Go Top
この特集
この特集では、浅田真央選手、安藤美姫選手をはじめとする注目選手の活躍や最新情報など、フィギュアスケートにまつわる様々なレポートを写真とともにお届けします。
この特集は携帯サイトでもご覧いただけます。
モバイル版 Sports@nifty
プロフィール
青嶋ひろの【ライター】
能登直【カメラマン】
お問い合わせや取材依頼は、[お問い合わせ窓口]より受け付けています。
カテゴリー
関連リンク
特集関連書籍
ココログ



フィギュアスケート特集

フレンズオンアイス2008レポート(1)

Foto219s  先週のドリームオンアイスに引き続き、今週のフレンズオンアイス。
 2週続けてこんなゴージャスなショーを見てしまって、罰が当たらないだろうか? 

 もちろんふたつのショーは、大きく違う。ドリームオンアイスは前のシーズンに結果を残した選手だけに参加が許されるショー。スケーターたちはその名誉を噛みしめ、そこに立つ誇りを感じながら滑ってくれる。
 フレンズオンアイスは、荒川静香というメダリストを中心に、その仲間たちが作り上げるショー。選ばれたスケーター、というよりも、自ら集まったスケーターたちによる、ぐっとフレンドリーなアイスショーだ。
 オープニング、名前をコールされたスケーターたちは、荒川静香を中心にくるりとまわり、彼女と親しげに目を合わせ、選手ではなくキャストとして紹介される。
「また来年も見たい、というお客さんの声に支えられて、今年で3回目のショーができました。また、ショーは私ひとりでは成り立たないもの。集まってくれるスケーターがいるからできるものです。みんながここまで短い期間でひとつのショーを仕上げてくれて……。参加したスケーター同士が、この場に集まったことでまた高めあえるショーでありたい。またこの場にいることで、スケーターたちが楽しくリラックスできるショーでもありたい。そう願っています」(荒川静香)
 
 そんな彼女が「3年目だから、06年から連続で出演しているショーのオリジナルメンバーといっしょに、何かできないか」と考え、作り上げたのが、グループナンバー「オペラ座の怪人」だ。
 ショーの中盤。天井から吊るされた豪華なシャンデリアを中心に繰り広げられたのは、仮面をつけた宮本賢二の妖艶な滑り、恩田美栄、本田武史、田村岳斗と、同じ時代を戦い抜いた3人のコラボレーション。続いて中野友加里と荒川静香が純白の衣装で登場すると、二人そろってのダブルイナバウアー! そしてビールマンスピンをする荒川静香の周りで中野友加里がジャンプ。中野友加里のドーナツスピンの周りで荒川静香がジャンプ!
「作り出すのはひとつのナンバー。でもその中で、出てくれるスケーター、ひとりひとりのいいところを存分に引き出せる演出、ひとりひとりの個性がしっかり発揮できる演出を考えてみました」
 白いふたりのクリスティーヌが夢のような時間をつむぎだしたかと思うと、おなじみの音楽とともに現れたのは、怪人・髙橋大輔! あの2007年東京ワールドを沸かせた「オペラ座の怪人」のステップを、あの衣装で、久しぶりに見せてくれた。
「実はこの演目を選んだのも、大ちゃんの『オペラ座の怪人』のステップがとても好きで、それをうまく生かしつつグループナンバーができないかな、と思ったからなんです。ミュージカルも映画も見て、音楽もCDを5枚くらい駆使して構成したんですよ」
 1年以上を経て、怪人・大輔は一段と迫力を増していた。力強い足さばきや自在な上半身。身体の動きも表情も、すべてにおいて一層の凄みを帯びて見えたのは、ワイルドなヘアスタイルやボーカル入りのドラマチックな音楽のせいだけではないだろう。ステップの後にはジャンプもスパーンと決め、ここで一挙に美しいプログラムを引き締める。
「彼も友加里ちゃんも、アマチュア。でもショーを見ると、もうこの人たちプロだな、と思います。その姿に刺激を受けて、私たちプロももっとがんばらなきゃ! と思ってしまう」
 後半には、本田、田村、荒川、中野と、4人がいっせいにイーグル。美しいこの技をそれぞれに極めた4人。試合ではいつも大きな拍手をもらっていたこの技を、4人が一度に見せてしまうのだ。仕掛け人の荒川静香は、スケートファンが何を見れば喜ぶかを、本当によく知っている。
 最後は恩田、髙橋、宮本の3人が戻ってきて、華やかにフィニッシュ。
 
 フィギュアスケートのグループナンバーは、プリンスアイスワールドやスターズオンアイスなどでおなじみだ。フレンズオンアイスの「オペラ座の怪人」は、それに比べればぐっとシンプルな構成。しかしこのうえなく煌びやかな作品だった。
 こんなに美しいものをみんなで作り上げられる幼なじみ、仲間たちとは、いったいどんなものだろう? ジャンプが得意なスポーツ少年少女たちが競い合って成長して、大人になって、また自らの意思で集まって。「オペラ座の怪人」は、彼らからスケートファンに送られた、素敵なプレゼントだ。

 他にも、振付けを担当したシェイ・リーン・ボーンと荒川静香が競演した「ある晴れた日に」。一般公募の子供たちによるキッズスケーティングのコーナー。ファンからリクエストの多かったナンバーを次々に滑る荒川静香メドレーなど、フレンズオンアイスならではの見どころがたくさん。
 中庭健介は3年前のEXナンバー「ロミオとジュリエット」、小塚崇彦は噂の新SP「Take Five」、中野友加里も同じく新SP「ロマンス」と、現役選手たちがドリームオンアイスとは別のプログラムを滑ってくれたのもうれしい。

 フレンズオンアイスは本日6日も2公演を実施。当日券も発売される予定だ。

photo/Masami Morita   text/Hirono Aoshima 


| 固定リンク | トラックバック (17)

ジャパンオープン 2008レポート(1) 中野友加里 挑戦し続ける心

0450_2  「人間、いい時もあるし、悪い時もある」
 4月20日、さいたまスーパーアリーナで開催された「ジャパンオープン2008」終了後の記者会見。中野友加里が、その日不調に終わった髙橋大輔へのメッセージを求められ、来シーズンへの期待をこめて語った言葉だ。
 世界選手権が終わって、およそ1カ月。この時期に行われる、ヨーロッパ・北米・日本の3地域対抗戦は、選手たちにとって調整がとても難しいものだろう。オフシーズンモードの演技だったとしても、やむを得ない。シーズン中、ピーキングにどれだけの集中力を注ぎ、どれだけギリギリのところまで自分自身を追い込み、あの素晴らしい演技が生まれているのか――ある意味、そのことを実感できる。だからこそ「いい時も」「悪い時も」あるのだ。
 そんな空気が支配しがちな、この時期の競技会で会場を一変させたのが、中野友加里だった。

