morita(写真は07年全日本選手権での安藤美姫選手「カルメン」)
*スケートアメリカでは日本のベストドレッサーたちの先陣を切って安藤美姫選手が登場。今シーズンはすでにエキシビションナンバー「ボレロ」で2着、ショートプログラム「チェアマンズワルツ」の衣装も披露している。フリー「ジゼル」の衣装は大きな舞台では初披露。グランプリシリーズ、次々に見られるニューコスチュームも楽しみたい
*髙橋大輔選手へのインタビューが『日本男子フィギュアスケートFan Book Cutting Edge2009』に、浅田真央選手、安藤美姫選手、髙橋選手へのインタビューが『フィギュアスケート グランプリシリーズ 2008 オフィシャルガイドブック』に掲載されています
2008年08月11日
真夏の氷上祭典2008ザ・アイスレポート(3)
そしてなんといっても盛り上がったのは、フィナーレ。事前に告知もされ、誰もが楽しみにしていたふたりの世界チャンピオンの競演だ。 浅田真央は昨シーズンのフリーの衣装に、ティアラをつけたお姫様風のいでたちで登場。続いて滑り出たジェフリー・バトルは、「True Love Kiss」のメロディーが流れる中、彼女と恋に落ちる王子様、という設定だ。 こんなシチュエーションがなんとも似合うようになった、この夏の浅田真央の表情の豊かさ! プリンスと呼ぶにふさわしいバトルの滑りの高貴さ! バトルが優しく手をさしのべる中で跳ぶ浅田真央のジャンプ。彼女に捧げるかのように円を描くバトルのイーグル。いつも見ているはずの彼らの得意技も、そのまま恋に揺れる心の動きのように見えるから不思議だ。
実はフィギュアスケート、ここまでロマンチックな演出は、アイスショーでもなかなか観られない。ちょっと大人っぽいおしゃれなグループナンバーなどはよく見るが、こんなにかわいらしい恋物語を、しかも現役トップ選手で見られるとは思わなかった。またこれを演じるのが、誰からも愛され、どこからみてもおとぎ話の王子、王女のようなふたりのスケーター。あまりに「はまっている」ふたりの競演に、リハーサルでは見守る出演者たちも大盛り上がりで、「もう、キスしちゃえよ!」の声が盛大に飛んでいたとか。 バトルが浅田真央を抱きかかえるフィニッシュのポーズには、どの回でも会場を揺るがすような大歓声が沸き起こった。 詰め掛けたたくさんの「真央ちゃんファン」のちびっ子はもちろん。あらゆる世代のスケートファンが、ショーとしてのフィギュアスケートの楽しさを、この夢見心地のフィナーレで味わえたのではないだろうか。
こうした遊び心たっぷりの演出に、誰よりもスケーターたちがのりのりだったのにも、わけがある。 出演者同士がより親しく、より心地よく公演期間を過ごせるよう、浅田姉妹を案内人として海外ゲストを名古屋名所めぐりに連れ出したり、楽屋にプリクラの機械を置いて海外勢と日本選手たちが話をするきかっけをつくったり、そんな工夫もたくさんされていたそうだ。 こうした小さな心遣いこそが、スケーターをリラックスさせ、ステージに向かうテンションを上げ、ショーの醸し出す雰囲気にそのまま繋がっていったのだ。
オフシーズン、日本各地で開催されるアイスショー。 選手たちが競技で活躍し、フィギュアスケートが盛り上がれば盛り上がるほど、その数は増えていく。そして数が増えれば増えるほど、アイスショー同士が競うようにどんどんレベルを上げ、質の高いステージを私たちに提供してくれる。 競技として注目を集めるだけでなく、スポーツの枠を超え、エンターテイメントとしても日本のフィギュアスケートが花開きつつある――今は、そんな幸せな時代なのかもしれない。
photo/Masami Morita text/Hirono Aoshima
2008年08月06日
2008 フィギュアスケーター・オブ・ザ・イヤー 投票結果発表 1位~20位
1位 浅田真央(女子シングル 中京大中京高校) 4476ポイント 2位 髙橋大輔(男子シングル 関西大学) 1764ポイント 3位 中野友加里(女子シングル 早稲田大学) 1045ポイント 4位 安藤美姫(女子シングル トヨタ自動車) 453ポイント 5位 ジェフリー・バトル(男子シングル カナダ)253ポイント 6位 キム・ヨナ(女子シングル 韓国) 128ポイント 7位 テッサ・ヴァーチュー&スコット・モア(アイスダンス カナダ) 110ポイント 8位 小塚崇彦(男子シングル トヨタ自動車) 104ポイント 9位 ジョニー・ウィアー(男子シングル アメリカ) 94ポイント 10位 武田奈也(女子シングル 早稲田大学) 63ポイント 11位 カロリーナ・コストナー(女子シングル イタリア) 47ポイント 12位 村主章枝(女子シングル エイベックス) 42ポイント 13位 太田由希奈(女子シングル 法政大学) 29ポイント 14位 イザベル・デロベル&オリビエ・ショーンフェルダー(アイスダンス フランス) 27ポイント 14位 鈴木明子(女子シングル 邦和スポーツランド) 27ポイント 16位 ステファン・ランビエール(男子シングル スイス) 24ポイント 17位 トマシュ・ヴェルネル(男子シングル チェコ)22ポイント 18位 ブライアン・ジュベール(男子シングル フランス) 20ポイント 19位 ジョアニー・ロシェット(女子シングル カナダ) 17ポイント 20位 サラ・マイヤー(女子シングル スイス) 16ポイント
*投票者ひとりにつき4選手まで投票可能。「最も輝いていたスケーター1名」への投票を3ポイント、「輝いていたスケーター3名まで」への投票を各1ポイントで集計しています
*日本選手の所属は08年3月時点のものです
photo/Masami Morita (全日本選手権女子シングル表彰式)
2008年08月01日
2008 コーチ・オブ・ザ・イヤー 推薦コメント(1)1位~4位
1位 ラフェアル・アルトゥニアン 94ポイント 「浅田真央、ジェフリー・バトルの世界選手権優勝に一番かかわった人物だと思う」 「(バトル選手がインタビューで)事情があってワールドに彼は来れなかったと言っていましたが、バトル選手・浅田選手という教え子2人の優勝は、ラファエルコーチのこれまでの指導の賜物といっていいと思います」 「残念ながら浅田選手とは師弟関係を解消してしまいましたが、今回の男女の世界チャンピオンを生み出した一つの要因は間違いなく彼の存在だったと思います」 「このコーチについた代表的な選手も山あり谷ありの劇的なシーズンでしたが、ラファエルコーチにとっても波瀾万丈のシーズンだったと思います。しかも、世界選手権で男女シングルの金メダリストが教え子だったにも関わらず、そのキスクラに座ることができなかったなんて……最後の最後にどんな思いをされたのかと考えると、胸がいっぱいになってしまいます」 「世界選手権の覇者は男女とも彼のコーチを受けている。なのに、どうして晴れの舞台に現れないんだ! 何かしらお礼の気持ちを伝えたい! この賞とか……」
2位 佐藤信夫 65ポイント 「教え子の中野選手・小塚選手が世界選手権でともに好成績。やはり、ここぞという時の安定感が、ベテランコーチだなと感じました」 「国外のコーチが賞賛されがちですが、日本の恵まれないリンク事情、環境の中で、ワールドにふたり送り込んだ佐藤ご夫妻はやっぱりスゴイと思います。コーチ選定で悩んでいる選手を見てから佐藤ご夫妻に大事に育てられている中野・小塚選手を見ると、なんだかホッとします」 「世界選手権での中野選手や小塚選手の堂々とした演技、清々しさや真面目な受け答えなど、スケーティングはもちろんですが、精神的な部分での教育もシッカリなさってるんだな~と思いました」 「長年コーチをしていらして、毎年大きな大会へ選手を派遣できる指導力の確かさを感じます」 「世界選手権でのキス&クライで点数の低さにブーイングが起こる中、中野選手ともども嬉しそうな表情だったこと。最高の演技ができた選手を温かく迎える気持ちが素敵だと思いました」
3位 ニコライ・モロゾフ 46ポイント 「一番の推薦理由は髙橋君にヒップホップをさせたこと。リッポン君をジュニアチャンピオンに導いたこと」 「技術だけでなくメンタルな面でもとても選手を上手に指導していると思う。情熱を感じる」 「昨シーズンに引き続き、髙橋、安藤を成長させてきたから。安藤は悩んでいたようだけれど、全日本での素晴らしい復活はやっぱりニコライのサポートがあったからこそ可能だったと思う」 「アダム・リッポンもジュニア選手権で優勝に導いたし、ここまで選手に付き添い、親身に指導、そして結果を出すコーチはいない」
4位 タチアナ・タラソワ 43ポイント 「コリオグラファーの立場にも関わらず、あどけなさの残る浅田選手の演技に見事『女性らしさ』を加えました。殿堂入りはさすがです」 「久々に魔法を使ったから! タラソワさんのフィギュアスケートへの情熱と、選手の能力を開花させる力は本当に尊敬します」 「真央ちゃんに、可憐さと美しさという武器を与えてくれた。あんな短時間で素晴らしい選手に育ててくれて、大感謝です!!」
*写真上は07年イタリア全日本合宿での佐藤信夫コーチ(右)と、ともに小塚崇彦を指導した小塚嗣彦コーチ
2008年07月30日
2008 コーチ・オブ・ザ・イヤー 投票結果発表
1位 ラフェアル・アルトゥニアン (浅田真央、ジェフリー・バトル) 94ポイント 2位 佐藤信夫 (中野友加里、小塚崇彦) 65ポイント 3位 ニコライ・モロゾフ (安藤美姫、髙橋大輔、村上大介、アダム・リッポン、リード&リード) 46ポイント 4位 タチアナ・タラソワ (浅田真央、アンドレイ・グリアゼフ) 43ポイント 5位 長光歌子 (髙橋大輔、村上大介) 18ポイント
6位 リー・バーケル(ジェフリー・バトル、織田信成) 13ポイント 7位 ガリーナ・ズミエフスカヤ(ジョニー・ウィア) 7ポイント 8位 ブライアン・オーサー(キム・ヨナ) 6ポイント 9位 マリーナ・ズウェア(ヴァーチュー&モア、デイビス&ホワイト、ベルビン&アゴスト) 5ポイント 9位 イゴール・シュピルバンド(ヴァーチュー&モア、デイビス&ホワイト、ベルビン&アゴスト) 5ポイント
*投票者ひとりにつき1コーチ投票可能。1票1ポイントで集計しています *()内は07-08シーズンの主な指導スケーター(タチアナ・タラソワは主に振付け指導を担当)
ニコライ・モロゾフが2年連続で受賞してきたコーチ・オブ・ザ・イヤー。 今年はジェフリー・バトル、浅田真央と、ふたりのチャンピオンを育てたラフェアル・アルトゥニアンが選ばれた。これで3年連続ロシア系コーチが受賞。日本選手のコーチに票が集まっているにもかかわらず、ベスト10中6人がロシア系という点にも驚く。 高い実績を誇る各コーチたちだが、今シーズンオフには生徒たちの大きな移動が相次いだ。 浅田真央はアルトゥニアンの元を離れ、タラソワ門下へ。モロゾフ門からは髙橋大輔が離れ、代わりに、村主章枝とバーケルの元を離れた織田信成が入った。ウィアーと良好な関係を築いていたズミエフスカヤの元には、新たにランビエールが入門。さらにアイスダンスでも、ズウェア&シュピルバンドの教えを長く受けてきたベルビン&アゴスト組がリニチュク&カルポノソフの元へ……。 師弟関係の地図が大きく塗り変わる新シーズン。来年のコーチ・オブ・ザ・イヤーは、さらにドラマチックな結果になるのだろうか。
photo/Sunao Noto text/Hirono Aoshima *写真は全日本選手権にて。アルトゥニアンコーチ(右)と浅田真央、アシスタントのカナエバコーチ
2008年07月28日
2008 コスチューム・オブ・ザ・イヤー 投票結果発表 1位~20位
1位 浅田真央 FP 『幻想即興曲』 (四大陸&世界選手権バージョン) 151ポイント
2位 浅田真央 SP 『ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジア』(グランプリシリーズバージョン) 116ポイント
3位 高橋大輔 SP 『白鳥の湖』 107ポイント
4位 安藤美姫 FP 『カルメン』 76ポイント
5位 浅田真央 EX 『So deep is the night』 59ポイント
6位 浅田真央 SP 『ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジア』(四大陸&世界選手権バージョン) 58ポイント 7位 中野友加里 FP 『スペイン奇想曲』 55ポイント 8位 キーラ・コルピ SP 『勝利』 41ポイント 9位 浅田真央 SP 『ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジア』 (全日本選手権バージョン) 40ポイント 10位 カロリーナ・コストナー SP 『ライダーズ・オン・ザ・ストーム』 38ポイント 10位 サラ・マイヤー SP 『パッチアダムス』 38ポイント 12位 トマシュ・ヴェルネル FP 『グリーン・ディスティニー』 35ポイント 13位 高橋大輔 FP 『ロミオとジュリエット』 32ポイント 14位 カロリーナ・コストナー FP 『ドゥムキー』 27ポイント 15位 カー&カー OD 『スコットランドダンス』 23ポイント 16位 ステファン・ランビエール FP 『ポエタ』 20ポイント 17位 太田由希奈 FP 『アランフェス協奏曲』 18ポイント 18位 中野友加里 EX 『アリア』 17ポイント 19位 浅田真央 FP 『幻想即興曲』(グランプリシリーズ&全日本バージョン) 16ポイント 19位 安藤美姫 SP 『サムソンとデリラ』16ポイント
*投票者ひとりにつき3着まで投票可能。1票1ポイントで集計しています
photo/ Masami Morita *写真は世界選手権での「幻想即興曲」
2008年07月26日
2008 プログラム・オブ・ザ・イヤー 推薦コメント(1) 1位~6位
2008プログラム・オブ・ザ・イヤー、投票者の皆さんから寄せられた推薦コメントの一部をご紹介します。思わず昨シーズンのプログラムを見返したくなるようなたくさんのコメント、ありがとうございました。
1位 髙橋大輔 SP 『白鳥の湖 ヒップホップバージョン』 (ニコライ・モロゾフ) 320ポイント 「これをなくして今シーズンは語れないくらい、最高のプログラムです。大輔君にしか滑れないだろうと思います。そういうプログラムを待っていました。一度、生で見てみたいです」 「初めて見たときは、『これが人間わざか!』と、本当にびっくりしたし、その後も何度見ても飽きるどころか見るたびに輝きを増していきました」 「今季一番の話題作。競技会のはずが、いつの間にやらその場がショーに化けてしまっている、恐るべきプログラム」 「まさに今季の『事件』。モロゾフ振り付けのものは今季はこれが一番良かった。もちろん、髙橋選手の良さである『踊り心』を十分引き出している。あんなにお客の沸くSPは見たことがない」
2位 浅田真央 SP 『ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジア』 (タチアナ・タラソワ) 270ポイント 「まず、映画のサントラを聞いて真央ちゃんが滑る姿が目に浮かんだ。日米対抗で初めて見た時、2時間の映画が2分50秒で表現されているように感じられた。タラソワ、天才!」 「新しい浅田選手を見事に表現したショートプログラム。ストレートラインステップの素晴らしさは、まるで不死鳥が力を得て飛び立つさまをあらわしているようで、見ていて自然と涙がこぼれる」 「嵐の海を渡る一羽の鳥のようです」 「また新たな真央ちゃんがのぞけたプログラム。悲しげながら情熱的で、大人の魅力にあふれていました」
3位 浅田真央 FP 『幻想即興曲』 (ローリー・ニコル) 142ポイント 「浅田選手の耳の良さ、動きの美しさ、ステップの細かさがピアノの旋律や曲の雰囲気と見事に調和していて、『これが曲を表現することなのか……』と、何度もため息が出ました」 「3Aや3回転‐3回転などの大技を取り入れながら、涼しい顔で高密度のステップを踏んでいく姿に、もうほとんど圧倒されました。よく使われる音楽ですが、昨季のノクターンを継承する、彼女らしいプログラムに完成したと思います」 「曲に合わせてステップが変わっていくのが良かった。シーズン後半では、少しずつ振り付けを変えていて、『即興曲』の名の通り自由で、見ていておもしろかった。」
4位 中野友加里 FP 『スペイン奇想曲』 (マリーナ・ズウェア) 93ポイント 「ワールドでのステップの美しさが忘れられません。この日に向けてかなり練習して、レベルアップしたきたのでしょうね」 「歯切れの良い曲想と中野選手のシャープな動きがとてもマッチしていて、見ていて気持ちよかった」 「第四楽章から始まり、最後まで流れをとぎれせないすばらしい音楽構成と振り付けでした。特に音楽の盛り上がりに呼応する冒頭のトリプルアクセル、最後のドーナツスピンは見事でした」
5位 安藤美姫 FP 『カルメン』 (ニコライ・モロゾフ) 72ポイント 「カルメンは誰にでも踊れる曲ではない。安藤はそれを見事に安藤の曲として演じた」 「不調のなか、怖いほどの気迫と表現、技術。ともにすばらしいものでした」 「情熱と酷薄さの両面を持つ魅惑的な悪女を、安藤選手ならではの力強いスケーティングで表現した名プログラム。全日本選手権でのパーフェクトなカルメンは、今シーズン一番感動した演技でした」
6位 ヴァーチュー&モア FD 『シェルブールの雨傘』(イゴール・シュピルバンド&マリーナ・ズウェア) 58ポイント 「本当に、一遍の小説か映画のようでした。難しいリフトなどもこなしながら、流れが全く途切れない、素敵なプログラム」 「世界選手権で一番素晴らしかった。高い技術が必要なのにそれを感じさせない流れるようなスケーティングが秀逸で、ふたりの雰囲気にピッタリ合ったプログラムだと思った」 「まるで二人が歌っているような情感たっぷりな演技をNHK杯で生観戦し、涙が出るくらい感動した」
photo/Masami Morita(全日本選手権での中野友加里選手「スペイン奇想曲」)
2008年07月24日
2008 プログラム・オブ・ザ・イヤー 投票結果発表 1位~20位
1位 髙橋大輔 SP 『白鳥の湖 ヒップホップバージョン』 (ニコライ・モロゾフ) 320ポイント
2位 浅田真央 SP 『ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジア』 (タチアナ・タラソワ) 270ポイント
3位 浅田真央 FP 『幻想即興曲』 (ローリー・ニコル) 142ポイント
4位 中野友加里 FP 『スペイン奇想曲』 (マリーナ・ズウェア) 93ポイント
5位 安藤美姫 FP 『カルメン』 (ニコライ・モロゾフ) 72ポイント
6位 ヴァーチュー&モア FD 『シェルブールの雨傘』(イゴール・シュピルバンド&マリーナ・ズウェア) 58ポイント 7位 髙橋大輔 FP 『ロミオとジュリエット』(ニコライ・モロゾフ) 43ポイント 8位 浅田真央 EX 『So deep is the night』 (ローリー・ニコル) 38ポイント 9位 ステファン・ランビエール FP 『ポエタ』 (アントニオ・ナハロ) 31ポイント 10位 ジェフリー・バトル FP 『アララトの聖母』(デイヴィット・ウィルソン) 21ポイント 11位 キム・ヨナ FP 『ミス・サイゴン』(デイヴィット・ウィルソン) 20ポイント 11位 カー&カー OD 『スコットランドダンス』(エフゲニー・プラトフ) 20ポイント 13位 デロベル&ショーンフェルダー FD 『ピアノレッスン』(ヨルマ・ウォティネン) 17ポイント 14位 ジョニー・ウィアー SP 『ユノーナとアヴォーシ』(ファイエ・キタリエワ) 15ポイント 15位 太田由希奈 FP 『アランフェス協奏曲』(デイヴィット・ウィルソン) 14ポイント 16位 ジェレミー・アボット FP 『仮面舞踏会、ジャズ組曲他』(トム・ディクソン) 13ポイント 17位 髙橋大輔 EX 『バチェラレット』(宮本賢二) 12ポイント 18位 ジェフリー・バトル SP 『アディオス・ノニーノ』(デイヴィット・ウィルソン) 11ポイント 19位 カロリーナ・コストナー SP 『ライダーズ・オン・ザ・ストーム』(ローリー・ニコル) 10ポイント 20位 ホフロワ&ノビツキー FD 『禿山の一夜』(アレクサンドル・スビーニン&イリーナ・チュク) 9ポイント 20位 ミライ・ナガス SP 『アイ・ガット・リズム』(ローリー・ニコル) 9ポイント
*()内は振付師 *投票者ひとりにつき3プログラムまで投票可能。1票1ポイントで集計しています
photo/ Sunao Noto *写真は全日本選手権での「白鳥の湖」
2008年07月23日
Sports@nifty フィギュアスケートアワード2008 発表!
今年で3回目となる「Sports@nifty フィギュアスケートアワード」。 PCサイト、携帯サイト合わせ、今回の投票者総数は2557名! 昨年から1000名近くも増え、たくさんのスケートファンの皆さんにご参加いただきました。ありがとうございました。 大変お待たせしましたが、今年も「フィギュアスケーター・オブ・ザ・イヤー」「ジュニアスケーター・オブ・ザ・イヤー」「プログラム・オブ・ザ・イヤー」「コスチューム・オブ・ザ・イヤー」「コーチ・オブ・ザ・イヤー」の5つの賞の受賞者が下記のように決定いたしました。
●2008フィギュアスケーター・オブ・ザ・イヤー 浅田真央(女子シングル・中京大中京高校)
●2008ジュニアスケーター・オブ・ザ・イヤー ミライ・ナガス(女子シングル・アメリカ代表)
●2008プログラム・オブ・ザ・イヤー 髙橋大輔(男子シングル・関西大学) ショートプログラム 『白鳥の湖 ヒップホップバージョン』 (振付/ニコライ・モロゾフ)
●2008コスチューム・オブ・ザ・イヤー 浅田真央(女子シングル・中京大中京高校) フリープログラム 『幻想即興曲』(四大陸、世界選手権バージョン)
●2008コーチ・オブ・ザ・イヤー ラファエル・アルトゥニアン(浅田真央の元コーチ、ジェフリー・バトルのコーチ)
2006年の荒川静香さん、2007年の安藤美姫選手に続き、3代目フィギュアスケーター・オブ・ザ・イヤーは、予想通り世界チャンピオンの浅田真央選手に! コーチ・オブ・ザ・イヤーとコスチューム・オブ・ザ・イヤーも、浅田真央選手が受賞に関わっています。 また、ジュニアスケーター・オブ・ザ・イヤーのミライ・ナガス選手とプログラム・オブ・ザ・イヤーの髙橋大輔選手は、昨年から2年連続での受賞。 特にプログラム・オブ・ザ・イヤーは、2006年の荒川静香さん「トゥーランドット」から、3年連続でニコライ・モロゾフ振付け作品が選ばれました。
投票結果詳細、推薦コメントは追って本特集内で発表いたします。
Photo /Masami Morita(世界選手権フリーでの浅田真央選手)
2008年06月30日
ザ・アイスで真央&ジェフが競演! 音楽を募集中
ドリームオンアイスでは赤と黒の衣装をまとい、タンゴで新境地を見せてくれた浅田真央選手。世界チャンピオンとして迎えたアイスショーシーズンも、いつもとかわらない真央スマイルで、ファンを楽しませてくれている。 来る7月26日から始まる名古屋・モリコロパークでのアイスショー、「ザ・アイス」でも、浅田真央ファンお楽しみの仕掛けが盛りだくさん! まずは姉の舞選手と姉妹競演するナンバー「Dream Girls」が披露される予定だ。こちらの振り付けは宮本賢二さん。「Dream Girls」といえば、昨年のザ・アイスで姉妹そろってフィナーレで踊ったナンバー。お客さんだけでなく、浅田姉妹も楽しくて仕方がなかったというあの雰囲気を、今年、もう一度味わえそうだ。 そしてすでに話題になっているのが、カナダのジェフリー・バトルとの世界チャンピオン競演! 昨年も安藤美姫&高橋大輔など、めったに見られない組み合わせでファンを驚かせたフィナーレで、今年はふたりの世界チャンピオンがコラボレーション! ザ・アイスでは現在、真央&ジェフ、夢のペアに滑ってほしい楽曲を募集中。「ジャンルは気にせず、ぜひいろいろな音楽をリクエストしてください」と、振付担当の坂上美紀さん。
応募は官製はがきに郵便番号・住所・氏名・年齢・「リクエスト曲名・アーティスト」を明記し、 〒460-8612 『中京テレビ ザ・アイス リクエスト係』 宛てに。締め切りは7月4日なので、お早めに。
応募の詳細、公演概要、出演選手などの情報は下記のサイトにて。 真夏の氷上祭典2008 THE ICE公式サイト
ふたりの現世界チャンピオンだけでなく、エヴァン・ライサチェク、ブライアン・ジュベール、サーシャ・コーエン、ダン・ツァン&ハオ・ツァン、そして安藤美姫など、世界のメダリストが集結! さらに中野友加里、長洲未来、小塚崇彦と、これからチャンピオンを狙うメンバーたちも元気な姿を見せてくれる。 まだ2年目のザ・アイスだが、出演メンバーが豪華なだけでなく、インタビューコーナー、華やかなオープニングやフィナーレ、選手たちとお客さんが一緒に踊るダンスなど、氷上と客席が一体となって楽しめるアイスショーだ。「見に行く」というより「参加する」アイスショー。まずは音楽リクエストに応募し、ショーを作り上げる、その感覚を体験してみよう。
photo/Sunao Noto text/Hirono Aoshima
2008年03月27日
エキシビション終了後、浅田真央選手コメント「部屋の掃除もしなきゃ!」
――世界女王となって初の演技、いかがでしたか? 真央 一番になると、すごく最後の方で滑るんですよね。いつも滑る前はエキシビションでも緊張するんですけど、「優勝したし、あんまり恥ずかしい演技はできないな!」って、いつもよりすごく緊張しました。でも今日はお客さんも盛り上がってくれたし、ああ、優勝したんだなーって。気持ちを確認しながら滑りました。
――ジャンプの失敗、ちょっと惜しかったですね。 真央 失敗するかなあ、と思ってたら、ほんとに失敗しちゃいました(笑)。フリーで転んだところは大丈夫です。痛みはもうないし、意外とスムーズに動けました。
――昨日は男子の試合も見に来ていましたね。 真央 男子のフリー、見ました! 女子の方が早く終わる大会は久しぶりだったので、男子の試合をゆっくり見るのも久しぶり。自分が滑るみたいにに緊張して、見ていてすごく力が入っちゃいました。
――これでやっと、世界選手権も終わりました。 真央 はい、エキシビションが終わらないと試合も終わった気がしないんです。だからこれで、すべて終わりきった! って感じ。今思えば、早かったなって思います。日本に帰るのが楽しみです。日本に帰ったら家でエアロとこまちとティアラに会って、あと、部屋の掃除もしなきゃいけない! それからおいしいもの、食べに行きたいです。
――練習はしばらくお休みできますか? 真央 すぐにジャパンオープンが始まるので、あんまり休めないです。でもしばらくはリラックスしながら、ストレスを感じない練習をしたいと思います。
――少し早いですが、来シーズンに向けて、力を入れていきたいところは? 真央 まずジャンプ、特にルッツで加点をもらえるように、質を上げていきたいです。もちろん他のジャンプも。もうひとつ、次のシーズンは表現や表情の面をがんばってみたいです。ローリーにもタチアナにも(振り付け師のローリー・二コルとタチアナ・タラソワ)言われてるんですけど、表情は鏡を見たりして、自分でも研究して。ジャンプの質と表情、そのふたつで上手くなることを目標にしたいです。
――コーチは未定とのことですが、振付師はどうですか? 真央 ローリーとタチアナ、両方にお願いするのはたぶん変わらないと思います。今シーズンは、タチアナの作ってくれたショートの方が難しかったかな。自分のイメージにはない感じ、大人っぽいスローな曲で最初は試合でも苦戦したし。ローリーの作ってくれたフリーはテンポの速い曲で、得意な音楽です。楽にプログラムになじめました。
――これで、オリンピックまであと2年、となりましたが。 真央 2年、まだまだあるので(笑)。オリンピックまでに毎年毎年、上達できるようにがんばって、オリンピックで最高の演技ができるようになれたらいいなーと思います。
――ところで今日のヘアスタイル、素敵ですよ。 真央 あ、これ、この会場でタダでやってもらいました(スカンジナビウム内にあるメイクアップサロンの宣伝ブース。誰でも無料でセットをしてもらえるサービスがあった)。
――彼(某新聞記者)も真央ちゃんと同じところでセットしてもらったんですよ! 真央 え、本当ですか? 記者の人、ふつうはそういうことしないですよね? えー、すごーい(記者の方を興味深げに見て)あっ! もしかして選手だと思われたのかもしれないですよ!
今シーズンは、世界中どこに行っても浅田真央の人気に驚いた一年だった。 彼女の愛らしさ、純粋さ、素朴さは、どんな精神文化を持った人にも伝わる魅力なのだと、改めて感じる。共同インタビューでも、質問した記者の方にきちんと顔を向けて話してくれるし、がんばって真央ちゃんの記事書くぞ! という気持ちに、みんなをさせてしまうのだ。 photo/Sunao Noto text/Hirono Aoshima *写真はエキシビションオープニング。リボンを持って登場する浅田真央選手
2008年03月21日
女子フリー終了 浅田真央選手コメント「食べたいもの、全部食べます」
――滑り終えた瞬間は、どんなことを考えていましたか? 真央 まずほっとしました。でもアクセルが跳べなかったので……それが悔しかったです。
――ああいったアクセルの転倒の仕方は、よくあるんでしょうか 真央 初めてです、あんなコケ方は。練習でもしたことがないので、すごくびっくりしました。自分でもどうして転んでしまったのかわかりません。一瞬のことなので……。でも、踏切がすっぽ抜けたので、踏切が原因だと思います。
――今朝は公式練習の曲かけでも、トリプルアクセルは失敗していましたね。 真央 曲をかけると音楽を聴いてしまって、ジャンプに向かう気持ちに迷いが出る……そんなことはあるかもしれないです。でも今日のフリーは跳ぶしかない! って思ったから、迷いはなかったのに、こけてしまいました……。
――失敗はありましたが、見事初優勝ですね。 真央 それはすごくうれしいです。すごくいい思い出になると思います!
――どんなふうに今日の優勝をお祝いしますか? 真央 えーっと、いっぱい食べます(笑)。
――どんなものを? 真央 食べたいもの、全部です。 コストナー ティラミスがおいしいよ、食べるといいよ!
――去年は安藤美姫さんが優勝、今年はあなたが優勝。日本からはなぜこんなに強い女子スケーターがたくさん生まれるのでしょうか。何か秘密はあるんですか? 真央 秘密はわからないけれど……。日本には安藤選手、中野選手の他にも、たくさん素晴らしい選手がいます。世界に出る前に、日本のなかでも刺激し合いながら練習できるから、上達していくんだと思います。
――今回はコーチ不在での世界選手権でしたが、今後はどうするか決まっていますか? 真央 コーチのことは世界選手権が終わってから考えようと思っていました。これからいろいろ決めていくことになると思います。
メダリスト3人がそろった記者会見でも、たくさんの質問が浅田真央に寄せられた。チャンピオンとしてふさわしい力を持ちながら、05年のグランプリファイナル優勝以来、世界ジュニア、ファイナル、世界選手権と、大きな大会の金メダルを取り逃してきた真央選手。やっと誕生した世界女王・浅田真央なのだ。
photo/Sunao Noto text/Hirono Aoshima
2008年03月20日
SP終了後、浅田真央選手コメント
「今日はジャンプは良かったと思います。フリップは降りた時に回りすぎそうになって、次のループが危なかったんですけど、うまくいって。終わった瞬間は、ミスなくできて良かったなー、と思いました。
ショートに対するプレッシャーはなかったです。プレッシャーとかじゃなくて、うーん、自分の中には『去年の失敗を取り戻したい!』って気持ちがありました。だから『行くしかない!』って思って。
でも、スピンでレベルが取れなかったのが、すごく悔しいです。自分では回転数、数えたつもりだったんですけれど……。ジャンプは良かったのにスピンがダメだったから、採点すると70点か60点……。 コストナーの演技は見ていないけれど、自分がレベルが取れていなかったので、2位になったのはそのせいだと思います。
シーズンベストスコアも出たけれど、スピンでレベルが取れてたら、もっと高く出たのかなあ。でもシーズンベストが出せたことは、明日につながるんじゃないかな。
1位とは点数もすごく僅差なので、フリーへの気持ちも去年に比べたら楽だとと思います。明日はもうエレメンツひとつひとつ、取りこぼししないように。スピンのレベルは、大丈夫です。しっかり考えて回れば、それでいいので。
コーチの先生はいないけれど、連盟の方が先生と同じように見てくださるので、特に問題はないです。試合の2週間前から連盟の方と一緒に練習してきたし、いつもと変わりなくできたと思います」
SP終了後は、スピンのことをさかんに気にしていた浅田選手。実はスパイラルシークエンスもレベル1だったのだが、「これから映像を見て、明日はレベルを取れるようにがんばりたいです」とのこと。一晩で対策を取るのは大変だが、レベルを気にしすぎないで、のびのびと滑ってくれれば!
text/Hirono Aoshima
2008年03月20日
女子シングルSP終了、浅田真央2位
コンビネーションと単独ジャンプ。前半のふたつのジャンプが無事に決まったとき、「あ、これで浅田真央の優勝は決まったかもしれないな」と思った。 それほどにイエティボリでの浅田真央は調子が良く、それほどにSPに向かう彼女はナーバスに見えた。 SPさえ無事終えてくれれば……。そんな思いが、見守る人々、特に今シーズンの彼女をよく知る日本のファンには大きかっただろう。
演技が始まり、ジャンプを踏み切る刹那にも、彼女の緊張感が矢のように見ている人に突き刺さるほど。こんなにも緊張していたら、普通のスケーターならば跳躍のタイミングをを乱しているだろう、と思うほど、強張った表情でジャンプに向かっていく。 久しぶりにクリーンにSPを滑った全日本選手権後に、「ショートを克服できました!」と笑っていたけれど、世界選手権、グランプリシリーズ、ファイナルと立て続けに失敗したSPへの苦手意識は、やはり相当のものだったのだ。 でも浅田真央は今夜、暗く長かったトンネルを、きちんと自分の力で抜けだした! ふたつのジャンプをきっちり跳び、特にトリプルフリップ-トリプルループは、ただの3回転-3回転というだけでは足りないほど、高さがあって華やかな、浅田真央本来のジャンプ。 この、最大の難所を越えたのだから、もう浅田真央は大丈夫だ。 あとは長い脚を思い切り上げてビールマンスピンを回り、スパイラルもステップも、堂々と思うとおりに見せればいい。 彼女自身も、心の底からうれしかったのだろう。「あとは今の真央を出すだけでいいんだ!」、そんないきいきした気持ちが、見ている人々みんなに伝わってくる。特に印象的だったのは鳥の羽ばたきをイメージしているというストレートラインステップのモーション。ほんとうに鳥のような自由さで舞う姿を持て、もう、こんなふうに腕を動かせること、こんなふうに体を波立たせられること、これができること自体が、浅田真央の宝物だ、と思った。いや、彼女だけの宝物ではなく、フィギュアスケートを愛する者みんなにとって、浅田真央のスケートは宝物だ。
間違いなく今季最高の演技だったショートプログラム。 しかし、スパイラルシークエンスのレベル1、ルッツのエッジエラーなどがあって、わずかな点差で順位はコストナーに次ぐ2位。 この結果に対しては、海外のメディアも「マオは点数がおかしいとは思わないか?」と彼女に問うたほど、ちょっとした物議をかもしだした。 演技後には明るかった彼女の表情も、ちょっとだけ「2番なのか……」とがっかりした色を見せてる。 せっかく鬼門のSPを乗り越え、彼女自身も自信をつけたはずなのに、厳しいレベル判定でちょっと水を差されたような気持ちが、正直に言えば少しした。
でも、できればレベルを取りこぼししたことよりも、SPが無事終わったことだけを考えて。あとは得意のフリーだということだけ、考えて。 ただ好きなように、浅田真央自身が滑りたいように、フリーは滑ってほしいと思う。 待っているのは、様々な思いと経験を経て作り上げた今の浅田真央を、世界中の人に見せる、最後の舞台、とっておきの舞台なのだから。
photo/Sunao Noto text/Hirono Aoshima
2008年03月19日
女子シングル開幕直前 浅田真央はコーチ不在でどう戦うか?
「スケートのコーチはね、技術を教える指導者であるともに、心理学者でもなければならないんですよ」 そう語ってくれたのは、日本人初の世界選手権メダリストで、現在はコーチとして多くの選手を育成している佐野稔さんだ。 「技術なんてのは一度教えて選手ができるようになれば、そこまで。大事なのは試合で、緊張してガチガチになっている選手たちに、どう声をかけてあげられるか、なんです」 佐野稔コーチのリンクサイドでのひとこと。話題になったのは、03年冬季アジア大会で荒川静香選手が優勝した時のことだ。ここで彼女は3回転-3回転-2回転というビッグジャンプを成功させたのだが、直前に佐野コーチかけた言葉はこうだ。 「遊んできなよ!」 練習では軽々と難しいジャンプを跳んでしまう荒川さんが、本番ではなかなか本来の力を発揮できないでいたころ。「遊んできなよ!」のひとことが、彼女の心を楽にし、フリーでは会心の演技。金メダルをも呼び込んでしまった。 また、田村岳斗さんにかけたこんな言葉も印象的だ。 「トリプルアクセルは跳ばなくてもいいぞ!」 選手時代、4回転はひとつのプログラムで2回決められる力をもっていながら、トリプルアクセルはどうしても苦手にしていた田村さん。試合前はいつもアクセルに大きなプレッシャーを感じてきたという。でも佐野コーチのこの言葉で、すっと気持ちが軽くなり、トリプルアクセルの代わりに4回転-3回転-2回転の高難度コンビネーションを着氷! 史上数人しか跳んでいないジャンプの成功は、「トリプルアクセルは跳ばなくてもいいぞ!」、そんな言葉をはずみに生まれたのだ。 佐野稔コーチは、試合前の選手にかけた言葉を、大切にノートに記録してあるという。メンタルサポートの難しさは、何年やっても変わらないから、と笑って教えてくれた。
コーチの仕事、特に緊張感いっぱいの、試合に向かう選手の精神的なケアは、どんな優秀なコーチでも完璧にこなせるものではない。選手との相性だってあるだろう。 ラファエル・アルトゥニアンは素晴らしいコーチだ。アメリカにわたってから、浅田真央のスケーティングは格段に磨かれたし、「ダバーイ!」(行けー!)というアルトゥニアンの熱い言葉は、彼女の背中を強く推してもくれた。 でもジュニアの注目株から一気に世界のトップスケーターに上りつめ、どんな大会でも極限の緊張感にさらされてきた浅田真央。彼女は、いちばん気持ちが張りつめているとき、また、ありえないようなミスをして落ち込んでいるとき、日本語で何か言ってくれる人が欲しかったのだ。 その役割を今シーズン担ってきたのは、日本スケート連盟強化部のスタッフたちだ。たとえばトレーナーの加藤修さん。浅田真央はめったに、「誰かがこう言ってくれたから」という類のことは、インタビューでは言わない。そんな彼女が、06年世界ジュニアでキム・ヨナに敗れた時に語ったこんな言葉が、耳に残っている。 「人間は機械じゃないんだから。時にはうまく動かないときだってあるよ、って加藤先生が言ってくれたんです。それでちょっと、元気になったかな」 07年グランプリファイナルの公式練習の時も、浅田真央のリンクサイドにいつも加藤トレーナーが立っていることについて、彼女に尋ねてみた。 「加藤先生がいてくれると、真央が安心するから。だからいてもらってます」 四大陸選手権にも、いつものように加藤修トレーナーが来ていることを確認して、私は安心した。彼をはじめ、顔なじみの連盟スタッフたちがかけてくれる言葉があれば、世界選手権の浅田真央も大丈夫だろう。
チームメイトだって、ともに競いながらもきっと浅田真央の支えになってくれる。 これも06年世界ジュニアでの出来事だが、男子シングルで優勝した小塚崇彦が、表彰式後に記念のブーケを観客席に投げた。このとき「真央、もらいなよ!」と声をかけたのはチームメイトの澤田亜紀や武田奈也。小塚崇彦もしっかり浅田真央に向けて、勝利の花束をトスしてくれた。銀メダルで落ち込んでいる彼女に、チームメイトみんなで見せた気遣いだ。 「四大陸メンバーも、真央に美姫、崇彦と、いつもいっしょに中京大で練習してる仲間が多かったんですよ。だから普段の練習みたいな雰囲気で、オフの時間からリラックスできたかな」とは、四大陸選手権での中庭健介選手の言葉。 練習リンクを名古屋に戻したことで、そんな仲間たちとの親しさも、さらに増したことだろう。
来シーズンの彼女のコーチがどうなるかはわからないが、技術指導のみならず、精神面で彼女を支えられるような人がうまく見つかればいいな、と思う。安藤美姫の場合は、オリンピック後、モロゾフコーチ、門奈コーチと、信頼できる指導者に恵まれ、着実に成果を上げてきた。 浅田真央にも、そんな人が見つかるのだろうか。 あるいは、それより先に、彼女が自分の力で強くなってしまうだろうか。
photo/Sunao Noto text/Hirono Aoshima *写真は全日本選手権記者会見にて
2008年03月19日
女子SP前日、浅田真央選手コメント
――ショートプログラムの滑走順、抽選ではちょっとアクシデントがありましたね。 真央 そうですね。結局45番目ですけど、グループの4番目なので、6分間目一杯練習しても休憩ができる順番。いいんじゃないかなーと思います。でも滑走順のことも含めて、ショートのことは気にしないで、自分の演技をしたいです。っていうか、気にしてないです(笑)。でもすごくショートプログラムは肝心な試合だと思うし、フリーのことよりも今はとりあえずショートのことを。集中して滑りたいと思います。去年の世界選手権では、してはいけない大きなミスをしてしまったので……しっかり考えていきたいです。
――公式練習を見ていても、調子はいいようですね。 真央 すごくいいです。なので、これから本番までの間にジャンプをもう一回確認して、このまま調子を落とさずに行けるようにしたいな。
――衣装はこれまでのもので滑りますか? 真央 ショートは全日本で着たものと同じです。フリーはちょっとだけ変えたんですけど……たぶんどこが変わったかわかんないと思うんです(笑)。見た感じの変化はちょっとだけかから……。デザインは前のと一緒ですけど、部分的に生地が良く伸びるように、体にフィットするようにしてもらいました。でもどこが変わってるか、すごくよく見たらわかるから……見てみてください(笑)。
ショートプログラムといえば、やはり思い出してしまう昨シーズンのジャンプミス。そしてシーズン前半にも続いた失敗。「気にしていません」という言葉を聞くと、かえって「気にしているのでは?」と心配になってしまう。「気にしていません」も「調子がいいです」も、我々への返答というより、自分自身に言い聞かせている言葉のように聞こえた。
2008年02月17日
女子フリー終了、浅田真央優勝&安藤美姫3位 風とカルメン(2)
対する安藤美姫の演技は、浅田真央とは面白いほど対照的に、人間的だった。 滑り出しのマイム、ごくごくナチュラルな投げキッスの色気! なんだか同性の私でもくらくらしそうなほどだ。 うん、今日の彼女は、気持ちが入っている! 3−3、4回転と、冒頭の大事なジャンプにミスが続いても、大丈夫、彼女の真骨頂である滑りの力強さはしっかりキープしている。 「4回転が回転さえできなかったことが一番くやしいけれど……最初のふたつのジャンプ以外はきちんとできました! いつもの練習で自分のものにしたことを出せるよう、しっかり集中していたから」 その言葉通り、後半は次々決まるジャンプも、気持ちをたっぷり込めてパーンと足をあげるスパイラルも、軽やかで、かつ色っぽさに満ちたステップも、何をしてもソウルのお客さんが沸いた。 特に安藤美姫独特の、凛々しくかまえてソリッドに跳ぶジャンプ! このジャンプこそが、今日はカルメンの熱い恋心を表しているようで、なんだか感動してしまった。一流のジャンパーは、感情も、伝えたい何かも、ジャンプで表現できる。ジャンプでプログラムを彩ることさえもできるのだ。 きっとこういう安藤美姫を、ソウルのお客さんは見たかっただろう。安藤美姫自身も、見せたかっただろう。 これからが見せ場のステップ、というその瞬間には、「見ててね!」という彼女の声が聞こえたような気がした。「見ててね!」——これは、ちょっと甘えん坊の彼女が、恋人に語りかけるような言葉。そうか……きょうの安藤美姫はきっと、誰か大切な人に、この「カルメン」を見てほしくて滑っているのかもしれない。だからこんなに人間的で、こんなに女っぽくて、こんなにかわいらしいのだ。
おそらく、少なからぬ数のソウルのお客さんを恋に落として。 安藤美姫のカルメンは、最後のレベランスさえも、大好きな人にするようにキュートに決めて、オウリヌムリのリンクを去って行った。
実に対照的だった日本のふたりの演技、どちらにより心を奪われるかは、人それぞれだろう。 もしどちらかをあげなければならないとしたら、私は今日は、安藤美姫の「カルメン」に軍配を上げたい。 もし浅田真央の演技の風のそよぎのなかに、生き生きした鳥の羽ばたきのようなものが垣間見えたら。少しでも血の通ったものの生命力が感じられたら、また違ったかもしれない。 冷ややかに広がる氷の上で、人の身体がどんなに美しく動くか。それだけではなく、地上ではありえないスピードで疾走しながら、人の心のどんな動きを彼女たちの身体が伝えてくるかを、私はフィギュアスケートで見たいのだ。
リンク入りした時からにこにこと機嫌がよさそうだった安藤美姫と、体力がいつもより無かったという浅田真央。コンディショニングによって、また違うものを見せてくれる時も、もちろんあるだろう。 安藤美姫が恋する心を忘れてただのジャンパーに戻ってしまうことだってまだあるし、浅田真央がはじける笑顔をいっぱいに銀盤に咲かせることだって、またある。 結局、ふたりともまだ、17歳と20歳。 氷上を吹きわたる風も、恋するカルメンも、どちらも発展途上中の、でも確実に素敵な、もっと素敵になりそうな、日本の誇るエースだ。 すでに世界の頂上で戦うトップアスリートで、試合のたびに、メダル、ライバル、ジャンプ対決……と騒がれてしまうけれど、時には彼女たちの年齢や素顔を思い出して。 これからまだまだ、日々成長していくふたりの姿を、ゆっくり楽しみたいと今夜は改めて思った。 私たちも楽しむから、ふたりにも、もっともっと滑ることを楽しんでほしいと。
photo/Takayuki Honma text/Hirono Aoshima
2008年02月17日
女子フリー終了、浅田真央優勝&安藤美姫3位 風とカルメン(1)
トリプルアクセルも3回転−3回転も決めた浅田真央が優勝。 4回転に失敗し、3回転‐3回転も入らなかった安藤美姫は3位。 単純に、ジャンプを中心に今日のふたりを比べればそうなる。 でも、プロトコルの上の数字には出てこない部分、二人の演技の印象の好対照さこそが、今夜は際立っていたように思う。
先にリンクに現れたのは、深いワインレッドの、少し大人びた衣装を着た浅田真央。気品あふれる王女のようにも、貴婦人のようにも見えて、大人になろうとしている今シーズンの彼女にとても良く似合っている。 しかし音楽が始まり、アクセルも3−3もいきなり軽々と決めて見せると、華麗な衣装をまとうその身体は、ほんとうにスケートのために生まれて、スケートのために鍛え上げられたものなのだ、と今更ながらに感じた。 ジャンプだけではない。ロシアのタラソワコーチやバレエの専任教師に仕込まれた、タメの良くきいたメリハリある動き。こうすれば美しく見えるよ、と教えられたとおり、自在に動かせる身体は、天性のリズム感とあいまって、そよ風のように軽々と音楽にのっていく。 そんな今日の浅田真央は——少し、人間ではないもののようだった。 「冷静に、冷静にって考えながら滑りました。冷静にならないとジャンプも失敗してしまうのを知ってるから、焦らず落ち付いて! って思いながら」 本人もそう語るように、感情を極限まで廃して、跳ぶべきジャンプを跳び、こなすべき動きを続ける、何か人間ではない、美しいもの。 演技前には大歓声で彼女を迎えた韓国のお客さんも、大きなジャンプを跳び終えた後は、かたずを飲んで見守っていたように感じる。選手のみなぎるパッションや生命力に同調して、ウォー! と叫びながら見るのではなく、静かに掲げられた一幅の絵を、息を詰めて見守るように。 いや、絵というよりもむしろ、今日の浅田真央の演技が生んだ感動は、風のそよぎや空の青さに心が洗われる、そんな感動に似ていたかもしれない。特に、表情をほとんどたたえず、身体の動きに合わせて時折大きくさまよわせていた視線。それはまさに、潔いほど心を持たない、氷上を吹きわたる風の視線だった。
photo/Takayuki Honma text/Hirono Aoshima
2007年12月31日
全日本選手権女子フリー終了 浅田真央優勝「気持ちの階段」
ショートプログラムで今シーズン初めてノーミスの演技を披露した浅田真央。誰もが「フリーも大丈夫」と思っただろう。しかし最初のトリプルアクセルがシングルになってしまった。「ちょっと消極的になってしまって。もっと気持ちを前に出せばよかったんですけど」
練習ではトリプルアクセルも、トリプルフリップートリプルループのコンビネーションもちゃんと降りている。しかし試合では失敗してしまう。練習でちゃんとできていることが試合でできないのは、技術の問題ではない。浅田真央が言うように気持ちの問題だ。
気持ち。この形の無いものに選手は翻弄される。練習ではできることが試合ではなかなかできない。それは、スケートを始めたばかりの子供でも、世界選手権でメダルを争う選手でも同じだ。できないからこそ選手は悩み、苦しむ。 浅田真央は「何かを変えなければ」と思い、ショートプログラムの衣装を変えた。たったそれだけのことで何が変わるのかと思うかもしれない。でも、気持ちを変えるために、何かをしなければならなかったのだ。気持ちを変えるのには何かきっかけが要る。
フリーではトリプルアクセルをミスしたことがきっかけになった。「トリプルアクセル以外の部分、ジャンプだけじゃなくて全部ちゃんとやろうと思って」気持ちを切り替えて、演技後半のトリプルフリップートリプルループも決めた。これで3回続けて試合で決めたことになる。「今回の試合で良かったことは、ショートプログラムを克服したこと」と語った浅田真央。克服というのはつまり、苦しんできたコンビネーションジャンプを跳べる気持ちを、ようやく持てるようになったということだ。
浅田真央はちゃんと階段を上っている。といってもそれは技術の階段ではなく気持ちの階段だ。技術の階段はかなり上っているが、気持ちの階段は一気には上れない。ファンの頭には、ジュニア時代のミスをしない浅田真央が頭にあるので、完璧な演技を毎回要求されてしまうけれど、この気持ちの部分については成長を見守るしかない。なんといっても、まだ17歳なのだから。
text/Seiho Imaizumi photo/Masami Morita
2007年12月23日
グランプリファイナル2007 エキシビション終了、浅田真央共同インタビュー「ジェラートはコーヒー味」
とにかく楽しそうに、大きな動きでエキシビションナンバー「So deep is the night」を滑った浅田真央選手。泣いたり笑ったりの「真央ちゃん」に、トリノのお客さんもすっかり夢中だ。
――フリーから一夜明けて、グランプリファイナルはいかがでしたか? 真央 ショートプログラムでは初めて経験するようなことが起きて……。二度とこういう事がないように、トリノでのことをこれからに生かしたいです。やっぱり問題は自分の気持ち! 逆にフリーでの巻き返しは、すごく自信になりました。今年はずっとこのパターンで、最後は笑顔で終われてるから、いいのかな、悪いのかな……悪いですね(笑)。
――フリーは高得点も出ましたし、SP次第では総合得点200点超えも狙えそうですね。 真央 そうですね、昨日のフリーは今シーズン一番良かったし……。でもやっぱりショートを完ぺきに滑ることをまず考えたいです。それができたら、得点のことも考えられるかな。
――今日のエキシビションでは、いい笑顔が出ていました。 真央 試合と違って、自分でもすごく良かったと思います。でもステップで失敗しちゃったので、そのぶんダブルアクセルをたくさん跳んでみました(笑)。最後、音楽がちょっと足りなくなっちゃったのは、レイバックスピンのほかにもういっこ、張り切ってスピンを入れちゃったので、そのせいかな。
――トリノで楽しい思い出はできましたか。 真央 どこかに遊びに行ったりはほとんどできなかったんですけど、ショッピングモールでジェラートを食べました。荒川さんがオリンピック前に食べたっていうお店です。ショートの日とフリーの日、2回行ったんですよ。食べたのはコーヒー味!
――ジェラート食べて、元気になって。全日本が目前ですが、これからの予定は? 真央 アメリカで一週間練習してから、日本に戻ります。これからもう一度、スピン、ステップ、スパイラルをチェックして、ジャンプも毎日コンスタントに跳んで。全日本選手権でも3回転-3回転は2回、ファイナルと同じ種類を跳ぶ予定です。
――トリプルアクセルのさらに上のジャンプへの挑戦は、考えていませんか? 真央 うーん、全日本までは時間がないので、やるとしたらその先かな。新しいジャンプは練習を積んで、自分が自信を持てたら入れたいです。トリプルアクセルのコンビネーションも目標。練習でうまくいくようになったら、試合でも跳びたいです!
photo/Dave Carmichael text/Hirono Aoshima
2007年12月16日
グランプリファイナル2007 女子シングル終了 浅田真央2位
起死回生をかけた浅田真央のフリー。ジャンプを次々決めてスローパートに入ったとき、今夜の彼女の動きの優しさ、柔らかさは浅田真央の心そのままだな、と思った。 一度でも浅田真央と接したことのある記者たちは、「真央ちゃん、いい子だよね……」とほんわかした顔をしながら振り返る。いつも笑顔で、一度でも会ったことのある人になら、「あ、こんにちはー!」と旧知の友人のように挨拶してくれる。そんな浅田真央の優しさ、気立てのよさが、今夜のフリーにはそっくりあらわれているな、と思った。 ジャンプだってそうだ。すべての迷いをふっ切ったように跳ぶルッツ、アクセル、フリップ。どれを跳んでもプログラムの流れを決して途切らせない。流れるように助走して、リズミカルにタイミングをとって、氷と戯れるように楽しそうに跳ぶ。まったくの錯覚なのだろうが、「真央ちゃん」の優しい心がこのジャンプを跳ばせているのではないか、そんな気さえしてしまう。 中野友加里の表現には、若く美しい女性の持つ気高さがある。ユナ・キムの表現も、彼女のゆるぎないプライドで満ち満ちている。それに対して浅田真央は、ふんわりやさしい「真央ちゃん」の心のスケートだ。たとえ彼女の気持ちが「はい、次のジャンプ!」「ステップしっかり動いて、レベル4!」とエレメンツのことで頭がいっぱいでも、手足は勝手に彼女の心を表わしていく。そんな演技が今夜はできていたのではないだろうか。
アピール力は、他のファイナリストたちに比べてまだまだ足りない。昨日のSPの順位を受けての緊張感もあって、いい時の浅田真央の持つ勢いや生き生きとしたエネルギーも、今日は存分には感じられなかった。まだまだ彼女がこれから必要になるものはたくさんあるだろう。しかし何より人々を心配させたのは、今日の演技後の涙だ。 これまでも浅田真央は、昨年の全日本選手権で、3月の東京世界選手権で、氷上で大粒の涙を見せたけれど、遠い異国の地での涙は、少し痛々しかった。こんなにたくさんの人が見ている前で感極まってぼろぼろに泣いてしまうほど、ファイナルの戦いはきつかったのだ。優しすぎる子は勝負に勝てない、ちょっとくらい勝ち気な子の方がチャンピオンになれるというけれど、見ている人々が心配してしまうほど、浅田真央の気持は優しくて、弱い。これから世界チャンピオンやオリンピックチャンピオンを目指していくというのに、こんなところで泣いていて、どうする? まだオリンピックでもなければ世界選手権でもない、シーズン前半のターニングポイントでしかない試合で! 強い人々はそう思ってしまうだろう。
しかし、そんなに簡単に、人は変われるものではない。優しい人間が、一年や二年世界のトップ争いを経験したからと言って、あっという間に強くなれはしない。優しくて、まっすぐで、フィギュアスケートに一生懸命な浅田真央だからこそ、今こんなに苦しんでいるが、こんな真央ちゃんだからこそ、あの暖かくて見る人を幸せで満たす演技ができるのだ。柔らかで優しい今の浅田真央を失ってまで、気持ちの強い浅田真央はいらない、と私は思う。 バンクーバーまで、さらに目指したいというソチ五輪まで、私たちは何度も、彼女のスランプに一緒になってやきもきし、復活するたびに一緒に涙するだろう。浅田真央は、そういうタイプのスケーターだ。彼女の演技を楽しみたかったら、やきもきや歯がゆさに付き合っていく覚悟がいる。
キス&クライでもぼろぼろ泣いてアルトゥニアンコーチにあやされていた浅田真央は、大きなビジョンに写っている自分の泣き顔を見ると、ちょっと照れて笑顔を見せた。この涙でぐしゃぐしゃの笑顔が見られるなら、それでいいなと思う。本当に弱い選手だったら、今日のノーミスのフリーはできない。苦しんで苦しみ抜いた末に、必ず浅田真央はここにたどりついて、笑顔を見せてくれる。それを信じて、いつまでも浅田真央の一喜一憂につきあっていこう。
photo/Dave Carmichael text/Hirono Aoshima
2007年12月16日
グランプリファイナル2007 SP終了後、浅田真央共同インタビュー
思わぬ結果で気落ちしていたにも関わらず、しっかり各国テレビ局の取材、ペン記者の囲み取材にも答えてくれた浅田真央選手。時間も短かったが、フリーを見据えた生の声を聞いてみよう。
――ショートプログラムは残念な出来でしたが。
真央 そうですね。全然だめでした。滑る前は緊張していて、でも滑りはじめたらリラックスできたんですけれど……。どうして失敗したのか、わからないです。
――ステップからのトリプルジャンプが跳べなかったのは?
真央 ルッツはステップでひっかかってしまって。今までにこんなことはなかったです。ショートプログラム、今シーズンはまだ一度もクリーンに滑れていないので、今日もノーミスでできなくて残念です……。
――でも点数は、それほど上位の選手に離されていはいないですね。
真央 自分でも思ったより点数は出てるな、と思いました。これでちょっとは明日のフリーで挽回できるんじゃないかと思います。
――今回はロシアからタラソワコーチも駆けつけていますが。
真央 はい。タラソワ先生からは特にアドバイスはないんですけれど、がんばれ! って応援してくれてます。
2007年12月15日
グランプリファイナル2007 女子シングルSP終了 浅田真央6位 ショートプログラムの呪縛
あんなに調子が良くても、あんなに笑顔を見せていても、失敗してしまうのか――。浅田真央のショートプログラムを見て、呆然としてしまった。 練習であれだけ気持ちよく決まってうれしそうだった3回転-3回転は、フリップでバランスを崩し、無理やりつけたループでお手付き。ルッツに至っては「助走のステップで引っ掛かってしまって」跳ぶことさえできなかった。ショートプログラムに苦しんでいたグランプリシリーズを象徴するかのように、ファイナルの一日目、浅田真央は信じられないミスを連発してしまった。 本来の浅田真央の実力をもってすれば、難しいことなど何もないはずのジャンプ構成だ。トリプルアクセルが入っているわけでも、新しく挑戦中の3回転フリップ-3回転トウが入っているわけでもない。練習では10回やって9回はクリーンに滑れる構成だろう。前日や当日朝の練習ぶり、体のキレを見ていたら、ああ、もうこれは絶対大丈夫だ、と思っていた。それでも、浅田真央は失敗してしまうのだ。 ショートプログラムはかつて、「絶対にミスが許されない」と言われていた。新採点システムが始まる以前、3つしかないジャンプをミスすれば、6.0満点の技術点は否応なく下げられてしまったころ。また順位点というものがあり、SPで順位で落とすとフリーでどんなに頑張っても自力では勝てなかったころ。そんな時代のことだ。あの伊藤みどりさんがアルベールビル五輪で、絶対的な実力を誇りながらも銀メダルにとどまったのは、ショートプログラムでミスをして4位、フリーでどんなに高得点を出そうと自力優勝が不可能な状況になってしまったからである。 でも今は、違うのだ。最終順位は順位点ではなく、ショートとフリーの総合得点で決まる。ショートでどんなに低い順位をなっても、フリーで素晴らしい演技をすれば、いくらでもごぼう抜きができる。実際、今回のSPも、6位の浅田真央から1位のユナ・キムまでの点差はわずか5.58点。2位から5位までの5名、フリーの出来いかんで誰にでも優勝のチャンスはある。だから伊藤みどりさんのころほど、ショートプログラムを恐れる理由はないはずだ。それでも彼女は、ショートプログラムに苦しめられる。
実は浅田真央ほど大きなミスではなかったが、1位のユナ・キムもコンビネーションジャンプ、3回転ルッツでお手付きし、セカンドジャンプは1回転に。中国カップに続いて、彼女も難しくないはずのショートプログラムでミス。浅田真央もユナ・キムも、昨日は同じように肩を落としていた。彼女たちにとって、もはや順位も点数も関係ない。ふたりとも、ショートプログラム程度のかんたんなジャンプでミスをしてしまった自分が、許せないのだ。ユナ・キムは「マオは私以上にミスしたのか、よかった」とは思っていないだろうし、浅田真央も「キムちゃんもいっこミスしたのか、よかった」とは決して思っていないだろう。ただただ、彼女たちは自分のやったことが、悔しくてたまらないのだ。
新採点システムが始まったばかりのころ、「もはやショートプログラム、やる意味はあるのだろうか」と国際審判の資格を持つ人が言っていたことがある。順位点がない今、フリーでいくらでも挽回できる今、「絶対にミスが許されない」わけではないショートプログラムの存在意義は、確かに薄れつつある。 でもこうしてSPの呪縛に悩まされている、実力はあるが若い選手たちを見ると、思ってしまうのだ。ショートプログラムは自分との戦いだ、と。フリーで挽回できることがわかっていても、彼女たちは気楽に臨めない。フリーで挽回して勝てたとしても、ショートプログラムで失敗した悔しさは消えない。 勝負を制しても自分との戦いに敗れたことに忸怩たる思いを抱きながら、次の試合ではもっと! と彼女たちは思う。浅田真央は今シーズン、ショートプログラムに2試合とも失敗しながら優勝し、「結果は出しているけれど不調」と囁かれているが、実はその力はどんどん上げてきている。これは、ショートプログラムの悔しさをバネに、どんどん練習を積んで、どんどん上手くなっているからだ。 いまはショートプログラムの呪縛に、苦しんでいる。でもこの呪縛を乗り越えたら、もっと強くなっている、そんな新しい仕組みを、フィギュアスケートの神様は才能あふれる彼女たちに与えてくれたのかもしれない。
photo/Dave Carmichael text/Hirono Aoshima
2007年12月15日
グランプリファイナル2007 女子シングル公式練習レポート
女子シングルも13日、14日と二度の公式練習を終了。2日間で選手の表情にも微妙な変化が表れている。
非公式の練習でのびのびとした滑りを見せていたキャロライン・ジャンは、13日も習得したばかりの3回転-3回転を素晴らしいスピードと勢いで着氷。やはり14歳、どんどん上手くなっている様子が楽しかったが、本番を目の前にした14日は、ちょっとだけ硬い表情に。ジャンプも崩れがちで、緊張感と疲れが見えてくると、堂々と戦ってきた彼女もまだ14歳なのだと気付かされてしまう。
中野友加里も公式練習が始まってから、少し笑顔が小さくなってしまったようだ。ショート前日はジャッジ席に素敵な笑みを見せながらステップ。スパイラルでもしっかり客席に目線を送っていたが、14日は少し焦っている時の滑りの慌ただしさが見えた。練習終盤には佐藤コーチとしっかり対話。誰よりも経験豊富な彼女のことだ。本番にはしっかり合わせてくることを期待したい。また14日の公式練習では、カナダ国立バレエ団に制作を依頼した新しい衣装を着用。ピアノの音色に合わせてきらめくようなニューコスチュームもお楽しみに。
カロリーナ・コストナーは、地元でのファイナルということで、思いもひとしおだろう。公式練習中も頭上の大きなビジョンに、彼女の出演しているCMや、トリノ五輪でイタリアの旗手を務めている姿がひっきりなしに流れていた。映像のなかでゴーカートに乗ったりトランポリンで跳びはねたりしている明るい女の子が、すぐ下のリンクではジャンプが抜けたりお手付きしたりと、プレッシャーに苦しんでいる……。メンタルの弱さが指摘されがちな彼女だが、この大一番を無事に超えられたら、ひとつ強くなれるのではないだろうか。
本番直前になって表情がいきいきしてきたのは、キミー・マイスナー。06年に世界チャンピオンになってからの伸び悩みが心配されてきたが、今シーズンはスケートアメリカで優勝、初めてファイナル進出も果たした。14日朝の練習で見せた「The Feeling Begins」では、顔つきからも体の作るきりっとしたラインからも無理のない自信が感じられた。キム・ヨナ、浅田真央と戦いが決して楽ではない状況は続いているが、いい意味で気持ちをふっきって、自分の演技を極めて行こうという姿勢が今日はうかがえた。
キム・ヨナの今シーズンの好調ぶりは聞いてたが、生で見るとここまでか、と驚くほどだ。トリプルルッツ、トリプル-トリプルなど、トリノ入り直後からジャンプは美しく決めまくる。プログラムの通しも気を抜かず、表情も振り付けもきちんとつけながら、ジャンプもしっかり跳んでしまうのだ。音楽に乗っての躍動感たっぷりの動きには、コーチのブライアン・オーサーも体をゆらして見守っているし、リンクにいた他の選手も自分の練習を中断して見入ってしまうほど。オーサーコーチは、「トレーニングは良くできているし、彼女の到達できるはずのレベルはとても高い。何の問題もないね!」と、自信たっぷり。しかし、グランプリシリーズ絶好調で、優勝候補筆頭と目されての戦いは、精神的に決して楽ではない。ショートプログラム「こうもり」の曲かけで、イナバウアーからのダブルアクセルにちょっと躊躇している様子も気になった。
SP直前の今日、気持ちも滑りも一番いい状態にあったのは、おそらく浅田真央だ。現地に入ったばかりの前日の練習では、思ったよりもいい調子のトリプルアクセル、何度も完璧に着氷した3回転‐3回転に満足気。試合前にこんな明るい笑顔を見せるのは久しぶり、と思うほどご機嫌だった。今日も練習が始まる前、リンクサイドに立った時からなんだか楽しげで、滑りだせば目を見張るほど伸び伸びしたスケートを見せる。3回転フリップ-3回転ループは、セカンドジャンプの方が高い好調ぶり。この日のSPでは跳ばないトリプルアクセルも、後ろにダブルトウループをつけて成功させてしまった! プログラムを滑れば四肢の動きは他選手と比べ物にならないほど大きいし、気持よく足の上がるスパイラルも、複雑だけれど無理なくスケール感を感じさせるステップも、びっくりするほど素晴らしい。公式練習だというのに、見ていてちょっと感動してしまったほどだ。シリーズ2試合、少し納得のいかない出来だった今シーズン。自分は挑戦者だという気持ちでこのトリノにはやってきたのだろう。優勝することや他選手のことは気にせず、自分のスケートを見せたいという気持ちが、今日の浅田真央の滑りには表れていた。リンクサイドではアルトゥニアンコーチに加え、ロシアから駆け付けたタチアナ・タラソワコーチも身を乗り出して愛弟子を見つめている。
text/Hirono Aoshima
*写真はキミー・マイスナー選手
2007年12月14日
グランプリファイナル2007 公式練習後、浅田真央選手共同インタビュー
カリフォルニアから昨夜トリノ入りしたばかりの浅田真央選手も、公式練習に元気に参加。 共同インタビューでも明るい表情を見せてくれた。
――初めてのトリノ、いかがですか? 真央 最初に来たときは、わあ、すごい、ここでオリンピックをやったんだ! って思いました。アップをしてたら荒川さんや木戸さん(荒川静香さん、木戸章之さん)がオリンピックの時にしたサインを見つけて、ここでみんな書いたのかあって。でも滑ってみたら普通のリンクで、オリンピックのリンクで特別、って感じはしませんでした。
――このリンクでのジャンプの感触は? 真央 初めてのリンクなので、まだちょっと変な感じ。でもトリプルアクセルも明日の練習ではちょっと良くなると思うし、次の日はまた少し良くなって、試合に持ってければいいなと思います。あと、今日はトリプル-トリプルの調子が良かったかな! トリノに来る前のアメリカの練習でも、3-3は結構決まっていたので、このままいけたらいいです。
――フランス大会から少しプログラム構成を変えてきましたか。 真央 はい、まずスピンのコンビネーションの種類を2種類くらい変えました。それからフリーでは、ジャンプで2種類のトリプルートリプルを入れる予定です。前半に新しくトリプルフリップ-トリプルトウを。後半にはやりやすいトリプルフリップ-トリプルループを。これでポイントを稼ぎます(笑)。
――グランプリファイナルということで、何か意識して準備してきたことは? 真央 ファイナルに出る選手、全員のグランプリシリーズの演技を見てきました。スピンのうまい人、ジャンプのうまい人、いろいろ……。女子だけじゃなく、勉強になるから男子の演技もよく見るんです。男子のジャンプ、すごいなーって。女子でも、ユナ・キム選手はジャンプもすごい。真央がこれから跳びたいトリプルフリップ-トリプルトウも高くきれいに跳ぶので、自分もあれくらい跳べたらなーって思いながら見てました。
2年前のチャンピオンだが、挑戦者の気分でのぞむファイナル。ジャンプが思うように決まらなかったシリーズ2試合を吹き飛ばすように、3回転-3回転にもトリプルアクセルにも、強い気持ちでむかっていくつもりだ。
text/Hirono Aoshima
2007年10月12日
日米対抗2007レポート 浅田真央の変貌

