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Sports@nifty > スポーツレポート > フィギュアスケート特集 > 2007グランプリファイナル
この特集では、浅田真央選手、安藤美姫選手をはじめとする注目選手の活躍や最新情報など、フィギュアスケートにまつわる様々なレポートを写真とともにお届けします。
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フィギュアスケート特集

カナダ国内選手権直前 新鋭パトリック・チャンへの期待

Patimg_9234  年末、大阪で全日本選手権が開催された。四大陸選手権と世界選手権という大きな試合への出場権をかけた、重要な試合だ。そしてこれはもちろん、日本に限った話ではない。
 長年に渡ってロシア、アメリカに並ぶ層の厚さを誇るカナダでは、1月16日から国内選手権が開催される。注目の的は間違いなく、今季GPシリーズでめざましい活躍を見せた男子シングルのパトリック・チャンだろう。16歳にしてGPシリーズで優勝、ファイナルに出場という成績は、あのプルシェンコに次ぐものだ(プルシェンコは15歳でファイナル初出場、16歳でGPシリーズ初優勝を飾っている)。

 今季のGPシリーズ開幕戦、スケートアメリカ。この試合には、情熱的な演技で魅せたエヴァン・ライザチェクや、革新的なプログラムを披露した高橋大輔がいた。そんな「とがった」雰囲気のリンクに、爽やかな風を吹き込んだのがチャンの演技だ。
 曲が始まって10秒もしないうちに、彼の伸びやかなスケーティングと豊かな表現に誰もが引き込まれてしまっただろう。大きな鳥が舞い降りるような安定したジャンプ、優しく氷を撫でていくようなステップ。「女帝」の、また「四季」の音楽に乗って流れてゆく彼の演技は心地よい。とても自然で、穏やかだ。それはおそらく彼の人柄であり、彼が育まれてきた環境なのだろう。
 このスケートアメリカで彼は3位に入り、パーソナル・ベストを更新。続くフランス大会、エリック・ボンパール杯では優勝し、パーソナル・ベストをさらに更新するという快挙を成し遂げた。

 チャンの武器は数多い。今季見違えるほど安定したトリプルアクセルをはじめとするジャンプも、バリエーション豊富なスピンも、安定感がありながら伸びやかで自在なステップも、どれもが彼の武器となるだろう。しかし彼の一番の武器は、音楽に対する感性の鋭さではないだろうか。そしてその感性を充分に表現するために、指先から足先までしっかりと躾けられた所作。わずか16歳の男子選手で、ここまで繊細に音楽を感じて動ける選手というのは数少ない。しかもその動きは既に洗練されているのだ。
 彼の演技にはまだ、トップ選手たちのような鮮やかな色彩は無い。しかしそこに鮮やかな色が加わったとき、彼の演技は深い光を湛えるだろう。もしかしたら透明な色はそのままに、さらに純度を増すのかもしれない。

 今年、カナダ男子シングルの世界選手権出場枠は「2」だ。表彰台に乗っただけでは、大舞台には届かない。カナダには、過去3年間にわたってカナダ男子を制しているジェフリー・バトルや、昨年2位に入ったクリストファー・メイビーがいる(エマニュエル・サンデュは欠場)。彼らの中でチャンは、どのような結果を残すことが出来るだろうか。
 グランプリファイナルでのインタビュー、彼はこのように話している。

「僕は、この試合(グランプリファイナル)でかなり神経質になっていました。最年少だったし、これまでランビエールやジョニーとは滑ったことがありませんでしたから。彼らは本当に、トップレベルのスケーター。みんなウォームアップから、すごいスケートをしていました。僕には彼らほどの大きなプレッシャーが無かったことだけが救いです。本当に僕にとって、勉強になる経験でした」

 聡明な彼の言うように、国際大会で圧し掛かるプレッシャーはまだ軽いものだろう。しかし、国内選手権ではどうだろうか? 決して層が薄いわけではないカナダから、ファイナルに出場した唯一の選手。昨年の世界ジュニアでも2位という好成績を残しているのだから、国内でも既に注目が集まっているに違いない。その中でも、のびのびとした演技ができるだろうか。
 彼が緊張とプレッシャーに打ち勝って出場権を手にし、今季もう一度、私たちに素晴らしい演技を見せてくれることを期待したい。

photo/Dave Carmichael (2007グランプリファイナルフリー)  text/Miduka Kumakura


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グランプリファイナル2007 エキシビション終了、髙橋大輔共同インタビュー「やっぱり4回転、2本!」

Daisukeimg_0073  エキシビションでおなじみ「バチェラレット」を披露した直後の囲み取材。「真央は今、靴脱いでるんで……インタビュー、僕からお願いします」と、待ち構える報道陣に気遣いさえ見せてくれた。

――フリーから一夜明けましたが、気持ちは落ち着きましたか。
大輔 いや、時間が経てば経つほど悔しいです。悔しいし、全日本も近いので今日のエキシビションの練習は本気モード! おかげで本番、バテちゃいました(笑)。

――エキシビションナンバーでも大きな拍手をもらっていましたね。
大輔 いやあ……今日はねえ、お客さんが遠かった! ずっと下を向いているプログラムなので、客席が遠いと”気”を飛ばすのが大変なんです。今日は難しかった。でもできるだけ入り込めるよう、がんばりました。

――SP同様、意欲的なショーナンバーですが。
大輔 最初から最後まで、ひとつのつながりがあるプログラムなんです。全体を通して、なんだかよくわからない、くらーい感じを見てもらえるといいですね。でも今日はやっぱり練習をがんばりすぎた……。

――練習を見ていたら全日本選手権が楽しみになりましたが、プログラム構成などに変更の予定は?
大輔 変えるほどの時間はないので、今やっていることそのままで練習していきます。4回転は2本入れるつもりで、調整していきたいです。

――2度の4回転への意欲は、変わらず?
大輔 やっぱり4回転2本、やってみたいですね! 入れる入れるって言っておきながら、まだ入れられてないんですが(笑)。でもこれからの試合、きっとステファン、トーマス、もちろんジュベールも跳んで来ると思いますし、いやでも今後は入れていかなきゃいけない。自分の気持ち的にも、いつでも2本跳べるようにしておけば、不安もなくなりますし。

――練習を見ていると4回転の安定感も増していますね。
大輔 はい、調子のいい時はまず失敗しません。疲れてさえいなければ跳べるジャンプです。成功率は先シーズンより確実に上がっていると思います。

――全日本選手権での好演技、期待しています。
大輔 ありがとうございます。休みはあまりとらず、かといって追い込みもせず、うまく調整をして。このまま調子を落とさないように持っていければ。……次、真央ですよね? 呼んできますね、真央ー!