 フリープログラムの『スペイン奇想曲』で、すっかりお馴染みとなった艶やかなオレンジ色のコスチューム。中野友加里は、その衣装に負けないくらい華やかな、きりっと引き締まった表情でリンクに登場した。
 まず会場を沸かせたのは、今シーズン挑戦し続けてきたトリプルアクセル。ダウングレード判定はあっても、シーズン全試合でトリプルアクセルを着氷した女子選手は、中野友加里だけだ。
 実はこの日、彼女はトリプルアクセルを跳ぶつもりではなかったと言う。プロトコルの申請もダブルアクセルで提出していた。
「コーチから『挑戦する友加里ちゃんの姿を楽しみにしている人がいる。たとえ失敗してもいいからやった方がいいよ』というアドバイスがあったので……。じゃあ、何があってもいいからやろう! と決心して、今日は臨みました。その結果、たぶん回転不足を取られていると思いますが、ちゃんと転ばず着氷することができて、よかったです」
 コーチから受け継ぐチャレンジ精神。それを実践することで着実に身につけている自信が、彼女の身体からキラキラと放たれている。このトリプルアクセルで、観客の心を一気につかんだ。
 美しいポジションを次々と展開するコンビネーションスピンでは、会場からため息ももれる。
 笑顔を振りまくスパイラル以降は、さらに畳み掛けるように魅せてくれた。トリプルトウ‐ダブルトウ‐ダブルループを成功させると、中野友加里自身も少し緊張が解けたのか、音楽に乗り、伸びやかなサーキュラーステップを披露。最後のドーナツスピンでは、彼女の手のひらが太陽のごとく突き上げられると、拍手とともに歓声が沸き起こった。そしてフィニッシュと同時に、スタンディングオベーション。会場中が興奮と感動に満ちた瞬間だった。
 イエティボリの世界選手権で、あれだけ素晴らしく、本人も納得の演技を見せて1カ月。彼女は気持ちを緩めることなく、さらにシーズンベストを更新するパフォーマンスを披露した。いい時も悪い時もあるはずの中、競技会で、コンスタントに一定レベル以上の演技を披露し続ける、安定感に心打たれる。その安定感とは、きっと日々の「挑戦」に裏付けられたものなのではないだろうか。この日、改めて、観客は中野友加里の底力を見せつけられた。

photo/Sunao Noto   text/Yukiko Oshima

*中野友加里選手と髙橋大輔選手のスペシャル対談が、現在発売中の別冊ザテレビジョン 男子フィギュアスケート~2007-2008メモリアルブック~に掲載されています


| 固定リンク | トラックバック (93)

女子フリー終了後 中野友加里選手コメント 「すべてを出し切った達成感でいっぱい」

Yukarifs_12e7231 ――フリーが終了しましたが、演技終了直後の気持ちと、結果が出た今の気持ちはいかがですか?
友加里 終わった瞬間は、すべてを出し切った達成感でいっぱいでした。もちろん、メダルを取れなかったことは残念です。でも、先生も「上出来、上出来」「何も言う事はない」と。やっぱり、先生や家族の喜ぶ顔が見られてうれしいです。

――ご家族にはもう会えたんですか?
友加里 いえ。でも観客席のどこにいるかはわかるので、顔はよく見えて。

――フリーは最終グループ最終滑走という大変な状況で、最高の演技を見せてくれました。
友加里 最終グループの選手への声援、待っている間にも、ものすごく大きく聞こえました。だからできれば、前の方の順番を引きたかったんですけれど……それは言ってもしょうがないですし! 先生も「何も聞こえない、何も聞こえない」と繰り返し言ってくださって。

――滑ってみると、自分への声援はさらに大きかった?
友加里 お客さんの声が後押ししてくれたし、今日は皆さんの声援がほんとうにはっきり聞こえるほど、落ち着いて滑れました。これだけの声援がもらえて、すごくうれしいです。

――今日のこの滑りは、来季につながりますね。
友加里 はい。でも今日はトリプルアクセルをちょっと怖がって緊張したことで、スピードを抑え気味だったかな。まず反省したいところは、出し切れなかったスピードです。それから全日本選手権から3か月空いてしまって、緊張の持って生き方も難しかった。この経験も、今後に生かせたら。他にも、今日は各国の選手たちのスコアを見ていますし、いろいろ勉強になりました。来季に向けて、他選手にあって私にないものを探して、また練習を積まなければ。

――3回転-3回転の練習も続けていますね。
友加里 今日の朝の練習でも跳んだんですが、ダウングレードの可能性があるから跳ばないでおこうと、先生と決めました。来季はぜひ。また、厳しい戦いになると思いますが……。オフシーズンも準備は怠らないようにしたいです。

 達成感と悔しさがないまぜになって、かえって淡々と話してくれた演技直後の共同インタビュー。2日後、髙橋大輔選手との対談では「4位が一番悔しい!」「むしろ5位より悔しいんですよ!」とふたりで口をそろえて熱く語ってくれた。悔しさをバネにさらに美しくなる、来季の中野友加里により一層の注目を!

photo/Sunao Noto   text/Hirono Aoshima 


| 固定リンク | トラックバック (49)

女子フリー終了 中野友加里4位、総合4位 スカンジナビウムの恋人

Yukarimmb_9881s_2  中野友加里は、イエティボリ世界選手権のメダリストだと私は思う。
 そう言うことが許されないのならば、この日一番観客に愛されたのは中野友加里だ、といい切りたい。

 キム・ヨナ、浅田真央のふたりに続く最終グループ最終滑走。ふたりのスターはともにミスの少ない素晴らしい演技を見せ、スカンジナビウムのお客さんは大喜びだった。
 でも、フィギュアスケートのファンは、貪欲だ。気に入っている選手だけでなく、出場する選手すべてに分け隔てない拍手を送ってくれる観客は多いが、それは同時に、勝ち負けを楽しむ以上にできるだけたくさんのいい演技を見たい、という貪欲さに繋がる。
 この日のお客さんも、最終滑走者の中野友加里に、それを要求していた。いい演技を見たなあ、でも、もうひとりいるぞ。まだすごい演技を見られるかもしれないぞ、と。
 