5月に行われた中京大学アイスアリーナのオープニングセレモニー。氷の上に敷かれたカーペットの上を、安藤美姫と浅田真央が歩いていた。その時、安藤よりも浅田の方が少しだけ背が高いことに気付いた。3月の世界選手権で揃って表彰台に立ったときは、ほとんど変わらないか、わずかに安藤美姫の方が高いぐらいだったと記憶している。わずか2か月の間にも、浅田真央は成長しているのだと驚いたものだった。
それから5か月。公式練習でリンクに降りてきた浅田真央を見て、また驚いた。明らかに身長が伸びただけではなく、体つきがすっかり変わってしまった。肩幅が広くなり背筋がついて、体全体が大きくなった。頭は小さいままだから、より手足の長さが際立つ。オフアイスでのトレーニングの成果がはっきりと体にあらわれている。
体がより大きくなったことで、ジャンプも変わった。昨シーズンまではタイミングで跳ぶ軽いジャンプだったが、高さと力強さが加わった。
見た目から明らかに変わった浅田真央の今シーズンのショートプログラムは、タチアナ・タラソワ振付の「ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジア」。美しい旋律だがとてもドラマチックな曲だ。昨シーズンの「ノクターン」とはまったく違う。この大きな曲を滑りこなすためには、優雅さとともに、曲に負けないだけの大きな動きが必要だろう。
まだシーズンが始まったばかりだが、浅田真央は優雅な動きと大きな動きの両方をクリアしていた。肩から先ではなく、肩甲骨から大きく動くようになった腕の使い方や、ジャンプの前後やステップの途中で見せる、片足を後ろに上げるアチチュードの姿勢に背筋の強さが見える。また今回ステップシークエンスがレベル4と判定されたが、レベル4をもらうためにはステップの要件の他に「十分な上体の動き」が要求される。テクニカルパネルが認めるほどに大きく動けていたということだろう。
改めて思う。昨シーズンの「ノクターン」は、あの時しか見られないものだったのだと。今、同じ曲で同じことをやっても決して同じにはならない。もう氷の上に「ふわふわマオマオ」はいないのだ。
浅田真央は日々成長し、変化し、進化している。私達はともすれば将来ばかりを見てしまい、選手の現在に過大な期待をしてしまうけれど、変わっていく「今」をリアルタイムで見られる喜びがあることを、浅田真央は教えてくれる。この新しいショートプログラムを完全に滑りこなすようになった頃、浅田真央はどう変わっているのだろうか。
text/Seiho Imaizumi photo/Sunao Noto
2007年10月06日
日米対抗フィギュアスケート競技大会2007横浜 記者会見&公式練習レポート(1)