 呼んできてくれるのか、いいやつだな……と、ベテラン報道陣も驚く好青年ぶり。人に優しく、自分に厳しい日本のエース、彼が世界の表彰台の一番上に立つ日の記事を、私たちも早く書きたい。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima


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グランプリファイナル2007 エキシビション終了、浅田真央共同インタビュー「ジェラートはコーヒー味」

Maoimg_1761  とにかく楽しそうに、大きな動きでエキシビションナンバー「So deep is the night」を滑った浅田真央選手。泣いたり笑ったりの「真央ちゃん」に、トリノのお客さんもすっかり夢中だ。

――フリーから一夜明けて、グランプリファイナルはいかがでしたか?
真央 ショートプログラムでは初めて経験するようなことが起きて……。二度とこういう事がないように、トリノでのことをこれからに生かしたいです。やっぱり問題は自分の気持ち! 逆にフリーでの巻き返しは、すごく自信になりました。今年はずっとこのパターンで、最後は笑顔で終われてるから、いいのかな、悪いのかな……悪いですね(笑)。

――フリーは高得点も出ましたし、SP次第では総合得点200点超えも狙えそうですね。
真央 そうですね、昨日のフリーは今シーズン一番良かったし……。でもやっぱりショートを完ぺきに滑ることをまず考えたいです。それができたら、得点のことも考えられるかな。

――今日のエキシビションでは、いい笑顔が出ていました。
真央 試合と違って、自分でもすごく良かったと思います。でもステップで失敗しちゃったので、そのぶんダブルアクセルをたくさん跳んでみました(笑)。最後、音楽がちょっと足りなくなっちゃったのは、レイバックスピンのほかにもういっこ、張り切ってスピンを入れちゃったので、そのせいかな。

――トリノで楽しい思い出はできましたか。
真央 どこかに遊びに行ったりはほとんどできなかったんですけど、ショッピングモールでジェラートを食べました。荒川さんがオリンピック前に食べたっていうお店です。ショートの日とフリーの日、2回行ったんですよ。食べたのはコーヒー味!

――ジェラート食べて、元気になって。全日本が目前ですが、これからの予定は?
真央 アメリカで一週間練習してから、日本に戻ります。これからもう一度、スピン、ステップ、スパイラルをチェックして、ジャンプも毎日コンスタントに跳んで。全日本選手権でも3回転-3回転は2回、ファイナルと同じ種類を跳ぶ予定です。

――トリプルアクセルのさらに上のジャンプへの挑戦は、考えていませんか?
真央 うーん、全日本までは時間がないので、やるとしたらその先かな。新しいジャンプは練習を積んで、自分が自信を持てたら入れたいです。トリプルアクセルのコンビネーションも目標。練習でうまくいくようになったら、試合でも跳びたいです!

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima 


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グランプリファイナル2007 エキシビション終了、中野友加里共同インタビュー「イタリアでこの曲が滑れて良かった」

Yukari00365  競技の緊張から解放された表情で、エキシビションに登場した中野友加里選手。気持ちはすでに年末の全日本選手権に向かっているようだが、「アリア(風)」にのって、ひとときリラックスした空間を作り出してくれた。

――グランプリファイナル、無事終わりましたね。
友加里 はい、すごくレベルの高い試合だったと思います。フリーのトリプルトウループの転倒は残念だったけれど、全体的には自分のやれるだけのことはできた。それはとてもよかったと思います。でも技術的には3回転-3回転をはじめ、いろいろなことがまだまだ足りないなあ、と。プログラムも、ひとつひとつの動作をきれいにしたいし、もっと見せられるものにしたい。まだまだ磨いていかないといけない、と思いました。

――エキシビションでは生き生きとした「白鳥」を見せてくれました。
友加里 イタリアでエキシビションが滑れるのがすごくうれしくて! 歌ってる方もイタリアの方(ジョルジア・フマンティ)、歌詞もイタリア語ですし、ここで披露できなかったらもったいなかった! 出られてほんとうに良かったです。フマンティさんも喜んでくれてます。

――ここまで4試合連続で決めているトリプルアクセル。次はいよいよ全日本選手権ですね。
友加里 全日本でトリプルアクセルを跳ぶこと、すごく怖いです。難しいジャンプ、そんなに簡単に跳べるジャンプではないので。でも決めたい、という気持ちは確かにあります。

――これから全日本選手権までの予定は?
友加里 一度新横浜に帰って練習スケジュールをチェックして、それから新横浜のクラブから全日本に出る選手、みんなで中京大学のリンクに行きます。24日か25日には大阪入りかな。

――全日本までにプログラムに手を加える部分はありますか。
友加里 まずステップをもうちょっと練習しないといけないですね。それからスピンも、得意にしているエレメンツなので、すべてでレベル4がもらえるように。先生とも相談して、できれば変えてみたいです。ショートプログラムではビールマンスピンもやる予定です!

text/Hirono Aoshima 


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グランプリファイナル2007 フリー終了後、髙橋大輔共同インタビュー

Daisukep065 ――グランプリファイナル、惜しくも2位という結果でしたが……。
大輔 やっぱり優勝しにここに来たので、こういう結果になって悔しいです。1本目の4回転と後半のサルコウのパンク……。4回転が3回転になったときは「やっちゃった!」っていう気持ちが大きくて。ここで失敗したから、後半プラスがつくはずの構成が、うまくいかしきれなかったですよね。サルコウの失敗も普段まずしないことなのに、本番でしてしまって……。

――1本目の4回転の失敗、やはり演技に影響しましたか。
大輔 はい、途中で「4回転、どこかで入れなきゃ」と考えながら滑ったり、ステップで失敗して頭が真っ白になったり……。気持ちはずっと落ち着いていなかったかもしれない。また昨日からの疲れが残っていて、朝から体が重かったんです。このあと全日本が控えているので、時差を完全にこちらに合わせたくなくて……。現地にもぎりぎりに入って試合に臨むっていう、いい経験ができました。でも……悔しいです。優勝したかった。

――しかし2本目のジャンプで4回転、見事成功しましたね。
大輔 4回転は、もともと1本で行く予定でした。でも「これは4回転入れなきゃ勝てない!」と思って、とっさに2度目を入れたんです。あそこで4回転が跳べたことは自信になったかな? ニコライにも、今日は演技の出来よりも、急に構成を変えて4回転を入れられたことが大きい、といわれました。でも次は最初から2本入れて、両方成功できるように、がんばります。

――時差調整や4回転。世界選手権前にここで試合をした意味は大きそうですね。
大輔 そうですね。エヴァンとはアメリカで試合してますが、ステファンやジョニーたちがどこまで仕上げて来ているか、一緒に練習をして、ここで知ることができた。とりあえずトップクラスの今年の雰囲気がつかめたのは良かったです。自分も飛ばしていこう! って気持ちになりました。試合はまだ誰の演技も見てないんですが……。ステファンは完璧ではなかった? そうか、ずっとiPodを聞いていたけれど、それでも歓声が大きかったから、いい演技なんだ、と思ってました。でも僕も完璧じゃなかったからな。僅差か……。やっぱり自分に対して情けない……。がんばれよ、何してんだ! って感じです。(隣でインタビューを受けるランビエールを見ながら)イケメンですね……。

――髙橋選手も、イケメンですよ。
大輔 いやいやいや、全然勝てません……。あ、でも見て(プロトコルの最後のスピンの箇所を指しながら)。すごい、レベル4! レベル3、3、4……。2がひとつもないよ! イェイ!