 その期待に、中野友加里は見事にこたえてくれた。
 彼女は、浅田真央やキム・ヨナほどの高い知名度はない。地元で大きなスポーツの試合をやっているから、ちょっと見に行こうか、というお客さんのなかには、ユカリ・ナカノを知らない人も多かっただろう。
 そんな選手が、浅田真央が見せてくれなかったトリプルアクセルを、まず見せてくれた! すごいじゃないか! 
 この時点で、もっといい演技を見たいと思っていたお客さんも、ひょっとしたら浅田・キムの演技でもう満足していたお客さんも、すべての観客の視線と興味を、中野友加里はその小さな体に集めてしまった。まだすごい選手がいるじゃないか! と。
 そして続くのは、たぶん今大会に参加した女子選手の中で、最も美しく、回転とともに人の心にさざ波を起こさせるようなスピン。3-2-2のコンビネーションもトリプルルッツも、すべてがクリーンだった7つのジャンプ(判定では回転不足がいくつかあったが、ほとんどのお客さんはノーミスの演技として楽しんだ!)。そしてなんといっても、可憐に、また艶やかに、巧みなスパイラルやスケーティングを引き立てる、中野友加里の豊かで愛らしい表情。
 見たかったものすべてを最後の最後にこうして見せられて、たぶんスカンジナビウムにやってきたお客さんのうち少なからぬ人数が、今日、中野友加里に恋をしたと思う。
 特に最後の最後、このプログラムをここで見たことを力強く印象付ける、速い速いドーナツスピンを見せられた瞬間――何かがはじけるように彼女に恋に落ちた人は多いのではないかと思う。
 ユナ・キムの、極められた優美さ。浅田真央の、音との脅威的な一体感。そんな、ちょっと手の届かないところで輝いているスケートにため息をつく感覚とはまた違う、見ていて思わず恋に落ちてしまうような、そういう種類の魅力が、今夜の中野友加里のスケートにはあふれていた。

 もうストレートに言ってしまうが、ほんとうに、ほんとうに心の底から、今日の中野友加里のフリーには感動した。記者席で見ている自分はこの演技にスタンディングオベーションができないことが、これほど悔しいと思ったことは、いまだかつてなかった。
 きっと、中野友加里のスケート人生すべてを振り返っても、間違いなく一番の演技だった思う。6人の最終滑走者の中でも、最も自分の力を発揮し、納得のいく演技をしたスケーターだったと思う。
 だからこそ、絶対に! 彼女が表彰台の上に立っているところを見たかった!
 ジャッジの採点に対して……これほど不服を感じたことはないし、これほど悔しいと思ったこともない。

 結果のことは、これ以上言っても仕方ないだろう。
 今はただ、中野友加里のこれまでのすべての努力が、今日の演技に結実したことを喜びたい。
 会場のたくさんのお客さんが点数と結果にブーイングをしてくれて、いっしょに中野友加里を愛してくれたことを喜びたい。
 そして、次からは間違いなくメダリスト候補として世界の舞台で戦っていくだろう中野友加里が、彼女の地道な努力をさらに続け、その果てに、文句ない栄冠を手にする日が来ることを、心の底から祈りたい。

photo/Masami Morita   text/Hirono Aoshima 


| 固定リンク | トラックバック (27)

SP終了後、中野友加里選手コメント

Yukarip1000635 「すごく緊張していました。いつもの試合とは違う緊張感で……。全日本のような失敗は二度としないように、それを念頭に置きながら滑りました。先生も『大丈夫! 練習してきたからできる! って言ってくださったし。

 結果、ジャンプはミスがなかったけれど、ちょっとスピードが抑え気味だったかな。明日はもっとスピードを出したいです。

 3位に入れましたが、大事なのは明日の結果です。下の選手とも点数の差はあまりないので、考えすぎずに。今日の評価は明日へのステップとして受け止めて。今の順位、また滑走順を考えると、フリーは緊張感があると思います。上手な選手といっしょに滑ると、いつも気持ちがひいてしまうことがよくあるので……。でもそんな弱さを出さないように。あまりまわりのことは気にせずに。シーズン最後なので、いつも先生が言うように、滑りを終わったら倒れてもいいくらい力を出したいです。ひとうひとつの技を丁寧にできたらと思います」

*写真は世界選手権での初めての記者会見終了後、SP3位のスモールメダルを手ににっこり。

text/Hirono Aoshima


| 固定リンク | トラックバック (18)

女子シングルSP終了 中野友加里3位 フィギュアスケートの真髄へ 

Yukari_12e2008_2   かつて、10代のころの中野友加里は、誰よりもアスリートらしいアスリートだったように思う。
 負けず嫌いで、ひと一倍努力家の女の子は、「もっと難しいジャンプを跳びたい!」「試合で勝ちたい!」その一心で、ひと一番熱心に練習を続けた。
 その努力の結果、トリプルアクセルを跳べるまでに強くなったし、日本を代表するスケーターの一人にもなった。
 でも、どこか彼女の滑りやスタイルには独特の癖があって、一生懸命なアスリートががんばって演技をするとこうなる――そんなスケートをしていた。
 表情だっていつも真剣そのもので、氷の上にたった一人で立っていても、見えない敵に今にもかみつきそうな顔をしてしまう。気負いすぎて緊張だっていっぱいしたし、それで力を出せないこともたくさんあった。
 汗も涙もたくさん流した努力の跡が、その滑りから伝わってくる……そんなスケーターだったのだ。

 それが、今日の中野友加里はどうだろう。
 世界選手権出場は、3度目。日本の、ではなく、世界のトップスケーターのひとりとしてすっかり認められて参加した今大会のSP。
 彼女が見せたのは、本当にオーソドックスな、フィギュアスケートの美しさに満ちた滑りだった。スケーティングもスピンも、ぽろぽろと天上からこぼれおちるようなピアノの音色に呼応するように、自然。3回転‐2回転のジャンプは、女子選手のジャンプにはこうあってほしいと思わせる、しなやかさ、軽やかさ。すうっと差しのべる手の伸ばし具合ひとつとっても、派手さはないがひとつひとつが、見る者の心を鎮めるような美しさだ。
 何かを表現する人々、中でも一流の人々は、その表現の後ろにあるはずの、汗も涙も決して見せはしない。ただ夢のような時間を提供し、自らが作り出す夢の世界に見る人を引きずりこむだけ。そんなパフォーマンスを、今夜の中野友加里はできていたと思う。そして彼女の見せてくれたものは、バレエでもダンスでも演劇でもなく、フィギュアスケートというジャンルだけが見せられる、その心髄の美しさだ。