フィギュアスケート07-08シーズンがいよいよ開幕! 今年の第一戦は、昨年より始まった「日米対抗フィギュアスケート競技大会」の第2回。おなじみ新横浜のリンクは国際大会らしく華やかにデコレートされ、5日は記者会見とプレス公開公式練習が行われた。
いまやフィギュアスケートの二大大国といってもいい日本とアメリカを代表する選手たち、どんな表情を見せてくれただろうか?
日本女子勢は、安藤美姫、浅田真央、水津瑠美の3選手が公式練習に参加。全日本チャンピオンと世界チャンピオン、ふたりのチャンピオンに挟まれながらも、臆すことなく自分のペースで練習していたのは水津瑠美だ。実は日本女子勢では彼女だけが今シーズン、すでに公式戦を経験している。
「でもルーマニアのジュニアグランプリシリーズでは、思うような試合が出来なかった。今回はノーミスで、今までやってきたことを全部出したいです」(水津)
練習中は転倒も目立ち、ジャンプの調子はあまりよくない様子。しかし曲かけで見せたボンド演奏の「韃靼人の踊り」では、力強いストレートラインステップを見せ、観客にふっと送る視線も昨年よりいっそう大人びたものに。2選手が練習を上がった後も、時間いっぱいまでジャンプやスピンの練習を続け、身体がほぐれたころにはいい笑顔も見せていた。
シーズン初戦を見る面白さ、それを存分に味わわせてくれたのは、安藤美姫、浅田真央のふたりだ。ジュニアグランプリなどで、今シーズンのプログラムをすでに公開している水津瑠美と違い、このふたりが試合に向けて調整している姿を見るのは、ほんとうにひさしぶり。スパイラルではあんな角度に足が上がっていただろうか? ビールマンの形もまた変化している! この半年で身につけた新しいエレメンツをひとつひとつ確かめるように練習しているふたりを見ると、ほんとうにシーズンが始まったんだ、と、うれしい実感がわいてきた。
先に曲かけをした安藤美姫が見せたのは、ショートプログラムの「サムソンとデリラ」。
「今年のプログラムは両方ともセクシーなので恥ずかしいんですけれど……。ちょっとがんばってセクシーに、女性らしく滑りたいです」(安藤)
おへその見える黒い練習着姿に包まれているのは、今までにないくらい締まって美しい身体。今の安藤美姫は立っているだけで充分セクシーだが、曲がかかるとまたぐっと雰囲気が変わる様は、まるで舞台女優のようだ。昨年以上に大きく使えるようになった腕を目いっぱい動かす、パワフルな演技は健在。セクシーというよりも、キュートでかっこいい美女、という印象だが、腰をきゅっと動かす動作など、見せ場になりそうなセクシーな振付けもところどころで見せてくれた。モロゾフが散りばめた小さなアクセサリーのようなこうした振付けを、本番では恥ずかしがらずにもっとナチュラルに見せてくれたら、ほんとうに艶やかなデリラになりそう。
ジャンプの調子も上々で、3ルッツ-3ループなど、大きなジャンプを次々に着氷。まだ完全にシーズンインモードではない、とのことだが、公式練習から見せた堂々とした姿は、さすが世界チャンピオンだ。
持てる雰囲気をパワーアップさせた安藤美姫に対し、がらりと違う印象を見る人に抱かせたのは、浅田真央。曲かけで一部を披露したショートプログラム「ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジア」では、これまでの浅田真央のプログラムには必ずあった、かわいらしさ、少女らしさがすっかり影を潜めていた。激しい曲調に乗って激しい動きを次々に繰り出していく彼女は、夢から覚め、現実に立ち向かっていく一人の女性のよう。大きな決意を見せるような、甘さのかけらもないプログラムに挑戦していた。
動きの速さ、激しさは、横方向だけでなく、縦方向にも広がり、大きな上下動が特に目を引く。浅田真央はこんな動きも出来たのか、と目が釘付けになったが、面白いのはすぐそばで練習している安藤美姫の激しさに印象がかぶるところ。ひとつのリンクに安藤美姫がふたり? と錯覚しそうになることも何度かあった。
また、彼女にはとっては慣れないはずの速いモーションも、ひとつひとつポジションがしっかり取れていて、動きがくっきり、印象に残るところはさすが。
ジャンプもこの日は、これまでのような踏み切りのタイミングで跳ぶジャンプというよりも、力強く身体を締めて跳ぶジャンプ。ステップも、今のところはまだ抜き気味という感じだが、おそらくシーズン中にはレベル4を狙ってくるだろう複雑な構成を垣間見せる。彼女自身の雰囲気も、ひとつひとつのエレメンツも、昨年までとはがらりと変わった浅田真央を見せてくれそうだ。
村主章枝はこの日、出場選手中ただひとり、公式練習を欠席。記者会見では元気な姿を見せ、「今シーズン初戦が、私の地元、新横浜で迎えらてうれしいです。今年は4月からずっとロシアを拠点にし、今まで積み上げてきたものを一度捨て、新しいものを受け入れる、そんな練習をしてきました。そこでの成果を今回、少しでも発揮できればと思います」とコメントした。
photo/Takayuki Honma text/Hirono aoshima
2007年03月25日
女子シングルフリー終了 浅田真央2位 キム・ユナ3位 フィギュアスケートの力