――得点だけでなく、すごいことですよ。トリノ五輪以降、1位か2位しかとっていない。2位でここまで悔しいと思えるようになってしまった。
大輔 そうですね……。4回転がパンクした時も「これで負けたかな?」と思ったけれど、気弱にならずに「まだ後半あるぞ!」って、すぐに攻める気持ちになれました。試合ごとの波も、大きなものはなくなったかな。オリンピックのころとは、心構えは違うと思います。もちろん不安はいつもたっぷりあるけれど、それを超えるやる気が、今はあるから!

 いつもしっかりした言葉で演技を振り返ってくれる髙橋選手だが、この日はいつになく饒舌。悔しさがあふれてあふれて仕方がないようだった。この気持ちをぶつける機会は、この先まだまだある。次回はうれしさで饒舌な髙橋大輔に、会いたい。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima 

*髙橋大輔選手のインタビューは発売中の日本男子シングルオフィシャルファンブック『Cutting Edge2008』に掲載されています


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グランプリファイナル2007 女子シングル終了 中野友加里5位

Yukaritorinofs  グランプリファイナルとは、こんなに緊迫感のあるものだっただろうか?
 パラヴェーラに集まる選手たち、その間に流れる空気は、手が切れそうなほどピンと張りつめている。無事に演技を終えた選手たちが見せる表情は、ほんとうに大きな舞台を無事に終えた安堵感でいっぱいだ。
 ここがオリンピックの行われた会場だから? いやいや、トリノ入りしたばかりのころは感激していた選手たちも、数日いれば「オリンピックのあったリンク」にも慣れる。それよりも、賞金も上がり、世界ランキングの価値も上がり、注目度もずいぶん高まったまったグランプリシリーズ、そのファイナルのポジションが今年はさらに上がっていること。それを選手たちが肌で感じているのだろう。
 数年前までは、スキップする選手も多かったグランプリシリーズ。ファイナルといえどなごやかなお遊び的な雰囲気があったはずだが、2007年のパラヴェーラにはそんな余裕はみじんも感じられなかった。

 中野友加里もまた、極限まで緊張した様子で、フリーを迎えた。
 演技前には腕を大きく振りまわし、スケートもたかたかと、せわしなく走ってしまっている。高校生くらいの頃の中野友加里によく見られた、「戦闘モード」、突入だ。これは危ないな……と思った。こんな時の彼女は、周りが全く見えなくなって突っ走って、エレメンツからも演技からものびやかさが失われてしまうのだ。……高校生の中野友加里だったら。
 グランプリファイナルも2度目、世界選手権でも2回も5位を経験して、すっかりおなじみのスケーターになった彼女は、もう緊張などでつぶれたりはしなかった。
 戦闘モードのまま、まずはトリプルアクセルをきれいに成功! 浅田真央と中野友加里、二選手が今夜はトリプルアクセルを跳び、グランプリファイナル初となる快挙に沸いたが、アクセルで得た点数に関しては、中野友加里の方が上だった(7.5点)ほど、上質なジャンプだった。
 そして、絶対に気持ちはまだ落ち着いていないはずのこの状態で、きちんと本来見せるべき演技を見せてくれたことが素晴らしい。昨日のSPではピアノの音色。今日のフリーではハープの爪弾きに合わせて回るコンビネーションスピン。優雅で、少しお姉さんな雰囲気で、ひとつひとつのエレメンツや振り付けをこなし、音楽はスパニッシュだけれどどこか高貴な滑りを見せた前半。
 さらに後半は、残念なトリプルトウの転倒がありながらも、笑みを絶やさず力強くサーキュラーステップ。音楽のパワーに負けず、挑発的で、蠱惑的、前半とは打って変わって意志の強い女性を演じた。
 また最後のドーナツスピンも、昨日の穏やかなスピンとは全く違うものだった。誇り高くて、強いドーナツスピン。回転の途中、カッと天に向けて突き出された腕からは、きれいなだけじゃないよ、こんなふうにだって見せられるんだよ、という彼女の誇らしげな声が聞こえてきそうだ。

 22歳。もう突っ込んで自分を見失ったりしない今の中野友加里のスケートは、様々な表情を持つ。プログラムごとに見せるものは違うし、一つのプログラムの中でも、自在に輝きや色を変えてしまう。こんなに表現の幅の広い人だったのか、と、今回は改めて驚いた。そして、まだまだいろいろな顔の中野友加里を見てみたいな、と思った。
 今年、大学4年生。卒論の執筆をしながら中野友加里はグランプリシリーズを戦った。大学卒業後は、ある程度の実績と覚悟がなければ競技を続けられない年齢になる。
 できるだけ長く、できるだけたくさんの中野友加里を私は見たい。そのために、彼女の練習環境が整うこと、彼女の実力と魅力に見合ったサポートがあることを願っても、決して高望みではないと思う。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima 


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グランプリファイナル2007 女子シングル終了 浅田真央2位

Maoimg_0760  起死回生をかけた浅田真央のフリー。ジャンプを次々決めてスローパートに入ったとき、今夜の彼女の動きの優しさ、柔らかさは浅田真央の心そのままだな、と思った。
 一度でも浅田真央と接したことのある記者たちは、「真央ちゃん、いい子だよね……」とほんわかした顔をしながら振り返る。いつも笑顔で、一度でも会ったことのある人になら、「あ、こんにちはー!」と旧知の友人のように挨拶してくれる。そんな浅田真央の優しさ、気立てのよさが、今夜のフリーにはそっくりあらわれているな、と思った。
 ジャンプだってそうだ。すべての迷いをふっ切ったように跳ぶルッツ、アクセル、フリップ。どれを跳んでもプログラムの流れを決して途切らせない。流れるように助走して、リズミカルにタイミングをとって、氷と戯れるように楽しそうに跳ぶ。まったくの錯覚なのだろうが、「真央ちゃん」の優しい心がこのジャンプを跳ばせているのではないか、そんな気さえしてしまう。
 中野友加里の表現には、若く美しい女性の持つ気高さがある。ユナ・キムの表現も、彼女のゆるぎないプライドで満ち満ちている。それに対して浅田真央は、ふんわりやさしい「真央ちゃん」の心のスケートだ。たとえ彼女の気持ちが「はい、次のジャンプ!」「ステップしっかり動いて、レベル4!」とエレメンツのことで頭がいっぱいでも、手足は勝手に彼女の心を表わしていく。そんな演技が今夜はできていたのではないだろうか。