 たとえば髙橋大輔のヒップホップ風「白鳥の湖」、コストナーがパンツルックで滑ったSP「Riders on the Storm」など、フィギュアスケートらしさを超えようとするプログラムも、素晴らしい。
 でも、中野友加里と佐藤コーチ夫妻が選び、作り出したショートプログラムは、もう一度フィギュアスケートの原点の美しさを、フィギュアスケートらしさを見直したくなるような、オーソドックスな作品だ。
 もう半世紀以上氷の上に立ち通づける佐藤信夫コーチが、時々話してくれる昔語りの中の、ほんとうにシンプルで、だけどただただ美しかったというフィギュアスケートは、こんなだったのかもしれないな。私たちの知らない古き良き時代のスケートを、中野友加里を通してみててくれたのかもしれないな――。そんなことを、彼女の滑りを見つめるコーチの顔を見て思った。

 でも、最後の最後。プログラムがほとんど終わるという時に、3つ目のジャンプ、ダブルアクセルを跳んでしまうところなど、やはりアスリート・友加里だ。誰もが前半に跳び終えてしまいたいジャンプを、最後の最後にアクセサリーのように軽々と跳んでしまうことが、私にはできるのよ、と、誇らしげに言っているかのように。
 しかしその一瞬ののちには、本当に最後のエレメンツ、コンビネーションスピンで世界一美しいドーナツスピンを見せる。少しだけ見せたアスリートの顔を優雅に隠して、やはりフィギュアスケートの美を表現する者として、中野友加里は2分40秒を終えた。

 癖のあるアスリートの滑りから、一番フィギュアスケートらしい滑りへ。
 これだけ大きく彼女のスケートが変わっても、結局は中野友加里の心の芯にあるものは変わらないのではないか、と思う。「ジャンプを跳びたいたい」「勝ちたい」そんな気持ちで練習を続けてきた彼女は、どこかの時点でさらに、「美しく滑りたい」と願う気持ちを加えたのだ。
 でも、なりたい自分が増えただけで、一貫して、「こうありたい!」という自分の姿を追い求める気持ちは、きっと変わらない。
 そして、時間は少しかかったとしても……なりたい自分の姿に、中野友加里は着実に近づいている。

photo/Sunao Noto   text/Hirono Aoshima


| 固定リンク | トラックバック (15)

女子SP前日、中野友加里選手コメント

Yukarip1000579 ――滑走順も決まりましたね。
友加里 これでもう、ほんとに明日はショートプログラムなんだなって思いました。でもまだ実感はわかないんです。今回は男子より先ということなので、早く終わって試合の後を楽しみたいです(笑)。

――目標の一つでもある3回転-3回転の調子はいかがですか?
友加里 3-3は今シーズン前からずっと練習してきたジャンプ。今まで試合では回避してきたけれど、練習はずっと続けています。全日本選手権が終わった後は、曲かけでもすべて3-3を入れてきました。

――世界選手権では満を持して挑戦の予定?
友加里 それは断言できないですけれど(笑)。挑戦できたらいいと思います。ショートプログラムが終わったあとの順位、その時の気持ち次第ですね。


| 固定リンク | トラックバック (11)

世界選手権直前! 佐藤有香さんからのエール(1)

Yukari_mg_3099  アイスショーで活躍しながら、アメリカ・デトロイトのリンクでは振付師、コーチとしても実績を積んでいる佐藤有香さん。日本からも多くの選手が、彼女のもとに振付指導、スケーティング指導を受けにやって来る。今回世界選手権代表として出場する小塚崇彦選手、南里康晴選手、中野友加里選手も、有香さんの影響を大きく受けている選手たち。自身も世界選手権を制したことのある佐藤有香さんから、期待の3選手にエールを送ってもらった。

――小さな子供たちからオリンピックチャンピオンまで、コーチや振付師としてたくさんの選手と接してきた佐藤有香さんに、おなじみの選手についてお話を聞きます。まずは今年で3回目のワールド出場となる中野友加里選手。彼女はデトロイトのマリーナ・ズウェアさんにずっと振付けを依頼していますし、佐藤信夫コーチのもとに移ってからは有香さんとの関わりは深いですね。
佐藤 そうですね、彼女は私の両親(佐藤信夫・久美子コーチ)についていることもあって、いつも家族のように応援しています。がんばってほしいな! ふだんの友加里ちゃんはね……優等生なんですよ(笑)。毎年わりと賢く、きっちり練習してきますよね。でも試合になるとちょっとかたくなって、練習の時よりも演技が小さくなってしまうところがあって……。本番でも練習と同じスケールで滑れるようになるといいな、といつも思っています。

――練習では、もっともっといい演技ができている?
佐藤 はい。でも私自身も経験していることですが、試合のあの場所で体がすくんでしまうのは、当たり前のこと。そんなに簡単に克服できるものではないんです。それが最近の彼女は、緊張感で調子の悪いスタートをしてしまっても、それを演技途中で立て直せるだけの精神力を培っている。それが素晴らしいな、と感心しています。結局は、あの練習量が本番でもものを言うんでしょうね。

――年を追うごとに演技もどんどん深みを増していますしね。
佐藤 そう、友加里ちゃんは……なんとなく不思議な魅力を持った選手なんです。日頃はこれといって派手なところを見せないんですが、試合に出てくると、氷の上に立つだけでスッとした雰囲気を出すし、滑りにもなんだか独特のおもしろさがあるなあ、と。彼女の演技、いつも楽しませてもらっています。

――中野選手と同じく佐藤コーチ夫妻に師事している小塚崇彦選手も、世界選手権初登場です。
佐藤 タカのことは小さい頃から見ていますが、本当に大きくなって(笑)。いま19歳。全日本選手権で代表が決まって、世界選手権までの数か月は、練習すればするほど伸びる、いい時期だったと思います。スターズオンアイスのようなショーにも出ましたし、人前でパフォーマンスをすることもすごく大きなステップになったんじゃないかな。ほんとうに成長期、いい時期ですよね! トレーニングすればするほど、身体も強くなるし、間の取り方など様々な呼吸もつかめてきているはずです。あとはとにかく健康で、風邪などひかず、ケガもせず、世界選手権を迎えてくれれば。

――初めての大舞台、年齢的にもいい時期に迎えられるということですね。
佐藤 世界選手権そのものが、彼にとってすごくいい練習になると思いますよ。今回いい演技ができればそれはそれでうれしいけれど、結果を気にするよりもとにかく、若いので色々な経験をしてほしいです。大ちゃんみたいに一生懸命練習をする先輩も隣にいますし、彼らと一緒に遠征に出ることも、すごくいい勉強になるはず。上の選手に少しでも近づけるようにって、思いますからね。

――今回で大きな結果を出すというよりも、今後のためにいい世界選手権にしてほしい、と。
佐藤 そう、せっかく今年、大きなヤマを一つ越えて、やっとつかんだ世界選手権代表です。思い切りあの場を体験してほしいな。きっと彼は、世界選手権が終わった時にこそ、また一つ大きくなって帰ってくるんじゃないかと思います。将来性も高い選手なので、あの場を経験して、もっともっと器を大きくしてくれるでしょう。

photo/Sunao Noto   text/Hirono Aoshima 
*写真は08年全日本選手権SP


| 固定リンク | トラックバック (14)