キム・ユナが単独のトリプルルッツに続いてコンビネーションのルッツも転倒し、彼女としてはきわめて不本意な演技を終えたとき。
東京体育館のお客さんの間には、本気でがっかりした空気、残念……という感情の波が起こっていた。せっかくの世界選手権、世界のトップ選手の演技をいっぺんに見られる、めったにない機会。誰もがキム・ユナの最高の演技を見たかったのだ。
もちろんほとんどの観客たちが、このとき一番応援していたのは、浅田真央であり、安藤美姫だろう。それでも、彼女たちの最大のライバルであるキム・ユナにも、ベストの演技をして欲しいと東京体育館に集う人々は願った。
「不思議ですね。野球やサッカーだったら、相手のミスには大喜びしますよ」
普段はメジャースポーツの取材をしているという記者は、興味深げに場内の反応を見ている。しかしこれが、フィギュアスケートなのだ。テレビで見ている人の中には、あるいはそうでない人がいたかもしれない。でも、観客としてこの世界選手権という場を構成するひとりになってしまったら、会心の演技が続く名勝負の目撃者になりたいと願う。ひとりでも多くの選手のいい演技を見たいと願う。それが、フィギュアスケートを見る喜びだ。
でもそんな、貪欲な観戦者としての思いとは別に。演技に失望し、肩を落とす女の子を見るのは、心が痛んだ。ルッツの転倒までは、3回転フリップ-3回転トウの高難度ジャンプ、イナバウアーからのダブルアクセル-トリプルトウ、と順調に決めていたのに。ビールマンやドーナツなど、スピンも安定した美しさで、「ひょっとしたらこの選手には得意技などないのではないか、すべてのエレメンツが得意技ではないのか」そう思うほど、自由自在な演技を見せていたのに。
昨日のショートプログラムでは、高い得点に思わず口元を覆って大喜びしていたキス&クライ。その同じ場所で、得点を待ちながら切なげな表情を見せる16歳。
観客は、彼女が世界選手権を笑顔で終われなかった事を、本気で残念に思った。まだ次があるよ、また日本に来てよ。そんな思いを伝えたくなるほど、たった16歳の女の子に、ここまで心を揺さぶられていた。