 アピール力は、他のファイナリストたちに比べてまだまだ足りない。昨日のSPの順位を受けての緊張感もあって、いい時の浅田真央の持つ勢いや生き生きとしたエネルギーも、今日は存分には感じられなかった。まだまだ彼女がこれから必要になるものはたくさんあるだろう。しかし何より人々を心配させたのは、今日の演技後の涙だ。
 これまでも浅田真央は、昨年の全日本選手権で、3月の東京世界選手権で、氷上で大粒の涙を見せたけれど、遠い異国の地での涙は、少し痛々しかった。こんなにたくさんの人が見ている前で感極まってぼろぼろに泣いてしまうほど、ファイナルの戦いはきつかったのだ。優しすぎる子は勝負に勝てない、ちょっとくらい勝ち気な子の方がチャンピオンになれるというけれど、見ている人々が心配してしまうほど、浅田真央の気持は優しくて、弱い。これから世界チャンピオンやオリンピックチャンピオンを目指していくというのに、こんなところで泣いていて、どうする? まだオリンピックでもなければ世界選手権でもない、シーズン前半のターニングポイントでしかない試合で! 強い人々はそう思ってしまうだろう。

 しかし、そんなに簡単に、人は変われるものではない。優しい人間が、一年や二年世界のトップ争いを経験したからと言って、あっという間に強くなれはしない。優しくて、まっすぐで、フィギュアスケートに一生懸命な浅田真央だからこそ、今こんなに苦しんでいるが、こんな真央ちゃんだからこそ、あの暖かくて見る人を幸せで満たす演技ができるのだ。柔らかで優しい今の浅田真央を失ってまで、気持ちの強い浅田真央はいらない、と私は思う。
 バンクーバーまで、さらに目指したいというソチ五輪まで、私たちは何度も、彼女のスランプに一緒になってやきもきし、復活するたびに一緒に涙するだろう。浅田真央は、そういうタイプのスケーターだ。彼女の演技を楽しみたかったら、やきもきや歯がゆさに付き合っていく覚悟がいる。

 キス&クライでもぼろぼろ泣いてアルトゥニアンコーチにあやされていた浅田真央は、大きなビジョンに写っている自分の泣き顔を見ると、ちょっと照れて笑顔を見せた。この涙でぐしゃぐしゃの笑顔が見られるなら、それでいいなと思う。本当に弱い選手だったら、今日のノーミスのフリーはできない。苦しんで苦しみ抜いた末に、必ず浅田真央はここにたどりついて、笑顔を見せてくれる。それを信じて、いつまでも浅田真央の一喜一憂につきあっていこう。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima


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グランプリファイナル2007 男子シングル終了 髙橋大輔2位 

Daisukeimg_9824  髙橋大輔のグランプリファイナル、フリー。
 この試合を、私は心から楽しんだし、彼が勝てなかったと知った時は、心の底から悔しいと思った。スケートを見る楽しみも、競技の興奮もこんなに味わえたのは、久しぶりだ。

 髙橋大輔の滑走前には、エヴァン・ライサチェクとステファン・ランビエールのふたりが、ジャンプミスはあったものの素晴らしく気迫のこもった演技を、まずは見せてくれた。でもこのあとに、私たちはまだいいものが見られるのだ。しかも彼らに負けない演技を見せると期待され、最終滑走で滑るのは、日本の代表なのだ! かつては彼が滑る時には必ず抱いた不安、「大輔、大丈夫かな?」という気持ちが、今日はまるでない。ほんとうに彼の演技が見られることがうれしくて、心の底からわくわくしてしまう。見ている人をそんな気にさせるスケーターに、オリンピックから2年も経たずして髙橋大輔はなってしまった。

 冒頭にぜひ跳びたかった4回転は、残念ながら3回転に。この時点で本人は「やっちゃった! もう勝てない!」と思ったそうだが、すぐさま予定していなかった4回転をもう一度入れてしまう試み、そしてその成功に、見ているこちらはたちまちヒートアップ。「大輔、すごい!」 続くトリプルアクセルも、もちろん成功。アクセルからの3連続コンビネーションも難なく着氷! ここでもう、見ているこちらの緊張の時間は終わってしまう。大丈夫、もうきっと失敗などしない。あとは髙橋大輔の滑りを存分に楽しめばいいのだ。
 強く、自在に体が動くサーキュラーステップは今日も素晴らしかったし、スローパートの振り付けの見せ場では、青年が何かに身を捧げるさまを描いているよう。「物語は気にしないで、僕なりのロミオとジュリエットを滑れたら」と語っていたが、この日のフリーはフィギュアスケートに身も心も捧げている髙橋大輔自身の魂を表しているように見えた。
 いいなあ、素敵だなあ……。よく滑るスケートも、手足だけでなく頭や上半身までよく動くステップも、これが試合であることも優勝がかかっている大事な演技であることも忘れて、心底楽しませてくれるものだった。
「でも大きなミスはなかったけどサルコウがパンクしたり、小さなミスは続いてしまって……。何してんだ? って感じです」と本人は首を横に降る。
 確かに、もっとやろうと思えば、もっとこの人はできるだろうな、と思った。昨日のSPで感じた「こんなもんじゃないのに!」という思いとは少し違い、「この人なら、もっともっと楽しませてくれるだろうな!」と、さらにわくわくするような気持ちだ。「自分の演技ができなかった」というけれど、4回転に2度チャレンジして1度は成功し、トリプルアクセルも2度入れて。ここまでやって、スケートも誰よりも伸びて、わくわくさせてくれて、彼はもう間違いなく、世界の髙橋だ。
 オリンピック以来、久しぶりに生で彼の演技を見るトリノの人がいたら、さぞやびっくりしただろう。「いつの間に彼は、こんなチャンピオンの滑りをするようになったんだい?」と。

「今日は……かなり緊張してたんですよ。足なんてガクガクで、ステップも全然体が動いてなかった。緊張した理由は……久しぶりの大一番だったからかな。集まっている選手たちがもう、グランプリシリーズとは違いましたから。世界選手権以来、久々に大きいの来たな! って。でもこれだけ世界のトップがほぼ出揃って2位。この結果を、プラスにしていけたら」
 シーズン前、今年は一戦一戦試合のたびに何かを得ていきたい、と話していたが、本当にそのとおり。髙橋大輔はまたいろいろなことを学んで、トリノのリンクを去っていく。 
 でも、どうやらひとつ、彼は気づいていないことがあるようだ。それは私だけでなく、見ているたくさんの人々が同じように感じたことだろう。イタリア在住の日本人記者の言葉を借りれば、こうだ。
「髙橋君、あんなにかっこいいのに! 見た目だってスケートだって、全然欧米人に負けてないよ。何で本人、それに気づいてないの?」
 そうだ。髙橋大輔は、もっと自分に自信を持っていい。見ている人がこんなに自分のスケートを楽しんでいることを、知ったほうがいい。今回、これだけのジャンプを跳んでランビエールに追いつかれてしまった理由。技術的な分析ではなく演技から受けた印象だけで言えば、ランビエールにはあったふてぶてしいほどの自信、「俺を見ろ!」という気持ちが、髙橋大輔には足りなかったことだ。3位のライサチェクだってそうだ。彼はそれほど高い表現技術や芸術的感性持っているわけではないけれど、自分への自信と、自分のかっこよさを見せたい一心だけで、あの迫力を生んでいる。
 だから、もっと自信を持とうよ、髙橋大輔! 隣でインタビューに答えるランビエールを見て「イケメンですね……」なんて言ってる場合じゃない。「俺の方がかっこいいのに!」ぐらい思ったっていい。
 そして、もっともっとフィギュアスケートで、私たちを楽しませてほしいのだ。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima 