全日本選手権女子SP終了 村主章枝3位、中野友加里4位  (2)

Img_7273s  点差はたった2.3点。しかしミックスゾーンでの村主章枝、中野友加里の表情は対照的だった。気丈な中野友加里は、記者の前で涙を見せることはほとんどない。しかしこの日、涙は流れこそしなかったけれど、大きな瞳にたまって、必死にとどまろうとしていた。
「とにかく今はルッツの失敗のことしか考えられません」
 ここまで悔しさを露わにする彼女を見るのは、はじめてかもしれない。
 
 失敗は、ルッツがダブルになった、その一点のみだった。
「今シーズン、一番緊張しました」
 と本人も言うように、村主章枝の演技で熱くなったリンク、そこに出て行く時の表情の硬さは、グランプリファイナルの比ではなかった。こぶしは固く結ばれたままほどかれないし、氷を蹴る勢いも、演技ではなく喧嘩でも始めそうだ。
 世界選手権がかかった一戦。ずっと好調を維持してきたシーズン、絶対に出たいという気持ち。争う相手が、元は同じコーチのもとで練習し、大学の先輩でもある村主章枝だということ。その彼女と滑走順が隣り合わせになり、直前に素晴らしい演技で終えられてしまった状況。いやでも聞こえるお客さんの大喝采……。これだけの重圧の中、パーフェクトな演技ができればほんものだ、と思った。
「でも、ルッツがダブルに……。踏み切るのが、いつもより早かったんだと思います。タイミングが合わなかった」
 試合は怖い。心の大きな揺れが、猛練習の積み重ねで身につけた得意のジャンプなタイミングをも、狂わせてしまう。
 しかし今日、中野友加里の底力を見たのは、ルッツの失敗以降だったかもしれない。「女子では世界で数人の、トップレベルに入るのではないでしょうか」と平松純子フィギュア部長にも絶賛されたスピンは、この日誰よりも速く、スムーズなポジション変化で魅せた。ストレートラインステップの動きの鮮やかさやスピード感も、イーグルからのダブルクセルのジャンプとして美しさも、どのエレメンツをとってもトリノでみたものの何倍も精度を上げている。
 そしてスパイラルで、ステップで見せた、観客にしっかり視線を送る華やかな笑顔! この笑顔を見た時点で、中野友加里はルッツの失敗のことなど何も気にしてはいないんだ、と思ってしまった。一つのジャンプの失敗などにとらわれず、自分の世界を今日は描けているんだ、と。
 とにかくルッツの失敗以外は今シーズン最高の、いや中野友加里のSP史上最高の演技だったのではないだろうか。

 しかしどんなに記者が讃えても、ジャンプミスがありながら高得点が出ていることを聞いても、表情は曇ったまま。「他の部分が良かったかどうか……わかりません。ルッツのことしか頭になくて、得点もしっかり見ていないんです」
 そんなに落ち込むことなど、ないのに! と、本当に大きな声で言いたい。この緊張感のなかでこれだけの演技ができたこと。ルッツの失敗をこんなに引きずりながら、体はきっちり身につけた動きをこなし、表情には一点の曇りもなかったことに、むしろ驚いた。質問に答える泣きそうな表情、振り絞るような悔しさとは対照的に、見ているこちらはほんとうに、失敗したからこそ中野友加里の真価が見られたことが、うれしかった。
「今日のことは忘れて……フリーでは、まずは自分の演技に集中してがんばります」

 村主章枝と中野友加里。26歳と22歳。日本の女子シングル黄金時代を築いてきたふたりが今日、おそらく世界選手権への3枚目の切符をかけて、争う。ほんとうに、今年ほど世界選手権の切符が4枚あればいいのに、と思ったことはない。
 きっとどちらも一歩も引かない。お互いの積み上げてきたもの、お互いの信じるスケートを、思い切りぶつけてくれるだろう。「技術的には二人ともが高いものを持っている。『世界選手権に行きたい!』その気持ちが大きい方が、勝てるのでしょう」(伊藤秀仁強化部長)
 ふたりともに、体調もメンタルも最高のコンディションでフリーを迎えてくれること祈るしかない。そしてすべてが終わった後、ふたりともが悔やむことなく結果を受け入れられる戦いであることを、祈るしかない。
 

photo/Masami Morita   text/Hirono Aoshima 


| 固定リンク | トラックバック (12)

グランプリファイナル2007 エキシビション終了、中野友加里共同インタビュー「イタリアでこの曲が滑れて良かった」

Yukari00365  競技の緊張から解放された表情で、エキシビションに登場した中野友加里選手。気持ちはすでに年末の全日本選手権に向かっているようだが、「アリア(風)」にのって、ひとときリラックスした空間を作り出してくれた。

――グランプリファイナル、無事終わりましたね。
友加里 はい、すごくレベルの高い試合だったと思います。フリーのトリプルトウループの転倒は残念だったけれど、全体的には自分のやれるだけのことはできた。それはとてもよかったと思います。でも技術的には3回転-3回転をはじめ、いろいろなことがまだまだ足りないなあ、と。プログラムも、ひとつひとつの動作をきれいにしたいし、もっと見せられるものにしたい。まだまだ磨いていかないといけない、と思いました。

――エキシビションでは生き生きとした「白鳥」を見せてくれました。
友加里 イタリアでエキシビションが滑れるのがすごくうれしくて! 歌ってる方もイタリアの方(ジョルジア・フマンティ)、歌詞もイタリア語ですし、ここで披露できなかったらもったいなかった! 出られてほんとうに良かったです。フマンティさんも喜んでくれてます。

――ここまで4試合連続で決めているトリプルアクセル。次はいよいよ全日本選手権ですね。
友加里 全日本でトリプルアクセルを跳ぶこと、すごく怖いです。難しいジャンプ、そんなに簡単に跳べるジャンプではないので。でも決めたい、という気持ちは確かにあります。

――これから全日本選手権までの予定は?
友加里 一度新横浜に帰って練習スケジュールをチェックして、それから新横浜のクラブから全日本に出る選手、みんなで中京大学のリンクに行きます。24日か25日には大阪入りかな。

――全日本までにプログラムに手を加える部分はありますか。
友加里 まずステップをもうちょっと練習しないといけないですね。それからスピンも、得意にしているエレメンツなので、すべてでレベル4がもらえるように。先生とも相談して、できれば変えてみたいです。ショートプログラムではビールマンスピンもやる予定です!