ユナ・キムの失望を目の当たりにして気持ちを重くしたも束の間。続いて登場した浅田真央の演技に、観客たちはさらに遠くまで心を持っていかれることになる。
スタート地点、体は完璧なポーズを形作っているのに、顔はこわばりきった彼女を見て、私たちも顔をこわばらせる。冒頭、ステップからのトリプルアクセルを見事に成功させれば、心で叫んだだろう浅田真央とともに、誰もが大声で叫ぶ。一つ目のコンビネーションジャンプで少し着氷が乱れた後、次の3フリップ-3ループの助走では、びしびしと伝わってくる彼女の緊張感とともに、思わずぐっと身をこわばらせる。そして、いつもは無表情で滑るスパイラルで、浅田真央がちょっとだけ安心したように笑った時……思わず泣きそうになってしまう。
これだけの感情が押し寄せてくるのに、経た時間はわずか4分。
緊張も、滑る喜びもこれで終わり、のラストのポーズ。浅田真央は感情を爆発させ、今までみたこともないほど大きく飛び跳ねながら、フィニッシュした。そして全日本選手権のとき「人前で見せたのは初めて」という涙を、また見せてしまった。それもぽろりの涙ではない。顔をぐしゃぐしゃにして、子どものように泣きじゃくる。
ほんの数分前、切ないほどに落胆した16歳にシンクロしたばかりなのに、今度は16歳の圧倒的な喜びの涙に、私たちの心はまた大きく波立ってしまう。彼女たちの大きな感情に次々に、いやおうなくさらわれていく東京体育館の観客たち。たった16歳の演技と、思いと、ドラマに、これほどの力があるのだろうか。
これが、フィギュアスケートなのだろうか。こんなに恐ろしいスポーツが他にあるだろうか。人の心をここまで翻弄し、コントロールを失わせるほどの力を、フィギュアスケートは、持っていたのか。
text/Hirono Aoshima
*浅田真央選手のインタビューは「女子フィギュアスケートチームジャパン オフィシャルファンブック2007」に掲載されています
2007年03月24日
女子シングルショートプログラム終了 浅田真央5位 音楽の妖精

浅田真央の演技終了後の共同インタビュー。やはり質問は、なぜコンビネーションジャンプをミスしたのか、に集中した。プレッシャーは大きかったのか、体調が悪いのか、どこかケガはしていないのか……。
でも今は、失敗の原因なんてどうでもいい。そう思ってしまったのは、私だけだろうか。浅田真央だって完璧ではない。時にはミスをする。
それよりも本当に聞きたかったのは、「どうして全日本からの短い間に、こんなにうまくなったの?」ということだ。
公式練習初日からすでに、浅田真央の「動き」は際立っていた。ポーズのひとつひとつが、数ヶ月前とは違う。真っ黒な練習着の細いシルエットが、モダンバレエのダンサーのように完璧なポジションで、スパイラルのY字やビールマンを形作る。ジャンプなど決めなくても、その動きの美しさに目が吸い付いてしまう。この大きな変化は、言葉に表すとすれば「洗練」がいちばんぴったりくるだろうか。立ち姿、ステップの入りのなんでもないポーズ、スピンを終えるときのしぐさ……五体の動きすべてが、美しく洗練されているのだ。
公式練習ではどのジャンプが成功した、どのジャンプの調子が悪い、そればかりが注目されていたが、今大会の浅田真央の一番劇的な変化は、洗練された体の動きそのものにあるのではないだろうか。
そして満場のお客さんに迎えれらたショートプログラム。
彼女が見せたのは、信じられないくらい音楽との親和性の高い演技だった。コンビネーションジャンプをのぞくジャンプ、ステップ、スピン、スパイラル……エレメンツも繋ぎのムーブメントも、音楽のなかに完璧に溶け込んでいる。ジャンプはテイクオフだけでなく、着氷まで音楽にぴたり。練習中、無音の空間で見せても美しかったスパイラルは、音楽に合わせるとさらに存在感を増し、ただのスパイラルではなく「ショパンのノクターン」のためのスパイラルだったんだ、と気づく。
小さなころから抜群のリズム感を誇っていた浅田真央が、ひとつひとつの動きやエレメンツを洗練させることで、音楽の懐のさらに深いところまでたどりついてしまったのだ。
優しいしいピンク色のコスチュームで舞う16歳の彼女は、まるで音楽の妖精のようで……このままいつまでも、彼女と、彼女の音楽に包まれていたいと思った。
ユナ・キムや少し年上のスケーターたちの持つ、表情の妖艶さや演劇的な味わいは、やはりまだない。演技に複雑な感情をのせる技術も、まだない。でもフィギュアスケートの表現とは、演劇性だけにあるのではないのだ、と改めて思った。浅田真央の表現の魅力は、誰にも真似の出来ない高いレベルでの音楽との親和性にあるのだと。
ほんとうに、たった一度のコンビネーションジャンプの失敗など、なんということもない。
これから浅田真央は、最高のジャンプ技術に最高の音楽表現を兼ね備えたスケーターに、間違いなくなる。
そのためのステップを、今夜はひとつ登った。そのことのほうが、どれほど大きいか。
この進化の秘密こそを、どれほど聞きたかったことか。
photo/Takayuki Honma text/Hirono Aoshima
*浅田真央選手のインタビューは「女子フィギュアスケートチームジャパン オフィシャルファンブック2007」に掲載されています
2007年03月19日
2007世界選手権開幕間近! 日本女子3選手公式練習に揃って登場

20日火曜日より競技が開始される、フィギュアスケート世界選手権2007。
18日はメインリンク、プラクティスリンクにて、全種目の公式練習が行われた。
女子シングル、夜の公式練習には日本女子シングル代表、浅田真央、安藤美姫、中野友加里の3選手が初めて揃い踏み。「一瞬、試合かと錯覚しそうになりました!」と浅田真央選手がびっくりするほどのたくさんのお客さん(公式アナウンスでは4100名が入場!)が見守るなか、それぞれに本番5日前の調子を確かめた。
トリプルアクセルも次々成功、今からこんなに調子がよすぎて大丈夫? と心配してしまうほど絶好調の浅田真央選手。緊張感いっぱいで表情も少し硬めだったが、ただひとり、プログラムをフルで通して見せてくれた中野友加里選手。メインリンクで滑るのは初めてとのことで、氷の状態を確認しながらも4回転に果敢に挑んでいた安藤美姫選手。
それぞれ、にこやかな表情とともにコメントを残してくれた。
●浅田真央選手
「昨日はちょっとダメだったんですけど、今日は自分でもびっくりするくらい調子が上がってきています。本番までこのままいきたい! 今日の練習は100点! あ、いや……90点です。ジャンプは100点だけど、ステップでつまづいてしまったので。
今日はちょっとダメだったけれど、フリーのステップをサーキュラーからストレートラインに変えて、その分時間が短縮されました。そうすると、その後のスピンの後に少し休憩できるんです。
練習なのにお客さんがいっぱいいたことで、ちょっと緊張もしたけど、滑ってるうちに集中はできました。お客さんがいてくれると、試合と同じ雰囲気でできるのがいいところ。でも公式練習は40分、50分ぐらいしかないので、ジャンプに特に集中して、プログラムも余裕を持ってできるように練習したいです」
text/Hirono Aoshima
2007年03月13日
女子フィギュアスケートチームジャパン オフィシャルファンブック2007 3/19発売!