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グランプリファイナル2007 SP終了後、浅田真央共同インタビュー

 思わぬ結果で気落ちしていたにも関わらず、しっかり各国テレビ局の取材、ペン記者の囲み取材にも答えてくれた浅田真央選手。時間も短かったが、フリーを見据えた生の声を聞いてみよう。

――ショートプログラムは残念な出来でしたが。

真央 そうですね。全然だめでした。滑る前は緊張していて、でも滑りはじめたらリラックスできたんですけれど……。どうして失敗したのか、わからないです。

――ステップからのトリプルジャンプが跳べなかったのは?

真央 ルッツはステップでひっかかってしまって。今までにこんなことはなかったです。ショートプログラム、今シーズンはまだ一度もクリーンに滑れていないので、今日もノーミスでできなくて残念です……。

――でも点数は、それほど上位の選手に離されていはいないですね。

真央 自分でも思ったより点数は出てるな、と思いました。これでちょっとは明日のフリーで挽回できるんじゃないかと思います。

――今回はロシアからタラソワコーチも駆けつけていますが。

真央 はい。タラソワ先生からは特にアドバイスはないんですけれど、がんばれ! って応援してくれてます。


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グランプリファイナル2007 SP終了後、髙橋大輔共同インタビュー

Daisuke3480
――SPは無事終了、今の気持ちはいかがですか。
大輔 自分では演技に納得がいってないんですが、この点数をもらえたことは素直にうれしいです。ステファンやライサチェクがどんな演技をしたのかはわからないけれど、歓声を聞いた限りではミスはなかったのかな。たぶん彼らは4回転を入れたと思うし、僕は4回転なしでこの点数は、やはりうれしい。

――納得のいかない演技になってしまった理由は?
大輔 プログラムの中で力の配分がうまくいかなかったことと、時差の影響でこの時間がしんどかったこともありますね……。でもお客さんが乗ってくれたのは良かった。ほんとはもうちょっと手拍子をもらえてもうれしかったですけれど。

――ファイブコンポーネンツでは8点台も出ていますよ。
大輔 出たんですか!? すごいですね(他人事のように)。えー、ありがとうございます(笑)。でももっとリラックスしてペース配分がうまくいけば、全日本などではもっといい演技ができると思います。

――明日はフリー。どんな気持ちでのぞみますか?
大輔 まず4回転を2回入れるかどうかは、朝の調子を見て決めたいと思います。明日の方がずっとハードでしょうね。みんなもっと力を出してくると思うし。でも僕も、フリーは自分の得意な部分を出しやすくなってますから。リラックスして、自分ができることを精一杯やって……いい順位に結び付けたいと思います。明日が勝負です!

 このあとの記者会見では、海外の報道陣からの質問に「苦手だけどがんばります」と、英語で答えるシーンも。が、質問が複雑になると「やっぱ日本語でいきますね」とちょっと照れくさそうに切り替え。
 海外の記者たちの関心も、試合をこなすごとにどんどん高まっている。

photo/Dave Carmichael text/Hirono Aoshima 

*写真は公式練習終了後。リンクサイドで長光歌子コーチと


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グランプリファイナル2007 男子シングルSP終了 髙橋大輔首位 「行けるところまで!」

Daisuketorinosp_2 「すごい! 感動しました!」
 と、イタリア在住の日本人記者は大興奮だった。
「とてもかっこよかった! 彼はヒッポホップ、いったいどこで習ったの?」
 ドイツ人記者も手放しでほめた。
 でも私たちは返すのだ。「いや、大輔のスワンレイク、こんなものじゃありませんから!」

 トリプル-トリプル、トリプルアクセル、トリプルルッツ。予定していたジャンプはすべてクリーンで、加点もついた。見せ場のステップも、二本の腕、二本の脚がそれぞれ違う生き物のように妖しく激しく動いて、目が離せない。でも、公式練習や試合、エキシビションなどであのステップの真骨頂を見ている私たちは、今日の出来はまだまだ、髙橋大輔の力の60%程度だったと思ってしまう。それはもちろん、高橋大輔本人が、一番良く分かっていた。
「スピンは回転不足だったし、ステップは後半、ストレートラインステップでばててしまって。今日は全体的に雑だったかな……。サーキュラーステップを頑張りすぎて、後半まで体力が持たなかった。緊張感もあって、力の配分を間違えてしまったんです。手拍子をいただいたのはうれしかったけれど、でも自分の演技はできなかったと思います。もうちょっと、できたはずなんですけどね!」

 しかし受けた評価は素晴らしいものだった。地元のお客さんや報道陣の盛り上がりもすごければ、ジャッジの出した点数もすごい。エレメンツスコアは4回転をコンビネーションで跳んだランビエールの44.90に迫る44,50。ファイブコンポーネンツにいたっては、コリオグラフィーとインタープリテーションでなんと8点台が出てしまった! 総合得点84.20は、今シーズンの自己ベストも、男子シングルの今シーズンベストも更新。
 いやいや、ちょっと待って。そんなに出しちゃっていいの? 髙橋大輔が万全の状態でこのプログラムを滑ったら、もっとすごいのだ。もし世界選手権でこれ以上の「白鳥の湖」を見せてしまったら、いったいどんな点数が出てしまうのか?
 でもとにかく評価が高いのは喜ばしいことだ。私たちや高橋大輔本人が「まだまだ!」と思った演技でも、初めて見る人の度肝を抜くほどすばらしかったのは確かだし、何よりヒップホップという新しい挑戦に、これだけの評価をジャッジから受けたことは大きい。シーズン前、この斬新なプログラムへの評価を、心配する声はあった。髙橋大輔の父親よりも上の世代の審判たちに、眉をしかめられはしないか、と。それは決して杞憂ではなく、たとえばアイスダンスのベルビン&アゴスト組は今シーズン、エキシビションでヒップホップにチャレンジしているが、「ほんとは試合で滑りたいけれど、点数のことを考えると難しいから、ショーナンバーにしたんだ」とのこと。また高橋自身もショートではじける分、フリーは王道中の王道のクラシック曲を持ってきている。
 だがそんな心配を吹っ飛ばす評価と、人々の反応。得点を聞いた長光歌子コーチも「新しい、今まで誰もやったことのないプログラムを見せた、そんな評価がいただけたんですね」とうれしそうだった。
 あとは、真の「大輔のスワンレイク」を見せるだけだ。「行けるところまで!」、高橋大輔は時々そんな言葉を口にする。目標を設定するとそこまでしかたどり着けないから、あえて到達点は決めない。どこまででも行けるところまで行くのだ、という思いを込めて。そうだ、このまま行けるところまで行っちゃえよ、と思う。