text/Hirono Aoshima 


| 固定リンク | トラックバック (6)

グランプリファイナル2007 女子シングル終了 中野友加里5位

Yukaritorinofs  グランプリファイナルとは、こんなに緊迫感のあるものだっただろうか?
 パラヴェーラに集まる選手たち、その間に流れる空気は、手が切れそうなほどピンと張りつめている。無事に演技を終えた選手たちが見せる表情は、ほんとうに大きな舞台を無事に終えた安堵感でいっぱいだ。
 ここがオリンピックの行われた会場だから? いやいや、トリノ入りしたばかりのころは感激していた選手たちも、数日いれば「オリンピックのあったリンク」にも慣れる。それよりも、賞金も上がり、世界ランキングの価値も上がり、注目度もずいぶん高まったまったグランプリシリーズ、そのファイナルのポジションが今年はさらに上がっていること。それを選手たちが肌で感じているのだろう。
 数年前までは、スキップする選手も多かったグランプリシリーズ。ファイナルといえどなごやかなお遊び的な雰囲気があったはずだが、2007年のパラヴェーラにはそんな余裕はみじんも感じられなかった。

 中野友加里もまた、極限まで緊張した様子で、フリーを迎えた。
 演技前には腕を大きく振りまわし、スケートもたかたかと、せわしなく走ってしまっている。高校生くらいの頃の中野友加里によく見られた、「戦闘モード」、突入だ。これは危ないな……と思った。こんな時の彼女は、周りが全く見えなくなって突っ走って、エレメンツからも演技からものびやかさが失われてしまうのだ。……高校生の中野友加里だったら。
 グランプリファイナルも2度目、世界選手権でも2回も5位を経験して、すっかりおなじみのスケーターになった彼女は、もう緊張などでつぶれたりはしなかった。
 戦闘モードのまま、まずはトリプルアクセルをきれいに成功! 浅田真央と中野友加里、二選手が今夜はトリプルアクセルを跳び、グランプリファイナル初となる快挙に沸いたが、アクセルで得た点数に関しては、中野友加里の方が上だった(7.5点)ほど、上質なジャンプだった。
 そして、絶対に気持ちはまだ落ち着いていないはずのこの状態で、きちんと本来見せるべき演技を見せてくれたことが素晴らしい。昨日のSPではピアノの音色。今日のフリーではハープの爪弾きに合わせて回るコンビネーションスピン。優雅で、少しお姉さんな雰囲気で、ひとつひとつのエレメンツや振り付けをこなし、音楽はスパニッシュだけれどどこか高貴な滑りを見せた前半。
 さらに後半は、残念なトリプルトウの転倒がありながらも、笑みを絶やさず力強くサーキュラーステップ。音楽のパワーに負けず、挑発的で、蠱惑的、前半とは打って変わって意志の強い女性を演じた。
 また最後のドーナツスピンも、昨日の穏やかなスピンとは全く違うものだった。誇り高くて、強いドーナツスピン。回転の途中、カッと天に向けて突き出された腕からは、きれいなだけじゃないよ、こんなふうにだって見せられるんだよ、という彼女の誇らしげな声が聞こえてきそうだ。

 22歳。もう突っ込んで自分を見失ったりしない今の中野友加里のスケートは、様々な表情を持つ。プログラムごとに見せるものは違うし、一つのプログラムの中でも、自在に輝きや色を変えてしまう。こんなに表現の幅の広い人だったのか、と、今回は改めて驚いた。そして、まだまだいろいろな顔の中野友加里を見てみたいな、と思った。
 今年、大学4年生。卒論の執筆をしながら中野友加里はグランプリシリーズを戦った。大学卒業後は、ある程度の実績と覚悟がなければ競技を続けられない年齢になる。
 できるだけ長く、できるだけたくさんの中野友加里を私は見たい。そのために、彼女の練習環境が整うこと、彼女の実力と魅力に見合ったサポートがあることを願っても、決して高望みではないと思う。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima 


| 固定リンク | トラックバック (10)

グランプリファイナル2007 女子シングルSP終了 中野友加里4位

Yukariimg_6094  つくづくピアノの音色をよくとらえたプログラムだな、と思った。
 ショパンの「幻想即興曲」はオーケストラバージョン、室内楽アレンジバージョンなど様々なバージョンがフィギュアスケートで使われている。そのなかで、中野友加里と振付けの佐藤久美子コーチが、原曲であるピアノ曲を選んでくれたことは、なんとなくうれしかった。ピアノだけ、ヴァイオリンだけといったシンプルな曲は、表現することが難しい、もっと盛り上がるオーケストラ曲や賑やかな映画音楽などで、曲に助けてもらいたい、多くのスケーターたちはそう言う。でも、芯に強いものを持ちつつ、フェミニンでやわらかな雰囲気を漂わせる今の中野友加里ならば、このシンプルだけれど強い訴えかけのあるピアノ曲こそが、ぴったりだと思ったのだ。

 2年ぶりのファイナルという緊張感と、冒頭のコンビネーションジャンプの流れが良くなかったこともあってか、表情はやっと絞り出したような笑顔だった。しかし、しなやかな手の動きも、基本に忠実なエッジワークを見て美しいものにまで高めたステップシークエンスも、ほんとうによく音楽と調和している。「ロシア杯後は5コンポーネンツを上げるためにがんばってきました」と前日語っていたが、久美子コーチと中野友加里が作り上げた優雅さ、可憐さに、パラヴェーラのお客さんはどんどん酔いしれていったようだ。
 ああ、きれいだなあ、そして何だかほっとするなあ、と思ったのは、プログラム最後、得意技の高速回転ドーナツスピンだ。競技のまっただ中なのに、そしてよくよく見ればドーナツスピンの形は、人間の体を不自然に折りたたんだいびつなもののはずなのに、なんだか見ていて心が穏やかになる、不思議な動きだ。今までも、彼女のドーナツスピンを「すごい!」と思うことはあった。でも、こんなふうに心を揺さぶられるのは初めてのこと。中野友加里が鍛錬に鍛錬を積んだポジション、リズミカルな回転、それがショパンの名曲の中に置かれることで、ドーナツスピンは大きな力を持ったような気がする。人の体の動きで人を酔わせる。そのためにスケーターたちは毎日毎日、過酷な練習を積んでいるのだな、と思った。
 最後は、ピアノを弾き終えるような、響き渡った音色を鎮めるような印象的なポーズでフィニッシュ。