大変長らくお待たせいたしました。
日本を代表する女子シングルスケーター10人のインタビュー&フォトブック
『女子フィギュアスケートチームジャパン オフィシャルファンブック2007』
3/19より世界選手権会場(東京体育館)にて発売です。
2007年版は世界選手権代表の3選手をはじめ、
シニア・ジュニアの10選手が登場。
それぞれのスケートへの思いをじっくり語ります。
『女子フィギュアスケートチームジャパン
オフィシャルファンブック2007』
3月19日発売
定価:1500円(税別)
サイズ:A5版
オールカラー80P
浅田真央 「真央の演技を見た人が、ハッピーになってくれればいいな!」
安藤美姫 「『ジャンプの美姫』って呼ばれたほうが、私らしい」
中野友加里 「いいシーズンにしたい。去年よりも、もっといいシーズンに」
村主章枝 「誰もやらないこと、できないことへの挑戦が好き」
恩田美栄 「スケートの楽しさと苦しさを、このリンクの上に」
澤田亜紀 「『こんな亜紀ちゃん初めてみた!』って言われたい」
浅田舞 「スケートの才能は、みんなが持っている。トップに行けるのは、その中で努力をした人」
太田由希奈 「やっぱり試合が好き。試合の緊張感のなかで、私は上手くなる」
武田奈也 「笑顔の理由? だって、楽しいんだもん!」
北村明子 「あきらめるのは簡単なこと。やめないこと、続けることの方が、ずっと辛いこと」
*世界選手権会場では、ダイエックス出版ブース、フィギュアスケート用品専門店アイススペースにて販売。
*アイススペースのウェブサイトでも通信販売開始予定です。
その他の入手方法も追ってお知らせいたします!
2006年12月18日
エキシビション終了! 浅田真央選手インタビュー

波乱のフリーから一夜明け、日曜日は選手もお客さんも楽しみなエキシビション。
結果は残念だったけれど、浅田真央選手もおなじみカルメンのコスチュームでキュートな笑顔をペテルブルグのファンに振りまいていた。演技中に客席にあずけるカルメンのショールを置いてきてしまうなど、ちょっとした失敗もあったが、リラックスした表情に見守る人々も一安心。
エキシビション終了後、短い時間だが、笑顔で記者たちの質問に答えてくれた。
――2度目のグランプリファイナル、どんな試合でしたか。
真央 これから何をするかべきか学べたし、上手な選手もいっぱい見られた試合でした!
――エキシビション、トリプルアクセルに挑戦しましたね。
真央 はい。先生にやってみようって言われて、みんなにも跳ぼうよって言われて。こういうときにも挑戦して、ちゃんと自信をつけようと思って跳んでみたんです。
――アルトゥニアンコーチともいい感じですが、言葉は大丈夫?
真央 英語、聞き取りは出来るんですけど話すのはまだまだ勉強しなきゃ。それに先生、興奮するとロシア語になっちゃうんですよ。「ダバーイ!」行けーって、意味なんですけど、よく言われます。先生、ときどきひとりでガーッてなっちゃうんだもん。
――ファイナルが終わってこのあとは、久しぶりに名古屋へ。エアロとも会えますね。
真央 そう、4ヶ月ぶりなんですよ! 舞よりエアロに会うほうが楽しみ。舞は数週間ぶりだし! でもエアロ、真央のこと覚えてるかどうか、心配です……。
――そして帰国したら、あっという間に全日本選手権。
真央 はい。エアロに会えればパワー倍増するので……優勝を目指します!
(日本人カメラマンに忘れ物のショールを渡されて)
真央 ああっ! ありがとうございます! すっかり忘れてたあ!
文/Hirono Aoshima
*写真はSP終了後の共同記者会見にて、安藤美姫選手と
2006年12月17日
女子シングル終了 浅田真央 フリー4位 総合2位(2)

「スケートアメリカの時、ショートはうまくいったのに、フリーはできなくて、残念な気持ちでした。今回はアクセルの後にそういう気持ちになっちゃダメだと思ったけど……やっぱりちょっと、ダメでした」
ダメでした――彼女はたぶん、今日の演技のすべてを否定してしまっているだろう。大失敗のフリープログラムだと思っているのだろう。
きっと、あのかわいらしく動きまわる序盤のサーキュラーステップで、ロシアのお客さんたちがどんなに喜んだか、気づいていない。小さかったころの「真央ちゃん」、子どもたちがたどたどしく滑る中で、ひとりだけ音楽に乗って自由自在に動いていたあのころの魅力そのままに。体が大きくなっても変わらないキュートな所作で見せたサーキュラーステップ。今シーズンはそんな素の魅力にエッジワークの確かさが加わって、上体の動きの華やかさも増して、たとえ気持ちが焦っていても十分お客さんを楽しませられる。そんなステップが踏めていることを、誰よりも浅田真央自身が気づいていない。ジャンプを跳ぶこと以外で自分がお客さんの心をつかめているなんて、ちっとも思ってないのだ。
あなたが素敵なスケーターだと知っている人が、日本にもロシアにもこんなにたくさんいることを。素敵な浅田真央を待っている人が、こんなにたくさんいることを。ほんのちょっとでも彼女が気づいてくれれば、と思う。あとほんの少しだけ、ジャンプ以外にも自信を持ちさえすれば、一度のアクセルのミスなど、跳ね返せるはずなのに。
「最後まで引きずったのは残念でしたね。早く立て直せば絶対に間に合うはずだった。誰も助けてくれないところで、自分ががんばるしかないのですが……」
そうコメントするのは、平松純子スケート連盟フィギュア部長。
「彼女の場合、去年とは明らかに状況が違います。昨シーズンは何も怖いもの無しでぽんぽんと進んでいけたけれど、今年は追われる立場。ただ挑戦ばかりではすまない、これは選手なら誰もが向き合う試練です。誰もが必ず通らなければならない道です。ジュニアの時の勢いを失っても、ライバルと戦いながら自分の地位を守らなければならない。そんなことを言うのはかわいそうなくらい、彼女は若いのですが……」(平松氏)
確かに、このつまづきは、決して特別なことではないのだろう。私たちはついつい「あの、浅田真央が!」と彼女の不調に驚き、ひとつひとつのトリプルアクセル、一試合一試合の結果に一喜一憂してしまう。
そう思わざるを得ないほど特別なスケーターに、この一年で浅田真央はなってしまった。
でもまだ彼女は、16歳のひとりのフィギュアスケーターだ。
誰もが立ち上がって称えるしかなかった、または驚愕で座り込むしかなかった、昨シーズンのグランプリファイナル、あの奇跡から一年。今回のフリープログラムの失敗、ユナ・キムに続く総合2位という結果も、彼女の歩み続ける道の、確かな一歩のひとつだ。
代々木のミラクルマオも浅田真央ならば、ペテルブルグで肩を落としてうつむく女の子も、浅田真央。
いい時も、悪い時も、すべての浅田真央を。
彼女の歩む道を、まるごと見ていたいと思う。つまづきながらも進んでいく道を、見守りたいと思う。
それは浅田真央と同じ時代に生きてフィギュアスケートを見る、私たちだけに許された特権だ。
写真/Tsuyoshi Kishimoto(PHOTO KISHIMOTO) 文/Hirono Aoshima
2006年12月17日
女子シングル終了 浅田真央 フリー4位 総合2位

演技を見ずに彼女の今日の得点表を見た人がいたら、何かの間違いだと思うだろうか。
真央ちゃんが、こんな演技をするなんて――。
普段の練習では問題なく跳べているトリプルアクセルも、公式練習では50%の成功率。いつも報道陣に見せてくれる笑顔も、鼻歌交じりにスキップしながらリンク周辺を闊歩する姿も、見られない。明るいカリフォルニアから、日中もどんよりうす曇りが続くペテルブルグへ。彼女の移動してきた街の風景が、そのまま彼女の心に乗り移ってしまったかのように、元気がなさそうな様子はみんなが見ていた。
でも、あの浅田真央が。ここまで崩れてしまうことが、あるなんて。
SP1位という成績を受けて、フリーは最終滑走。村主章枝と安藤美姫が見せてくれなかったものを、この人は見せてくれるはず! 特に日本からの記者やファンの期待を一身に集めて、浅田真央は滑り出す。
しかし最初のトリプルアクセルで、転倒。ここで私たち以上に「OH!」と頭を抱えている海外プレスの姿が、目に入った。そうだ、私たちは何度も見てきた浅田真央のトリプルアクセル。海外の人たちだって見たいのだ。日本のファンだけでなく、世界中のスケートファンが見たがっているのだ。
「アクセル、今シーズンは一度もまだきちっと跳べていないので……不安があったんだと思います」
世界で一番このトリプルアクセルの成功を願っていたのは、やはり今日も浅田真央自身。一発目のアクセルが入るかは入らないかでフリーの出来が大きく変わることは、彼女自身もNHK杯で認めている。
「最初のトリプルアクセルで『降りた!』って思えると、その後も波に乗れるんです」
だから今日、トリプルアクセルを跳べなかった後こそが、彼女の勝負――見守る人々は誰もがそう思った。アクセルが跳べなくてもその後の演技が崩れなければ、十分高い点数は出る。ここで彼女が心を折らずにいつもの浅田真央の滑りを見せれば「アクセル失敗しても、大丈夫なんだ!」と、新たな自信をつけられる。誰もがそんな展開を願ったはずだ。
しかしその後に続いたのは、着地してもその場でターンしてしまう気持ちの途切れたジャンプ。ことごとくふたつ目が入らないコンビネーションジャンプ。中盤、トリプルルッツでは2度目の転倒。
焦らないで! そんな人々の気持ちを代表するように「がんばれー!」織田信成が客席から大きな声を上げた。
写真/Tsuyoshi Kishimoto(PHOTO KISHIMOTO) 文/Hirono Aoshima
2006年12月03日
NHK杯女子シングル終了 浅田真央優勝!

もしかしたら、世界で一番新採点システムに向いているのは、浅田真央かもしれない。
199.52という驚異的な歴代最高スコアが会場内にコールされたとき、そんなことを思った。
新しい採点システムは、難しい技術を見せれば見せるほど、高い得点が得られる。誰も跳べない高難度のジャンプを跳べば、誰ももらったことのない点数がもらえるし、スピンを速く回れば回るほど、エッジワークを磨けば磨くほど、どんどん高い点数が出る。これは、他の選手との相対評価で、どんなに素晴らしい演技をしても6.0止まりだった旧採点システムでは、決してもらえなかったものだ。
「練習すればしたぶんだけ、どんどん点数が出るんだ!」
そんなことに浅田真央は喜びを見出したのではないだろうか。
浅田真央は天才だと、多くの人が称える。
「でも、天才っていうだけでは、真央がかわいそう。だって誰よりも努力をしているのは、真央なんですから」 そう語ったのは彼女を一番そばで見てきた浅田舞だ。
「このジャンプができるようになる!」と決めたら、涙を流してでも、とことんまで練習する。「ノーミスする!」と決めたらその絶対目標に向けて突っ走る。そんな「努力の人」、浅田真央に、跳べば跳んだだけ点数が出る新採点システムは、何よりのご褒美。だからトリアクセルだけでなく、去年は跳んでいなかったルッツからの3連続コンビネーションも、レベル4のスピンも、ステップも、どんどんチャレンジする。どんどん練習する。その結果が、初めて出場したNHK杯での「199.52」。努力の成果を、浅田真央は確かに受け取った。
しかし今季、浅田真央は彼女のトレードマークであるトリプルアクセルを一度もクリーンに跳んでいない。NHK杯ではその他のジャンプを確実に跳び、進化したフットワークなども評価されて自己ベストを更新したが、報道陣からはやはりトリプルアクセルの不調に質問が及んだ。「跳べていない原因は?」「背が伸びたことで、ジャンプの感覚が狂ってしまったのか?」
それに対して彼女は「背は伸びたけれど気になるほどではないです」「ジャンプもそんなに狂ってはいません」と答えるしかない。
コーチのアルトゥニアン氏も、
「僕はもっともっと彼女に求めていくよ。もっと難しいジャンプも攻撃的に跳ばせて行く。そして、She can do!」
至って前向きだ。なぜならば、今季の彼女のジャンプの仕上がりは、今までで最高といっていいほど。去年は練習では実は跳べていなかった、試合の高揚感の中に入って初めて成功させていたトリプルアクセルも、確実に自分のものにした。もっと難しいコンビネーションだって、練習では跳べている。ただ去年とは逆に、練習ではできていることが、試合ではガチガチに緊張してしまってできない、ただそれだけなのだ。
だからだろうか、脅威のスコアが出た2日のフリーも、去年のグランプリファイナルで見せたパワー全開の強さはなかったかもしれない。オフシーズンに得てきたものを確実に見せようと、少し手探りになっていたかもしれない。
見ている人は「真央ちゃんのすごさはこんなものじゃないはず」と思っただろう。それはトリプルアクセルのステップアウトだけが原因ではなく、本来はプログラム全体に漲るはずの何かが、重圧で押さえつけられてしまったためだ。
「優勝しなきゃファイナルに行けないってことになって……。今までこんなふうに追い込まれることがなかったので、これは初めての経験だな、と思いました。でもこんなに緊張したのに、今日はちょっといい演技ができた。ちょっと成長したかなあって思います。ファイナルに行けることになって、わくわくしています! すごく出たかった試合だから! 今日よりもっといい演技ができればいいな、と思う。やっぱり優勝したいです!」
努力で築き上げた恐るべき肉体と技術。まだ高校一年生の彼女が持つには大きすぎる力を、幼い精神が必死になって支えている。それが今の浅田真央だ。
怖いもの無しだった昨シーズン、何度も見せてくれた奇跡のような瞬間、それを再現する力、それ以上のものを見せる力が、今の浅田真央にはある。しかしそれは、去年とは比べ物にならない大きな期待、守らなければならない今のポジション、伸びてきたライバルたち、そして自分自身――そんなものすべてに対して浅田真央の精神が打ち勝ったとき、そのときだ。
写真/M.Morita 文/H.Aoshima
2006年12月02日
NHK杯女子シングル ショートプログラム浅田真央1位!

なんて美しいジャンプを跳ぶんだろう――。
NHK杯女子ショートプログラム。6分練習で浅田真央の3回転フリップ-3回転ループを見て、今更のようにそう思ってしまった。
ふわりとした離陸と、目の覚めるような2度の回転、そしてまたふわりとした着地。
それは、フィギュアスケーターが見せるドラマチックな演技や、情感あふれる表情とは、別の美しさだ。陸上の選手が見せる跳躍の美しさや、サッカーのシュートの軌跡の美しさと同じ。たぶん浅田真央は「美しく見せよう」と思ってこのジャンプを跳んではいない。何の迷いもない体が、これまで積み上げてきたものを淡々とこなして見せるだけで、ドラマを見る以上の感動を観客に与えてしまう。
浅田真央のショートプログラムは、全編にわたってそんな美しさに満ち満ちていた。
4番滑走、彼女の出番になると、「浅田真央さん 日本!」と呼ぶ場内アナウンスの声も、少し昂揚していた。目いっぱい遠くに引いてから一気に彼女に寄っていこうとする放送カメラの動きも、明らかに気合が入っていた。場内にいるお客さん、コーチ、関係者……みんながきっと、今シーズン最初の浅田真央国内公式戦に、興奮を隠し切れずにいる。たぶんこの場で一番落ち着いているのは、すべての視線をその身に集めている浅田真央自身だ。
無理のないきれいな流れからのトリプルルッツ、完璧だった練習時に比べると一瞬ぐらついたように見えたが、難なく決めた3回転-3回転。
去年よりもずっと丁寧に見せるスパイラルは、大きく開く腕の動きで、彼女の体そのものが咲いたように見える。以前はちょっと無理やりだったワンハンドのビールマンスピンも、ずっと自然な動きで、完璧に近い造形を作り出していく。そして、ひとつひとつが信じられないくらい繊細なフットワークは、流れるピアノの音をそのまま形にしたよう。動きのひとつひとつに、フィギュアスケートでしか出せない美しさが目いっぱい詰まっていて、もう、目が離せなくなってしまう。
浅田真央のショートプログラムに、熱狂的な興奮はなかった。ただあたたかな風が目の前に吹いていくさまを、人々はじっと見つめるしかない。こちらの心の中にまでその風が吹き抜けていくような気持ちを、静かに感じるしかない。
たぶん今も、以前も、浅田真央に自分のスケートを「見せよう」という気持ちはないのだろう。以前は「ジャンプ跳べてうれしい!」そんないっぱいの思いがストレートに伝わって、誰もがあの笑顔に夢中になった。
今シーズンの浅田真央には、もう小さな子どものままの溌剌さはない。一流のパフォーマーが持つ「見せる」気持ちも、まだない。でも、ただ自分のやってきたことをひとつひとつ丁寧に見せていくだけで、ゆるやかに、確実に、私たちの気持ちを高ぶらせていく。
いつまでも真央ちゃん自身の魅力だけでは勝てない、いつかは表現者として、目覚めなければ――。私はずっとそんなことを思ってきた。でも浅田真央は今年も相変わらず、浅田真央のまま。練習の成果を試合で出して、お客さんに喜んでもらうのではなく、自分が満足したい、そんな気持ちのまま、このショートプログラムを完成させてしまった。
浅田真央はまだ、パフォーマーではない。彼女の美しさは、アスリートの美しさだ。
でもアスリートのまま、フィギュアスケートそのものの美しさを堪能させてしまう、そんなスケーターになってしまった。
写真/M.Morita 文/H.Aoshima
2006年05月11日
フィギュアスケートDAYS プレ創刊号(0号) 5/12発売!