 また 今日の演技後の彼の言葉でうれしかったのは、「この演技で1位という感じは、自分ではしません」というひとこと。SP1位でも彼はまだまだ不完全燃焼。全力を出し切れていないことを悔しく思っていることだ。ランビエールもライサチェクもウィアーも押さえての首位に、喜ぶことも気を抜くことも、緊張してしまうこともない。フリーでも「やってやるぞ!」の気持ちになっている。明日、素晴らしい「ロミオとジュリエット」を見るためには、今日くらいのSPでちょうどよかったのかもしれない。
 いや、違う! 今の高橋大輔なら、大満足でSPを終えて首位に立っても、決して怖気づいたり守りに入ったりはしないだろう。場所は同じでも、ここはトリノ五輪の時のパラヴェーラとは違う。「オリンピックがずいぶん遠くに感じられる」今の彼なら、フリーでもっとやってやろうじゃん、そう言って、不敵に笑うに違いない。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima 


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グランプリファイナル2007 女子シングルSP終了 浅田真央6位 ショートプログラムの呪縛

Maotorinosp  あんなに調子が良くても、あんなに笑顔を見せていても、失敗してしまうのか――。浅田真央のショートプログラムを見て、呆然としてしまった。
 練習であれだけ気持ちよく決まってうれしそうだった3回転-3回転は、フリップでバランスを崩し、無理やりつけたループでお手付き。ルッツに至っては「助走のステップで引っ掛かってしまって」跳ぶことさえできなかった。ショートプログラムに苦しんでいたグランプリシリーズを象徴するかのように、ファイナルの一日目、浅田真央は信じられないミスを連発してしまった。
 本来の浅田真央の実力をもってすれば、難しいことなど何もないはずのジャンプ構成だ。トリプルアクセルが入っているわけでも、新しく挑戦中の3回転フリップ-3回転トウが入っているわけでもない。練習では10回やって9回はクリーンに滑れる構成だろう。前日や当日朝の練習ぶり、体のキレを見ていたら、ああ、もうこれは絶対大丈夫だ、と思っていた。それでも、浅田真央は失敗してしまうのだ。
 
 ショートプログラムはかつて、「絶対にミスが許されない」と言われていた。新採点システムが始まる以前、3つしかないジャンプをミスすれば、6.0満点の技術点は否応なく下げられてしまったころ。また順位点というものがあり、SPで順位で落とすとフリーでどんなに頑張っても自力では勝てなかったころ。そんな時代のことだ。あの伊藤みどりさんがアルベールビル五輪で、絶対的な実力を誇りながらも銀メダルにとどまったのは、ショートプログラムでミスをして4位、フリーでどんなに高得点を出そうと自力優勝が不可能な状況になってしまったからである。
 でも今は、違うのだ。最終順位は順位点ではなく、ショートとフリーの総合得点で決まる。ショートでどんなに低い順位をなっても、フリーで素晴らしい演技をすれば、いくらでもごぼう抜きができる。実際、今回のSPも、6位の浅田真央から1位のユナ・キムまでの点差はわずか5.58点。2位から5位までの5名、フリーの出来いかんで誰にでも優勝のチャンスはある。だから伊藤みどりさんのころほど、ショートプログラムを恐れる理由はないはずだ。それでも彼女は、ショートプログラムに苦しめられる。

 実は浅田真央ほど大きなミスではなかったが、1位のユナ・キムもコンビネーションジャンプ、3回転ルッツでお手付きし、セカンドジャンプは1回転に。中国カップに続いて、彼女も難しくないはずのショートプログラムでミス。浅田真央もユナ・キムも、昨日は同じように肩を落としていた。彼女たちにとって、もはや順位も点数も関係ない。ふたりとも、ショートプログラム程度のかんたんなジャンプでミスをしてしまった自分が、許せないのだ。ユナ・キムは「マオは私以上にミスしたのか、よかった」とは思っていないだろうし、浅田真央も「キムちゃんもいっこミスしたのか、よかった」とは決して思っていないだろう。ただただ、彼女たちは自分のやったことが、悔しくてたまらないのだ。

 新採点システムが始まったばかりのころ、「もはやショートプログラム、やる意味はあるのだろうか」と国際審判の資格を持つ人が言っていたことがある。順位点がない今、フリーでいくらでも挽回できる今、「絶対にミスが許されない」わけではないショートプログラムの存在意義は、確かに薄れつつある。
 でもこうしてSPの呪縛に悩まされている、実力はあるが若い選手たちを見ると、思ってしまうのだ。ショートプログラムは自分との戦いだ、と。フリーで挽回できることがわかっていても、彼女たちは気楽に臨めない。フリーで挽回して勝てたとしても、ショートプログラムで失敗した悔しさは消えない。
 勝負を制しても自分との戦いに敗れたことに忸怩たる思いを抱きながら、次の試合ではもっと! と彼女たちは思う。浅田真央は今シーズン、ショートプログラムに2試合とも失敗しながら優勝し、「結果は出しているけれど不調」と囁かれているが、実はその力はどんどん上げてきている。これは、ショートプログラムの悔しさをバネに、どんどん練習を積んで、どんどん上手くなっているからだ。
 いまはショートプログラムの呪縛に、苦しんでいる。でもこの呪縛を乗り越えたら、もっと強くなっている、そんな新しい仕組みを、フィギュアスケートの神様は才能あふれる彼女たちに与えてくれたのかもしれない。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima 


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グランプリファイナル2007 女子シングルSP終了 中野友加里4位

Yukariimg_6094  つくづくピアノの音色をよくとらえたプログラムだな、と思った。
 ショパンの「幻想即興曲」はオーケストラバージョン、室内楽アレンジバージョンなど様々なバージョンがフィギュアスケートで使われている。そのなかで、中野友加里と振付けの佐藤久美子コーチが、原曲であるピアノ曲を選んでくれたことは、なんとなくうれしかった。ピアノだけ、ヴァイオリンだけといったシンプルな曲は、表現することが難しい、もっと盛り上がるオーケストラ曲や賑やかな映画音楽などで、曲に助けてもらいたい、多くのスケーターたちはそう言う。でも、芯に強いものを持ちつつ、フェミニンでやわらかな雰囲気を漂わせる今の中野友加里ならば、このシンプルだけれど強い訴えかけのあるピアノ曲こそが、ぴったりだと思ったのだ。