 中野友加里の作り出した空間の穏やかさ、清廉さに対して、十分な点数は出なかった。
「この試合の前にステップシークエンスを変えたばかり。新しいステップは十分な練習ができていなかったかもしれません。その他にもいくつか小さいミスをしてしまいました」と、彼女自身も振り返る。
 だが得点が出た時、思わぬ出来事が起きた。トリノのお客さんたちはこの点数に対し、大きなブーイングをしたのだ。次の滑走者は、地元の星、コストナー。普通ならばお客さんの気持ちはすぐにでもコストナーに移ってしまってもおかしくない。それでも観客たちは、確かに彼女の演技に何かを感じて、「もっと点数が出てもいいぞ!」と言ってくれたのだ。
 キス&クライでちょっと顔を曇らせていた中野友加里は、このブーイングを聞いただろうか。これこそが、今夜の彼女の得たもの。点数や順位では表せない、この演技を心で受け取った人々の、確かな評価だ。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima 


| 固定リンク | トラックバック (6)

グランプリファイナル2007 女子シングル公式練習レポート

Torinoday100339  女子シングルも13日、14日と二度の公式練習を終了。2日間で選手の表情にも微妙な変化が表れている。

 非公式の練習でのびのびとした滑りを見せていたキャロライン・ジャンは、13日も習得したばかりの3回転-3回転を素晴らしいスピードと勢いで着氷。やはり14歳、どんどん上手くなっている様子が楽しかったが、本番を目の前にした14日は、ちょっとだけ硬い表情に。ジャンプも崩れがちで、緊張感と疲れが見えてくると、堂々と戦ってきた彼女もまだ14歳なのだと気付かされてしまう。

 中野友加里も公式練習が始まってから、少し笑顔が小さくなってしまったようだ。ショート前日はジャッジ席に素敵な笑みを見せながらステップ。スパイラルでもしっかり客席に目線を送っていたが、14日は少し焦っている時の滑りの慌ただしさが見えた。練習終盤には佐藤コーチとしっかり対話。誰よりも経験豊富な彼女のことだ。本番にはしっかり合わせてくることを期待したい。また14日の公式練習では、カナダ国立バレエ団に制作を依頼した新しい衣装を着用。ピアノの音色に合わせてきらめくようなニューコスチュームもお楽しみに。

 カロリーナ・コストナーは、地元でのファイナルということで、思いもひとしおだろう。公式練習中も頭上の大きなビジョンに、彼女の出演しているCMや、トリノ五輪でイタリアの旗手を務めている姿がひっきりなしに流れていた。映像のなかでゴーカートに乗ったりトランポリンで跳びはねたりしている明るい女の子が、すぐ下のリンクではジャンプが抜けたりお手付きしたりと、プレッシャーに苦しんでいる……。メンタルの弱さが指摘されがちな彼女だが、この大一番を無事に超えられたら、ひとつ強くなれるのではないだろうか。

 本番直前になって表情がいきいきしてきたのは、キミー・マイスナー。06年に世界チャンピオンになってからの伸び悩みが心配されてきたが、今シーズンはスケートアメリカで優勝、初めてファイナル進出も果たした。14日朝の練習で見せた「The Feeling Begins」では、顔つきからも体の作るきりっとしたラインからも無理のない自信が感じられた。キム・ヨナ、浅田真央と戦いが決して楽ではない状況は続いているが、いい意味で気持ちをふっきって、自分の演技を極めて行こうという姿勢が今日はうかがえた。

 キム・ヨナの今シーズンの好調ぶりは聞いてたが、生で見るとここまでか、と驚くほどだ。トリプルルッツ、トリプル-トリプルなど、トリノ入り直後からジャンプは美しく決めまくる。プログラムの通しも気を抜かず、表情も振り付けもきちんとつけながら、ジャンプもしっかり跳んでしまうのだ。音楽に乗っての躍動感たっぷりの動きには、コーチのブライアン・オーサーも体をゆらして見守っているし、リンクにいた他の選手も自分の練習を中断して見入ってしまうほど。オーサーコーチは、「トレーニングは良くできているし、彼女の到達できるはずのレベルはとても高い。何の問題もないね!」と、自信たっぷり。しかし、グランプリシリーズ絶好調で、優勝候補筆頭と目されての戦いは、精神的に決して楽ではない。ショートプログラム「こうもり」の曲かけで、イナバウアーからのダブルアクセルにちょっと躊躇している様子も気になった。

 SP直前の今日、気持ちも滑りも一番いい状態にあったのは、おそらく浅田真央だ。現地に入ったばかりの前日の練習では、思ったよりもいい調子のトリプルアクセル、何度も完璧に着氷した3回転‐3回転に満足気。試合前にこんな明るい笑顔を見せるのは久しぶり、と思うほどご機嫌だった。今日も練習が始まる前、リンクサイドに立った時からなんだか楽しげで、滑りだせば目を見張るほど伸び伸びしたスケートを見せる。3回転フリップ-3回転ループは、セカンドジャンプの方が高い好調ぶり。この日のSPでは跳ばないトリプルアクセルも、後ろにダブルトウループをつけて成功させてしまった! プログラムを滑れば四肢の動きは他選手と比べ物にならないほど大きいし、気持よく足の上がるスパイラルも、複雑だけれど無理なくスケール感を感じさせるステップも、びっくりするほど素晴らしい。公式練習だというのに、見ていてちょっと感動してしまったほどだ。シリーズ2試合、少し納得のいかない出来だった今シーズン。自分は挑戦者だという気持ちでこのトリノにはやってきたのだろう。優勝することや他選手のことは気にせず、自分のスケートを見せたいという気持ちが、今日の浅田真央の滑りには表れていた。リンクサイドではアルトゥニアンコーチに加え、ロシアから駆け付けたタチアナ・タラソワコーチも身を乗り出して愛弟子を見つめている。

text/Hirono Aoshima

*写真はキミー・マイスナー選手 


| 固定リンク | トラックバック (9)

グランプリファイナル2007 13日公式練習後、中野友加里選手共同インタビュー

Yukari3522 ――2日前から現地での調整を続けてきた中野選手ですが、公式練習が始まりましたね。
友加里 はい、やっぱりみんなすごい人たちがそろったなあと、びっくりしています。なんだかみんなに触りたくないような感じで練習しちゃった(笑)。トリプルアクセルの調子も、昨日の方が良かったかな。でも、大事なのはトリプルアクセルだけじゃないので。

――ちょっと緊張していますか?
友加里 もちろんしてます(笑)。明日の本番も、緊張すると思います。まわりの6人は上手な選手ばかりだから……でも気持ちが引かないようにしたいです。今回はほんとうにレベルが高いので、びり脱出を目指していければ。