昨秋、日本男子フィギュアスケートオフィシャルファンブック『Cutting Edge』を手がけたダイエックス出版より、新しいフィギュアスケート専門誌がこの秋創刊されます。
タイトルは「フィギュアスケートDAYS」。
トリノ五輪シーズンを経て、多くのみなさんが注目するようになった競技・フィギュアスケートを、もっと知ってほしい、もっと身近に感じてほしいという思いを込めての創刊です。
06-07シーズンの始まりとともに本格始動予定ですが、5/12にはプレ創刊号となる0号を発売。
05-06シーズン後半の大きな国際大会レポートを中心に、世界選手権で活躍した織田信成、中野友加里、恩田美栄、井上怜奈各選手のインタビュー、浅田真央をはじめ世界ジュニア選手権日本代表6選手が総登場する座談会の模様も収録。大会の興奮を伝えるとともに、選手たちの本音にせまります。
「フィギュアスケートDAYS vol.0」
2006年5月12日(金)全国書店、各ネット書店にて発売
定価 1,680円(税込)
ISBN 4-8125-2838-0
5/14の「ジャパンオープン2006」会場(さいたまスーパーアリーナ)でも販売予定。
またダイエックス出版のホームページにて6/15までに購入された方の中から、抽選で20名様にプレゼントが当たるキャンペーンも実施中です。
2006年03月10日
女子シングル終了(1) 浅田真央2位 銀色のメダルとともに

ショートプログラムが終了した時点で、ひょっとしたらこういう事態も起こりうるかもしれない、そんな予感は誰もが抱いていた。また、もしそうなったとしても、それはそれで大きな意味のあること、あってもいいことだとも思っていた。
浅田真央の敗北――しかしそれが現実になってしまうと、あまりのショックに呆然としている自分に、私は気がついた。呆然と……韓国の国旗より少し低い位置であがっていく日の丸を見ながら思ったのは、浅田真央が日本のフィギュアスケートの未来の、象徴のような存在だったということだ。
「次は、真央ちゃんが出てくるからね」
「真央ちゃんがいれば、これからの日本も強いね」
いつの間にか私たちは、まだ15歳の女の子に、あまりにも大きな思いを寄せすぎてしまっていたかもしれない。浅田真央のこれまでの快挙は、みな彼女の日々の努力の上に成り立っているものだ。けれども彼女の活躍によって得られる私たちの快感は、黙っていてももらえる、当然のごとく受け取れるものだと思っていた。
浅田真央が負けるなんて、数日前までは思ってもいなかったのだ、勝手に。
彼女のこの日の敗因は、ほとんど精神的なものだったと思う。
ユナ・キムも3回転-3回転やイナバウアーからのコンビネーションジャンプを決め、ジャンプでも浅田真央に対抗できるところを見せる、いい演技だった。しかし本来はトリプルのはずのジャンプがダブルになるなど、少しだけミスもした。その身体から発している何かも、ショートプログラムの時ほど大きくはなかった。
だからきっと、浅田真央がトリプルアクセルを一度でも決め、いつもどおりの演技をしていれば、キムに勝てていただろう。しかしあのショートプログラムを経て、もう彼女は「いつもの浅田真央」ではなくなっていた。いや、もうこれまでの浅田真央に戻ることもない。フリー以降の浅田真央、そしてこれからの長い競技生活においての浅田真央は、「隣にユナ・キムがいる浅田真央」になったのだ。
確かに昨年の世界ジュニアでも、キムの存在は意識していたと思う。しかし今回、ショートで一度負けたことで「同い年くらいで、同じくらいの力を持っている子」として、初めて大きく意識したはずだ。
「やっぱりシニアの試合に出てたときのほうが、のびのびしてました。ジュニアの大会は、勝ちたい、二連覇したい、という気持ちがあったので、緊張していたかもしれない。ショートで負けたあとも……やっぱり優勝したいなあって思ったし……」

絶対勝てるはずの試合で、思わぬ追い上げをされた最強の選手。ちょうどグランプリファイナルで浅田真央自身が追い込んだスルツカヤと同じ立場に、今度は彼女が立たされていた。気持ちもこの二日間、かつてないほど大きく揺れていたに違いない。
そして気持ちがもういつもの浅田真央ではなくなったと同時に――彼女の演技も、いつもの浅田真央のきらめきを失ってしまった。最初のトリプルアクセルを失敗して以降、気持ちの焦りが手に取るようにわかるスピン、表情だけでなく、身体にも笑顔があったはずなのに、それがまったく見られないステップ……。
いま、目の前に存在しないことで初めて……私はこんなにも「いつもの真央ちゃん」の演技が好きだったことに気がついた。キムに負けたショートプログラム後には「もっと変わらなければ、もっと見せる力を持たなければ」と思ったけれど、まだそんなに急いで変わらなくても、よかったのだ。まだ強い思いなどなく、ただただスケートを楽しみながら滑っていた、素の魅力の真央ちゃんが、私は好きだった。もちろんこれからどんどん大人の演技になっていくとしても、もうちょっとゆっくり変わっていってほしかった。もうちょっと長く、あのままの真央ちゃんを見ていたかった。
でも……。
「まだ真央はジャンプだけなので、ジャンプが跳べないと負けちゃう。ユナはスケートもきれいだし、ジャンプも上手。今回は余裕がなかったけれど、これからはもっとスピンもたくさん回転しなくちゃいけないし。他にもいろいろ……」
彼女は、変わらなければならない。ユナ・キムと戦っていくためには、もう今までの浅田真央でいることはできない。
激戦の余韻が残るリンク。表彰台で、彼女が首にかけてもらったのは、思いもよらなかった銀色のメダルだった。このメダルが、彼女を大きく変える。来シーズン、本格的にシニアでのふたりの戦いが始まったとき、どんな浅田真央が見られるのか、とても楽しみだ。
でも……勝手なことを言おう。もう今までの、何も考えずに舞っていた、ほんとうに天使のようだった「真央ちゃん」は、見られない。そのことが、さびしくてしょうがない。(青嶋)
写真/中村康一(EOI Global)
2006年03月08日
女子シングルショートプログラム(2)浅田真央とユナ・キム

実際、ユナ・キムは素晴らしかった。今回、彼女の滑りを初めて生で見たが、もう演技を始めた瞬間から、その滑りのなめらかさと、それにぴったり呼応した上半身の動きの華麗さに、その場の空気がどこかにさらわれていくような気がした。フィギュアスケートを見て、久しぶりに本物の鳥肌が立った。そして彼女を見ていて、とてつもなく怖かった。それはユナ・キムが恐ろしいほど「本気」だったからだと思う。小さなリンクに、これだけしかお客さんが入っていないのに、まだSPなのに、ここまで全力を出し切ってしまっていいの? そう思うほど、本気の気迫。きっと「真央に勝ちたい!」そんな思いから生まれた気迫。それが痛いほど伝わってきて、本当に怖かったのだ。
次に滑る浅田真央が、このユナ・キムの演技を見ていないかどうか、一瞬気になった。これを見てしまったら、彼女といえど、気持ちがゆらいでしまうかもしれない。
「(キムが)ジャンプを跳んだところは見てないんです。ノーミスだったんだなあ、というのは、雰囲気でわかりました。でも、特に緊張はしませんでした」(浅田真央)
浅田真央の演技も、決して悪くはなかった。予定していたトリプルアクセル-ダブルループはトリプルアクセル-シングルループになったが、SPで女子選手がトリプルアクセルを跳んだ、しかもコンビネーションジャンプとして成功したのは、ジュニアシニア合わせても、ISUチャンピオンシップ大会で初めての快挙だという。
ちょっとセクシーなポーズも見せる「カルメン」の振付けもすっかり板につき、もう浅田真央のカルメンとして安心して見ていられるような気がした。ただ、グランプリファイナルの時などに比べると、スピンは少し遅く、ステップも少し重たく見える。でもこれが普通の試合だったら、文句なくトリプルアクセル成功に沸きつつ高得点を期待、というまずまずの演技だ。
しかしこの演技では、ユナ・キムには勝てなかった。ふたりが続けて滑ってしまったからこそ、差は歴然としていた。問題はスピンやステップのレベルの差ではない。みなが今シーズンの浅田真央の快進撃を見ながら、なんとなく物足りないと思っていたものをユナ・キムがすべて持っていたことにある。
それは、意識してプログラムを人に見せようとする力。浅田真央は天性の明るさ、華やかさだけで、今まで人をひきつけてきた。実は頭の中が「難しいジャンプ、跳べるかな」「ノーミスで滑れるかな」ということでいっぱいであっても、身体が勝手にしなやかに動いていく、そんなタイプの選手だ。
浅田真央はパフォーマーとしての意識がまだまだ薄い。しかしそれでも人をひきつけずにはいない天然の魅力に、私たちは大いに心を動かされてきた。
でも、それだけではフィギュアスケートの本当の凄みは出せない! そんなことを、直前のユナ・キムが見せてしまったのだ。彼女のスピンはただの「レベル4を取れるスピン」ではない。スパイラルも決められた数のポジション変化をし、規定されたキープ時間をクリアしているだけではない。ひとつひとつにこめられた強すぎる思いがあり、その思いを形に変えていく技術を持ったスピンや、スパイラル。そんなとてもクオリティの高いエレメンツで彩られたプログラムで、彼女は浅田真央のトリプルアクセルに対抗した。そして、時には高難度のジャンプより強い力を持つものが、フィギュアスケートにはあるということを、鮮やかに見せ付けてしまった。
やはり、浅田真央はラッキーだ。ユナ・キムがいなければ、トリプルアクセル以外は無難にこなした演技で、ショートも一位という結果を得てしまうところだった。ジュニアの試合でここまでの演技を見せてくれるライバルなど、のぞんでも得られるものではない。いや、今季挑戦したシニアのどの試合でも得られなかった「自分にないものをもった好敵手」に、浅田真央は絶対優勝するはずの世界ジュニアで会えた。
「2位という結果を見て『ああ……』って思いました。スピンのレベルとかが低かったのかな……。でも結果が出るのはあさって。まだ挽回できると思います」
浅田真央はどうしたらいいのかわからない、という表情をしつつも、今までになくしっかりした口調で、報道陣の質問に受け答えをした。
「ここに来る直前まで、真央は4回転にこだわっていました。彼女は4回転やトリプルアクセルに対しては十分なやる気を持って打ち込めている。でもそれと同じくらい他のものにも、やる気にならなくちゃいけない時ですね」
周囲の関係者がこの結果に沈痛な表情を見せるなか、山田満知子コーチはしっかりと、今の浅田真央の問題点を把握していた。この先生と一緒なら大丈夫、と少し緊張していた報道陣もほっとする、そんなコーチの談話だった。
それにしても真央ちゃん、これでおもしろくなったね。
一昨年の夏。韓国に、同い年で今年から一緒にジュニアに上がる、上手な選手がいるんだよと聞いたとき、「どんな子ですか? どんな子ですか?」と、ものすごく興味を持っていた。その彼女と、これほどまでの試合ができるとは、思ってもいなかったでしょう?
昨年のジュニアグランプリファイナルや世界ジュニアで彼女と合間見えて、「キムちゃんとは、これからずーっと一緒に戦っていくんだろうなあって、思った」と話してくれたのは、去年の夏。
ユナ・キムもまた、浅田真央のいないジュニアグランプリファイナルで優勝したのち、「世界ジュニアにマオは来るんですか?」と日本の関係者に聞いていたという。
浅田真央とユナ・キム。なんだか運命的なふたりだ。きっとキムの存在が、これから浅田真央をどんどん大きくする。キムも浅田真央がいるから、あそこまでの演技を見せられたし、これからも見せ続けていくだろう。
時を同じくしてこの二人を同じリンクに立たせたこと……これはフィギュアスケートの神のいたずらだ。それも4年後、8年後に向けた、最高に気の効いたいたずらだ。
トリノ五輪の余韻がまだまだ残る中、バンクーバーまでの4年間が、もう楽しみでたまらない。(青嶋)
写真/中村康一(EOI Global)
2006年03月08日
女子シングルショートプログラム(1)浅田真央SPでトリプルアクセル成功。順位は2位

ショートプログラムからトリプルアクセル?
新採点システム施行後、順位点制ではなくなったことで、「SPでは絶対ミスが許されない」そんな傾向は少しずつ薄れつつある。しかしそれでも3つしかないジャンプは確実に跳びたい、と誰もが大技に挑戦しにくいのがショートプログラムだ。
かつてアメリカのトーニャ・ハーディングがアルベールビル五輪のSPでトリプルアクセルにチャレンジし、残念ながら失敗したことを思い出す人も多いだろう。しかしあの時は、普通に勝負したのでは優勝は難しい、でもショートでトリプルアクセルを成功させて順位点を上げておけば、一か八かで上位に食い込めるかもかもしれない。そんな状況だったのだ。SPでの大技挑戦は、それがなければ勝てない選手の試み……そんな印象が、どうしてもある。
しかし浅田真央の場合は、違う。ユナ・キムという強力なライバルがこの場にいるとはいえ、今季のパーソナルベストスコアで比べれば、断然トップ。予選でもすでに6点の差をつけている。勝負を考えれば、無理をしてトリプルアクセルを跳ぶ必要など、まったくない。
浅田真央はもう、誰かに勝つためではなく、自分自身が成し遂げたいことのためだけに、SPでトリプルアクセルに挑んだのだ。
トリノ五輪で優勝したあと、バンクーバー五輪にも出たいというプルシェンコに、「これから4年間は何を目的に戦っていくのですか?」と問うた人がいた。プルシェンコは応えた。「やることはたくさんあるよ。4回転フリップ、4回転ルッツ、4回転アクセル!」浅田真央は、彼と同じだ。
あまりにひとりだけ力が飛びぬけてしまったために、目標は誰かに勝つことではなく、自分自身の限界への挑戦になってしまった。ヤグディン引退のあと、誰も自分にかなわない状況、自分自身でモチベーションを見つけていくしかない状況に立ったプルシェンコ。シニアのグランプリシリーズで優勝までした浅田真央が、世界ジュニアに参戦することになったとき……浅田真央はまるでプルシェンコのように、他を寄せ付けない、自分自身の挑戦に意義を見出すしかなかったのだ。
でも真央ちゃん、真央ちゃんにはユナ・キムがいた。SPでトリプルアクセルを跳んだにも関わらず、2位。トリプルアクセルを跳んでも勝てないときがある! そこまでの強力なライバルが、同じ時代にいた。浅田真央は本当に幸運だ。
写真/中村康一(EOI Global)
2005年12月18日
グランプリファイナル2日目 女子シングル 浅田真央完全優勝!

グランプリシリーズの成績優秀者6名が出場するグランプリファイナルは、シーズン前半戦を総括する試合として大いに盛り上がる試合だ。しかし、今年はオリンピックシーズン。2月の大舞台を占う場として、そして日本国内ではオリンピック代表選考に影響を与える試合として、大いに注目された。

ところが、初日ショートプログラムを終わった時点で女子ショートプログラム首位に立ったのは、年齢制限でオリンピック出場がかなわない15歳の浅田真央。本人は「ダブルアクセルでミス(着氷が滑らかではなかった)があったので、99点」という出来だったが、ジャッジの減点はなく、ほぼパーフェクトといえる結果だった。もちろん、世界チャンピオン、イリーナ・スルツカヤ(ロシア)のミスがあったとはいえ、堂々たる結果であることには違いない。
そして迎えたフリー。ショートプログラム4位の中野友加里は、軽快なドン・キホーテの曲に乗せて勢いのある演技を見せた。トリプルアクセルの回転不足、ループジャンプがシングルになるというミスはあったものの、速く正確なスピン、キレのよい踊りといった彼女の良さを発揮して、自己最高の105.78点。総合得点(161.82点)でもパーソナルベストを更新し、3位へと順位を上げた。
スケートカナダの3位、NHK杯の初優勝、そしてグランプリファイナルの銅メダル。今季突然出てきた新人であるかのように思われる中野だが、2002年にシニアデビューしてから、なかなか結果に結びつかない苦しいシーズンを送ってきた。特に、新採点が実施されて以降は、どうすればジャッジの評価を得ることができるのか、本人も迷いの中にいたのだろう。好演技の笑顔が、得点を見てみるみる曇るということも少なくなかった。昨日のショートプログラムでは、得点の低さにショックを隠せなかったが、今日は演技にも順位にも満足していると語った。それでも、「5コンポーネンツ(演技点)がもっと高く出るようにしたい」と、さらに意欲を見せる。フィギュアスケートのような採点競技は、ジャッジの評価を上げていく戦いでもある。もっと評価されたい、評価される滑りをしたいという姿勢が、彼女の強さでもあるのだ。
オリンピック選考に突如名乗りを上げたシンデレラガールと目された中野だが、これで確実に本命候補のひとりとなった。

前日のショートプロラム後、「NHK杯ではなぐさめの拍手? みなさんの力をもらってフリーに臨めた。今回は、100%ではないけど、安藤美姫のすべりに対して拍手をもらえたと思う」と語った安藤。3回の転倒で4位に順位を下げた今日は、どのように会場の拍手を聞いたのだろうか。
最初のコンビネーションジャンプで転倒し、4回転挑戦をやめ、3回転に変更。中盤の3回転ルッツにも失敗し、最後に賭けた3連続ジャンプも、ふんばりがきかずに転倒。不本意な出来となった。日本スケート連盟の城田強化部長も、「才能はあるが、心も強くないといけない」と、メンタルの弱さを指摘する。
しかし、エレメンツの完成度、能力への評価は高く、今日も演技点では3位の中野を上回っている。全日本選手権まで1週間を切った今、必要なのはその才能を発揮することだ。今日の会場の拍手は同情だけではなかったはず。安藤美姫本来の滑りを見たいという観客からのエールを受け取り、次に生かしてほしい。