 2年ぶりのファイナルという緊張感と、冒頭のコンビネーションジャンプの流れが良くなかったこともあってか、表情はやっと絞り出したような笑顔だった。しかし、しなやかな手の動きも、基本に忠実なエッジワークを見て美しいものにまで高めたステップシークエンスも、ほんとうによく音楽と調和している。「ロシア杯後は5コンポーネンツを上げるためにがんばってきました」と前日語っていたが、久美子コーチと中野友加里が作り上げた優雅さ、可憐さに、パラヴェーラのお客さんはどんどん酔いしれていったようだ。
 ああ、きれいだなあ、そして何だかほっとするなあ、と思ったのは、プログラム最後、得意技の高速回転ドーナツスピンだ。競技のまっただ中なのに、そしてよくよく見ればドーナツスピンの形は、人間の体を不自然に折りたたんだいびつなもののはずなのに、なんだか見ていて心が穏やかになる、不思議な動きだ。今までも、彼女のドーナツスピンを「すごい!」と思うことはあった。でも、こんなふうに心を揺さぶられるのは初めてのこと。中野友加里が鍛錬に鍛錬を積んだポジション、リズミカルな回転、それがショパンの名曲の中に置かれることで、ドーナツスピンは大きな力を持ったような気がする。人の体の動きで人を酔わせる。そのためにスケーターたちは毎日毎日、過酷な練習を積んでいるのだな、と思った。
 最後は、ピアノを弾き終えるような、響き渡った音色を鎮めるような印象的なポーズでフィニッシュ。

 中野友加里の作り出した空間の穏やかさ、清廉さに対して、十分な点数は出なかった。
「この試合の前にステップシークエンスを変えたばかり。新しいステップは十分な練習ができていなかったかもしれません。その他にもいくつか小さいミスをしてしまいました」と、彼女自身も振り返る。
 だが得点が出た時、思わぬ出来事が起きた。トリノのお客さんたちはこの点数に対し、大きなブーイングをしたのだ。次の滑走者は、地元の星、コストナー。普通ならばお客さんの気持ちはすぐにでもコストナーに移ってしまってもおかしくない。それでも観客たちは、確かに彼女の演技に何かを感じて、「もっと点数が出てもいいぞ!」と言ってくれたのだ。
 キス&クライでちょっと顔を曇らせていた中野友加里は、このブーイングを聞いただろうか。これこそが、今夜の彼女の得たもの。点数や順位では表せない、この演技を心で受け取った人々の、確かな評価だ。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima 


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グランプリファイナル2007 女子シングル公式練習レポート

Torinoday100339  女子シングルも13日、14日と二度の公式練習を終了。2日間で選手の表情にも微妙な変化が表れている。

 非公式の練習でのびのびとした滑りを見せていたキャロライン・ジャンは、13日も習得したばかりの3回転-3回転を素晴らしいスピードと勢いで着氷。やはり14歳、どんどん上手くなっている様子が楽しかったが、本番を目の前にした14日は、ちょっとだけ硬い表情に。ジャンプも崩れがちで、緊張感と疲れが見えてくると、堂々と戦ってきた彼女もまだ14歳なのだと気付かされてしまう。

 中野友加里も公式練習が始まってから、少し笑顔が小さくなってしまったようだ。ショート前日はジャッジ席に素敵な笑みを見せながらステップ。スパイラルでもしっかり客席に目線を送っていたが、14日は少し焦っている時の滑りの慌ただしさが見えた。練習終盤には佐藤コーチとしっかり対話。誰よりも経験豊富な彼女のことだ。本番にはしっかり合わせてくることを期待したい。また14日の公式練習では、カナダ国立バレエ団に制作を依頼した新しい衣装を着用。ピアノの音色に合わせてきらめくようなニューコスチュームもお楽しみに。

 カロリーナ・コストナーは、地元でのファイナルということで、思いもひとしおだろう。公式練習中も頭上の大きなビジョンに、彼女の出演しているCMや、トリノ五輪でイタリアの旗手を務めている姿がひっきりなしに流れていた。映像のなかでゴーカートに乗ったりトランポリンで跳びはねたりしている明るい女の子が、すぐ下のリンクではジャンプが抜けたりお手付きしたりと、プレッシャーに苦しんでいる……。メンタルの弱さが指摘されがちな彼女だが、この大一番を無事に超えられたら、ひとつ強くなれるのではないだろうか。

 本番直前になって表情がいきいきしてきたのは、キミー・マイスナー。06年に世界チャンピオンになってからの伸び悩みが心配されてきたが、今シーズンはスケートアメリカで優勝、初めてファイナル進出も果たした。14日朝の練習で見せた「The Feeling Begins」では、顔つきからも体の作るきりっとしたラインからも無理のない自信が感じられた。キム・ヨナ、浅田真央と戦いが決して楽ではない状況は続いているが、いい意味で気持ちをふっきって、自分の演技を極めて行こうという姿勢が今日はうかがえた。

 キム・ヨナの今シーズンの好調ぶりは聞いてたが、生で見るとここまでか、と驚くほどだ。トリプルルッツ、トリプル-トリプルなど、トリノ入り直後からジャンプは美しく決めまくる。プログラムの通しも気を抜かず、表情も振り付けもきちんとつけながら、ジャンプもしっかり跳んでしまうのだ。音楽に乗っての躍動感たっぷりの動きには、コーチのブライアン・オーサーも体をゆらして見守っているし、リンクにいた他の選手も自分の練習を中断して見入ってしまうほど。オーサーコーチは、「トレーニングは良くできているし、彼女の到達できるはずのレベルはとても高い。何の問題もないね!」と、自信たっぷり。しかし、グランプリシリーズ絶好調で、優勝候補筆頭と目されての戦いは、精神的に決して楽ではない。ショートプログラム「こうもり」の曲かけで、イナバウアーからのダブルアクセルにちょっと躊躇している様子も気になった。