――今シーズン、ここまでいい調子で来ましたが、昨年からどのあたりがレベルアップしたと感じていますか?
友加里 エレメンツのレベルが思っている通りに取れるようになったことが、成長といえば成長かな。でも私が伸びたら、周りの選手だって上手くなってるんだと思って、常に向上心を持っていきたいです。

――さらに今、伸ばしたい部分は?
友加里 やっぱりファイブコンポーネンツ。先生にも、もうひといきだね、と言われています。スケーティングスキルやパフォーマンスの点数がもう少しもらえれば……。そのために、ロシアカップが終わってファイナルまでの間は、どう見せられる演技をするか、久美子先生にしっかりアドバイスをもらってきました。振り付けも細かく見ていただいたし、動きのメリハリ、情熱的に踊ることなど、教えていただいていて。そのあたりを今回の試合では出せればいいと思います。

――イタリアの食事を楽しみにしていましたが、堪能できましたか。
友加里 はい! もうおいしいもの、ほとんどみんな食べました。ピザ、チョコレート、カプチーノやラテもおいしくて。でもまだアイスを食べてないので、イタリアのアイスを味わってから帰りたいです!

 ちょっとずつ戦闘モードに入ってきた中野選手。本人は「びり脱出!」と謙遜するが、表彰台争いに絡んでくるだろうと予想する人は多い。調子がいいだけに本人も意気込んでしまいがちだが、おいしいものを食べて、夏の練習でやってきたことを信じて。リラックスして本番にのぞめば、結果は必ずついてきそうだ。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima 
*写真は13日公式練習後、リンクサイドで佐藤信夫コーチと


| 固定リンク | トラックバック (8)

グランプリファイナルに向けて 中野友加里選手コメント

Yukari0294  少し早めにトリノ入りし、本番に向けてじっくり調整中の中野友加里選手。充実した練習を積んだオフシーズンの成果をそのまま出せている今年、グランプリファイナルでも、いい笑顔を見せてくれそうだ。2年ぶりの出場となるこの大会への意気込みを聞いた。(12月3日、新横浜にて収録)

――今年の中野選手がすごいな、と思うのは、これだけスケート人気に火が付いてしまい、リンクが大混雑する中で、しっかりした練習を重ね、ファイナル進出を勝ち得たこと。日本のトップ選手の多くが海外に練習地を求める今、中野選手や神宮の武田奈也選手の活躍は、ほんとうにすごいな、と思います。
友加里 新横浜も夏の時期よりは練習時間が取れるようになってきましたが、リンクが混んでいるのは相変わらず。自分だけ、たまに崇彦(小塚崇彦選手)とふたりで、自由に練習できる時間は基本的に一日一時間なんです。

――それ以外は、一般営業時間や多くの選手たちといっしょの練習に。こんな環境で今回のファイナルに勝ち残った選手は、まずいないでしょう。
友加里 でも、練習環境が良くないからこそうまくなれるんだ、と思います。いい環境であるほど、きっと甘えてしまう。いつでも練習できるや、って気持ちに、きっとなってしまので。だから名古屋は強いんですよ。いつも混雑したリンクで育ってきたからこそ、みんな頑張れた。でも……子供のころは体も小さかったから、混雑のなかでもある程度の練習はできていたかな。大きくなってしまうと、さらに難しさはありますね。小さい子とぶつかってケガをさせないよう、気をつけて滑らなきゃいけないし……。とはいえ、ずっとこうした環境で育ってきたことは、私たちの強みだと思っています。

――今は名古屋だけでなく、全国で小さな選手たちが練習場所不足で悩んでいますが、この時代からもさらに強い選手たちが出てくるといいですね。そんなちびっ子たちにとっても憧れのひとつとなるグランプリファイナル。今大会に向けて、楽しみにしていることは?
友加里 やっぱりイタリアなので、おいしい食事かな! あとはファイナルを精一杯楽しむことです。グランプリシリーズ、今年は特に厳しい戦いだったから……。私の出たカナダとロシアは特にレベルが高かったですよね。もう、ファイナルに出られたことだけでも、幸せだと思って。

――グランプリシリーズ2戦、また東京選手権でも着氷し、今シーズンはトリプルアクセルも例年になく安定しています。このジャンプに対しての気持ち、変わりましたか?
友加里 ぜったいに跳びたい、って気持ちは、いつもの年と変わらず持ち続けています。でも実際にこうして跳んでみて、跳びたい気持ちの強さは、より増してきたかな。でもほんとうに難しいですよ、試合で跳ぶのは。ファイナルでも跳べるように……できるだけの努力はしていきたいです!

text/Hirono Aoshima 

*写真はグランプリファイナル記者会見でのひとこま。

既にありすぎる「根性」に関して高橋選手、松岡修造さん双方からつっこみが。


| 固定リンク | トラックバック (1)

開幕直前! トリノ・パラヴェーラレポート(3) パラヴェーラのトリプルアクセル!

 Torinoyukari00345

 12日。午後になると日本の中野友加里選手が佐藤信夫コーチ、加藤修トレーナーらとともにリンク入り。前日に続き、パトリック・チャン選手とふたりで貸し切り時間をシェアして練習を行った(パラヴェーラの貸切料金、とても高いのだ!)。
 ときどきオーバーターンするなど、ジャンプの調子はまだ上がりきっていない様子だが、佐藤コーチと密にコミュニケーションを取りながらいつも通りの落ち着いた練習ぶり。昨日は軽い練習のために跳ばなかったというトリプルアクセルにも、今日は挑戦した。練習中の成功率は約5割。フリー「スペイン奇想曲」の曲かけでは見事に成功! 
 一昨年のトリノ五輪でも昨年のユニバーシアードでも、女子シングルにトリプルアクセラーはいなかったから、練習とはいえ、パラヴェーラのリンク上で見られた初めての女子のトリプルアクセルだ。
 憧れのトリノ、中野選手はわくわくしているのか、それとも緊張しているのか?
「緊張しているでしょうねえ」と、佐藤信夫コーチ。
「本番でどうなるか……うーん、それが読めたら、なんだってできますよ(笑)」
 腰が痛い痛いといいながら、久しぶりに訪れたトリノでもいつものニコニコ顔。選手が調子がいときの、緊張感も漂わせながらの笑顔だ。
 しかし本番までまだ2日ある今日は、練習も全体的になごやかなムード。パトリック・チャン選手のロウコーチと佐藤コーチはリンクサイドで何やら楽しげに談笑しているし、パトリックの音楽CDを日本の加藤トレーナーがかけたりも。
 しかしこの時点ですでに、試合に向けてどう気持ちを持っていくか、選手たちのメンタル戦は始まっている。

text/Hirono Aoshima 


| 固定リンク | トラックバック (4)

フィギ