最終滑走の浅田真央が登場したのは、直前に滑ったスルツカヤが完璧な滑りを見せた直後。しかし、「あまりプレッシャーは感じないので、いつも通りにできました」という大物ぶりで、いきなり大技のトリプルアクセルをクリーンに決めてしまう。滑走直前に3回転にすることはやめたという2回目のアクセルジャンプこそ2回転にしたものの、次々とジャンプを決めていく姿に、会場の拍手もヒートアップする。そして疲労も頂点に達しているはずの終盤で3回のコンビネーションジャンプに挑戦。プログラム後半に跳んだ方が得点が大きいというルールに対応して考えた、城田強化部長の秘策だ。本人はものすごく疲れていたというが、表情には見せずにすべてのジャンプを決め、最後のスピンの時には、観客はすでにスタンディングオベーション。得点が出て優勝が決まると、1万人を超えるほとんどすべての観客が総立ちで拍手を贈った。
125.24点という得点は、もちろんパーソナルベスト。スケーティングスキルの7.55は、今季、スルツカヤ、荒川静香の両世界チャンピオンに次ぐ数字だ。トリノ最有力候補といわれるスルツカヤが、「今日の自分の出来は本当によかった。ジャンプも高く、スピンもよかった」と言う演技を超えたという点でも、今回の浅田真央の結果は特筆に値する。しかし会場は、数字ではなく、「すごいものを見てしまった」「すごい場面に立ち会ってしまった」という興奮にあふれていた。
こうなると、トリノ出場への待望論が出てくることは必然といってもいい。当日昼のチンクワンタISU会長の会見でも、この1点についてつっこんだ質疑応答が交わされた。「浅田選手のショートプログラムを見て、彼女がオリンピックで滑っているところを、少しでも想像しませんでしたか?」という質問に、チンクワンタ会長は間髪入れずに即答した。「もちろん」しかし、それは個人的な見解であり、ルールはルールだと噛んで含めるように説明する場面もあった。
全日本選手権女子シングルは、12月24日から。今回出場した浅田、安藤、中野はもちろん、前世界チャンピオンの荒川、2003年のグランプリファイナルチャンピオン村主も参加する。今回の結果で、選考の行方はますます渾沌としたが、これだけの強豪が一国に集まることも非常に珍しい。この、あまりにも贅沢な時代に立ち会えたことに感謝しつつ、まずは明日、3選手のエキシビションを楽しみたい。
(text/guest writer 木坂有子)
Photo by M.Morita
*浅田真央選手に関するこれまでの記事
2005プリンスアイスワールド横浜公演レポート(2)浅田真央 はじめてのPIW
チャイナカップ 浅田真央2位! 山田満知子コーチインタビュー
浅田真央 エリックボンパールトロフィー優勝
2005年11月20日
浅田真央 エリックボンパールトロフィー優勝

2003年3月に刊行された対談集『Stay Gold』のなかで、浅田真央はテニスプレイヤー松岡修造氏とこんな会話をかわしている。
修造 ところで僕は、真央ちゃんだったらできるんじゃないかって思うことがあるんだ。オリンピックに出たいって言ってたけど、年齢的に今度のトリノ五輪は出場できないんですよね。一年足りないんだっけ。そうすると、なんと次の次、2010年のオリンピックまで待たなきゃいけないってことになるよね。これは運もあるからしょうがないんだけれど……、でも次のトリノも、私は出たいって気持ち、ある?
真央 はい!
修造 出たいよね、やっぱり選手だもん。でも今回の全日本(2002年)も、ノービスで大活躍だからシニアの大会なのに特別推薦で出られた。それと同じようにジュニアの世界選手権なんかで二年後とかに、真央ちゃんがすごくいい成績出したら……? そうしたら、世界がもう、「真央を出せ、真央を出さなきゃオリンピックじゃない!」って、そういう事態になる可能性あるよね。そういうことは、考えない?
真央 うーん、あんまり考えたことない……。
修造 そっか(笑)。でも僕は考えちゃったよ! だって真央ちゃんのこと、僕は一二歳だって考えてないから。ひとりの選手だって思ってるから……。何が起こるかは誰にもわからないじゃない? こんなこと言ってプレッシャーかけたら、山田先生に「修造、ダメよ!」って怒られちゃうかもしれないけれど。でも、充分ありうることだと思うんだ。ひとつひとつがんばっていくうちに、世界のルールまで変えてしまうような存在に、真央ちゃんならなれるんじゃないかなあって。
真央 そうなれるようにがんばります!
(松岡修造著『Stay Gold』ナナコーポレートコミュニケーション刊 対談収録は2003年1月)
浅田真央はトリノ五輪に出られない。それを残念だという声はすでに3年前、2002年の全日本選手権でトリプルアクセルや3連続コンビネーションに挑戦し、喝采を浴びた時から起きていた。
3年後の今、浅田真央は初出場のグランプリシリーズ・チャイナカップでスルツカヤに次ぐ2位、エリックボンパールトロフィーではワールドメダリストふたりを抑えての優勝。
「真央を出せ、真央を出さなきゃオリンピックじゃない!」
世界中の人々がそう叫びだしそうな状況が、本当におきてしまったようだ。

2大会の成績を受けてグランプリファイナルへの進出もほぼ決まった。
今年は5年ぶりに日本開催となるグランプリファイナル。もしここで、もう一度浅田真央がのびのびとした演技を見せ、世界の強豪を抑えてしまったとしたら?
いやがおうにもオリンピック真央待望論は国内外で大きなうねりとなるだろう。
しかしここで私たちが忘れてはならないのは、浅田真央自身の気持ちのありどころだ。
15歳(スケート年齢14歳)ではオリンピックに出られないことを、彼女はずっと前から知っていた。
そしてプレッシャー無しの「楽ちん!」な気持ちで、今年のシニアデビューを迎えた。
そんな彼女は、トリノオリンピックに特例待遇で出場することを、ほんとうにのぞんでいるのだろうか?
『Stay Gold』ではこんな会話も交わされている。
修造 どんな選手に憧れる?
真央 サーシャ・コーエン!
修造 おおっ!
真央 あと、スティーブン・カズンズさん。
修造 それはなかなか渋いね(笑)! でもコーエンって確かに、元気いっぱいでジャンプ得意でパワーもみなぎってる。そうかと思えばスパイラルもきれいで、魅せるスケーターって感じするよね。そういうところ、真央ちゃんも似てるかな。
真央 サーシャ・コーエンは何でもできる選手なので、そこがすごいと思います!
修造 そうか、全部ができる選手になりたいって言ってたもんね。じゃあ日本人の選手では? このあいだの全日本では、まさに日本のトップの選手と同じ舞台に立ったわけだけど、あのお姉さんたちのなかで目標にしたいなっていうのは?
真央 荒川静香さん!
修造 荒川さんがいちばん好きなんだ!
ほんとうに、いつ聞いても浅田真央の憧れはサーシャ・コーエンであり、荒川静香だった。ふたりが世界チャンピオン、銀メダリストになる以前から憧れていたのだから、筋金入りだ。
そんなふたりに、両脇をはさまれて立つ、シニアグランプリシリーズの表彰台。
ここに立ったことで、浅田真央のオリンピックへの意識は、変わったのだろうか。
ふたりを憧れの存在ではなく、競う相手だと思うようになっただろうか。
まだ楽ちんな気持ちでノープレッシャーの立場を楽しんでいるのだろうか。
カメラの前ではまだ、なかなか本音を言わない彼女の気持ちを知ることは難しい。
しかしマスコミも世論も、浅田真央のオリンピック出場について議論を交わす前に、何よりも浅田真央自身の気持ちを大切にする姿勢を忘れないでいたいと思う。
Photo by M.Morita
(写真はドリームオンアイスでの演技とチャイナカップ記者会見)
*浅田真央選手に関するこれまでの記事
2005プリンスアイスワールド横浜公演レポート(2)浅田真央 はじめてのPIW
チャイナカップ 浅田真央2位! 山田満知子コーチインタビュー
*男子シングルオフィシャルファンブック『Cutting Edge』の公式サイトができました
http://book.dai-x.com/cutting-edge/ にて予約受付中。全国書店での発売日は11月28日です
2005年11月06日
チャイナカップ 浅田真央2位! 山田満知子コーチインタビュー

グランプリシリーズ第3戦チャイナカップ、女子シングルで日本の浅田真央が2位、荒川静香が3位に入った。
浅田真央は昨シーズンの世界ジュニアチャンピオン。この試合がシニアデビュー初戦となったが、プレッシャーをはねのけて世界チャンピオンスルツカヤに次ぐ2位!
同じ大会で世界ジュニアチャンピオンとなった織田信成(スケートカナダ3位)とともに、シニアデビュー戦で表彰台という快挙を成し遂げた。
ジュニアとシニアの間の壁は厚い。ジュニアでチャンピオンになっても、シニアでなかなか活躍できない選手、伸び悩んでしまう選手は数多い。そんななかでの織田信成、浅田真央の大健闘は世界を驚愕させたことだろう。
また、スケートアメリカ3位の恩田美栄、スケートカナダ3位の中野友加里に続き、山田満知子コーチの元で育った選手たちがグランプリシリーズ3大会連続で表彰台にのぼった。
現在は体調を崩し名古屋で療養中の山田コーチだが、のびのびと選手の長所をいかす育て方で知られるフィギュアスケート界のグレートマザー。山田コーチの復調も祈りつつ、浅田真央選手に関して聞いたオフシーズンのインタビューをお届けしたい。
――今年からシニアに挑戦の浅田真央さんのプログラム、どんなところが見どころでしょうか?
山田 いまは新採点への対策がいちばんのネックですね。スピンをはじめ、やりたいことはたくさんあります。プログラムの完成度もまだまだ、なかなか(笑)。でも今ある形を磨いて行くと同時に、プログラムを変えて行くこともどんどんしています。野辺山以降、トリプルアクセルをひとつのプログラムにふたつ入れようかな、とも考えたし、テクニックの部分ももどんどん変えています。だから最初にローリーに振付けていただいたプログラムからは形も変わってきていますね。
――プログラムを手直ししたり難しい技を入れたり……その過程は山田先生が決めて行くものですか? それとも……。
山田 真央本人がそのプログラムをどう思うか、その技を入れることをどう捉えるか、によっても変わりますね。でも今はとりあえず、ふたりで右往左往しながら進んでいる状態かな? 完成に向かっていろいろ手探りという感じです。
――ジャンプに関してもいろいろ悩んでいたようですね。4回転の挑戦に関しては、「絶対跳ぶ!」と言ってみたり、「跳べないかもしれない……」と弱気になってみたり。
山田 私に言われてるからかな、「あんた、そんなに簡単に跳べるわけないじゃん!」って(笑)。真央はシーズンオフの最初の頃はね、取材が来ると「真央は4回転跳べます」「今年跳んで見せます!」って言ってたのね。でも私は「あの子も楽天的だから……そんな簡単には行かないですよ」って答えてた。それを受けてまた真央に話を聞きに行くと「じゃあ、先生と勝負です。絶対跳んで見せます、先生が負けます!」なんて言ってたんですって!
――真央ちゃん頼もしい!
山田 それをまあ、最初のころはおもしろおかしくしゃべってる余裕がありました。でも、こりゃちょっとダメかなと思って、最近は多少は考えてるのかな? 跳びたいって気持ちはきっとすごくあるでしょうね。
――4回転ループ、野辺山では一度きれいに降りたようですね。
山田 野辺山のあれも、ちょっと回転が足りて無かったかな。ちょうど真央と同じ練習時間に、九州の森永浩介くん(ジュニアグランプリシリーズエストニア大会2位)がいて、あの子もやっぱりループの4回転を跳んでたんですよ。彼もまだまだ回転が足りないみたいなんですが。でも真央はもう、彼が気になって気になって(笑)。
――真央ちゃん、また男の子とジャンプ競ったりして……。
山田 そうこうしてるうちに森永君は4回転のトウループをきれいに降りたんです。それをみて今度は涙、涙……。
――泣いちゃったんですか? 悔しくて!
山田 そう。それで私が「どうするの?」って聞いたら、「もう、今日はやんない、帰る!」って練習上がっちゃったの! 泣きながら! わはははは!
――男の子相手にそこまで……。4回転への気持ちがそれだけ大きいってことですね。
山田 がんばりたい、負けたくないって気持ちはある。でも、なかなかそれだけではね! 難しいってことがだんだん、少ーしずつわかってきて、最近はちょっと言葉にも気をつけるようになったのかな。

――でも今は、4回転をはじめいろいろな挑戦をそれほど気負わずできている。それは今年、彼女がオリンピック出場権がないから、という事情もあるのでしょうか?
山田 真央はオリンピックがないから気が楽……それはほんとにそう思います。これがもしオリンピックに行ける年齢だったら、やっぱりこんなゆったりとした気持ちで、今、真央とは接していないでしょう。今年はオリンピック行けるんだ! がんばらなきゃ! がんばって3番目に入ってトリノに行きたい! そう思ってやっているでしょうね。これもやらなきゃ、あれもやらなきゃって、大変だったと思う。でも今年はまったくオリンピックと関係ないので、真央も私もマイペースでいられる。楽ちんですよ。
――行けなくて残念、という気持ちは?
山田 もちろん残念は残念です。でも、3ヶ月遅く生まれたことを悔やんでもしょうがない(笑)。ここはいい方向で考えて。よかったね、今年はリラックスしながら練習できるからって、思うようにしています。だから次のオリンピック、4年後まで……まあ、怪我が無いように、すくすくと育ってくれれば、と思いますね。
ジュニアからシニアへ。カテゴリーを移ってすぐに大活躍の浅田真央や織田信成はすばらしい。
しかしシニアに上がってからじっくり自分を磨いて、ついに今シーズン表彰台に立った高橋大輔、中野友加里らにも拍手を送りたい(ちょうどふたりは同じ年、2002年の世界ジュニアで金メダルと銀メダル)。 さらにケガやスタミナと戦いながら若手と競う本田武史、中庭健介、荒川静香、村主章枝、恩田美栄らベテラン勢も負けてはいない。
男子も女子もすべての年代の選手たちが同じ土俵で競い合い、刺激を受けあって……このオリンピックシーズン、チームジャパンの強さはある。
Photo by M.Morita
(上:表彰式にて憧れのふたりの世界チャンピオン荒川静香選手、イリーナ・スルツカヤ選手と)
(下:チャイナカップでのショートプログラム「カルメン」)
*野辺山でのエピソードに関しては「日本女子フィギュアスケートオフィシャル応援ブック2006」の浅田真央インタビューも合わせてお読みください
*浅田真央選手に関するこれまでの記事
2005プリンスアイスワールド横浜公演レポート(2)浅田真央 はじめてのPIW
2005年05月22日
2005プリンスアイスワールド横浜公演レポート(2)浅田真央 はじめてのPIW
かつて伊藤みどりがその看板を背負っていたプリンスアイスワールドに、浅田真央が初出演する。
このニュースを知ったとき、古くからのスケートファンも、そして伊藤みどり自身も、さらにはふたりを育て、このショーにも長く関わってきた山田満知子コーチも、感慨深く思ったことだろう。
それが「’プリンス’アイスワールド」としては最後のショーになるかもしれない、という残念な状況を前にしたら、なおさらのことだ。
このアイスショーをずっと見てきたファンの一人は言う。「ついに真央ちゃんがPIWで見られる、という興奮と、その記念すべき公演がPIW最後のショーになるかもしれない寂しさ。こんな複雑な思いを抱きながら見るのは初めてです」
しかし当の浅田真央の演技は、そんな周囲の思いなどふきとばしてしまうような軽やかさだった。
「真央ちゃーん」の声援を受けて登場し、披露したのは昨年からのエキシビションナンバー「pick your self up」。ドリームオンアイスやメダリストオンアイスなど、昨シーズン日本で披露した時には、大人っぽい黒いパンツ姿で大人っぽい振り付け。ちょっと真央ちゃんにしては背伸びをしたナンバーかな、と思ったこともあった。しかしこの日の衣装は世界ジュニアのエキシビションで初披露した赤とピンクのキュートなワンピース。おろした髪もきれいに巻いて、パンツルックの時とはまた違う雰囲気の「pick your self up」を楽しませてくれた。
――真央ちゃん、今回はプリンスアイスワールド初登場だね。
真央 うん、楽しい! でも一回しか滑らないからちょっとヒマ。(浅田真央は一公演で一回のみ登場。各日二回公演)
――もっと滑りたいんだね! ところで今年のプログラムは「ロミオとジュリエット」だそうですが。
真央 そう、フリーが「ロミオとジュリエット」。ショートはえーと、曲の名前はわからないんだけれど日本の人の音楽で、前に滑ったクスコみたいな曲(01-02&02-03シーズンのフリー「インカダンス&アンデス」。全日本選手権初出場の時のプログラム)です。ちょっと雪の精みたいな……。振付けはリーアン・ミラー先生。(*曲名は「スノーダンス」でした)
――今年はなんとグランプリシリーズのシニアに登場。ニュースを聞いてびっくりしたよ。
真央 真央もびっくりした! 新聞で見て……。
――新聞で知ったの!?
真央 うん、噂は聞いてたけど……。
――初めてのシニアの試合、誰と一緒に戦いたい?
真央 やっぱりサーシャ・コーエン! でも、うーん……まけちゃーう(笑)。
先ごろ発表されたグランプリシリーズ参加予定選手リストでは、第4戦フランス大会に浅田真央とサーシャ・コーエンの名があった。ノービスのころからずっと憧れていたサーシャ・コーエンとの試合、浅田真央にとっても楽しみな、スケートファンになっても大いに注目の大会となりそうだ。
またまた背が伸びて、コメントをもらっている最中も「大きいな、まだスケート靴を履いたままなのかな?」と思ったら、ぺたんこのスニーカー姿でびっくり。もう村主章枝らと並んでもほとんど変わりない大きさだ。「ちっちゃな真央ちゃん」はいつの間にかどこかにいってしまった。
体とともに滑りがさらに大きく、伸びやかになったためだろうか。ショー仕様で小さめに設営されたリンクがさらに狭く狭く感じる。大人っぽい「pick your self up」を完全に自分のものにしてしまった、と感じるのもきっと新しい衣装のせいだけではない。その堂々とした滑りは「初登場」を微塵も感じさせない、もうずっと前からスポットライトを受けて滑っているスタースケーターのようだった。
そういえば浅田真央はノービス時代、2002年、2003年と2年連続でフィリップ・キャンデロロのプロアイスショーにゲストとして出演していたことがある。
「真央はプログラムで充分自分を表現でき、滑ることの喜びを感じさせてくれる選手。小さなころからああいったショーに出ていたことが、いまの真央の良さに磨きをかけたのかもしれませんね」(城田憲子日本スケート連盟フィギュア強化部長)
14歳にしてすでにショースケーターとして、私たちにフィギュアスケートを見る喜びを提供してくれる浅田真央、はじめてのプリンスアイスワールド。これが「最初で最後の」にならなければいいな、と思う。10何年かのち、プロスケーターとしてますます輝きを増した浅田真央の滑りが見られる、日本のアイスショーが続いているように。どんな形であっても「アイスワールド」存続を願いたい。
Photo by K.Asakura
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