 SP直前の今日、気持ちも滑りも一番いい状態にあったのは、おそらく浅田真央だ。現地に入ったばかりの前日の練習では、思ったよりもいい調子のトリプルアクセル、何度も完璧に着氷した3回転‐3回転に満足気。試合前にこんな明るい笑顔を見せるのは久しぶり、と思うほどご機嫌だった。今日も練習が始まる前、リンクサイドに立った時からなんだか楽しげで、滑りだせば目を見張るほど伸び伸びしたスケートを見せる。3回転フリップ-3回転ループは、セカンドジャンプの方が高い好調ぶり。この日のSPでは跳ばないトリプルアクセルも、後ろにダブルトウループをつけて成功させてしまった! プログラムを滑れば四肢の動きは他選手と比べ物にならないほど大きいし、気持よく足の上がるスパイラルも、複雑だけれど無理なくスケール感を感じさせるステップも、びっくりするほど素晴らしい。公式練習だというのに、見ていてちょっと感動してしまったほどだ。シリーズ2試合、少し納得のいかない出来だった今シーズン。自分は挑戦者だという気持ちでこのトリノにはやってきたのだろう。優勝することや他選手のことは気にせず、自分のスケートを見せたいという気持ちが、今日の浅田真央の滑りには表れていた。リンクサイドではアルトゥニアンコーチに加え、ロシアから駆け付けたタチアナ・タラソワコーチも身を乗り出して愛弟子を見つめている。

text/Hirono Aoshima

*写真はキミー・マイスナー選手 


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グランプリファイナル2007 13日公式練習後、中野友加里選手共同インタビュー

Yukari3522 ――2日前から現地での調整を続けてきた中野選手ですが、公式練習が始まりましたね。
友加里 はい、やっぱりみんなすごい人たちがそろったなあと、びっくりしています。なんだかみんなに触りたくないような感じで練習しちゃった(笑)。トリプルアクセルの調子も、昨日の方が良かったかな。でも、大事なのはトリプルアクセルだけじゃないので。

――ちょっと緊張していますか?
友加里 もちろんしてます(笑)。明日の本番も、緊張すると思います。まわりの6人は上手な選手ばかりだから……でも気持ちが引かないようにしたいです。今回はほんとうにレベルが高いので、びり脱出を目指していければ。

――今シーズン、ここまでいい調子で来ましたが、昨年からどのあたりがレベルアップしたと感じていますか?
友加里 エレメンツのレベルが思っている通りに取れるようになったことが、成長といえば成長かな。でも私が伸びたら、周りの選手だって上手くなってるんだと思って、常に向上心を持っていきたいです。

――さらに今、伸ばしたい部分は?
友加里 やっぱりファイブコンポーネンツ。先生にも、もうひといきだね、と言われています。スケーティングスキルやパフォーマンスの点数がもう少しもらえれば……。そのために、ロシアカップが終わってファイナルまでの間は、どう見せられる演技をするか、久美子先生にしっかりアドバイスをもらってきました。振り付けも細かく見ていただいたし、動きのメリハリ、情熱的に踊ることなど、教えていただいていて。そのあたりを今回の試合では出せればいいと思います。

――イタリアの食事を楽しみにしていましたが、堪能できましたか。
友加里 はい! もうおいしいもの、ほとんどみんな食べました。ピザ、チョコレート、カプチーノやラテもおいしくて。でもまだアイスを食べてないので、イタリアのアイスを味わってから帰りたいです!

 ちょっとずつ戦闘モードに入ってきた中野選手。本人は「びり脱出!」と謙遜するが、表彰台争いに絡んでくるだろうと予想する人は多い。調子がいいだけに本人も意気込んでしまいがちだが、おいしいものを食べて、夏の練習でやってきたことを信じて。リラックスして本番にのぞめば、結果は必ずついてきそうだ。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima 
*写真は13日公式練習後、リンクサイドで佐藤信夫コーチと


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グランプリファイナル2007 ペア・ロシア代表川口悠子選手インタビュー

Yuko84_2   昨シーズンはロシア代表として東京の世界選手権に参戦し、大きな喝采を浴びた川口悠子選手。また昨年はサンクトペテルブルクのファイナルでメッセージをくれたが、今年はそのファイナルに進出! 並みいる強豪ペアから一歩も引かず、公式練習にも堂々と臨んでいた。ファイナルへの思い、今シーズンのフリーの見どころなどを聞いてみよう。

――まずはファイナル進出、おめでとうございます。日本人のペア選手がファイナルの舞台に立つのは……。
川口 先輩の怜奈ちゃん(井上怜奈選手)に続いて、ですね。決まった時はやっぱり、「ファイナルに進めるんだなあー」って。カナダ3位、ロシア3位で6組のメンバーに入れるとは思わなかったから。ファイナルは2007年の目標でもあったので、とにかく出られてうれしいです。

――開催地がトリノということは、いかがですか?
川口 ああ、ここでオリンピックがあったのか、って。でももっと大きい会場を想像してました。テレビの力ってすごいですね。もっと特別な感じがすると思ったのに。でも長野で滑ったことだってあるし、気持ちは同じです。練習の調子も普通、という感じ(笑)。

――ライバルもたくさんいるロシアから、今回は川口さんとスミルノフさんだけが出場。国内でも追いかけられる立場ですね。
川口 そう。世界選手権もいくつ枠があってもあまり変わらないくらい。今年はジュニアの子たちもがんばってます。やぱりロシアですよね……。日本みたいに、ただ座ってても代表でいられるわけじゃなくて、下からどんどん追い上げられて。でもそんなこと、気にしてる時間もないんです! 周りを気にするよりも、自分の健康管理と滑ることで頭がいっぱい。自分たちのやるべきことで精一杯です。

――今日の公式練習では、音楽に合わせて表情もぱっと変わる、素晴らしいフリー「ある愛の詩」を見せてくれました。最初、ちょっと遠くから離れて見ていたんですが、川口さんとサーシャの表情が見たくて、リンクサイドまで行っちゃったくらいです。
川口 ほんとですか。スケートカナダのときにはずいぶん言われたんですよ、表情がないって。今回のフリーはエレメンツがとにかく難しいから。

――大技、スロー4回転サルコウが入っていますね。
川口 はい。だから最初の雰囲気はいいんだけれど、どうしても強張ってしまって、見ている人も途中で現実に戻されちゃうよって。「ラブストーリー(ある愛の詩)」は、欧米の人たちはみんな知ってる話で、映画と比べられちゃったりもします。私たちのは、映画とはちょっと違うんですけれど。それにカナダにはカナダのペア(同じ音楽でソルトレイクシティ五輪金メダリストとなったサレー&ペルティエ組)がいたから、彼らのプログラムとも比べられちゃう。でもおかげで、いろいろアドバイスももらえました。

――映画と違う悠子&サーシャの「ある愛の詩」はどんなプログラムに?
川口 映画と違って私たちはバレエの練習シーンからプログラムが始まります。ハーバードに行くような頭がないから(「ある愛の詩」はハーバード大学が舞台)、頭じゃなくて体を動かしてみようという(笑)。欧米のラブストーリーとは違うけれど、ロシア人と日本人のラブストーリー、ぜひ見てください。

 川口悠子選手は今年、サンクトペテルブルクの大学を卒業。学業とスケートを両立させ、26歳にしてファイナル進出を果たした。異国の地で出会ったパートナーと紡がれるラブストーリー、注目したい。

photo/Dave Carmichael   text/Hirono Aoshima

*写真は13日の公式練習後、リンクサイドにて 


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